あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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二〇一六年十月十七日 修正

 


2-3 青赤と世界

 嫌な汗が、背中を(つた)ったように感じた。

 タイガギルディとの戦いにして、ツインテイルズとして世界に名乗りを上げた翌朝。愛香、トゥアール、母である未春とともに朝食に着き、朝のニュースを見はじめたところで、嫌な予感が総二を襲った。思い出すのは、テイルブルーの報道である。

 ツインテイルズのことが、報道されはじめた。

「ウギャーッ!?」

 嫌な予感が当たり、思わず総二は叫びを上げた。

 ツインテイルズが、テイルレッドが世間に受け入れられなかったわけではない。むしろ受け入れられまくった。総二が引くくらいに。

 可愛い。

 尻餅をついて悲鳴を上げる姿が庇護欲を誘う。

 剣を構えている姿が、可愛らしさと凛々しさを同居させ、ひとつの芸術をかたち作っているようだ。

 テイルブルーにお姫様抱っこされている姿もとても可愛らしい。

 ほかにもいろいろと出てきた。ネットの方も一緒だった。さらに言えば、やはりすでにまとめWikiとかが作られていた。

『私はいいと思う』

「待ってください。正気ですか?」

 テレビに出てきた謎の巨漢がそう言ってるのを見て、総二は思わずツッコんだ。一枚布を躰に巻きつけ頭に月桂冠を載せるという、なにやら古代ギリシャを思わせる衣装をまとい、ひと際目立つ椅子に座っているのだが、なぜか総二のほかに誰も気にした様子がなかった。

「なんか、あたしの時より騒がれてない、これ?」

「あー、確かに」

 困惑する愛香の言葉に、総二は力なく応える。

「仕方ありませんよ。テイルレッドたん可愛いですから」

「ほんと、可愛いわねえ。ねっ、(テイルレッド)ちゃんっ」

「やかましいわ!?」

 嬉々として言うトゥアールと母に、総二は叫びを返した。

 しかし世間の反応は、トゥアールの言葉を借りれば、幼女可愛いよ幼女、と騒いでいるように感じるため、トゥアールたちの言葉は否定できそうになかった。

 なんで幼女にそんな騒ぐんだ、と思ったところで、テイルブルーのことに話が移った。

『似合わないと言いますか、なぜ谷間もないのにあのような衣装を』

「あ?」

 出てきた発言のひとつに愛香が反応し、ドスの効いた声を洩らした。

「愛香、落ち着け」

「あっ、うん」

 いまにも飛び出していきそうな愛香を落ち着かせるため、彼女のツインテールをなでる。総二の狙い通り、愛香は顔を赤くしながらも落ち着いてくれた。ニヤニヤと愉しそうに笑う母については気づかないふりをする。

『なにを言いますか!』

「えっ?」

「ん?」

 ほかの出演者のひとりが、声を上げた。それを皮切りに、いろいろ出てきた。

 スマートな感じで恰好いい。

 (へそ)がいい。

 そこは引き締まった脚だろう。

 鎖骨が色っぽくていいよね。

『私はいいと思う』

「またかよ!?」

 再び出てきた巨漢の言葉にツッコむ。ほんとうに何者だ、というかその言葉はどれにむけたものなんだ。全部か。いや、それはいいが、そういう目でブルーを見るんじゃねえ、とイライラした。そもそもこの連中は、朝のニュースでなにを語ってるんだ。

「そーじ、落ち着いて」

「あ、わりぃ。ありがとな、愛香」

 顔を赤くした愛香が、総二の手にツインテールを触れさせた。さっきとは逆の立場になったが、総二の心が落ち着いてくる。やっぱりニヨニヨしている母のことは、気づかないことにした。

「まあ、ちょっと腹立ったけどさ、そんな否定的な声はないみたいだからよかった、のかな?」

「そう、だな」

 複雑そうに言う愛香に、総二も同じく複雑な気持ちになりながら同意する。胸に関するところはちょっとどころではなかった気がしたが、そのことには触れないことにした。

 タイガギルディを殴り倒したことについては、驚いたり、多少こわかったという言葉があったが、多分あの衣装について複雑な事情があるのだろう、といういろいろな意味で理解ある結論に落ち着いた。

『二人の関係は、いったいどのようなものなんでしょうか?』

 さらに話が移り、出てきた言葉に思わずドキッとした。同時に、わざわざ議論することか、それ、とも思ったが。

 姉妹やら、憧れのお姉ちゃんと妹分といったものが多いようだった。もっとも、真相を当てられたらその方がこわいというか、何者だそいつは、と思う。

 少なくとも、お互いに強く信頼しているように見える、という言葉にはみんな頷いていた。そのことに不思議とホッとする。

『幼馴染みかもしれません』

「っ!?」

『私はいいと思う』

「もういいわ!?」

 どんな意味で言ったのかわからないが出てきた言葉に驚き、続けてまた出てきた巨漢の言葉によって我に返った。

 とにかく、まっとうかどうかは疑問だが、ツインテイルズは世間に好意的に受け入れられたようだった。

 

 

*******

 

 

 総二と一緒に登校した愛香は、なにか妙な熱気が、学校全体を包んでいるように感じた。表に出さず、爆発させる時を見計らってるような、そんな空気に思えた。

 登校してすぐ、一時間目の授業を中止して、全校集会を開くという連絡があった。いつかのことを思い出しながらも体育館にむかう。

 整然と並ぶ生徒たちからは、やはりいつかの時のように話し声ひとつ聞こえず、愛香の不安がますます膨れ上がっていく。

 慧理那が、あの時のように登壇した。やはりメイドたちが近くに控えている。

 まず慧理那は、またも授業を中止させて集会を開いたことを謝罪した。生徒たちはなにを言うこともなく、静かに慧理那の言葉の続きを待っている。

「今日、集会を開いたのは、みなさんにお知らせしたいことが、いえ、みなさんと喜びを分かち合いたかったからです。すでにニュースでご存じかと思いますが、テイルブルーに、ともに戦う仲間ができました。その名は、テイルレッド」

 静かに語る慧理那の言葉を聞いて、やっぱりこのことだったか、と愛香は思った。

「怪人たちと戦うヒロイン、テイルブルー。わたくしは、何度も彼女に助けられました。そしてその姿に、わたくしは憧れを抱くとともに、歯がゆさも覚えました。なぜ自分には戦う力がないのか。なぜ助けられるだけなのだろうか。そして、彼女はたったひとりで辛くないのだろうか、と」

 会長、と愛香は思わず口の中で呟いた。そこまで思っていてくれたのだと、感謝と切なさが胸に湧き上がった。愛香だけでなく、周りの生徒たちも切なそうにしていた。

「しかしテイルレッドは、そんなわたくしの心配を吹き飛ばしてくれました。もうテイルブルーはひとりじゃないと、もう心配することないと言ってくれた気がしました」

 微笑みながら、慧理那が言った。安堵とともに、なぜか嫌な予感がした。

「これをご覧あれ!」

 一転してテンションを上げた慧理那が身を(ひるがえ)して声を張り上げると、スクリーンに映像が映し出された。

 あらゆるアングルで撮られた、テイルレッドの映像だった。

『ウオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーー!!』

 生徒たちが、一斉に声を上げた。その声は、体育館どころか学園全体が震えたように思えるほどだった。

 予想を超える盛り上がりに困惑しつつ、愛香はそっと総二の方を見た。総二もまた、困惑している様子だったが、一瞬だけ、どこか恍惚とした表情を浮かべていた気がした。

 そのことにいくばくかの不安を覚えるものの、再びスクリーンの方を見る。

 慧理那が、胸の前で手を組み、眼を輝かせていた。

「今後もよりいっそうテイルブルー、いえ、ツインテイルズへの支援に力を入れたいと思っています。みなさん、これからも一緒に、彼女たちへの応援をお願いします!」

 歓声が、さらに大きくなっていった。

 

 

 集会が終わり、授業が進む。

 総二の周りから聞こえてくる声は、朝のニュースやネットで確認したのと同じようなものが多かった。テイルレッドたんハアハアだの、可愛いだの、そんなものばかりである。とりわけ人気なのは、尻餅をついて悲鳴を上げている()や、テイルブルーにお姫様抱っこをされている画のようだった。

 テイルブルーも、少し前のアクションスター的なものより、性的な目で見られているような気がした。以前愛香は、女として複雑な気持ちになると言っていたが、実際にそういう目で見られるのは、やはり嫌であるようだった。総二としても、ほかのやつに愛香をそんな目で見られたくなかった。

 昼休みになり、愛香が総二のところに来た。いつものように、昼食をとるために机を移動させようとしたところで、愛香が口を開く。

「そーじ、お昼、どうしよっか?」

「どうするって、なにがだ?」

「あ、いままで通り教室で食べるか、それとも部室に行って食べるか、って」

「ああ、なるほど」

 確かに、部室に行って二人っきりで食べるというのもありかもしれない。

「っ」

 二人っきりという言葉を意識してしまい、顔がちょっと熱くなった。

「そーじ?」

「あ、いや、なんでもない」

 冷静を装い、答える。ふと、こんなことで心を乱されるようになったんだな、と思った。愛香と二人っきりでいることなど、いままで普通のことだったはずだ。それなのにいまは、愛香のちょっとした仕草や、彼女と一緒にいれることに、不思議と心が動かされる。

 ただそれは、決して嫌な感覚ではなかった。

 それはそうとして、どうするか。心情的には、部室に行って二人っきりで食べたいところだが、そのあと周りから、からかわれることになるだろう。嫌ではないのだが、やはり恥ずかしい。

「あー、いや、今日は教室で食べよう」

「あ、うん。わかった」

 少し悩んだあと、総二が遠慮がちに告げると、愛香はちょっと残念そうにしながらも頷いてくれた。

 愛香のその様子に、責めるように鼓動が跳ねた。

「明日」

「えっ?」

 気がつくと、口から言葉が滑り出ていた。気恥ずかしさに少しためらうが、意を決して言葉を続ける。

「明日は、部室で食べよう。そのっ、二人っきりで」

「――――うんっ」

 顔を赤らめ、嬉しそうに笑ってくれた愛香に、総二も嬉しくなった。聞き耳を立てていたらしき周りの女子たちが愉しそうにニヤニヤしているが、下手に反応すると藪蛇になりそうなので気づいていないふりをする。

 いままでと同じように机を移動させると、二人で弁当を広げて食べはじめた。

『おおっ!』

「ん?」

 少ししたところで、教室の一角に集まっていた男子生徒たちが声を上げた。

 以前、タブレットに映されたテイルブルーにアレなことを行おうとした生徒のことを思い出し、嫌な予感を覚えながら視線をむける。(くだん)の、あの生徒だった。

 彼も含めた四人の生徒が、タブレットを手にして盛り上がっていた。

「決めた! 今日から俺が、テイルレッドたんのにぃにだ!」

「うへへ、剣持ってて可愛いなあ。俺も斬られてぇ~」

「テイルブルーちゃんに大人しく抱きかかえられてる姿もいいよな~」

「この尻餅ついてるのが至高だろう!」

 聞こえてくる声に、総二の顔が引きつった。同時に鳥肌が立ってくる。

 体育館で、大多数の人たちにテイルレッドが見られた時、自分のツインテールがみんなに見られていることを意識してなにか妙な気分になりかけたが、こういう個人個人のアレな言葉を聞くと嫌でも冷静になる。応援されることは決して嫌ではなく、むしろありがたいものだと思うが、こんな言葉には正直言って悪寒しか感じない。

 アルティメギルの変態、もといエレメリアンに負けない世迷言(よまいごと)を語り合う生徒たちの姿に、総二の頭と胃が痛くなってきた。

「お、俺の情熱は、もはや我慢の限界を~っ!」

「っ!」

 例の生徒が、あの時と同じようにタブレットに顔を近づけていく。さっき以上に鳥肌が立ち、悪寒に衝き動かされるまま愛香のマグボトルを手に取った。

「オアーッ!!」

「ぎらーっ!?」

 生徒の凶行を止めるために、急いでマグボトルを投げつける。なにかこう、ダンベルで空の彼方(かなた)へぶっ飛ばしたくなったがそれはともかく、その生徒が総二の方にふりむいた。

「って、またお前かよ、観束!」

「前も言っただろうが! おまえ、恥を知れよ! 今度はそんな小さな女の子に!」

 生徒からかけられた非難の声に臆せず怒鳴り返す。彼は腰に手を当て、清々しい笑顔を浮かべた。

「俺だって前に言っただろうが。恥もなにもかも受け入れたうえで、俺はここにいるのだ、ってな!」

「どんな悟り開いてんだよ、おまえは!?」

 返されてきた答えにツッコミを入れ、総二は頭を抱えた。生徒が、ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべた。

「聞いたぜ、観束。おまえ、ほんとうにツインテール部を作ったんだってな?」

「ああ、それがどうかしたか?」

 からかうような言葉に、総二は堂々と返した。開き直りではない。いまの総二にとって、ツインテール馬鹿は恥じるものではないのだ。それがあったからこそ自分は、闘う力を、大切なものを守る力を得ることができた。それに、ドラグギルディの誇り高き姿を見ているのだ。こんなことで恥ずかしがっていては、あいつに笑われてしまうだろう。

 ニヤニヤ笑っていた生徒は、あっけにとられたように総二の顔を見ていたが、すぐに気を取り直した。

「あー、つまり、ツインテールの女の子は自分のもんだって言いたいわけだな、観束!」

「ほかの()はともかく、愛香だけは誰にも渡さねえ!!」

 反射的に言い返すと、クラスの生徒たちが静まり返った。

「あれっ?」

 周りの反応に訝しいものを感じたところで、自分がなにを言ったかに気づいた。

「あっ、いや、いまのは言葉のあやで、愛香のツインテールは俺のものだって言いたいんであって」

「それ、ごまかしになってなくねえか?」

「あ、いや、だから」

「えーと、じゃあ、津辺は誰かに持ってかれてもいいのか?」

「いいわけあるか! 愛香は俺のだって言っただろ! ――――あ」

 即座に怒鳴り返し、再び自分の失言に気づく。

 ゆっくりと愛香の方に視線をむけると、彼女は顔を真っ赤にしてうつむいていた。

『きゃああああああああああ!!』

「うおっ!?」

 女子たちが、突然黄色い悲鳴を上げた。総二が驚いたところで、二人の女子がこちらにむき直った。

「観束君!」

「え、な、なに?」

「いま、愛香は俺のだ、って言いました!?」

「あ、い」

「言ったわね」

「いや、その」

「甘い匂いがするもふ~」

「だからそれは、っていま喋ったの誰!?」

 二人の言葉にタジタジになったところで、どこからともなく聞こえた言葉に声を上げた。なにやらクマのぬいぐるみが喋った気がしたのだが、それは気のせいだとでも言うように、誰も気に留める様子がなかった。

「観束、おまえすげーな」

「は?」

 さっきまで言い合いをしていた例の男子生徒の声にふりむく。

 総二の方にむけられた彼の眼には、尊敬の光があるように見えた。

「な、なにがだよ?」

「いや、自分の好きなもんを、そんなふうに堂々と言い切れるってすげーなって思ってさ」

「そ、そうか?」

「ああ」

 戸惑いながら総二が問い返すと、彼は親し気な笑顔を浮かべて頷いた。

 ふと総二は、同性からこんな答えを返されたことがあっただろうか、と思った。こんな親し気に笑いかけられたことがあっただろうか、とも。

 いままで、自分がツインテール馬鹿をさらしたあとにむけられてきた視線は、頭のおかしいやつを見るような眼か、気味の悪いものを見るような眼ばかりだったと思う。むけられてくる笑みも同じく、馬鹿にするような(わら)いや、理解できないと言わんばかりの困惑の混じったものばかりだった気がした。

 女子からは、馬鹿にするようなものは少なかったと思うが、変な男だと思われていただろうと思う。その程度で済んでいたのは、いまにして思えば、愛香のおかげだったのだろう。彼女が総二のことを一途に想ってくれていたからこそ、女子たちはどこか生温かく見ていたのではないだろうか。

「――――」

 友だち。いままで生きてきて、総二がそう呼べた存在は、愛香とトゥアール、そしてドラグギルディぐらいだったと思う。仲良くなれそうだった者はいたが、総二のツインテール馬鹿を見て、みんな離れていったのだ。

 彼以外の生徒に、さりげなく視線をむける。感心するような顔や、あっけにとられたような顔ばかりだが、見慣れた、馬鹿にするような視線はないような気がした。

 理解されなくてもいい。好きなものを好きと言ってなにが悪い。無理に友だちを作る必要なんて、ない。そう思ってきた。

 それは、強がりだったのだとわかっている。ひょっとしたら友だちを作れるのではないか、自分のツインテール馬鹿を知りながらも普通に接してくれる、同年代の、同性の友だちがはじめて作れるのではないか。そんな期待を抱いている自分がいるのだ。

 いや、自分から踏み出さなければならない。

「なあ、お」

「俺も負けてられねえ! テイルレッドたんのにぃにに、俺はなる!!」

「れ、え?」

 彼が続けたとち狂った言葉に、総二は言葉を止めた。その生徒の言葉にハッとなったほかの生徒たちが、対抗するように次々と声を上げはじめる。

「ふざけんな、テイルレッドたんは俺のだ!」

「なら俺は、テイルブルーちゃんを貰う!」

「どさくさに紛れて何言ってやがる! あの尻は俺のだ!」

「ならば俺は、二人ともだ!」

「お寿司百人分をいただこう」

「ちょっと待てお前ら!?」

 無駄に熱い変態発言が飛び交う。総二が静止の声をかけるがまったく効果はなく、それどころかさらに声が大きく、多くなっていく。どうやらほかのクラスにも伝播(でんぱ)しているようだった。なぜか廊下を通りがかった剣道着姿の巨漢が大食い自慢をしてきたが、それはどうでもいい。

 ほかのクラスからはなぜか女子らしき声も聞こえてくるのだが、総二のクラスの女子たちは愛香の周りに集まっていた。さっき総二に声をかけてきた二人もその中にいる。

 女子たちの声が、総二の耳に届く。

「最近、どんどん仲良くなってるなー、って思ってたけど」

「昨日遅れてきたのってやっぱりそういうこと?」

「よかったね、愛香。ずっとがんばってたもんね」

「告白はどっちからしたの? ――――え、アルティメギルに邪魔された?」

『乙女の夢のシチュエーションを邪魔するなんて、アルティメギル、絶対に許せない!!』

「もふー!」

 女子たちは、愛香を中心にガールズトークに花を咲かせていた。どうでもいいが、許せないと同時に叫んだ二人の女子と、さっき総二に尋ねてきた女子二人は、そのまま変身しそうな気がした。またクマのぬいぐるみが喋ったように思ったが、そのことも含めて、気にしたら負けなのだろう。

 教室の、いや、学校全体の空気がさらに混沌となっていくのを感じる。アルティメギルの、ツインテールを拡散させる作戦が頭に浮かんだが、ツインテイルズによって拡散されていくものは、それだけに留まっていない気がした。

 自分たちは、とんでもないものを世界にもたらしてしまったのではないだろうか。痛む頭を押さえながら、総二はそう考えざるを得なかった。

 

 放課後となった。

 部活に行ったり、下校するクラスメイトたちと挨拶を交わしつつ、時に愛香とのことを冷やかされながら、総二は愛香と一緒に部室にむかった。途中ですれ違う人たちとも挨拶をして、何事もなく部室にたどり着く。

 昼休みからいくらか経ったことで落ち着いたのだろう。あれからしばらくの間、顔を赤らめ、時に小さく身悶えしていた愛香も、普段の調子に戻っていた。いや、顔はまだ赤らんでいるが。

 それは総二も同じで、まだかすかに顔が熱かったりするが、とりあえずはいつも通りと言えた。

 結局、友だちは作れなかったが、いまはいいや、と思う。ああいうことを言う者たちと友だち付き合いできる気がしないというのもあるが、あの調子だと、話題はツインテイルズのことばかりになりそうなため、いろんな意味で会話ができそうになかった。さらに言えば、レッドたんハアハアとか言われたり、ブルーのことでいやらしい話をされたら、思わず張り倒してしまうかもしれない。

 好きなものを好きと言ってなにが悪い。そう思ってきた。いや、それ自体は間違っているとは思わないが、時と場合と相手は選ぶべきだ、ということを理解した。理解せざるを得なかった。こうして人は大人になっていくのだ。多分。

 扉を開け、二人で部室に入ったところで、愛香の声が聞こえた。

「もう、そーじったら、あんな大声であんなこと言わなくても」

「えっ、いや、その、つい。い、嫌だったか?」

 昼休みのことを思い出していたらしい。顔を赤らめた愛香の言葉を聞いて、自分が言ったことを思い出した総二も顔が熱くなった。

「い、嫌なんてこと全然なくて、むしろ嬉しいけど。その、不意打ちだったから」

「じゃ、じゃあ、今度から先に言っておくな?」

 そういう問題じゃないだろう、とどこからかツッコまれた気がした。

 だが、実際には予告などできそうになかった。ほんとうに、思わずというか無意識というか、生態になりかけているような気もするのだ。いまも、愛香を抱き締めたくてしょうがなかった。

「そーじ」

 なにかを期待するような愛香の瞳と見つめ合う。ツインテールも、総二になにかを訴えている気がした。

 心臓が、跳ね上がった。

「んっ」

 気がつくと、愛香を抱き締め、ツインテールを触りつつ頭までなでていた。ほんとうに、生態になっている気がした。

 自分でも、最近はツインテールへの愛が加速しているとは思っている。それを止めようとは思わないし、ツインテール馬鹿を恥じる気ももはやなかった。

 ただ、ツインテールへの愛に負けないぐらい、愛香への愛しさも加速している気がした。

 それも止める気はないが、人前でいまやっているようなことをするのはさすがに恥ずかしいし、なにより他人に、愛香のこんな可愛いところを見せたくなかった。愛香の可愛いところを見ていいのは自分だけだ、とこんなことを普通に考えてしまうぐらい、愛香への独占欲も強くなっている気がした。

「そーじ――」

 愛香の、熱に浮かされたようなぼんやりとした声が聞こえた。

 抱き締めた腕を解いて躰をそっと離し、再び彼女と見つめ合う。

「――――」

 蕩けたような顔に見惚れ、総二は息を呑んだ。

「愛香」

「あっ」

 優しく呼びかけると、彼女のツインテールをすくい上げ、ツインテールにキスをした。うっとりとした彼女の様子に、総二の熱がますます上がってきた。

 チャンスじゃないか、これは。トゥアールはいない。室内には俺と愛香の二人っきりだ。そして、この雰囲気。だけど、アルティメギルやトゥアールがこのタイミングで現れる可能性も、いや考えてる場合じゃない。機会が二度、君のドアをノックすると考えるな、って言葉だってある。いくぞっ。

 意を決して、口を開く。

「愛香っ」

「そーじっ」

 蕩けた顔のまま期待に瞳を潤ませる愛香の様子にまたも見惚れ、数瞬だけ言葉を詰まらせてしまったが、なんとか言葉を続ける。

「愛香。俺とっ」

 けたたましいアラーム音が鳴り、総二は思わず言葉を止めた。

 そのまま数秒ほど、愛香と無言で顔を見合わせる。

『――――』

『総二様、愛香さん、アルティメギルです!』

「なんでこのタイミングで来るんだよおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!」

 考えこんでしまったのが悪かったのか、それとも見惚れてほんのわずかに動きが止まってしまったのが問題だったのか、トゥアールからの通信に総二は叫びを上げた。

 機会が二度、君のドアをノックすると考えるな。運命の女神には前髪しかない。チャンスは二度来ない。

 チャンスと感じたならためらってはいけない。考えこんではいけない。動きを止めてはいけない。

 これが、世界の真理か。

 総二はため息を吐いて天を仰いだ。

 

 




 
エレメリアンも人類も、そんなに変わらないのかもしれない。いろんな意味で。
 
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