あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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 遂にはじまったツインテイルズ対リヴァイアギルディ、クラーケギルディの闘い!
 果たしてツインテイルズは、かつて闘った強敵ドラグギルディに匹敵する二体を相手に、勝利することができるのか!
(ナレーション:リヴァイアギルディ)
 


最新話
2-18★ 戦士と獣


 槍を構え、リヴァイアギルディを見据える。リヴァイアギルディの触手、もとい槍は、真っ直ぐにブルーにむけられている。いつ、それが放たれるか、一瞬たりとも気を抜くことはできない。

 リヴァイアギルディからは、ほとんど隙が見受けられなかった。わずかに見える、隙と呼べそうなものも、誘いである可能性が高い。先日の『小手調べ』の時のリヴァイアギルディの槍の鋭さを思えば、うかつに動くのは危険だろう。

 そう思いはするが、やつに先手を打たせるのも危険だった。マシンガンか、それとも豪雨かと言わんばかりの猛攻を思い出しながら、なおも隙を(うかが)う。

 わずかに槍の先を動かすと、リヴァイアギルディもそれに反応して躰をかすかに動かした。リヴァイアギルディも同じように自身の槍を動かせば、ブルーも同じく反応して構えをわずかに変える。

 時間を稼いで、イエローが参戦してくるのを待つか。頭の片隅でそんなことを考えるも、すぐにその考えは脇に追いやった。

 イエローはきっと来る。そう信じてはいるが、それをただ頼りにしては、リヴァイアギルディの槍に貫かれることになるだろう。いまは、自分の力でリヴァイアギルディを斃す方法を考える時だ。そう思い定めた。

(はら)は決まったか?」

 こちらの考えがまとまるのを待っていたのか、リヴァイアギルディが静かに問いかけてきた。なにも言わず、心持ち重心を前にする。

「っ!」

 飛び出そうとした瞬間、なにかがこちらにむかってくるのを感じ、反射的に槍を突き出した。硬い物同士がぶつかったような音が響いた。リヴァイアギルディの槍。間合いの外のはずだが、神速の突きによる衝撃波のようなものだろうか。なんとか合わせられたが、先日よりも遥かに(はや)く、重い。

 驚きはしたが、即座にそれは鎮める。動揺している場合ではない。

 二撃目。今度は見えた。槍を合わせる。さらに放たれる槍を、先日と同じようにして捌く。速さと重さが、一撃ごとに増していっている気がした。リヴァイアギルディが口もとをゆがめている。笑っているようだった。愉しそうな笑みに見えた。

 何合となく撃ち合い、ひと(きわ)重く、鋭い一撃と撃ち合わせたところで、一旦距離をとった。

「俺の槍とここまで撃ち合えるとはなあ。それどころか、先日とは比べものにならない動きではないか」

「あいにくと、負けられない理由があるのよ。リヴァイアギルディはあたしに任せて、ってね」

「テイルレッドとの約束、ということか。それでほんとうにこれほどの力を発揮できるというのだからな。まったく。つくづく貧乳であるのが惜しい」

 本気で残念そうに言われ、思わず苛立ったが、落ち着けと自分に言い聞かせる。リヴァイアギルディの言葉は挑発ではない。むしろ賛美と言っていいものだ。それで心を乱すのは、自滅するのと変わらない。

 どちらともなく、改めて構えをとった。間合いは、ブルーの外ではあるが、リヴァイアギルディの外でもある。リーチはリヴァイアギルディの方が有利だが、身のこなしではブルーの方が上。だがリヴァイアギルディの反応と対応力は、ブルーに勝るとも劣らない。いや、単純な槍の勝負では、まず勝てない。そう認めるしかなかった。

 だからといって、負けるつもりはない。あらゆる手段を使って勝つ。闘いに美学などを持ちこむつもりはない。闘い方にこだわり過ぎて負けては、本末転倒というものだ。自分たちは、負けるわけにはいかないのだから。

 自身の全知全能をもって、どんな手を使ってでも勝つ。それが、ブルーなりの、愛香なりの闘う相手に対する敬意だ。

 老人に手加減するのは、若者の最大の不敬。祖父から、よく言われたものだった。相手が誰であろうと、闘うからには本気でやるべきだと。闘う者にとって最大の侮辱とは、とるに足らない相手だと侮られること。だからこそ、常に本気で闘うことこそが、武に身を置く者のとるべき態度なのだと。それが礼儀というものであると、そう教えられてきた。

 心の研磨こそ至上の鍛練。これもまた、祖父に言われたことだった。体や技に比べて、心とは鍛えるのが難しい。いや、鍛えるという表現がほんとうに正しいのか、と思う時もある。眼に見えてわかるものではないのだ。だからこそ、己の武とは、絶えずむき合わなければならない。ここ最近ではあるが、そんなふうに思うようになった。

 リヴァイアギルディを見ながら、ブルーはうしろに跳んで間合いをさらに離した。リヴァイアギルディが、訝し気に顔をしかめた。

属性玉変換機構(エレメリーション)属性玉(エレメーラオーブ)項後属性(ネープ)!」

「むっ!?」

 突き出すと同時にリーチを伸ばした槍で、攻撃する。さすがに(きょ)()かれたのか、リヴァイアギルディは槍を合わさず、横に躱した。

 追いかけるようにして、突き出した槍を横に払う。槍が、止まった。

「っ」

 槍が、リヴァイアギルディに掴まれていた。びくともしない。

「こんな小細工など、っ!?」

 慌てず、項後属性(ネープ)を解除すると、伸ばされた槍が一瞬で縮んだ。槍を掴んだままのブルーも一緒にリヴァイアギルディに近づいている。リヴァイアギルディが、眼を見開いた。

「はあっ!」

「グッ!」

 肘を顔面に叩きこむ。はじめての直撃。苦悶の声を洩らし、リヴァイアギルディがわずかによろけた。着地しつつ槍をもぎ取り、追撃する。

「フッ!」

「っ!?」

 躱され、今度は逆に拳を入れられていた。重い。フォトンアブソーバーでダメージは軽減できているが、それでも躰の芯に衝撃が伝わるようだった。だが、ここで引くわけにはいかない。歯を食いしばった。

 瞬時に槍を消し、そのまま接近戦を仕掛ける。この距離では長物は使いづらい。体術で攻める。投げは、警戒するしかない。

 ふっと思い浮かぶことがあったが、いま試すのはリスクが高すぎる。

 リヴァイアギルディは、触手を自身の躰に巻きつけていた。

「はあああああああああああああああっ!」

「キョオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 拳を撃ち合わせる。時折、肘なども使うが、足技は使わない。モーションの大きい足技の類は、拳よりも投げられる可能性が高いだろう。

 時々、リヴァイアギルディの攻撃が直撃するが、それはこちらも同じだ。数はこちらの方が多く入れているが、一撃の重さはリヴァイアギルディの方が上。格闘戦の技術は、ほぼ互角と言っていい。

「っ!?」

 不意に、浮遊感を感じた。投げられる、と瞬時に判断する。

 ピンチではあるが、チャンスだ。おそらくリヴァイアギルディは、ここで勝負を決めることを考えるだろう。

属性玉変換機構(エレメリーション)髪紐属性(リボン)!」

「キョッ、っ!?」

 即座に髪紐属性(リボン)を発動し、空中で身を(ひるがえ)してリヴァイアギルディの槍を避けつつ、フォースリヴォンを叩く。間近を通り過ぎる槍の鋭さに寒気を覚えながら、ウェイブランスを取り出した。

 必殺の一撃として、槍を放っていたリヴァイアギルディの顔が、今度こそ驚愕に(いろど)られた。大技を放った直後であるこのタイミングなら、すぐには動けまい。

「オーラピラー!」

「むうっ!」

完全開放(ブレイクレリーズ)!」

 空中で放ったオーラピラーがリヴァイアギルディに直撃する。必殺の刺突を放つ準備は整った。

 槍を、振りかぶった。気迫によるものか、オーラピラーに拘束されたリヴァイアギルディの躰が一瞬、大きくなったように見えた。オーラピラーが、破壊される。

「エグゼキュート・ウェーーーーーーイブ!!」

「キョオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 構うものか、と必殺の槍を投げ放った。リヴァイアギルディが、裂帛の気合とともに身を縛る水流を弾き飛ばした。

 リヴァイアギルディの触手が、躰の前面でとぐろを巻いた。

「見よ、我が奥義!!」

「っ!?」

 槍が、解き放たれた。螺旋。竜巻。凄まじい勢いで突き出された槍が、ウェイブランスを弾き飛ばし、ブルーに迫った。

 

 

 剣と剣を打ちつけ合う。クラーケギルディの剣は、先日よりも重く、速い。打ちつけ合う衝撃で、周りの空気が震えていた。

 もっとも、剣の勝負ならば、力負けしていない。問題は、別のところにあった。

「この!」

「ふっ!」

 クラーケギルディの剣を凌ぎ、反撃をかけようとしたところで、数本の触手がレッドの足を打ち据えた。ダメージはほとんどないと言っていいが、反射的に足が止まった。

「ヒンッ!」

「っ!」

 突き。ブレイザーブレイドを盾にするようにして逸らし、そのまま近づく。

 このまま撫で斬りにする。そう思って剣を振るが、なにか弾力のあるものにぶつかり、止まった。触手。先日、レッドの唐竹割を止められた時にも見た、網のように()まれた触手がそこにあった。

 気づいたところで、剣ごとレッドの躰が()ね返された。大きく飛ばされたわけではないが、わずかに宙に浮かされるかたちとなった。

 まずい、とブレイザーブレイドを空中で構える。クラーケギルディが、剣を振りかぶった。

「ヒンッ!!」

「ぐぅっ!」

 衝撃。剣で防ぐことはできたが、そのままふっ飛ばされた。受け身をとり、再び剣を構える。

 影が、レッドを覆った。

「っ!」

 見上げると、小さな触手が大きな触手に絡み、大きな拳のようなかたちを作っていた。振り下ろされる。

「ヒン!!」

「ぐうっ!?」

 避けられるタイミングではない。剣を頭上に掲げ、防御する。重い。凄まじい衝撃に潰されそうになるが、歯を食いしばって耐えた。

「っ!?」

 触手がわずかに軽くなったと感じた瞬間、クラーケギルディが飛びこんできた。剣を横薙ぎに振るってくる。

「っ、うおりゃあ!!」

「むっ!?」

 気合を入れ、触手を撥ねのけると、クラーケギルディの剣と打ち合わせる。防御されると思わなかったのか、クラーケギルディが眼を見張った。

 再び数合斬り結ぶと、どちらともなく跳び退(すさ)った。

「やはり大したものだな、テイルレッド」

「今回は、触手全開ってか?」

「その通りだ。私の全力をもって、貴様を破る。そして、姫の属性力(エレメーラ)を手に入れる」

「させねえって言ってるだろ」

「その割には、防戦一方のようだが?」

「ぐっ」

 クラーケギルディの言葉に、思わず押し黙った。

 剣を凌ぎ、反撃をかけようとすると触手による牽制が入り、触手に気をとられると、剣による重い攻撃が来る。触手を無視して攻撃しようとすると、大きな触手を使った攻撃が飛んでくる。大きな触手は、無視できる攻撃ではない。下手に直撃すると、大きく体勢を崩されて、そのまま勝負を決められてしまうだろう。

 だが、守ってばかりでは負ける、攻めなくては。

 そう考えるも、レッドの()れる攻撃手段は、ブルーに比べてずっと少ない。力などの単純な身体能力は、属性力(エレメーラ)の強さの関係上レッドの方が上だが、戦法の幅に関しては、ブルーの方が圧倒的に上だ。天性のものと言える戦闘センスに加え、そのセンスを十全に発揮した、属性玉変換機構(エレメリーション)を使った戦法があるのだ。レッドには、できない。

 実のところ、基地で属性玉変換機構(エレメリーション)をいくつか試してみた。ツインテール属性一本で行きたいという思いはあるが、それ以上に大事なのは、愛香を守ることだ。そう思い定め、試してみたのだが、ブルーに比べると効果がいまひとつという感じだった。

 例えば髪紐属性(リボン)の場合、飛行するための翼の展開が遅めで、飛行速度自体もそこまで速くはない。項後属性(ネープ)による、武器のリーチを伸ばすという効果も、伸びる速度や伸縮距離がブルーより下だったりといった感じだった。現時点で持っている属性玉(エレメーラオーブ)すべてがそうだ。

 あくまでもブルーと比較してであり、隊員クラスのエレメリアン相手にだったら充分使えるとは思うが、クラーケギルディのような幹部クラスには、逆に隙となりかねない、と判断するしかなかった。

 根本的に、ツインテール属性以外の属性を使うことに抵抗があるのかもしれない、というのがトゥアールの見解だった。

 俺は、自分の意地の方を優先してしまっているのだろうか、と思った。それが顔に出てしまったのか、愛香もトゥアールも、気にせずに、自分の思うように闘えばいい、と言ってくれたが、気(おく)れのような気持ちは拭いきれなかった。

 だが、いまはそれらを気にしている場合ではない。現状で可能な手段を使って、闘うしかないのだ。レッドの採れる主な攻撃手段は、ブレイザーブレイドによる攻撃、オーラピラー、拳や蹴りによる打撃。これだけで、どうにかしなければならない。

 いや、どうにかするのだ。愛香を守るために。そう思い定め、ブレイザーブレイドを握り直した。

「考えはまとまったかな?」

「っ、律義なやつだな。ドラグギルディもそうだったけどよ」

「以前も言っただろう。正々堂々と闘い、勝ってこそ、姫を手に入れる資格を得ることができる」

「だけど、今回は触手も使うんだな」

「そうだ。剣のみで、というのは私の傲慢だった。お互いに全知全能を尽くして闘ってこそ、決闘というものだろう?」

「ああ。確かにな」

 試すような口ぶりに、そう答えた。

「だが、今日の貴様は、どこかに迷いがあるようだな」

「迷い、だと?」

「迷い、とは違うかもしれんな。いろいろと考え過ぎているように見受けられるぞ、テイルレッド。前に剣を合わせた時の方が鋭かったようにすら感じられる」

 迷い。考え過ぎている。その言葉にちょっとだけギクリとなるが、すぐに心を鎮めた。

 深呼吸して、改めて剣を構えた。

「ずいぶんと親切だな、そんな忠告してくれるなんてよ」

「ヒンッ、言っただろう。全力で闘わなければ意味がないのだ、とな」

「そうかよ。じゃあ、今度はこっちから行くぜ!」

 吼え、飛び出す。クラーケギルディが剣を構えつつ、触手を伸ばしてきた。

「オーラピラー!」

「むっ!?」

 小さな触手を斬り飛ばし、オーラピラーを飛ばす。一発だけでなく、三発。クラーケギルディは、横に飛んで避けた。着地場所を見(はか)らって、そこにもうひとつオーラピラーを飛ばし、駆ける。

 オーラピラーが当たれば、相手を拘束できる。ドラグギルディにはすぐに破られてしまったが、まったく効果がないわけではなかった。クラーケギルディもおそらく、ドラグギルディ同様すぐに破ってしまうかもしれないが、まったく無意味ではないはずだ。

 オーラピラーを牽制として接近し、ブレイザーブレイドによる本命を叩きこむ。それがレッドの作戦だった。

「ヒンッ。なるほどな。では、こちらも試してみようか」

 クラーケギルディが言い、小さな触手をオーラピラーに伸ばした。

「っ?」

 駆けながら、クラーケギルディの行動を(いぶか)しむ。オーラピラーに触れれば拘束される。それはクラーケギルディもわかっているはずだ。

 伸ばした触手が、オーラピラーに触れた。クラーケギルディを拘束するために、炎が螺旋を巻きはじめた瞬間、クラーケギルディが伸ばした大きな触手に、結界が破壊された。

「なに!?」

 思わず足を止めると、クラーケギルディが確信を得たように頷いた。

「やはりそのオーラピラーというのは、相手を覆いきった時に完全な拘束力を発揮するようだな。完全に捕らわれれば、抜けるのもひと苦労かもしれんが、その前ならば破壊するのはさほど難しくはない、といったところか」

「くっ」

 なんてことないように言ってくるが、着弾から拘束が完了するまでの時間は、ごくわずかなものだ。言うほど簡単なものではない。複数の触手を自在に操るクラーケギルディでもなければ、こんな対応はできないだろう。わかってはいたが、手(ごわ)い、と改めて思った。

 だが、だからといって、弱気になってたまるか。

 クラーケギルディが、大きな触手をこちらに振るった。

「ちっ、オーラピラー!」

「馬鹿のひとつ覚えかな!」

 大きな触手にひとつ、クラーケギルディにむかってひとつ、オーラピラーを飛ばす。クラーケギルディは触手を巧みに操り、さっきと同じようにオーラピラーを迎撃していた。

 さらにオーラピラーを数発飛ばし、()()(さん)、と覚悟を決め、飛び出す。

「む!?」

「おおおおおおっ!!」

 雄叫びを上げ、オーラピラーよりも低い位置を這うようにして突っこむ。驚きの声を上げたクラーケギルディは、後退しながらオーラピラーを迎撃し、レッドに二本の触手を伸ばした。

「オーラ、っ!?」

 オーラピラーをその触手にむかって放とうとした瞬間、触手が切り離された。予想していなかったその動きと速さに、反応が遅れた。触手が、下から斬り上げるための予備動作に入っていたレッドの躰に巻きついた。体勢が崩れ、うつ伏せに転ぶかたちになった。

 まずい。そう思った瞬間には、クラーケギルディが目前に迫り、剣を振り上げていた。

「終わりだ、テイルレッド!」

 ふざけるな。そう思うと同時、ドラグギルディとの闘いを思い出した。

 剣が、振り下ろされた。

「オーラピラー!!」

「っ!?」

 レッドが自身の躰に展開したオーラピラーに、クラーケギルディの剣が弾かれた。オーラピラーが砕けるが、気にせずに仰向けになると足を振り上げ、勢いよく地面を蹴って反動で立ち上がる。

 腕に力を入れるが、触手はガッチリとレッドを拘束しており、簡単に解ける様子がなかった。

「っ!」

「ヒンッ!」

 クラーケギルディが即座に体勢を立て直し、再びこちらにむかって剣を振り下ろしてきた。

 不意に、ひとつの案が閃いた。危険だが、賭けるしかない。

 レッドの躰に届かないギリギリを見極め、その場で上に勢いよく跳んだ。

「っ、なにっ!?」

 クラーケギルディの剣は、レッドの躰を拘束していた触手のみを斬っていた。完全に両断されたわけではないが、拘束はかなり弱いものとなっている。

「うおおおっ!!」

 これならば、と気合とともに腕に力をこめ、身を縛っていた触手を弾き飛ばした。

 さすがに度肝を抜かれたのか、クラーケギルディが驚愕の表情を浮かべているように見えた。

完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 落とすことなく手に持っていたブレイザーブレイドが形を変え、炎を噴き上げる。

 振りかぶる。落下の勢いを乗せ、クラーケギルディ目掛けて振り下ろした。

 クラーケギルディの触手が、網のようなかたちを作った。受け止められる。

「甘っ、なにっ!?」

 受け止められると同時、レッドはブレイザーブレイドから手を離してフォースリヴォンに触れ、そのまま着地した。こちらは囮。クラーケギルディが驚愕の声を上げる。

 着地した瞬間にはすでに、もう一本のブレイザーブレイドが、レッドの手に作られていた。クラーケギルディの眼だけが、こちらを追っていた。躰は着いてきていない。

 一気に、決める。

「伊達にツインテールじゃねえって、っ!?」

 渾身の力を入れ、跳躍しながら斬り上げたところで、レッドの剣が止まった。予想外の事態に今度はレッドが硬直する。反射的にブレイザーブレイドを見て、眼を見開いた。

 触手が、ブレイザーブレイドに巻きついていた。

 クラーケギルディの躰には届いた。傷も見える。だが、深くはない。途中で、触手に巻きつかれた。

「ヒンンンンーーーーッ!!」

「うおおおおおおおおっ!?」

 宙に浮いた状態で踏ん張りが効かず、凄まじい回転を加えられながら上方に飛ばされた。ブレイザーブレイドから手を離す暇もなかった。

 視界が目まぐるしく変わり、自分の位置の把握が遅れる。回転の勢いが段々と弱まり、なんとか体勢を立て直した。

 だいぶ高い位置に飛ばされたようだった。下を見る。クラーケギルディは、いない。

「っ!?」

 悪寒を感じ、ふり返るようにして見上げる。クラーケギルディが、レッドを見下ろすような位置にいた。距離は、近い。

 クラーケギルディが、突きを放つ時のように、剣を引いた。触手が、クラーケギルディの腕と剣に絡みつき、長大な剣を思わせるものとなっていた。

「受けよ、我が秘技」

 引き絞られた弓から矢が放たれるように、クラーケギルディの剣が閃いた。

 

 

 決まりだ。リヴァイアギルディの奥義が、テイルブルーの『エグゼキュートウェイブ』を弾き飛ばしたところで、スワンギルディはそう確信した。

 最大の必殺技であろう『エグゼキュートウェイブ』を弾かれたのだ。テイルブルーの動揺はこの上ないものであるだろうし、渾身の力をこめて放っただろう攻撃のあとなのだ。あとは直撃を待つしかない。

「まだ、よっ!!」

 テイルブルーがそのまま前方に回転し、踵をリヴァイアギルディの槍の側面に叩きこんだ。放った槍と同じように弾き飛ばされ、激しくきりもみするが、テイルブルーは空中で体勢を整え、静かに着地した。

「なんと」

 あの状況で、あの攻撃を避けるとは、とスワンギルディは眼を見開いた。

 リヴァイアギルディが、愉しそうに笑い声を上げた。

「まったく、実に大したものだなあ、テイルブルー。なぜおまえは貧乳なのだ。おまえが巨乳であったなら、と思わずにはいられんぞ」

 心からの賞賛とともに無念さを感じさせるその言葉に、テイルブルーから一瞬、恐ろしいほどのプレッシャーが放たれた気がした。知らず、スワンギルディは身震いしていた。

 テイルブルーの乳のことには、決して触れてはならない。ドラグギルディの言葉を不意に思い出した。実際にこの威圧感を受けたことで、なぜあのようなことを言ったのか、嫌でも理解できてしまった。

 クラーケギルディとテイルレッドの闘いに意識をむける。

 両者とも、あらゆる戦術を駆使し、互いに相手の虚を衝くようにして動いていた。

「っ!」

 テイルレッドの剣が、クラーケギルディの躰に届いた。そう思った瞬間、クラーケギルディは剣を触手で絡め取り、テイルレッドにすさまじい回転を加えて天高く飛ばした。クラーケギルディがそれを追うようにして跳躍する。

 舞い上げたテイルレッド以上の高さに、クラーケギルディが到達した。

 クラーケギルディの居場所を探すように見下ろしていたテイルレッドが、なにかに気づいたように、ふりむくようにして見上げた。クラーケギルディのいる方だ。

 クラーケギルディの持つ剣に、触手が絡みついていた。常のものよりずっと長く、大きな剣となっているように見えた。

 クラーケギルディがその剣を突き出す。テイルレッドが、身をよじって剣を掲げ、クラーケギルディの突きを防いだ。

 防ぎはしたものの、踏ん張るための物などなにもない空中だ。テイルレッドが、まるで隕石のように、すさまじい勢いで落下していく。

「まだまだぁ!!」

 地面まで間近といったところで、テイルレッドが吼えた。身を捻りながら、地面にむかって剣を豪快に振るう。地面に大きな剣閃が刻まれると同時、あたりに轟音が響いた。衝撃でテイルレッドが浮き上がり、たたらを踏みながらも着地した。近くには、テイルブルーとリヴァイアギルディがいる。ふたりとも油断なく構えをとりながらも、テイルレッドの方に視線をむけていた。

「――――」

 スワンギルディは、もはや声も出なかった。

 リヴァイアギルディとクラーケギルディの強さもそうだが、ツインテイルズの底力にも、驚愕するしかなかった。

 いつか。いつかこの領域に辿り着いてみせる。羨望と悔しさに拳を握り締め、改めてそう誓う。

 クラーケギルディが着地し、高笑いを上げた。テイルブルーがビクッと身を震わせる。リヴァイアギルディに対してはいくらか慣れたようだが、クラーケギルディの触手にはまだ耐性がないようだった。

「どうやら私は、貴様をまだ見くびっていたようだな、テイルレッド。先ほどの『グランドブレイザー』を囮とした二刀目、さすがに虚を衝かれたぞ」

「それを凌いでおいて、よく言うぜ。二刀目に関しては、ドラグギルディでも直撃したってのによ」

 テイルレッドの言葉に、リヴァイアギルディがわずかに身じろぎし、スワンギルディも不思議な感覚を覚えた。なんというべきか、テイルレッドの声には、ただ敵のことを語ったというだけではない、なにか不思議な響きがあったような気がした。

「触手がなければ、私とてただでは済まなかっただろう。事実、私の触手もかなりの傷をつけられた」

 クラーケギルディが言った。言葉の通り、剣を止めるのに使ったのであろう触手はどれも、いまにも千切れ落ちてしまいそうなものばかりだった。

 クラーケギルディとリヴァイアギルディがお互いに見合い、再びさっきまで刃を交わしていたツインテイルズの方に眼をやる。ツインテイルズもまた、再び構えた。

「やはり、限界まで力を引き出さなければならぬようだな」

「なに?」

「おそらく、おまえたちも眼にはしているだろう。ドラグギルディの最終闘体を」

 クラーケギルディの言葉にテイルレッドが訝し気に声を洩らし、リヴァイアギルディが答えると、ツインテイルズがハッとした表情を浮かべた。スワンギルディもその言葉に、ドラグギルディのことを思い出した。

 属性力(エレメーラ)を極限まで高めた者だけが到達できるという、エレメリアンの切り札、最終闘体。ドラグギルディに一度、わずかな時間だけ見せて貰ったことがあった。属性力(エレメーラ)の光を二つの房、ツインテールにした、ドラグギルディの正真正銘、全力全開の姿からは、とてつもない力強さと凄みを感じたものだった。

 リヴァイアギルディはそのドラグギルディと同格とされ、クラーケギルディもまた彼らに匹敵する実力者。最終闘体に成れても不思議ではない。

 だが最終闘体とは、自らの躰を(かえり)みず、力を極限まで引き出す状態であり、躰への反動も非常に大きいという。果たして、ツインテイルズを倒せたとしても、ふたりは無事に済むのか。

「っ」

 いや、そうではない、とスワンギルディは首を振った。

 それほどまでの覚悟を決めねば勝てない相手だということだ。戦士として、目の前の戦士たちを倒すために、すべてを懸ける。ただそれだけのことなのだと、スワンギルディは思った。

 リヴァイアギルディとクラーケギルディが、両腕を躰の前で交差させ、深く呼吸をしはじめた。すさまじいまでの気が、あたりに放たれる。ツインテイルズは武器を構えながらも、その気に()されるように踏みこめないでいた。

『見よ、ツインテ』

「フッフッフッフッフ、ハッハッハッハッハ、ハアーッハッハッハッハッハ!!」

 リヴァイアギルディとクラーケギルディの声を遮るように、高笑いが響いた。

 

 

 突然響いた聞き覚えのある高笑いに躰から力が抜け、レッドは剣を取り落としそうになった。既視感(デジャヴュ)を覚え、ブルーを見ると、レッドと同じような反応をしていた。

 ブルーがこちらを見た。なんとも言い(がた)い表情をしており、彼女の瞳に映るレッドの顔も、同じような表情をしているのが見えた。リヴァイアギルディとクラーケギルディは、さっきまで充満させていた気を霧散させ、頭上を見上げていた。

「そこまでです、乳に魅入られた魔物ども!!」

 ブルーと一緒に(かぶり)を振り、声が聞こえた方を見上げた。声の主は、最も近くにある煙突の天辺(てっぺん)にいた。予想通り、ドラグギルディとの闘いの時と同じく仮面を被ったトゥアール、もとい仮面ツインテールの姿があった。出撃前に煙突を気にしていたのは、このためだったのか、となにかをあきらめるような心持ちで思った。

「森の声を聞きなさい、風の声を聞きなさい。真の巨乳を前にもせずに乳の話で盛り上がる、肉欲に()えた中学生男子のごときあなたたちを嘲笑(あざわら)っていますよ。人それを、(もう)(りょう)と言います!!」

「貴様っ、何者だ!」

 朗々とした彼女の言葉のあと、クラーケギルディが(すい)()の声を上げた。被った仮面のバイザーが、キラリと(きらめ)いた気がした。

「あなたたちに名乗る仮面ツインテール世界を渡る復讐者ではありません!!」

『違うの!?』

「名乗る名前はない、と混ざりましたっ!!」

 レッドとブルーが同時に叫ぶと、仮面ツインテールが声を上げた。どことなく開き直ったような言い方だった。普通に名乗るのと、名乗る名前はないと言うのとどっちにするのか迷ったあげく、混ざってしまったのだろう。どうでもいいが。

「ぬうう、仮面ツインテールだと」

「世界を渡る復讐者、と言ったな。それに、あの見事な巨乳。まさか彼女は」

 リヴァイアギルディが、なにかに気づいたような呟きを洩らした。

 仮面ツインテールが例の傘を取り出し、広げた。前回の失敗をくり返さないためだろう。

「トゥアッ!」

『おおっ!』

 仮面ツインテールが跳んだ。リヴァイアギルディとクラーケギルディが驚きの声を上げ、傘を差した仮面ツインテールがゆっくりと降りて、こない。

『――――?』

 ブルーと顔を見合わせ、再び見上げる。さっきより浮き上がっているような気がした。

 じっと見ていると、やはり徐々にではあるが、浮き上がっているように見えた。

 リヴァイアギルディとクラーケギルディは、なにも言わず彼女を見続けている。こういう律義さというか義理堅さは、やはりエレメリアンの共通点なのだろうか、とドラグギルディを思い出しながら思った。

「そーいえば、地面に落ちたあと、ゆっくり浮き上がってたわよね」

「あー、そういえば」

 ふと思い出したようにポツリとブルーが言い、仮面ツインテールが着地に失敗した時のことを思い出した。グッタリとして掴まっているだけだったのに、少しずつ浮き上がっていたのだ。落下する前に開いていれば、あんなふうにもなるよなあ、とぼんやりと思う。

「わっ」

「っと、風か」

 不意に、強い風が吹いた。反射的に顔を腕で覆い、再び仮面ツインテールを見上げる。

「あれ?」

 仮面ツインテールの姿が、視界から消えていた。

「あっ。あっちにいるわよ」

「ん?」

「し、しまったっ。まさか風に流されるとは!」

 ブルーが指さす方を見たところで、仮面ツインテールの声が聞こえた。すでに廃工場の敷地内からはずれ、周囲の荒れ地の方に出てしまっている。

「くっ、こうなったら、一旦閉じて、ギリギリで開くしか」

 そう言ったあと仮面ツインテールが、意を決した様子で傘を閉じた。途端に、それまで浮かび上がっていたのが嘘のように、彼女の躰が落下していく。このままでは地面にぶつかる。

「ここです!」

 そう思ったところで、仮面ツインテールが吼えると同時に傘を開いた。落下速度がどんどんゆっくりとなり、地面に、激突した。

『なんとっ!』

『――――』

 リヴァイアギルディとクラーケギルディが驚愕の声を上げ、レッドとブルーは顔を見合わせた。また既視感(デジャヴュ)を覚えた。

 仮面ツインテールが落ちたところに、二人で視線を戻す。今回も盛大に土煙が舞っていた。やはりリヴァイアギルディとクラーケギルディは、じっとそこを見つめ続けている。

 再度、ブルーと顔を見合わせ、仮面ツインテールが墜落したところに眼を戻す。仮面ツインテールの姿は見えない。

 なんとなく、レッドは眼を瞑った。心の中でゆっくりと十秒ほど数える。

 眼を開いた。胸を強調するように腕を組み、白衣をたなびかせる仮面ツインテールの姿があった。うっすらと汚れている気がするが、気にしたら負けだ、と自分に言い聞かせる。ブルーに顔をむけると、眼が合った。互いになにも言わず、仮面ツインテールの方にむき直った。

「乳の本質を知らず、乳を語る哀れな道化たちの言葉に、いい加減うんざりとしていましたのでね。乳に関してはこの私に一家言ありと、この場に参上しました」

 何事もなかったかのように、仮面ツインテールが喋り出した。ツッコんだら負けだ、とレッドは我慢した。

 クラーケギルディが、憤ったように声を上げた。

「貴様、我らの生を侮辱するか」

「侮辱ではなく、否定です。私にはその権利があります。それだけの、おっぱいがあります!!」

「ぬうう」

 クラーケギルディが戸惑った様子で呻き、リヴァイアギルディが汗を拭うように、顎を手の甲で拭った。

「この女、言うだけのことはある。完全なる自意識に支えられた、誇り高き巨乳っ。だが、解せぬ。その神の領域に乳を押し上げていながら、なぜ巨乳属性(ラージバスト)を生み出せなんだ!」

「さあ、なぜでしょうね。私が幼さを愛するがゆえ、でしょうか。しかし、それとこれとは話が別。真なる乳を吊り支えるもの。それはクーパー靱帯(じんたい)ではなく、女のプライドなのです!!」

「おおっ」

 リヴァイアギルディが、感極まったように躰を震わせた。彼にとっては、この上ない至言だったようだ。

 リヴァイアギルディとは対照的に、クラーケギルディは苛立った様子だった。

「聞き捨てならぬな、下品な乳の女よ。大きさに(たの)みを置くその態度こそ、憐れというものよ!」

「大きさこそ乳の本質。男性を労わり、子を育む胸が大きくあるべきなのは、進化の末に獲得した生命の真理です!」

「世界には、乳の小さな女性が数多くいる。そして、強く気高い輝きを放っている。いや、それだけではない。どんな進化の系譜を辿ろうとも、いかなる世界であろうとも、大地の上で生きることを選んだ生物たちは、巨大なものは滅び、その大きさを捨てるという進化をした生物が生き残ってきた。大きさにこだわるのは、原始の過ちをくり返すことにほかならぬ!」

 なぜ、この連中は、生物の進化について熱く語りはじめているのだろうか。話の流れについていけず、レッドは頭を抱えた。

「アルティメギルのくせに、いいこと言うじゃない」

「え」

 隣を見ると、ブルーが腕を組み、うんうんと頷いていた。

「そうよ。時代はコンパクトなのよ。テレビも電話もパソコンも、みんな時代とともに薄く小さくなってくんだから。小さい胸が未来のトレンド。そう。付加価値(ステータス)なのよ!!」

「ブルー」

 完全に吹っ切ったわけではないとわかってはいるが、我が意を得たとばかりに、握り締めた拳を掲げて声を上げるブルーの様子には、やはり頭を抱えるしかなかった。

「クックック、ハッハッハ、ハアーッハッハッハッハッハ!!」

 仮面ツインテールが、右手で額を押さえるようなポーズをとり、さっきとはまた違った調子の高笑いを上げた。なんというか、月を見るたび思い出しそうな高笑いだった。

「貧乳がステータスとは、まったく。負け犬の遠吠えとしても、あまりに滑稽というもの」

「な、なんですって!?」

「確かにステータスですねえ。もっとも、ステータスはステータスでも、バッドステータスでしょうけど。開き直りにしても浅はか過ぎるというものです!」

「ぐ、ぐぬぬぬっ」

「なんで仲間を論破してるんだよ!?」

「貧乳でも気にしない、とか貧乳の方がいい、とか、そんな言葉はですね。ヤりたい盛りの男の子が、女の卑下に見せかけた『あたし褒めて』オーラをめんどくさがって、とっととおっぱじめるために適当に肯定してあげてるだけに過ぎませんっ。その手の女はそれに気づかず自己完結しているだけですっ。なんと滑稽なのでしょうか!」

 白衣をマントのように翻し、仮面ツインテールが(うた)うようにして言い放った。

「――――」

 ブルーが、能面のような無表情をレッドにむけてきた。

 ――あいつの言ってること、ほんと?

 彼女のツインテールが、そう訊いていた。

 レッドは全力で、首を何度も横に振った。

 ――惑わされないでくれ。俺はほんとうにおまえの胸が好きなんだ。貧乳とか巨乳とか、そんなものは関係なく、おまえの胸が好きなんだ。

 己のツインテールで、そう訴えかける。

「くっ、この女っ。なぜこれほどまでに自信に満ちているのだ!?」

「むうう」

 クラーケギルディの、困惑に満ちた声が聞こえた。リヴァイアギルディもまた、さっきの仮面ツインテールの言葉に感銘を受けながらも、戸惑いを隠せないようだった。

「ブルマやスク水のような衣装を()でる嗜好は、どちらかといえば視覚による情報が主となります」

『っ?』

 仮面ツインテールが淡々と言い、リヴァイアギルディとクラーケギルディが訝し気に首を傾げた。

「しかし、乳はそうではありません。視覚よりも触覚、感触にこそ価値の大半を見(いだ)すものです。で、あるならば、実際に触れて審美できないあなたたちには、乳について語る資格など、ない。いかに属性として美しく結晶しようと、もはや存在そのものが矛盾している。それが、乳の属性であり、そこから生まれたあなたたちです!!」

『なん、だと――?』

 存在そのものを否定されたリヴァイアギルディとクラーケギルディが、愕然と声を洩らして片膝を地に突いた。

「馬鹿な、我らがっ」

「っ」

 クラーケギルディが肩を震わせ、動揺を抑えきれない様子で呟くと、リヴァイアギルディが歯を食いしばって立ち上がった。

「負けぬ」

 リヴァイアギルディが、決然と声を上げた。

「負けられぬ。仮面ツインテールよ。たとえ、おまえの言うことが正しくとも、それでも俺の中にある巨乳への想いは、(まこと)のものだ。それだけは、誰にも否定させぬ!」

「リヴァイアギルディ」

 クラーケギルディが眼を見張り、リヴァイアギルディを見つめた。

「立て、クラーケギルディ。おまえの貧乳への想いとは、その程度のものか?」

「っ!」

 視線をむけることなく紡がれたリヴァイアギルディの言葉に、クラーケギルディがハッとした。

 クラーケギルディは少しだけうつむいていたかと思うと、顔を上げて力強く立ち上がった。眼の光が、さっきまでより強くなっている気がした。

 クラーケギルディが、リヴァイアギルディに顔をむけた。

()らぬぞ」

 なにかを言おうとしたクラーケギルディの機先を制するように、リヴァイアギルディが言った。

 ピクッ、とクラーケギルディが反応し、顔をレッドたちの方にむけた。

「そうか。ならば、言わぬ」

「おう、そうだ。そうしろ」

 互いに眼をくれることなくふたりが言い合う。ふっと、このふたりは互いを強く信頼し合っているのではないか、と頭に浮かんだ。張り合い、ぶつかり合う。それが、このふたりの友情のかたちなのではないかと、レッドは不思議と思った。

 再びリヴァイアギルディとクラーケギルディが、ともに両腕を交差させるような構えをとり、深く呼吸をはじめた。先ほど以上の気が、ふたりの躰から(ほとばし)っているように思えた。

「キョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「ヒンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンッ!!」

 大気を震わせるような咆哮があたりに響き渡り、なにかが爆発したかのような衝撃を感じた。土煙があたりを覆う。

 わずかの間を置き、土煙が晴れていく。

「っ」

 リヴァイアギルディとクラーケギルディの姿が、変わっていた。

 リヴァイアギルディの姿は、見た目自体はそれほど変わっていないが、触手も含めて、体格がさっきよりひと回り以上大きくなっているように見えた。

 クラーケギルディの方は、体格はさほど変わったようには見えないが、千切れかけていた触手が治っており、さらには左右二本ずつ、二対の触手が太く、大きなものになっていた。先ほど切り離した触手よりも太く、大きかった。

 どちらにも共通しているのは、ドラグギルディに匹敵するほどの凄み。

「これが」

「そうだ。これが、俺たちの最終闘体」

「姫。この身のすべてが否定されようとも、私は愛を貫きましょう。あなたの、天に輝く星々をも(かす)ませる光を放つ、その大いなる貧乳に誓って」

 プチッ、となにかが切れる音が聞こえた気がした。ブルーの方から聞こえたような気がした。嫌な予感を覚え、恐る恐るブルーに眼をやる。

「ブ、ブルー?」

 恐々(こわごわ)と呼びかけるが、ブルーは顔をうつむかせ、プルプルと肩を震わせていた。

「どいつもこいつも」

 背筋が凍えるような、怒気を感じた。仮面ツインテールが(だっ)()のごとき勢いで逃げて行く。

 待て、おい、さっきのおまえの言葉も一因だろう、などと思いながらも、ブルーにむき直った。

「お、落ち着け、ブル」

「我が全霊の力、とくとご覧あれ。私はこの愛を、貧乳の美姫(びき)に捧げましょう!」

「っておまえ、もう(しゃべ)っ」

「貧乳貧乳うるせえええええええええええええええええ!!」

 なおも貧乳のことに触れるクラーケギルディを黙らせようと声を上げかけたところで、さっきのリヴァイアギルディとクラーケギルディにも負けないほどの咆哮が、ブルーの口から放たれた。思わずレッドの躰が硬直する。

 ブルーが、クラーケギルディに猛獣のごとく飛びかかった。クラーケギルディは、なにが起こったのか理解できない様子で、茫然とブルーを見ていた。

「ちっ!」

 (いち)早く反応したリヴァイアギルディが、クラーケギルディを勢いよく突き飛ばした。

 ブルーが、リヴァイアギルディを引っ掴んだ。

「こっち来い、オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 ブルーがリヴァイアギルディを豪快に振り回し、地面に叩きつけた。轟音が響き渡るとともに、リヴァイアギルディのかたちにアスファルトが砕け、亀裂があたりに走った。

 仰向けに倒れたかたちのリヴァイアギルディの上に、ブルーが間髪入れず踏みつけるようにして飛び乗った。さらに轟音が響き、地面に亀裂が走る。

 ブルーが、マウントポジションをとった。

「うっがああああああああああああああああああああああああ!!」

 レッドの眼でも追いきれないほどの拳打が、リヴァイアギルディの顔面にいくつも叩きこまれる。衝撃で地面のアスファルトはさらに砕け、周囲の亀裂もさらに広がっていく。

 あれだけの攻撃を受ければ、ただでは済まないだろう。たとえ受けるのがドラグギルディだったとしても、かなりのダメージになったはずだ。だがリヴァイアギルディは、(ひる)むことなくブルーの顔を睨みつけていた。

「ひ、姫、御乱心()され」

 クラーケギルディが近づこうとしたところで、リヴァイアギルディが彼にむかって眼をむけた。リヴァイアギルディの眼の光は、驚くほど強かった。クラーケギルディが、ハッと動きを止めた。

「キョッ!」

 リヴァイアギルディがブルーの拳を掴んだかと思うと、ブリッジで撥ね上げるようなかたちで投げ飛ばした。

 ブルーが着地し、リヴァイアギルディが立ち上がった。リヴァイアギルディは、眼を鋭くして、ブルーを見ていた。

 再び飛びかかろうと、ブルーが姿勢を低くした。

「なんだその姿は、テイルブルーッ!!」

『っ!?』

 リヴァイアギルディが、声を荒らげて叫んだ。レッドもクラーケギルディも、思わずリヴァイアギルディに顔をむけた。

「確かに俺たちは侵略者だ! どんな手を使われようと文句を言える立場ではない! だが、戦士と闘い、誇り高く散ったのだと思うことすら許されんと言うのか!? ただ怒りに任せ、武ではなく暴を振るうのか!? おまえは、戦士ではなく、獣だとでも言うのか!? 答えろ、テイルブルー!!」

 リヴァイアギルディの声からは、怒り以上に、嘆きや悲しみのようなものが感じられた。慟哭のように思えた。

 ブルーの方に眼をやる。ブルーは、うつむくようにして、静かに(たたず)んでいた。

「ブルー?」

 ブルーが大きくため息をつき、(かぶり)を振った。

「ごめん、落ち着いた。心配かけてごめんね、レッド」

「あ、ああ」

 バツが悪そうにブルーが言い、レッドは戸惑いながらもなんとなく頷いた。

 ブルーが、リヴァイアギルディにむき直った。

「悪かったわね、失望させたみたいで?」

「ふん。まあ、貧乳ならば仕方あるまい。巨乳のごとき大きな包容力など、望むべくもない」

「短気さは自覚してるけど、巨乳や貧乳は関係ないわよ」

 思わずブルーの顔を見る。乳のことに触れたというのに、落ち着いた様子だった。ジト目でリヴァイアギルディを睨んではいるものの、いままでとはなにかが違う気がした。

 リヴァイアギルディが、転がっていたウェイブランスを触手で掴み、ブルーに(ほう)った。顔をしかめながらもブルーがそれを掴み、構えた。

 大丈夫そうだ、とレッドは思った。それどころか、いままでにない彼女の落ち着き具合に、これまでどこかに感じていた不安が、レッドの中から自然と消えていった。

「今度こそ任せたぜ、ブルー」

「ええ。そっちこそ、クラーケギルディはお願いね」

「おう」

 互いに微笑み合い、レッドはクラーケギルディにむき直った。

 クラーケギルディは、なにかを考えこむように顔をうつむかせていた。

「クラーケギルディ。場所を変えようぜ」

「っ」

 クラーケギルディが、ハッとしたように顔を上げた。クラーケギルディはブルーをちょっとだけ見ると、レッドにむき直った。

「そうだな。今度こそ、決着をつけるとしよう」

「ああ」

 クラーケギルディの反応に少し引っかかるものを感じたが、なにも言わずブルーたちからちょっとだけ離れたところに移動した。

 互いに剣を構えて対峙したところで、ブルーとリヴァイアギルディの槍がぶつかり合う衝撃を感じた。

 




 
「次におまえは、『あれ、イエローは?』と言う」
JOJOっぽいナレーションってどんな感じに書けばいいんだろうなあ、とか思った。

二体の最終闘体はオリジナルです。いろいろ考えたけど純粋な強化方向で。


久々にドラクエやりました。ドラクエ11すげえ面白かったです。主ベロとカミュセニャ、イイ――ってなりました。
 

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