あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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二〇一六年四月二十九日 修正

ドラグギルディに愛着が湧きすぎて、とてもエネルギー使いました。




1-14 双房大決戦 / 竜との別離

 ドラグギルディから先手を取るために、ブルーはその場にいた誰よりも速く飛び出した。ブルーとドラグギルディの間にあった距離は、文字通り一瞬で消える。

「はあっ!!」

 間合いに入ると同時にブルーは、ドラグギルディにむかって槍を全力で突き出す。

 さっきまでの装備では、その躰にかすり傷ひとつつけることすらできなかった。テイルギアの性能で、どこまで自分の攻撃が通用するようになったのか。それを確認する必要があった。

「むっ!」

 刺突に反応したドラグギルディが、ブルーの攻撃を左腕で受け止めた。硬い物同士がぶつかり合うような音が響くが、その腕に傷がついた様子はない。

 ドラグギルディが、右腕に持った大剣を振り上げた。

「フン!」

 全力の攻撃を行ったことで動きが止まったブルーに対し、ドラグギルディが剣を振り下ろしてくる。直撃すれば、このテイルギアでもただでは済まないだろう。しかし、焦りはしない。

「させねえっ!」

 力強い言葉とともに、レッドがその手に持った剣でドラグギルディの攻撃を止める。総二(レッド)が守ると言ってくれたのなら、愛香(ブルー)はそれを信じるだけだ。

 レッドに剣を止められたことで、今度はドラグギルディの動きが止まった。その隙を逃さず、ブルーは槍を引いて再び刺突を放つ。今度は止められることなく、ドラグギルディの胴体に()たった。

「っ!」

 手応えはあったが、浅い。少し傷がついた程度だ。

 ()たる瞬間、わずかに身を捻ることで打点をずらしたのだろう。さすがに、やる。

 落胆はない。むしろ、直撃すれば多少なりとも効果があることを確認できたのだ。上出来と言えた。

「フンッ!」

 ドラグギルディが剣を振り払ってレッドを弾き飛ばし、再びブルーにむかって剣を振るう。さすがにこの状況では、信じる信じないの話ではない。

 ブルーは後退しながら槍を押し出し、距離を離してその剣を避ける。

「おおおおおおおっ!!」

 弾き飛ばされたレッドは着地すると、雄叫びを上げながらドラグギルディにむかって駆ける。迎撃のために、ドラグギルディが返す刀で剣を横薙ぎに振ろうとする。

 ここだ。ブルーは瞬間的に判断すると、ドラグギルディの剣にむかって槍を突き出した。

 振りはじめた瞬間なら、充分な力がこめられていない。槍と剣が咬み合い、お互いの動きが止まった。

「むっ!?」

「いつ、どこから振るのか、わかればねえっ!」

 なんとか止められるのだと、驚愕するドラグギルディにむかって、ブルーは吼えた。テイルギアによってあらゆる能力が高まっているからこそ、できる芸当でもあった。

 レッドもまた、ブルーが止めると信じていたのか、駆ける速度はまったく緩めていない。その勢いのまま姿勢を低くしたレッドは、動きの止まったドラグギルディの足元を滑り抜け、その背後に回りこんだ。

「なにっ!?」

「うおりゃあっ!」

 吼えるとともにレッドが、驚きの声を上げるドラグギルディの背中を斬りつけた。

「グッ、わ、我の背中に、傷をっ!」

「背中をゴシゴシこすって欲しかったんだろ! 望み通りにしてやったんじゃねえか!!」

「なるほど、一本とられたわ!!」

 怒りとも感嘆ともつかない声を上げるドラグギルディにレッドが答えると、彼はほんとうに愉しそうに笑う。

「そーじにばかり気を取られてんじゃないわよ!」

 ブルーは声を上げると、追撃のために槍を突き出す。レッドも剣を両手で握り直し、振りかぶった。

「フン!」

 ドラグギルディは槍をその大剣で、剣を左腕で受け止めた。体勢を崩すために押しこんだ瞬間、手応えが軽くなった。

「フンーッ!!」

 ドラグギルディは気合の声を上げるとともに、ブルーとレッドを大きく弾き飛ばした。一瞬だけ力を緩めることでできた空隙(くうげき)をついたのだろう。伊達に歴戦の戦士ではない。

 ブルーとレッドは、着地するとすぐに武器を構え直す。ドラグギルディはその場で、笑みを浮かべた。

「これが、おぬしたちの真の力か!」

 驚きと喜びの入り混じった、まるでずっと心待ちにしていたものを目にした時のような声。

「ならば、我も命を懸けよう!!」

 ドラグギルディはそう言うと剣を地面に突き立て、両腕を躰の前で交差させたあと、深く呼吸を繰り返す。あの仕草には、見覚えがあった。

「あんた、あのキツネ野郎みたいに妄想でもする気!?」

「フォクスギルディのことか。我もあやつの強大な妄想力には一目置いておった。だが、妄想を人形に頼るようでは、まだ未熟」

 攻撃を仕掛けるべきだとは思うのだが、ドラグギルディから感じる闘気が、それを許しがたいものとしていた。

 属性力(エレメーラ)なのだろうか。光のようなものが、彼の躰を包んでいくように見える。

「見るがいい。これぞ、わが愛!!」

「っ!!」

 言葉とともに闘気が弾け、ブルーとレッドを含む周囲のものを吹き飛ばす。そして、ドラグギルディの頭から、光の二房が伸びた。

「っ!?」

「ドラグギルディが、ツインテールに!?」

「これこそが、我が最終闘体、ツインテールの竜翼陣(はばたき)! ツインテール属性を極限まで引き出した、見敵必殺の姿よ!!」

 レッドの言葉に答えるように、ドラグギルディの堂々とした言葉が響く。

 己の愛するものを、己の身で表す。その姿からは、圧倒されるものを感じるほどだった。

「そうだ。男子に許されしは、ツインテールを()でることだけではない。自らツインテールとなる。それこそが、ツインテール属性を持つ者の本分」

「――――」

 ドラグギルディの言葉は相変わらずツッコミを入れたくなるような内容だが、彼が言った言葉を思い出す。自らの手で、己が愛するものを生み出せれば、と言った言葉を。

 彼がなりたかったのは、あの『少女』の姿のような『ツインテールの似合う女の子』だったのだと思う。それでもドラグギルディは、いまの姿に一切の恥も疑問もないだろう。

 これが、自分の愛するものなのだと。これが、自分なのだと。自分のすべてを認め、受け入れ、生き様を見せつけるような姿だった。

「ドラグギルディ。おまえのツインテールに懸ける覚悟と愛、ほんとうにすげえと思う。でもな」

 ドラグギルディに対する、レッドの敬意すら感じられる言葉が聞こえる。

「俺だって、ツインテールに対する愛だったら、負けるつもりはねえええええええ!!」

「っ!」

「なんと!」

 吼えると同時、レッドのツインテールが輝いたように見えた。同じくレッドの姿を見たドラグギルディが、驚愕の声を上げる。

「ここに来て、さらにその輝きを増すとは。おぬしのツインテールは底なしか!?」

「俺だけじゃねえ、愛香だってさらに輝くぜ。なんてったって、俺の一番好きなツインテールだからなっ。そうさ、俺たちのツインテールは、無限だ!!」

「よくぞ吼えたあっ!!」

 応えるレッドの声に、ドラグギルディもまた、愉しそうに吼えた。二人のやりとりに、ブルーはため息を吐いて独りごちる。

「あー、もう。どいつもこいつも中二テンションになって。あたしの方がおかしいみたいじゃないっ」

 自分を信じきることは、まだできない。それでも。

「やってやるわよ」

――――そーじを信じることはできる!

「馬鹿あああああああああああああ!!」

 ほかの二人と違って開き直りのようなものだが、ツインテール馬鹿である総二にとっての一番なら、自分が世界で一番のツインテールだと信じる。

 叫ぶと同時、錯覚かもしれないが、自分のツインテールが輝いたように愛香は感じた。

 

 

 なんと楽しき時であろうか。

 青と赤。二人のツインテールの戦士との戦いの中、ドラグギルディは奇妙な喜びに身を委ねていた。

 剣を、槍を合わせ、武を交わし、ツインテールを翻す。それだけで、万の言葉を紡ぐよりも語り合えているような、互いの心が伝わり合うような、不思議なつながりを感じていた。

――――ううむ、やはり見事なツインテールよのう。

――――へっ、ありがとよ。おまえのツインテールも、かっこいいぜ。

――――フッ、嬉しいことを言ってくれるではないか。

――――かっこいい、ってツインテールに遣う言葉かしら。

――――えっ。なに言ってんだ、愛香?

――――うむ、なにを言っているのだ。ツインテールに似合わぬ表現などない!

――――おう、そういうことだ!

――――意気投合してんじゃないわよ、このツイン・ツインテール馬鹿!

――――サンキュー、愛香!

――――うむ、最高の褒め言葉だ!

――――褒めてないわああああああああああああああっ!!

 ドラグギルディの属性力(エレメーラ)が、ツインテールを愛する魂が、目の前の二人と響き合っているのだろうか。いや、きっと錯覚なのだろう。ツインテール属性が共鳴し合うものだとしても、ここまでわかり合えるものではない。それでも、不思議と嬉しく思えた。

 それにしても、このように一介の武人として、ひとりのエレメリアンとして戦うのは、いつ以来のことだろうか。

 部下や弟子を持つのが嫌だったわけではない。むしろ、慕ってくれる部下たちや、少しずつでも強くなっていく弟子たちからは、ツインテールを()でることとは別種の、不思議な喜びをドラグギルディにもたらした。人のように子孫を残すことができないからこそ、そうやって自分の生きた証を残したかったのかもしれない。

 だが、そんな彼らを死地に赴かせるのもまた、ドラグギルディ自身だった。ツインテール属性を拡げ、奪うため、自分たちの手で人類に戦う力を与え、同胞たちを死なせる。どこか茶番じみたものにすら思えた。それでも、その犠牲によって、それ以上の同胞を生かせるというのならと、そう思ってきた。

 将として、師として、部下や弟子、同胞たちのためにと、自分に言い聞かせてきた。それが間違っていたとは思わない。ただ、それはある意味で、部下や弟子たちを言い訳に使ってきたのではないか。自分の心を偽ってきたのではないか。

 ヤツからあの話を聞き、ヒトガタを受け取り、訝しいものを感じながらも、自分を抑えてしまった。それに、慣れてしまっていたのかもしれない。

 まだ、若く、未熟だったころは、心の赴くままに生きていた。ただひたすらに強さを、ツインテールを、追い求めていた。それが、愉しかった。

 その未熟さゆえに、戦場で苦戦したことも一度や二度ではない。あらゆる世界の、多種多様な、さまざまな想いのこめられたツインテールを()で、属性力(エレメーラ)を奪うために、強さを求めた。

 属性力(エレメーラ)を奪うことに罪悪感がなかったわけではない。だが、恨みを受けることは、慣れて久しい。エレメリアンとして生まれた以上、奪わなければ生きていけないのだから、当然のことだった。

 だからこそドラグギルディは、誰よりも堂々たる武人であろうと誓った。それが、属性力(エレメーラ)を奪われた人間に対する、せめてもの礼儀であると信じたからだ。

 その考えに迷いが生じたのは、あの二人と出会ったためだ。

 誰よりも強いツインテール属性を持った少年と、その少年のためにツインテールを磨き続けてきた少女。出会うべきでは、なかったのかもしれない。そう思った時もあった。

 いまは、違う。この二人と会えてよかった。

 ツインテールを愛する者として、この二人と会えてよかったと、心から思う。

 だがそれでも、自分はエレメリアンなのだ。同時に心の底から湧き上がるのは、二人の属性力(エレメーラ)を奪いたいという思いだった。

 どれだけ傷ついても、たったひとりのために戦い続けた気高い少女と、そんな少女を大切に想い、ドラグギルディを友と呼んでくれた、心優しき少年。

 そんな二人の属性力(エレメーラ)を、喰らいたいと思った。そして、この二人になら、斃されてもよいとすら思えた。

 アルティメギルは、まさに強大極まりない組織。ドラグギルディに負けるようでは、どちらにせよ、いずれ敗れることになるだろう。そうなったら、二人の属性力(エレメーラ)はほかのエレメリアンに奪われる。それは我慢ならなかった。

 しかし、ドラグギルディを斃せるようであれば、話は別だ。ドラグギルディは、アルティメギルの中でも上位の実力者。属性力(エレメーラ)を高め、修練を続け、未だかつて誰も修めた者がいないとされていた、アルティメギル五大究極試練の内の一つ、通販で買った物が一年間ずっと、透明な箱で梱包され配達され続けるという恐ろしき苦行、『スケテイル・アマ・ゾーン』を乗り越えた唯一のエレメリアン。

 その自分を超えられるのならばと、そう思うのだ。

 そんな自分のことを、面倒なやつだと思う。だが、エレメリアンである自分が、人間である二人にしてやれることなど、――いや、違う。エレメリアンである自分だからこそ、できることだ。

 エレメリアンとして、二人とぶつかり合う。何人(なんぴと)たりとも、邪魔はさせない。

 ただし。

 負けてやるつもりは微塵もない。エレメリアンとしての、そして武に生きてきた者としての誇りが、矜持がある。

 中途半端はない。甘さも死角も、一切ない。己のすべてを懸け、二人と、いや、三人と戦おう。自分が勝ったなら、遠慮なく属性力(エレメーラ)を奪い、二人との思い出を胸に生きていこう。

 我に勝てないようなら、おまえたちはその程度のものだ。超えられるものなら、超えてみよ、『ツインテイルズ』。

 

「フンッ!」

 気合の声とともにドラグギルディは、大剣をテイルレッドめがけて振るう。

「っ、うおおおおおおおっ!!」

 一度ではなく、数度振られたそのドラグギルディの剣を、テイルレッドは雄叫びを上げながら打ち合う。

「はあっ!」

「っ!」

 声と同時、殺気を感じた瞬間、最後の一撃でテイルレッドを大きく弾き飛ばし、必殺の意思がこめられたテイルブルーの槍を、ドラグギルディは左腕で受け止める。

 ドラグギルディの左腕は、自身で作り出した大剣と同じ硬度。大剣を振るう右腕が最強の矛なら、左腕は最強の盾。そうたやすく破壊できるものではない。

「フン!」

「くっ!」

 今度は、テイルブルーにむかって剣を振るう。テイルレッドと違い、ドラグギルディの剣を見切りきれないテイルブルーは、積極的には打ち合わず、身を躱すことに専念する。しかし、完全には避け切れておらず、剣が何度かその躰をかすめ、彼女の口から時々苦悶の声が漏れた。

「おおおおおおおおっ!」

 テイルレッドが、再び雄叫びとともに突進してくる。ドラグギルディは大きく剣を振るってテイルブルーを飛び退かせると、その勢いのままテイルレッドにむき直り、切り結ぶ。

 先ほどから幾度となく繰り返された攻防。テイルブルーの攻撃を防ぎ、反撃を行えばテイルレッドが守り、テイルレッドと打ち合えば、その隙を逃さずテイルブルーが仕掛け、あるいはドラグギルディの剣を止め、今度はテイルレッドが剣を振るう。

 なんという、すばらしい連携。

 そして、二人のその強さを支えるのは、彼女たちがまとう衣、テイルギア。仮面ツインテールを名乗る、かつての強敵が作り出した、凄まじき戦装束。

 強くなりすぎたために戦いに飽いていたドラグギルディの前に現れ、ドラグギルディと対等に戦ったツインテールの戦士。その彼女もまた、まとっていた衣。ドラグギルディの予想を超えた、人の心の強さの結晶とでも言うべきもの。

 思えば、『人』を侮っていたのだろう。ドラグギルディはそんなふうに思う。

 ツインテールを愛する者が、ツインテールを愛する心を手放すなど、なにかを愛する心という大切なものを自ら手放してまでアルティメギルと戦おうとする者がいるなど、考えもしなかった。

 人の精神(こころ)から生まれた自分たちエレメリアンが、人の精神(こころ)の強さを侮っていたのだ。なんという皮肉であろうか。

 かつて戦った時は、ただ愉しいだけだった。

 それまで見た中でも最上のものと言えるツインテールと、久しく出会っていなかった、己の本気をもってしても倒しきれない強さの戦士。

 ツインテールを愛する者としても、武に生きる者としても、実に愉しいひと時だった。

 結果として、勝利することはできたが、彼女の属性力(エレメーラ)を奪うことはできなかった。とはいえ、気にはしなかった。

 あの戦士がツインテールを愛する限り、また戦場で逢うこともあるかもしれない。そうなれば、また心躍らせる戦いが愉しめる。あの美しいツインテールを見れる。その時こそ奪えばいい。その程度にしか思っていなかったのだ。

 なんのことはない。人を下に見ていたのは、ドラグギルディも同じだったのだ。

 そして、仮面ツインテールの作り出した二つのテイルギアの話を聞いて、ドラグギルディの胸に湧き上がったのは、驚嘆と喜びと、敬意だった。

 人間は、エレメリアンに一方的に狩られる存在ではないのだと、そう示してきたように思えた。人間の子供が親のすごさを目にした時、このような気持ちになるのかもしれない。不思議とそう思った。

 結局、彼女がどこからあの技術を手に入れたのかは聞けなかったが、聞いたところで答えてはくれなかっただろう。自分は、彼女の世界を滅ぼした仇なのだ。アルティメギルを滅ぼすために、人の心を守るために、彼女はたったひとりでいくつもの世界を渡ってきたのだろう。そんなふうに思う。

 そしていま、その想いを託された、かつての強敵に匹敵、あるいはそれ以上の強さを持つ、青と赤、二人のツインテールの戦士との戦い。

 ただ一人のために、磨きに磨き上げられた至高のツインテールと、純粋なツインテールへの愛によってかたち作られた、究極のツインテール。

 いまなお、輝きと強さを増し続ける二人。

「フン!」

「おおおおっ!」

「はあっ!」

 剣が、槍が、想いが飛び交う。

 一歩間違えれば、どちらが倒れてもおかしくないこの緊張感こそ、真剣勝負の醍醐味(だいごみ)

 瞳に映るのは、二人の動きとともに美しく舞い、輝く二対のツインテール。

 なんという、至福。

 ドラグギルディは、至上の喜びの中にいた。

 

 さらに幾度となく攻防が繰り返された。辺りは、戦いの余波で地面が隆起、あるいは抉れ、木々はなぎ倒されている。さらには、大地は焼け焦げ、溶け、高熱を発しているほどだった。

 ドラグギルディにはまだ余裕があるが、ツインテイルズの二人は、少しずつ息が切れてきたようだった。

 意を決したように、テイルブルーが槍を掲げた。

「オーラピラー!」

「むう!?」

 テイルブルーの声とともに、ドラグギルディの躰が水流で締め上げられた。躰の自由が奪われる。

完全開放(ブレイクレリーズ)!」

 テイルブルーが声を上げると同時に、彼女の持つ三つ又の槍の先端が展開する。そのままテイルブルーは、大きく槍を振りかぶった。

「エグゼキュートウェーイブ!!」

 技の名前らしきものを叫ぶと同時に、身動きの取れないドラグギルディ目掛けて、テイルブルーがその槍を投げ放つ。凄まじい勢いで、槍がドラグギルディに飛来した。

「フンッ!!」

 だが、ドラグギルディもこれでやられるつもりはない。裂帛(れっぱく)の気合とともに、身を縛っていた水流を弾き飛ばし、左腕を掲げた。防いだと思った瞬間、耳障りな音が響き、激痛が走る。

「なにっ!?」

 最強の盾と自負していたドラグギルディの左腕に、槍が深々と突き刺さっていた。思ってもみなかった光景に眼を見開き、すぐに大剣を振りかぶる。

 左腕の一本程度、くれてやる。

「フンーーッ!!」

 動揺したのは一瞬。全力の攻撃を放ったことで動きの止まっていたテイルブルーにむかって、力をこめた斬撃を飛ばす。衝撃波が、地を抉りながらテイルブルーにむかっていった。

「っ!」

 テイルレッドのカバーは間に合わず、衝撃波がテイルブルーに直撃する。テイルブルーが、なにか人ではないもののように弾き飛ばされた。

「愛香っ!」

 悲鳴すらなくふき飛ばされたテイルブルーにむかって、テイルレッドが跳躍した。隙だらけではあったが、狙うことはしない。そんな勝ち方に意味はないのだ。テイルレッドが空中でテイルブルーを抱きかかえ、着地する。テイルブルーの青いツインテールが、もとの黒いツインテールに戻った。

「愛香っ、しっかりしろ、愛香!」

 テイルレッドが、心配そうに呼びかける。ひとまず自身の負傷を確認するため、ドラグギルディは己の左腕に視線をむけた。

「むっ」

 テイルブルーが戦う力をなくしたためだろう、左腕に突き刺さっていた槍が消えた。当分の間、左腕は使えそうにないが、構わない。むしろ、左腕一本でかつてない強敵のひとりを倒せたのだ。僥倖(ぎょうこう)というものだろう。

 左腕をだらりと下げたままテイルレッドにむき直り、呼びかける。

「テイルレッド、あとは、おぬしだけだ」

「っ!」

 ドラグギルディの言葉を聞いたテイルレッドは辺りを見回し、視線を止めた方向にむかって跳躍した。ドラグギルディは追わない。そこは、それほど被害のない地形だったからだ。

 テイルレッドは気絶した少女をそこに横たえると、再び跳んだ。彼女を巻きこまないためだろう。ドラグギルディもテイルレッドとともに移動する。

 テイルレッドが立ち止まり、再び剣を構えた。彼女の目は死んでいない。負けてたまるか、という強い意志があった。

 今日何度目になるかわからない結び合いをはじめる。相手の気迫は充分。だが、テイルブルーが倒れたためだろう、彼女のツインテールと剣からは、焦りと動揺が感じられた。

 たとえ左腕が使えなくとも、ドラグギルディは歴戦の戦士。だんだんテイルレッドを押しはじめる。

「うあっ!」

 それから何度か打ち合い、剣ごとテイルレッドを弾き飛ばす。彼女の手から離れた剣が、大地に突き立った。

 膝をつくテイルレッドに、ドラグギルディは剣を突きつけた。

「惜しかったな。おぬしたちは、確かに強かった。かつて戦った、あの仮面ツインテールと名乗った少女よりも遥かにな。もしもおぬしが戦いの経験を積んでいれば、我を斃せたかもしれん」

 彼女たちの健闘を讃えるとともに、残念な気持ちが湧き上がった。胸の内には、寂しさがあった。忸怩たる思いがあった。それでも、剣を止めることはしない。それは、相手への侮辱だ。

 テイルレッドを見据えながら、剣をゆっくりと振り上げる。

「感謝するぞ、ツインテイルズ。我が生涯最大の敵にして、最高の想い人たちよ。(まこと)にすばらしい戦いとツインテールであった」

 これで、よかったのだろう。果てなき戦いに二人を追いやるよりは、いまここで自分が引導を渡すことこそ、友であるドラグギルディがしなければならないことだったのだろう。そう思い定める。

「さらばだ」

 ツインテールを結んでもらった時の、二人の笑顔が頭をよぎる。

 振り切るように、ドラグギルディは剣を振り下ろした。

 

「オーラピラー!」

「むっ!?」

 ドラグギルディの剣がテイルレッドに達する直前、彼女が声を上げるとともにその躰を赤い光が包んだ。剣が弾かれるが、光はその一撃で粉々に砕ける。驚いたのは、一瞬。すぐに体勢を立て直し、再び剣を振り上げた。

 テイルレッドが、顔を上げた。その手には、先ほど弾き飛ばしたはずの剣があった。

「なにっ!?」

――――二刀だと!?

「伊達にツインテールじゃねえってなあ!!」

「ぐおっ!?」

 ドラグギルディの驚愕を読み取ったかのような言葉とともに、テイルレッドが斬り上がった。深い一筋の傷が躰の前面に刻まれ、激痛がドラグギルディを襲う。右胸を大きく抉られ、剣を取り落としそうになるが、戦士としての意地がそれを許さない。

 剣を握り直し、テイルレッドを眼で追う。テイルレッドは、太陽を背にして、空にいた。陽光を受け、ツインテールが美しく煌めく。

 ほんの一瞬だけ見惚れるが、躰は戦うために動いた。痛みを無視して、剣を構え直す。このタイミングならば、テイルレッドが剣を振り下ろすよりも、こちらの方が(はや)い。

 ドラグギルディの勝利は、揺るがない。

「オーラピラアアアアアアーーーーーッ!!」

「ッ!?」

 テイルレッドにむかって横薙ぎに剣を振るおうとした瞬間、もう聞こえるはずのない少女の声が響いた。それと同時に、さっきと同じように水流がドラグギルディの躰を締め上げる。驚きもあって、ドラグギルディの躰が完全に硬直した。

 かろうじて動く顔を声のした方にむけると、先ほど倒れたはずの青き戦士の姿があった。

 テイルブルー、気絶したはずではなかったのか。

完全開放(ブレイクレリーズ)!』

 青と赤、二人の戦士の声が重なる。言葉と同時に、テイルブルーの槍の穂先が、テイルレッドの剣の刀身が、展開した。

「エグゼキュートオオオオオ!」

「グランドオオオオオオオオ!」

 水をまとった槍を構え、凄まじい踏みこみとともにテイルブルーがドラグギルディにむかって跳び出し、炎が(ほとばし)る剣をテイルレッドが振り上げる。

 二人のツインテールが、ひと際輝きを増した。

「ウェエエエエエーーーーイブ!!」

「ブレイザアアアーーーーーッ!!」

 あらゆるものを砕き、押し流す津波のごとき剛槍が、すべてを焼き尽くし、切り裂く灼熱の斬撃が、ドラグギルディに迫る。

 もはや、これまでか。――いや。

――――まだだ!!

「フンーーーッ!!」

 ドラグギルディもまた、すべての力を振り絞り、その身を縛る拘束を解く。砕けた左腕を無理やり動かすと、テイルブルーの槍を防ぐためにかざし、力の入らない右腕を意思で持ち上げ、テイルレッドの剣にむかって斬り上げる。

 彼女たちの勝ちだ。ドラグギルディを超えたのだ。これ以上あがく必要がどこにある。これで充分のはずだ。頭はそう訴えるが、躰はそれに抗い続ける。

 違う。

 心が、魂が、戦うことを望んでいるのだ。

 たとえ見苦しく見えようとも、最期の瞬間まで堂々と、全身全霊を懸けて戦う。それが、ドラグギルディの信じる戦士の生き方であり、エレメリアンとして望む在り方。

 この戦いだけは、心のままに生きると、決めたのだ。

 左腕で槍を止め、剣と剣が打ち合わされる。

 永遠にも感じられた、一瞬の停滞。

 そして、左腕を槍が貫き、大剣が切り裂かれ、ドラグギルディの躰が撃ち抜かれた。

 

「美しい――、まさに、神の髪、――――神、型」

 青と赤、二人の戦士の最大の攻撃がドラグギルディの躰を砕いた瞬間、瞳に映ったのは、美しく煌めく二対のツインテールだった。

「最初から、一刀目は囮であったか」

「いや、思いつきさ。けど、二人守るんだ。剣が二本いるのは道理だろ。――――っ、愛香、大丈夫か!?」

「えっ?」

「むっ?」

「血がっ」

 慌てて問いかけるテイルレッドの声に、テイルブルーの不思議そうな声と、ドラグギルディの声が重なる。見ると、確かに口の端から血が流れていた。

「おぬし」

「あー、これ?」

 あっけらかんと答えるテイルブルーに、ドラグギルディとテイルレッドは逆にあっけにとられた。彼女はそのまま言葉を続ける。

「さっきふっ飛ばされた時に気絶しそうになったから、とっさに唇噛み切って意識つないだのよ。別に大した傷じゃないわ。体が痛くって、すぐには動けなかったけど」

「いや、とっさにできることじゃないと思うぞ、それ」

 なんてことないように言葉を返すテイルブルーに、テイルレッドが苦笑しながら呆れたように言う。

 不思議と、ドラグギルディは愉快な気持ちになった。

「見事。見事だ、ツインテイルズ――ッ!」

「ツインテールが、か?」

「無論だ。はーはっはっはっはっは!!」

 ドラグギルディの称賛の声に返された、笑みを含んだテイルレッドの言葉に、ますます愉快な気持ちになる。

(うるわ)しき幼女に斃される。これもまた、生涯を添い遂げたことには変わりあるまい。まあ、ひとりは幼女ではないが、美しきツインテールの持ち主であることには違いない」

「どこまでもポジティブなやつ」

「ほんと、最期までそーいうノリなのね、あんた」

 力を振り絞って喋るドラグギルディの言葉に苦笑しながらも、二人はどこか哀しそうに返してくる。

 心そのものの存在であるエレメリアンは、人間たちのいう輪廻転生といった概念を信じていない。

 それでも、こう言おう。

「いつか、――――来世で、また逢おうぞ」

「っ」

「ドラグギルディ――」

 哀しむな。そう伝えたつもりだった。

 ツインテールを愛する者として、未練はない。

 武人としても同様だ。師としては、スワンギルディの成長を見届けられなかったのが心残りではあるが、きっと自分がいなくとも、ドラグギルディ以上の高みへ飛べるだろう。

 部隊に、最期の言葉を送る。部隊の長として、ツインテイルズのことを。そしてスワンギルディにむけて、師としての言葉を。

 躰の力が、抜けていく。視界が黒く塗り潰された。躰の感覚もなくなり、立っているのか、座っているのか、それとも横たわっているのか、それさえわからなくなった。

 あとはただ、死を待つのみ。いや、ひょっとしたら、すでに死んでいるのかもしれない。

 そう考えたところで、感覚がなくなったはずの両手に、なにかが触れた気がした。いや、これは。

「ツイン、テール?」

 不思議なことに、わずかに力が戻った。見えなくなったはずの瞳がそれを映し、なにも感じられなくなったはずの躰が感じとり、口から言葉が紡がれた。

 テイルレッドが右手に、テイルブルーが左手に、ドラグギルディが生涯を懸けて愛し続けたツインテールを、触れさせていた。

「同情なんかじゃねえぞ。これは、友だちへの手向けだ」

「あたしからは、感謝と、お詫びよ。勇気を出すきっかけをくれたことと、その、胸のこと言われた時に驚かせちゃったこと。特別だからね?」

「っ、おお――っ」

 幾人もの属性力(エレメーラ)を奪ってきた自分が、こんな気持ちのまま旅立ってよいのか。そう思えるほどの、幸せを感じた。

 苦笑しながら、言葉を紡ぐ。

「まったく、律義なやつらよ。しかし、確かにあれは驚かされたな。まさか乳のことを言われただけで、我が気圧(けお)されるほどの気を放つとは」

「しょ、しょうがないでしょ、気にしてるんだから!」

「自信を持て。おぬしは、充分に魅力的な娘だ、『アイカ』」

「っ、うん」

「彼女を大切にしてやれ、『ソージ』」

「――――ああ、もちろんだ!」

「うむ」

 二人の返事を聞き、ドラグギルディはツインテールから手を離した。

「もう、いいのか?」

「腹八分目だな」

「いや、満足してないんじゃない、それ?」

「いや、ほどほどがちょうどよい」

「そう、か」

 二人がうつむいた。背中を押すような心持ちで、声をかける。

「さあ、行け」

「――――ああ」

 テイルレッドが返事をし、二人がドラグギルディから離れた。

 『人』に成ることはできなかった。だが、人の友ができた。その友が、ツインテールを手向けとして触れさせ、看取ってくれるのだ。

 我は、世界で最も幸せなエレメリアンだ。心からそう思う。

「来世、か」

 テイルレッドが、呟いた。

 彼女はテイルブルーと見つめ合い、頷き合うと、二人でドラグギルディにむき直る。

 二人の声が、重なった。

 

「おまえがツインテールを愛する限り、そんなこともあるかもな」

「あんたがツインテールを愛する限り、そんなこともあるかもね」

 

「――――」

 それはいつか、ドラグギルディが二人に言った言葉。

 味な真似を、と心の内で苦笑する。

 我が友たちよ。

「さらば、だ」

 万感の想いをこめ、告げる。

 ただ、世界に還るのだ。

 ヒトガタが、ドラグギルディが理想とした、ツインテールの幼女の姿が見えた。もう、哀しみはない。不思議な喜びがあった。

 生ききった。満ち足りた思いだけが、ドラグギルディの胸にあった。

 

 

 ドラグギルディが消え、レッドはブルーと肩を貸し合う。身長差があるためかなりやりにくいが、辺りは地面が溶け、焼け焦げている。ここで倒れるのは危険だった。

「愛香、変身解けてたけど、大丈夫なのか?」

「うん、なんとか。ただ、すっごく疲れた」

「ああ、俺もだ」

 ブルーから返された言葉にホッと安心しながら同意すると、彼女は顔を覗きこむように見つめてくる。

「そーじは、大丈夫?」

「大丈夫だって」

「そうじゃなくて、ドラグギルディのこと」

「――――ああ、大丈夫だ」

 安心させるために、微笑みながら言葉を返す。

 それでも彼女は、心配そうな顔のままだ。疑っているのではなく、気を遣ってくれているのだろう、とレッドは思った。

「ほんとうに? 無理、してない?」

「悲しくないわけじゃない。だけどさ、あいつも言ったろ。来世で逢おう、ってさ。それに」

「それに?」

「なんていうんだろうな。戦ってる時、あいつと語り合えた気がするんだ。だからかな。不思議と納得してるんだ」

「そーじも?」

「愛香もか?」

 愛香の言葉に眼をパチパチとさせると、ドラグギルディが言った言葉を思い出した。

「そうか。ツインテール属性は共鳴し合うって言ってたもんな」

「いや、なんかあたしまで類友みたいに言われるのは、結構複雑なんだけど」

「嫌か?」

「嫌っていうか、なんていうか」

 言葉通り複雑そうな顔で、ブルーがため息を吐きながら答える。

 彼女は(かぶり)を振ると、苦笑を浮かべた。

「まあ、いっか」

「おう」

 レッドも苦笑で返し、ひとまず歩くことに集中する。気を抜くと、倒れてしまいそうだった。

 一歩一歩、踏みしめながら歩く。ブルーの躰の温もりが、戦いに勝てたことを、彼女を守れた実感を、少しずつ与えてきた。

 少しして、視界に仮面ツインテールの姿を捉えた。慌てた様子でこちらに走ってくる。

「総二様、愛香さん!」

 駆け寄ってきた仮面ツインテールが薬品のような物を辺りに撒くと、周りの熱が収まっていく。完全に熱が引いたところで、肩を貸し合ったまま、二人でその場にへたりこんだ。

 気が抜けたためか、二人とも変身が解け、もとの姿に戻る。愛香が、総二の姿を見ながら安心したように息を吐いた。

「よかったあ」

「ああ、勝ててよかったな」

「いや、それもあるけど、そーじがもとの姿に戻ってよかったなって」

「あー、確かに。戻らなかったら、外国に行くしかなかったかもしれないしな」

「へ?」

 総二の言葉に愛香は眼を(しばたた)かせると、首を(かし)げた。

「なんで?」

「いや、女同士でもけっこ、いや、なんでもない」

「――――?」

 思わずいろいろと恥ずかしいことを口走りそうになり、途中でごまかす。少し顔が熱くなった。

 不思議そうにしていた愛香が、なにかを思い出したように口を開いた。

「そういえば、そーじ。オーラピラーを防御に使うなんて、よく思いついたわね」

「あー、いや、あれバクチなんだ。ドラグギルディの動きを少しでも止められるんだったら、どうにかできるんじゃないかって」

 総二からの答えに、愛香が呆れた様子を見せた。

「また無茶なことしたわね。成功したからいいものの」

「それくらいしないと勝てない相手だったろ、あいつは」

「まあ、ね」

 ほんとうに強いやつだった。勝てたのが不思議なくらいだ。ただ、剣を弾かれたレッドに振り下ろそうとしたドラグギルディの剣が、一瞬鈍った気がしたのは、――いや、総二の気のせいなのだろう。彼は、エレメリアンとして、戦士として全力で戦った。それで、いいのだ。総二はそう思った。

 ふっと、総二の頭に気になることが浮かんだ。

「なあ、愛香。ツインテールを愛する限りって言葉、どこかで聞いたことないか?

「ん? いや、ドラグギルディでしょ?」

「いや、もっとずっと昔に聞いたことある気がするんだけど」

「うーん」

 愛香は少し考えこむが、やがて(かぶり)を振った。

「どこかで聞いた気もするけど、多分気のせいでしょ。そもそもあんな言葉、ドラグギルディかそーじくらいしか言わないでしょ」

「――――それもそうか」

 愛香の言葉に、とりあえず納得する。少し引っかかるものはあるのだが、記憶にある限りでこんなことを言うのは、確かに総二かドラグギルディくらいのものだろう。

「これから使うつもりね、あんた」

「当たり前だろ。ツインテールの戦士なんだぜ、俺たちは」

「まったくもう」

 確認するような愛香の言葉に総二が即答すると、彼女は頭を抱えてため息を吐いた。ただ、どこか嬉しそうにも見えた。ドラグギルディのことを忘れないためにも、使ってやりたいのだ。口には出さなかったが、愛香もなんとなく感じ取ってくれたのではないか、と思った。

 会話が止まったことでだろうか、仮面ツインテールがそばに近づいてきた。

「お疲れ様です、お二人とも。ほんとうに、ありがとうございます」

「いや、こっちこそありがとう。勝てたのは、テイルギアのおかげだよ」

「うん。これがなきゃ、絶対に勝てなかったわね」

 単純な性能もそうだが、ドラグギルディに勝てたのは、テイルギアが二人の心に応えてくれたからだと、不思議とそんなふうに思うのだ。

 仮面ツインテールが、ドラグギルディが爆散した場所を見つめる。なぜか、戸惑っているように見えた。

「気を遣うことないわよ」

「えっ?」

「愛香?」

 愛香の言葉に仮面ツインテールが不思議そうに返し、総二も呼びかける。

「あいつはさ、多少はいいやつだったけど、それでもたくさんの世界を侵略して、属性力(エレメーラ)を奪ってきた。あんたにとっても仇だったんでしょ。だから、あたしたちに気を遣うことなんてない、と思う」

「っ!」

「あっ。そう、だな」

 複雑そうな愛香の言葉に、総二も静かに同意する。ドラグギルディは確かに憎めないやつではあったが、いくつもの世界を滅ぼしてきた侵略者であることも間違いはないのだ。それでも、総二と愛香、ドラグギルディの会話を聞いていた彼女は、素直に喜んでいいのかわからなかったのだろう。

 愛香の言葉を聞いてうつむいていた仮面ツインテールが、顔を上げる。仮面を被ったままだが、なんとなく優しく微笑んだように感じた。

「ありがとう、ございます。でも、お二人の前ではしゃぐ気にはなれません。あとでこっそりはしゃがせていただきます」

「いや、なんていうか、それはそれで複雑な気分になるんだが」

「はっきり言うのは、いいのか悪いのか」

 返された言葉に、二人で苦笑して返す。仮面ツインテールが、総二のすぐそばに立った。

「それでですねー、総二様にお礼がしたいのでー、動かないでくださいねー?」

「お礼?」

 なにやら甘ったるく感じる仮面ツインテールの言葉に、訝しさを感じながら総二が聞き返すと、柔らかいものが総二の頭を包んだ。彼女の大きな胸だとすぐに気づき、慌てて声を上げる。

「ちょっ――!」

「なああああーーーーー!?」

 驚きと怒りを含んだ愛香の叫びが響き、仮面ツインテールが総二を抱きしめたまま話しかけてきた。

「どうですかー、私のおっぱいは。言った通り、驚きのふんわり感でしょー?」

「い、いや、抱き締めてもらうなら、あい、じゃなくてっ!」

 なにやら愉しそうに胸の感想を求めてくる仮面ツインテールの言葉に、焦りからまた恥ずかしい言葉を返しそうになり、慌ててごまかす。

 離れなければと思うが、女の子に対して乱暴なことをするのは、抵抗があった。

「離れなさい!!」

 愛香が割って入り、総二と仮面ツインテールを引き剥がした。思った通り、彼女は怒りの表情を浮かべていた。

 そのまま愛香は、仮面ツインテールを問い詰める。

「なんのつもりよ! あんた、ロリコンじゃなかったの!?」

「可愛い幼女を()でるのは、人として当然のことです! そして、女が自らの持つ武器で男性にアピールするのもまた、人として当然のこと! まな板である愛香さんには不可能でしょうけど!!」

「誰がまな板じゃああああああああああああああ!?」

「ぼしゅらあああああああああーーーーーーーー!?」

 恥じることなどなにもない、とばかりにその大きな胸を張って言葉を返す仮面ツインテールの顔面――仮面――に、さっきまでの戦いの疲労など毛ほども感じられない怒りの鉄拳を愛香が打ちこむ。

 なすすべなく拳を受けた仮面ツインテールは、すさまじい勢いで回転しながら奇妙な悲鳴を上げ、数メートルほど離れた地面に叩きつけられた。

「お、おい愛香、やり過ぎじゃ」

「いや、ちゃんと手加減はしたわよ?」

「あれでかよ!?」

 人を回転させながら数メートルもふっ飛ばす拳を、手加減したという愛香の言葉に、自分は普段どれだけ手加減されているんだ、と総二はいろいろ複雑な気持ちになる。

 総二は、頭を抱えてため息を吐いた。

「私の見立ては正しかったようですね。やはり、蛮族でしたか」

「っ!?」

 聞こえた声に、総二は慌ててむき直る。仮面ツインテールは、平然と立ち上がっていた。

 信じられない光景に、総二は思わず叫ぶ。

「なんで、あれをくらってピンピンしてるんだよ!?」

「手加減しすぎたかしら」

「そういう問題か!?」

 あの拳を受けておいて普通に立ち上がる仮面ツインテールもとんでもないが、それを見て手加減しすぎたかもと言い出す愛香も、いろいろととんでもない。

「あ、あれっ?」

 意識が、明滅しはじめた。最初の戦いの直後の、愛香の様子を思い出す。はじめてでありながら激戦であったさっきの戦いと、頭が痛くなるいまのやりとりを見たことによる精神的疲労だろうか、となんとなく思った。

「愛香、悪い、俺、もう限界――」

「あ、うん。わかったわ。あとのことは」

「お任せくださいっ。こういう時は、人肌で温め合えば精りょ、もとい、体力も回復します!」

「え?」

 愛香に身を任せようとしたところで響いた言葉に、嫌な予感を覚える。仮面を被っているにも関わらず、邪悪な笑顔を浮かべていると確信できる、欲望にまみれた声だった。

 視界と意識が薄れていくなか、仮面ツインテールの肌色面積が増えていく。服を脱いで、総二にむかって跳びこんできたようだった。

「マスクだけ残して脱ぐなっ、怖いわよっ!!」

「かぶとおおおおおおおおーーーーーーっ!?」

 その仮面ツインテールを愛香は、ぼやけた眼で見てもわかる実に美しいハイキック――One、Two、Threeというカウントが聞こえた気がした――で迎撃すると、総二の躰を抱き留めた。いつかの時と逆になったな、と総二はふっと思った。

 トゥアールのような柔らかさは、確かにない。けれど愛香の胸は不思議と温かく、安心を感じるものだった。安らぎに抱かれ、総二は瞳を閉じる。

 薄れていく意識の中、愛香の優しい声が耳に届いた。

「そーじ、ありがと。守ってくれて。――――そーじ」

――大好き。

「――――ああ」

 最後の言葉は、はっきりと聞こえたわけではない。それでも、嬉しくなった。

 やっと、守れた。不思議な達成感が、総二を包んでいた。

 

 

 

*******

 

 

 

 意識が覚醒する。

 起き上がって周りを見渡すと、自分の部屋であることにスワンギルディは気づいた。

 なぜ自分は、ここにいるのだ。そう考えて、すぐに思い出す。自分は、師ドラグギルディの課した試練、『エロゲミラ・レイター』に耐えきれず、気絶してしまったのだ。

 情けない、という思いを抱きながら、部屋を出る。

「っ?」

 違和感があった。その正体が掴めないまま、大ホールにむかう。近づくにつれ、喧噪が聞こえてくる。ただ、やはりどこか違和感があった。

 馬鹿な。

 そんな。

 ありえぬ。

 信じられないと言わんばかりの言葉だけが聞こえてくる。どの声からも、覇気というものが感じられなかった。

 大ホールに入る。同胞たちが、一斉にスワンギルディを見た。そしてすぐに、ほとんどの者が眼を逸らし、あるいはうつむく。

 スパロウギルディが、スワンギルディに近づいてきた。彼からも、まったく元気が感じられなかった。

「スワンギルディ。目を覚ましたか」

「スパロウギルディ殿。いったい、なにがあったのです?」

 嫌な予感があった。それでも、聞かずにはいられなかった。

 その言葉にスパロウギルディはうつむき、少ししてから意を決したように顔を上げた。

「ドラグギルディ様が、戦死なされた」

「え?」

 なにを言っているのだ、とスワンギルディは思った。

「スパロウギルディ殿、冗談はおやめください。ドラグギルディ様が敗れるなど」

 笑い飛ばそうとして、失敗する。自分の声が震えていることに、スワンギルディは気づいた。

 違和感の正体は、これだったのだ。不思議な喪失感があった。艦全体からも、どこか頼りない雰囲気を感じた気がした。まるで、主を失ったかのように。

「ドラグギルディ様は、最後にこう言い残された」

 テイルブルーが、新たな力と仲間を得た。

 そして。

「スワンギルディ、我の届かなかった高みへ至れ、と」

「っ!」

 なぜ、ですか。

 なぜあなた自身が、私の成長を見届けてくださらなかったのですか、師よ。

 失意の中、スワンギルディは膝から崩れ落ち、涙を流した。

 

 





ドラグギルディとの決着。ボスキャラは、JOJOのワムウとか、キン肉マンの完璧始祖とか、強く気高くかっこよくを理想に。いなくなるのは哀しいけど、どこか爽やかに。哀しいだけではないよ、と。ああいうのが好きです。いい人すぎたシングマンは泣いていい。

共鳴については、原作よりも仲良くなってるのでこういうことがあってもいいんじゃないか、と。

最強の矛と盾はドラゴンつながりのネタ。「フン!」は中の人つながりのネタ。ダイヤモンドパワーはないが。
マッスルグランプリ3出ないかしら。

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