あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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前から、書こうと思っていた場面だからか、なんか、物凄い勢いで書けました。
ドラグギルディ、そして、ヒーロー登場です。


二〇一六年二月四日 修正

曜日の感覚がおかしくなってる気がする今日この頃。
2月2日になにか特別な話あげたかったんですが、無理でした。

サブタイトルの赤き勇者は読みは『レッドブレイバー』で。テイルレッドのキャラソンのタイトル名。
 


1-9 兎と青 / 竜の猛威 / 赤き勇者

 人里離れた山奥。周りの被害を気にする必要は、ない。

 まずは、岩を天高く蹴り上げる。そして次に、周りにある木々の中の一本目掛け、弾丸のごとく跳ぶ。一瞬で、十メートル以上あった距離を縮め、先ほどの岩と同じように蹴り上げる。それを、ほかの木にも繰り返す。根っこごとであったり、幹からであったりだが、五本ほど。時間にして数秒足らず。準備は整った。

 槍を構えるテイルブルーは、訝しみながらもこちらから眼を離さない。並の者なら、自分の動きについてこれずに、辺りをキョロキョロと見ているところだろう。

 それでこそだ、とラビットギルディは思った。

 テイルブルーの後ろ、最初に蹴り上げた岩にむかって、鋭く跳躍する。落下し始めていた岩を蹴り、こちらに振り向いたテイルブルーに、足を伸ばして飛びこむ。

「っ!」

 おそろしいほどの反応速度でテイルブルーが、ラビットギルディの蹴りを躱した。

 これを躱すとは、さすがだ。とはいえ、驚きはあるものの、想定内である。テイルブルーが突き出してくる槍を避け、今度は蹴り上げた木にむかって跳ぶ。

 テイルブルーは即座に体勢を立て直し、さっきよりも早くこちらにむき直った。なんという適応力だ、と内心感嘆する。

 ラビットギルディの耳が、テイルブルーの躰の動きを察知する。カウンターを狙おうというのだろう、わずかに槍を引いたようだった。

 だが、甘い。木を蹴りつけ、ほかの木に目掛けて跳び、その木から跳びこむ。再び、テイルブルーの背後から襲うかたちになった。頭上、そして背後。どちらも人間にとっては、対応の難しい死角。さらには、迎撃のタイミングを外した強襲。まず躱せるものではない。

「くっ!」

 それでも、直撃しない。それどころか、躰を回転させて蹴りを躱したテイルブルーは、着地したラビットギルディに対して、その回転の勢いのまま後ろ回し蹴りを放ってくる。

「はあっ!」

「ピョッ!」

 蹴りの勝負なら、逃げるわけにはいかない。ラビットギルディも、跳びこんだ勢いを利用して、同じく後ろ回し蹴りで迎え撃つ。脚と脚が、ぶつかり合った。お互いに大きくふっ飛ぶが、危なげなく着地する。落下していた岩や木が地面にぶつかり、辺りに大きな音を立てた。

 再び槍を構えるテイルブルーの呼吸は、少しだけ荒くなっているようだが、動揺した様子はない。鼓動の音も同じだ。油断なくこちらを見据えている。

 強さもそうだが、身のこなしも見事なものだと感心する。隙がほとんど見当たらない。いや、わずかにあるように見える隙も、誘いである可能性があるし、ほんとうに隙であったとしても、先ほどの反応を見たあとでは、隙と呼べるものではないだろうと思えた。

「さすがだな、テイルブルー。私の動きについてくるとは」

「ピョンピョン、ピョンピョンと、落ち着きのないやつね」

「フッ、私の属性力(エレメーラ)兎耳属性(ラビット)。兎とはピョンピョン跳ぶもの。当然であろう」

「あー、はいはい」

 軽口のように放たれたテイルブルーの言葉に、ラビットギルディが誇りをもって返すと、彼女はなぜかうんざりとした様子になって、投げやり気味に言葉を返してくる。

 その反応に首を(かし)げるが、あまり時間はかけられない。再び構えをとる。師でもある部隊長が、そろそろ来るころだろう。あの師の前には、目の前のテイルブルーですら敵ではない。そう言い切れるほどの強さなのだ。その師が出陣すると聞いてラビットギルディは、出過ぎた真似と自覚しながら、独断で先行した。

 テイルブルーと、戦ってみたかったのだ。

 テイルブルーの戦いから分析されたことだが、彼女の身体能力自体は、大したことがないと言っていい。使っている装備の性能によるものなのだろうが、いままで出撃した同胞たちの誰に負けていても、不思議ではないほどだ。にも関わらず、彼女はここまで勝ち続けている。それも、一度の直撃もなく、だ。まるで柳のように攻撃をいなす。

 それが、ラビットギルディが戦ってみたいと思った理由である。(うさぎ)を思わせる姿であるラビットギルディの体格は、エレメリアンの中では小柄な部類に入る。単純な力などは、かなり低い。だが、しなやかな躰のバネを最大限に利用し、相手を翻弄することで、戦いに勝利してきた。

 テイルブルーの動きは、そのラビットギルディから見れば、そこまで素早いわけではない。だが、直観的と言うべきか、上手いのだ。

 ピンチの直後は最大のチャンスとばかりに、こちらが大技を放とうとする、または放った直後の隙を逃さない。あるいは、相手の力を利用して致命傷を与えてくる。

 攻撃は、非常に鋭い。槍だけでなく、拳も足も振るい、状況によっては投げ技や組み技なども使ってくる。投げ技などは、ダメージ自体はなくとも、体勢を崩されればその後の攻撃を受けることとなる。そんな、ありとあらゆる方法で、斃しにくるのだ。それもほとんどが、的確な行動ばかりである。武の天稟(てんぴん)とは、こういう者を言うのだろう。

 これほどの相手と戦えることなど、これから先、ないかもしれない。戦士として、彼女と戦ってみたいという欲求に逆らえなかったのだ。たとえ、どんな結果になろうとも。

 そして、もし勝てたら。

 テイルブルーに兎耳(うさみみ)を着けてもらうのだ。

 いや、もしではない。絶対に勝つ。兎耳(うさみみ)を着けてもらうために。

 そう思うと、弱気はどこかに消えていった。決意を新たにし、テイルブルーを見据える。なぜか彼女は、悪寒に襲われたかのように身震いした。

「いくぞ、テイルブルー。貴様に勝ち、ウサミミを着けてもらうっ!!」

「結局そのノリかあああああああああああああああああああああっ!?」

 絶叫しながらも隙を見せない彼女の周りを跳び、さっきと同じように岩や木を蹴り上げる。

 人里離れた山奥に出たのは、本気で戦うためだ。戦士でもない人間たちを傷つけるのは、エレメリアンにとって禁忌。それに、力のない者たちを傷つけるなど、戦士の風上にも置けぬ行為。そのために、この場所を選んだ。

 あとはこの山に、儚さを宿した天使が居ることも期待してきたが、いまはとりあえず忘れておく。

 テイルブルーは、こちらから眼を離さない。冷静に待ち構えている。

 ラビットギルディは、自分の頭上に蹴り上げた木に跳んだ。テイルブルーの正面である。そこから、彼女の背後の方にある木に跳ぶ。瞬時に方向を特定したらしきテイルブルーが振り向き、ラビットギルディはそこから即座に、自分が跳躍した場所に戻る。彼女の背後を、とった。テイルブルーは、ラビットギルディがさっき足場に使った木の方向をむいたままだ。

 跳び出す。これまで生きてきた中でも最高の跳躍で、テイルブルーにむかって一直線に跳ぶ。そして、自身の最大の武器である、頭の耳を伸ばした。

 ラビットギルディの長い耳は、伸縮自在の刃。ヘリコプターのローターのように回転させて相手を切り刻む技もあるが、それでは彼女のツインテールまで傷つけてしまう恐れがある。だが、この状況なら、それを使う必要はない。

 とった。

 ラビットギルディの耳が、閃いた。

 

「ピョッ!?」

 腹になにかがぶつかり、ラビットギルディの口から思わず困惑の声が漏れた。

 ふっ飛びはせず、少しだけ後ろに()ね返るかたちとなる。

 なにが、起きた。

 視界に映る世界が、ゆっくりと見える。むこうをむいたままのテイルブルーの、槍の石突きがこちらに突き出されていた。振り向きもせずに、ラビットギルディの来る場所を察知して、攻撃をしてきた。そう考えるしかなかった。

 だが、ダメージはさほどではない。思いっきり突かれたわけではなく、ただ置いてあったようなものらしい。ゆっくりと、地面にむかっていく。このまま着地して、再び攻撃を仕掛ける。

「っ!?」

 そう考えた瞬間テイルブルーが、振り向くと同時に、一瞬で間合いを詰めてくる。

 ラビットギルディの目前でテイルブルーが、轟音とともに思いっきり踏みこんだ。

「ガッ!?」

 顎に、頭へと突き抜けるような衝撃がきた次の瞬間、視界が青く染まる。空だ。蹴りで、打ち上げられた。そう考えるとともに、悟る。先ほどラビットギルディの攻撃を止めた槍は、この追撃のために、あえて置いておくかたちにしてあったのだと。

「スプラッシュウウウウッ」

 テイルブルーの、筋肉の軋みと、数々の同胞を葬った技の名が聞こえる。

 もはや死に体。飛行能力を持たない自分には、これを躱す手段などない。

 口惜しさはない。これほどの相手と戦えたのだ。戦士として、満足だ。

 ただ、最期に叫ぼう。エレメリアンとして、心の(おもむ)くままに。

「なぜだ、なぜわからぬ! 寂しいと死んでしまうという儚さをその身に宿した天使のおおおおおっ!!」

「スピアアアアアアアアーーーッ!!」

 胸を、槍が貫いた。

 視界が暗くなり、すぐに明るくなった。

 なにが、起こったのだ。困惑していると、ラビットギルディの耳が、なにかの音を拾った。

 不思議に思い、空を見る。天使たちが舞い降りてくるのが、ラビットギルディの眼に映った。

 

 

 全力の刺突で、ラビットギルディを貫く。最期の最期までエレメリアンらしい発言をしていたラビットギルディが、そのまま爆散した。発言内容は覚える気もないが。

 ふうっ、とブルーは大きく息を吐いた。

 正直なところ、かなり危なかった。いままでの戦いで腕が上がっていたためにどうにかなったが、もっと早くに戦っていたら負けていたかもしれない。

 これまでの戦いで、攻撃をまともに受けたことはない。以前の自分に比べて、動きに無駄がなくなっていることがわかる。明確な目的、ヴィジョンというべきものがあると効率や成果が上がるというが、そういうことなのだろう。総二に心配をかけないために、攻撃はすべて躱し、必殺の一撃で相手を確実に斃すように努めてきた。ただ、思った以上に自分の強さには先があったのだな、とあらゆる面での未熟さを自覚し、なんとなく複雑な気持ちになったが。

 だが、あと、どれくらい戦えば。

「っ」

 そこまで考えたところで、(かぶり)を振る。なにを考えているのだ。どれだけ来ようとも、すべて倒せばいいだけの話ではないか。

 総二はまだ、愛香だけを戦わせていることを気にしているのだろう。触れ合っている時、喜んでくれているとは思う。ただ、その先に踏みこんでくれることはなかった。

 そのことで、自分にはやはり、女としての魅力がないのだろうか、と悩んだ時もあったが、ふとした時に一瞬だけ見せる辛そうな顔が、自分自身を責めているように見えることがあり、負い目を感じているのではないか、と思ったのだ。

 アルティメギルを追い払えば、総二が自身を責めることもなくなる。そうすればきっと、心から笑ってくれる。もっと距離が近づける。そのためにも、負けられない。そう決意し直したのだ。

 そこでふと、なぜエレメリアンがこんな人里離れた山奥に現れたのだろうか、と疑問が湧いた。連中は、人の心、属性力(エレメーラ)を奪うために現れるはずである。

 まさか、野生の兎もターゲットだったのだろうか。

 そこまで考えたところで、もう答えられる当人がいない以上、考えても無駄だ、と思考を切り上げる。

 それよりも、今日はご褒美をいつ貰うか考えよう。帰ってすぐにしようか、それともやはり、お互い風呂上がりがいいか。そのことに思いを馳せると、いや、総二のことを想うだけで、心が少しずつ元気になっていく。

 大丈夫だ。まだ、自分は戦える。そう考えて歩き出し、前方に大きく身を投げ出した。はっきりとした理由があるわけではない。ただ、本能的に危険を感じたのだ。

 その次の瞬間、いままでいたところに、轟音とともになにか大きなものが着弾した。

 そこから眼を離さないように空中で体勢を整え、着地する。

「ふむ、さすがだな。よく避けた、テイルブルーよ」

 なにかが着弾した場所から、凄みを感じさせる声が響く。声の主は、衝撃によって辺りに立ちこめた土煙のせいで見えないが、聞き覚えのある声だった。

 土煙が、少しずつ晴れていく。中心に、黒い、大きな影が見えた。

「っ、あんたは」

 見覚えがある相手だった。アルティメギルが宣戦布告をしてきた時、玉座らしき物に座っていた、親玉らしきエレメリアン。確か名前は、ドラグギルディ。

 三メートルはある巨体にマントを羽織り、外見は、どこか黒い竜を思わせる。ブルーの身の(たけ)以上はありそうな、巨大な剣。そして、見ただけで感じられる、とてつもない威圧感。いままで戦ってきたエレメリアンとは格が、いや、桁が違う。

 ドラグギルディが、ラビットギルディが爆散した場所に顔をむけた。

「馬鹿者が。(われ)が行くと言ったものを」

 だが、見事な最期であった。悼むような調子の言葉にそう続け、ドラグギルディがブルーの方にむき直った。それだけで、圧迫感が強くなり、押しつぶされそうになる感覚を味わう。

「我はアルティメギルの将が一、ドラグギルディ。全宇宙、全世界を並べ、ツインテールを愛する心にかけては我の右に出る者はないと自負しているっ!!」

「っ!?」

 堂々とドラグギルディが上げた、聞き覚えのある言葉に驚くとともに、ブルーの頭の片隅にあった、まさかという考えが現実味を帯びていく。

「ふがいない部下が退屈をさせた。だが、大事な同胞であることに変わりはない。仇は、討たせてもらう。おぬしの属性力(エレメーラ)をいただくことでな」

「だから、侵略者の分際で勝手なこと言ってんじゃないわよっ!!」

 躰を縛るプレッシャーを()()けるために、力をこめて怒鳴り返す。呑まれるな。ドラグギルディを見据え、自分にそう言い聞かせる。

 槍を構えたところで、ドラグギルディが愉しそうに笑った。

「フッ、よい気迫だ。では、参るぞ」

「っ!?」

 言葉のあと、それなりにあった距離が一瞬で詰められ、ブルーは驚きながらも防御のために槍をかざそうとする。

「っ、くっ!」

 かざそうとしたところで、直感に従い回避することに全力を傾ける。この攻撃は、防げない。下手に受ければ、そのまま持っていかれる。

 さらに何度か剣が振るわれてくる。躰の動きは、なんとか見える。だが、太刀筋がほとんど見えない。

 ほとんど勘だけで動き、振るわれてくる剣をすべてぎりぎりで躱すと、いったん間合いを空ける。

 ドラグギルディは追ってこない。感心したように、ふむ、と呟いた。

「よくぞ避けた。では、次はもう少し速くするぞ」

 ドラグギルディが、言葉と同時に再び間合いを詰め、剣を振るってくる。宣言通り、さっきよりさらに速い。

 剣が、ブルーの躰をかすめる。ただそれだけで、肌が(あわ)立つような感覚を味わう。直撃を受けたら、おそらく立ち上がることはできない。そう確信できる迫力があった。

 先ほどと同じく、幾度か振るわれた剣をなんとか躱し、再度間合いを空ける。

 ドラグギルディは、やはり追撃をしてこない。さっきよりも称賛する調子を強め、口を開いた。

「ほう、これも避けるか。思っていた以上だな」

「っ、なめてんじゃないわよっ!!」

 小細工が通じる相手ではない。一気に勝負を決める。そう考えると、今度はこちらから接近する。

 ひと息に間合いを詰め、思いっきり踏み出し、弓を引き絞るように槍を引く。

「スプラッシュ・スピアーッ!!」

 全身のバネを使い、全力で槍を突き出す。何体ものエレメリアンを葬ってきた必殺の技が、身動きひとつせずに佇むドラグギルディの腹部に吸いこまれ、硬い物同士がぶつかり合う音が響いた。

「っ!?」

 直撃は、した。だが、傷どころか、刺さりすらしていない。全身全霊をこめた刺突を放ったことに加え、攻撃がまったく通用しなかったことによる動揺に、ブルーの動きが止まる。

 その隙を見逃さず、ドラグギルディが剣を振り上げた。

「フンッ!」

「っ、あああっ!!」

 気合の声とともに振るわれた剣に対し、どうにか槍を間に挟むことで直撃は避けたものの、そのまま大きく弾き飛ばされる。受け身も取れず、地面に何度か叩きつけられ、地に跡をつけて滑っていき、そのままうつぶせに倒れた。

「く、う、っ!?」

 痛みを我慢し、槍を支えに立ち上がろうとしたところで、ふっと手応えがなくなり、再び倒れこむ。

 槍が、粉々になっていた。槍だけでなく、身にまとうギアの装甲にも、ところどころ亀裂が走っていた。

「そん、な」

 力の差が、ありすぎる。呆然と呟き、少しの間放心すると、歯を食いしばって両腕を地面に突き、なんとか躰を起こす。しかし、ダメージがひどく、立ち上がれそうになかった。

「大したものだ、テイルブルーよ。その衣で、これほどまでに戦うとはな」

 座りこんだままのブルーにむかって、褒め称えるようなドラグギルディの声が届く。

「テイルブルー。おぬしの武の才は、すばらしいと言うよりほかない。だが、その衣では力不足だ」

「その程度の力しか出せないもの渡しといて、なに言ってんのよっ」

 ドラグギルディの言葉に対して吐き捨てるように返すと、彼は軽くため息を吐いた。

「気づいておったか」

「そもそもあんた、隠す気なかったでしょ。あんなこと言うやつ、そうそういてたまるもんですか」

「確かに、そうだな」

 ツインテール馬鹿の幼馴染はいつか言うかもしれないが、それはともかくして。

 どこか物憂げに見えるドラグギルディの雰囲気が気になるが、これまでのことを確認するため、ブルーは口を開いた。

「あんたがあたしにこの『ギア』を渡したのは、あたしをヒーロー、いえ、アイドルやスターのようにすることで、ツインテールを世界に広げさせるため。そのためにあの日、あたしに接触した。違う?」

(おおむ)ねその通りだが、ひとつ訂正しておこう。おぬしのツインテール属性は、この世界において第二位。充分に強力なものだが、おぬしより強いツインテール属性の持ち主は、他の世界も合わせれば、数は少ないが、いた。あの日、我が直接出向いたのは、いままで感じたことがないほどの、強いツインテール属性を感じたからだ」

「それって」

 ドラグギルディの言葉に心当たりのある者が、ひとりいる。ブルーの、愛香の大切な人。

「そーじのこと?」

「そう、おぬしとともにいた、あの少年だ。驚いたぞ、いったいどれほどに美しいツインテールを持っているのか、と行ってみれば、男。それどころか、ツインテールを結んだこともないとは、夢にも思わなんだ」

「あんただって、ツインテール結べないでしょうが」

「フッ、そう、だな」

 ブルーがなんの気なしにツッコむと、ドラグギルディはさっきのように、どこか物憂げに笑った。そのことに、気になるものを感じていると、ドラグギルディが話を続ける。

「そして我は、正体を隠して、おぬしたちと接触した」

「その上であたしを選んだのは、あんたたちの目的があくまでもツインテール属性だから」

「そうだ。いままで我らが侵略してきた世界で、ツインテール属性の強い者は皆、美しい少女たちだった。男に渡しても、我らが望む、ツインテールを広げるための偶像足りえるかわからなかったのでな。それゆえに、おぬしを選んだのだ。その、他者への想いで磨きに磨かれた、至高と呼ぶにふさわしいツインテールの持ち主をな」

 ドラグギルディはそこで言葉を切ると、なにも言わずにブルーを見つめてくる。攻撃を仕掛けてくる様子はない。ブルーも、ドラグギルディの顔を見返した。

「――――、――――、――――、――――」

「――――、――――、――――、ん?」

 冥土の土産ということなのだろうか。数秒ほどして、ふっと頭に思い浮かんだ。とりあえず、気になっていたことを聞いてみる。

「えっと、この『ギア』を、わざわざ渡した理由は?」

「この世界の技術力の問題だ。この世界には、精神力を利用した技術が存在しない」

 思った通りだったらしい。答えてくるドラグギルディを、律儀なやつと思いながら、その返された言葉から答えを導き出す。

「つまり、あんたたちの技術をこの世界に流しても、そこからこのギアみたいに、あんたたちと戦う力が出来上がるまでどれだけの時間がかかるかわからない。だから、時間を短縮するために、ギアと道具一式を渡した」

(しか)り」

 ドラグギルディが、ブルーの言葉を端的に肯定する。

「ツインテールが広がりきる前にあたしが負けたら、どうするつもりだったのよ」

「新たな力を渡す。より強いギアか、ギアを強化させる道具をな」

「えっ?」

「一度敗れた戦士が、新たな力を得て、再び立ち上がる。物語として、これほどに盛り上がる展開はそうあるまい」

 驚くブルーにそう答えると、ドラグギルディは苦笑しながら言葉を続けた。

「実を言えば、そうなるだろうと思っていたのだがな。おぬしの身のこなしから、かなりの心得があるだろうと考え、最も弱い衣を渡しておったのだ。強すぎる戦士は恐れられる。それを防ぐためにな。しかし、まさか敗北どころか、一度の直撃もなく勝ち続けるなど、思ってもいなかった」

 ほんとうに、大したものだ。ドラグギルディが、そう言って言葉を締めた。掛け値なしの、称賛の響きがあった。

「いままで戦ってきたエレメリアンは、みんな捨て石だったってわけ?」

(いたずら)に同志の命を散らすことを望みはせぬ。我にとっては皆、かわいい部下であり、教え子たち。大切な同胞なのだ」

 眼を閉じ、悼むように言葉を返してくる。嘘だとは、思わなかった。だが、それ以上に強い決意を、ブルーは感じた。

「だが、我とて指揮を任されただけの将兵。効率のよい方法が見つかれば、それを使わざるを得ぬ。それによって結果的に同胞の犠牲を減らせるのなら、欺瞞(ぎまん)と言われようとも構いはせん。それが、我が信じる、将として務めだ」

 眼を開き、告げられた言葉に圧倒される。ただ、なんとなくだが、迷いのようなものがあるようにも感じられた。

 大きく息を吐く。これが、最後だ。

「あの女の子の姿は、なに?」

 その言葉に、ドラグギルディがどこか悲しそうに笑った。

「あれは、ヒトガタだ」

「ヒトガタ?」

「人の姿に似せて作られた、人のかたちをした物だ。同じ世界にいれば、地球の裏側にいようとも、一瞬のタイムラグもなく操作できる。本来のデザインは中肉中背の男で、人類社会へ戦闘員(アルティロイド)が薄い本の買い出しに行くために作られた」

「いや、買い出しって。っていうか薄い本って」

 そこは、人類社会への潜入とかそういうものじゃないのか。返された答えに、なんともいえない感想を抱くともに、場違いな好奇心が湧いてくる。

「変装は手間がかかるのでな、それが使われるのだ。もっとも、人形でしかないために、見ただけで違和感を覚えるほどだ。それほどに、生気というものを感じられぬ」

「あんたたち、人間に化けるとかできないの?」

「できる者もいるが、それほど数は多くない。それに、ヒトガタと同様に、見ただけでも違和感を感じるほどだ。そもそも我のような上位のエレメリアンに近づくほど、そういった見せかけだけの力を(いと)う。極めようとする者は、我の知る限りでは、いない」

「じゃあ、エレメリアンも使うわけ? 例えば、映画を見にとか」

「まず使わぬ。実際のところ、そちらのヒトガタでは、映像越しに見るのと大して変わりがないのでな。通販やダウンロードで済ませられるのなら、大半の者はそれで済ませる。アニメの映画などをチェックして気になった作品は、この世界でいうところのDVDやブルーレイなどの記録媒体になってから鑑賞する。映画館内で撮影するのは、どこの世界でも違法なのだ」

「えーと、お金とかは?」

「アルティメギル内で生成した貴金属類などを、その世界内でバランスが崩れない程度に売る。あとは、趣味程度ではあるが、同人グッズや同人誌などを売る者もいるな。非十八禁だが」

「あー、ああ、うん。そう」

 こいつらがどんな生活しているのか、(ひと)目だけでも見てみたい。生返事を返しながら、投げやり気味にそう思った。

 

「そして、おぬしたちが見たヒトガタだが」

「えっ?」

 返されてきた答えに頭が痛くなったところで、ドラグギルディが口を開いた。なんかもう聞かなくていいかな、と一瞬思ったが、哀しそうな声音に意識がむけられる。

「あれは我が、ある時に(たまわ)ったものだ」

 賜ったと言いながらも、その声からは誇らしさよりも、哀しみが強く感じられた。

「我の属性力(エレメーラ)をこめて作られたあれは、我の意識を移し、自分の躰のように動かすことができる。世界を隔ててもな。そして、人と見(まご)うほどの姿、人と変わらぬ質感」

 だが、とドラグギルディが言葉を続ける。

「おぬしも見て、感じたであろう。ツインテールに思えない、と。まるで人形のようだと」

「それは」

 確かに、そう感じた。なにかが違う、と思ったのだ。髪も同じだ。不思議なのは、愛香が結んだとたん、ツインテールだと思えたことだ。

「あのツインテールは、我自身が結んだものだ」

「え?」

「何度も結んだ。最初のころは不揃いで、それが理由でツインテールに見えないのだと、そう思った。だが、回数を重ねるごとに美しくなっていくにも関わらず、それは一向(いっこう)になくならなかった。いや、むしろ美しくなっていくからこそ、その感じは際立っていった。――――認めるしか、なかった。エレメリアンには、『本物』を作れぬのだと」

「っ、あんた」

「なまじ人に近すぎるからこそ、求めてしまうのだ。自らの手で、(おの)が愛するものを生み出せれば、とな」

 ()いているように、ブルーには思えた。声は力強いが、どこか哀しさがあった。

「フィギュアならば、たとえ感じられなくとも、そういうものだと思える。―――先ほど、非十八禁の同人誌の話をしたな。それはな、エレメリアンにエロは描けぬためだ。あるエレメリアンが、己の属性をかたちにするために創作を極めたが、結局エロ漫画を描くことはできなんだ。ただ、裸を羅列するだけの(がん)作にしかならなかったのだ」

「いや、あんたね」

 言葉の内容に、再び頭が痛くなる。まじめに言っているのはわかるが、もう少し単語を考えろと思わざるを得なかった。

 ブルーの反応を気にせず、ドラグギルディが話を続ける。

「さらに言えば、ヒトガタをエレメリアンが使わぬのは、あれが『偽物』でしかないからだ。無意識に拒絶してしまうのだろう。――――だが、ヒトガタの『髪』を、人が結んだらどうなるのか。いままで感じたことのない強さの属性力(エレメーラ)に、ふとそう思ったのだ。そして、おぬしたちと会った」

 フッ、とドラグギルディが苦笑した。

「あの少年に結んでもらおうと思った。だが、彼はツインテールを愛しながらも、結んだことがないときた」

「そう、ね」

「そして、おぬしに結んでもらった」

 ほんとうは、総二に結んでほしかったのだろう。いろんな意味で、自分は余計なことをしたのかもしれない。

「おぬしに結んでもらえてよかったと、我は思えた」

「え?」

 驚き、ドラグギルディの顔を見返す。異形の怪物であるはずなのに、優しい笑みが浮かんでいるように思えた。

「我らのことを知らなかったためだとしても、おぬしは気持ちをこめてツインテールを結んでくれた。おそらく、少年がツインテールを結べれば、おぬし以上のツインテールとなっただろう。万人を魅了するようなものにな」

「そう、かもね」

 総二のことだから、そうなるかもしれない。なんとなくではあるが、なぜかそう思った。

「だがそれは、ツインテールへの想いから作られたものだ。それは、すばらしいものだろう。我らエレメリアンが求めるツインテールは、確かにそういうものだ」

「―――?」

 なにを言いたいのか、と思ったが、口には出さなかった。ドラグギルディの声が、どこか穏やかだったからかもしれない。

「しかし、おぬしのツインテールは、誰かのことを想い、結んだもの。魅了することはできなくとも、どこか安らげる気持ちを与えるものだと、心を動かすものだと、我は思ったのだ」

「あんた」

 ドラグギルディの言葉は、ほんとうにそう思っているのだと感じられた。なんと言ったらいいのかわからず、あっけにとられる。

 ドラグギルディが、剣を地面に突き立てた。ブルーにはそれがなぜか、なにかをふっ切るためのもののように思えた。

 ドラグギルディは片手で拳を作り、胸の前にもってくると、堂々と声を上げる。

「我は、エレメリアンである自分を憐れとは思わぬ。生を受けた以上、エレメリアンとしての誇りを持って生きていく。勝手なことを言うようだが、おぬしが結んでくれたあのツインテールは、我の生涯の宝とさせてもらう」

 そして、ドラグギルディが言葉を止めた。静かに、ブルーを見つめてくる。

 感謝はある。敬意も感じられた。それでも、生き方は変えられない。これがエレメリアンなのだと、突きつけるものだった。

 少ししてから、ブルーは眼を閉じて、大きく息を吐いた。

「なるほどね、だいたいわかったわ」

「そうか」

 眼を開くと、よろめきながらもどうにか立ち上がる。

「まだ、立つか」

「当然、でしょ」

 予想はしていたのだろう、ドラグギルディの声に驚きはなかった。

 勝ち目はないかもしれない。それでも、あきらめたくなかった。

「あたしが負けたら、あたしの、そして世界中のツインテールが奪われる。そうなったら、そーじが悲しむ。ううん、悲しむ心まで奪われる。そんなこと、絶対に嫌」

 総二の大切なものを、守りたい。

「守りたいのよ。当然でしょ」

 総二の心を、守りたい。

「世界で、宇宙でたったひとりの、大切な人なんだからっ!」

 総二の未来(あした)を、守りたい。

 そのために、愛香は戦うことを決めたのだ。

「そうか」

 ドラグギルディが、惜しむようにため息を吐いた。

「そう、だな。おぬしはそういう(むすめ)だ。だが、だからこそおぬしは、真に輝けぬのだ」

「なにを」

「おぬしは、ツインテールにわだかまりを持っておる」

「は?」

 意味がわからない。ブルーの声を遮ったドラグギルディの言葉に、思わず聞き返す。

「おぬしのツインテールは、少年への想いありきのもの。少年への想いゆえに、そこまでの属性力(エレメーラ)を得た」

「それが、なんだっていうのよ」

「考えたことがあるのではないか。もしも、少年があれほどにツインテールを愛していなければ、あるいは、ツインテールがなければ、自分のことをもっと見てくれたのではないか、と」

「っ!」

 それは、何度もあった。図星をつかれ、絶句する。

 淡々と、ドラグギルディが言葉を続けた。

「そして、少年が他のツインテールに、他の娘に眼をむけてしまうのではないか、自分から離れていってしまうのではないか、と思うこともあったであろう」

「だから、なんだって言うのよっ!!」

 怒鳴り返すが、ドラグギルディは意に介さない。

「少年への想いゆえに、おぬしは強くなった。だが同時に、少年への想いのために、ツインテールを認めきれず、自信を持つこともできない。常に不安を抱いている」

「っ、あ、あぁ」

「皮肉としか言いようがあるまいな。――――かつてある世界に、ひとりのツインテールの戦士がいた。彼女は、独自に作り上げた衣と、その凄まじいツインテール属性によって、我と対等に戦えるほどの強さを持っていた。おぬしが彼女の衣をまとい、そのツインテールに自信と誇りを持ち、真の輝きを持てれば、我を倒すこともあるいはできたかもしれん。だが、おぬしの心がそうであるかぎり、不可能というものだ」

 その言葉に、ぎりっと歯を食いしばる。

 弱いと、そう断じられた。どんな強い力を持っていても、心の弱いおまえでは勝てない、と。それでも、なにも言い返せなかった。

 ドラグギルディが、(かぶり)を振った。

「いや、おぬしはそれでよかったのかもしれぬ」

「なによ、それ」

 うつむき、力なく呟く。いや、弱くてよかった、ということか。

「おぬしがそうだったからこそ、あの少年は曇らずにすんだのだろう」

「えっ?」

 顔を上げると二、三度ほど(まばた)きし、ドラグギルディの顔を見る。

「おぬしがそれほどにあの少年を想っていたからこそ、彼は笑顔でいられたのだろう。我とツインテールについて語り合ったが、あれほどのツインテールへの愛は、おそらく『人』に理解されるのは難しいだろう。もしもおぬしがいなければ、彼はずっと寂しい思いをし、あるいは少年自身が、望まぬものとなったかもしれん」

「望まぬもの?」

「さてな。なぜそんな言葉が出たのか、我もわからぬ。ただ、そんな気がしたのだ」

 なんとなく気にかかった言葉を聞き返すと、ドラグギルディは(かぶり)を振ってから答えた。そして、話は終わりだと言うかのように、ドラグギルディがこちらにむかってくる。一歩一歩、別れを惜しむかのように、ゆっくりと。

「戦士として、せめてもの手向け。我が剣で、終わらせよう」

「く、うっ!」

 武器を持たないまま構えをとろうするが、躰の力が抜け、再び倒れる。両腕を突いて、完全に倒れこむことは避けたが、それが精一杯だった。

 ドラグギルディが、目の前に近づいた。

「テイルブルーよ、おぬしは、よく戦った」

 剣を両手で握り、ゆっくりとドラグギルディが剣を振り上げた。それなのに、見ていることしかできない。

 ごめんね、そーじ。あたし、守れなかった。

 うつむき、心の中で、大好きな人に謝る。

 死ぬことはない。それでも、いままで彼のために磨いてきたツインテールが、彼にふりむいてもらうため、一緒に歩んできたツインテールが、奪われる。総二に、一番好きなツインテールと言ってもらった、愛香のツインテールが、奪われてしまう。

「やだ、よ」

 嫌だった。悔しかった。それでも、躰が動いてくれない。力が湧いてこない。

「そー、じ」

 心に浮かぶのは、やはり総二のことだった。

「たす、けて」

 彼に対する申しわけない気持ち以上に、ずっと心の中で押し殺していたこと、どうしても言えなかったこと。

「そーじっ」

 助けて。

 

「助けて、そーじっ!!」

 

「――――さらばだ」

 言葉とともに、ドラグギルディの剣が振り下ろされた。

 

「待ちやがれえええええええええええーーーっ!!」

「むうっ!?」

 ドラグギルディの剣がブルーに届く直前、叫びとともに、小さな赤い影が飛びこんでくる。十歳に満たないだろう、幼い少女だった。少女はその勢いのままドラグギルディに蹴りを放つが、剣を離した彼の片腕に阻まれる。

 だが少女は、防がれたことを気にした様子もなく着地すると、ブルーを横抱きに抱え、大きく跳躍し、ドラグギルディとの間合いを離す。

 おお、とドラグギルディが声を上げた。

「なんと見事なツインテールをした幼女だ! テイルブルーのものに勝るとも劣らん! おぬし、何者だ!」

「俺か? いいぜ、知りたきゃ教えてやる」

 感嘆とともに誰何(すいか)の声を上げるドラグギルディに、少女がブルーを横抱きにしたまま、少年のような口調で答える。

 膝下まで届きそうな、長く、赤い髪を、きれいなツインテールにした少女。ブルーと同じような、レオタードを連想させるボディスーツに、手や腰、ツインテールを結ぶリボンなどには、赤い、機械的な装甲。

「俺は、テイルブルーとともに在る、ツインテールのもう一房(ひとふさ)

 そこで言葉を止めて笑みを浮かべ、少女は、力強く吼えた。

 

「テイルレッドだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*******

 

「ごちそうさま」

「ねえ、愛香」

「―――?」

 愛香は食事を終え、立ち上がろうとしたところで、恋香から心配そうに声をかけられ、首を(かし)げた。

「なんだか元気なさそうだけど、どうしたの?」

「えっ、べ、別に、なんでも」

「なんでもないように見えないから聞いてるんだけど」

「うっ」

 恋香に指摘され、慌ててごまかそうとするものの、再び心配そうに言われてしまい、愛香は言葉に詰まった。

 これは、愚痴のようなものだ。できれば姉にこんなものを聞かせたくはないが、正直なところ、不安がまた大きくなってしまっている。

「あのね、お姉ちゃん」

「うん」

 気がつくと、口が動いてしまっていた。止めようとしても、止まってくれない。

「あたしってやっぱり、女としての魅力、ないのかな」

「――――、――――、――――えっ?」

 そんなに答えにくいほどなのか。数呼吸ほどして、不思議そうに声を漏らした恋香の反応に、気持ちが沈んでいく。

「そうだよね。やっぱりあたし、女の子っぽくないもんね」

「えっとね、愛香。どうしてそんなふうに思ったの?」

「そーじが」

 戸惑った様子で問いかけてきた恋香に答えようとしたところで、ふと頭をよぎった考えに言葉が止まった。冷静になってみると、尊敬する姉相手とはいえ、話すのは少し、というか、かなり恥ずかしい。

「総くんに、なにか言われたの?」

「むしろ、なにも言ってくれないっていうか」

「えっ?」

「あっ」

 反射的に答えてしまうと、再び恋香が戸惑いの声を上げた。一瞬ためらうが、眼をパチパチとさせた恋香に、説明を続ける。思っていた以上に自分は、話を聞いてほしかったのかもしれない。

「え、えっとね。だ、抱きしめたり、頭をなでたりとかはしてくれるんだけど、こ、告白とかはしてくれなくて。って言っても、それが物足りないってわけじゃなくて、なんていうか、ここで止まっちゃってるのは、やっぱりあたしに魅力が無いからなのかなって。やっぱりそーじは、あたしのこと、女として見てくれてないのかなって」

「年頃の男の子は、女の子だったら誰でも、っていう子もいるっていうけど、愛香は、総くんがそういう男の子だって思ってるの?」

「ううん、思ってないよ」

 恋香の指摘に一瞬ドキリとするが、すぐにはっきりと答える。そもそも、ツインテール馬鹿は変わらないままであるようで、愛香への『ご褒美』も、やはりツインテールに対する割合が多い。それが不満であるわけではない。いや、少し思うところもあるが、不満というものではないのだ。

 だが、テイルブルーの影響によるものか、周りにツインテールの女の子が増えてきており、総二がその娘たちに眼をむけているのを見ると、どうしても不安になってしまうのだ。そのために、早く先の関係に進みたい、と思ってしまうのかもしれない。

「それじゃあ、愛香から告白してみるとか」

「そ、それも考えたんだけどっ」

「ふられたらって思うと、勇気が出ない?」

「っ、うん」

 恋香の、確認するかのような言葉に、力なく肯く。大丈夫だと思っても、心のどこかに一抹の不安があるのだ。いまは、愛香が告白をすれば、きっと総二はそれを受け入れてくれるだろうと思える。それなのに、もしも受け取ってくれなかったら、と頭に浮かんでしまうと、言うことができなかった。

「愛香」

 恋香が、優しく抱き締めてきた。巨乳に対していろいろと思うところはあるが、尊敬する姉に対しては、特に嫉妬といった感情は湧いてこない。

「お姉ちゃんはね、愛香のこと、とっても魅力的な女の子だって思ってるわ」

「え?」

 思ってもいなかった言葉に、恋香の顔を見る。

「さっき返事が遅れちゃったのはね、あんなこと聞かれると思ってなかったからなの。確かに愛香は少しおてんばだけど、女の子らしくないなんてこと、絶対にないわ」

「でも、あたし、お姉ちゃんみたいな女らしさ全然ないし」

「私の方こそ、愛香に憧れているのよ。愛香はずっと総くんを一途に想い続けてきたんだもの。ほんとうに素敵だな、って思ってるのよ」

「お姉ちゃんが、あたしのことを?」

 愛香にとって恋香は、尊敬と同時に憧れの女性であり、まさかそんなふうに思われているとは、考えたこともなかった。慰めるためにこんなことを言っているのだろうか、と一瞬、頭に思い浮かぶが、恋香の優しくも強い声に、本気で言ってくれているのだ、と思えた。

「ええ。だからね、愛香。自信を持って」

「お姉ちゃん。――――ありがとう」

 不安がすべて取り除かれたわけではない。もしも、という恐怖もある。それでも、恋香の応援にほんとうの意味で応えるためにも、もっと勇気を出さなければ。愛香はそう思った。

 とりあえず、添い寝でも頼んでみようか。いろいろと考え、顔を熱くしながら、愛香は部屋に戻ることにした。

 




 
勇者(ヒーロー)見参。

ラビットギルディの設定は、特典小説に載っていた設定から膨らませたもの。耳がブレードになるとかもそこから。回転させて切り刻むのはオリジナルというか元ネタありの技。エルクホルン・テンペスト。
ほかにもネタをいくつか。ロビン戦法。
ちなみに天稟とは、天賦の才とかと同じ意味です。なんか好きなんです、この言葉。

お金に関してはオリジナル設定です。実際どうしてるんだろう。

次は、閑話というかアルティメギル側の話を追加します。久しぶりに新規投稿となります。


以下、修正版の補足説明です。ちょい長いです。製作裏話的な話も含みますので、興味のない方はスルーでお願いします。














『少女』もとい『ヒトガタ』。
三メートルの巨体が店の中とか、あまり気にしないでください。とか言っておいて、自分が気になってしまったという。
体のサイズ変更も考えましたが、それよりはロボット的なものを遠隔操作の方がそれっぽいかなと。アルティロイドの仕事に薄い本の買い出しとかあったので、こういうのがあっても不思議じゃないのでは、と。その後、9巻でユノ曰く、『変装は面倒くさい』とのことでしたので、手軽に使えるものは必要だろうと。
当初はアルティロイドの使う『中肉中背の男』ボディでしたが、三人を仲良くさせてみたかったこと、6巻でビートルギルディがプテラギルディに語ったエレメリアンの哀しみ、なぜ『首領』はフェニックスギルディを封印したのか、といったところから『少女』ボディに。なお、ケルベロスギルディがダークグラスパーの髪を三つ編みにしたように、ドラグギルディも人の髪を結んだ場合は、ちゃんとツインテールと感じられるものになります。
また、ドラグギルディがやたら察しがいいのは、「ツインテールは口ほどにものを言う」からです。

最後のサイドストーリーのあとは、愛香が勇気を出せればIFの『添い寝』に分岐。本編は結局勇気が出せなかったルートだったりします。
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