あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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二〇一六年八月二十二日 修正

長くなってしまったため上下に分割して投稿いたします。

アルティメギル、エレメリアン関連は、再構成にあたって独自解釈によるオリ設定をある程度入れております。ご了承ください。
 


2-2-下 雀の悩み / 赤青白の悩み

 スパロウギルディも含め、大会議室に集まったエレメリアンたちが、タイガギルディの最期の戦いの記録映像を静かに見続ける。三度目の再生だ。

「――――」

 映像が終わり、感嘆の声がスパロウギルディの耳に届いた。いや、ひょっとしたら自分が漏らしたものかもしれない。これを見て感動しない者など、エレメリアンの中にはまずいないだろう。それほどまでにすばらしいものだった。

 ともに映像を見ていたエレメリアンのひとりが、眼を輝かせて口を開いた。

「スパロウギルディ殿、もう一度再生してもよろしいでしょうか?」

「うむ。一度だけと言わず、好きなだけ再生し、語り合うといい」

『ありがとうございます!』

 許可せぬ理由などどこにもない。スパロウギルディが頷くと、周りのエレメリアンたちも一斉に声を上げた。大会議室が、いや艦全体が揺れたと錯覚するほどだった。

 すぐにまた、映像が再生された。タイガギルディ最期の戦いにして、テイルレッドがはじめて姿を見せた戦いだ。

 映像を見ながら、隊員たちがそれぞれの想いを語り合う。

「テイルレッド。なんと可愛らしい」

「まさに。これこそが究極のツインテールなのだろうな」

「ああ、見ているだけで心が震えるようだ」

「まったくだぜ。クソッ、うまい表現が浮かばねえぜ、チキショウ!」

「ううむ。尻餅をつき、悲鳴を上げる姿が庇護欲を誘うのう」

「それもよいが、剣を構えてタイガギルディ殿を見据える姿。可憐さと凛々しさを同居させ、ひとつの芸術を完成させていると言えるのではないか?」

「むう、確かに」

「テイルブルーにお姫様抱っこをされている姿も、実に可愛らしいではないか」

「うう~む。ぜひとも給仕服を着て欲しいものだ」

「いや、そこは濡れ濡れスケスケのTシャツだ!」

「ならばロープで縛るのもありなのではないか~っ!?」

「甘ロリは外せぬであろう!?」

「ここはタイガギルディ様を偲ぶことも兼ねて、旧スク水を!」

 テイルレッドを巡って、さまざまな議論が交わされ続ける。ドラグギルディが亡くなってからの寒々しい空気を吹き飛ばすような熱気が、そこにあった。

 これほどのツインテールを持った幼女と戦えたのだ。ドラグギルディに悔いはなかったはずだ、とスパロウギルディは思った。

「しかし不思議だな。テイルブルーのツインテールもそれに劣らぬぐらい美しいというのに、テイルレッドのツインテールほどには惹かれぬ」

「うむ、確かにそうだな。どういうことであろうか?」

『うーむ』

 一斉に会話が止まり、皆が皆、考えこむ。もっとも、誰ひとりして視線が映像から離れることはないが。

 映像が終わり、再び再生する。

「テイルブルーがどうというよりも、テイルレッドのツインテールがほんとうの意味で特別なのかもしれぬな」

「む、どういうことでしょうか、スパロウギルディ殿?」

 ひとりのエレメリアンが、映像から眼を離さないまま問いかけてきた。スパロウギルディも映像を見ながら答えを返す。

「我々はこれまでに、いくつもの世界であらゆるツインテールを眼にしてきた。その中にはテイルブルーのものも含め、テイルレッドのツインテールに劣らぬものも少なくなかったはずだ」

「確かに」

「しかし、テイルレッドのツインテールほどに心を奪われた覚えは、私にはない。おまえたちはどうだ?」

 スパロウギルディの言葉に、再び皆が考えこむ。やはり、視線は映像から離れない。スパロウギルディも含めてだ。

 時々、おお、やら、むっ、などという感嘆の声が聞こえてくるが、気にすることではない。スパロウギルディもたまに漏らすのだから。

 映像が、終わった。

「私にはありません。いえ、美しいと感じ、心を揺さぶられたことはありますが、テイルレッドのものほどではなかったと思います」

「俺もです。ここまでの感動を覚えたことはありませんでした」

 答えが、次々と返されてきた。どの答えも同じ内容だった。

 うむ、とスパロウギルディは頷き、言葉を続ける。

「つまり、テイルレッドのツインテールには、我らの心を惹きつけるなにかがあると考えるべきかもしれん。もっとも、それがなにかはわからんがな」

「グム~」

「どちらにせよ、ドラグギルディ様やタイガギルディ殿への弔いとして、やつらのツインテールを奪うことには変わりありますまい」

「確かにな。やることが変わるわけではない」

(しか)り」

 一斉に頷き、またも映像を流す。

 テイルレッドに飛びこんだタイガギルディをテイルブルーが迎撃したところで、感心するような声が響いた。

「しかし、やはりテイルブルーもまた、とてつもない戦士だ」

「新たな力、とドラグギルディ様が言い残しておられたが、たった一撃でタイガギルディ殿を悶絶させるとは。凄まじいパワーだ」

「私は力以上に、あの対応力こそ彼女のすごさだと思う。タイガギルディ様のあの動きを初見で見切り、完璧に迎撃したのだぞ。それに、そのあと追撃を行わなかったことから、あえてあの程度に抑えていたようにしか思えん」

「確かに。本気だったら、あそこでタイガギルディ殿を斃していたでしょうね。一連のやり取りを鑑みるに、テイルレッドに戦いの経験を積ませるために思えます。そしてテイルレッドも、それに応えようとしている感じを受けました」

「やつらもまた、一戦たりとも無駄にするまいという考えなのだろう。テイルレッドは戦いの新参。ひょっとしたら彼女自身が、強敵と戦わせてくれと言ったのかもしれん」

「テイルレッドはタイガギルディ様に悲鳴を上げながらも、再び立ち上がって剣を構えた。あの健気さを見れば、充分にあり得ることだと思う。わかっていたことではあるが、手強(てごわ)いやつらだ」

「しかし、なぜこんなデザインの衣装なのだ。以前の方がよかったように思うのだが」

「なにを言うかっ。あの(へそ)を見ておきながら、いったいなにを言うのか!」

「てめえこそ、なにぬかしやがる。そこはあの引き締まったふくらはぎだろうが!」

「待ちなさい。ほのかな色気を醸し出す肩を忘れてもらっては困ります!」

「おまえたちこそなにをっ、いや、その議論はあとにしよう。(それがし)が言いたいのはだ、タイガギルディ殿へのテイルブルーの反応から、彼女自身あの衣装に思うところがあるのではないか、ということだ」

「む、なるほど」

 目を吊り上げタイガギルディを殴り倒すテイルブルーの映像を見て、皆が納得する様子を見せた。

「おそらくあの胸元の隙間は、胸の谷間を見せるためのものだろう。谷間がないというのに、なぜあのようなものを」

「そういえば、ふと思い出したのですが、ドラグギルディ様がおっしゃられていましたね。テイルブルーの乳に対して、決して指摘するなと」

「しかし、あのような恰好をしていれば、胸が注目されるのは必至。それが狙いならともかく、あの反応とドラグギルディ様の言葉を考えれば、望んでいるものとは思えぬな」

「うむ、確かにそうだな。どういうことであろうか?」

『うーむ』

 またも一斉に会話が止まり、皆が皆、考えこんだ。

「ひょっとしたら、我らの行う修練と同じかもしれんな」

「む、どういうことでしょうか、スパロウギルディ殿?」

 さっきと似たような流れで、ひとりのエレメリアンが問いかけてきた。

「あえて厳しい状況に己を置くことによって、精神を鍛えているのではないか、ということだ。我らエレメリアンの間にも、『スケテイル・アマ・ゾーン』をはじめとするアルティメギル五大究極試練があるように、あえてあの恰好をすることで、テイルブルーも己の力を高めているのかもしれん。そして、さっき話が出たように、ドラグギルディ様がおっしゃられていた、テイルブルーの乳に対して決して指摘するなというお言葉。ドラグギルディ様は、テイルブルーが自らの乳を気にしていることに気づいていたのではないだろうか。あのお方なら、ツインテールを見ることでそれを感じ取っても不思議ではない」

「なるほど」

「確かに」

「さすがドラグギルディ様」

 いや、別にそういうわけではないのだが、と困ったような声がどこからか聞こえた気がした。気のせいだろうが。

 スパロウギルディは言葉を続ける。

「だが、自分で決めたことだとしても、他者から指摘されることで頭にくることはあるだろう」

「それが、タイガギルディ殿への反応の正体でしょうか?」

「推測だがな」

「理にはかなっている、と思います」

 再び、修羅のごとき気迫でタイガギルディを殴り倒すテイルブルーを見ながら、皆で一斉に頷く。なにかが違うと思うぞ、とまたどこからともなく聞こえた気がしたが、幻聴だろう。

 それはともあれ、映像越しであるにも関わらず、身が竦むような気迫を感じるほどだ。いざ相対して直接この姿を見たら、平静でいられるだろうか。

「もしもいままでに彼女の乳を指摘して、テイルブルーが荒ぶる鬼神となっている姿を見ていたら、いま新たな力を得た彼女に立ちむかおうと思えただろうか」

「認めたくないことですが、もしもそれを見ていたら、言葉の通じぬケモノと同じように感じてしまい、闘志は湧かなかったかもしれません」

「そうだな。相手が意思と理性を持つ戦士だからこそ、闘志というのは湧き上がるものだ。理屈もなにも通じぬケモノには、闘志よりも先に恐れが立つ。もしもテイルブルーのことをケモノと認識してしまっていたら、必要以上に彼女を恐れ、そしてその恐怖から眼を背けていたかもしれん」

 淡々と語る同胞たちの言葉に、いまの自分たちなら大丈夫だ、とスパロウギルディは思った。

「ですがテイルレッドを見ていると、テイルブルーがどれだけ彼女を大切に思っているか、なんとなくわかる気がします。テイルレッドがテイルブルーを信頼していることも。それに、テイルブルーが戦い続けてきたのは、テイルレッドのためなのではないかと不思議と思うのです」

「ああ。テイルブルーは苛烈ではあるが、気高き戦士だ。そしてテイルレッドも、テイルブルーを守るために戦場に出たのだろうな」

「おそらくな。だが、我らも退くわけにはいかぬ」

「ああ、当然だ。私たちにも意地がある。たとえ身勝手と思われようとも、必ずや」

 全員が、力強く頷いた。そして再び、語り合いはじめた。

「むう」

 隊員たちに頼もしさを感じながらも、スパロウギルディは内心思い悩む。

 ドラグギルディたちの仇討ちとして、ツインテイルズのツインテールを奪うことを決意した。やつらの力を探り、分析し、いつか勝利を得る、という思いも本心である。

 だが現時点の戦力では、どれだけやつらの弱点を探ったとしても勝てないだろう。ドラグギルディという、アルティメギルのエレメリアンの中でも最上級の幹部を斃しているのだ。

 ドラグギルディに、特殊な能力はほとんどなかった。属性力(エレメーラ)の中でも最強を謳われるツインテール属性を核としていたが、武器の生成や躰の硬質化は、実のところそこまで珍しい能力ではない。

 しかし、鍛え方が違う。精根が違う。理想が違う。決意が違う。そう言わんばかりの凄まじい強さを、ドラグギルディは持っていた。

 力や速さ、技や頑強さなどの基礎的な能力を極限まで磨き上げ、属性力(エレメーラ)をひたすらに高め続けた彼の実力は、純粋な戦闘能力で言えば、アルティメギル首領直轄部隊である四頂(しちょう)軍の幹部にも劣らない。

 さらには、たとえ(から)め手を使われても、よほどのものでなければ、戦闘経験の豊富さからくる観察眼によって真っ向から打ち破るほどだ。戦士として、ひとつの極みと言っていい。

 それほどの強さを持っていたドラグギルディが一部隊の隊長程度だったのは、彼自身が前線にいることにこだわったからだ。強者と戦うために、そして、すばらしいツインテールを持つ至高の幼女と出逢い、背中を流してもらうために、と語られたことがあった。まさに、エレメリアンの中のエレメリアンだと、スパロウギルディは羨望を憶えたものだった。

 そのドラグギルディを斃したツインテイルズの強さは、並のエレメリアンの及ぶところではないだろう。それは、スパロウギルディも同様だ。スパロウギルディは、戦歴自体はそれなりに長く、ベテランと呼べるものではあったが、直接的な戦闘能力で言えばそこまでのものではない。

 実戦においてテイルブルーのような強敵と戦うことはなく、エレメリアンたちの衝突を止めたり、仲裁を行っている内にそれがドラグギルディの目に留まり、彼の副官となっていた。ただそれだけのことであり、巡り合わせがよかっただけに過ぎないとスパロウギルディは思っている。いま必要なのは、純粋な戦力だった。

 そう考えると、幹部に至る器を持っていた者たちが敗れているのが、痛かった。

 リザドギルディ、タトルギルディ、フォクスギルディ、ラビットギルディ。彼らは、まだ強くなる余地があった。技や躰はある程度まで鍛えてあったが、属性力(エレメーラ)がまだ未熟だったのだ。修練を重ね属性力(エレメーラ)を高めることで、さらに強くなれたはずだった。

 アルティメギルの侵攻作戦の裏にある、ツインテール属性の拡散作戦。ドラグギルディの副官であったスパロウギルディは当然知っているが、一般隊員には、士気への観点から知らされていない。

 下手に出撃者の()り好みをして、士気が低下することは避けたい。そのため、志願者は基本的に拒まないようにしているのだ。察しのいい者が、そこから拡散作戦に気づく可能性もある。

 タトルギルディからはじまった出撃も、公正たる勝負で決めたこともあって、変更するわけにはいかなかった。さすがにこのような状況は予想できるわけもないため、ドラグギルディを責めることなどできないが、どうすればいいのかと暗(たん)たる気持ちにはなる。

 だが、希望はあった。スワンギルディが残っているのだ。

 ドラグギルディの弟子で修行を終え、幹部に成った者は少なくない。だが、ドラグギルディ以上の強さを得た者はいなかった。それほどまでに、ドラグギルディという壁は高く、厚かったのだ。

 スワンギルディは、そのドラグギルディ自身が、いつか自分を超えるかもしれんと言わしめたほどの器だ。それもあってだろう。いまにして思えば、ドラグギルディがスワンギルディにかける期待は、ほかの弟子たちに対するものとは違っていたように思えた。ほとんどの者は気づいていないだろうし、もしかしたらドラグギルディも自覚していなかったかもしれない。

 誰に対しても公正に接してきたはずのドラグギルディが、あの時のスワンギルディの出撃だけは、許可しなかったのだ。

 実際のところエロゲミラ・レイターという試練は、並のエレメリアンには荷が重い。スパロウギルディが受けたとしても、なんとか超えられるかもしれないといったところだ。いまのスワンギルディに超えられる可能性は、ほとんどなかったと言っていい。それを、スワンギルディだけには行ったのだ。

 ドラグギルディは、スワンギルディに死んで欲しくなかったのではないだろうか。スワンギルディがドラグギルディを超えるまで、生きて欲しかったのではないか。なんとなくではあるが、スパロウギルディはそう思った。

 そのスワンギルディはいま、自分の部屋に(こも)っていた。年若いスワンギルディにとってドラグギルディは、敬愛する師であったとともに、人間で言えば父のように慕っていた存在だったのだ。それを考えれば、無理もないと思う。

 ただ、ツインテイルズの映像は、一度だけ見た。

 周りのエレメリアンがテイルレッドに感嘆の声を漏らすなか、彼だけは、ただじっとツインテイルズを見つめ続けていた。その眼に焼き付けるように。

 いまはまだ、立ち上がれないのだ。いっそ思う存分泣ければと思うのだが、若さゆえにそれもできないのだろう。

 戦術を変えることも考えた。大まかな案は二つ。ひとつは、属性力(エレメーラ)を奪って帰還するだけのもの。もうひとつはあらゆる地域に順々、あるいは一斉に隊員たちを出撃させるものだ。

 前者は、自分たちの侵略目的を考えれば、決して間違っているものではない。後者も、ツインテイルズを疲弊させる手段としては効果的だろうと思える。

 ただ、どちらにしても隊員たちの士気が問題だった。

 属性力(エレメーラ)だけが目的なら、さっさとほかの世界に行けばいい。この世界の侵略を続けるのは、仇討ちのためなのだ。精神的な方から攻めると考えれば、ツインテイルズに対してまったく無意味ではないだろうが、臆病風に吹かれたのだと思う者もいるだろうし、自分たちの行いに恥を覚える者もいるだろう。

 一斉に隊員を出撃させる作戦は、決め手に欠ける現在の戦力を考えると、疲弊させる以上の効果が望みにくいというのも問題だった。いま現在のすべての戦力をぶつけたとしても、ツインテイルズに勝てるとは思えない。なにしろ、ドラグギルディを斃しているのだ。

 それに、ほとんどのエレメリアンは、堂々とした闘いを望む気質がある。命令とあればやらなくもないだろうが、迷いが生まれる者もいるだろうし、そこから部隊が分裂する可能性もあった。ドラグギルディのようなカリスマがあればともかく、スパロウギルディにそんなものはないのだ。強行策を取るには、リスクの方が大きすぎた。

「スパロウギルディ殿!」

「む、どうした?」

 周りに気づかれない程度の小さなため息を吐いたところで、他部隊との連絡を受け持っていた部下が駆けこんできた。随分と慌てているが、困惑しているようにも見えた。

「その、リヴァイアギルディ殿の部隊が増援に来られるそうです」

「なんと!」

 驚きと歓喜に思わず立ち上がり、それを聞いた周りのエレメリアンたちもざわめきはじめた。映像は一時停止している。

 リヴァイアギルディと言えば、ドラグギルディと旧友であり、修行時代をともにしたエレメリアンだ。その実力は、ドラグギルディと同格。その彼が来てくれるというのなら、ツインテイルズへの勝ちの目も充分に出てくるだろう。

 喜ぶべきことのはずだが、なぜ彼は困惑しているのだろうか。

「ただ、もう一部隊」

「む?」

「クラーケギルディ殿の、部隊です」

「なにっ。クラーケギルディ殿の部隊も、増援に来られるというのか?」

「はい」

「むむぅ」

 部下の困惑の理由が、スパロウギルディにもわかった。周りのざわめきも困惑の色が強くなる。クラーケギルディもまた、アルティメギルでも有数の実力者であり、リヴァイアギルディに匹敵する猛者。

 だがこのふたりは、非常に仲が悪かった。互いに相反する属性力(エレメーラ)を核としているためか、なにかと対立するのだ。お互いに実力を認め合っていながら、決して歩み寄ることがなかった。

「なぜ、同時にあのおふたりを?」

 誰にともなく、スパロウギルディは呟いた。ふたりがひとところにくれば、間違いなく衝突するだろう。そもそもふたりの仲の悪さは、それこそアルティメギル全体に知れ渡っていると言っていいほどだ。だというのに、なぜなのか。

 スパロウギルディの胸に、モヤモヤしたなにかが湧き上がっていった。

 

 

*******

 

 

 風呂から上がった総二は、自室で愛香を待っていた。ベッドに腰かけ、なんとなくトゥアルフォンをいじる。ある程度の機能は把握したが、成分分析機能とかいつ使うのだろうか、などととりとめもないことが頭に浮かぶ。

 昨日、いや一昨日までよりも、待ち遠しいという気持ちが強くなっていることに総二は気づいた。

 いままでは、どこか暗い気持ちが胸にあった。無力感と、そこからくる、自分は愛香を利用しているのではないかという思い。それらが解消されたためだろう、その暗いなにかはもうなかった。

「ん」

 ツインテールの気配が近づいてくるのを感じた。それがある程度近くなったところで、窓の方を見る。思った通り、愛香がいた。突然ふりむいたからだろう、ノックしようとしているところでキョトンとしていた。

 気を取り直した様子で、愛香が入ってくる。パジャマ姿で、なおかつ風呂上がりで上気した彼女の顔は、そこはかとなく色気を感じさせた。

「えーと、やっぱりツインテールの気配を感じたとか?」

「おう」

「うーん」

 総二の答えに、愛香が困った様子を見せた。どう反応すればいいのやら、とでも言いたげに思えた。

 少しして、愛香が苦笑した。

「まぁ、いっか。そーじのツインテール馬鹿のおかげで助かったんだし。それでね、そーじ」

「ん?」

「今日は、その、あたしからそーじに『ご褒美』あげたいんだけど」

「えっ?」

 頬を赤らめ、恥ずかしそうに紡がれた言葉に、総二は不意を突かれたような気持ちになった。

「そーじ。嫌、かな?」

「まさかっ」

 おずおずといった調子の愛香の言葉を、慌てて否定する。

「嫌なんてこと絶対にないけど、遅刻したし、あんなかっこ悪いとこ見せちまったから、ご褒美を貰うのは抵抗があるっていうか」

「今日のことは、そんな気にすることじゃないと思うわよ。それに、今日だけじゃなくって、昨日助けてもらったこともあるから、ご褒美っていうか、お礼っていうか」

「あっ」

「駄目?」

 ドラグギルディを斃したことに対して複雑な気持ちはあるものの、助けてくれたお礼だと言われれば、受け取らないのも失礼かもしれない、と総二は思った。

 少し悲しそうに言われたこともあり、愛香のご褒美を貰わないという選択肢は即座に消え去る。

「いや、じゃあ、お願いしていいか?」

「うんっ」

 総二の言葉に、愛香が笑顔になった。その愛香の様子に総二も嬉しくなる。

「じゃ、じゃあ、そーじ。なんか、して欲しいことってある?」

「して欲しいことか」

 愛香の質問に少し考えこむ。イロイロとイケないことが、頭をよぎった。

「っ」

「そーじ?」

 顔が熱くなった。思わず手で口元を隠し、愛香から顔を背ける。

 愛香への気持ちを考える一環で仕入れた知識が、頭の中に次々と浮かんできた。

 いや待て、落ち着け、俺、と自分に言い聞かせるが、その妄想は止まってくれない。

 昨日、もう少し味わっていたかったことが、頭に浮かんだ。

「あっ」

「ん、なにか思い浮かんだ?」

「あ、ああ。――――その、膝枕してもらっていいか?」

「――――うん」

 愛香は顔を赤らめ、嬉しそうに頷いた。

 

 気持ちいい。後頭部に当たる感触に、恥ずかしさとともに安らぎを感じながら、総二はそう思った。ベッドに寝転がって愛香にしてもらう膝枕は、格別なものがあった。

「そーじ、気持ちいい?」

「ああ。すごく気持ちいい」

「よかった」

 愛香の穏やかな声に、総二が心からの答えを返すと、彼女は優しく微笑みながら頭をなでてきた。その手の感触に、さらに心が安らいでいく。

「ふふっ」

「どうした、愛香?」

「うん。なんか、幸せだなって思って」

「――――そうだな。俺もだ」

 一昨日までの無力感と罪悪感から解放され、素直に愛香との触れ合いを楽しむことができる。愛香を隣で支え、守ることができる。

 そのことが、たまらなく嬉しかった。

 愛香のツインテールを触りながら、優しく言葉を紡ぐ。

「いまはまだ不甲斐ないけど、俺はもっと強くなってみせる。ツインテールを、そして愛香、おまえを守るために」

「うん。頼りにしてるからね、そーじ」

 微笑みながら優しく言葉を返してくる愛香に、総二の鼓動が高鳴った。

「愛香、俺と」

 いままでの、告白しようとした時や、いい雰囲気になった時に邪魔されたことを思い出し、総二の口が止まってしまった。

 愛香は一瞬だけ表情を暗くすると、すぐに微笑んだ。

「そーじ。あたし、待ってるから。そーじから言ってくれるのを」

「――――ああ。絶対に伝えるから、待っててくれ」

「うん」

 愛香はどこか悲しそうに、それでも笑顔で、総二を待つと、信じていると言ってくれた。情けない、と自分のことを思いながらも、彼女の想いに応えるためにも、必ず自分から伝えようと総二は思った。

 再び愛香が、総二の頭をなではじめた。総二も愛香のツインテールに触れ、なでる。ツインテールだけでなく、時々彼女の頬に触れると、愛香は気持ちよさそうに眼を細めた。

「あっ」

 少しして、ふと総二の頭に思い浮かぶものがあった。

 口で伝えるのが駄目ならば。

「どうしたの、そーじ?」

「いや。悪い、ちょっと起きてもいいか?」

「うん」

 不思議そうにしながらも、愛香が躰をどかした。それを見て総二も起き上がる。

 ベッドに座ったままの愛香の隣に密着するように座り、総二は彼女の腰に手を回して抱き寄せた。

「そ、そーじっ?」

「ほ、ほんとうは告白してからにしようと思ってたんだけど」

 慌てる愛香の頭の後ろに、空いている方の手を添えて固定する。総二の躰は、燃えているのではないかと思うぐらい熱くなっていた。

「愛香、キ、キスしても、いいか?」

「――――うんっ」

 顔を真っ赤にしながら、愛香が嬉しそうに頷き、瞳を閉じた。

 その可愛らしさに頭をクラクラさせながらも総二は、愛香の唇に自分の唇を近づけていく。

 トゥアールの姿が頭に浮かび、総二の躰が止まった。想いを寄せてくれる彼女に対し、罪悪感に似た気持ちは確かにある。

 だが、総二の一番は愛香なのだ。愛香の気持ちに応えたいのだ。

 振り切るように、再び唇を寄せていく。

「っ?」

 視界の端で、なにかが動いた気がした。

 思わず動きが止まり、その方向、扉の方を見る。漫画やアニメで、モグラなどが地面を掘り進む時に描かれるように床が隆起し、その膨らみが扉からベッドに近づいて来た。

「そーじ?」

「あ、いや、あれ」

「――――なにあれ?」

「いや、なんだろ?」

 瞳を開いた愛香に不思議そうに呼びかけられ、なんと答えたらいいかわからず、膨らみの方に視線をむける。同じくそれを見た愛香も、困惑する様子を見せた。

 膨らみがそのまま、ベッドの下に潜りこんだ。

「え?」

「ん?」

「私はここですーーーーーーーーーっ!!」

「うおおおおおおおおーーーーーーー!?」

「きゃあああああああーーーーーーー!?」

 トゥアールの声が響くとともに、総二と愛香はベッドからふっ飛ばされた。

 何事だと思うものの、躰は反射的に動く。

 愛香を抱き寄せると総二は、彼女が躰を床に打ちつけないように自分の躰を下にして、クッション代わりにした。愛香の強さを考えれば、余計なお世話かもしれない。それでも総二は、可能な限り愛香を守りたかった。男としての意地のようなものだった。

「愛香。大丈夫か?」

「うん。ありがと、そーじ。そーじは大丈夫?」

「ああ。なんてことないさ」

 ちょっと痛くはあるが、安心させるために笑顔で返す。愛香はホッとしたようだった。

 ベッドの方を見ると、やはりトゥアールがいた。ベッドの上に立っているが、そのベッドは、壁際の方に大きな穴が空いていた。どうやらあのモグラはトゥアールだったらしい。ほかに誰がいるんだ、という話ではあるが。

 トゥアールが、どこか得意げな様子で口を開いた。

「フッ。愛香さん、邪魔されないように私を簀巻(すま)きにしたところまでは見事でしたが、その程度で私を完全に封じたと思っているようではまだまだ甘いですね」

「結構強めに縛っておいたつもりだったけど、布団とロープじゃ不充分だったみたいね」

 トゥアールの言葉に、愛香が悔しげに返した。

 いつの間にそんなことしてたんだ、と総二が思ったところで、トゥアールが右手を掲げた。手の甲に、鉤爪のような物が付いていた。

「このS×A妨害ツール・壱式(ファースト)、トゥアールくろーで、愛香さん、あなたを排除させていただきます。そして総二様の童貞を私のものに!」

 言葉のあとトゥアールが、鉤爪、もといトゥアールくろーを突きつけてくる。安全を考慮してなのか先端が丸まっているが、ベッドと床を壊しながら現れたことから、なにか特殊な力があるのかもしれない。

「あ、ちなみにこのトゥアールくろー。床だけでなく、地面を掘り進むこともできます。あと、爪が触れた服などはもろくなって破けやすくなります。エロ同人みたいに。もちろん、人体には影響ありませんのでご心配なく」

『うわぁ』

 いろいろな意味で総二の予想を上回る効力に、思わず愛香と二人で呻く。

 ところで、『S×A』ってなんだ。総二()×愛香()か。

 二人で立ち上がると、愛香が総二の前に出た。

「愛香?」

「ごめん、そーじ。トゥアールとの勝負に関しては、手出ししないでほしいの」

「――――わかった」

 勝負だったのかと思いつつも、愛香がそう言うのであれば信じよう、と総二は思った。あとは、愛香がやり過ぎないように祈っておく。声は静かだったが、それだけに内に溜めているものがあるように感じたからだ。

「愛香さん、覚悟っ、こーほーっ!」

 鉤爪を付けた腕を突き出し、トゥアールが回転しながら突撃した。現役を退いたとはいえ、かつて戦士だっただけのことはあり、その動きはかなりのものがあった。というか総二よりもすごいのではないだろうか。回転しながら水平に飛んで行くなど、総二にはできる気がしない。

「っ!?」

 爪に触れないようにして、突き出されていた手を愛香が片手で難なく弾いた。愛香は、攻撃を逸らされ驚愕したトゥアールの顔を間髪入れず掴んで彼女を止めると、イイ笑顔を浮かべた。なんというか、コロス笑みだった。トゥアールくろーを付けている手は、もう片方の手でガッチリ掴んでいる。

 掴んだ手にどれだけの力をこめているのか、トゥアールの苦悶の声が聞こえてくる。

「にゃ、にゃがががっ」

「トゥアール。あんたはどうして、こうもいいところで邪魔するのかしら?」

「にゃがああああああああーーーーー!?」

 さらに力がこめられたのか、愛香のその巨握の()によって、トゥアールの悲鳴がさらに悲痛なものとなった。

「そーじ。ちょっとトゥアールと、おはなししてくるね」

「あ、ああ、わかった」

 総二の返事のあと、愛香はトゥアールを掴んだまま部屋を出て行く。階段を降りて行く気配がした。

「――――」

 大きく息を吐き、総二は(かぶり)を振った。

 情けない、と自嘲する。

 トゥアールの告白を断り、愛香の想いに応えると誓ったはずだった。口に出して告白するのが邪魔されるのなら、キスという行動で応えよう。そう考え、行おうとしておきながら、直前でトゥアールのことを思い出してしまい、ためらってしまった。

 愛香を選んだはずだった。トゥアールの気持ちには応えられないと、はっきり言ったはずだった。それなのに自分は、ためらってしまったのだ。

 自分の優柔不断さが愛香をがっかりさせ、ひいてはトゥアールにも、余計な期待を持たせて傷つけているのではないか。

 そう考え、うつむく。

「っ」

 違う、そうじゃないだろう、と頭を振った。

 そこで沈みこんでどうするのだ。至らないところがあると思うのなら、改善すればいいではないか。

「よしっ」

 とにかく、チャンスを見つけて愛香に告白するのだ。それが、男として、自分がやるべきことだ。

 改めてそう思い定めると、自分の部屋を見渡し、ベッドに眼をむける。

 ところで、このベッドと部屋は、直してもらえるんだろうか。

 隆起した床と穴の空いたベッドを見たあと、愛香に連れて行かれたトゥアールのことを思い浮かべ、いろんな意味で不安になった総二は大きくため息を吐いた。

 

 

 トゥアールを掴んだまま、総二の家の一階に移動すると、愛香はトゥアールから手を離した。

 はあ、とため息を吐くと、トゥアールにむき直る。

「あんたねえ、いい加減にしときなさいよ」

「い、言ったはずですよ。愛香さんにやらせはしません、と」

 頭に手を当て、ふらつきながら立ち上がったトゥアールが返事をしてくる。トゥアールくろーはすでにしまっていた。

 愛香は、再びため息を吐いた。

 邪魔をされたことに対する怒りは確かにある。だが、ため息の理由は、そのことではなかった。ため息を吐いたのは、自分にだった。

 同じ人を好きになったのだ。彼女の行動の理由は、充分にわかる。もし立場が逆だったら、自分も同じことをするかもしれない。といっても、邪魔されたらさすがに怒るが。

 思うのは、朝、トゥアールが言った、もし自分が選ばれたとしても、愛香も一緒に混ぜるという言葉だった。かなりどうかと思う言葉ではあるが、トゥアールはトゥアールで、愛香のことを大切な友だちと思ってくれているのではないかと思うのだ。単語自体はともかく、そう言ってくれている相手に対して自分は、なにひとつ渡さないと言っている。

 それに、トゥアールの作ったテイルギアのおかげで、自分たちは助かった。言ってみれば、トゥアールは恩人なのだ。しかし彼女はそれを恩に着せてくることもしない。変態ではあるが、ほんとうにいいやつなのだ。

 それでも、こわかった。

 トゥアールは羨ましいくらい綺麗で、胸の大きさも含めてスタイルが抜群で、頭もいい。ロリコンで痴女なのはどうかと思うが、欠点がある方が親しみやすいと考えれば、そこまでのマイナスポイントではないだろうし、痴女ということも、要はエッチな女と考えてみると、普通の男だったらプラスになってもおかしくないところだろう。

 いまの総二は、ツインテール以外のことにも興味を持ってきているようで、こう言ってはなんだが、普通の男に近づいている。そのために、なにかの拍子にそのまま彼を取られてしまうのではないか、という恐怖が湧き上がってしまうのだ。

 そう考えてしまうと、童貞ぐらいトゥアールにあげても、と思っても、やはりできなかった。普通の男になって欲しいと何度も願っていたはずなのに、こんなことを考えてしまう自分が、酷く身勝手に思えた。

 いや、なにか惑わされているというか、根本的な考え方がおかしいというか、そもそも前提が間違っているような気もするのだが、いまは置いておく。

 とにかく、もしもトゥアールがツインテールに戻ったら、自分の魅力で総二を繋ぎ止めておけるのか。そんなことを考えてしまうのだ。

 総二は、トゥアールの告白を断った。愛香への告白こそ成功していないが、愛香の気持ちに応えるとはっきり言ってくれてもいる。それなのに、総二が愛香以外を選んでしまうのではないかと考えてしまうというのは、彼を信じていないのと同じではないか。そう自分を叱りつけても、そのこわさは消えてくれなかった。

 やはり自分は、未だに自分を信じ切れていない。そう思うしかなかった。

「――――」

 トゥアールの顔を見る。彼女は、自信に満ち溢れているように見えた。

 トゥアールが、不思議そうに首を傾げた。

「愛香さん、どうかしましたか?」

「別に。あんたがもっと嫌な女だったら、もっと気兼ねなくやれたのにな、って思っただけよ」

「あれよりキツくなるんですか!?」

「そーいう意味じゃないわよ!」

 愛香の言葉を誤解したらしきトゥアールに叫び返し、言葉を続ける。

「ただ、あんたは確かに変態だけど、いいやつなのは間違いないし」

「っ」

「ん?」

 トゥアールが、表情を曇らせたように見えた。

「トゥアール?」

「いえ、なんでもありません。それよりも愛香さん、そんな余裕をかましていていいんですか?」

「はあ?」

 真顔になったトゥアールの唐突な言葉に首を傾げると、彼女は愛香の胸に手を当ててきた。

「ちょっ!?」

「こんな貧乳で無駄なセックスアピールを繰り返したところできゅわあああーーーーー!?」

「乳が無くて悪いかぁあああああああ!?」

 慌てたのは一瞬だけだった。何度目になるかわからない、胸に対する挑発によって怒りが湧き上がった。さっきキスを邪魔された怒りも加えて、即座に愛香の胸に当てられた両腕をねじり上げると、勢いよくその腕を解き放って上空にふっ飛ばす。

 回転しながら舞い上がったトゥアールの頭が、天井に突き刺さった。

「もう知らん!」

 とにかく総二は誰にも渡さない。トゥアールには絶対に、いや、誰にも負けない。

 そう決意し直すと、愛香は肩を怒らせてその場をあとにした。

 

 

「いいやつ、ですか」

 愛香が立ち去って少ししたあと、天井から首を引っこ抜いて着地すると、トゥアールはさっき愛香に言われた言葉を呟いた。自分でも驚くほど、力のない声だった。

 いい人なのは、二人の方だ。自分は、告白してフラれておきながら、未練がましいことをしている。

 告白自体も、告白することでトゥアールのことを総二に意識させるという計算があった。そして、それは成功した。してしまった。負い目を感じるほどに、二人はいい人だった。

 愛香は、強烈な攻撃をしてはくるが、総二との関係を進めることに関しては、トゥアールにどこか遠慮しているように感じられた。すでにお互いの気持ちを知っているも同然でありながら、あくまでも総二からの告白を待っているのだ。

 それに、本気で妨害されたくなければ、もっと容赦なくやってくるだろう。愛香の全力の攻撃を受ければトゥアールだって気絶する。いや、テイルギアを使われても文句は言えない。人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られて地獄に落ちろ、という言葉すらあるのだ。少し違うが、意味的にはそう変わるまい。

 それが、簀巻(すま)きにした程度で終わっている。いや、簀巻きは簀巻きであれではあるがそれはともかく、トゥアールのことをどうでもいいと思っていれば、もっとやりようはあるはずなのだ。

 総二の方も、自身への不甲斐なさといった気持ちは見えても、告白を邪魔するトゥアールに対しては、怒りなどの負の感情をむけてこなかった。アルティメギルに対しては怒りを(あら)わにしていたというのにだ。

 確かにトゥアールは、それも狙って総二に告白した。好意を抱いているのだと知らせることで、トゥアールのことを無視できないようにと。それでも、ここまで気にかけてくれるとは思わなかった。

 告白するべきではなかったかもしれない。そう思ってしまうほどに、優しい人たちだった。

 それなのに、総二をあきらめたくないと思ってしまうのだ。

 テイルギアを託せる人を見つけるため、いくつもの世界を巡った。

 見つからないかもしれないと、何度も思った。可愛いロリッ娘はどこの世界でも見つかったが。

 幾度となくあきらめかけた。いっそ、どこかの世界でロリッ娘ハーレムでも作って全部忘れてしまおうか、などと考えたこともあった。

 その果てに見つけたのが、総二だった。鼓動がうるさいほどに高鳴り、彼のことを考えるだけで熱に浮かされるようだった。ひと目惚れとはこういうものなのだと、不思議とわかった。

 しかし、総二の心はすでにひとりの少女にむかっているのだということも、わかってしまった。タトルギルディが現れた日に、外からこっそり覗いていたのだ。

 二人とすぐに合流しなかった理由は、三つあった。二つは、二人に言った通りのことだ。言わなかったひとつは、愛香に強くなってもらうためだった。テイルギアは強すぎて、戦闘経験を積むどころの話ではない。弱い『ギア』で戦うことで経験を積んでもらい、いつか出撃してくるだろうドラグギルディへの勝率を上げるために、愛香に苦戦を強いらせた。

 ドラグギルディを斃すために。アルティメギルを滅ぼすために。

 身勝手な考えと自覚しながらも、それを強いらせてしまったのだ。

 そして愛香は、なんとなくそれに気づいていたようだった。彼女が総二に説明しかけたところで思わず遮ってしまったのは、ひょっとしたら責めて欲しかったのかもしれない。責めてもらうことで、少しでも楽になりたかったのかもしれない。

 ほんとうに自分は、身勝手な女だ。

 愛香のことを認めながら、大切な友だちと思っていながら、告白の妨害をしてしまったこともそうだ。

 虚無の思考時間(シークタイム=ゼロ)もそうだが、考えるよりも先に口と躰が動くというか、欲望のままに躰が動く性質(たち)が災いし、何度も二人の邪魔をしてしまった。それでも二人は、トゥアールのことを友だちと思ってくれている。

 トゥアールも反省する気持ちはあるというのに、やってしまうのだ。つくづく度し難いと思う。

 もうひとつ思うのは、ドラグギルディの、エレメリアンのことだった。

 ドラグギルディを斃すと、エレメリアンを、アルティメギルを滅ぼすと決意した。幾度となくあきらめそうになっても、復讐が心から消えなかったのは、自分になにも残っていなかったからだ。やつらに奪われたのだ。復讐は正当な行為だと、そう思ったからだ。

 自分のような思いをする人たちをこれ以上出したくないというのも確かにあったが、結局は自分の復讐心が先にあったと思う。それほどまでの復讐心が、揺らいでしまった気がした。

 ドラグギルディと総二たちを見た。エレメリアンが属性力(エレメーラ)を奪わずに生きていけるのなら、きっと友だちになれただろうと思えた。いや、三人は友だちだったのだと思った。その友だちの命を奪わせるようなことを、自分はしてしまったのではないかと、トゥアールは思った。

 テイルギアを渡さなければ、二人にそんな辛い思いをさせずに済んだのではないか。そんなふうに思ってしまったのだ。それでも二人は、ありがとうと言ってくれた。トゥアールがしてきたことは間違っていないと、そう言ってくれたのだ。

 二人は、トゥアールのおかげで助かったと言ってくれた。だがトゥアールこそ、二人に助けられた。未春も、トゥアールのことを家族だと言ってくれた。優しく受け入れてくれた。

 なくしたと思った自分の居場所が、見つかった気がした。

 その居場所を守るために、総二たちの力になるために、この世界で闘おうと思ったのだ。

 そのくせ、総二と愛香の仲が進展するのを邪魔するのは、自分でもなにをやってるんだと思ってしまうが。

 二人のことが、大好きなくせに。

「っ」

 自分は、二人にかまって欲しいのかもしれない。総二にふりむいて欲しいというのももちろんあるが、二人の関係が進んで、トゥアールにかまってくれなくなってしまうのがこわいのかもしれない、とふと頭をよぎった。

「――――、子どもですか、私は」

 ため息を吐き、呟く。

 認めたくないことではあったが、否定しきれなかった。確かに自分は、二人に甘えている。

「しっかりしないといけませんね」

 再び呟き、ふんっと気合を入れ直す。

 二人に甘えるばかりでなく、二人を支えられるようにならなければ。そう考えると、総二の部屋にむかう。

 まずは家の壊れた場所を直そう。トゥアールはそう思った。

 

 

 

 っていっても。

 物は直せても、精神的なものってそう簡単に直せるものじゃないんですよねえ。

 愛香にぶっ飛ばされながら、トゥアールはそう思わざるを得なかった。

 

 




 
前書きにも書きましたが、アルティメギル周りは独自設定を入れています。
リザドギルディたちが幹部候補とかスパロウギルディが副官になった経緯とかいろいろ。
処刑人周りもある程度変える予定です。

あとトゥアール。いろいろ悩みましたがこういう感じに。
 
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