あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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二〇一七年一月八日 修正

牛君は、原作と本作のどちらが悲惨なのか。いまだにわかりません。
 


2-7 青き戦慄 / 忠義の猛牛

 ギリッ、とブルーは歯を食いしばった。

「ハッタリばかりで見かけ倒しの者ばかり。真の巨乳は、ここにはおらぬのか!」

 エレメリアン出現の報を受けたブルーとレッドが現場に着くと、牛を思わせる大きなエレメリアンが、腕組みをして仁王立ちのまま不機嫌そうに大声を上げていた。

 場所は、グラビアアイドルのオープンコンテストの会場で、女の子たちが戦闘員(アルティロイド)から逃げている。皆が皆、その大きな胸を揺らしながら。

 総二との行為――未遂――を邪魔されたことに怒りを覚えていたが、自分のコンプレックスである胸のことを嫌でも刺激され、ブルーの怒りの炎はさらに燃え上がった。

「っ?」

 隣にいるレッドが、チラチラと心配そうにこちらを(うかが)っていることに気づいた。

 これではいけない、と気持ちを切り替える。大丈夫だとレッドに笑いかけようとしたところで、エレメリアンが再び声を上げた。

「とにかく、まずはツインテール属性を奪うのだ。戦闘員(アルティロイド)よ、かかれい!」

「モケケー!」

「ウケー!」

「モケーッ!」

 エレメリアンが戦闘員(アルティロイド)たちに指示を出すと、彼らは声を上げて――なんだか違う鳴き方をしたやつがいた気がした――ツインテールの娘たちを取り囲みはじめた。女の子たちは怯えてへたりこむが、テレビ局のカメラを意識したポーズをとっているように思えるのは気のせいだろうか。

 いろいろと思うことはあるが、ツインテールを守ることと、アルティメギルの迎撃が、自分たちツインテイルズのやるべきことだ。

 そう考えるとレッドと頷き合い、近づいて行く。

 ある程度近づき、ブルーが戦闘員(アルティロイド)たちを見据えたところで、エレメリアンが立ち塞がった。『し』の字に曲がった鋭い大きな角から、猛牛や闘牛といった印象を受けるそのエレメリアンの体格は、ドラグギルディと同じかそれ以上に大きいが、受ける威圧感は比べるのも失礼なぐらい小さい。部隊員クラスのエレメリアンなのだろう。

「邪魔はさせぬぞ、ツインテイルズッ。我が愛する巨乳属性(ラージバスト)を広げるために、その大義を掲げ闘う(あるじ)のために、このバッファローギルディがお相手致す!!」

巨乳属性(ラージバスト)、ですって? つまり、あんたを斃せば、巨乳の属性玉(エレメーラオーブ)が手に入るのね?」

 求め続けていたものが手に入るかもしれない。そう頭に浮かび、身を乗り出しかけたところで、馴染んだ感触がツインテールに触れた。大きさや柔らかさなどはまったく違うというのに、ブルーの大好きな人の手だと不思議とわかった。

 隣を見る。思った通り、レッドがブルーのツインテールに触れていた。

「レッド?」

「落ち着け、ブルー」

 レッドの口から出てきたのは、制止の言葉だった。ちょっと心配させてしまったかもしれない、と改めて思い、微笑みながら言葉を返す。

「大丈夫よ、レッド。あたしは充分に落ち着いてるわ」

「ほんとか?」

「ええ。さあ、レッド。あいつを斃して巨乳属性(ラージバスト)をいただいて、念願の巨乳になるムネ?」

「落ち着いてるように見えねーよ!? 変な語尾までついてんじゃねーか! とにかく落ち着け!」

 ブルーの言葉に、なぜかレッドは慌てた様子でツッコミを入れてきた。

 なにかおかしなことを言っただろうか、とブルーが首を傾げたところで、彼女は頭を抱えてため息をついた。

 気を取り直すように(かぶり)を振ったレッドが、思い出したように呟いた。

「それにしても、巨乳属性(ラージバスト)なんて俗な属性、ホントにあるんだな」

「俗な属性とは、言ってくれるな、幼子よ」

 レッドの呟きが聞こえたのか、バッファローギルディが耳聡く反応した。聞きようによっては貶すような言い方ではあるが、レッドにそういった気はないとわかっているのか、あるいは別にどうでもいいことなのか、バッファローギルディはただ、しみじみと語りはじめた。

「とはいえ、おぬしのような幼子にはまだわかることではないか。願わくば、成長とともに胸も大きくなると信じる純粋さを失うでないぞ。そして、たゆまぬ練磨も忘れてはならぬ。それらを放棄したなれの果てが、この中にも大勢いる人工的な」

「成長とともに大きくなると信じて練磨も欠かしてないはずなのに大きくならない場合は、どうすればいいのかしらねえ」

「きょ、にゅう」

 バッファローギルディの言葉の途中でブルーが呟くと、なぜか彼は言葉を止めた。バッファローギルディだけでなく、どういうわけか周りの音も止まったように感じた。

 周囲の視線がみんな自分にむけられていることをなんとはなしに感じながら、ブルーは微笑んでバッファローギルディに言葉を続けた。

「あら、どうしたのよ。続けなさいよ。あきらめずに続ければいつか大きくなる、って言いたいんでしょ。でも、それで大きくならなかったら、どうすればいいのかしら?」

 バッファローギルディが、気圧されるように一歩後ずさった。

 そのことに気づいたのか、バッファローギルディはハッとした様子を見せると、前のめり気味に構えをとった。

「ツインテイルズ、覚悟おおおおおおおーーー!!」

 威勢のいい雄叫びを上げたバッファローギルディが、角を突き出して猛然と突っこんでくる。その声は、どこか恐怖をごまかしているようにも聞こえた。

 

 

 恐ろしい。

 自分の言葉を遮ったテイルブルーの声と、彼女からむけられたなんの感情も見えない瞳に、バッファローギルディはそんな思いを抱いてしまった。

 言ってみれば、純粋な恐怖。こいつには勝てないと、背をむけて、恥も外聞もなく逃げ出したくなるような、そんな思いだった。

 人の精神、属性力(エレメーラ)を奪うエレメリアンである自分が、ツインテールの戦士とはいえ、人間相手に怯えてしまうとは。

 これでは、自分に期待をかけてくれた、敬愛する(あるじ)に顔むけできぬ。

 そう考え、自らを奮起させると、さらに勢いをつけるため雄叫びを上げ、ツインテイルズ、いやテイルブルー目掛けて突撃する。ほんのわずかな間でも恐怖に負けた自分を乗り越えるために、まずはテイルブルーを倒す。

 パワーと巨体を最大に生かした、小細工なしの突進(チャージ)。それこそが猛牛。

「ブルー!」

「レッド、今回はあたしに」

「えっ、あ、ああ」

 テイルブルーが、声を上げたテイルレッドを手で制し、バッファローギルディを見据えてくる。構えも取らず棒立ちのままで、避ける様子もない。

 舐めているのか。いや、あれはハッタリで、おそらくバッファローギルディが目前まできたら変化を行うつもりだろう。だが、それも狙いのひとつだ。

 巨体を生かしたパワー殺法がバッファローギルディの好むところではあるが、バッファローギルディは技巧も低くはない。突進(チャージ)を回避することに気を取られ、防御が甘くなった相手の隙をつくのも、バッファローギルディの戦法のひとつだった。そこからなる尻尾のモーニングスターによる奇襲は、そうそう避けられるものではない。

 絶対の自信を持つ武器をひとつ持っておき、磨き上げ、その武器を最大限に生かす戦い方が、(あるじ)であるリヴァイアギルディの好む戦法だ。そしてそれはリヴァイアギルディだけでなく、バッファローギルディをはじめとする、彼の部下のほとんどに言えることだった。

 もう数歩で、テイルブルーにたどり着く。なのに、彼女にまだ動きはない。

 さらに近づいた。それでも、彼女は動かない。

 ぶつかる。

「っ!?」

 そう思った瞬間感じた手応えに、バッファローギルディの身体が硬直した。避けられたのではない。止められた。

 なにかしてくるにしても、直前で躱すか、足下を狙うといったところだろうと高をくくっていたバッファローギルディを嘲笑(あざわら)うかのように、突き出された二本の角が、テイルブルーの両腕で捕まれ、止められていた。多少はうしろに退()げさせられたが、それもわずかなものだった。

 いままで何人もの戦士を倒してきた、バッファローギルディ最大の攻撃である突進(チャージ)。それが、いともたやすく止められてしまった。

 角を掴んだまま、テイルブルーがバッファローギルディの身体を軽々と持ち上げた。

「ガッ!?」

 投げ捨てられ、衝撃に思わず声が洩れた。痛いわけではないが、精神的なショックの方が大きかった。

 倒れたまま、テイルブルーの姿を改めて見る。

 ツインテール以外に見るところのない、巨乳とはほど遠い貧乳の娘。

「――――」

「う!?」

 バッファローギルディがそう思ったところで、テイルブルーの顔が険しくなり、さらに鋭く睨みつけられた。殺気を叩きつけられ、バッファローギルディの全身を恐怖が支配する。身体が震えないようにするのが、やっとだった。

 まさかやつは、人の身でありながら、他者の思考を読むことができるというのか。いや、間違いない。そうでなければ、あのタイミングでこれほどの殺気を放ってくるはずがない。

 死神。

 その言葉が、思い浮かんだ。

 死など、恐れてはいなかった。戦士なのだ。いつかその時が来るだろうと思っていた、はずだった。

 しかしいま目の前に、その死を体現するような者がいる。そのことに、自分の戦士としての覚悟が崩れていくような感覚を覚えた。

 身体が、恐怖で震えそうになった。

「ッ、ウ、ウオオオオオオオーーーッ!!」

 雄叫びを上げながら立ち上がり、テイルブルーにむかって再度突進する。さっき止められたのは、迷いがあったからだ。今度は余計なことはなにも考えず、ただ押し潰すことだけを考える。

 バッファローギルディのすべてを懸けた、正真正銘、最大の突進(チャージ)

 テイルブルーが飛び出すような構えをとったが、知ったことではない。

 なにをしてこようと、ただ突撃するだけだ。恐怖とともに、ねじ伏せるのみ。

 瞬間、テイルブルーの姿が、バッファローギルディの視界から消えた。

「なっ、にっ!?」

 声を上げかけたところで、身体になにかがぶつかった。気がついた時には、バッファローギルディの身体が、きりもみに回転しながら宙を舞っていた。バッファローギルディの突進(チャージ)を受けた者がそうなるように。

 バッファローギルディの躰が重力に負け、頭から地に落ちていく。

「グアッ!?」

 そのまま地面に激突すると思ったところで、再びなにかがぶつかり、バッファローギルディは苦悶の声を上げた。それによってまたも自身の躰が宙を舞う。一瞬だけ、青い影が見えた気がした。

「オーラピラー」

「っ!?」

 聞こえた声は、静かな、小さなものだった。だというのに、その声は不思議と鮮明に聞こえた。

 水流とともに、恐怖がバッファローギルディの躰を縛った。

「エグゼキュート」

「ゴッ!?」

 テイルブルーの声が聞こえると同時になにか鋭い物、テイルブルーの槍がバッファローギルディの背中に突き立てられた。そのまま、すさまじい勢いで移動させられる。むかう先で、テイルレッドが剣を構えているのが見えた。

「グランド!」

 炎が噴き上がる剣を振りかぶり、テイルレッドがこちらに鋭く跳躍した。

「ブレイザアアアアアアアーーー!!」

「ウェイブ」

 雄叫びとともに横薙ぎに振るわれたテイルレッドの剣と、バッファローギルディの背中に突き立てられたまま静かな声で放たれた槍に挟まれ、凄まじい衝撃と同時に、躰が砕けたように感じた。

「――――」

 これが、死か。

 無様だな、と粉々になっていく意識の中で思う。恐怖に負け、それをごまかし、無謀な特攻をかけた。たとえ冷静になっても結果は変わらなかったかもしれないが、それでもあの闘い方は、無様としか言いようがなかった。

 リヴァイアギルディの顔が浮かんだ。不思議と、テイルブルーへの恐怖が消えていく。

 期待に応えるどころか、このような無様な最期をお見せしてしまい申し訳ありません、リヴァイアギルディ様。あなたの勝利を、信じております。巨乳属性(ラージバスト)に、栄光あれ。

 主への信頼の念を最期に、バッファローギルディの意識が塵となっていった。

 

 

 ブルーにむかって、バッファローギルディが爆散したところから属性玉(エレメーラオーブ)が飛んで行く。彼女はそれに対して視線をむけず、しかし華麗にキャッチした。

「やったわ、レッド。巨乳属性(ラージバスト)、GETよ!」

「あ、ああ、うん」

「これで、これであたしはっ」

 さっきまで落ち着いていた、というか冷静を装っていたのだろう。ブルーが喜びを隠しきれない様子で呟いた。もっとも、冷静というより、苛烈、残忍、惨酷とでも付きそうな空気を撒き散らしていた気もしたが。

 それはともかく、彼女の顔をよく見ると、目の端に涙まで浮かんでいた。

「――――」

 周りに気づかれないよう、レッドは小さくため息をついた。

 テイルブルーの人気は高い。怪人ことエレメリアンに一歩も引かず、攻撃のことごとくを躱し、一瞬の隙をついては一撃で相手を屠るその姿はまさに、創作の中に出てくるヒーロー、もといヒロイン。

 ひとりで彼女が闘っていたころは、人前で笑顔を見せることはなく、エレメリアンを斃してもすぐに立ち去っていた。それも、孤高のヒーロー然として恰好いいと言われていた。

 ツインテイルズとして活動するようになってからは、衣装に関していろいろと言われてはいるものの、人気が落ちているということはない。むしろ、レッドにむけるものではあるものの笑顔も見られるようになっていることで、人気は上がっていると言ってもいい。『テイルレッド』自体の人気がとんでもないというのもあるが、そのテイルレッドが強く信頼していると感じられるのも、理由のひとつであるようだった。

 今回の闘いは、場所が場所だけにカメラに撮られまくっているだろうが、アルティメギルに対して容赦しないのはいつものことであり、世間でははじめて見る喜色満面の笑顔に加え、涙を浮かべたその姿。おそらくお茶の間で話題になるだろうことを考えると、レッド、というか総二としては複雑な気持ちになる。変な目でブルーを、愛香を見るな、と言いたくなるのだ。

 ただ、いまため息をついたのは、それが理由ではない。

 冷静になればわかることに気づかず無邪気に喜ぶブルーに、そのことを言うかどうか悩んだことによるため息だった。

「あ、あのー」

「え?」

 悩んでいたところに声をかけられ、ふりむく。ツインテールのグラビアアイドルの女の子たちが、何人か駆け寄ってきた。

「ツインテール、触って貰えますか?」

「はい?」

 いきなり、なんなんだ。唐突な頼みに困惑したところで、彼女たちは楽しそうに言葉を続けた。

「いま噂になってるんですよー。テイルレッドちゃんにツインテールを触って貰うと幸せになれるって!」

「ええっと、ブルーは?」

「テイルブルーさんに触って貰うと、悪いものが逃げていくとか勝負事に勝てるとか言われてますね」

「そ、そうですか」

 確かにブルーの御利益があれば、悪いものは逃げていきそうだ。それに、レッドにとっての勝利の女神ではある。しかし、どこから出てきたんだ、その噂。そもそもツインテールを触って幸せになるのはレッド自身であり、なにより、見知らぬ女の子たちのツインテールを触るわけにはいかない。

 取り囲んでいた女の子たちが、一斉にツインテールを突き出してきた。

『お願いしま~す!』

「い、いや、そのっ」

 触りたいという欲望と、やってはいけないことだ、という理性の声がせめぎ合う。

「――――っ」

 欲望に負け、思わず手が出そうになったところで、朝と、ここに来る前の部室で愛香に誓ったことを思い出した。

「ごめんっ。俺が触るのはあい、じゃなくってブルーのだけって決めてるから!!」

『へ?』

 一瞬、本名を言いそうになったが、大きく声を上げた。

 レッドの言葉に女の子たちの躰が固まり、その隙を逃さず高く跳躍する。髪紐属性(リボン)で飛んで来たブルーがレッドの手を掴み、そのままその場をあとにした。

 

 ある程度の高度になったところで、腋の下に手を差しこまれ、ブルーに吊り下げられるかたちになった。

 その状態で運ばれて少し経ったあたりで、ブルーが口を開いた。

「そーじ。なんか、誤解されそうなこと言っちゃった気がするんだけど」

「あ、いや、つい」

「でも、ちゃんと言ってくれて嬉しかった。ありがと、そーじ」

「お、おう」

 喜びに満ち溢れたブルーの笑顔とツインテールに気恥ずかしさを感じ、レッドの顔が熱くなった。

 ニコニコとしていたブルーが、さっきとはまた違った様子で含み笑いを洩らした。

「ふふふっ」

「愛香、あー、えーと、その、う、嬉しそうだな?」

「うんっ。アレを手に入れたからには、もうトゥアールに馬鹿にされずに済むしね!」

「そ、そうか。そうだな」

 はっきり言っていいのか踏ん切りがつかず、レッドが当たり障りのない言葉で訊くと、ブルーはやはり満面の笑顔を返してきた。いまにも鼻歌を唄い出しそうなほどご機嫌な様子のブルーに、レッドは生返事をすることしかできなかった。

「――――」

 ブルーに気づかれないよう、レッドはこっそりとため息をついた。

 別に大きくなくてもいいのではないか。愛香には悪いのだが、総二としてはそう思わなくもない。

 少なくとも総二は、愛香の胸が好きだ。貧乳、巨乳のどっちが好きだというものではなく、愛香の胸だから好きなのだ。柔らかさはなくとも、愛香の胸は温かくて、この上ない安らぎを総二に与えてくれる。トゥアールに抱き締められた時もあったが、あちらは柔らかくて気持ちはよかったものの、安らぐことはできなかった。

「うふふっ」

 そう。いまされているように、腋の下から腕を差しこまれてはいるが、抱き締められて顔がその胸に触れていると、やはり安らげる。

「――――、――――、――――っ!?」

 いつの間にか体勢を変えられていたことに驚く。どうやら考えこんでいる間に持ち替えられていたらしい。

 愛香から抱き締められることは、ほとんどない。ドラグギルディとの闘いのあとに抱き締められたのが最後だったはずだ。頼めばやってくれるとは思うのだが、貧乳をコンプレックスとしている愛香に頼んで嫌がられはしないだろうか、と不安になることもあって、お願いしたことはなかった。そして、愛香の方から進んで抱き締めてきたことも、いままではなかった。

 それだけ嬉しいということなのだろう。そう思えば、いまは夢を見せてあげていてもいいのではないだろうか。決して、愛香の胸に顔を(うず)めていたいからこんなことを考えているわけではない。ないったらない。

 どちらにしても、わずかな間のことなのだから。

「――――」

 なんで俺には、なんの力もないんだろう。

 これから愛香を襲うであろう絶望。それから彼女を救う力を持たない自分の至らなさ。

 ブルーに抱き締められながら、レッドはテイルブレスを持つ前に抱いていた時と同じ無力感に(さいな)まれた。

 




 
開幕、と言うかゴング前に十割と、掟破りのハリケーンミキサー返しからの合体攻撃によるオーバーキルは、どちらが酷いのか。
 
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