あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

9 / 45
 
初稿では書かなかったアルティメギル側の話です。
1-9まで修正が完了しておりますので、まだご覧になってない方はそちらからお願いします。
1-10、1-11も同時に修正しました。
 


1-9U 竜の出陣

 そろそろ頃合いか。

 世界に広がっていくツインテールを見て、玉座のような立派な椅子に座り、足を組んでいたドラグギルディは、そう思った。こういった派手なものはあまり趣味ではないのだが、どっしりと構えることで周りの者たちに安心感を与えるためということもあり、あえてこのようにしている。

 それはともあれ、いつのころからか、アルティメギルによる侵略作戦の最優先となった、ツインテールを拡散――あるいは養殖――させ、刈り取る作戦。それは、この世界でもほとんど問題なく進んでいた。

 選んだ戦士によっては、ツインテール以上に拡がる属性もあるが、この世界で最も拡がっているのは、目論見(もくろみ)どおりツインテール。ほかに拡がっている属性は、恋愛属性(ラブ)貧乳属性(スモールバスト)などだが、テイルブルーの恋愛属性(ラブ)、想いを象徴するのがツインテールであるためか、ツインテールほどの拡がりはなかった。貧乳属性(スモールバスト)については考えないことにする。

 それにしても、あの衣であそこまで戦えるとは。彼女の戦闘を思い起こし、ドラグギルディは感嘆する。

 この世界の戦士、テイルブルーとなった少女に渡したギアの性能は、下の下。最下級のものである。特殊な機能はほとんどなく、身体能力の強化のみ。その強化も、並のエレメリアンとどうにか戦える程度のものでしかない。

 機能のひとつであるピラーは、エレメリアンの爆発による被害を撒き散らさないだけのもの。これも、ツインテールの戦士を祭り上げさせるためでしかなかった。

 戦いによる被害が大きく出れば、それに文句をつける者も現れ、下手をすれば戦士とツインテールの評判が落ちる可能性がある。そうなれば、ツインテールが世界に拡がるのが遅れ、部下の被害が増えていく。

 戦士の強さ――弱さ――によっては、より性能の高いギアか、機能拡張ツールの設計図、あるいは現物などを渡す。ツインテールが拡がりきる前に倒れられては、困るからだ。

 いままでは、そうだった。それを必要とせず、ここまで戦い、勝利してきたテイルブルーは、まさしく武の天稟(てんぴん)を持っている。戦闘の才ならば、ドラグギルディが見てきた戦士の中で、おそらく最高のものだろう。

 かつて戦った中で、自分と対等に戦った、最強の戦士を思い出す。戦士自身が作った衣をまとい、それまで見た中でも最も美しいツインテールを(なび)かせた、銀髪の戦美姫。

 戦闘力は、装備のことを考えれば、彼女の方が遥かに上だろう。だが、戦闘のセンスと技量に関しては、テイルブルーの方が上に思えた。ツインテールも、美しさに関してはどちらも遜色はない。しかしテイルブルーは、ツインテールというものに複雑な想いを持っているようであり、同時に、どこか自信を持ちきれてないようにも思えた。

 テイルブルーが、ツインテールへのわだかまりを捨て、自信を持ち、あの戦美姫の衣をまとえば。いや、自分たちが所持するギアの中でも最強のものを渡せば。

 そこまで考えて、小さく(かぶり)を振る。それは、多くの部下の命を預かる者として、やってはいけないことだ。自分の欲求のためだけにやっていいことでは、ない。そう自分に言い聞かせる。

 眼を、部下たちの方にむける。

 いま彼らは、誰が次にテイルブルーに挑むかを話していた。

 テイルブルーと戦う者は、なにがそうさせるのか、戦いの中で限界以上の強さを発揮する。それが、武人として心惹かれるのだろう。志願する者は多かった。

 武人として、その気持ちはよくわかる。強者と戦うこと、そして、さらなる強さを求めることこそ、武人の本懐。命と引き換えとなっても、抗いがたい魅力だ。

 だが目的は、あくまでもツインテール属性である。それを考えれば、これ以上、部下たちを出すわけにはいかない。

「ドラグギルディ様、次は私をっ!」

「――――スワンギルディか」

 そう考えていたところに、白鳥を思わせるエレメリアン、スワンギルディが志願してきた。

 スワンギルディは、ドラグギルディの弟子の中では年若いが、これは、と思わせるものを持っていた。それは、テイルブルーと同じく天稟(てんぴん)と呼べるものであり、おそらくは、いずれ師である自分をも超えるのではないか。そう感じさせるほどのものがあった。

 だが、いまはまだ、並よりは上程度のものでしかない。テイルブルーと戦うことで、その持ったものを引き出せる可能性はある。だが、命を落とす可能性も充分にあった。

 この男を、ここで死なせたくはない。そう考えると同時に、弟子に優劣をつけてしまうなど、師としてあるまじき行為だと、己を叱責する。

 しかし、この男を死なせたくないというのも、紛れもない本心だった。

「よかろう。だが、その前にテストを行う。おまえが、テイルブルーと戦うにふさわしいかどうかをな」

 眼を閉じ、少し考えたあと、再び眼を開き、告げる。

 この試練を越えられるのならば、なにも言うことはない。その上で命を落とすのならば、それまでの男だったということだ。

 そう思い定め、ドラグギルディは静かに立ち上がった。

『っ!?』

 周りのエレメリアンたちが息を呑んだのが、わかった。

 いつの間にか、文字通りスワンギルディの眼の前に、ドラグギルディの大剣が突きつけられていた。周りからは、そうとしか見えなかっただろう。

 だがスワンギルディは、身じろぎひとつしない。反応できなかったのではない。スワンギルディの眼は、はっきりとドラグギルディの剣を追っていた。ドラグギルディには、それがわかった。

 ドラグギルディは、特に驚きはしない。この男なら、この程度は当然だろう。

 切っ先を突きつけていた大剣を、ゆっくりと戻す。

「フッ。肝はなかなかのものだ。だが、もう少し試そう。あれを持ていっ!」

 ドラグギルディの言葉が終わると、戦闘員(アルティロイド)がキャリーでPC(パソコン)とモニターを運んできた。黙礼とともにその戦闘員(アルティロイド)が、ドラグギルディにかしずく。

「あ、あれは、私の部屋のパソコンッ。な、なぜここへ!?」

 なぜと言いながらも、おそらく察しはすでについているのだろう。戦闘員(アルティロイド)が運んできたPCとモニターを見たスワンギルディは、はっきりわかるほど怯えていた。周りの者たちもまた、ざわめきだす。

「静まれ。これも、テストの一環だ」

「ま、まさかっ、あの修羅の試練、エロゲミラ・レイターをっ」

 ドラグギルディの言葉に、周りのエレメリアンたちは一斉に静まるが、スワンギルディはさらに動揺する。歯の根が合わず、ガチガチと鳴っていた。

 PCを立ち上げると、ドラグギルディは無言でマウスを動かし、デスクトップ上にある、ツインテールの女の子型のアイコンの上で、カーソルを止めた。

「っ!」

 スワンギルディの、怯える気配が強くなった。だがスワンギルディは、画面を見ていない。ドラグギルディがマウスを動かした距離だけで、察したのだろう。驚くべき資質であった。

 カチリ、とマウスのボタンをクリックする。

『おまかせ! ナースエンジェルたんっ!』

 原色たっぷりのメーカーロゴのあと、タイトル画面が表示される。それと同時に、複数の声優さんの声によって室内に響き渡る、タイトル名。

 エロゲーである。人間ならば、大抵の世界において十八歳未満禁止とされるエロゲーだが、エレメリアンにとって気にすることではない。

 就職するには早そうな年齢に見える女の子たちが、ナース服を着ている。スワンギルディの属性は、看護服属性(ナース)。そのためだろう。

 すぐに、『ロードする』を選択する。

『ハーイ、ロードしまぁーす』

「これは、この世界で数日前に発売されたばかりのゲームであろう。もうコンプリートしておるわ。卑しいやつよのう」

 語尾にハートマークがつきそうな、媚びっ媚びな女の子の声が響き、その声とともに表れたロード画面を見て、ドラグギルディは(あざけ)るように言いながら、心の内で感心する。この短期間で、このゲームをコンプリートするとは。ゲームだけならともかく、鍛練を行い、テイルブルー攻略の会議に出た上で成している。そのことに、目の前の弟子の才の片鱗を感じとり、嬉しくなる。

 この男は、努力を欠かさない。看護服属性(ナース)の申し子と称されるほどの、誰もが神童と認める才を持っていながら、それに(おご)らず、飽くなき向上心を備え、他者への敬意を忘れない。そしてそれ以上に、それらの理由が余計なことと思えるほどの、見る者をはっとさせるなにかがあった。

「おお、そうだ。皆にもよく見えるようにせねばな」

 その思いをおくびにも出さず、言葉通りほかの者たちにも見えるように、部屋の大モニターにPC画面を映し出す。

 ひっ、とスワンギルディが怯えたような声を漏らすが、気にせずにセーブデータのサムネイルをチェックしていく。

「フッフッフ。それにしてもこのセーブデータ、サムネイルが肌色ばかりよのう」

「お、お許しをっ、どうかお許しをーっ!!」

「ほう。だというのにひとつだけ、頬を赤く染めた少女のサムネイル。これは、怪しいのう」

 必死な様子のスワンギルディの反応を流し、ドラグギルディはそのセーブデータをロードする。

 おそらくは主人公の部屋。そこでの二人きりのやりとり。なぜ、看護(ナース)服ではなく、学生服なのだ。画面に映ったヒロインを見て、そう思わなくもないが、些細なことなのでそのまま続ける。女の子は顔を赤らめているが、そのまま普通の会話が続き、場面が切り替わった。

 ドラグギルディは、すべてを察した。

「どうやら幼馴染みの部屋に遊びに来たところで、これから二人で睦事(むつごと)をするのではないかと期待し、すぐさまセーブしたのであろうな。だが、何事もなく終わり、落胆」

「あるある」

「あるある」

「スワンギルディ、誰もが通る道だ」

「そうだ。恥ずかしがることじゃないぞ」

「ぐわああああああっ」

 共感する声が辺りに響き、優しく慰める言葉もかけられる。それが逆に、スワンギルディへのトドメとなったようだった。悲鳴を上げて、彼は倒れ伏した。

「連れて行けい」

「モケェー」

 ドラグギルディの指示を受け、気絶したスワンギルディを戦闘員(アルティロイド)が運んでいく。

「フッ、未熟者め。これしきのことで倒れるような者がテイルブルーと戦おうとは、片腹痛いわ」

 だが、大したものだ。運ばれていくスワンギルディを見ながら、心の中で褒める。

 ドラグギルディのような幹部級のエレメリアンなら、なにほどのことでもないが、スワンギルディくらいのエレメリアンなら、セーブデータを開いたあたりで倒れているところだろう。それを、あれだけ耐えたのだ。

 ほんとうに、先が楽しみなやつだ。そう考えると、スワンギルディのPCをシャットダウンし、立ち上がる。

(われ)が、行く。スパロウギルディよ、スワンギルディのことは任せたぞ」

「はっ、承知致しました。しかし、おひとりで行かれるのですか?」

「うむ。供の必要は、ない」

「かしこまりました。ご武運を」

 (すずめ)を思わせるエレメリアン、スパロウギルディに告げて歩き出し、ドラグギルディが出るという言葉を聞いてどよめく大ホールをあとにする。スパロウギルディは、戦闘力そのものはそれほどでもないが、古参の戦士であり、優秀な参謀である。ドラグギルディの副官である彼も、ツインテールを拡散させる作戦のことは知っており、また、ドラグギルディの悩みも察しているふしがあった。

 それにしても。

 通路を歩きながら、思う。スワンギルディのことは任せたなど、まるで遺言のようだ、と。

 テイルブルーの武の才は、確かにとてつもない。だが、あの衣では、幹部である自分には、万にひとつの勝ち目もない。そういうものなのだ。戦闘員(アルティロイド)も、部下のエレメリアンも必要ない。

 満たされないものを胸に抱きながら、戦場にむかう。

 ふっと思い出すのは、ひとりのエレメリアンのことだった。

 ツインテール属性と並び立つ、ポニーテール属性の戦士、不死鳥の名を冠したエレメリアン。

 付き合いは長かったが、友ではない。むこうも、同じように思っていただろう。対立する属性ではあったが、自分たちの関係は、言うなれば好敵手と呼ぶべきものだったのだと思う。

 何度もぶつかり合ったものだった。暑苦しいヤツではあったが、なにがあっても自分の生き方を貫く姿勢は、見上げたものがあった。暑苦しいヤツだったが。

 

 部下たちのことばっかり気にかけてないで、もっと自分の思うように生きたらどうだ。ドラグギルディが、部隊長となって多くの部下を預かり、弟子を持つようになってから、ヤツに言われた言葉だ。

 そういうおまえは、あちこちで随分とおせっかいを焼いているようだな。自分は、その言葉に対してこう返すのが常だった。ツインテールを拡散させて刈り取る作戦を、(こころよ)く思っていない幹部エレメリアンは、実のところ少なからずいる。それでも、責任ある立場に就く以上、表立ってそれに反発する者はまずいない。その数少ない例外が、ヤツだった。

 ドラグギルディ自身、その作戦に思うところがないわけではない。人の精神から生まれながら、まるで人を下に見るようで、傲慢なものだと思う。しかし、エレメリアンの数は膨大なものであり、いまも増え続けているのだ。それに、実力を認められ、部隊長に任命されながら、その責務を放り出すことを正しいとも思えなかった。

 そしてヤツは、反逆者として、アルティメギル首領が自ら封印を行った。

 ツインテールを刈り取る作戦を邪魔したため、ではないような気がした。いろいろと引っかかることがあったのだ。

 ヤツと同じポニーテール属性を持った、アルティメギル史上最高の頭脳を持つと言われたひとりのエレメリアンが、その少し前にいなくなったと聞いた。そのふたりに関する情報は、なぜか調べることすら許されなくなった。

 さらに気になったのは、戦美姫のまとっていた衣だった。あの世界における最強のツインテール属性を探している時に、彼女は現れた。あの世界は、確かに高い技術力を持っていたが、属性力(エレメーラ)関連のテクノロジーがある気配はなかったのだ。彼女がほんとうに一から作り上げた可能性は確かにあるが、どうにも引っかかるものがあった。

 最初に考えたのは、高い技術力を持ちながらアルティメギルに滅ぼされた世界の、属性力(エレメーラ)を奪われることを免れた者がほかの世界に渡り、その技術を教えたのではないか、あるいは彼女自身がそうなのではないか、ということだった。だがその場合、彼女の行動が腑に落ちない。滅ぼされた世界の者なら、こちらの作戦を知っていてもおかしくない。しかし彼女は、かの世界で大々的にアピールしている。なにより、最後に戦った時、彼女のツインテールからは迷いを感じた。途中でこちらの作戦に気づいたことで、それが生まれたのではないか。あくまでも勘であり、確証があるわけではないが、そう思った。

 その次に、消えた、ポニーテール属性のエレメリアンのことが、なぜか気にかかった。

 あの戦美姫の世界の侵略が終わってから、あの話は流れた。世界は広い。宇宙はもっと広い。異世界の数は、無限にあるのではないか、と思えるほどである。それを考えれば、偶然であってもおかしくはない。だが、どういうわけか、釈然としなかった。

 もうひとつ気になったのは、ヤツ、不死鳥のエレメリアンと話した内容のことだ。戦美姫と戦ったあと、少し経ってからドラグギルディのところに来て、話をした。その際にヤツから、ある質問をされたのだ。ツインテールになりたいと思ったことはないか、と。

 自分の切り札のことを知っているはずだったが、それとは違うのか。そう思い、ドラグギルディが問い返すと、そういうものではなく、ツインテールの似合う姿になってみたいと思ったことはないか、と改めて聞かれた。

 なにを言っているのだ、と思った。しかし、ヤツの物言いは真剣なものであり、本気の答えを求めているのだと知れた。ドラグギルディがそれに、考えたこともないと答えると、そうだろうな、とヤツは深々と頷き返し、だが、もし成れるとしたら、それによって、人間から属性力(エレメーラ)を奪わなくてもいいようになったら、おまえはどう思う、と言葉を続けてきた。

 一笑に付すような質問であったが、笑い飛ばすことはしなかった。考えるまでもなく、答えはすぐに出た。

 もし、成れるとしたら、どれだけすばらしいことであろうか。『人』の属性力(エレメーラ)を奪うことなく、己のツインテールをじっくりと見て愉しめるのだ。それだけでなく、人のすばらしいツインテールを見て、人とともに生きることもできる。夢のような話だ。だがそれは、まさに夢のようなものではないか。到底叶うこととは思えぬ。ドラグギルディは、そう答えた。

 まあ、そう思うだろうな、とヤツは苦笑を浮かべてそう返したあと、だけどな、ひょっとしたら、成れるかもしれないぜ、と続けてきたのだ。

 楽しみにしておけよな、とヤツが言い残してその会話は終わり、ポニーテール属性のエレメリアンふたりが、アルティメギルから消えた。

 さらにそのあと、アルティメギル首領から召喚を受け、ヤツと話したことを聞かれた。答えてはならない、と不思議と頭に浮かび、その時以外のことだけを話した。それを信じたのか、そこで質問は終わった。いや、もしかしたら、すべてを知っていたのかもしれない。難解な言葉とともに、『ヒトガタ』を賜った。

 そして、ヒトガタの『髪』を結んだ。

 エレメリアンが『人』に成ることなど、できはしない。そう言われた気がした。

 

 テイルブルーに、彼女に結んでもらったツインテールを思い出す。

 いまから自分は、彼女を倒しに行く。この世界のツインテールを、彼女のツインテールを、彼女が想いを寄せる少年の、ツインテールを愛する心を、属性力(エレメーラ)を奪いに行く。

 我は、恩を仇で返そうとしている。

 だが、そう考えながらも、あの二人の属性力(エレメーラ)を喰らいたいと思う自分もいる。その欲求は、日に日に強くなっているのだ。それが、エレメリアンの本能だった。

 迷ったことなど、なかった。ヤツからあの話を聞いてからも、それは変わらなかった。属性力(エレメーラ)を喰らわなければ生きていけない以上、仕方がないことだ、という思いが強かったのだ。

 しかし、もし、あの結んでもらったツインテールを奪われるとしたら、自分は断固拒否することだろう。奪われて死ぬことはなくとも、失いたくないと思ってしまうのだ。自分たちがやってきたことは、そういうことなのだろう。

 あの二人と会わなければ、ツインテールについて語り合い、結んでもらわなければ、こんなふうに悩むことはなかっただろう。しかし不思議なことに、出会えたことを嬉しいと感じている自分も、確かにいるのだ。

 立ち止まり、自分の手を見る。何人もの戦士を打ち倒してきた、自分の手。

 何人もの『人』の属性力(エレメーラ)を、奪ってきた。喰らってきた。そこに、後悔はない。いや、してはならない。生きるためなのだ。なにより、自らのやってきたことを否定してしまっては、部下たちに、そして、属性力(エレメーラ)を奪ってきた人間たちにも、顔向けできないではないか。

 だが、もしも、ヤツの言うように。

 そこまで考えると、迷いを振り切るように顔を上げ、再び歩き出す。足音が、通路に響いた。

 

 

 

 出てきたのか。

 探知装置で確認した、強大な属性力(エレメーラ)。間違いなく幹部級の、ドラグギルディのものだ。できれば、こんなに早く出てこないでほしかったのだが。

 結局、チャンスは掴めなかった。迷いもまだ晴れない。

 だからといってこのままでは、ヤツを倒せる機会を失ってしまう。決断するしかない。

 認識撹乱装置を起動し、そっと店の中に入る。閉店となっているが気にしない。もとい、気にしている場合ではない。

 居た。ひとり、カウンター席に座り、黄昏(たそがれ)ている少年、観束総二の姿を見つける。

 おそらくテイルブルーを、津辺愛香のことを心配しているのだろう。

 こっそりと店の奥の席に行き、座る。新聞紙を取り出し、広げた。一度、やってみたかったのだ。特に意味はないが。

 新聞紙を広げながら、チラチラと総二の方を見る。彼の表情は、やはり優れない。

 よし。

 意を決して、新聞紙に指で穴を空け、そこから覗きこむ。これも、一度やってみたかったことだ。やはり意味はないが。

「――――」

 眼が、合った。

 

 これが、互いに惹かれあう二人の、運命の出会いだった。

 

 そう思ってみることにした。

 

 

 




 
『おまかせ! ナースエンジェルたん!』はコミカライズ版の『俺、ツインテールになります。π』から。アクションシーンの迫力はありませんでしたが、雰囲気はバッチリで良作だったと思ってます。早くに終わってしまって残念。

焼き鳥さんとドラグギルディは知り合いっぽいのでこんな感じで。
「あいつも部隊だ部下だのに構い過ぎなけりゃ、いつか辿りついたかもしれねえのに」

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。