あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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二〇一七年一月八日 修正
 


2-8 新たな決意

 なんで。どうして。

 その思いだけが、愛香の頭の中を埋め尽くしていた。

 求め続けた。願い続けた。祈り続けた。努力だって、欠かしたつもりはない。自分でできる限りのことは、し続けてきた。例えるなら、殺意の塊と言える必殺技を活人技に昇華させるような、途方もない努力を続けてきたのだ。

 しかし、ダメだった。

 なにも変わらなかった。求めるものは手に入らなかった。

 そしていま、これならばと希望を見出(みいだ)し、裏切られた。

 絶望。きっといま自分の心を占めているのは、そうとしか言いようのないものなのだろう。頭の中の冷静な自分が、そんな他人事のような感想を洩らした気がした。

 神なんていない。奇跡など起こらない。それでも、あきらめきれなかったのだ。奇跡がなかったとしても、それに代わるなにかが起こってくれると、信じていたのだ。

「愛香」

 大好きな人の、総二の声が聞こえた。床に座りこんだまま、愛香は顔を上げた。力が湧かず、ノロノロとした動きになっていた。

「そーじ」

 総二の顔は、悲痛なものを感じさせる表情だった。だが同時にその瞳からは、それでもなにかを伝えようとする強い光があった気がした。

「ねえ、そーじ。なんで、なんでなのかな。これなら、これならきっとって、そう思ったのにっ!」

「愛香」

 愛香が(かぶり)を振って嘆くと、総二は身を(かが)め、愛香の肩に手を置いた。

「そーじ?」

 改めて、彼の顔を見る。

 総二は一瞬辛そうに顔を歪めて顔を逸らしたが、すぐに愛香の瞳を見つめ返すと、意を決した様子で口を開いた。

「愛香。もういいかげんあきらめろ」

「っ、でもっ」

「仮に使えたとしても、いままで名目通りの効果だったことなんてあったか?」

「っ!」

 愛香の言葉を遮った、総二の言葉に絶句する。視界が、涙でにじんでいた。

 総二は決然とした態度を崩さぬまま言葉を続ける。

「わかってるんだろ。兎耳属性(ラビット)だって、ウサ耳が生えてくるわけじゃなかったんだ。そのことに気づかないおまえじゃないだろ!?」

「それでも!」

 総二の言葉に、叫び返した。

「それでもあたしには、最後の希望だったのよ!? なのに、なのに、――――なんで!」

 言葉が詰まった。泣き崩れながらも、振り絞るように愛香は叫んだ。

「なんで巨乳属性(ラージバスト)が使えないのよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「だから使えても巨乳になれるわけじゃないだろうがああああああああ!!」

 愛香の嘆きの声と、総二のツッコミが、室内に響いた。

 

 

 基地の一室で、作戦会議を進める。

 まず、トゥアールが口を開いた。

巨乳属性(ラージバスト)が発動しなかったのは、純度の問題ですね」

「純度か。あいつの話を聞いていた限りじゃ、巨乳属性(ラージバスト)ひと筋って感じだったけどな」

「まあ、単純に属性力(エレメーラ)が低いってだけかもしれませんけどね」

 エレメリアンの(コア)である属性玉(エレメーラオーブ)と、それを利用することであらゆる特殊能力を発動できるテイルギアの機能、属性玉変換機構(エレメリーション)。言ってみればこれは、テイルギアの切り札のひとつだ。身も蓋もない言い方をすれば、敵を斃せば斃すほど強くなれる機能とも言える。ただ、トゥアールにもひとつ計算違いがあった。

 これまでに愛香が斃してきた者も含め、斃してきたエレメリアンの数はかなりの数になる。しかし、手に入れている属性玉(エレメーラオーブ)のすべてが発動できたわけではないのだ。

 リザドギルディの人形属性(ドール)。タトルギルディの体操服属性(ブルマ)。フォクスギルディの髪紐属性(リボン)。ラビットギルディの兎耳属性(ラビット)。タイガギルディの学校水着属性(スクールスイム)。そして先日闘ったクラブギルディの項後属性(ネープ)。このあたりのものだった。

 愛香が闘ったというフォクスギルディの属性玉(エレメーラオーブ)髪紐属性(リボン)だが、わずかに人形属性(ドール)も混じっているらしい。その話をした時、人形を作りだしていたのはそのためか、と愛香も納得した様子を見せていたが、それはとりあえず置いておく。

 人間の属性力(エレメーラ)とは、つまりは趣味嗜好であるが、それがひとつしかないという者はそういない。エレメリアンもまた、(コア)としている属性力(エレメーラ)のほかに、別の属性力(エレメーラ)を備えてしまうことがあるらしかった。

 だがエレメリアンの場合、あとから得た属性力(エレメーラ)が大きくなればなるほど、(コア)である本来の属性力(エレメーラ)の純度が下がるらしい。

 人間ではまずそんなことはあり得ないが、属性力(エレメーラ)そのものの存在であるエレメリアンはそんなことも起こり得るのだろう、というのがトゥアールの結論であった。その純度が低い物は、属性玉変換機構(エレメリーション)で使用できないのだろうとも。

「まあ、それはそれとして、気になるのは今日のバッファローギルディの言葉ですね」

(あるじ)のために、ってやつか。新しい戦力が補充されたって考えるべきかな?」

「そう考えるのが妥当でしょうね。いままでの情報から推測するに、やつらはいくつもの分隊を作っており、侵攻する部隊に大きな被害が出たら、ほかの部隊が援軍に来る。そんなシステムになっているものと思われます」

「なるほど」

 トゥアールの言葉に、総二は思わずため息をついた。

 こちらの戦力は、総二と愛香、サポートにトゥアールの三人だけ。トゥアールが切り札と見越していた属性玉変換機構(エレメリーション)も、使用に耐えうる属性玉(エレメーラオーブ)を手に入れられなければ戦力強化は望めず、どんな効果が発揮されるかも、いざ手に入れて使ってみなければわからない。ドラグギルディ級の実力を持つ幹部がこれから来ないとも言えないし、エレメリアンの総数は不明。

 ほんとうに、勝てるのか。

「っ」

 頭にそんな言葉が浮かび、総二は(かぶり)を振った。そして、なにを弱気になっているんだ、と自分を叱りつける。

 三人しかいない、ではない。三人もいるのだ。

 愛香もトゥアールも、たったひとりで闘い続けた。総二には、戦場で背中を預け合って闘える愛香と、闘えなくともうしろから支えてくれるトゥアールがいてくれる。そんな恵まれた環境にいる自分が、弱気になってどうするのだ。

 それに愛香は、総二のためにずっと、つらい気持ちを押し殺して闘ってくれた。そんな彼女を、愛するツインテールとともに、この手で守り抜くと誓ったのは総二自身ではないか。

「総二様」

「大丈夫だ、トゥアール。俺たちは、負けない。そうだろ?」

 心配そうなトゥアールに、笑みを浮かべて応える。トゥアールは少しの間キョトンとすると、優しく微笑んだ。

「頼もしいですけど、ちょっと残念ですね」

「ん?」

「大丈夫です、総二様のツインテールを愛する心に限界なんてないんですから、って励ましてあげようと思ったんですけど」

 いたずらっぽく笑う彼女の言葉に、今度は総二がキョトンとした。すぐに苦笑する。

「それは、悪いことしたかな?」

「さあ、どうでしょうね?」

「ハハハッ」

「フフフッ」

「――――」

 二人で笑い声を上げるが、室内の空気はどこか重苦しかった。というか重苦しい空気を少しでも変えるために笑い声を上げてみたのだが、かえって重苦しさが強調されたようにも思えた。

 笑うのを同時にやめると、重苦しい空気の中心である愛香に、二人で顔をむけた。彼女は変身したまま総二の隣の席に着き、突っ伏していた。辛気臭いを通り越し、気の毒なものすら感じさせた。

 バッファローギルディを斃し、総二とともに基地に帰って来た愛香は、変身を解かずに属性玉変換機構(エレメリーション)巨乳属性(ラージバスト)を発動させようとした。その時の愛香の笑顔は、とてもとても嬉しそうなもので、総二も釣られて笑顔を浮かべてしまいそうになるほどのものだった。もっとも、嫌な予感でいっぱいだったため、実際に笑顔になることはなかったが。

 嫌な予感は、当たった。

 愛香が、属性玉変換機構(エレメリーション)の取り付けられている左腕を掲げて声を上げ、なにも起こらなかった。

 彼女は何度も属性玉変換機構(エレメリーション)を発動させようとしたが、やはりなにも起こらず、左腕を叩いたり、振り回したり、噛んだり、美しさすら感じる演武を行ったり、しまいには不思議な踊りらしき動きをとったが、結局なにも起こらなかった。

 それでもあきらめず、何度も何度もくり返すごとに、彼女の顔から笑みが失われていき、最後には瞳とツインテールから生気が感じられなくなった。それはまるで、これが絶望というものだ、とでも言っているかのようだった。

 あきらめない心というものは、とても大切なものだと思う。だが、引き際を誤れば、それはただ見苦しいだけであり、見る者の心に悲しみをもたらすだけのものになってしまうのではないだろうか。

 そして総二は、愛香のその姿から眼を(そむ)けるような心持ちで、彼女の悲しき闘いを止めたのだった。

 

 ため息をつき、総二はブルーの頭とツインテールをなでた。ブルーは一瞬、ビクンと躰を震わせたが、机に突っ伏したままだった。

 総二は(かぶり)を振って再びため息をつくと、トゥアールに視線をやり、会議の続きを促した。トゥアールがひとつ頷く。

「とりあえず、使用できる属性玉(エレメーラオーブ)の効果について、改めて説明させていただきます。まずは人形属性(ドール)ですが、これは人形(にんぎょう)を操ることができます」

「人形って、普通の人形か?」

「人の形に近い無機物全般のことですね。ひょっとしたら、フォクスギルディの時の人形も、これを使えばあっさり奪えていたかもしれません」

 トゥアールが目を伏せた。合流するのを遅らせていたことを、気に病んでいるのかもしれない。

「トゥアール」

「申し訳ありません。話を続けましょう」

 気にしすぎるな、と言おうとしたところで、トゥアールが再び顔を上げた。

 大丈夫です、と言っているように思え、総二は頷いた。

「次は体操服属性(ブルマ)ですが、重力の操作を可能とするようです」

「タトルギルディは妙に軽やかな動きをしていたって愛香が言ってたけど、それによるものかな?」

「おそらくは。無機物だけでなく有機物、それこそ人間やエレメリアンにも作用させられるようですね。うまく遣えば攻撃力の底上げもできるでしょうし、相手の動きのリズムを狂わせることもできるかもしれません」

「なるほど」

 トゥアールの言葉に頷く。ツインテール属性ひと筋で行くと決めてはいるが、愛香は属性玉変換機構(エレメリーション)を戦闘の主軸に加えて闘っている。愛香との連携を密にするためにも、彼女の遣える能力をきちんと把握しておかなければならない。

「次は髪紐属性(リボン)ですね。これに関しては総二様も何度か目にしていると思います」

「飛行能力だな。でも、フォクスギルディは別に飛んだりしてなかった、って愛香が言ってたけど、どうして属性玉変換機構(エレメリーション)で使うと飛べるようになるんだ?」

「これはですね、属性玉変換機構(エレメリーション)で発動する能力というのは、実は属性力(エレメーラ)ごとに決まっているんです」

「どういうことだ?」

「簡単に言うと、斃したエレメリアンの能力が使える、ではなく、この属性玉(エレメーラオーブ)から抽出できる属性力(エレメーラ)からは、こういう能力が発動できる、ということなんです。例えば、それまでに斃したエレメリアンと同じ属性力(エレメーラ)を持つエレメリアンを斃したとします。そのエレメリアンがもしも別の能力を使っていたとしても、どれだけ実力に開きがあっても、獲得できる属性玉(エレメーラオーブ)から発動できる能力は変わりません」

「そういうことか。ってことはこの先、それまでに斃したエレメリアンと同じ属性力(エレメーラ)のやつが現れたとしても」

「こちらの戦力が増強されるわけではありませんね。それに別の能力を使ってくる可能性もありますから、油断はしない方がいいでしょう」

「わかった」

 いまのところ、同じ属性力(エレメーラ)(コア)とするエレメリアンは現れていないが、先に闘った相手と同じように考えるのは足を(すく)われる可能性がある。どんな相手であろうが、油断するべきではないだろう。

「続けます。次は兎耳属性(ラビット)。跳躍力の強化です。脚力自体はそこまで強化されていませんので、攻撃力よりも機動力の強化と言えます」

「単純だけど、かなり便利そうだな」

「そうですね」

 ほかに言えることがない。続けて貰う。

「タイガギルディの学校水着属性(スクールスイム)。地面などを水のように泳ぐことができるようになりますが、エレメリアンの攻撃を透過させることなどはできませんので、使いどころには注意してください」

「おう」

「最後は項後属性(ネープ)です。武器のリーチを伸ばすことができます。リーチを伸ばすのは一瞬で済みますので、これもうまく遣えば、かなり強力だと思われます。さすがに、音の五百倍の速さで十三(キロ)や、とはいきませんが。以上です」

「わかった」

 なんで音の五百倍とか十三(キロ)という言葉が出てきたのかはわからないが、効果のほどはわかったので頷いておく。

 トゥアールが飲み物の注がれたカップを持った。ひと口、ふた口飲み、カップをそっと机に置いた。

「ねえ、トゥアールちゃん。ちょっと気になったんだけど」

「はい。ドラグギルディのツインテール属性のことでしょうか?」

「ええ」

 問いかけたのは母、未春だった。

「ほら、ドラグギルディのツインテール属性の属性玉(エレメーラオーブ)でテイルギアをパワーアップ、とかできないのかしら?」

「残念ですが、属性玉変換機構(エレメリーション)でツインテール属性を使用するのは危険なんです。本来、同種の属性力(エレメーラ)を共鳴させるのは、強大な力を生み出すことができるものの非常に不安定で、ともすれば暴走する可能性すらあります」

「テイルギアの説明の中に、ギアの(コア)と装着者のツインテール属性を共鳴させてる、ってものがなかったかしら?」

「あります。これは、ひとつを装甲の生成、もうひとつはその制御という別々の役割にすることで、その問題をクリアしてるんです」

「なるほどね」

「まあ、そんなわけです。確かに、暴走せずに使えれば、大きな戦力になるのは間違いないのですが、少なくとも現状では無理です」

「二倍に掛け合わせるのってお約束だと思ったけど、いろいろと難しいのね」

「ってなんで当たり前のように交ざってんだよ、母さん!? しかもそんな恰好で!」

 残念そうに言う母に、総二は思わずツッコミを入れた。

 母の服装、と言うより衣装は、自作らしきボンデージ風の衣装にマントをつけた、悪の女幹部のような恰好だった。どうにか視界に入れないようにしていたのだが、とうとう我慢できなくなったのだ。

 現在進行形で中二病にかかっており、トゥアール発案の地下基地建造に喜んでOKを出した未春は、なにかとその地下基地に顔を出す。顔を出すというか、日課というレベルで来る。

 まあまあ、とトゥアールが総二を宥めてきた。その彼女も、なぜか普段とは違う恰好になっていた。いつも以上に露出の多い黒いボンデージ風の服、というか水着っぽいものに、棘の付いた肩当て、ファンタジー作品においてビキニアーマーと呼ばれる衣装の上にマントを羽織っており、さながら悪の女魔導士――見本――といった風情だった。マントの上にいつもの白衣をさらに羽織っているため、かなりシュールな絵になっているが。

 トゥアールが、顔をキリッとさせた。

「総二様。闘う者だけでは視野が狭くなりがちです。日常の象徴であるお義母(かあ)様の意見を(たまわ)ることで、思いがけないアイディアが浮かぶかもしれません」

「すでにそのコスプレ自体が非日常極まりないだろうがあああああああ!!」

 母のコスプレが日常になっている一般家庭など、どこにあるというのか。

 叫んだあと、肩を落としてため息をつくと、絞り出すように言葉を吐き出した。

「関係ない母さんを、これ以上巻きこみたくないんだよ」

「関係あるわ。お腹を痛めて産んだ我が子が、世界を守るヒーローなんですもの」

「その世界を守るヒーローのお腹が、躰の中からチクチク刺されているような痛みに襲われているんですけど、原因に心当たりはありませんか母上様!?」

 お腹というか胃が痛い。体内に侵入してきた怪人に中から攻撃されてるかのように痛い。あっちは心臓だが。

「――――」

 自分でもよくわからない例えを思い浮かべたあと、総二は頭を抱えた。

 十五歳、いわゆる思春期の子供にとって、三十六歳の母親のノリノリのコスプレを見せつけられるなど、よほど特殊な趣味を持った者でもなければ罰ゲーム以外のなにものでもないだろうと思う。正直、非行に走っても文句は言われないだろう、というかむしろ同情すらされそうな気がした。

「でも、もったいないじゃない。あんなに強敵だったんなら、必ずなにかの役に立つと思うし、総ちゃんたちの友だちだったんでしょ?」

「――――ああ」

 返事は、少し遅れた。ブルーも、わずかに躰を身じろぎさせた気がした。

 母は優しく微笑むと、労わるように言葉を続けた。

「ドラグギルディもきっと、総ちゃんたちの力になりたい、って思ってる気がするの。友だちの力になりたいって思うのって、普通のことでしょ?」

「母さん」

 母の言葉に、少し心が軽くなった気がした。誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。普段はチャランポランな人ではあるが、こういう時の母の言葉は、不思議と心を打つものがあった。

「それに、総ちゃんと愛香ちゃんのはじめての共同作業だしね。あんなことになって大変だったとは思うけど、きっと二人のいい思い出になるわ。最後の二人の合体なんて、母さん感動して泣いちゃった。総ちゃん成長したなあ、って」

「なんだか別のことに聞こえるからやめろおおおおおおお!!」

 ニヤニヤしながら、総二といまだ机に突っ伏したままのブルーを見て言われた言葉に、総二は絶叫した。確かにツインテイルズとしてはじめての『共同作業』だし、ドラグギルディへの最後の一撃は二人の『合体』というか同時攻撃だが、なにか別のことに聞こえ、恥ずかしさで躰が熱くなった。

「くっ、まだです。まだ童貞は奪われていません。まだチャンスはありますっ!」

 ハンカチではなくマントの端を口に咥え、悔しそうに歯噛みしながら、トゥアールが自分に言い聞かせるように呟いていた。

 

 ひとつ息をついたあと、そういえば、と総二は母の方に顔をむけた。

「って、なんで母さん、ドラグギルディとのことを知ってるんだ?」

「ああ、それね。トゥアールちゃんからその時の映像を見せて貰ったのよ」

「あー、それでか」

 返された言葉に納得する。いったいどれぐらい記録されているんだろうと思ったが、いまは置いておく。

「確かに、ドラグギルディの力を借りれるんなら助かるけど、属性玉変換機構(エレメリーション)で使えないんじゃどうしようもなくないか?」

「うーん。そうですね」

「そうねえ」

 総二の言葉に、トゥアールと母が悩まし気に唸った。

 あれほどにツインテールを愛したドラグギルディの属性玉(エレメーラオーブ)の純度が低いことなど、あり得るわけもない。だが、使い道が問題だった。

 あっ、と母が思いついたように声を上げた。

「ねえ、トゥアールちゃん。その属性玉(エレメーラオーブ)(コア)にして、もうひとつテイルギアを作るっていうのはどう?」

 一般人の視点から出る提案だろうか、と思いつつ、総二はその言葉に頭を抱えた。

「母さん。まさか自分がテイルギアを装着して闘おうなんて」

「心配しなくても、母さんにはツインテール属性がないでしょ、総ちゃん」

「まあ、そうだけど」

 世界を守るヒロインになるのが夢だった、などという話を聞いているのだ。いろいろと心配になる。というか母も変身して一緒に闘うなどということになったら、いろんな意味で胃がヤバい。

 母が、優しい眼で総二に微笑んだ。

「それにね、母さんは確かに昔、ヒーローに憧れていたけど、いまはヒーローの母、観束未春なの。母さんは総ちゃんの母親だってだけで、充分幸せなの」

「母さん」

 さっきとは違った温かさが胸に広がり、総二はなにも言えなくなった。母の恰好を見て現実に帰り、別の意味でなにも言えなくなったが。

 今日何度目になるかわからないが、総二は(かぶり)を振った。気を取り直し、母の提案を改めて考える。

「でも、そうだな。仲間が増えてくれるのは心強いかな」

 三人もいるのだ、という思いに嘘はないが、それでも仲間が増えてくれるに越したことはないとも思う。

 総二の言葉に、トゥアールが少し考えこむそぶりを見せた。

「確かに、そうかもしれませんね。お二人の力を信じていないわけではありませんが、アルティメギルの戦力を考えると、単純な戦力増強も必要かと思いますし」

 これ以上、誰かを巻きこむのか、という思いは確かにある。トゥアールもそう思っているのだろう、どこか口調は重かった。しかし、言葉の前に一瞬だけ口の端の涎を拭り、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべたように見えたのは、気のせいだろうか。

「そーじ」

「ん、どうした、愛香?」

 いつの間にか顔を上げていたブルーから声をかけられ、問い返す。

 彼女は、なにか言いたげに口を開きかけては、なにも言わずに口を閉じるということをくり返していた。

 心配そうな彼女の様子に、ふっと思い当たることがあった。

 微笑みながら優しく語りかける。

「愛香。俺の一番好きなツインテールは、おまえのツインテールだ。誰がツインテイルズに入ったって、それだけは変わらない。信じてくれないか」

「うん。そーじのことは信じてる。けど」

「愛香」

 自分を信じ切れていない、ということなのだろうか。なんと言ったらいいのかわからず、総二が口ごもったところで、トゥアールが口を開いた。気を遣ってくれたのか、普段より明るい調子だった。

「どちらにしても、テイルギアの予備を作っておくのは悪くないと思います。特に愛香さんのギアは年季が入ってますし、新調も考えるべきかもしれません」

「別にいいわよ、これで。デザインはともかく」

 ブルーもトゥアールの気遣いを感じたのか、左腕――噛んだりしたせいか左腕に唾液がついている――を軽く叩きながら、さっきより明るく返事をした。最後にボソッと呟かれた言葉に彼女の複雑な思いを感じたりもしたが。

 ブルーの言葉に、トゥアールが苦笑した。

「いえ、というかですね、属性玉(エレメーラオーブ)を使ったハイブリッド技術を試してみたいんですよ」

『ハイブリッド?』

「はい」

 トゥアールの言葉に総二とブルーが揃わせて聞き返すと、彼女はコンソールパネルに設計図らしきものを表示させた。

 総二には難しすぎて理解しきれないが、テイルブレスと属性玉(エレメーラオーブ)が結ばれていることに、なにか象徴のようなものを感じた。

「総二様のテイルギアは、装着すると幼女化しますよね。でも別に、私の幼女属性が組みこまれているとか、そういうわけではないんです」

「あんた確か、私の趣味ですって言ってなかったっけ?」

「趣味であることは間違いありませんよ?」

『ああ、うん』

 ブルーの言葉にさらっと返されたトゥアールの言葉に、総二とブルーは揃って納得した。

「話を続けますと、どうして幼女化するのか、原理はいまだにわかりません。でも、この偶然を必然にすることもできるんじゃないか、って思ったんです」

「えーと、つまり、属性力(エレメーラ)の掛け合わせを人工的に再現する、ってことか?」

「はい。属性玉変換機構(エレメリーション)で使うことはできなくても、さっきの巨乳属性(ラージバスト)をうまく新しいテイルギアに組みこめば、装着者の身体変化には作用するかもしれません」

「っ!」

 ブルーの瞳とツインテールに、輝きが戻った。

「じゃあ、巨乳に変身できるテイルギアが作れるの!?」

「まだ研究段階ですので、はっきりとは言えませんが、可能性はあります」

 トゥアールの言葉が終わるか終わらないかというタイミングでブルーが、どうやったのかわからないが座ったままの姿勢で高く跳躍した。彼女は空中で変身を解除してトゥアールの前に着地すると、両手を胸の前で組み、祈るように見つめ、懇願をはじめた

「お願い、トゥアールッ。完成したらそのテイルギア、あたしにちょうだい!!」

「いまので充分ってさっき言ったじゃないですか!!」

「新しいのができるんなら話は別よ! このテイルギア、起動する時コーホーって音が鳴るし、計算する時カチャカチャ音がうるさいし、三十分過ぎるとオーバーヒートするし、バージョンアップができないなら早めに交換しないと!!」

 どこの戦闘(ファイティング)コンピューターなんだ。氷の精神で闘っていそうな愛香の言葉を聞いて、そんなわけのわからないことが頭に浮かぶと同時に、それはもとの持ち主に失礼だろうと総二は思った。トゥアールの顔を(うかが)うと、彼女は満面の笑みを浮かべていた。なにやら邪悪なものを感じた。

「そうですか~、欲しいんですか~」

 また惨劇が起こるのだろうか。楽しそうなトゥアールの声に、総二はそう考えざるを得なかった。

 トゥアールが愛香の貧乳を(いじ)るたびに起こる、愛香の容赦なき蛮獄殺を思い出す。総二と愛香の触れ合いを邪魔された時は、愛香はそこまで苛烈な攻撃をすることはない。いや常人に行えばスプラッター間違いなしな攻撃ばかりなのだが。

 それはともかく、貧乳を弄られた時の攻撃の凄まじさは、その比ではないのだ。そしてそれは総二にも止められない。

 それは、トゥアールもわかっているはずだ。それなのになぜ、貧乳を弄るのをやめようとしないのだろうか。

「ほーっほっほっほっほっほ!」

 総二がため息をついたところで、トゥアールが高笑いを上げた。なんとなく、悪の女魔導士――見本――がやりそうな笑い方に思えた。

「それじゃあ、まずはいままでの非礼を詫びて猛虎落地勢、もとい土下座でもしてもらいましょうか。その次に地面に這いつくばって、私を様付けで敬うように」

「トゥアール様っ、いままですみませんでした!!」

『っ!?』

 なんのためらいも見せずに愛香が、叫びとともに猛虎落地勢、もとい土下座をした。信じられない光景に総二とトゥアールが目を剥くと、愛香はやはりなんの逡巡も見せず、四肢を投げ出して床に這いつくばった。

「ヒイイイイイイイイッ!? 蛮族が平身低頭!? どころかほんとうに這いつくばるなんて!?」

 困惑と恐怖が全面的に出てしまっているトゥアールの叫びに、総二も茫然としながら内心で同意してしまう。そこまでして愛香は、胸が欲しいのか。

「や、や、やめてください、愛香さんっ、頭を上げてください! どうせあとで仕返しするつもりでしょう!?」

 怯えているのだろう、トゥアールの声は震えていた。それも無理もない、と総二はやはり茫然としながら思った。

 愛香が、這いつくばったまま顔を上げた。

「っ!?」

「お願い、しますっ」

「け、血涙っ!?」

 慟哭(どうこく)。そうとしか言いようのないものだった。愛香にとって決して頭を下げたくないはずの、ライバルと見ているトゥアールに対し、愛香は神に縋るかのように懇願していた。

「愛香。おまえ、そこまでして巨乳にっ」

「あたしの最大の欠点は、胸がないこと! 母性の証があたしには備わっていない!!」

「う、ううん?」

 愛香の叫びに、総二は困惑の声を洩らした。

 別に胸がなくとも母性は備わっている女性はいるだろうし、愛香の胸に抱かれている時に安らぎを感じていた総二としては、戸惑うしかなかった。

「女は誰だって胸が欲しいのよっ。スカした顔して、別に胸なんてどーでもいいし、とかほざいてる女だってね、ちょっと胸ぐら掴んで軽く揺さぶってやれば、やっぱ欲しいです、って本音が出るんだからね!?」

「なんでそんな具体的なんだよ!? やったことあるのか!?」

「総二様」

 なんだかいろいろとこわい想像が頭に浮かび、総二が大声でツッコミを入れたところで、トゥアールが首を振り、真顔で語りかけてきた。

「総二様。愛香さんの言葉はすべて否定して生きていたい、がモットーの私ですが」

「いや、なかなかヒドイな、そのモットー」

「私ですが」

 トゥアールの言葉に思わず総二が感想を洩らすが、気にしないでくださいとばかりに彼女は言葉を続ける。

「これに関しては同感です。胸がどうでもいい女なんていません。毎日が一喜一憂、人生の命題。女にとってはそういうものです」

「そ、そんなに――」

 なんと言っていいのかわからず、総二はそんな言葉しか返せなかった。

 静かな、しかしとてつもなく強い意志を感じさせる愛香の声が聞こえた。

「もし巨乳になれるのなら、大いなる意思をも滅ぼすわ」

「そんな理由で滅ぼされたらさすがにたまったもんじゃねえだろ。それがなにかはわからんけど」

「ああ、胸が欲しい。胸が」

「――――」

 切々とした愛香の言葉に、総二は天を仰いだ。

 これは、巨乳を求める乾いた魂、という声が聞こえた気がした。なんだかもう、悪魔とかと融合してでも乳が欲しそうなほどに思えた。

 なぜ神は、いや大いなる意思は、愛香にもうちょっとだけでも胸を与えてくれなかったのだろうか。そうすれば滅ぼされずに済んだだろうに。どこかの堕天使長もびっくりだろう、とよくわからないことが頭に浮かんだ。

「愛香さん」

 トゥアールが(ひざまず)き、愛香の肩にそっと手を置いた。

「わかりました。その願い、聞き届けましょう」

「トゥアール様!」

 感極まったように、愛香がトゥアールの腰に抱き着いた。胸ではなく腰なあたり、やはり巨乳に対する思いは複雑なものがあるようだった。

 口の端だけ上げたニヒルな笑顔で、トゥアールが言葉を紡ぐ。

「フッ、敵に塩を送るとは、私もとんだ甘ちゃんですね」

「ありがとうっ、ありがとうございます、トゥアール様っ。この御恩は一生忘れません!」

「いいんですよ、愛香さん。私たちは友だちじゃないですか」

 満面の笑顔で礼を言う愛香に、トゥアールも満面の笑顔で返した。

 いろいろ複雑な思いはあっても、どれだけ喧嘩しても、やっぱり愛香とトゥアールは親友なんだな、と総二は思った。

 腰に抱き着く愛香を邪悪な笑顔で見下ろしたトゥアールに、一抹(いちまつ)の不安を感じながら。

 

 

*******

 

 

 キーボードを軽やかにタッチする音が、ツインテール部の室内に響いていた。

 音の出どころは、トゥアールが新型テイルギアの設計を行っているノートパソコンからだ。

 制服の上に白衣を羽織り、淀みなく作業する彼女の姿に総二は、はじめて出会った時の神秘的な姿を思い出した。そういえば最初見た時だけは、そんな印象だったんだよなあ、といろいろと残念な思いを多少なりとも抱きながら、トゥアールの作業する姿を見続ける。

 明日からまた連休になるな、と総二はふっと思った。

「テイルギアが完成するまでどれぐらいかかるんだ、トゥアール?」

「そうですね。新しい機能を組み込むため、基礎設計からやり直す必要がありますので、ゴールデンウィーク明け、といったところでしょうか」

「そうか。――――無理する必要はないからさ、ゆっくりでいいよ?」

「総二様、声に、そこはかとなく元気がありませんよ?」

「うっ」

 内心愕然としつつ、平静を装って言ったつもりだったのだが、お見通しだったのだろう、トゥアールは苦笑していた。

「別に総二様たちまで無理する必要はありませんし、せめて愛香さんのツインテールを触るぐらい、いいのでは?」

「いや、我慢するよ。トゥアールが頑張ってるのに、そういうことはしたくない」

 一瞬、彼女の言葉に頷きそうになったが、さすがにこの状況でチャンスがどうこう言うのは酷すぎるだろうと思う。愛香とも話して決めたことだ。新型のテイルギアができるまで、勝負はお預けにしよう、と。彼女もまたそう思っていたのだろう、素直に頷いてくれた。

 なんだか惑わされているというか、主旨がずれているような気がするが、きっと気のせいだろう。

 フフッ、とトゥアールが楽しそうに笑った。

「まったく。律義ですよね、二人とも。でも、ありがとうございます」

 どこか申し訳ないような響きがあったように感じたが、彼女はそこで喋るのをやめると、再び作業に集中しはじめた。さっきより早くなったような気がした。

 総二も椅子に座り直し、テイルギアができあがるまでの時間の意味を考える。

 あの広大な地下基地をひと晩で造り、この部室の改造を一時間もかからずに終わらせられるトゥアールが、何日もの時間をかけてやっと作り上げるテイルギア。ほんとうにとてつもないものなんだな、と総二は改めて思った。

 そして、彼女が人々の属性力(エレメーラ)を守るために遣っていた青のテイルギアと、彼女が大切にしていたツインテール属性を(コア)に作られた、赤のテイルギア。その二つを託されたことに重いものを感じながらも、きっとその信頼に応えてみせる、と再び強く思い定めた。

「あ、総二様」

「ん?」

 ふとトゥアールが、楽しそうに語りかけてきた。

「今日は疲れて無防備に倒れる予定なので、その時はよろしくお願いしますねっ。疲れのためにいろいろとはだけているはずですので、いろいろよろしくお願いします!」

「いや、だから無理するなと」

「トゥアール様、お茶です」

 頭を押さえながら総二が言葉を返したところで、愛香がティーカップをトレイに載せて運んで来た。躰の芯がまったくぶれない、いまさらながら見事な動きである。

 トゥアールが笑みを浮かべ、愛香の方を見た。

「はい。ご苦労様です」

「あたしのために貴重な連休を潰していただき、誠に申し訳ございません」

「いいんですよー。大事な友だちの、ひいては総二様のためであり、世界のためですからね」

 労いの言葉に、愛香がなんの感情も感じられない抑揚のない返事をすると、トゥアールがティーカップに口をつけた。飲んだかどうかも判断できないほどわずかにカップを傾かせると、すぐにトゥアールは愛香の持ったトレイにティーカップを戻した。

「なにか盛られていたら困りますので、このお茶は愛香さんが飲んでください」

「は、い。わかりました、トゥアール様」

 トゥアールの言葉を受けた愛香が、部屋の隅に(しつら)えてある、茶道具を並べてある机の方に戻っていく。

 なんだかんだでなにかと攻撃されていることへの仕返しなのか、なかなか地味な嫌がらせをトゥアールは行っていた。そして愛香は、なにを言われても、なにをやらされても、ただ笑顔で唯々諾々(いいだくだく)と従っていた。

「そういえば総二様、ツインテイルズの食玩が発売されてきてるんですけど、ちょっとこれを見ていただけませんか」

 そう言ってトゥアールが表示させたパソコンの画面に、眼をむける。

「全部で九種類。内、テイルブルーとテイルレッドが四種類ずつに、シークレットでテイルブルーが以前着ていたギアのものがひとつです」

「ツインテールの作りこみが甘いな。躍動感が足りない。一番力を入れなきゃならない部分だろうに」

 ちょっと待っててください。本物のツインテールをお見せしますよ、などとなぜか頭に浮かんだが、それも仕方ないだろうと思う。自分たちツインテイルズの最大の魅力は、ツインテールのはずだ。そこに力を入れないでどうするのか。

「それで、これがどうしたんだ?」

「ええ。テイルブルーの造形を見てください」

「ん?」

 促され、テイルブルーフィギュアの造形をまじまじと見つめる。

 ツインテールの作りこみは、やはり甘い。

 尻を見たところで、先日揉みしだいた愛香のお尻の感触を思い出した。

「っ」

 顔が熱くなり、ほかの箇所に眼をむける。なんとなく首に視線が行き、吸い付いた時の思い出した。

 慌てて視線を背中に移すと、やはり背中にキスした時のことを思い出してしまい、顔も躰も熱くなり続ける。

「ツインテールはともかく、デザイナーはなかなかいい仕事してますね~」

「あ、ああ、そうかもなっ」

 なんだか骨董品とかを鑑定するようなノリを思い出したがそれはともかく、トゥアールの楽しそうな声に慌てて返すと、彼女はその調子のまま声を上げた。

「ええ、見てくださいよ、この胸! いっそ美しさすら感じられる見事な直線です! 安易に膨らませることを良しとせず、あるがままを表現したすばらしいデザインです!!」

「――――」

 トゥアールの言葉に、総二はチラッと愛香の顔を見た。

 愛香は、笑顔のままだった。ただ、その笑顔に似つかわしくない、息苦しさすら感じるほどの、凄まじい気が(ほとばし)っているように思えた。ツインテールが逆立ち、バチバチというスパークが躰の周囲に見えそうな気すらした。

 ひょっとしたらトゥアールは、心臓に毒薬入りの指輪を埋めこまれて余命一ヶ月になっており、それを知っているためにこんなことをしているのではないだろうか。

 そうでなければこんな、自ら高度数百メートルの高さの崖にむかって全力疾走するような、自殺まがいのことはできないだろう。

 カタカタと、なにかが鳴っている気がした。

 総二自身から、その音が鳴っていることに、少しして気づいた。

 歯の根が合わず、躰が震えていた。

「そーじ?」

「っ」

 総二を見て首を傾げた愛香が、ああ、と納得する様子を見せ、手をパタパタと振った。

「なに震えてんのよ、もうっ。別にこれぐらいなんでもないわよ。あたしだってトゥアールにいろいろしてきたしね。まあ、罪滅ぼしよ」

 そう言って愛香は深呼吸すると、口の端だけ持ち上げる笑顔を作った。しかし眼は笑っておらず、暗く濁った光があるように見えた。

「なにより、胸が大きくなれるって思えば、この程度のこと、なんてことないわ」

 笑顔というものは本来、威嚇するためのものだと聞いたことがある。

 愛香の笑顔と、その時のツインテールは、総二に安らぎをもたらしてくれるものだ。しかしいまの笑顔からは、その美しいツインテールと併せても落ち着けそうにない、圧倒的プレッシャーがあった。

 もし、ここまで我慢していながら、結局巨乳になれなかったら。

 不意にそんなことが頭に浮かび、背筋が震えあがった。

 奇跡よ。奇跡じゃなくてもいい。それに代わるなにかがあるのなら、起こってくれ。頼む。

 いままで生きてきた中で、これ以上ないほど真摯に、総二はなにかに祈りを捧げた。

 

 




  
イチャイチャはあまり増やせず、文章の修正とかが主に。流れ的にしょうがないけど、もっとイチャイチャさせたい。修正が終わったらイチャイチャさせるのだ、と頑張る。

エレメーラオーブの効果ですが、ある程度独自解釈の部分があります。ご了承ください。
 
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