あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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二〇一六年五月二十九日 修正

分割した1-15と同時投稿です。
修正をはじめて一年過ぎてしまいました。
ここまで長くなるとは。

相変わらずツインテールのキャラに眼が行く今日このごろです。
 


1-EP 双房に想いを

 日差しが、不思議と気持ちよかった。いつまで続くのだろうか、と心に(おり)のように溜まっていた黒いものが消え、すがすがしい気持ちで愛香とともに学校への道を歩く。鼻歌でも歌いたい気分だった。恥ずかしいので実際にはやらないが。

 眼の前を小学生の女の子たちが横切ったところで、愛香が口を開いた。

「ねえ、そーじ」

「ん、なんだ、愛香?」

 自分の口から出た声が、不思議とやわらかいことに気づく。いまなら、なにを聞かれても優しく返せる気がした。

「未春おばさんの属性力(エレメーラ)ってなんだろうね?」

「おい馬鹿やめろ」

 気のせいだった。思わず反射的に返した自分の声によって、それは気のせいだったのだと即座にわかった。

 苦笑しながら、愛香が言葉を続ける。

「いや、結構マジメに、ね。この人はどんな属性力(エレメーラ)を持ってるのかな、結構普通なのか、それとも人に言えないようなものだったりするのかなって。今朝になってからはじめて思ったことだけど、多分、余裕がなかったんだよね」

「愛香――」

 その言葉に、彼女の瞳を見つめる。気のせいかもしれないが、昨日までよりも穏やかな眼になっているように見えた。

 歩きながら愛香のツインテールに手を伸ばし、すくい上げる。

 自分のツインテール馬鹿を、疎ましく思った。そのせいで、彼女への想いに応えられない自分が情けなかった。彼女の力になれない、無力な自分が嫌だった。

 だが、そのツインテール馬鹿があったからこそ、誰よりも大切な幼馴染みを守るための力を得ることができた。孤独の中、いくつもの世界を渡って戦い続けてきた女の子の力になれた。そして、尊敬できる友だちに出会えた。

 その友だちを斃してしまったのは、自分だ。それでも、出会わなければよかったなどと思わない。出会ったことを後悔するなど、してたまるものか。総二はそう思う。

「やっぱりさ、好きなものは好きって言える世界が、一番いい。俺は、そう思うんだ」

「うん」

 昨日の決戦の時も、総二の心を奮い立たせていたのは、愛香と、ツインテール。

 エレメリアンは、人の命を奪わず、心を奪う。たとえ総二たちが敗れたとしても、死ぬことはなかっただろう。そうなったとしても、愛香と生きていくことだけは、できたかもしれない。

 それでも、愛香のツインテールを奪われたくなかった。彼女がツインテールじゃなくなることも、それを見ても、なにも感じなくなってしまうことも、嫌だった。それは総二にとって、死ぬことと変わらないように思える。

 それに、総二たちが物心ついたころから、愛香はツインテールを続けてきた。そのツインテールを奪われるというのは、まるで、自分たちが一緒に過ごしてきた時間さえ奪われてしまうような、そんなこわさがあったのだ。

 そしてそれはきっと、総二に限ったことではない。愛香も、母も、総二が顔も知らない人たちもみんな、そんななにかを持っていると思うのだ。

 みんなの心を守るために、などと大層なことを言うつもりはない。自分は、そんな立派な人間ではない。それに、もっとほかに方法はなかったのか、と時折思ってしまう自分もいる。ドラグギルディも一緒に生きていくことはできなかったのだろうか。そんなことを、いまさら考えてしまう。

 それでも、自分が守ると決めたものを守るために戦う。そう決めたのだ。

 昨日の戦いは、誰にも知られていない。決戦の場となった山奥自体はニュースで報道されたが、木々にある程度の被害こそあるものの、地形はほとんどもとのままのため、不可思議な現象として処理された程度だ。テイルブルーとアルティメギルの戦いがあったのではないか、というコメントもあったが、そのくらいのものだった。

 そんなわけで、今日のテイルブルーの報道は、それ以前のものが映されていた。

 それでいいのだ、と総二は思う。自分たちとドラグギルディの戦いは、不思議な絆は、誰かに知ってほしいものではない。それに、あの戦いの凄まじさがみんなに知られれば、アルティメギルによる侵略を恐れる人も出てくるかもしれない。だから、それでいいのだ。みんなが侵略の恐怖に怯えず、日々を過ごしてくれれば、それで。

 穏やかな空気のまま、二人でゆっくりと歩く。ふと昨日の、愛香の手を握ろうとして失敗に終わったことを、思い出した。

 顔が熱くなるが、今度こそ、と意を決して愛香に呼びかける。

「あ、愛香っ」

「えっ。な、なに、そーじ?」

「その、手、(つな)

「待ってくださーい!」

 遠くから聞こえてきた聞き覚えのある声に、総二の言葉が途中で止まった。

 愛香と二人で、少しだけ空を見上げると、(かぶり)をふって声の聞こえてきた方にふりむく。

 思った通り、自宅のある方向から、トゥアールがこちらにむかって走ってきた。

「あれ?」

「ん?」

 近寄ってくるトゥアールの姿を見て、愛香と一緒に訝しむ。こだわりでもあるのか昨日と同じ白衣こそ羽織っているが、愛香と同じ陽月学園高等部の女子制服を着ていた。

 二、三歩手前で立ち止まると、少し息を切らしながら、非難するように声を上げた。

「ひどいじゃないですか。置いてかないでくださいよ、二人ともっ」

「いや、なんであんた、制服なんか着てんのよ?」

「決まってるじゃないですか。私も今日から、同じ学校に通うからです」

「は?」

 本気で不思議そうな愛香の問いかけに対し、なにをわかりきったことを、と言わんばかりにトゥアールが返す。そのトゥアールの答えに、愛香はさらに不思議そうに反応した。

 制服を着ている時点でまさかとは思っていたが、実際にそう返されてしまうと、総二としてもあっけに取られるしかない。愛香は二、三度(まばた)きしたあと、再び口を開く。

「いや、編入試験とかはどうしたのよ?」

「フッ、私からすればあの程度の試験、赤子の手をひねってお母さんに怒られまくるようなものです」

「まあ確かに、赤ん坊にそんなことしたら親御さんに怒られるよな――、じゃなくて、トゥアールなら確かに簡単だろうけど」

 愛香の質問に対してトゥアールが自信満々に返し、その答えに総二も納得する。実際、テイルギアをはじめとする超科学の産物を独自に作り上げるのだ。高校の試験など簡単なものだろう。なにやら変な言葉が付いていたが、気にしないことにする。

 それはともかく、なにかが引っかかった。総二がそう感じたところで、愛香がさらに問いかける。

「いや、あんたの頭がいいのはわかってるわよ。そうじゃなくって、その制服とか、いつ試験を受け」

 なにかに気づいたかのように、愛香が動きを止めた。

「愛香、どうした?」

「フッ。蛮族が胸ともども、私との差を痛感し」

「トゥアール。あんた、いつこの世界に来たの」

 得意げな顔で喋っていたトゥアールの動きが、抑揚のなくなった愛香の声によって止まった。その言葉に総二は、昨日不思議に思ったことをなんとなく思い出した。

「そういえばトゥアール。どうして俺の名前を知ってたんだ? 俺、名乗ってなかったはずだけど。――――ん?」

 総二の言葉に、トゥアールがドヤ顔のまま額からひと筋の汗を流し、愛香が眉をピクリと動かす。なぜか、その愛香を中心に、写真が数枚ほど回りはじめたように見えた。

 二度目に愛香を押し倒した際、いきなり天井から音が響いた時のこと。

 誰かが部屋に入っていた気がする、と総二が話した時のこと。

 昨日、属性玉変換機構(エレメリーション)の説明の際、『ギア』についていた機能をトゥアールが話した時のこと。

 そして、いま話した、総二の名前を知っていたこと。

 なぜか、そういった写真が音声付きで、愛香を中心に回っているような気がした。

(つな)がったわ」

 愛香のその言葉に、総二はなんとなくキュッとネクタイを締め直す。愛香の脳細胞がトップギアだ、という謎の言葉が頭に浮かんだ。

 愛香はトゥアールにむき直ると、軽く息を吐いてから口を開いた。

「まあ、なんていうか、なんか変な感じはあったのよね。まず昨日、あんたがあたしの『ギア』の機能を喋った時、なんでそのことをしってるんだろ、ってちょっと思ったのよ。でも、トゥアールもアルティメギルから技術を渡されていたわけだから、別に不思議でもないかってその時は納得した。けど、いま思えば、まるで見ていたかのような感じがあんたの言葉にはあった。確かめもしてないはずなのに」

 愛香の言葉に総二はハッとし、眼を泳がせたトゥアールの顔からダラダラと汗が流れる。愛香は淡々と、しかし少し恥ずかしそうに言葉を続けた。

「未春おばさんの言葉もそうね。あたしがそーじに、その、二回目に押し倒された時、天井から音がした。その日の朝食の時、未春おばさんから、こんなに早く押し倒しちゃうなんて思わなかったわ、って言われたから、未春おばさんが屋根裏に覗き穴とか作ってて覗き見してたのかな、とか思ってたんだけど、昨日訊いてみたら、そんなことするわけないじゃない、って笑いながら言われたわ」

 トゥアールの汗が、とてつもない勢いになった。脱水症状にならないだろうか、と思ってしまうほどだ。どうでもいいが、いまの話の母の答えは、覗き穴なんて作るわけないじゃないという意味だと思うのだが、物音なんか立てて邪魔するわけないじゃない、という意味に感じるのはなぜなのだろうか。

 総二に顔をむけた愛香が、やはり恥ずかしそうに言葉を続ける。

「あれはつまり、こんなに早く進展するとは思わなかったわ、って意味だったらしいの」

「あ、そういうことか」

 その言葉に、総二は気恥ずかしさを覚えながらも納得する。

 考えてみれば、それまでずっとツインテール馬鹿であったはずの総二が、数日足らずで愛香を押し倒すところまで行くとは思わないだろう。朝早くから、ではなかったのだ。紛らわしい言い方ではあったが、言わんとすることはわかる。

「いや、でもさ」

「うん。だからってそれがトゥアールだって証拠はないわね。でも、あの時の音は、人がなにかを叩いたような音だった。それなのに、天井からは人の気配を感じなかったわ。で、昨日トゥアールの説明した認識攪乱装置(イマジンチャフ)の内、人の気配を薄くするものがあったわよね?」

「あっ」

「わざわざ早朝に屋根裏に潜んで、あたしが気配を察知できない相手。もしもこれが泥棒だったとしても、そんなことできるやつがあんな物音立てると思う?」

「まあ、確かに」

 昨日、誰もいなかったはずの店内にいたのに総二が気づかなかったのは、その認識攪乱装置(イマジンチャフ)の効果だったらしい。ちょっと確認させてもらったが、愛香が気づけないほどだった。叫んだりすると気づかれやすくなるらしいが、あの時は姿自体が見えなかったこともあって、愛香でも察知できなかったのだろう。

「で、あたしたちのことを知ってたから、そーじに名乗られるまでもなく、名前を呼んだと。あと多分だけど、そーじの部屋に侵入してたのもトゥアールね」

「だ、だけど、なんでそんなことを。それに、俺の部屋に入ってたとしても、なんのために?」

「さー、なんでかしらねー」

 総二が戸惑いながら言うと、愛香が半眼でトゥアールの方を見る。愛香の声はなんとなく棒読みで、なにかに気づいているようにも思えた。

 トゥアールの汗が、いよいよものすごいことになっている。もしもこれがダイヤモンドの汗だったら、このあたり一帯がダイヤモンドでコーティングされているだろう、と意味不明なことを考えるくらいだった。

「え、え~とですね~」

 とても困った様子で、トゥアールが口を濁す。そのトゥアールに、愛香が近づいて睨みつけた。

 そのプレッシャーに負けたように、トゥアールが口を開く。

「そ、その、四月――」

 言いにくそうに、その日にちが告げられる。なんの日だったか、総二はすぐに思い出した。

「その日って、確か入学式、――――ってアルティメギルが現れた日じゃないか!?」

「で、あんた、なにしてたの?」

「あ、あははははは」

 朗らかに見える笑みを浮かべた愛香から、すさまじい気が放たれる。

 トゥアールは顔を引きつらせたままカラ笑いをはじめるが、やがて観念したかのようにゴホンと咳ばらいをすると、姿勢を正して真剣な表情になった。

「あの日、この世界に来た私は、強いツインテール属性を探して辺りを彷徨(さまよ)っていました。そして、強い反応が二つあるところ、つまり、総二様と愛香さんの場所を確認し、そこにむかっている途中。――――見つけてしまったんです」

 そこで言葉を切り、意を決したように叫びを上げた。

「すっごく可愛い、私好みのロリッ娘たちをっ!!」

 世界が、死んだ。そう思ってしまうくらいの静寂が、辺りを支配した。

 トゥアールの言い訳(説明)が、続く。

「で、それでですね。その子たちをお持ちかえ、ではなくて、お近づきになりたくてストー、もとい、遠くから眺めてどうにか話しかけようとしているうちにですね、新たに現れたとっても可愛いロリッ娘が、テイルブルーって人にトカゲのお化けから助けてもらった、って言っていて、――――てへ」

「なんだそりゃあああああああああああああああああああ!?」

「あほかああああああああああああああああああああああ!!」

「ぺがさあああああああああああああああああああああす!?」

 あまりにもヒドイ、トゥアールの遅刻の理由を聞いて、総二は頭を抱えて絶叫し、愛香は怒りの声とともに、トゥアールにむけて流星のごとき無数の拳を繰り出した。その愛香の拳によってトゥアールは天高く舞い上がり、やがて重力に負け、脳天から地面に激突した。

「なんでよりによってそんな理由なのよ! 遅刻するにしても、もう少しまともな理由で遅刻しなさいよ!!」

「――――あー、落ち着け、愛香」

 総二は、痛む頭を抑えながら愛香をなだめると、トゥアールの方にむき直った。気になることがあったからだ。思った通り彼女は、脳天から地面に落ちたにもかかわらず、すでに起き上がりはじめていた。もっとも、ダメージ自体はそれなりにあったようで、多少ふらついてはいたが。

「トゥアール。その日から二十日間ぐらいはあったわけだけど、どうして俺たちに会おうとしなかったんだ。いつでもできたはずだろ?」

「それは」

 時間はあったはずだ。なのに、なぜトゥアールは総二たちと会おうとしなかったのか。

 総二の問いかけに、トゥアールが顔を歪めてうつむいた。

「迷って、しまったんです」

「えっ?」

 少ししてから、絞り出すように紡がれた言葉に、総二は思わず声を漏らした。いまのトゥアールは、いまにも泣き出しそうに見えた。

「迷ってしまったんです。こんなことをしていいのだろうか、と。いまさらやつらを斃したとしても、私の世界がもとに戻るわけではありません。それなのに、いつまで続くのかわからない戦いに、総二様たちを巻きこんでいいのか。これでは、自分たちの目的のためにツインテールの戦士を作り出すアルティメギルと変わらないんじゃないかって、そう思ってしまったんです。そして、迷っている内にドラグギルディが現れてしまったのを見て、もう迷っている場合ではないと、大変勝手なことと思いながらも総二様と接触したんです。――――ごめんなさい」

「トゥアール――」

 彼女の言葉に総二は、あの日のことを思い出した。自分も、アルティメギルのエレメリアンと変わらないんじゃないかと悩んだ、あの日。

 だがトゥアールは、アルティメギルとは違う、と総二は思った。彼女が来てくれたからこそ、自分たちはこうしていられるのだ。総二はアルティメギルとは違うと言ってくれたあの日の愛香のように、今度は自分が伝えなければならない。

 テイルブレスをつけた右手を、トゥアールに見えるように胸の前に掲げる。これが、彼女から託され、自分たちを救ってくれたものなのだと、伝わるように。

「トゥアール、それはちが」

「で、ほんとうの理由は?」

「すぐに渡そうかなーって思ってたんですけど、総二様をストー、いえ、お二人を観察してたら、なんかどんどん親密になっていくじゃないですか。ここで普通に渡しても、協力者その一、って感じにしかなれそうになかったんで、好感度が一気に上昇するような劇的なタイミングを狙ってたんです。そしたらドラグギルディが思ったより早く出てきちゃったんで、あ、これはヤバい、と思ってすぐに総二様のところにむかったんです、てへぺろ」

「な、ん、だ、そ、りゃああああああああああああああああああああああああああ!?」

「あ、ほ、かあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「どらごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!?」

 総二の言葉を遮った愛香の問いに対し、とてつもなく軽い調子で返されたトゥアールのいろいろとヒドイ発言に、総二はさっき以上の絶叫を上げ、愛香は廬山(ろざん)大瀑布(だいばくふ)をも逆流させそうな、気迫のこもったアッパーを彼女に打ちこんだ。

 奇妙な悲鳴とともにさっきより天高く舞い上がったトゥアールは、やはり重力に抗えず落下すると、脳天から地面に激突し、倒れ伏した。

「だ、か、ら、なんでそんなしょーもない理由で遅刻すんのよ!?」

「あああああぁぁぁぁぁ――」

 あまりにもしょーもない理由に、愛香はさっき以上の怒りをあらわにし、力が抜けた総二は思わず意味のない(うめ)き声を漏らした。

 トゥアールがさっさと来てくれていれば、愛香に辛い思いをさせずに済んだし、自分も無力感を抱き続けることはなかったのではないだろうか。総二はそんなことを考えてしまう。

 はあ、と愛香がため息を吐いた。

「まあ、理由はそれだけじゃないかもしれないけど」

「えっ?」

「いや、多分だけど、ドラグギルディに」

「い、いいじゃないですか!」

 うつぶせに倒れたままのトゥアールが、顔だけ総二たちの方にむけて叫びを上げる。その叫びに愛香の声が遮られるかたちとなり、トゥアールはそのまま言葉を続けた。

「結果として勝つことはできたんですし! それに、私が遅刻したおかげで、お二人の仲が進展したのかもしれないんですよ!? それを思えば、感謝してくれてもいいんじゃないでしょうか!?」

「だからって開き直るなあああああああああ!!」

「ゆにこおおおおおおおおーーーーーーーん!?」

 愛香はトゥアールの言葉にツッコみつつ、倒れたままの彼女の背中に、必殺の踏みつけ(ストンピング)を炸裂させる。

「まあ、確かにそうかもしれないけどさ」

 さっき遮られた愛香の言葉は気になるものの、とりあえずはいまトゥアールから言われた言葉に対し、静かに認める。

 愛香ひとりを戦わせていた状況だったからこそ、総二ははっきりと彼女の大切さに気づき、守りたいと思った。大切な存在だと意識しはじめたのだと思う。

 もし、自分が先に戦っていたり、最初から一緒に戦っていたりしたら、ツインテール馬鹿の方が進行していたかもしれないし、意識するにしても、ずっとあとだったように思える。

 それを思えば、確かに感謝することなのかもしれない。しれないが、やはり釈然としない。

 さわやかな朝にまったく合わない悲鳴を聞きながら、総二は深くため息を吐いた。

 

「それはそうとしてですね。総二様にお伝えしたいことがあるんです」

「伝えたいこと?」

 少ししてから、トゥアールが何事もなかったかのように立ち上がった。総二は、トゥアールの頑丈さに驚きながらもすでに慣れはじめていることを自覚しながら、改まった態度で紡がれたその言葉に聞き返す。

「はい」

 トゥアールは総二の言葉に頷くと、とてもきれいな笑顔を浮かべた。

「総二様、お慕い申し上げます」

「っ!」

「――――え?」

 一瞬、見惚れていたのかもしれない。なにを言われたのかわからず、思わず問い返すような声を漏らしてしまった。同時に視界の端で、愛香が怯えるように身を震わせた。

 総二の反応に、トゥアールは気分を害した様子もなく、微笑んだまま言葉を続ける。

「愛しています、総二様。私は、故郷の世界をアルティメギルに滅ぼされ、せめてもの贖罪にと、私自身のツインテール属性を使ってテイルギアを作りました。それを託せる人が男性だと――、総二様であると知った時、私はすべてを捧げることを決めました。――――総二様。私の想いを、受け取っていただけないでしょうか」

「トゥアール――」

 昨日からの、いや、これまでの彼女の不可解な言動の理由が、いまわかった。すべては、総二への想いがあったためだったのだと、理解した。

 総二と愛香の仲が進展するのを邪魔するようなことをしたのも、そのためだったのだろう。そのことに怒りはない。それだけトゥアールも、総二に対して強い想いを抱いてくれていたのだ。

 答えは、すぐに出た。

「ごめん、トゥアール。それだけは、できない」

 心が揺れなかったと言えば、嘘になる。

 トゥアールのきれいな笑顔に見惚れ、ツインテールじゃないにもかかわらず、美しく(なび)く銀色の髪にも心奪われた。

 それでも、不安に怯えるように震える愛香の瞳とツインテールを見たとたん、それを受け取るわけにはいかないと思った。

「トゥアール。俺は」

「わかっています。総二様が、誰を想っていらっしゃるのか。総二様が、その人をどれだけ大切に想っていらっしゃるのか。ずっと見てきたんですから。それでも、お伝えしたかったんです」

「――――そうか」

「ええ」

 総二の言葉を遮ったトゥアールの言葉に、それ以上なにも言えなかった。

 トゥアールは愛香の方にむき直ると、明るく声をかけた。

「まあ、そういうわけです、愛香さん。ですから」

「あんたは、それでいいの? だってそれじゃ、あんた、なんの見返りも」

「いいんですよ」

 愛香は、総二の言葉に一瞬安堵した様子を見せながらも、すぐに辛そうに顔を歪め、トゥアールの言葉を遮った。トゥアールは愛香の言葉に優しく微笑みながら、彼女と同じように言葉を遮る。

 なにも言えなくなった愛香に、トゥアールが一転、不敵な笑顔をむけた。

「まー、って言ってもですね。あきらめたわけではありません」

「は?」

「さっきの総二様の反応を見るかぎり、まだ脈はありそうですからね。愛香さんが不甲斐ないようなら、私がかっさらうって言ってるんです」

「なっ!?」

 その言葉に、愛香は驚きの声を上げると、トゥアールと同じような不敵な笑みを浮かべた。

「上等じゃない。あたしは、絶対に負けないからね」

「口だけじゃないことを祈ってますよ。フフン」

「あんたこそ、途中でヘタれるんじゃないわよ」

「その言葉、そっくりお返ししますよ」

 お互いの視線をぶつけ合い、攻撃とも励ましとも取れる言葉をかけ合う二人の間に、火花が飛び散ったように見えた。

 少しして、トゥアールがふっと視線を緩める。

「ただ、愛香さん。ひとつだけ、どうしても、これだけは聞いていただきたいお願いがあります」

「なによ?」

「たとえ、どちらが選ばれることになったとしても、総二様の――」

「――――うん」

 必死なものすら感じられるトゥアールの懇願に、愛香も静かに応じる。

 言いにくそうに口を引き結んだトゥアールが、意を決したように、口を開いた。

 

「総二様の童貞は、私にくださいっ!!」

 

「――――」

 トゥアールの、そのあまりにもヒドイ言葉に、再び世界が死んだ。

 据わった眼で、愛香がトゥアールの胸ぐらを掴み上げた。とてつもない怒気が、彼女の躰とツインテールから立ち昇る。

「あんたねえ」

「い、いいじゃないですか、童貞くらい私にくれたって! なんだかんだ言っても、愛香さんの方がずっと有利なんですし! もしも私の方が選ばれたとしても、一緒に混ぜてあげますから! ですから! ですからせめて童貞だけは! 童貞だけはあああああああああああっ!!」

「時と場合を考えて発言しろこの痴女がああああああああ!!」

「ろびいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーん!?」

 欲望丸出しのヒドイ言葉を聞いた愛香は、トゥアールを仰向けにして肩の上に担ぎ上げると、右手を彼女の(あご)、左手を(もも)に掛け、そのまま弓なりに背中を反らす。プロレスでいうところのアルゼンチンバックブリーカー、いや、その美しく反らされたトゥアールの躰のかたちは、まるでイギリスはテムズ川に掛かるタワーブリッジを思わせた。

「イく! イっちゃいます! 背骨があああああああああああああ!?」

「逝ってしまえ、あんたなどおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ろおおおおおおおおおおおびいいいいいいいいいいいいいーーん!?」

 トゥアールが、さっきとは別種の必死さが感じられる悲鳴を上げ、愛香がさらに力をかけるとその悲鳴がますます響く。

「伝えなきゃいけないこと、か」

 二人のやり取りを見ながら、総二は先ほどのトゥアールの言葉に思いを馳せた。

 愛香に伝えなければならない。

 自分の気持ちを。

 時計を見る。まだホームルームまで時間があることを確認すると、総二は愛香に声をかけた。

 

「愛香、ちょっといいか?」

「あ、うん」

 総二が呼びかけると、愛香はかけていた技を解いてトゥアールを地面に落とし、微笑みながらこちらにむき直った。

「なに、そーじ?」

 その優しい声は、つい先ほどまでの暴れっぷりはどこに行ったのか、とばかりの豹変ぶりだが、総二にとっては別にどうでもいいことなので、そのまま話を続ける。

「えっとさ、いつもありがとうな。ほんとうに、愛香にはずっと世話になりっぱなしだ」

「なによ、改まって。言ったでしょ、あたしとあんたの仲なんだから、気にすることないって」

 愛香は心からそう言ってくれているのだ、と総二は思った。そう確信できる、裏表のない笑顔とツインテールだった。

「俺だって言っただろ? 気を遣わせっぱなしじゃいたくない、ってさ」

「もう、律義ね。そもそもあたしだって、そーじには何度も助けてもらってるんだから。昨日だって――」

 このままでは、本題に入れない。多少強引ではあるが、流れを変えなければ。

「愛香。愛香のツインテールって、やっぱり俺のために結んでくれてるんだよな?」

 違っていたらどうしよう、と内心不安になりながらも、愛香に問いかける。

「――――うん」

「愛香?」

 かすかにためらうそぶりを見せたあとに頷かれ、総二の不安が強くなった。自分の勘違いだったのだろうか、と考えたところで、愛香がハッとした様子を見せる。

「あ、その、そーじの言う通りこのツインテールは、そーじのために結んできたの。だけど」

「だけど?」

「その、そーじにふりむいて欲しいって気持ちの方が強かったから」

「愛香――」

 愛香のどこか沈んだ声に、自分が彼女を不安にさせていたのだ、と総二は思った。

「愛香。俺な、すごく嬉しいんだ」

「えっ?」

「ほんとうに小さいころから、俺のためにツインテールにしてくれてたんだって」

「そーじ。でも」

「俺のことをそれだけ好きでいてくれたから、だろ? だったらそれは、俺のためでいいと思う」

 笑顔で、優しく言葉を伝える。多少強引な論法かもしれないが、それはどうでもいい。総二の本心であることは間違いないのだ。そしてなによりも、愛香の不安を取り除いてあげたかった。負い目を感じてほしくなかった。

「気づいてやれなくて、ごめん。そして、ありがとう、愛香」

「――――そーじ、ありがとう」

 愛香が浮かべた笑顔を見て、総二の鼓動が跳ね上がるとともに、胸に温かなものが広がった。

 いまがチャンスだ。誰かに背中を押されるような心持ちで、総二は意を決して口を開く。

「愛香。聞いて欲しいことがあるんだ」

「え? ――――うん」

 少しだけ不思議そうにした愛香は、総二の様子にただならぬものを感じたのか、顔を引き締めた。同時に、その瞳とツインテールから、なにかを期待するような雰囲気を感じた。

「俺は、愛香が戦っているのを見てるだけだったのが、ほんとうに辛かった。どうして俺には戦うための力がないんだろうって、ずっと思ってた」

「そーじ――」

「ぎがぎが」

 愛香がなにかを言いそうになったが、途中で口を噤む。総二の話の続きを、待ってくれたようだった。

 倒れ伏したトゥアールが、せめてもの抵抗とばかりに(うめ)き声――鳴き声かもしれない――らしきものを上げているが、無視する。

「愛香は俺のために戦ってくれてるんじゃないかって、なんとなく思ってた。愛香の力に少しでもなりたくていろいろなことをしたけど、これは愛香の気持ちを利用してるだけなんじゃないかって、悩んでた」

「そんなことっ」

「ぼしゅーぼしゅー」

 愛香が声を上げようとするのを、総二は手を上げて止める。きっと彼女は、否定しようとしたのだろう。そのことはとても嬉しい。だがいまは、総二の気持ちを伝えたかった。

 トゥアールの(うめ)き声は無視する。

「ドラグギルディとの戦いの前に言った通り、俺は、愛香への気持ちが恋心なのかはっきりわからない。友情や親愛と勘違いしているのかもしれない」

「っ!」

「だけどっ」

「ぴゅあぴゅあー」

 悲しそうな表情とツインテールになった愛香に、総二は急いで言葉を繋げた。彼女を悲しませることは、したくなかった。

 その笑い方してたやつは誰だったんだよ、と意味のわからないことが頭に浮かんだが、とにかくトゥアールの鳴き声は放っておく。

「だけど、愛香とずっと一緒にいたいって気持ちや、愛香を大切に思ってることは、嘘じゃない」

「そーじ――」

「――――」

 総二の言葉に、愛香は一転して嬉しそうな笑顔とツインテールとなり、それを見た総二も嬉しくなった。

 鳴き声すら上げなくなったトゥアールに、逆に意識を取られそうになるが、無理やり無視する。

「だから、愛香」

 抱き締めることができる距離に近づき、片手でツインテールに触れ、もう片方の手で彼女の手を優しく握ると、頬を赤く染め、期待に瞳を潤ませる愛香と見つめ合う。

 心臓が、うるさいぐらいに高鳴っている。口の中は、カラカラだ。この言葉を言って、愛香が受け入れてくれれば、自分たちの関係は、変わる。親友から、恋人へ。

 そのことに、こわさがないわけではない。それまで友だちだったからこそ許されていたことが、許されなくなってしまうこともあると聞く。意識のズレが、二人の関係に軋みを入れてしまうこともあるかもしれない。

 それでも、先に進みたかった。愛香の気持ちに応えたかった。彼女を笑顔にしたかった。

「愛香、俺と」

「うん――」

 顔が熱い。喉が、ますます乾いていた。

 唾を飲みこみ、意を決して口を開く。鼓動が、ひと際強く高鳴った。

『うわーーーーはっはっはっはっはっ! 聞こえているであろう、テイルブルーよ!!』

「俺とつきあ、って誰だよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 そして告白を盛大に邪魔され、総二はこれまでで最大の絶叫を上げた。上げるしかなかった。

 

「ああぁぁ――」

 愛香から手を離した総二は、うつむいて頭を抱えこんだ。

『新たな力と仲間を得て勢いづいているのであろうが、そうはいかんぞ! ドラグギルディ様の昇天されたこの世界は、我らにとっても死地! ドラグギルディ様の死を無駄にせんためにも、なにがなんでもすべての属性力(エレメーラ)をいただくぞ! そこで、我らにも頼もしき援軍が到着した!!』

 (いか)つい獣顔のエレメリアンが、なにかを言っている。耳には入っているが、勇気を振り絞った告白を、ここぞというところで邪魔されたショックにより、総二の頭には入ってこなかった。

 なんでよりによってこのタイミングで邪魔されるんだよ。そういえば、いままでも愛香といい雰囲気になるたびに邪魔されてるな。あれか、俺は呪われてるのか。もしかして、愛香にプロポーズする時も邪魔されるんじゃないだろうな。いや、むしろ告白すら――。

 気が早すぎるだろ、とどこからかツッコまれた気がするが、気のせいだろう。

『スク水! 母なる星に身を委ねる水の衣こそ、星の意思を継ぐ属性力(エレメーラ)と言えよう! ドラグギルディの盟友、このタイガギルディが、スク水の属性力(エレメーラ)をいただく!!』

 別のエレメリアンが宣言し終わったところで総二は、心にふつふつと怒りが湧き上がってくるのを感じた。

 人の告白を邪魔しやがって。

 怒りを胸に、顔を上げる。

 そこには、阿修羅がいた。

 

 

 愛香は、怒っていた。

 それこそ昔から夢に見ていた、総二からの告白。ほんとうに夢に見ることもあったし、最近はひと晩に二回その夢を見ることがあるほど、待ち望んでいたことなのだ。怒りは、すさまじく燃え上がっていた。

 自分に顔が三面あったなら、おそらくすべて怒り面になっているだろう。そんなわけのわからないことを考えるぐらい、愛香は怒っていた。

 アルティメギル、全部ぶっ潰す。怒りに歯を食いしばり、空に浮かぶアルティメギルの映像を鋭く睨みつけるが、その映像は言いたいことを言ったあと、速やかに消えた。

 軽く舌打ちをしながら視線を正面に戻すと、総二と、いつの間にか起き上がり移動していたトゥアールの姿があった。

 トゥアールが、思わず殴り倒したくなるイイ笑顔を浮かべた。

「愛香さん。――――お気の毒ですう。ぷぷー」

「あんた、あとで覚えときなさいよ」

 神経を逆なでするような声で挑発してくるトゥアールに、愛香は八つ当たりであることを自覚しながらも、ドスの効いた声で返す。

 いや、あとでなどと言わず、いまやろうか、といささか過激なことを考えたところで、総二が口を開いた。

「なあ、愛香。部活、決めたか?」

「え?」

 唐突な総二の質問に、愛香は怒りを忘れてキョトンとする。

「トゥアールも、なにか希望とかあるか?」

「はあ」

 トゥアールもまた、質問の意図がわからないのだろう。生返事を返していた。

 質問の意図はわからないが、愛香はとりあえず問いに答えることにする。

「まだ決めてないわよ。ゴタゴタしっぱなしだったし」

「私は総二様と一緒がいいです。鍵付きの部室、放課後、若い男女。――――うふふ」

「そっか。なら」

 愛香が答え、トゥアールも欲望が(にじ)み出た答えを返すと、総二は笑みを浮かべて高々と右腕を突き出した。

「俺たち三人で、ほんとうに作ってみないか。ツインテール部」

「ふうん。活動内容は?」

 総二の言葉に愛香も笑みを浮かべ、彼と同じくテイルブレスをつけた右腕を突き出し、答える。疑問ではなく、確認だ。

「決まってるだろ?」

「そうね」

 総二の、不敵さすら感じられる声に微笑んで返す。そのあと二人でトゥアールにも微笑みかけると、彼女も微笑んで頷き返した。気持ちは、一緒だ。

 探知装置を確認したトゥアールが、呼びかけてきた。

「総二様、愛香さん。出てきましたよ」

「わかった」

「オッケー。念のため、人がいないか確認してくれる、トゥアール?」

「わかりました」

 愛香も気配を探ってはみたが、言った通り念のためである。

 問題ないと答えが返り、愛香は総二と頷き合った。

『テイル・オンッ!』

 二人の声が重なり、光が(ほとばし)る。

 その光が収まりきる前に、二人で同時に跳び立ち、トゥアールの声援を背に戦いへむかう。

 風に(なび)く青と赤のツインテールが、光を受けて美しく煌めいた。

 

 




 
一巻のエピソード終了ですが、ドラグギルディとトゥアールのサイドストーリー的なものを追加するかもしれません。1-0をどうするか考え中です。後ろの方に持ってくるかな。

今後の話はダイジェストにしていた部分の肉付けと、アルティメギル側の描写を少し追加していきます。一巻ほど時間はかからない、といいなあ。


ツインテールの話ですが、頭の横から二つ出ていればツインテールなら、ガンマンのあの角もツインテールに! ――――いや、無理があるだろ。あ、でも、ゴリラのツインテールがOKなら、角度変えればいけるかな、とかいろいろおかしいことが思い浮かびました。
 
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