あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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二〇一七年四月三十日 修正
 


2-9 手を取り合って

 ゴールデンウィークと称される大型連休が終わり、総二たちは地下基地のコンソールルームに集まった。

 連休の間、エレメリアンは一度も現れることなく、世の中は平和なものであった。世の中は。

 なぜ自分の告白の妨害には、タイミング悪く現れるというのに、待っている時には現れてくれないのか。勝手ながらも、総二はそんなことを思ってしまった。一度でも出て来てくれたなら、ここ最近の愛香から感じる(そら)恐ろしいほどのプレッシャーも、少しぐらいは(やわ)らいだかもしれないのにと。エレメリアンには申し訳ないが、ストレス解消的な意味で。

 待っていたのは、エレメリアンの出現だけではなく、連休が早く終わることもだった。

 正確に言うと、連休が終わること自体を望んでいたわけではなく、連休が終わるあたりで完成する予定の、三つめのテイルブレスを待っていた。

 それによる愛香との触れ合いの再開も理由のひとつではあるがそれ以上に、日に日に愛香から、怒りやら殺気やら、そんな不穏な気配がどんどん強くなっているように感じられるのだ。トゥアールにこき使われていることが原因なのだろうことは想像に(かた)くなく、完成が遠くなればなるほど、それが残念な結果になってしまった時、愛香がどれほどの惨劇をもたらすのか、総二は気が気でなかった。

 頼む、うまくいってくれ。そうやって毎朝毎晩、なにかに祈りを捧げ続けていた。これほどまでに真剣に祈ったのは、やはり生まれてはじめてだった。

 ただ祈っていたわけではない。総二なりに、愛香のストレスを和らげることを狙って、彼女との組み手も行っていた。汗をかけば、ちょっとはスッキリするだろうと思ってのことだ。

 もちろんそれだけが狙いではなく、総二自身の戦闘技能向上も大きな理由だ。普段の状態では愛香の家の道場を使って、時には変身した状態で、地下基地にある訓練場を使って模擬戦を行ったりしていたのだ。

 結果として、狙いの半分は果たされたと思う。エレメリアンとの実戦を行ったわけではないのではっきりとは言えないが、愛香の動きは前より見えるようになっていたし、対応もできるようになってきた。いままでずっと修練を重ねてきた愛香が本気を出したら、それなりのブランクがある総二が敵うものでもないのだが、それでも前よりは強くなったと思いたい。まあ残像をまとって動くなどという、肉体的に人類の限界突破をしてるようにすら思える愛香には、ブランクがあろうとなかろうと勝てる気がしないでもなくもないが、その辺は深く考えず、強くなることだけを考える。

 それはともあれ、理由のもう半分である、愛香のストレスを和らげるという方は、失敗した。いや、汗をかかせるぐらいには激しい組み手をしていたのだが、それが、ある意味では失敗だった。

 汗をかき、軽く肩で息をし、上気してほんのりと赤く染まった愛香の姿を見て、押し倒しそうになったのは一度や二度ではない。愛香も同じだったのだろう、総二を見て、ボッと顔をさらに赤くしていたことが何度もあった。

 しかし、勝負は一旦おあずけにしようと誓った手前、ほんとうに押し倒すわけにはいかない。実はやりそうになった時もあったが、その時は、これが私のライフワークですとばかりにいつも通りトゥアールが乱入し、阻止された。誓った手前、邪魔されたことに対して文句を言う気はないが、それはそれとして愛香のストレスは溜まっていく。他人には言えないが総二も、欲望的なものが溜まっていく。

 とにかく連休は終わり、予定通りテイルブレスが完成した。

 ドラグギルディの属性玉(エレメーラオーブ)、ツインテール属性を(コア)とした、三つめのテイルギアが。

「ついに、ついに完成したんですね、トゥアール様っ。巨乳ブレスが!!」

(コア)属性力(エレメーラ)変わってるぞ、おい!?」

 浮かれまくった愛香の言葉に、総二は思わずツッコミを入れた。よほど嬉しいのか、地下基地のコンソールルームが普段より熱く感じられるほど、彼女から熱気を感じた。

 まあ確かに、我慢に我慢を重ね、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の念で待ち望んだ瞬間であることを考えれば、愛香の喜びようはわかる。それだけに、うまくいかなかった場合どうなってしまうのだろうか、という不安が総二の頭から離れなかった。

 さわやかな笑顔を浮かべたトゥアールが、鮮やかな黄色の腕輪、テイルブレスを愛香に差し出した。

「さあ、愛香さん。どうぞ、これを。御所望(ごしょもう)のテイルブレスです」

「うん!」

 笑顔のトゥアールに愛香も満面の笑顔で返し、受け取った。どちらもいい笑顔のはずなのに、トゥアールからは邪悪さを、愛香からは異様なこわさを感じた。

 青のテイルブレスをはずし、黄のテイルブレスを右手首に()めた愛香が、笑顔のまま総二にむき直った。こちらにむけられる笑顔からは、こわさは感じなかった。

「そーじ、見ててね!」

「お、おう」

「ちゃんと見ててね。あたしが巨乳になるところ!」

「わ、わかってるって」

 嬉しそうな愛香はよく見れるが、こんなにはしゃいでいる愛香は珍しかった。

 得した気分にはなったものの、不安が胸に居座り続ける総二は、引きつった笑顔を返すことしかできなかった。

 愛香が、右腕を高々と掲げた。

「テイル・オン!!」

 力強い愛香の声が、室内に響いた。

「――――」

「――――あれ?」

「え?」

 響いただけだった。

 嫌な予感が的中した総二はなにも言えず、愛香とトゥアールは不思議そうな声を洩らし、眼を(しばたた)かせていた。

 再び愛香が腕を掲げ、さっきよりも強く声を張り上げた。

「テイルッ、オーンッ!!」

 しかしなにも起こらなかった。

 まばゆい光が降り(そそ)いだり、笑う大魔神が現れたり、あやしい霧が立ちこめたりといったこともなかった。

 ただ、変身に失敗しているというよりは、テイルブレスが反応しているように見えなかった。

「どうしてっ、どうして変身できないのよ!?」

 ブンブンブンと腕を振り回し、泣きそうになっていた愛香が、トゥアールに顔をむけた。

「トゥアールッ、このギア、失敗作じゃないの!?」

「そんなはずありませんっ。変身だけは、絶対にできるはずです!!」

「じゃ、じゃあ、どうしてよぉ――」

 自分でも納得がいかない様子のトゥアールの言葉に、愛香がその場に力なくへたりこんだ。その瞳は、いまにも泣き出しそうに潤んでいた。

 さっきのトゥアールの言葉に多少引っかかるものはあったが、いまはどうでもいい。

 嫌な予感が的中してしまったことに総二は天を仰ぐと、祈りを捧げていたなにかに心の中で恨み言を言い、愛香にむき直った。

 ここからは自分の役目だ。そう考えると総二は、愛香に近づいてしゃがみこみ、優しく抱き締めた。

「そーじ?」

 不思議そうな愛香の声に総二はなにも応えず、彼女の背をぽんぽんと優しく叩いた。

「っ」

 愛香は顔を総二の胸に押し付け、声もなく泣きはじめた。

 彼女の背中を、時に頭やツインテールを優しく撫で、愛香がちょっとずつ落ち着きはじめたところで、総二はトゥアールに顔をむけた。

「なあ、トゥアール。もしかして、最初に使ったブレス以外は使えない、ってことはないか?」

「いえ、無理やり奪われないようにセキュリティは組みこまれていますが、そもそも世界最高レベルのツインテール属性がなければ変身できません。本人以外に使えないようにするセーフティの類は意味がないので、もともとつけていないんです」

「そうか」

「一応、総二様も使ってみますか?」

 トゥアールの答えに落胆しながら総二が返事をすると、彼女は遠慮がちに問いかけてきた。

 その言葉に、自分が身に着けている赤のテイルブレスを見やる。

「あっ」

 ふっと頭に、心に浮かぶものがあった。同時に、なぜ愛香が変身できなかったのか、わかった気がした。

 愛香の手を取り、彼女が持ったままだった青のテイルブレスに触れる。不思議そうに見つめてくる愛香に微笑むと、トゥアールに顔をむけた。

「いや、せっかくだけど、俺はこれでいいよ」

「愛香さんに、遠慮してらっしゃるんですか?」

 ひょっとしたら、幼女にならずに済むようになるかもしれませんよ、と続けられ、総二は苦笑した。

「いや、遠慮してるってわけじゃない。まあ、幼女にならずに済むかもしれないってのは魅力的だと思うけど」

 そこで言葉を切ると、総二はテイルブレスを嵌めた右腕を掲げた。

「でも俺は、これがいい。トゥアールのツインテール属性と想いを託された、このテイルブレスが。大切な、ツインテールと、愛香を守ることができた、一緒に闘いを乗り越えてきた俺の相棒。だから俺は、これがいい。これで闘っていきたいんだ」

「総二様」

 トゥアールが、ハッとした様子で声を洩らした。

 彼女の瞳を見つめたまま、言葉を続ける。

「だからさ、俺がそのブレスをつけても変身できないんじゃないかって、なんとなく思うんだ。テイルギアは、心に応えるものだからさ。きっと愛香もそう思ってるから、変身できなかったんじゃないかって、俺は思うんだ」

「そーじ」

 愛香とちょっとだけ見つめ合い、彼女の頭をなでると、トゥアールに再び顔をむけた。

「新しいブレスは、いつか必要になった時のためにとっておいてくれ。俺たちは、これで勝ち続けてみせる」

「でも、愛香さんは巨乳になりたかったんじゃ」

「ううん、いいわ。あたしが間違ってた」

「愛香さん?」

 泣いたために眼が赤くなっているが、愛香はすがすがしい笑顔でトゥアールの言葉を遮ると、そのまま言葉を続けた。

「そーじの言う通りよね。トゥアールから託されて、一緒に闘いを乗り越えてきたんだもの。ここでこいつを使わなくなるなんて、薄情ってもんよね。――――ごめんね、トゥアール。あたし、すごく酷いこと言ってた」

「愛香さん」

 愛香の言葉にトゥアールが(かぶり)をふり、沈痛な表情を浮かべた。

「愛香さん。私こそ、ごめんなさい」

「え?」

「私、愛香さんに復讐するつもりだったんです。ほんとうは、身体変化のための属性力(エレメーラ)ハイブリッドなんて、机上の空論でした。ただ単に私は、意気揚々と新しいテイルブレスをつけても全然胸が大きくならない愛香さんを見て、胸が大きくならない? 私にとって愛香さんとの約束は破るためにあるんですよギレラレ~、異世界の技術を用いようが、愛香さんのおっぱいが貧乳であるという真実をごまかすことなんてできないんですよシャババババーッ、って指差して大笑いするつもりだったんです」

「それなら、あたしだってそうよ、トゥアール。目的の物さえいただいたら、あとはもうさんざんこき使ってくれた仕返しに、いままであたしにむけて使ってきたあんたの発明品を下敷きにしたリングの上で、あんたの九つの急所を封じて半殺しならぬ九割八分殺しにしてやろうと思ってたんだもの」

「愛香さん」

「トゥアール」

「――――」

 さわやかな笑顔をむけ合って語られた二人の思惑を聞いて、総二の背中を冷や汗が伝った。

 なにか、とんでもないことを暴露し合っているように思えるのは、気のせいなのだろうか。

 いや、きっと気のせいだ。そうでなければ、こんな、今後の付き合いに間違いなく支障が出るだろう言葉をお互いに聞いて、笑顔になれるわけがない。おそらく、自分の耳か脳がどうかしてしまったのだろう。

 流れる嫌な汗をそのままに眼を泳がせた総二は、必死に自分にそう言い聞かせた。

 

 突然、バイオリンのような弦楽器を奏でた音色が室内に響いた。

 愛香と顔を見合わせ、トゥアールに視線を戻すと、彼女はすでにモニターを確認していた。

 トゥアールの顔が、一気に険しくなる。

「総二様、愛香さん。アルティメギルが現れました」

「いまのってアラーム音か?」

「え?」

「いや、前のとも違うなって思ってさ」

 なんとなく気になり総二が訊くと、トゥアールは不思議そうに眼をパチパチさせた。

 ああ、と得心がいったように、トゥアールが頷いた。

「同じのだけを鳴らすのも芸がない気がしたので、いくつかパターンを作ってみました。もっと増やす予定です」

「わかりづれえよ!?」

 総二が叫ぶと、トゥアールが(かぶり)を振った。

「総二様。殺伐とした闘いの日々でも、いえ、だからこそ遊び心を、余裕をなくしてはいけません。それをなくしてしまったら人は、ただ闘うためだけのマシーンになってしまいます」

「闘う前の緊張感までなくしてどうする!?」

「確認したエレメリアンの反応は二体。それもおそらく、属性力(エレメーラ)の強さから推察されるに、ドラグギルディのような幹部クラスかと思われます!」

「おおい!?」

 総二が声を上げるが、トゥアールはやはり気にせずに報告してくる。

 いまのバイオリンのような音ならともかく、この間の陽気なトゥアールの台詞などが流れた日には、闘う前に気力が奪われかねない。いろいろと頭が痛くなってきた。

「――――」

 そう思いながらも、エレメリアン、それも幹部級の相手が出てきた以上、気にしている場合ではない、と大きく息をつき、総二は気持ちを切り替えた。

 いまだ抱き締めたままだった愛香と視線を合わせ、笑みを浮かべた。

「愛香。行けるな?」

「とーぜんでしょ?」

 総二の問い、いや確認の言葉に、愛香が不敵な笑みとともに答えてくる。おそらく、いまの自分も、同じような笑みだろう。

 二人で一緒に立ち上がる。

 総二と愛香が二人掛かりで挑み、紙一重で勝利をなんとかもぎ取ったドラグギルディ。そのドラグギルディ並みの属性力(エレメーラ)を持ったエレメリアンが、二体同時。

 絶望的であるはずなのに、不思議と負ける気がしなかった。

『テイル・オン!』

 高揚に身を任せ、総二は愛香とともにテイルブレスをつけた腕を胸の前にかざし、同時に変身する。

 愛香と、テイルブルーと並び、二人でトゥアールにむき直った。

「じゃあ、行ってくるよ、トゥアール」

「とりあえず、勝ってくるわね」

「今夜は祝勝会でも開きましょうか。総二様、愛香さん、ご武運を!」

 トゥアールの言葉に力強く頷き、レッドたちは基地の通路を駆け出した。

 必ず勝つ。胸にあるのは、その決意だけだった。

 

 

 戦場にむかうブルーの胸に恐怖はなかった。あるのは、必ず勝つという強い思い。そして、温かな安心感だった。

 ドラグギルディは、底知れない強さを持っていた。もう一度闘ったとしても、はっきり勝てるとは言い切れない。いや最後のドラグギルディの剣から感じた、迷いとも呼べないほどのほんのわずかな揺らぎがなかったら、負けていたのはこちらだっただろう。あれがなかったら、ブルーのオーラピラーは間に合うこともなく、仮に間に合ったとしても、拘束はもっと早く破られ、きっと打ち倒されていた。

 総二ほどはっきりとは言えないが、愛香もドラグギルディに対して奇妙な、友情にも似た思いはあった。

 ツインテールを求めながらも、自らでそれを作り出せない、奪うしかない悲しみ。しかしドラグギルディは、それでも自分はエレメリアンなのだと、誇りを見せ、闘い、散った。

 きっと彼は、愛香たちに敗れることを、心のどこかで望んでいた。総二も、なんとなくそんなことを感じたのだろう。

 それでもそれは、口にしてはいけないことなのだ、と思った。

 ドラグギルディは、エレメリアンとして、武人として、全力で闘った。それだけでいいのだと、不思議と思った。

 いまから闘う相手は、ドラグギルディと同等の属性力(エレメーラ)を持つらしきエレメリアンが、二体同時。ドラグギルディの強さを考えれば、絶望的とも言えるはずだ。

 それでも、恐怖などなかった。

 愛香はいま、ひとりではない。

 いつだって愛香を支え、守ってくれる、いや、ともに支え合い、守り合う、大好きな総二が。

 さっきお互いの心を伝え合った、恋敵(こいがたき)にして親友であるトゥアールが。

 そんな二人が、いてくれる。

 恐怖など、あるわけもなかった。

 二人と過ごす、騒がしくも大事な日々を守るため、総二の愛するツインテールを守るため、彼とともに幸せを掴むために、必ず勝つ。勝ち続けてみせる。

 改めて決意を胸に抱き、ブルーたちは戦場に繋がる光の門に飛びこんだ。

 

「この摩天楼を颯爽(さっそう)闊歩(かっぽ)する、巨乳のツインテールはおらぬかあー!!」

「違う! 私たちは、正しく貧乳のツインテールを求めなければならぬのだ!!」

 

 光の中を駆け抜けた先で聞こえてきた、ヒドすぎる二つの叫びに力が抜けたブルーは、レッドとともに盛大につまずき、その勢いのまま二人で道路を(えぐ)り砕きながら滑っていった。

 

 




 
全体的に文章を整える方向で。
もう少し、あと少し。
 
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