本気ムドーによって両肩に大ケガをしてしまい、両手が使えなくなったミレーユは、この日もマーズの館でグランマーズの治療を受けていた。
「おばあちゃん…、ごめんなさい…。こんな体になってしまって…。」
「それは最後まで頑張って戦った結果じゃから、仕方ないぞい。もしあの戦いで負けていたら、ここに戻ってくることすら出来んかったからのう。」
「でも、こんな状態じゃ、今度は私が戦力外になってしまう…。バーバラをあんな目にあわせて言うのも何だけれど、自分がこうなるのは耐えられない。おばあちゃん、どうかこの肩を治して!」
自分で呪文を唱えられないミレーユはすがるようにお願いをした。
「わしも本気で治したいと思っておる。じゃが、お前さんはムドーに呪いをかけられたようじゃのう。」
「えっ?呪い?」
「そうじゃ。わしも最初は気づかんかったが、ベホマをいくらかけても一向に回復の兆しが見えない以上、そう考えるしかないじゃろう。」
「そんな…。」
グランマーズから追い打ちをかけるようなことを言われてしまい、ミレーユはわなわなと震えだした。
「まあ、わしも言いたくはなかったが、隠しても仕方がないからのう。」
「じゃあ、おばあちゃん。私の肩、もう治らないの?」
「この世界ではちょっと厳しいかもしれんのう。」
「えっ?じゃあ、私、もう2度と…。」
「まあ、あくまでも『この世界では』じゃ。」
「それってどういう意味?」
「つまり、別の世界に行くということじゃ。」
グランマーズは元々別世界に住んでおり、世界をまたにかけて移動する能力を持っているため、そこでの技術にかけてみようと考えていることを話した。
「どうじゃ?わしと一緒に行ってみるか?」
「……。」
ミレーユはその場で答えることが出来ず、黙り込んでしまった。
しばらくすると、入り口の扉をコンコンとたたく音がしたため、グランマーズが応対することにした。
すると外にはセリーナとチャモロがいた。
(※セリーナはマンガ版3巻のチャモロ外伝に登場する女戦士です。)
「おおっ、お前さん達か!どうしたんじゃ?」
「実はこいつの視力が全然回復しなくてな。」
「はい。実は私、これまで村の人達がベホマやゲントの杖で一生懸命治療をしてくれたんですが、こんな状態なんです。」
「正直、このままでは戦力外間違いなしだろうな。」
「それ以前に日常生活も出来ないですし、どうにかならないでしょうか?」
セリーナとチャモロはすがる思いでいっぱいだった。
「そうか、お前さんもか。実はミレーユも似たような状況になってのう。」
グランマーズはチャモロもムドーに呪いをかけられたことを話し、別世界での治療にかけてみないか問いかけてみた。
「えっ?私もミレーユさんと一緒にそこで呪いを解いてもらうということですか?」
「そうじゃ。確信は無いが、もはやそれにかけるしかないと考えておる。どうじゃ?行ってみるか?」
「うーーん…。」
「行ってみろよ。結果がどうなるか分からなくても、やらずに後悔だけはするな!」
チャモロが考え込んでいると、セリーナが背中をたたきながらカツを入れた。
すると、彼の気持ちにも変化が出ていき、行くことを決意した。
「というわけで、おばあさん、よろしくお願いします。」
「どうか彼を頼む。目を治してやってくれ。」
「分かった。では、わしが責任もって彼の面倒を見ることにするぞい。」
「ありがとうございます!」
チャモロは深くお辞儀をすると、グランマーズと行動を共にすることにした。
それを見て、セリーナは「頑張ってこい!信じているからな!」と言い残した後、キメラの翼を使ってゲントの村へと帰っていった。
館の中に入っていったチャモロはミレーユに会って話し合い、お互いすぐにでも出発したい気持ちであることを確認した。
「分かった。それなら早速出かけるぞい。じゃが、その前にわしのMPを完全回復させる必要があるから、お前さん達にマホトラをかけてもいいかのう。」
「喜んで提供するわ。」
「私も同感です。」
ミレーユとチャモロの同意を受けて、グランマーズはマホトラを繰り返し唱えた後、早速テレポートをしていった。
3人がたどり着いた場所はラダトームの町だった。
「どうやら無事に到着出来たようじゃ。ここには呪いを解くことで知られるデリダという老人がいる。わしらはこれからその人のところに向かっていくぞい。」
「分かったわ。おばあちゃん、お願い。」
「私は前が見えないので、手をつなぎたいんですが…。」
「おお、そうか。じゃあ、わしと手をつなぐかの?」
「はい。そうさせてください。」
「分かった。」
グランマーズはそう言うと右手を差し出し、チャモロの左手を握った。
そして町の大通りを歩いていくと、やがてデリダの住む家の前にやってきた。
「たのもう。今、おるかの?」
「おっ、その声はグランマーズじゃな?」
「そうじゃ。今日は2人の患者さんを連れてきた。どうか力を貸してくれんか?」
「患者さんか。分かった。どうぞ入ってきなさい。」
「分かったぞい。」
デリダの了解を得てグランマーズは扉を開け、2人を引き連れて中に入っていった。
彼はミレーユとチャモロを見ると早速診察に取り掛かり、症状をチェックした。
「お願いします!戦力外になりたくありません!元の体に戻りたいんです!」
「私もこれでは危なくて町を歩けません。目が見えるようにしてください!」
ミレーユとチャモロはすがるような気持ちで必死にお願いをした。
「分かった。やってみよう。お金はかかると思うが、それでも良いか?」
「お金ならわしが何とかするわい。頼むぞい。」
「分かった。では、グランマーズさんにも協力を頼むことにしましょう。」
「わしが役に立てるのであれば、喜んで協力するぞい。」
「そうか。では、早速始めることにしよう。」
デリダが準備を始めたのを受けて、ミレーユとチャモロは早速その場に並んで横になった。
治療が始まってから時間は10分、20分と過ぎていったが、ムドーの呪いはどうやら新たなタイプのものだったらしく、なかなか終わらなかった。
そうしているうちに、ミレーユとチャモロの脳裏には『わしらには解けぬ。許して下され。うくく。』と言われてしまうのではないかという不安がわいてきた。
(お願いします。この両腕を自由にしてください…。)
(もう一度お世話になった人達の顔を見たいです…。)
2人が今にも泣きだしそうになる中、ついにデリダとグランマーズの手が止まった。
「どうじゃ?呪いは解けたかのう?」
「これで大丈夫なはずじゃ。大変な作業だったが、ご苦労だった。」
彼の発言を受けて、グランマーズは安どの表情になった。
「ただし、まだ呪いが無くなっただけで、体が治ったわけではない。これから手術を受けて、徐々に治していくことになる。その点を忘れないでほしい。」
「分かった。とにかく、ケガを治す糸口が見つかったのであれば、わしは十分じゃ。礼を言うぞい。」
長い緊張感から解き放たれたグランマーズはあくびをした後、提示された金額を支払った。
呪いから解放されたミレーユは左腕が未だに不自由なものの、右腕が少しだけ動くようになり、痛みを我慢すればパンを手でつかんでゆっくりと口に運べるようになった。
そしてチャモロはわずかながら左目が見えるようになり、目の前に誰かがいることや今が昼か夜か程度なら分かるようになった。
3人はデリダの家を後にすると、ラダトームの宿屋に向かっていった。
彼らが泊まった部屋の隣ではローレシアの王子、サマルトリアの王子、ムーンブルクの王女、サマルトリアの王女がババ抜きや大富豪で盛り上がっていたが、すでに精魂尽き果てていた一行はベッドに横になるとたちまち眠りに落ちていった。
翌日。3人がチェックアウトのためにカウンターに行こうとすると、宿屋の主人が王子、王女達に向かって『おはようございます。夕べはお楽しみでしたね。でも、他にお客様もいるんですからゲームもほどほどにしてくださいよ。』と忠告をしているのが聞こえてきたが、グランマーズ達はとりあえず気にしないことにした。
その後、チェックアウトを済ませてラダトームの町を後にした3人は、一旦元の世界に戻ってきた。
そしてグランマーズはバーバラにも渡した異世界移動のためのアイテムをチャモロに手渡した。
「というわけで、ここから先はお前さん達だけで行ってはくれぬか?」
「えっ?おばあちゃんは来てくれないの?」
「その場所には最大2人までしか移動出来んから、わしは行けぬ。許して下され。うくく。」
「そうなのね。分かったわ。」
「でも、そちらの世界に行ったら誰を頼ればいいんでしょうか?」
「お前さん達が最初に出会った人が力を貸してくれるはずじゃ。その人に話しかけてみるがよい。」
「はい…。」
「かしこまりました…。」
ミレーユとチャモロは本当にうまくいくのか不安で仕方なかったが、勇気を振り絞って同意をした。
そして使い方や使用回数などを聞いた後、チャモロはそのオーブのようなアイテムを高く掲げた。
するとそれはまぶしく輝きはじめ、やがてその光は2人を包み込んでいった。
一方、日本のとある場所にある小説大学のグランドでは、先日行われた市町村対抗駅伝で学生ラストランを終えた後、監督代行をしている風口志朗が駅伝部の部員達を見守っていた。
そして、この日の練習が終わった後、彼は集合をかけてみんなの前に立ち、明日から別の人に代行をしてもらうことを伝えた。
「というわけで、僕が駅伝部で出来ることはここまでとなります。短い間ではありましたが、監督代行は貴重な体験でした。そして、今年は母校のタスキを身に着けて全国大会に初出場を果たしました。僕は白タスキになりましたが、それでも、区間賞にせまるタイムで16.5kmを走れたこと、そして何より、みんなで過ごした日々は一生忘れません。これからは『求司を約束の場所へ!』の合言葉を胸に、頑張ってください。そして、必ず次の大会にも出場して、今度は最後までタスキをつないでください!2年間、本当にありがとうございました!」
彼は込み上げる気持ちを抑えながら深く礼をした。
すると部員達から盛大な拍手が沸き起こり、彼は駅伝大会で7区を走ったことにちなんで7回胴上げをされた後、夕日を背にしながら自転車で大学を後にしていった。
(ふう…。これでやっとやりたいことが出来る。母さんに会いに行ける。僕は監督のジョーさんの家で同居させてもらっているけれど、ジョーさんは今夜検査入院するから1人になるし、アンと会話をしながら過ごそうかな…。)
彼が考え事をしながら自転車をこいでいると、家まであと200mのところにある空き地付近で何か光がわいているのが目に入った。
(ん?何だろう?誰かいるのかな?)
彼が不思議そうな表情をしながらそこに向かっていくと、やがて光はおさまっていき、2人の人間が姿を現した。
「えっ?どういうことなんだ?どうして人間が?」
思いもよらぬ光景を見て驚いた志朗は自転車から降り、少し警戒しながら近づいていった。
すると、そこにいたのは見覚えのあるキャラクターだった。
一方のミレーユとチャモロはまだ体が不自由な状態のまま、2人だけで見知らぬ世界に来てしまったため、不安でたまらずにいたが、ミレーユが辺りを見渡すと、1人の男性がこちらに向かってくるのが見えた。
「君達は、もしや…?」
「あなたはどなたですか?」
志朗とミレーユはお互いを見ながらほぼ同時に声をかけた。
「えっ?そこに誰かいるんですか?」
「ええ、チャモロ。見慣れない機械のようなものを持っている人がこちらを向いているわ。戦闘になるかもしれないから気を付けて。」
「気を付けてって言われても、どうやって戦うんですか?」
「分からないわ。でも、いざとなったら、足で何とかするしか…。」
ミレーユとチャモロが警戒をしながら会話をしていると、志朗は自分が敵とみなされてしまったことに驚き、思わず「安心してください。襲いませんから。」と言って、2人をなだめた。
「君達はもしや、ドラクエ6のミレーユとチャモロですか?」
「ええっ?どうして私とチャモロの名前を?」
「私達を知っているんですか?」
2人は初対面にも関わらず、自分達の名前を当てられたため、思わずビックリだった。
「やっぱりそうなんですね。僕は風口志朗。大学生です。実は、僕と同い年のガールフレンドが君達の仲間に会ったことがあるんです。」
「えっ?私達の仲間って?」
「バーバラさんのことですか?」
「はい、そうです。そしてガールフレンドの蕨安奈こと、アンが度々僕に写真や映像を送ってきたので、僕もゲームのキャラに会えたらなあと思っていたんですが、まさかそれが現実になるなんて、凄い偶然ですね。」
志朗は自分のスマートフォンを取り出すと、写真や動画のページを開いて見せた。
するとそこには求司が本人確認の目的で安奈に送ったバーバラの写真や、安奈がレンタカーでの旅行先で自撮りをした3人の写真、部屋で歌いながら盛り上がる3人のショート動画があった。
「間違いない!この人は本当にバーバラだわ!」
「じゃあ、バーバラさんもこの世界に来たんですね!」
ミレーユとチャモロはその写真を見てすっかり警戒心を解き、志朗と普通に会話が出来るようになった。
「それじゃ、早速ですが、今から僕が住む家に急ぎましょう。ここにいては騒ぎになるかもしれませんし、もう辺りは暗いですから。」
志朗が提案をすると2人もそれに同意したため、彼らは丈二の家に向かっていった。
家の中に入ると、志朗は早速スマートフォンで自分がミレーユとチャモロに出会ったことを安奈に伝えた。
それからしばらくすると既読のマークがつき、続けざまに彼女から返事が来た。
そこに書かれていた内容は次の通りだった。
『へえ、志朗はミレーユとチャモロに会ったのね。私もちょうど家に到着したから、この後テレビ電話で会話をしてもいい?』
それを受けて、彼は2人に了解を得た上で映像をつなぐことにした。
それから3分後。双方の映像がつながり、画面越しに安奈が姿を現した。
「やあ、アン。元気?」
『うん、元気よ。志朗、通院中の兄さんの代わりに監督代行、ご苦労様。大変じゃなかった?』
「まあ、しんどすぎて滅!だったけれど、いい経験だったよ。それじゃ、早速お目当ての2人を見せてもいい?」
『いいわよ。ぜひ見せて。』
安奈の了解を得て、志朗はミレーユとチャモロをカメラの前に立たせることにした。
2人は何か敵が現れるのではないかと警戒をしてしまったが、志朗は大丈夫であることをアピールして安心させた。
そして2人が映像の中に姿を現すと、安奈は思わず『キャーーーッ!確かに本物だわ!バーバラに続いて、またゲームのキャラに会えるなんて、スゴすぎて滅!』と言いながら、飛び上がって喜んだ。
一方、ミレーユとチャモロは何が何だかさっぱり分からず、ただただキョトンとするばかりだった。
「それでね、アン。バーバラは今そこにいるの?」
『あっ、そういえばまだ伝えていなかったわね。彼女は求司と一緒に、今朝、ゲームの世界に向かっていったわよ。』
「えっ?ゲームの世界に?しかも求司も?」
『そうよ。彼はどうしても左足を治したいって言っていたし、バーバラも僧侶に転職してホイミやベホイミを覚えて毎日唱え続けるつもりでいたから。』
「ちょっ、ちょっと!大丈夫なのかよ。求司をそっちの世界に行かせて!」
『私は大丈夫と信じているわ。だってバーバラと約束したんだもの。求司を絶対にこちらの世界に送り届けるって。』
安奈の発言は志朗がすぐに受け入れがたいものだったが、すでに2人が行ってしまった後である以上、現実を受け入れるしかなかった。
一方、ミレーユとチャモロはまだ状況をしっかりと把握出来ていなかったものの、バーバラと入れ違いになったため、直接謝れないことは理解した。
それを知った2人は思わずガックリとしてしまったが、志朗と安奈は「きっとまたチャンスは来る。」と言いながら励ました。
そして気持ちが落ち着いてくると、志朗は求司の無事を願いながら安奈との会話を終了して回線を切り、丈二にミレーユとチャモロのことを伝えた。
しばらくすると、通話可能エリアにいた丈二から了解を得られたため、志朗は夕食の準備をして、さらに2人のために布団を用意することにした。
こうして、ミレーユとチャモロは手術と療養のためにしばらくの間、日本で過ごすことになった。
今回登場した老人の名前「デリダ」は、お世話になっている方につけてもらいました。
この場を借りて、お礼を申し上げます。