二〇一七年六月二十四日 修正
『a』は、after(その後)のa。
トゥアールに
技を解き、彼女から離れる。
「ごっばぁ」
総二のベッドに、逆さまに突き刺さるような体勢になっていたトゥアールの躰が、ゆっくりと倒れた。
いまの自分の全力は、彼女に伝わっただろうか。
――い、いや、だから全力っていうのは、そういう意味じゃなくてですね。
「あ、愛香」
「ん、そーじ、どーしたの?」
どこか遠慮がちなその声を不思議に思いながら、愛香は総二にむき直った。総二は顔を赤らめて視線を逸らし、時折、愛香を、いや愛香の胸をチラチラと見ていた。
総二が、おずおずと手を差し出してきた。
手には、見覚えのある布切れがあった。
「え?」
愛香の躰が固まった。布切れは、愛香が身に着けていたはずのブラジャーだった。
自分の胸元を見てみると、はだけたパジャマから、なにも着けていない自分の胸が見えた。
慌てて腕で前を隠し、おそるおそる総二の顔を見る。
「そーじ、み、見ちゃった?」
「み、見た。わ、悪いっ」
「あ、うううううううう」
真っ赤になった総二の答えに、愛香の顔が熱くなった。
「あ、愛香」
「い、いいよ。そーじにだったら、見られても」
つい隠してしまったが、総二になら、見られてもいい。というか、むしろ見て欲しい。さすがに口に出しては言えないが。
ほっとした顔になった総二が、手に持ったブラジャーを見ながら、恥ずかしそうに口を開いた。
「そ、そっか。えっと、じゃ、このブラジャーは」
「そ、そーじがよければ、持っててくれないかなっ?」
「えっ、い、いや、それはっ」
「その、それでいろんなことして欲し、じゃなくて!」
「い、いろんなことっ!?」
「いまのは忘れて!?」
なにかを口走りそうになり、慌ててごまかそうとしたが、しっかり総二には聞こえていたらしい。
――愛香さん。私のことを痴女とか言えませんよね。
顔を真っ赤にした総二が、やはり恥ずかしそうに口を開く。
「あ、愛香、お返しに、俺の下着を」
「え、えと、貰えるの?」
「あ、愛香がよければ、だけど」
お互い、なにを言ってるんだ、と思わなくもない。あたしたちは変態か、とも思う。
それでも、総二の身に着けている物を貰えるなら、欲しいと思ってしまう。
――変態か、っていうより、きっぱりと変態だと思うんですけど。
「あ、あの、そーじ。も、貰っても、いいかな?」
「お、おう。す、好きに使って、じゃなくて!?」
「つ、つかっ!?」
「いまのは忘れてくれ!?」
やはり、お互いに溜まっているのだろう。言葉を、一々意味深に捉えてしまっている。
ごまかしも兼ねて、今日はお開きにしよう、と愛香は思った。
「そ、そーじ。それじゃ、また明日ね」
「あ、ああ、そうだな。また明日、ってベッドが」
「あ」
ベッドは愛香の攻撃によってトゥアールが倒れたままであり、それどころか破壊されている。とてもではないが、寝れる状態ではない。
悩む様子を見せる総二に、愛香は意を決して提案した。
「そ、そーじ。あ、あたしの部屋で、一緒に寝ない?」
「え、えっ?」
「ベッド壊しちゃったの、あたしだし。それに、その、しょ、触手にうなされそうで」
「あ、そ、そうか」
いまは落ち着いているが、眼を閉じたら、クラーケギルディが触手を拡げた光景を思い出してしまいそうな気がした。それがなくとも、総二とは一緒に寝たいが。
「じゃ、じゃあ、一緒に、寝るか?」
「う、うん」
中断させられたことの続きはしないとしても、期待はしてしまう。
ドキドキして眠れないかもしれないが、触手にうなされて眠れないよりは、遥かにいい。
とりあえず、トゥアールに布団をかけた。
――あ、どうも。
それにしても、なんだか、さっきからトゥアールの声が頭に響いているような気がした。多分、幻聴だとは思うが。
総二とともに、愛香の部屋に入った。
寝るためにツインテールをほどくと、総二が愕然とした表情を見せた。
「あ、愛香。ツインテールを」
「いや、さすがに寝る時はほどくわよ。髪は休ませないといけないし」
「そ、そうか。そうだな」
愕然としていた総二だったが、愛香の答えになんとか納得した様子だった。声は震えていたが。
一緒にベッドに入ると、総二の手を握った。
「お、おやすみ、そーじ」
「お、おやすみ、愛香」
握り返された手に鼓動が高鳴ると同時、心からの安心を覚えた愛香は、そっと眼を閉じた。
修正、完了いたしました。短編の方は『告白成功』あたりはちょっといじるかもしれませんが、一旦これで完了です。