あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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お待たせしました。

スク水って書いてると、『トリガーハート エグゼリカ』が頭に浮かんでくる。続編出ないかな。無理か。無理だよなあ。

マジンエンペラーG 恰好いいなーってなりました。
チト鉄、イイよね、ってなった同志はいるだろうか。
 


2-9U 巨乳対貧乳

 合流したそれぞれの隊の母艦を連結させたことで、基地と隊の規模は、かなり大きなものとなった。あと残すは、部隊の統合。

 ツインテイルズの強さは、いままでアルティメギルの侵略に立ちむかってきた戦士の中でも最強クラス。いや、最強と言い切ってもいいかもしれない。

 ツインテール属性を拡散させる作戦は、アルティメギルからの技術流出によって、意図的に戦士を作り出させるのが基本だ。しかし、すでに属性力(エレメーラ)の技術がある世界や、あるいはいずこかの世界から渡ってきたのか、技術がない世界にもかかわらず、属性力(エレメーラ)を利用した装備を使う戦士がいる世界などが、時々あった。

 意図的に作り出される戦士の方は、幹部級ならたやすく倒せる程度になるようにするのだが、後者はごく稀に、幹部級でも斃されるほどの戦士が出てくる。アルティメギル最強の一角を謳われるドラグギルディは、そんな戦士たちが相手でも勝利してきた。

 だがツインテイルズは、そのドラグギルディを破ったのだ。

 そんな彼女たちに勝利するためには、全員が一丸となって掛からなければならない。そのために、スパロウギルディも含む各部隊の要人は、基地内の大会議室に集まり、連日にわたって会議を行っていた。

 しかしエレメリアンとは、なにかを愛する心、属性力(エレメーラ)から生まれた存在。相反する属性の者と手を取り合うのは、かなり難しい。部隊の統合という、場合によってはその相手側の下に就くということになれば、面白くない感情が先に立つのも充分にわかることだった。

 それを考えれば、いま目の前で起こっている結論の出ない会議も、仕方ないことなのかもしれない。

「おぬしたちもいい加減呆れ果てていよう、この世界の巨乳属性(ラージバスト)の少なさに」

「そう。大事な己の躰に刃を入れ、手軽に大きくしようという浅ましさが蔓延している。そんな付け焼き刃の乳があるために、巨乳属性(ラージバスト)は生まれぬのだ!」

「だが貧乳属性(スモールバスト)は違うぞっ。小さいからこそ、誇りが生まれる!」

「その通りだ。小さいからこそ愛が生まれるのだ!!」

「なにを言うか。安易な方法で大きくされた贋乳(にせちち)蔓延(はびこ)るからこそ、荒れ地に咲く一輪の花のごとき真の巨乳属性(ラージバスト)が栄えるのではないか!」

「そうだ。稀少だからこそ、巨乳属性(ラージバスト)は美しいのだ。限られた一瞬にこそ万人を魅了する在り方こそが真実(まこと)の巨乳、至高の美!!」

「貧乳で永劫の時を生きたとて、それは彫刻と変わらぬ!!」

「なにいーっ!!」

 部隊統合のための会議ではあるが、リヴァイアギルディの隊とクラーケギルディの隊は両部隊ともに一歩も引かず、それぞれの主張をぶつけていた。

 お互い、自分たちの主張を曲げることはない。しかし同時に、相手の主張を受け止めているようにも見えなかった。ただそれぞれが自分の言いたいことを言っているだけで、会議などと呼べるものではなかった。

「――――」

 周りに気づかれないよう、スパロウギルディはこっそりとため息をついた。

 そっと、リヴァイアギルディとクラーケギルディの姿を見る。ふたりとも、腕組みしたまま眼を閉じ、黙したままだった。ここ最近の『会議』の最中はずっとそうで、両者とも、なにかを()(はか)っているようにも見えた。

「これを見るがいい!」

 リヴァイアギルディの部下が、巨乳の女学生の写真をスクリーンに映し出した。勝利を確信しているような笑みが、その口許(くちもと)にあった。

 クラーケギルディの部下たちが、苛立たし気に唸り声を上げた。

「ぬうう~っ、またも下品な乳を映しおって~っ」

「はんっ、大きさだけしか見れぬとは、視野の狭い連中よ」

「なんだとっ!?」

「この、たすき掛けにされた鞄のベルトが沈みこみ、強調された巨乳。これこそまさに、天と地を創造せし、世界開闢(かいびゃく)の再現!!」

 その通りだっ、と、その言葉にほかのリヴァイアギルディ配下のエレメリアンが、揃って追従した。

「なにを言うかと思えば、世迷言を!」

 それをひと言で切り捨てたクラーケギルディ配下のひとりが、対抗するようにスクリーンを操作した。

 スク水をまとった、貧乳の少女の写真が映し出された。

『っ!』

「見よ、このスク水と貧乳の調和を。巨乳ではこうはいくまい。貧乳だからこそ、あらゆる衣装が()えるのだ!」

 タイガギルディ隊の者たちが目の色を変えたところで、クラーケギルディ隊のエレメリアンが声高らかに叫んだ。タイガギルディ隊はスク水で結託した部隊ではなかったが、いまは亡き隊長が愛し、求め続けたものである。心を揺さぶられて当然と言えた。

 先ほどの巨乳属性(ラージバスト)のエレメリアンが、非難の声を上げた。

「貴様、タイガギルディ殿の隊の者たちを取りこもうというのか。姑息な!」

「違うな。いかなる属性の者も、最後には貧乳属性(スモールバスト)に結実するということよ。大地の果ても、大空も、海のかなたも、すべては平面。平面とは貧乳を表すもの。世界の開闢が巨乳と言ったが、ならばこう返させてもらおう。万物は貧乳に還るのだと!!」」

 反論されたエレメリアンがギリッと歯を食いしばり、立ち上がった。

「もう我慢ならん!」

「面白い、受けて立つぞ!」

 スクリーンを遣ってプレゼンをしたふたりが、言葉ではなく、とうとう躰でぶつかり合いはじめた。それが決壊となり、ほかのエレメリアンたちも(おど)り出る。リヴァイアギルディとクラーケギルディたち本人を除く両部隊の者たちが、激突した。

 スパロウギルディたちドラグギルディ隊と、タイガギルディ隊の者たちはいったん下がりはしたが、どうしたものかと途方に暮れた。皆が皆、この事態を収拾して貰いたそうに、スパロウギルディの方に顔をむけてくる。

 周りのエレメリアンたちの視線を感じながら、スパロウギルディはリヴァイアギルディとクラーケギルディを見た。

「――――?」

 両者とも、ため息をついていた。どこかがっかりしているように見えた。

 ふたりが、同時に眼を開いた。

『っ!?』

 ふたりが眼を開いたと同時に、空気が変わった。動いてはならない、となにかに躰を押さえつけられているような圧迫感が、あたりを支配していた。

 激突していたエレメリアンたちが、いつの間にか動きを止めていた。彼らは躰を震わせながら、それぞれの隊長に恐る恐る顔をむけていく。

『静まれ』

『は――、はっ!!』

 リヴァイアギルディとクラーケギルディが同時に言うと、全員が全員、一瞬の硬直のあと一斉に敬礼し、さっきまで着いていた席に慌てて戻っていった。声は両者とも静かだったが、有無を言わせぬ凄みがあった。

 リヴァイアギルディが、ため息をついた。

「ここまでだな」

「ヒンッ、そのようだな」

 リヴァイアギルディの言葉にクラーケギルディが応じる。やはりどこか、残念そうな響きがあった気がした。

 リヴァイアギルディが、スパロウギルディの方を見た。

「スパロウギルディ」

「は、はっ。なんでございましょう、リヴァイアギルディ様?」

 スパロウギルディが慌てて応じると、リヴァイアギルディは苦々しい顔で口を開いた。

「部隊統合の件は白紙に戻す。俺の隊とクラーケギルディの隊はお互い不干渉とし、個々で制圧を開始する」

「っ、しかしリヴァイアギルディ様。お言葉ではありますが、ツインテイルズはまさしく過去最大の難敵。総力を結集しなければ」

「いや、無理に統合したところで、足並みを揃えられなければ無意味だ。それどころか、いまのままでは互いに足を引っ張り合うだけにしかなるまい」

「クラーケギルディ様」

 スパロウギルディの反論を遮ったクラーケギルディの言葉に、スパロウギルディは心の裡で納得していた。確かにこれでは、統合など夢のまた夢だろう。なにか両部隊が歩み寄るきっかけでもあれば話は別だが、このままでは望むべくもなかった。

 クラーケギルディが(かぶり)を振り、ため息をついた。

「しかし、情けないことだ」

「と申されますと?」

「ちゃんとした議論やぶつかり合いならば私も推奨するが、ただ相手を罵り、否定するだけの言い争いなど、時間の無駄でしかなかろう」

 淡々とした、しかしどこか苦々しさのあるクラーケギルディの言葉に、彼の部下とリヴァイアギルディの部下たちがうつむいた。

「ましてや昨日など、ゲームのキャラを持ち出し、あまつさえそのキャラが、巨乳貧乳どころか男の()キャラということにも気づかぬありさま。もはや乳の問題ですらない。これを情けないと言わずしてなんと言う」

「その通りだな。まさか俺の部下たちが、これほどまでに未熟者揃いだったとは」

 同意したのは、リヴァイアギルディだった。彼もまた、クラーケギルディと似た口振りで、両部隊の者たちはますます縮こまった。

 だが、その苛立ちに似た空気は、ふたりとも部下たちではなく、自分自身にむけられているように思えた。

 ふっとスパロウギルディは、ふたりが衝突するのは、本質が似ているからかもしれない、となんとなく思った。同質で真逆だからこそ、ぶつかるしかないということなのではないだろうか。いがみ合ってはいるが、お互い認め合っているようにも見えた。

 リヴァイアギルディが、気持ちを切り替えるように大きく息をついた。

「ツインテイルズの実力が生半(なまなか)なものでないことなど、俺の腹心であるバッファローギルディをたやすく破った時点で承知している。もっとも、あやつがあそこまで腑抜けだったことに失望もしているがな」

 吐き捨てるようなリヴァイアギルディの言葉だったが、それが本心でないことなど、そのなにかに堪えるように震える股間の触手を見れば、わかる。誰ひとり、クラーケギルディですら、その言葉になにも言おうとしなかった。

「話を戻すぞ」

 空気を変えるように、クラーケギルディが静かに口を開いた。全員の視線が彼に集中するが、クラーケギルディは特に気にした様子もなく言葉を続ける。

「それで、次の出撃だが」

「大変です!」

 そのクラーケギルディの言葉を遮り、ひとりのエレメリアンが血相を変えて飛びこんできた。

 クラーケギルディは眉をひそめながらも、飛びこんできたエレメリアンに落ち着いた様子で問いかけた。

「なにごとか?」

「『処刑人』、ダークグラスパー様が視察に来られるそうです!」

 返された言葉に、空気が一変した。

 部下たちがざわつく中、リヴァイアギルディが静かに訊いた。

「それは確かか?」

「まだ、確定情報ではありませんが、間違いないことかと」

「むう」

「御到着はいつになられるか?」

「いえ、それもはっきりとは」

 続くクラーケギルディの問いに返されたのも、そんな当てにならない言葉だった。

「遥か先の話か、それとも明日にでも姿をお見せになるのか。それとも」

 クラーケギルディが腕組みし、呟いた。

 部隊を持たず、首領の勅命を受けては単身で世界を渡り、ある任を果たす戦士、いや、『処刑人』、あるいは『処刑者』と呼ばれる存在。その任とは、組織の反逆者の処罰だ。

 ツインテールを(かろ)んずることなかれ。それが、アルティメギルにおける最大の掟であり、それを破った者は、すべからく反逆者として処刑されることとなる。今回のように事前に通達が来ることもあれば、秘密()に処理されることもあり、気がつくと隊員が減っていた、という話すらあった。

 一般隊員の間では、恐れられていると同時に、ほんとうにそんな存在がいるのか、と実在を疑われている存在でもあった。馴れ合いや意識の(ゆる)みを引き締めるための、言葉だけがひとり歩きしているだけの存在なのではないのか、と言う者もいた。もしほんとうにいたらと考えてしまえば、うかつなことはできなくなるものだ。それを狙っているのだろうと。そもそも、ツインテール属性とはエレメリアンすべてが愛するもの。それを軽んずる者などいるものか、と。

 幹部、あるいは副官など、部隊をまとめる立場にある者は、それが実在すると知っている。事前通告なしに秘密裏に処理される場合でも、その立場にある者には(のち)ほど報告されるためだ。もっとも、それを上官から部下たちに言うことはないが。

 『処刑人』は何名かいるが、ダークグラスパーは最も新しい『処刑人』である。

 ダークグラスパーとは、彼女とはスパロウギルディも面識があった。

 とある世界で、戦士を破り、属性力(エレメーラ)の刈り取りを行っている時、彼女の方からアルティメギルに交渉を持ちかけてきたのだ。その時の彼女は幼く、なんの力もなかったが、不思議な凄みを感じさせた。なんというか、一時間で六十通それぞれ文面の違う長文メールを送ってきそうな、そんなこわさがあった。なにより、凄まじい力を感じる『眼鏡』を持っていた。

 ドラグギルディがなにを考えていたのかわからないが、彼はその交渉に応じ、彼女を首領と引き合わせた。

 それからしばらく経って、新しい『処刑人』が生まれた。

 それが、『ダークグラスパー』。アルティメギルに属する、ただひとりの人間である。

 そういえば、とふとあることが気にかかった。ダークグラスパーの故郷である世界を守っていた、『トゥアール』という戦士のことだ。大々的に、世界にアピールして闘っていたことから、おそらく本名ではないだろう。ツインテールと小さな女の子が大好きだと、ちょっと調べた程度でわかるというかアピールしまくっていたほどの猛者(もさ)だったが、さすがに本名ではないだろう。

 それはともかく、スパロウギルディが知るツインテールの戦士の中でも『トゥアール』は、ツインテイルズに引けを取らない実力を持っていた。本気を出したドラグギルディと対等に闘い、さらにはツインテール属性を奪うことが叶わなかったのだ。ツインテール属性自体も強力きわまりなく、おそらく、究極と(もく)されるテイルレッドに次ぐほどの強さではないだろうか。

 『トゥアール』との闘いのあと、ドラグギルディはしばらくの間、機嫌がよかった。それまで見た中でも最上位に位置する美しいツインテールに加え、久しくなかった強者との闘いだったためだろう。その強さと美しさを讃えてか、ドラグギルディは『トゥアール』のことを、戦美姫(いくさびき)と称していたほどだ。

 ただ、それからいくらか経ったところで、ドラグギルディは首領に召喚され、なにかに思い悩むそぶりを時々するようになった。なにがあったのか、彼は誰にも話すことはなかった。なにも話されることなく逝ってしまったことについて思うところはあるが、もはや言っても(せん)無きことではあった。

 気になったのは、『トゥアール』が纏っていた装備のことだ。いま思えば、テイルブルーの使っている装備に似ていた気がした。強さもさることながら、デザインが似ていたのだ。『トゥアール』は巨乳だったが、その胸の谷間を強調するかのように、胸もとが大きく空いていた。テイルブルーの胸もとにも隙間があるが、あれが胸を強調するための隙間だとして、まったく胸がないのに、なぜあんなデザインの衣装を着ているのか疑問だったが、あれが御下がりならば納得もいく。

「っ!?」

 凍えるような悪寒が、背筋を走った。恐る恐る周りを見渡しながら、ドラグギルディの言葉を不意に思い出す。

 テイルブルーの乳について、決して触れるな。

 まさか、いまの悪寒は。

 そこまで考えると、思考をダークグラスパーのことに切り替えた。

 触れてはならないことだ。それに、『トゥアール』とテイルブルーがほんとうに関係あるかわからないし、わかったところでなにがどうなるということもないだろう。

「キョッ。このタイミングで来るのが、どうにも気にかかるな」

 リヴァイアギルディが訝し気に呟いた。

 『処刑人』の仕事は、あくまでも反逆者の始末である。連日の『会議』で動きを見せない自分たちに業を煮やし、本来の任とは違う役割でもってこちらに寄こされたという考え方はできるが、それが理由だとしても、妙に早すぎる気がした。

 リヴァイアギルディとクラーケギルディが考えこむそぶりを見せた。

 スパロウギルディもダークグラスパーのことに考えを巡らせ、またも『トゥアール』のことが思い浮かんだ。

 なぜ、と自分でも疑問に思ったところで、クラーケギルディが顔を上げた。一旦、考えるのをやめ、彼の言葉を待つ。

「いずれにせよ、ツインテイルズ打倒という我々の任務は変わらぬ。ダークグラスパー様が来るという話だけで、ほかになにも通達はないのだろう?」

「はい」

 クラーケギルディの問いに、報告に来たエレメリアンが答えた。

「ならば、考えすぎる必要はない。なすべきことをなすだけだ」

「それは、そうですが」

「私が出る」

『っ!?』

 続けてなんの気負いもなく紡がれたクラーケギルディの言葉に、スパロウギルディも含めて周囲のエレメリアンが驚愕した。落ち着いているのは、リヴァイアギルディだけだった。

「いや、俺が出る」

「リヴァイアギルディ様!?」

 やはり、なんら気負った様子もなく彼の口から出た言葉に、周囲がさらにざわめき立つ。

 クラーケギルディが、リヴァイアギルディを睨みつけた。

「いらぬ」

「それは俺の台詞だ。おまえこそ引っこんでいろ」

「先に言ったのは私だ。貴様こそ割り込むな」

 さっきまでの、連帯感すら感じさせるふたりの空気はなんだったのか。ふたりのギスギスした(にら)み合いに、周りの者たちが恐々としはじめた。

 助けを求めるように皆が視線を漂わせ、誰ともなくスパロウギルディにそれをむけてくる。自分の周りを見ると、ドラグギルディ隊の者も、タイガギルディ隊の者も、みんなスパロウギルディの方を見ていた。

 スパロウギルディ殿、お願いします。

 全員の視線が、そう言っていた。懇願すら混じっている気がした。

 基本的にエレメリアンは、単騎で出撃する。アルティメギル側の意図で作り出されたツインテールの戦士だけでなく、もとから世界を守っている戦士も、ひとりであることがほとんどなためだ。戦闘員(アルティロイド)はともに出撃することも多いが、彼らの主な役割は、属性力(エレメーラ)の回収や、エレメリアンが戦士との闘いに集中するためでしかない。

 いま睨み合っているふたりは、アルティメギルの中でも最強の一角を謳われるエレメリアンたち。同胞たちと切磋琢磨(せっさたくま)し、数々の強者と闘い、武功を積み重ね、その領域に辿り着いた。己の力に相応の自負を持っていることは想像に(かた)くなく、ましてや不倶戴天(ふぐたいてん)とも言える間柄(あいだがら)。互いに譲る気はないだろう。

 腹が痛むのを感じながら、大きく深呼吸する。二度三度と行ったところで、スパロウギルディは(はら)を決めた。

「おふたりとも、少々よろしいでしょうか」

「どうした?」

「なにか用か?」

 特に威圧してくる感じではないのだが、ふたりから同時に顔をむけられ、スパロウギルディは腰が引けそうになった。

 ほかのエレメリアンの陰に逃げ隠れたくなるような弱気が鎌首をもたげたが、自らの立場を思い出し己を奮起させ、言葉を続ける。

「おふたりで同時に出撃されるというのは、いかがでしょうか」

 ふたりの眼がわずかに細まったと同時、先ほどと同じく身を縛るような圧迫感が、その場に満ちた。周りのエレメリアンたちは、一様に顔を青褪(あおざ)めさせている。

 リヴァイアギルディが、静かにスパロウギルディを見据えながら、口を開いた。

「スパロウギルディ。俺たちに手を取り合えと、そう言っているのか?」

「滅相もございませぬ」

 リヴァイアギルディの言葉に、スパロウギルディは自分でも不思議に思うほど静かに返した。

「ツインテイルズは、テイルブルーとテイルレッドの二人からなる戦士たち。そして先ほど、リヴァイアギルディ様御自身が言われたではありませぬか。お互い不干渉とする、と。リヴァイアギルディ様とクラーケギルディ様がただ同時に出撃され、それぞれがツインテイルズのひとりひとりと闘う。手を取り合って闘えなどと、私ごときが言えるはずもありませぬ」

「ほう」

「ふむ」

 感心するようにふたりが声を洩らし、笑みを浮かべた

「確かに俺が言ったことだな。お互い不干渉とする、と」

「いいだろう。私に異論はない」

「俺も構わぬ」

 ふたりは、どこか愉しそうに見えた。それに、思った以上に、すんなりといった気がした。

 ひょっとしたら、試されたということなのだろうか。

 そんなふうに思いながらも、周りのエレメリアンたちからむけられた、尊敬するような眼の光に、スパロウギルディは誇らしくもこそばゆいものを感じた。

 

 

 会議室をあとにしたクラーケギルディは、やれやれと胸の内で呟いた。

 連日にわたる会議だが、収穫と言えば、スパロウギルディが思った以上に肝の据わった男であるというのがわかった程度だった。クラーケギルディとリヴァイアギルディの睨み合いに割って入り、言うべきことを言った。見事な胆力(たんりょく)だった。おそらく、リヴァイアギルディも同じことを思っただろう。戦闘能力は確かに大したことはないが、だからこそ、あの状況でああいった行動をとれる肝の据わり方は、尊敬に値する。

 それだけに、自分の部下たちの未熟さが歯がゆかった。ただ相手を認めぬだけでは、成長など望めるはずもない。相手の言い分を理解し、咀嚼(そしゃく)しながらも、己の弁を立てなければならない。議論、会議とはそういうものだ。

 だがそれは、彼らの長である自分の不甲斐なさの表れとも言えた。

 大切なものを伝えきれていなかった。そんな、忸怩(じくじ)たる思いがあった。

「気苦労が()えませぬな」

「む」

 背後からかけられた声に立ち止まると、クラーケギルディはゆっくりとふりむいた。

 美しい銀色の毛並みを持った、狼を思わせるエレメリアンがいた。

 クラーケギルディの部下ではない。リヴァイアギルディの部下でもないし、ドラグギルディ隊の者でも、タイガギルディ隊の者でもなかった。合流を命じられたわけでもなく、なにを思ってか所属する部隊を離れ、勝手にやってきたはぐれ者。

「フェンリルギルディ、だったな」

「はい」

 試しとばかりに少しだけ気を放つが、彼はなんてことないように応答してきた。少しと言っても、そこらのエレメリアンならそれだけでおじけづく程度ではあったのだが、どうやらだいぶ肝は据わっているらしい。

 その鋭い瞳には、強い光があった。ギラギラとした、力強い、しかし野心に満ちた光に思えた。

「それで、勝手に部隊をはずれてここに来たのは、どういった了見だ?」

「知れたことです。あのドラグギルディ様を斃し、あなた方ふたりが呼ばれるほどの強者、ツインテイルズ。アルティメギルに属するものであれば、興味を引かれて当然というもの。私めの力が役に立てばと、こうしてまかり越した次第です」

「ほう」

 白々しいと思ったが、口には出さなかった。おそらくフェンリルギルディも、それを信じて貰おうとは思っていないのだろう。とりあえず建前を言ってみたとばかりの、かたちだけ丁寧な物言いだった。

 要するに、ツインテイルズを自分の手で倒して功績を得ようということなのだろう。

「まあいい。だがひとつだけ言っておくが、功を焦りすぎるとろくなことにならぬぞ」

「誰にも理解されぬ属性に邁進すれば、焦っているようにも見えましょう」

「なに?」

 なにも握ってなかったはずのフェンリルギルディの手に、いつの間にか女性の下着があった。クラーケギルディの眼でも、その動きは完全に捉えきれなかった。肌触り滑らかなシルクの輝きが、フェンリルギルディの銀色の毛並みと調和し、美しい光を放っている。

 悲し気にその下着を見つめながら、フェンリルギルディが口を開いた。

「あなた方のように争えるのも、信念をぶつけ合える相手がいるというのも、私には羨ましく思えます。私の下着属性(アンダーウェアー)は、はなから爪弾(つまはじ)きに合い、外道と断じられ、対等に語り合うことさえ許されない。あなた方の愛する巨乳や貧乳も、下着に包まれるものだというのに、です」

「ふむ」

 言わんとすることは、クラーケギルディにもわかった。すべての属性が等しく認められているわけではなく、眉をひそめられるものも少なくはない。フェンリルギルディが言うように、外道と(そし)られる属性も確かにあった。

体操服属性(ブルマ)学校水着属性(スクールスイム)は正で、下着属性(アンダーウェアー)は邪。感情的なものがあるのは否定しませんが、おかしな考え方だと私は思いますよ。古い、と言わせていただきます。だからこそ私は、組織に新たな風を吹きこみたいのです。日陰者とされた属性の者たちが、胸を張って生きていけるような、そんな風を吹かせたいのです。私という、次世代のエレメリアンが旗頭(はたがしら)となって、ね」

「若いな。だが、貴様の下着属性(アンダーウェアー)に対する愛は、よくわかった」

「ありがとうございます」

 フェンリルギルディが、(うやうや)しく一礼した。

 どこか気に入らない相手ではあるが、自分の愛する属性が軽んじられる風潮は、確かに受け入れ(がた)いものだろう。それをただそのままにしておくのではなく、自らが行動することによって組織内の見方を変えるという考え方も、若いと言える部分はあるが、嫌いではなかった。

 礼をしていたフェンリルギルディが、顔を下にむけたまま、言葉を続けた。

「私は、ツインテール属性もそろそろ不要ではないかと思っています」

「――――」

「っ」

 フェンリルギルディの言葉に、クラーケギルディは気を放った。さっきのような軽いものではなく、心弱い者ならばそれだけで気絶、あるいはショック死するような、本気の殺気だ。

 礼をした姿勢のまま、フェンリルギルディは躰を震わせた。それでも、彼は自分の発言を悔いる様子もなく、ゆっくりと上体を起こした。

 フェンリルギルディの眼を見て睨みつけるが、彼は真っ向(まっこう)からクラーケギルディの眼を見返してきた。

 その胆力に内心で感心しながら、クラーケギルディは口を開いた。

「フェンリルギルディ。ツインテール属性を軽んじるその言葉、一度だけ見逃そう。二度目はないぞ」

「お聞きください、クラーケギルディ殿」

 躰を震わせながらも、フェンリルギルディは必死な様子で訴えてきた。命惜しさではないように思えた。

「まず、ツインテール属性があり、そのうえで個々の求める属性を探す。これでは、効率が悪くて当たり前です。いかにツインテール属性が最強とはいえ、もっとのびのびと闘える方が、士気が上がり、結果的に集める属性力(エレメーラ)の量も増えると思いませんか?」

 士気の面でも、効率の面でも、短期的な面で見れば、おそらくその見方は間違っていないだろう。

 だがツインテール属性もまた、皆が愛する属性なのだ。それが、エレメリアンの本能でもあった。

 それに、それぞれの求める属性を重視するようになれば、結局(かたよ)りが生まれてくる恐れもあった。やってみなければわからないことではあるが、目の前のフェンリルギルディを見ては、信じきれるものではない。

「それが、貴様の言う新しい風か。随分と小さい野心であったな」

 フェンリルギルディに対し、かすかな失望を覚えていた、なぜそんな感覚を覚えたのか自分でも不思議だったが、呟くと、クラーケギルディはマントを(ひるがえ)して歩き出した。言った通り、一度だけ見逃す。

「あなたも」

 背中にフェンリルギルディの声がかけられた。彼の声も、どこか失望しているふうに聞こえた。

「あなたも、掟などという古臭いものにしがみつくのですか?」

「フェンリルギルディ」

 足を止め、ふりむかずに語りかける。

「古いものがあるからこそ、新しいものは生まれてくる。そして、貴様が軽んじたものを愛する者たちも、確かにいるのだ。貴様がどれだけ革新を唱えようとも、他者を見(くだ)す者に心の底から着いていく者など、()はしない」

「私が、他者を見下しているですと?」

「私にはそう見える。そして貴様は、ひとつ思い違いをしている」

「なにを、ですか?」

「私は、貧乳属性(スモールバスト)もツインテール属性も、等しく愛している。掟だからなどという理由で、ツインテール属性を持ち上げているわけではない」

「っ」

 おまえが下着属性(アンダーウェアー)(けな)された時に味わう気持ちを、おまえも他者へ味わわせているのだ。そう言外(げんがい)に伝えると、フェンリルギルディは歯噛みしたようだった。

「フェンリルギルディ。貴様は、下着属性(アンダーウェアー)のエレメリアンだろう」

「ええ、そうです」

「ならば、貴様も下着属性(アンダーウェアー)となれ」

下着属性(アンダーウェアー)に、ですと?」

 フェンリルギルディが、キョトンとした。

「貴様が言ったことだろう。下着属性(アンダーウェアー)は、巨乳も貧乳も包むのだと。誰になにを言われようと、貴様はほかの属性を包みこむ(うつわ)を持て」

「っ」

 ハッとした気配のあと、殺気すら混じった剣呑(けんのん)な気が、クラーケギルディの背中に放たれた。

「それはつまり、どれだけ馬鹿にされようとヘラヘラ笑っていろ、ということですか。誇りも投げ捨てて?」

「言うべきことは言うがいい。己の誇りを馬鹿にされたと思ったなら、真っ向から受けて立て。だが、そのために他の属性を軽んじるというのなら、そこに誇りなどない」

「あなたも、巨乳属性(ラージバスト)とは対立しているではありませんか」

 耳が痛いところではあるが、ごまかしてはならないだろう。

 ふりむき、フェンリルギルディの顔を見返す。

「私は貧乳属性(スモールバスト)のエレメリアンだ。巨乳のよさがわかるわけもない」

「なら」

「だが、リヴァイアギルディの強さと()り方には、敬意を持っている。やつの、巨乳属性(ラージバスト)への愛にもな」

「っ!?」

 よほど意外だったのだろう。フェンリルギルディが眼を見張った。

「ならば、なぜ」

「敬意は持っているが、馴れ合う気などない。それに、いけ好かない相手であるのも事実だ。貧乳と巨乳は正反対の属性なのだからな。だからこそ、やつに負けまいと己を磨き、ぶつかり合い続けた」

 クラーケギルディが幹部となり、最強の一角に数えられるようになったのも、ひとえにリヴァイアギルディへの対抗心があったからだ。

 巨乳属性(ラージバスト)という、貧乳属性(スモールバスト)を脅かす属性。その属性力(エレメーラ)を核に持つエレメリアンのなかでも、ひと(きわ)強い存在感を放っていた戦士、それがリヴァイアギルディだった。

 巨乳属性(ラージバスト)に、リヴァイアギルディに負けてなるものか。その思いこそが、クラーケギルディを強くしたと言っていい。

 だが、いや、だからこそ言える。ただ相手を否定するだけでは駄目なのだと。

 相手への敬意を持ち、ぶつかり合い、互いを高め合う。自分を強くしたそれこそが、クラーケギルディが部下たちに伝えたいことだった。

 もっとも、それをはっきりと口に出したことはない。それが部下に伝わっていないことに複雑な思いはあるものの、それでも言葉にして伝えることはしたくなかった。

 口に出した時、それは意味のない、軽いものになってしまう気がしたからだ。自分で気づかなければ意味がないことであると、そう強く思うのだ。

 フェンリルギルディが顔を歪ませ、(かぶり)をふった。

「ですが私はっ、下着属性(アンダーウェアー)貧乳属性(スモールバスト)とは違うのです。ぶつかり合ってくれる者もいないのです、クラーケギルディ殿」

「フェンリ」

 慟哭(どうこく)するように声を絞り出したフェンリルギルディに、クラーケギルディが呼びかけようとしたところで、風が吹いた。その風が収まった時には、フェンリルギルディの姿はもうなかった。すさまじいまでの速さで、クラーケギルディとすれ違うようにして去って行ったのだ。

「――――」

 (かぶり)をふると、右手に視線を落とし、その手を開いた。手の中には、Aカップサイズのブラジャーがあった。去り際に、クラーケギルディの手の中に入れられたのだ。拒絶か、それとも、ほかの理由なのか、クラーケギルディにはわからなかった。だが、言いようのない悲しみがこめられているように、クラーケギルディは感じた。

 しかし、入れられたその瞬間になって、やっとわかるほどの速さとは。

 すれ違うようにして去ったのは、見えた。しかし、ブラジャーを手の中に入れられたのは、クラーケギルディの手中(しゅちゅう)にそれが収められた瞬間にやっとわかったぐらいだった。ただ速いだけではなく、流麗と言っていいほどの見事な動きだった。

 あの若さで、これほどの身のこなし。資質だけで言えば、ひょっとしたらスワンギルディを上回るかもしれない。そう思わせるほどのものだった。

 だが同時に、いまのままでは、その資質が完全に開花することはないだろうとも思えた。

「フェンリルギルディよ、生き急ぐな」

 呟くと、ブラジャーを握り締めたまま再び歩き出す。

 ぶつかり合ってくれる者もいないという悲し気な言葉が、いつまでも胸に残り続けていた。

 

 




 
幹部級が普通に知ってたり、ダークグラスパー以外にもいる、などの『処刑人』周りはオリジナル設定。
フェンリルギルディのように「ツインテール属性いらなくね?」とまで言うのはそうそういないだろうけど、外道の誹りを受ける属性は少なくないといったことを考えると、不満持ってるのは結構いるんじゃないかと。
エレメリアンの総数を考えると、割合はともかく数はそこそこいそうだし、ダークグラスパーひとりだとさすがに忙しすぎないかなーと。
すべてを見通す真眼を持った、『片眼鏡属性(モノクル)』のガンギルディ、罪を推し測る天秤を持った『裁判官属性(ジャッジ)』のジャスティスギルディなどがいる、かどうかは不明。

『トゥアール』については、オリジナルというより独自解釈です。

それはそうとフェンリルギルディって、かなりおいしい立ち位置だと思います。
 
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