あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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ちょっと短めですが、他の話と混ぜて、今回の話の空気を壊したくなかったので、投稿します。
恐らくは、今年最後の投稿です。多分。


二〇一六年三月六日 修正

サブタイトルにルビをふれれば、『ブルーエモーション』とか付けたいと思いました。
 


1-11 青の涙

 温かい。どこからともなく現れた、自分の相棒を自称する幼い少女に横抱きにされたまま、戸惑いながらもブルーはそう思った。

「だ、誰?」

 それでも、疑問の声が思わず口から漏れる。見覚えはない、はずだ。それなのに、不思議と警戒心は湧かず、むしろ総二に触れられている時のような安心感があった。

 そこまで考えたところで、さっきドラグギルディが言った言葉を思い出す。ドラグギルディがいままで感じたことないほどの強力なツインテール属性を持った、愛香の幼馴染みである、総二。

 改めて、少女の顔をまじまじと見る。可愛らしいが、どこか凛々しく感じる顔立ち。真っ赤な髪をきれいなツインテールにしている少女に、なぜか総二の顔が重なって見えた。

「は?」

「愛香、大丈夫か?」

 再び戸惑いの声を漏らしたブルーに、少女が顔をむけて、心配そうに問いかけてくる。その言葉に、ブルーの躰が硬直した。自分の、テイルブルーの正体を知っているのは、総二と、ギアを渡してきたドラグギルディだけ。ドラグギルディが仲間であるエレメリアンたちに伝えている可能性はあるが、人間で正体を知っているのは、総二だけである。いや、気づいていそうな人がひとりいるが、『愛香』と呼ぶのは総二だけだ。

 おそるおそるブルーは、少女に問いかけた。声が震えていたが。

「そ、そーじ?」

「お、おう。よくわかったな、愛香。こんな姿で」

 返された少女の答えに、再びブルーの躰が固まる。ブルーの眼に映っているのは、間違いなく少女なのだが、総二だとわかったとたん、総二としか思えなくなった。

 確か認識攪乱装置(イマジンチャフ)の効果は、その正体を連想されると、効果を失うとされていたが、問題はそこではない。

「な、なんで女の子になってんのよっ!?」

「あー、いや、俺もどう説明していいのかわからないんだけど」

 驚きやらなんやらで、つい大声を上げてしまうと、少女、もとい総二は困った顔になった。

 少し考えこんだあと、総二が言葉を続ける。

「簡単に説明すると、トゥアールから渡されたテイルブレスってヤツで変身したら、この姿になってたんだ」

「いや、簡単すぎでしょうが、それ」

 そのざっくりした答えに思わずツッコみを入れてしまう。とりあえず、気になったところから聞くことにした。

「誰よ、その、トゥアールって?」

「ええっと、銀髪の女の子で、店に居たらあの日みたいに、ツインテールは好きか、って声をかけられたんだ。それで、このままじゃテイルブルーが負けるって言われて、このブレスレット、テイルブレスをつけられて、気がついたら山奥に一緒にワープしてて、愛香がボロボロになってる映像を見たから、変身して急いでここに来たんだ」

 順番に聞くつもりが、一遍に言われたため少し混乱するが、一応は飲みこめた。

 こんな時に聞くことではないが、どうしても気になってしまった疑問が、口を衝いて出る。

「その女の子も、ツインテールなの?」

「いや、違う。すごく似合いそうだとは思ったけど」

「――――そう」

 返された総二の言葉に、ブルー、――愛香の口から、意識せず平坦な声が漏れた。

 慌てた様子で、総二が口を開く。

「あ、愛香っ、俺の一番好きなツインテールはっ」

「うん、わかってる。――――わかってるのに、あたしっ」

 総二が本気でそう言ってることは、わかっている。総二を疑っているのではない。

 愛香が信じられないのは、自分だ。自分のツインテールが、ずっと総二の一番でいられるのか、自信が持てない。

 ドラグギルディの言葉、そして、恋香と話した時のことを思い出す。

 恋香の応援に応えるためにも勇気を出そうと、自信を持とうと、誓ったはずだった。それなのに、実際はどうだ。不安を常に抱き、自分を信じ切れない。いや、総二を疑っているわけではない、と言っておいて自分を信じられないのは、総二のことを疑っているのと同じことではないか、と思う。

 愛香の視界がにじんでくる。嗚咽が漏れはじめた。

「う、くぅっ――――」

 泣くな、こんな時に。総二に心配をかける。そう自分に言い聞かせても、躰は言うことを聞いてくれない。

 総二の慌てた声が、再び耳に届く。

「あ、愛香、俺は浮気なんか、――――いや、どこか痛むのか、愛香っ!?」

「ちが、う、の。ずっ、と、だれ、か、に、たす、け、て、ほし、く、て。それ、で、そー、じ、が、たす、け、に、きて、くれ、て、うれ、し、く、ってぇ――――!」

 涙をボロボロとこぼし、嗚咽しながらも、総二に伝える。

 応援してくれる人がいるだけでも、力になる。以前、神堂会長に、そして総二に、そう伝えた。それは、紛れもない本心だった。

 気持ちのこもった総二からの『ご褒美』に、活力と戦う力を貰ったことも、間違いはない。

 それでも、毎日のように現れる、アルティメギルのエレメリアンたちとの戦い。一手でも失敗すれば、一瞬でも気を抜けば敗れてしまいそうな、お互いの戦力差。そんな薄氷の上を歩くような戦いを、たったひとりで続けなければならないことに、心が押し潰されそうだった。

――――いつまで戦い続ければいいの?

――――いつまでも、戦い続けなきゃいけないの?

――――いつまでひとりで戦い続ければいいの?

――――いつまでも、独りで戦い続けなきゃいけないの?

 誰かに助けてほしかった。

 誰かに支えてほしかった。

 誰かに、――総二に守ってほしかった。

 それでも、総二に心配をかけたくなかった。総二の悲しむ顔を見たくなかった。総二が、自身を責めるのを見たくなかった。だから、平気な顔をして、辛い気持ちから目を(そむ)け続けてきた。

 そして、ドラグギルディと戦い、その強さの前に手を足も出ず、無力さを嘆き、自分の心の弱さを見抜かれ、それを痛感し、誰にも知られない山奥で口惜しさと心細さを抱えたまま、独り倒れることになるのかと覚悟、――いや、あきらめ、心折れた時に。

 愛香の一番大好きな人が、総二が、助けに来てくれた。

 もう心細さと戦わなくていいのだ、と言ってもらえた気がした。

 そう感じた瞬間、いままで張り詰めていたものが緩み、涙が溢れだした。

「っ! ――――ああ、これからは俺も一緒に戦う。もう、ひとりで無理することなんかないぞ、愛香」

「――――うん」

 それがわかったのか、戦いがはじまってから愛香がずっと欲しかった言葉を、総二がかけてくれた。

 なんとか涙を止める。

 泣くのは、あとでもできる。いまは、総二と一緒に戦わなければ。そう考え、ドラグギルディの方を見ると、なにを思ってか、こちらに背をむけていた。いや、もしかしたら、空気を読んだのかもしれない。とことん律儀なやつだ、と愛香は思う。

 総二が、ゆっくりと愛香を地面に降ろす。

「愛香、これを」

 言葉とともに、総二が青いブレスレットを差し出してきた。愛香のつけている『ギア』の待機状態であるブレスレットに似ているが、細部が違う。見ると、総二が右手首につけているテイルブレスとやらの色違いのようだった。

「テイルギアって言って、愛香がいままで使っていたギアよりもずっと強力なものらしい。こいつで変身し直してくれ」

「わかったわ。けど、あたしまでちっちゃくなったりしないでしょうね」

「――――」

 総二の言葉に冗談めかして返すと、彼――いや、いまは彼女か――は、なぜか愛香から眼を逸らした。

 いや、ちょっと待て、なぜ眼を逸らす。

「ちょっと」

「あり得るかもしれな、あー、いや、とりあえず」

 愛香の追及を避けるように、総二がドラグギルディの方にむき直り、前に出る。それを察したかのように、ドラグギルディも総二の方にむき直った。

「話は、終わったか?」

「ああ」

 ドラグギルディの声に、総二が応える。総二の声には、どこか怒りがこめられているように思えた。

「おぬし、あの日テイルブルーとともにいた少年だな? 自らツインテールになるとは、見上げた覚悟だ」

「あの日?」

 ドラグギルディの言葉に、総二が首を(かし)げた。

「そーじ、そいつはあの日」

「ふむ、では改めて名乗ろう」

 愛香の言葉を遮るように、ドラグギルディが浪々と声を上げる。

「我が名はドラグギルディ。全宇宙、全世界を並べ、ツインテールを愛する心にかけては、我の右に出る者はないと自負している!」

「っ!? そのセリフは、あの時の!?」

 ドラグギルディの、いろいろな意味で忘れられそうにない言葉を聞いた総二が、戸惑いの混じった声を上げる。

「じゃあ、おまえは、あの時のあの子なのか? だけど、じゃあなんで、わざわざ愛香にあんなものを。それに」

「答えるのは構わんが、まずは少し手合わせと行こうではないか」

「っ」

 ドラグギルディの言葉に、総二が困惑する様子を見せた。

「そーじ?」

「む?」

 総二の様子に、愛香とドラグギルディの口から疑問の声が漏れる。

 どうしたのか、と聞こうとしたところで、ふと、愛香の頭にあることが思い浮かんだ。あの時の女の子だと知ったために、総二の中に、ためらいが生まれてしまったのではないか。

「そーじ、あの女の子の姿は、あいつのほんとうの姿じゃないの」

「うむ、人形のようなものだ。我の本来の躰はこちらだ」

 愛香の言葉に、ドラグギルディが続ける。なんとなく息が合ってしまっていることに、愛香の胸に複雑な気持ちが湧き上がった。敵だとは思っても、どうにも憎めない相手なのだ。むしろ、エレメリアンが人の属性力(エレメーラ)を奪うということさえなければ、その変態性に頭を痛くしながらも、きっと仲良くなれたのではないかと思ってしまう。

 基本的に、敵だと判断した相手に対しては容赦しないと決めている愛香でさえ、そうなのだ。生来、優しい性格である総二が、たとえ少しの間だけだとしても心を通わせた相手に対して、攻撃することができるのか。

「人形?」

「ヒトガタと言ってな、まあ、わかりやすく言えば、遠隔操作が可能なロボットと言ったところだ。気にせずに戦うがいい」

「だけどっ」

「っ、そーじ」

 なおも躊躇する総二に、無理もないと愛香は思う。

 話題がツインテールということがちょっとどうかなとは思うものの、自分の大好きなものを語り合える、はじめての相手だったのだ。だが、ここでドラグギルディを斃さなければ、そのツインテールが奪われてしまうことになる。

 ドラグギルディの眼が、鋭くなった気がした。

 

「おぬしは、なにをしに、ここへ来たのだ?」

 

「っ!」

 疑問ではない、静かな、しかし怒りを含んだドラグギルディの声に、総二がはっとした様子を見せる。

 鋭く総二を見据えたまま、ドラグギルディが言葉を続けた。

「ただ、そのツインテールを見せるためか? ならば、いますぐここから消え失せよ。目障りだ」

「俺は」

「確かに見事なツインテールよ。だが、いまのおぬしからは、先ほどまでの輝きなど、もはや微塵(みじん)も感じられぬわ」

 ドラグギルディは言葉を止め、スッと片手を上げると、愛香の方を指差した。

「テイルブルーは、その少女は、たったひとりのために戦い続けた。――――いま一度だけ聞く。おぬしは、なんのために、ここに来た?」

「――――」

 (ひと)言一言を区切り、試すようなドラグギルディの問いに、総二は顔をうつむかせ、少ししてからゆっくりと顔を上げた。頭の方に両手を持ち上げ、リボンのような装甲に触れる。

「ブレイザーブレイドッ!!」

 叫びとともに振り抜いた総二の右手から、炎が(ほとばし)った次の瞬間、その手に両刃(もろは)の剣が握られていた。いまの総二の体格と合わせて見ると、平均以上の長さの物に思えてしまうが、実際のところは長剣というほどではないくらいの物だった。

 剣を片手に佇む総二の背中からは、さっきまでの戸惑いが消え、闘気と呼べるものが漲っているように思えた。

「俺は、戦いに来た」

「ほう。なんのために?」

「ツインテールを、そして、愛香を守るために!」

「――――フッ」

 さっきの頼りなさが嘘のような総二の力強い声に、ドラグギルディが満足そうに応じ、剣を構える。

「そーじ」

「大丈夫だ。心配すんな、愛香」

 なんと言ったらいいのかわからず、愛香が名前を呼ぶと、総二は振りむいて微笑み、優しい声を返してきた。

 総二が、改めてドラグギルディにむき直り、剣を構える。

「いくぜ、ドラグギルディ!!」

「来るがいい、テイルレッド!!」

 吼えるとともに総二が跳躍し、ドラグギルディもまた、その声に応え、迎え撃つ。

 総二、――テイルレッドとドラグギルディ、ふたりの持つ互いの剣が、打ち合わされた。

 

 




 
大まかには変えず、最後の方を修正。
良くも悪くも甘いのが総二。

初稿の時、不思議と書いていた話ですが、特典小説の方で『愛香がアルティメギルとの戦いに不安を感じていた』という話が出て驚きました。独りで戦ってたらやはりこうなるのだろうなと。


以下、総二の反応についての補足です。









総二がドラグギルディとの戦いをためらったのは、ギアがボロボロでも愛香に怪我自体がなかったため。怪我をしてたら、ほとんど迷うことなく戦っていました。
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