あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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R-15ってどれくらいまで書いていいもんなんでしょう。

二〇一六年十月三十日 修正
 


2-6 青の背中と臀部 / 復活の白鳥 / 海竜の追憶

 トゥアールが高校デビューに失敗し、愛香と総二の関係がクラスの生徒たちに恋人同士と認識、というか誤解され、このたび陽月学園に非常勤体育教師として赴任した、慧理那のメイド兼護衛である尊から総二に婚姻届が渡されるなどいろいろなハプニングがあったが、放課後になった。

「さあ、お二人とも、部室にむかいましょう!」

「あ、ああ」

「張り切ってるわねー」

 なにやらテンションの高いトゥアールの様子に、総二は愛香とともに二人であっけに取られた。

 トゥアールがなにやらニヒルな笑みを浮かべる。

「フッ、当然です。いままでは総二様と愛香さんを二人っきりにするしかありませんでしたが、もうこれ以上好きに、ってあの、みなさん。私になにか御用でしょうか?」

 不思議そうに、トゥアールが周りの女子たちへ問いかけた。総二たちのクラスの女子全員だ。なんとなく、取り囲んでいるようにも見えた。

 長い金髪をまっすぐにおろした(すい)眼の快活そうな女子が、笑顔を浮かべた。

「いやー、ほら、転入してきたばっかりだろ、トゥアールさんよ。ここはアタイたちが学園を案内してやろうと思ってな」

「え、いえ、別にそんな」

「遠慮なんていりませんよ、トゥアールさん。これからクラスメイトとして一緒に過ごすんですから、親睦を深めるためにもこういうのは必要だと思うんです」

「いや、この前、総二様たちに案内してもらいましたから」

「なんだよ。アタイたちとは仲良くしたくないってのか?」

「い、いえ、そういうわけじゃなくって」

 長く綺麗な黒髪をまっすぐにおろした、丁寧な喋り方をする女子の言葉のあと、金髪の女子が不満そうに言葉を続け、トゥアールが戸惑う。

 ヘヘッ、といたずらっぽく笑った金髪の女子がトゥアールに無造作に近づき、ひょいっと彼女を肩に担ぎ上げた。かなり鍛えているのか、まったくふらついた様子がなかった。

「まー、いいからいいから。お礼は、その見事なおっぱいを揉ませてくれるだけでいいぜ? イッシッシ」

「ちょっ、なに言ってるんですか!? このおっぱいは総二様のもの! ほかの誰にもおおおぉぉぉ――」

 トゥアールがジタバタするが、金髪の女子はまったく気にした様子もなく、楽しそうに笑いながら教室を出て行った。ほかの女子たちもそれに続き、次々と教室を出て行く。

 黒髪の女子が、一礼してきた。

「わたくしも行きます。トゥアールさんに手荒なまねをする気はありませんので、安心してください。それでは、二人でごゆっくり」

 優しいようでどこかからかうような笑みとともにそう言葉を締められ、総二は愛香と顔を見合わせた。誤解されているとは思うのだが、総二自身、愛香と関係を進めたいと思っているのは確かなので、否定もしたくなかった。

 気恥ずかしさを感じ、顔が熱くなったところで、愛香が顔を赤らめた。

 クスクス、と楽しそうに笑いながら、女子たちは教室を出て行った。

 

 

 教室にいてもしょうがないので、愛香は総二と一緒に部室にむかうことにした。

 ごゆっくり、と言われたことを思い出し、隣にいる総二のことをいつも以上に意識してしまうが、とにかく部室を目指す。総二も時々顔を赤くしている時があり、愛香と同じように意識しているのだろう、と思った。

 部室に着き、中に入った。扉を閉めたあと、なぜか総二が頭を下げてきた。

「そーじ?」

「ごめん、愛香。今朝あんなこと言っておいて、桜川先生のツインテールに見惚れっちまった。ほんとに、ごめん」

「でも、そーじは流されなかったでしょ。それどころか、そ、その、俺には愛香がいますから、って言ってくれたし」

「そ、そうだけど。けどさ」

「それだったら、あたしの方こそ、ごめん」

「えっ?」

 軽くため息を吐き、自嘲する。

「そーじがほかの女の子のところに行っちゃうんじゃないか、ってすぐ思っちゃうあたしの方こそ、謝らなきゃいけないと思うの。あたし、そーじのこと、信じてないみたいで」

「愛香、それは違うだろ。それは、それだけ俺のことをす、好きでいてくれてるから、だろ。ほかのツインテールに気を取られてる俺の方が」

「けど、そーじはちゃんとあたしのこと気にかけてくれてるし」

「それなら愛香の方がずっと」

 話が平行線をたどり、終わらない。犬も食わないからやめろ、とどこからか聞こえた気がした。

 しばらく言い争ったあと、総二が額を押さえながら制止するように手を挙げた。

「やめよう。なんか不毛だ」

「まあ、そうかもしれないけど。でもさ」

「あー、じゃあ、こうしよう。俺も愛香も、自分の方が悪いと思ってる。なら、俺は愛香を許す。愛香も俺のこと、許してくれるか?」

「それはもちろんだけど。――――うん、わかった」

 確かに、このまま言い合っていても意味がないし、ここから喧嘩に発展してしまうのも馬鹿馬鹿しい。

 考えなければいけないのは、自分の心の弱さだ。自分を信じる心の強さを持たなければならない。ドラグギルディも、自信を持てと言ってくれたのだ。充分に魅力的なのだから、と。

 総二の瞳が、強い光を見せた気がした。

「もっと、強くならなくちゃな」

「うん。そうだね」

 いろいろな思いがこめられた総二の言葉に、愛香も強く同意した。

 

 気を取り直し、並んで椅子に腰かける。思い出したように総二が話しかけてきた。

「そういえば、トゥアールはどこに連れて行かれたんだろうな。なんかちょっとこわい雰囲気だったけど」

「うーん。まあ、物騒なことはしないって言ってたから、大丈夫だとは思うけど」

 愛香の方も理由を聞いているわけではないので、それぐらいしか言えなかった。

「とりあえず、トゥアールに関しては来るのを待つしかないとして、その間どうしよっか。そーじは、なんかやりたいこととかある?」

「やりたいこと?」

 愛香の言葉を反復して、総二が考えこんだ。少しして、なぜか彼は顔をかすかに赤くした。

「愛香。部活内容、憶えてるか?」

「ツインテールを研究し、見守ること、だっけ。っていうかあんた、もうちょっとまともな理由は思いつかなかったの?」

「い、いいだろ、別に。ちゃんと創部できたんだし。とにかく、部活内容はその通り。だから、その」

 総二が、恥ずかしそうに口をモゴモゴさせた。

 なんとなく気恥ずかしくなり、愛香は自分のツインテールを摘まみあげた。

「えっと、とりあえず、あたしのツインテール、研究する?」

「と、とりあえずっていうか、俺が一番研究したいのは、愛香のだから」

「そ、そう?」

 総二の答えに顔が熱くなる。恥ずかしさとともに、嬉しさがあった。

 どこか恥ずかしそうに、総二が口を開いた。

「あ、愛香。その、せ、背中見せてくれないか?」

「背中? 別にいいけど」

 なんでその程度のことで、こんな恥ずかしそうに言うのだろうか。そう思いながら、椅子に座ったまま躰のむきを変え、背中を見せる。

「あっ、いや、そうじゃなくて。その、愛香の肌を見せて欲しいっていうか」

「えっ?」

 背中というのは、服を脱いだ素肌の背中のことか。確かにそれは頼みづらいだろう。

 呆然とそんなことを考えながら、肩越しに総二の顔を見る。彼は、顔を赤くしながら口を開いた。

「この前、愛香にうなじを見せてもらっただろ? それで、その、愛香のツインテールとうなじの調和、って言うのかな。とにかく、なんだかすごくきれいっていうか、引きこまれそうになって、愛香の背中とツインテールが合わさったところも見てみたいって思って。――――い、嫌ならいいんだっ。俺も、愛香の嫌がることはしたくないし」

「い、いいよ? そーじが見たいって言うんなら、あたしはっ」

「む、無理することないんだぞ?」

 こちらを気遣ってくれる総二の言葉に、愛香も意を決した。

「その、むしろ、そーじに見てもらえるんなら、嬉しいっていうか」

「そ、そっか」

 恥ずかしさに頭が沸騰しそうだった。それでも、総二が求めてくれるのなら、してあげたい。いや、自分のすべてを見て欲しい、とも心の奥底で思っているのだ。こんなことを言ったら、はしたない女だと思われてしまうだろうか。

「そ、それじゃ、そーじ。ちょっとだけ、うしろむいててもらえる?」

「――――? ああ、わかった」

 総二が、少し不思議そうな顔をしながらうしろをむいた。

 目の前で脱いで欲しかったのだろうか。どちらにしても同じかもしれないが、脱いでいるところを見せるのは、やっぱり恥ずかしい。総二がどうしても見たいというのなら見せてあげてもいいが、素直にうしろをむいてしまってはしょうがない。いや、なんで自分は、むしろ残念に思ってるんだ。

 深呼吸をして、気持ちを切り替える。

 思い切って上着とブラウスを脱ぎ、青い縞々のブラジャーだけになった。

 こんなことになるんなら、もっと大人っぽい下着を着けてくればよかった、と内心で悔やみながら総二に背中をむけ、背中越しに声をかけた。

「い、いいよ、そーじ。こっち見ても」

「あ、ああ。――――っ!?」

 むき直った総二が息を呑んだのがわかった。不安になり、再び呼びかける。

「な、なんか変だった、そーじ?」

「いや、その」

 総二の声は、どこか困った調子に思えた。口ごもりながら、言葉を続けてくる。

「ふ、服を(まく)り上げるくらいでも、よかったんだけど」

「え?」

 総二の言葉に、さっき彼が不思議そうにしていたのは、脱がせることまで考えていなかったからだということに気づいた。そして、勘違いしていたことと、自発的に脱いでしまったことに思い至り、さっき以上に頭が熱くなった。これでは、トゥアールのことを痴女などと言えないではないか。

 どうしよう。何事もなかったかのように服を着なおした方がいいのかな。でも、せっかく脱いだのになにもしないで終わるのも、ってなに考えてんのよ、あたしっ。このままじゃ痴女よ。トゥアールよ。ごめーん、勘違いしちゃった、テヘッ、とか言って、どうせだから召しあがれ、ってそれじゃ結局トゥアールでしょうが。普通に、間違えちゃったって言えば済むだけの話でしょうが、あたし。けどやっぱり、そーじに見て貰えるチャンスなのに――。

 混乱のため、思考がメチャクチャになっているのが自分でもわかる。なんだか欲望に負けかけている気がするのは気のせいだ。

「あ、愛香っ。愛香がよければ、そのまま見せて貰ってもいいか!?」

「っ! う、うんッ。そのために脱いだから、いくらでも見ていいよ!?」

「お、おう!?」

 互いにどこかヤケクソ気味になって叫び、総二が混乱した様子で応じた。

 

 ともに立ち上がり、総二が扉の正面に移動した。愛香は、扉から誰かが入ってきてもすぐに愛香の姿が見られないように、総二を盾にするような位置に立ち、彼に背中をむけた。テーブルと総二に挟まれるような位置になった。

 ブラジャーのみとなった愛香の背中に、総二の視線が注がれていることを感じた。恥ずかしさやらなんやらで躰が縮こまる。

「よしっ」

 総二の、意を決したような呟きが聞こえた。同時に、彼が近づいてくるのを感じる。

 ツインテールを、総二が手に取った。

 壊れ物を扱うかのように、優しくツインテールが背中に垂らされる。総二が一歩離れた。

「おおっ」

 総二が、感動したように声をふるわせた。

「愛香。綺麗だっ」

「っ、あ、ありがと、そーじっ」

 総二の言葉に喜びが湧き上がり、愛香も小さな声で返した。

「ああっ」

 立ち位置を変えては、総二が恍惚とした声を洩らす。

「ほう――」

 そして時に、愛香のツインテールの位置を変えては、やはり感嘆の吐息を洩らす。

 総二の反応によって、愛香の胸に誇らしさと喜びが生まれてくる。ただ同時に、どんどんツインテール馬鹿が加速していく総二の様子に、そこはかとないもの悲しさも覚えた。いや、どちらかというと、不安の方が近いのかもしれない。愛香が一番と言ってくれるのはほんとうに嬉しいし、疑いたくない。ただ、このツインテール馬鹿が行き着いた先はどうなってしまうのだろうか、というなにかおかしな不安があった。

「っ?」

 総二が、愛香のすぐうしろに近づき、しゃがみこんだようだった。

 なにをするんだろう、と思ったところで総二が、愛香の腰を軽く、しかししっかりと掴んだ。

「そ、そーじっ、ん、んぅっ」

 戸惑いながら呼びかけようとしたところで、背中になにかが触れた。吸い付かれたことで、背中に口づけられたのだとなんとなくわかった。自分の口から出たのが信じられないほどの甘い声が、愛香の口から洩れた。

「あ、んんっ、そーじぃ」

 総二が、背中のあらゆるところに何度もキスしてくる。頭がボーっとしてきて、触れてくる総二のことしか考えられなくなってきた。躰が火照り、自分の息が荒くなってきたのがわかる。

 総二の躰が、離れた。

「あ、――――ひゃん!?」

 総二の熱が離れ、寂しさを感じた愛香の口から切ない吐息が洩れたところで、総二が背後から愛香を抱き締めてきた。

「あっ、そーじ――」

 片手で愛香のお腹を押さえるようにしながら、もう片方の手で尻をなで回され、鼻にかかったような甘い声が、愛香の口から洩れはじめた。

 そーじに、こんなことしてもらえるなんて。そんな、充実感にも似た幸せな気持ちがあった。

 頭の中に、桃色の(もや)がかかってきたような気がした。熱のこもった総二の声が聞こえる。

「テイルブルーの、愛香の尻は、俺のだっ。そう、だよな、愛香っ」

「うんッ、お尻だけじゃなくって、あたしは、全部そーじのだからッ」

「っ、愛香っ」

「きゃうっ!?」

 どこかのぼせたような声に愛香も、躰を支配する熱に身をまかせて答えた。その答えにさらに興奮したのか、総二が愛香の尻を(わし)掴みにしてきた。

 躰の火照りは、もう止めようがなかった。声が、蕩けていた。

「あ、はぁ、そーじぃ、ほかの女の子のお尻とか、見ちゃやだよ?」

「するわけないっ、こんなことしたいって思うのは、愛香だけだっ。だからっ」

「うんっ、あ、んんっ」

 切なさをこめた愛香の懇願に総二がはっきり答え、そのまま愛香の尻を揉みしだきはじめた。

 足から力が抜け、机にうつ伏せになるようにもたれかかる。総二はそのまま愛香の躰に覆いかぶさり、また尻を揉みしだく。

「愛香、愛香っ」

「そーじっ、んぅっ」

 耳もとで総二が、息を荒らげながら愛香の名前を呼ぶ。愛香も、ますます息が荒くなっていた。

 尻を揉んでいた総二の手が止まり、愛香の下着にその手がかけられたのを感じた。

「そ、そーじ、ここ、学校だよ?」

「ごめん、愛香。俺、もう我慢できないッ」

 愛香のほんのわずかに残った理性が制止の言葉を紡ぐが、期待によって声が蕩けているのがわかった。総二も愛香の下着に手をかけたまま、鼻息荒く答えてきた。

 高まる期待と、大好きな人に求められていることで、愛香も我慢できなくなっていた。

「うんっ、あたしも、もう我慢できないっ。きて、そーじっ」

「愛香っ!」

 愛香の下着にかけられた手に、力がこめられたのを感じた。

 

『ついせき! ぼくめつ! いずれも~、まっは~!!』

 

 感じた瞬間、テンションの高い、というか陽気な調子のトゥアールの声が室内に響き、総二の手が止まった。

『――――』

 雰囲気をぶち壊すその声に、総二も愛香もなにも反応できず、数秒経った。

『マッテローヨ!』

『やかましいわああああああああああああああああああああ!!』

『イッテイーヨ!』

『イケるかああああああああああああああああああああああ!?』

 続いて響いた声に、血涙を流さんばかりに二人で絶叫する。

 叫びが終わり、二人で大きく息を吐いたところで、扉が開いた。

「総二様、愛香さん、アルティ、っ!?」

 聞こえてきたトゥアールの声が、途中で止まった。扉が閉まる音がしたあたりで、総二とともに顔をむけると、トゥアールは顔を赤らめ、硬直していた。

 少ししてハッとしたトゥアールが、慌てた様子で声を上げた。

「ちょっ、ちょっと待っててください!?」

『へ?』

 扉を開け、トゥアールが出て行った。揃って間の抜けた声を洩らしたあと、自分たちの状態に気づき、愛香の顔が熱くなった。

 総二が愛香に覆いかぶさり、愛香の下着に彼の手がかけられたままである。

 もともとは総二が扉の前に居たわけだが、いまの状態では、愛香の下着、というかパンツも、それにかけられた総二の手も丸見えだろう。もう、行為に及ぶ直前以外のなにものでもない。というか実際その通りだったのだが。

 総二もそれに気づいたのだろう。顔が真っ赤になった。自分もそれに負けないぐらい真っ赤だろうと思う。

 このタイミングで鳴り響いたことと、さっきのトゥアールの感じからして、おそらくさっきの音声は、アルティメギルが現れたことを示すアラート音なのではないか、と思う。であるならば、すぐに離れ、出撃するべきなのだろうが、愛香の火照った躰はいまだに総二を求めている。総二も同じなのだろう。下着から手は離れたものの、顔を(しか)めて呻き声を上げ、悩んでいる様子だった。

 悶々とした空気で数秒ほど経ったところで、再び扉が開いた。

「ずるいですよ、愛香さんッ、私も混ぜてくださあああーーーい!」

「なにしに来たのよ、あんたはああああああああああーーーーー!」

 総二を求める躰の熱を無理やり押さえつけると、覆いかぶさる彼の躰をわずかに浮かし、その隙間から脱け出す。

 両(てのひら)を揃え飛びこんでくる、白衣だけになった痴女にむかって、愛香は跳躍した。

 

 

 一瞬、総二は浮遊感を覚えた。

「っ!?」

 その直後、躰が落ちるような感覚を覚え、テーブルについていた腕に力をこめて躰を支える。

 総二の躰の下にいたはずの、愛香の姿が消えていた。

 さっきの浮遊感は、愛香が総二の躰を浮かせたためで、それによってできたわずかな隙間から、彼女は自らの躰をすり抜けさせた、と考えるしかなかった。ほんとうに、驚愕するしかない技量だった。

「やっぱり、もっと鍛えないとな」

 エレメリアンと闘っているだけでは足りない。師であった愛香の祖父亡きいま、守ると誓った相手である愛香に鍛えてもらうしかないかもしれない。

 情けない、という思いはある。だが、いまのままでは、愛香を守るどころか、逆に守られることになってしまうだろう。その方が、総二には耐えられなかった。

 躰も、精神(こころ)も。

「絶対に、強くなってやる」

 改めて、そう決意する。

 とにかく、いまはエレメリアンの迎撃に行こう。

 白衣の下になにも着ていないらしきトゥアールは見ないように気をつけつつ、彼女の背中の上にサーフィンのように乗り、勢いをつけてそのまま壁にトゥアールの頭を激突させた愛香の姿を見て、総二はそう思った。

 

 

*******

 

 

 スワンギルディとともに、スパロウギルディは通路を進んでいた。行き先は、基地最奥の搬入口だ。増援である、リヴァイアギルディとクラーケギルディそれぞれの部隊を出迎えるためである。

「とにかく、あのお二人が手を取り合ってくだされば、鬼に金棒というものだ。我らでなんとか橋渡しをせねばならぬ」

「はっ」

 スパロウギルディの言葉に、スワンギルディが静かに応じた。他者の言葉に対して反応はするが、やはりまだ、覇気というものが感じられなかった。

 それも、無理はないとは思う。だが、このままでは駄目なのだ。そしてそれは、スワンギルディ自身もわかっているはずだ。それでも、まだ立ち上がることができないでいた。

 スワンギルディを伴ったのは、実力と素質を買っているというのもあるがそれ以上に、ドラグギルディの旧友であるリヴァイアギルディと会うことで、その(くすぶ)っている心の炎を燃やせることができればと思ったからだ。

 進むごとに、どこか空気が息苦しくなっていく気がした。嫌な予感がどんどん大きくなっていく。

 アルティメギルが、無数の部隊を作って複数の平行世界を同時に侵略するのは、まず、その方が効率的だからという理由がある。短期決戦を狙うならともかく、ツインテール属性を拡げたあとに刈り取るというのが作戦の基本になっているため、戦力を集中させることに大した意味がないのだ。(まれ)に、アルティメギルが技術を流出させる前にすでにツインテールの戦士が居る世界もあるが、ほとんどの場合、上級エレメリアンに及ばない。ほんとうにごく稀に、上級エレメリアンすら斃すことのできる戦士もいるが、そういった場合は他部隊が増援として来る。いずれ、数も質も取り揃えた精鋭たちの部隊により、侵略は為されるのだ。

 だが、部隊を分けるのは、ほかにも理由がある。エレメリアンは、人がなにかを愛する心から生まれる力、属性力(エレメーラ)から生み出される存在だ。己の譲れないもの、なにかを愛する心を核として生きているのだ。

 人類もそうであるように、それぞれの主義主張がぶつかり合い、争いに発展することも珍しくない。その、愛するものと相反する属性を持つ者とぶつかり合うのは、必然と言えた。それを事前に防ぐための分隊化なのだ。

 そして今回、増援として来たリヴァイアギルディとクラーケギルディは、まさにその相反する属性同士。それぞれの部隊の者たちもほぼ同じだ。

 果たして、何事もなく部隊を統合することができるのか。その不安が、スパロウギルディの胸の内にあった。

「っ、遅かったか」

 目的地に着き、眼に入った光景に、スパロウギルディは思わず呟いた。

 すでに、両部隊が相対していた。両部隊、ともに十数体ほど。

 いくらか距離を置いてはいるが互いに睨み合っており、その険悪な空気は逆に、掴み合いの喧嘩に発展していないのが不思議なぐらいに思えた。

 物理的な圧力すら感じられるその空気にスパロウギルディが二の足を踏んだところで、スワンギルディがスパロウギルディをかばうように静かに前に出た。圧力が、ふっと弱まった気がした。

 心の内でスワンギルディに感謝しながら、深呼吸をして気持ちを切り替える。いま現在、部隊をまかされている者としての責務を、果たさなければならない。実力は幹部の足元にも及ばないが、自分はドラグギルディとタイガギルディにあとをまかされているのだ。

 意を決して、スワンギルディに頷きかけながら彼より前に出た。

 それぞれの陣頭に、ドラグギルディに匹敵する属性力(エレメーラ)を持った、ふたりのエレメリアンを見てとる。圧力の大もとは、あのふたりだろう。

 ひとりは、細身で精悍な顔つきながら、肩から垂れ下がったひときわ大きな触手を中心に、躰中に無数の触手を備えた、アルティメギル最強の一角に数えられる貧乳属性(スモールバスト)の騎士、クラーケギルディ。

 対峙するリヴァイアギルディは、そのクラーケギルディと互角の実力を持つ、巨乳属性(ラージバスト)の戦士。股間部から巨大な触手を一本伸ばし、それを胴体に巻きつけ鎧のようにしているが、いざ闘いとなればその触手を槍のように遣い、目の前の戦士を貫くという。

 委縮しそうな自分の躰に喝を入れ、スパロウギルディはふたりの前に進み出た。

 まずは敬礼からだ。

「クラーケギルディ様、リヴァイアギルディ様、おふたりに援軍に来ていただけるとは、光栄の至りです」

 声は、震えずに済んだようだった。

 リヴァイアギルディが、軽く手を振って応えた。

「首領様のご命令は絶対だ。もっとも、どこかの能無し部隊のお()りまでまかされてしまったようだがな」

「ふん、言ってくれるな。侵攻先の世界で何度も情けをかけ、属性力(エレメーラ)の完全奪取を完遂せず見逃す、甘ちゃんの半端者が」

 両者とも、敵意を隠そうともせず、挑発し合う。言葉というものが眼で見えるのならば、いったいどれほど棘が付いているのだろうか、と思ってしまうほどだった。

 リヴァイアギルディが、眼つきを鋭くした。

「おまえこそ、時代遅れの騎士かぶれがますます悪化したと見える。揃いのマントなど部下に羽織らせるとはな」

「お言葉ですが、このマントは我々がっ」

 クラーケギルディが、リヴァイアギルディの言葉に反論しようとした自分の部下を、手を挙げて(いさ)めた。

 スパロウギルディとしてはそこで終わって欲しかったのだが、クラーケギルディもまた、リヴァイアギルディを鋭く睨みつけた。

「ともかくだ。出しゃばりは慎んでもらおう。貴様こそ、戦士らしくということにこだわりすぎて、隊長としての責務を放り出しているではないか」

「なっ!」

 リヴァイアギルディの部下たちが憤然と声を上げるが、クラーケギルディはフンッと鼻を鳴らし、言葉を続ける。

「違うとでも言うのか。弱い戦士などトドメを差すに(あたい)せぬと見逃し、そしてそれを何度もくり返すなど、組織への反逆と変わるまいよ」

「なにを!」

 今度は、リヴァイアギルディが自分の部下たちを諫めた。

 今度こそ、終わってくれるのか。そう思ったところで、クラーケギルディとリヴァイアギルディが睨み合い、同時に眼を閉じた。

 気が、ぶつかり合う。さっき以上の息苦しい空気が、あたりに満ちた。

 一秒一秒が、果てしなく長い時間に感じられた。

 両者が、同時に眼を見開いた。

(キョ)ッ!!」

(ヒン)ッ!!」

 ふたりが、同時にすさまじい気迫のこめられた雄叫びを上げたかと思うと、とてつもない衝撃と、なにかが破裂したような耳をつんざく轟音がスパロウギルディを襲った。ふたりの後ろにいたエレメリアンたちがふっ飛ばされ、周りの壁が軋みを上げた気がした。

 スパロウギルディもふっ飛ばされそうになったところで、誰かが躰を後ろから支えた。スワンギルディだった。

 ふたりの方に視線をむける。いつの間にか、どちらとも触手を伸ばしていた。

 そして、リヴァイアギルディがまた触手を自身の躰に巻きつけ、クラーケギルディが背中から伸ばしていた触手を収めた。スパロウギルディには見えなかったが、おそらくあれらが激突したのではないだろうか。

「五合」

「――――っ!?」

 スワンギルディが誰にともなく呟き、一瞬遅れてスパロウギルディは驚愕した。

 スパロウギルディの勘違いでなければ、いまの言葉は、クラーケギルディとリヴァイアギルディの触手がぶつかり合った数なのではないか。あれが、見えたというのか。

 いや、それだけではない。周りのエレメリアンが大小問わず軒並みふっ飛ばされているなかで、スワンギルディだけは平然とし、それどころかスパロウギルディがふっ飛ばされるのを支えていた。ふっ飛ばされたエレメリアンたちも無様に転がったりしてはいないものの、あの衝撃にはなすすべもなかったというのにだ。

 スワンギルディから身を離し、彼の顔を見る。さっきまでより、眼の光が強くなっている気がした。

「まあよい。部隊が大きくなっては、いまの基地の大きさでは足りまい。私たちの母艦(基地)も合わせよう。作業が終わり次第、話に聞くツインテイルズとやらの資料を見せてもらう」

「は、はっ!」

 クラーケギルディの言葉にむき直り、なんとか応えると、彼は部下たちを自分たちの母艦に戻らせた。どういうわけかクラーケギルディは残り、スワンギルディを興味深そうに見ている。

「よし。おまえたちも戻れ。俺はひとつ、用がある」

『はっ!』

 リヴァイアギルディも同じく部下を下がらせると、彼はスパロウギルディに近づき、質問してきた。基地の構造と、ドラグギルディとタイガギルディそれぞれの部屋の場所のことだった。

 頷き、問いに答えた。

「そうか。わかった」

 応え、リヴァイアギルディが(きびす)を返した。方向からして、まずはドラグギルディの部屋の方から行くつもりなのだろう。

 リヴァイアギルディの背中に、スワンギルディが問いかけた。

「ドラグギルディ様のお部屋に、なにか御用が?」

「む?」

 リヴァイアギルディが、背をむけたまま答えた。

「なぁに。戦の前に、負け犬の面影でも見て笑っておこうと思ってな」

 リヴァイアギルディの、その(あざけ)るような答えが返った直後、いつの間にか近づいていたスワンギルディが彼の肩を掴んでいた。

 

 

 気がつくとスワンギルディは、リヴァイアギルディの肩を掴んでいた。

 リヴァイアギルディがふり返り、眼を見張った。

「むっ」

「ほぉ」

 クラーケギルディが感心するような声を洩らした気がしたが、そんなこと、いまはどうでもよかった。

「ス、スワンギルディ!」

「スワンギルディ、か。なるほどな」

「いまの言葉、お取り消しください」

 スパロウギルディが慌てたように声を上げ、リヴァイアギルディがなにか納得するかのように呟いたが、スワンギルディは構わずリヴァイアギルディにむかって静かに言葉を紡いだ。

 はらわたが煮えくり返りそうな怒りを押しとどめ、リヴァイアギルディの眼を見つめる。いや、ひょっとしたら自分は、睨みつけているのかもしれない。殺気すらこもっているかもしれない。

 無礼であるかもしれない。それでも、敬愛する師を侮辱するような言葉だけは、許せなかった。

 たとえ誰であろうと、あの方を馬鹿にするのだけは、絶対に許さない。

 その意思をぶつける。ぶつけるが、リヴァイアギルディはまったくもって涼しげな様子だった。

「なぜだ?」

「っ、ドラグギルディ様は戦士として闘われ、昇天なされました。敗れたとはいえ、闘い抜いた戦士を侮辱するのが、同じ戦士のなされることでしょうか?」

「ほう。若造が、なかなか言うではないか」

 スワンギルディの怒りなどどこ吹く風とばかりに、リヴァイアギルディが言葉を紡ぐ。

 馬鹿にされている。スワンギルディはそう思った。

「さっきの言葉を撤回しろ、と言ったな、若造?」

「はい」

「ならば、俺の槍を見切ってみろ。俺の槍を避けることができたなら、先の言葉を撤回し、謝罪してやろう」

(まこと)ですか?」

「戦士に二言(にごん)はない」

 リヴァイアギルディの言葉に、スワンギルディは彼の肩から手を離した。

「おまえの好きな間合いを取れ。どこでも構わん」

「っ」

 やはり、馬鹿にされている。そう思うも、努めて冷静に考える。

 さっきのクラーケギルディとの激突の際のリヴァイアギルディの槍は、確かに速かった。だが、ドラグギルディの剣には及んでいない。自分ならばなんとか避けられるはずだ。師の本気は、スワンギルディには見切れないほどの剣速だったのだ。

 三歩ほどの距離を取り、リヴァイアギルディを見据えた。

「その距離でいいのか?」

「はい」

「ふん。舐められたものだな」

 舐めているのはどっちだ。リヴァイアギルディの言葉にそう思いながら、呼びかける。

「いつでも、どうぞ」

「ふむ。では、俺が腕を組んでから、五秒後に放つとしよう」

「っ、私を、馬鹿にしているのですか?」

「それは俺の台詞だ、若造。本気で俺の槍を見切れると思っているのならな」

 そこまで愚弄するのか。スワンギルディの頭がカッとなったが、落ち着けと自分に言い聞かせる。

 言葉のあと、リヴァイアギルディがゆっくり腕を組んだ。

 いつでも来い。

 リヴァイアギルディのわずかな動きも見逃すまいと、全神経を集中する。時間は、数えるまでもなく躰でわかる。

 五秒が、過ぎる。

 視界の中心に、なにかが見えた気がした。そう感じた直後、リヴァイアギルディの姿に違和感を覚えた。

 鎧のように巻きつけていた触手がなくなり、その鍛え上げられた躰が見えている。

「っ!?」

 驚愕に息を呑む。リヴァイアギルディの股間の触手の切っ先が、スワンギルディの眉間に突きつけられていた。

「気づくのが遅いぞ、若造」

「――――っ」

 まったく動けなかった。そう愕然としていたところで、リヴァイアギルディが言葉を続けた。

「ふん。ドラグギルディのやつも、これぐらいの速さは出せたはずだがな。それとも、さっきの俺とクラーケギルディの小競り合いを見て、俺たちの実力をあんなものだと勘違いしたか?」

「っ!」

 その言葉に、いまさらながらハッとする。リヴァイアギルディは、師ドラグギルディと同格と謳われている幹部だ。そしてクラーケギルディも、そのリヴァイアギルディに匹敵する実力だと言われている。あの程度のわけがない。

 自分は、なにも見えていなかった。いや、見ようとしていなかったのではないか。

 リヴァイアギルディが、触手をまた鎧のように巻きつけ、背をむけた。

 力が抜け、スワンギルディは呆然と膝をついた。

「貴様も戦士なら、敗将などにいつまでもこだわらず、剣の一本でも振っていろ。やつと同じ負け犬になりたいというのなら、話は別だがな」

 言葉のあとリヴァイアギルディが、ドラグギルディの部屋のある方向にむかって歩いていく。もう、こちらをふり返りもしなかった。

「くっ」

 手が、震えていた。勝てないと、そう思ってしまった。

 あれが、リヴァイアギルディの本気。舐めていたのは、自分の方だった。自分が馬鹿にされるのはいい。この(てい)たらくでは、馬鹿にされて当然だ。

 だが、ドラグギルディを侮辱され、それを通させてしまった。

「私が、私が未熟なばかりに、ドラグギルディ様にあのような(はずかし)めをっ」

「ふん。ひねくれ者が」

「――――えっ?」

 聞こえてきたクラーケギルディの呟きに、スワンギルディは顔を上げた。クラーケギルディは、リヴァイアギルディの方を見ていた。

 スパロウギルディが(かが)みこみ、スワンギルディの肩に手を置いた。

「スワンギルディ。リヴァイアギルディ様の姿をよく見よ」

「っ?」

 スパロウギルディの言葉に従い、リヴァイアギルディをじっと見る。少しして、気づいた。

「あ、あれはっ」

 リヴァイアギルディの触手が、震えていた。自身の躰を引きちぎらんばかりに、巻きつけた触手が張り詰めている。まるで、泣いているように見えた。

「リヴァイアギルディ様にとってドラグギルディ様は、古くからの友。悲しくないわけがあるまい。だが、あの方もまた、自分に厳しきお方。だからこそ、あの方を(おさ)として慕い、着いていく者たちがいるのだ」

「っ」

 自分だけが悲しいのではなかった。いや、自分よりずっと、リヴァイアギルディは悲しいはずだ。

 彼だけではない。スパロウギルディも、スワンギルディよりずっと長く、ドラグギルディのそばにいたのだ。それでも、自分が為すべきことを見据え、悲しみを飲みこみながら先に進んだのではないか。

 私は、いつまで泣いている。いつまで甘えているのだ。

 そう思うと、躰の奥底から熱いなにかが(のぼ)ってきたような気がした。

「顔つきが変わったな」

「え?」

 クラーケギルディが、スワンギルディの顔を覗きこんでいた。

「音に聞く英傑、ドラグギルディの弟子なのだろう?」

「は、はい」

「ならば、貴様がやるべきことがなにか、わかるな?」

「っ!」

 立ち上がり、静かに頷く。

 ニヤリ、とクラーケギルディはどこか満足げに笑い、その場を去っていった。

 クラーケギルディの姿が見えなくなったところで、スワンギルディはスパロウギルディにむき直り、頭を下げた。

「スパロウギルディ殿、お願いがあります。ドラグギルディ様が成し遂げられたという伝説の試練への挑み方を、お教え願えないでしょうか?」

「なに?」

「一年続けなければ修了にはなりませんが、時が来るまで続けてみせます」

 スパロウギルディが、眼を見張った。彼は眼を閉じ(かぶり)を振ると、再び瞳を開き、スワンギルディの眼を見つめてくる。

「スワンギルディよ。『スケテイル・アマ・ゾーン』は、初日で絶命する者もいる荒行。ドラグギルディ様がそれに挑んだのも、相応の実力をつけてからだ。おまえはまだ若く、未熟だ。死に急ぐ気か?」

「そんなつもりはありません」

「ならば、なぜ?」

 アルティメギル五大究極試練のひとつ、『スケテイル・アマ・ゾーン』。通販で買った物が、一年間ずっと透明な箱で梱包されて配達され続けるという、すさまじい修練。ドラグギルディ以外に誰も(おさ)めた者がおらず、師が打ち立てた幾多の武勇のなかでも最も名高いものと言われている。

 スパロウギルディの心配ももっともだろう。だが、師が遺した最期の言葉を思い出したのだ。

 自分が届かなかった高みへ至れ、と。そのための、第一歩だ。

「ドラグギルディ様の遺志に、応えるために!」

 決意とともに、スワンギルディはスパロウギルディに告げた。

 

 

 ドラグギルディの部屋に入ると、幼女のフィギュアがきれいに積み上げられているのが見えた。部屋の中を見渡すと、ツインテールと、ツインテールが似合う幼女関連の物がやはり多い。

「っ?」

 なにか、違和感があった気がした。

 改めて部屋を見渡すが、特におかしなものはない。

 気のせいだったか、と気を取り直し、幼女のフィギュアが積み上げられた場所の前に行く。それはまるで、墓標のようにも見えた。

 まさか、おまえが敗れるとはな。

 口に出さず、リヴァイアギルディはそう語りかけた。

 ドラグギルディは、まさに完璧に近い戦士だった。闘って負けるとは思わないが、それでもやつのツインテールへの愛には、リヴァイアギルディをもってしても圧倒されるものを感じるほどだった。そしてそれは、強さだけではなく、やつの人徳、カリスマと言えるものにもあった。

 もしも、あらゆる部隊を統合する(おさ)の任をまかされるものがいるとしたら、ドラグギルディ以外ありえなかっただろう。リヴァイアギルディがそう素直に認められるほど、ドラグギルディには惹きつけられるものがあった。同時に、いつか超えてやる、と思わせる不敵さがあり、それがやつのカリスマにひと役買っていたのだろうとも思えた。

 友だった。同期の中でも、ドラグギルディは群を抜いた実力を持っていた。そんなドラグギルディが、こんなに早く死ぬとは思ってもみなかった。

 タイガギルディもそうだ。やつもまた同期で、友と呼べる間柄(あいだがら)だった。実力ではドラグギルディやリヴァイアギルディに遠く及ばなかったが、気のいい、憎めないやつだった。ああいうやつが意外と長生きするものだ、と思っていたのが、あっさりと死んでしまった。だが、立派な最期だったと聞き及んでいる。

 仇討ちなどと、そんな殊勝なことを言うつもりはない。やつらは、戦士として闘い、死んだのだ。悲しみこそすれ、憎むのはお(かど)違いというものだろう。

 ただ、ドラグギルディの最期の戦いを、見てみたかった。

「受け取れ、ドラグギルディ。俺からの、せめてもの(はなむけ)だ」

 持参したおっぱいマウスパッドを供える。幼女とは対極に位置する巨乳を模した物ではあるが、リヴァイアギルディは巨乳属性(ラージバスト)の戦士なのだ。やつには難色を示されるかもしれないが、自分が供えられるのはこれしかない。

 エレメリアンに墓などない。人類が言う、輪廻転生などという考えも信じていない。

 死とは、ただ世界に還るだけのこと。そう思っている。だからこそ、エレメリアンは潔さを美徳とする。それが強さとなり、誇りとなるのだ。

 己がよしとする生き方を貫き、己が愛する属性を追い続け、己が満足できる死にざまを迎えるその時まで、闘い抜く。それがほかのエレメリアンの心に残り、そのエレメリアンがまた見事な生き方と、己が属性への愛と、死にざまを他者に見せつけ、それが繋がっていく。

 エレメリアンがほんとうに死ぬのは、それを繋ぐ者が誰もいなくなった時だろう。

 ドラグギルディは世界に還った。だが、やつの生きた証は残っている。

「あのスワンギルディとかいう若造。おまえが言っていた通りだったな。なかなか面白い」

 気づくのが遅い、とスワンギルディには言ったが、リヴァイアギルディの見立てでは、反応できるものではないと思っていた。

 それが、動くことこそできなかったが、リヴァイアギルディの動きを無意識に感じ取っていたようだった。それに加えて、リヴァイアギルディが肩を掴まれた時、掴まれるその瞬間まで気づけなかった。おそらく、ドラグギルディを侮辱されたと感じたことによる怒りで、あの瞬間だけ実力以上のものが引き出されたのではないだろうか。

 いったいどれほどの戦士になるのだろうか。あれほどの天稟(てんぴん)を持った弟子をとることのできたドラグギルディに、ほんの少し羨ましいものを感じながら、リヴァイアギルディはそう思った。

 フッ、と笑い、再び語りかける。

「おまえは、ツインテールのみを追い求め、走り続けた。だが、もうよい。ゆっくりと休め。そして、巨乳にも眼をむけてみるといい。いままでとは違った世界が見えるかもしれんぞ」

 もっとも、こんなことを言ったところで、やつがツインテール以外に眼をむけるとは思わないが。

 (きびす)を返し、部屋の出口にむかう。次は、タイガギルディの部屋だ。

 不意に、ドラグギルディたちとの思い出が(よみがえ)った。扉の前で足を止め、眼を閉じる。

 思い出すのは、修行時代のことだった。

 ともに研鑽を重ね、修練に励み、競い合った。

 そして、夢を語り合った。ドラグギルディが、ツインテールの似合う至高の幼女に、いつか背中を流して貰いたいものだ、と語ればタイガギルディも、ツインテールのスク水少女に、我が腹を海に見立てて元気よく泳いで欲しい、と豪快に笑いながら言い、リヴァイアギルディもまた、見事な巨乳とツインテールを兼ね備えた娘にパフパフして貰いたい、と語ったものだった。

 彼らとだけでなく、同じく同期である友たちも一緒だった。ひとつの焚き火を中心に、みんな体育座りで車座になって、夜通し語り合ったものだ。その友たちも、夢(なか)ばにしてすでに命を落とした者もいれば、己の属性を体現する理想の存在を求め、いまだ闘い続けている者もいる。自分も、いつ、どうなるか、わかったものではない。

 古き友が突然訪ねてくるように、死も不意に訪れる。言ってみれば死もまた、古き友のようなものなのかもしれない。

「ふん」

 瞳を開く。

 感傷に(ひた)るのは、わずかでいい。

 別れは告げた。あとは、自分がやるべきことをやるだけだ。

「ツインテイルズ、だったな。やつらのツインテールを奪うことで、おまえたちへの鎮魂としよう」

 呟くと、扉を開いて再び歩き出す。ふり返ることは、しなかった。

 

 





マッスル・インフェルノー。
キン肉バスターと迷ったけどこのままで。どっちにしても絵面がヤバい。

冒頭のクラスメイト女子1と2のモデルは、わかる人はわかると思いますが某爆乳アクションゲームの子たちです。愛香さんがグヌヌしそうな人ばっかりですが。
ほかのクラスに感情無いさんとか、はるかーさんとかいるかもしれない。

2-1でさらっと書いていましたが、タイガギルディも同期というのは本作のオリ設定。『かつて夢を語り合ったエレメリアンたち』って書くと切ないものがあるが、会話内容を考えると中学生かなんかかおまえら、ってなる。
体育座り=体操座り=三角座り。


以下、スワンギルディの強さについての補足です





本作において、現時点では反応やセンスといったものも含め才覚は非常に高いが、エレメーラがまだまだ低いため肉体的な部分で幹部たちの足元に届くか届かないか程度となっています。
 
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