あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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心に愛がなければ、スーパーヒーローにはなれないのさ。
 


2-15 英雄の資格

 テイルイエロー初陣の翌日、放課後の部室に現れた慧理那から、総二は弱々しさを感じた。総二たちがなにかを言う前に、慧理那が近づいてくる。

「ブレスをお返しします、観束君」

 黄色のテイルブレスを嵌めた右腕を静かに差し出しながら、慧理那が力のない声でそう言った。

 昨日の闘いは、ブルーがブルギルディを秒殺し、レッドが戦闘員(アルティロイド)を全員片づけて終了となった。イエローはその間、ずっと座りこんだままで、帰る時もレッドたちが運んで行かざるを得ないほどに、放心していた。

 落ちこんでいるのは明らかで、気持ちの整理が必要だろうと、昨日はあえてなにも言わずに家に帰したのだが、間違いだったのだろうか。

「ツインテイルズを、やめるってことですかっ?」

「はい。わたくしには、ツインテイルズとして闘う資格がありません。昨日の闘いで、それを痛感いたしました」

「資格、ってちょっと待ってください!」

 自らブレスをはずそうとする慧理那の手を掴む。なぜ止めるのですか、と慧理那が見つめてきた。

 確かに、昨日の闘いでは戦闘員(アルティロイド)に対してすら無力だったが、その一回で資格がないなどと決めつけることはないだろう。いや、センスがないとか、そういった理由でならば、仕方がないと思える。だが、いまの慧理那から受け取るのは、駄目だ。

 総二に手を掴まれたまま、慧理那が愛香の方に顔をむけた。

「いえ、そうですね。これは、津辺さんにお渡しした方が」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いくらなんでも、いまの会長から貰うことなんてできません!」

「それでは、製作者であるトゥアールさんに」

「いやいや、私だって愛香さんと同じ気持ちですよっ。いまの慧理那さんから貰うわけにはいきません!」

「ですが」

「会長は、まだ緊張してるせいでうまく力が発揮できないってだけですよ。俺も愛香も、幼いころから武術を教わっていました。だからすぐに闘いに順応できたってだけで」

 自分たちと慧理那の相違点といえば、おそらくそのあたりだろう。そう思っての総二の言葉に、慧理那が力なく首を横に振った。

 慧理那からは、強固な意志を感じたが、同時になにか意固地になっているような印象も受けた。どちらにせよ、どうにか説得しなければ、と頭を回転させる。このまま放っておいてはいけない、と思うのだ。

 うつむいた慧理那から手を離す。慧理那は、ブレスをはずそうとはしなかったが、うつむいたままだった。

「メディアでのテイルイエローに対しての反応ですけど、だいたいの人は、見守っていこうってスタンスです。酷いことを言う人もいますけど、そればっかりってわけじゃ」

 三人目のツインテイルズ、テイルイエローの評判は、そこまで悪いものではなかった。殊更(ことさら)によいわけではないのだが、とにかくいまは見守っていくべき、という意見が多かったのだ。お色気担当として期待されているらしいところはあったが、そこはとりあえず気にしないでおく。

「そう、ですね。あんな醜態を晒したわたくしのことも、ツインテイルズとして認めてくれる人がいます」

「そうですよ。だから」

「また、あのような醜態を晒してしまったら。わたくしを信じてくださっている人たちの期待を、また裏切ることになってしまったら」

 慧理那の声は、震えていた。その言葉にハッとする。

 彼女の言うような事態も、確かにあり得ることなのだ。それでも信じてくれる人はいるだろうが、それは逆に、慧理那へのプレッシャーになってしまうかもしれない。

 大丈夫です、会長ならできます。そう言うのはたやすかったが、最初からある程度闘えていた自分たちがそんなことを言っても、彼女にはただの気休めにしか感じられないかもしれないと、いまさらながら気づいた。

 しかし、だからといって、慧理那の申し出を受けることはできない。このまま慧理那がツインテイルズを抜けたとして、そのあと彼女はそれまで通りにいられるだろうか。ツインテイルズへの応援を続けてくれるだろうか。ヒーローに対する愛に、蓋をせずにいられるだろうか。負い目を持たずにいられるのだろうか。そんな不安があるのだ。

 付き合いは短いが、慧理那はかなり責任感が強い人だろうと感じる。自分にはもうヒーローを愛する資格はない、と考え、それらへの愛を捨てる可能性は充分にあるのではないか。そんなふうに思う。

 慧理那が、笑った。覇気のない笑顔だった。

「正直、はじめて変身する時、失敗するんじゃないか、って気持ちの方が強かったんですの」

『え?』

「お嬢様」

 慧理那の言葉に、総二たちの声が重なった。尊だけは、ハッとした様子だった。

「テイルギアは、ツインテール属性というツインテールを愛する力によって起動する、でしたわよね?」

「はい。そのツインテール属性をコアに作られていますので」

 トゥアールが言った。慧理那は逡巡するそぶりを見せたあと、意を決したように口を開いた。

「わたくし、ほんとうはツインテールが、嫌いなんです」

「えっ?」

 申し訳なさそうに慧理那が言った。彼女の顔を茫然と見つめる。

 総二の視線を避けるように慧理那がうつむき、言葉を続けた。

「ほんとうは、自分でしたくてこの髪型にしてるわけじゃありませんの。お母様に絶対そうしろと言われて、仕方なく。神堂家の家訓だと」

「家訓って、そんな大袈裟な」

「いや、ほんとうだ」

 きっと、慧理那に似合うからと、ちょっと強く言われたのを曲解しているのだろう。そんな予想を否定され、総二たちは尊の方に顔をむけた。

「これは、君たちを信頼しているから話すことだ。他言無用だぞ」

「――――はい」

 真剣な瞳とツインテールだった。代表して総二が答え、三人で頷いた。

「生涯ツインテールにする。ツインテールを愛する男性と結婚する。信じられないかもしれないが、ほんとうにこれが、神堂家の家訓なんだ。なんでも、先祖代々伝えられる由緒正しきものらしい」

「先祖代々って」

「六千年ぐらい続いているとのことだ」

(なが)っ!?」

「いや、いくらなんでも盛り過ぎだと思うんですけど」

「って言いますか、六千年前って、はっきりとした資料とか残ってるんでしょうか」

「まあ、六千年という数字の真偽はともかく、数十年どころの歴史でないのは確かなようだ」

『はあ』

 なんとも言えず、揃って生返事を返すしかなかった。

「ともかく、わたくしは子供のころからずっとこの髪型でした。子供っぽいと言われ続けて、それが嫌で、でもやめることは許されなくて。いつのころからか、わたくしはツインテールを嫌いに、いえ、憎んですらいたかもしれません。子供と言われて当然ですわよね。なんの罪もないツインテールにすべてを押し付け、逃げていたのですから」

「会長」

「慧理那さん」

 自嘲するような慧理那の言葉に、愛香とトゥアールが痛まし気に声を洩らしたが、総二はなにも言えなかった。口を開いたら、情けない声を上げてしまいそうな気がしたのだ。

 慧理那の言葉にショックを受けたからではない。それにショックを受けなかったわけではないが、それ以上に、みんなツインテールを愛している、ツインテールを嫌いな人なんていないと、そんなふうに思っている自分がいることに気づいたためだった。

 テイルブルー、ひいてはテイルレッドが現れたことで、ツインテールはいままでよりずっと広く認知され、さまざまなところで見られるようになった。しかし、そのちょっと前まではマイナーとしか言いようのない髪型で、大人に近づくにつれて、やめられていくものだった。それを、いつの間にか忘れていた。いや、眼を逸らしていたのかもしれない。

「あなたがツインテールを愛する限り」

「それは」

「とても不安でした。わたくしが持つ、ツインテールへの気持ちを見抜かれるのではないか、と」

 総二が言った言葉が、慧理那を追い詰めていたというのだろうか。そんな負い目に似た気持ちが湧き上がった。だが、慧理那はほんとうにツインテールを愛していないのだろうか、という疑念もあった。

 まっすぐに慧理那の眼を見つめた。ツインテールに眼が行きかけるが、いまそちらに眼をむけるのは、おそらく逆効果だろう、と自制する。

「でも俺は、会長が本気でツインテールを嫌いだとは思えません」

「わたくしが、嘘をついていると?」

「俺たちに対してではなく、自分に嘘をついているように、俺には見えます」

「嘘なんて」

「口を挟むようで申し訳ありませんが、私も総二様の意見に賛成させていただきます」

「え?」

 言ったのは、トゥアールだった。

「テイルギアはツインテール属性、それも取り分け強力な属性力(エレメーラ)がなければ、起動することはできません。確かに慧理那さんが変身する時、不安定な反応を見せ、実戦ではまったく性能を引き出すことができませんでした」

「だから、わたくしはツインテールを憎んでいると」

「ですが、変身自体はできたんです。ツインテール属性が無ければ、変身すらできるはずがありません。愛香さん」

「なに?」

「テイルブレスを、ちょっとだけ桜川先生に貸して貰ってもいいですか?」

「いいけど」

「桜川先生、変身できるか試して貰ってもいいですか?」

「わかった。二十八歳で『テイルオン』とか言うのはちょっと恥ずかしいが、やってみよう」

「いえ、『テイルオン』は必ず言わなければならないわけじゃありませんから、言わなくてもいいですよ。大事なのは、変身したいという意思ですから。闘うため、誰かを守るため。どんな理由でもいいですから、そのための力が欲しい、と強く念じるんです」

「なるほど。わかった」

 尊が愛香からテイルブレスを手渡され、右腕に嵌めた。

 尊が、総二たちがやるように胸の前に右腕をかざし、じっと見つめた。

「なにも起こらないな」

 しばらくしたあと、尊がポツリと呟いた。

「変身したい、と強く念じていますか?」

「恥ずかしさはあるが、念じているつもりだ。――――お嬢様を守るために、と思ってやっているつもりだが」

 後半は小さな呟きだったが、慧理那がハッとした。ブレスを見つめ続けていた尊が顔をかすかに赤らめ、よし、と意を決したように呟いた。

「テイルオン」

 声は特別大きいわけではなかったが、いやに室内に響いた。

 しかしテイルブレスは、なんの反応も見せない。

「むう、やはり駄目か」

「そのようですね。お手数をお掛けしてすいません」

 恥ずかしさをごまかすような尊の言葉にトゥアールが応え、慧理那にむき直った。ブレスを愛香に返す尊を尻目に、トゥアールが口を開く。

「慧理那さん。ツインテール属性の無い者が変身しようとしても、このようになります。それとも、桜川先生が本気で変身する気がないから変身できない、と思われますか?」

「いえ、尊の言葉を疑うなど、あり得ません」

「お嬢様」

 慧理那の決然とした言葉に、尊が微笑んだ。

 その言葉に、総二たちもほっと息をついたところで、慧理那が再び顔を曇らせた。

「ですが、英雄というものは、英雄になろうとした時点で失格だという言葉を思い出したのです。ヒーローになりたいなどと言ってるわたくしには、最初から資格など無かったのではないかと」

「私は、そうは思いません」

「え?」

 慧理那の言葉を遮ったのは、尊だった。

 尊は、真剣な顔ではあるが、どこか優しさを湛えた瞳だった。

「いいじゃありませんか。ヒーローになりたいと思って、なにが悪いというのです。たとえ憧れからはじまったものだとしても、ヒーローのように正しくあろうとするのならば、それは立派にヒーローの資格があると、私は思います」

「だけど、また失敗してしまったら」

「お嬢様。ヒーローというものは、そこで立ち止まってしまうものなのですか?」

「えっ?」

「ヒーローだって、なにかしらの失敗はするはずです。敗北する時だってあるでしょう。ですが、それらを恐れず、いえ、失敗するかもしれない、負けるかもしれないという恐怖を乗り越えるからこそ、ヒーローなのではありませんか?」

「っ!」

 慧理那がハッとした。自身の右手、テイルブレスを見つめると、やがて顔を上げた。

「尊は、わたくしがほんとうのヒーローになれると、信じてくれますか?」

「もちろんです。お嬢様は、私の自慢のお姉ちゃんなんですから」

「――――ありがとう。尊」

 今度こそ、慧理那がやわらかい微笑みを浮かべた。

 よかった、と思いながら、そこでふと、先ほどの尊の言葉が気にかかった。

『お姉ちゃん?』

「え?」

「む?」

 愛香とトゥアールも同じだったらしい。総二の口を衝いて出た言葉と、二人の声が重なった。

 キョトンとしていた慧理那と尊が、なにかに気づいたようなそぶりを見せた。

「あっ」

「ああ、なるほど、確かに驚くか。私は神堂家の養女なんだ。私さえよければ神堂の姓を貰って欲しい、と言われてはいるのだが、訳あって辞退させて貰っている」

「ょぅじょ、いえ、養女ですか?」

 トゥアールが訊いた。なぜ言い直した、と思ったが、訊かない方がいい、と総二は思い直した。

「ああ。高校に入ってからほどなくして、な」

「理由を、訊いても?」

 今度は、総二が訊いた。

「両親が亡くなった。それで、私を引き取ってくれたのが神堂家だったんだ」

「――――すいません」

 その言葉に、総二はなんとも申し訳ない気持ちになった。愛香とトゥアールも同じなのか、気まずそうに眼を伏せていた。

「そう暗くならないでくれ。父と母への思いは、いまもこの胸にちゃんとあるが、神堂家も私にとって大切な家族だ。寂しくはないさ」

 尊が優しく微笑みながら言った。その言葉にさっきとは別の意味でほっとするが、もうひとつ気になることがあった。

「あの、桜川先生。どうしてそれで、お姉ちゃんなんですか?」

「お嬢様の方が先に神堂家にいらっしゃったからな。あとから神堂家に入った私が、妹だろう?」

「ああ、そういう」

「納得、でいいのかしら?」

「まあ、あまり聞かない理屈だろうな。でも、私はそう思ったんだ」

「ふふっ」

 尊と慧理那が苦笑した。

 少しして、表情を真剣なものとした慧理那が、トゥアールの前に進み出た。

「トゥアールさん。ツインテールをほんとうに好きになれば、テイルギアの性能を完全に発揮することができるようになるのでしょうか?」

「確かに、ツインテールを愛するからこそ、ツインテール属性は生まれます。ですが慧理那さん。そのためにツインテールを好きになるというのは、本末転倒と言うものだと思います」

「えっ?」

「ツインテールを好きだからこそ、ツインテール属性が生まれるんです。なにかを好きになるのに理由は必要ないと思いますが、義務感から真の愛は生まれないと思います。総二様のように、ツインテールを愛するのに理由など要らないと言う人もいれば、総二様のためにツインテールを続け、最高クラスのツインテール属性を持つようになった愛香さんのような人もいます。ですがそれは、義務とかそういったものではないはずです。自然と好きになったからだと、私は思います」

「では、わたくしはどうすれば」

「突き放すようで申し訳ありませんが、それは慧理那さんの心の問題です。私は、その答えを持っていません」

「そう、ですか。いえ、そうですね。わたくしが、自分で見つけ出さなくてはならないことですわね」

 慧理那が、力強く拳を握った。

「慧理那さん。ツインテイルズを続けることが、できますか?」

「――――正直に言うと、逃げ出したくなります。また駄目だったらと思うと、いっそ逃げてしまう方がいいのではないか、と。でも、わたくしのことを信じていると、尊は言ってくれました。ここで逃げたら、わたくしは尊の信頼を裏切ることになってしまいます。その方が、ずっとこわいです」

「お嬢様」

「だけど尊。これは、うしろむきな気持ちじゃありません。みんなに見て貰いたいのです。わたくしが、ほんとうのスーパーヒーローになるところを」

 心配そうな尊に、慧理那が笑顔を返した。尊も、微笑みを浮かべた。

「はい。見せてください、お嬢様」

「俺たちも信じてます、会長。いや、テイルイエロー」

「うん。見せて貰います。会長が、スーパーヒーローになるところを」

「テイルギアを託されたのは伊達じゃないと、私たちに見せつけてください」

 闘いに巻きこむのは、本意ではなかった。だが慧理那の、そして尊の言葉を聞いて、総二は思い直した。慧理那にこそ、テイルイエローとして、ほんとうの仲間になって貰いたい、と。

 総二たちの言葉に感激したのか、慧理那が躰を震わせた。顔を赤らめ、どこか陶然とした表情を浮かべていた。

「ん?」

 慧理那のツインテールが、光って見えた気がした。

「どうしたの、そーじ?」

「いま、会長のツインテールが光った気がした」

『――――?』

 総二の言葉に、慧理那のツインテールへ視線が集まり、全員が首を傾げた。

「普通、だと思うんだけど」

「でも、俺にはそう見えたんだ」

 ドラグギルディとの闘いの時も、愛香のツインテールが輝いて見えた。あれに比べればずっと小さいが、慧理那からも似たような光が見えた気がしたのだ。

 愛香が、なにかを思い出したような仕草を見せた。

「そういえば、ドラグギルディとの闘いの時そーじ、っていうかレッドのツインテールが、光って見えた気がしたわね」

「俺も、ブルーのツインテールが光って見えたんだよな。トゥアールにはどう見えた?」

「私には、お二人とも特に変わりがなかったように見えましたけど」

「うーん、そうか。でも、なんか気になるんだよな」

「とりあえず、それはあとにしましょう。まずは慧理那さんのことです」

「っと、そうだな」

 視線が、再び慧理那に集まった。

「いずれにせよ、慧理那さんがテイルギアの性能を完全に発揮するために必要なのは、自分とむき合うことだと思います」

「自分とむき合う、ですか?」

「はい。慧理那さんにとって、ツインテールとはなんなのか。慧理那さんはどうしたいのか。どう在りたいのか。それを見極めることだと、私は思います」

「わかりましたわ」

 慧理那の力強い返事に、トゥアールが満足そうに頷いた。さっきトゥアールが突き放すようなことを言ったのは、慧理那の意思を確認するためだったのかもしれない、と総二はなんとなく思った。

「そして、古今東西、こういう時にヒーロー、あるいはヒーロー志望者がするのは、ただひとつ。ですよね、慧理那さん?」

 トゥアールの言葉に、慧理那の眼とツインテールがさっきとは別種の輝きを放った気がした。

「それはつまり、あれですか?」

「ええ、あれです」

 拳を握ったトゥアールと慧理那が、頷き合った。

『特訓です!』

「わね!」

 トゥアールと慧理那の声が重なった。

 

 

 

 

 

***おまけ(誰得だかわからないおまけ)***

 ――牛と牛――

 

 ブルギルディ、と呼ばれ、ふりむく。予想通り、いけ好かないやつの顔があった。

 角の有無はあれど、ブルギルディと同様に牛を彷彿とさせるエレメリアン。

「なにか用か、バッファローギルディ?」

「フンッ。用などというものはないが、出会ったからには挨拶するのが礼儀というだけのことだ。貧乳属性(スモールバスト)のエレメリアンは、それすらわからんのか?」

「なんだと。その程度のことを自慢げに語る、低俗な品性しか持たないやつがなにを言うか。巨乳の女は知性を乳に吸われているという説があるが、巨乳属性(ラージバスト)のエレメリアンに関しては、どうやら真実のようだな?」

「なにぃ?」

「やるか?」

 通路の真ん中で、頭を突きつけ合う。属性力(エレメーラ)に関しては幹部に遠く及ばないが、体格はお互いに三メートル前後の巨体である。ブルギルディとバッファローギルディそれぞれの所属する部隊の者たちは互いに、負けるなと応援しているが、ちらほらと見えるドラグギルディ隊、タイガギルディ隊の者たちは迷惑そうであった。

「なにをしている」

『っ!』

 現れたのは、クラーケギルディだった。顔をしかめ、ブルギルディとバッファローギルディを見据えてくる。

「他部隊の者と衝突するのはやめろ、という気はないが、時と場所は考えろ。暑苦しい」

「は、はっ、申し訳ありません」

「き、気をつけます」

 ブルギルディだけでなく、バッファローギルディも謝罪した。あちらからすれば他部隊ではあるが、上官であることは間違いなく、自身の上官であるリヴァイアギルディでも同じことを言うだろうことは、やつも承知だからだろう。

 その場を離れ、ほかにエレメリアンがいないところに行き、また睨み合った。

「貴様のせいで、私までクラーケギルディ様に睨まれてしまったではないか!」

「挑発に軽々しく乗っておいて、よくもまあそんなことが言えたものだな!」

「なにぃ!?」

「やるか!?」

 互いに腕を振りかぶり、突き出した。拳と拳がぶつかり合う。

『おおおおおおおおおおおお!!』

 何度となく拳を合わせる。相手の顔面や胴体を狙いたいところだが、急いては事を仕損じる。先に相手を疲れさせ、そのあとで本命を叩きこむのだ。

 しばらくの間、殴り合った。ブルギルディの尻尾はダガー、バッファローギルディの尻尾はモーニングスターになっているのだが、下手に使って攻撃のリズムを崩すとどうなるかわからないため、殴り合うだけになった。

 チャンスを見出せないまま、互いに息を切らしたところで、拳を突き出すのをやめた。

「ふん。腕は鈍っておらんようだな?」

「それはこちらの台詞だ」

 吐き捨てるように言い合い、どちらともなく踵を返した。歩きながら、バッファローギルディが口を開いた。

「私は、任務がある。戻ってきたら、今度こそ決着をつけるぞ」

「望むところだ」

 そう言い合い、ブルギルディはバッファローギルディと別れた。

 

 バッファローギルディとの決着をつけることは、結局叶わなかった。ツインテイルズに敗れたのだ。

 それ見たことか。巨乳などというものを信望するからそうなるのだ。そんなふうに思ったあと、胸に去来したのは、言いようのない寂しさだった。もう、やつとぶつかり合うことはないのだ、と思った。

 わかり合うことはなかった。わかり合う気もなかった。それでも、やつとぶつかり合うのは楽しかったのだと、いまさらにして気づいた。

 そして、クラーケギルディが、クラーケギルディとリヴァイアギルディがぶつかり合っているのは、こういうことなのかもしれない、と思った。クラーケギルディたちはきっと、ぶつかり合うことで互いを高め合ってきたのだ。

 気づくのが遅かった。そんなふうに思いながらも、悲しむべきではないとも思った。

 ぶつかり合い続けた相手がいた。そのことだけを、憶えていればいい。

 いま目の前に、そのバッファローギルディを破ったツインテイルズがいる。テイルイエローの気の毒なさまについては、なにも言うまい。

「さあ、いくぞ、ツインテイルズーッ!!」

 雄叫びを上げ、ブルギルディは吶喊(とっかん)した。

 

 




 
会長の特訓は、長くなってしまったため次回。あとは推敲だけなので近日中に。八月八日はどうしようか。
関係ないけどティーパックマンの登場には度肝を抜かれたっていうか、あれ予想できた人いないと思う。


尊さんが目立つ。婚姻届け、どこいった。

バッファローは、動物名では水牛だが、英語としては、乳牛、肉牛以外の野生の牛の総称。地域によってはアメリカバイソンがこう呼ばれる。
ブルは去勢されていない雄牛。
バッファロー、ブルと並んで使われるオックスは去勢された雄牛。
どうでもいいけど某聖闘士の先代牡牛座の人、オックスって名前はいろいろヒドい気がした。
 
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