初稿では書かなかったアルティメギル側の話です。
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1-10、1-11も同時に修正しました。
そろそろ頃合いか。
世界に広がっていくツインテールを見て、玉座のような立派な椅子に座り、足を組んでいたドラグギルディは、そう思った。こういった派手なものはあまり趣味ではないのだが、どっしりと構えることで周りの者たちに安心感を与えるためということもあり、あえてこのようにしている。
それはともあれ、いつのころからか、アルティメギルによる侵略作戦の最優先となった、ツインテールを拡散――あるいは養殖――させ、刈り取る作戦。それは、この世界でもほとんど問題なく進んでいた。
選んだ戦士によっては、ツインテール以上に拡がる属性もあるが、この世界で最も拡がっているのは、
それにしても、あの衣であそこまで戦えるとは。彼女の戦闘を思い起こし、ドラグギルディは感嘆する。
この世界の戦士、テイルブルーとなった少女に渡したギアの性能は、下の下。最下級のものである。特殊な機能はほとんどなく、身体能力の強化のみ。その強化も、並のエレメリアンとどうにか戦える程度のものでしかない。
機能のひとつであるピラーは、エレメリアンの爆発による被害を撒き散らさないだけのもの。これも、ツインテールの戦士を祭り上げさせるためでしかなかった。
戦いによる被害が大きく出れば、それに文句をつける者も現れ、下手をすれば戦士とツインテールの評判が落ちる可能性がある。そうなれば、ツインテールが世界に拡がるのが遅れ、部下の被害が増えていく。
戦士の強さ――弱さ――によっては、より性能の高いギアか、機能拡張ツールの設計図、あるいは現物などを渡す。ツインテールが拡がりきる前に倒れられては、困るからだ。
いままでは、そうだった。それを必要とせず、ここまで戦い、勝利してきたテイルブルーは、まさしく武の
かつて戦った中で、自分と対等に戦った、最強の戦士を思い出す。戦士自身が作った衣をまとい、それまで見た中でも最も美しいツインテールを
戦闘力は、装備のことを考えれば、彼女の方が遥かに上だろう。だが、戦闘のセンスと技量に関しては、テイルブルーの方が上に思えた。ツインテールも、美しさに関してはどちらも遜色はない。しかしテイルブルーは、ツインテールというものに複雑な想いを持っているようであり、同時に、どこか自信を持ちきれてないようにも思えた。
テイルブルーが、ツインテールへのわだかまりを捨て、自信を持ち、あの戦美姫の衣をまとえば。いや、自分たちが所持するギアの中でも最強のものを渡せば。
そこまで考えて、小さく
眼を、部下たちの方にむける。
いま彼らは、誰が次にテイルブルーに挑むかを話していた。
テイルブルーと戦う者は、なにがそうさせるのか、戦いの中で限界以上の強さを発揮する。それが、武人として心惹かれるのだろう。志願する者は多かった。
武人として、その気持ちはよくわかる。強者と戦うこと、そして、さらなる強さを求めることこそ、武人の本懐。命と引き換えとなっても、抗いがたい魅力だ。
だが目的は、あくまでもツインテール属性である。それを考えれば、これ以上、部下たちを出すわけにはいかない。
「ドラグギルディ様、次は私をっ!」
「――――スワンギルディか」
そう考えていたところに、白鳥を思わせるエレメリアン、スワンギルディが志願してきた。
スワンギルディは、ドラグギルディの弟子の中では年若いが、これは、と思わせるものを持っていた。それは、テイルブルーと同じく
だが、いまはまだ、並よりは上程度のものでしかない。テイルブルーと戦うことで、その持ったものを引き出せる可能性はある。だが、命を落とす可能性も充分にあった。
この男を、ここで死なせたくはない。そう考えると同時に、弟子に優劣をつけてしまうなど、師としてあるまじき行為だと、己を叱責する。
しかし、この男を死なせたくないというのも、紛れもない本心だった。
「よかろう。だが、その前にテストを行う。おまえが、テイルブルーと戦うにふさわしいかどうかをな」
眼を閉じ、少し考えたあと、再び眼を開き、告げる。
この試練を越えられるのならば、なにも言うことはない。その上で命を落とすのならば、それまでの男だったということだ。
そう思い定め、ドラグギルディは静かに立ち上がった。
『っ!?』
周りのエレメリアンたちが息を呑んだのが、わかった。
いつの間にか、文字通りスワンギルディの眼の前に、ドラグギルディの大剣が突きつけられていた。周りからは、そうとしか見えなかっただろう。
だがスワンギルディは、身じろぎひとつしない。反応できなかったのではない。スワンギルディの眼は、はっきりとドラグギルディの剣を追っていた。ドラグギルディには、それがわかった。
ドラグギルディは、特に驚きはしない。この男なら、この程度は当然だろう。
切っ先を突きつけていた大剣を、ゆっくりと戻す。
「フッ。肝はなかなかのものだ。だが、もう少し試そう。あれを持ていっ!」
ドラグギルディの言葉が終わると、
「あ、あれは、私の部屋のパソコンッ。な、なぜここへ!?」
なぜと言いながらも、おそらく察しはすでについているのだろう。
「静まれ。これも、テストの一環だ」
「ま、まさかっ、あの修羅の試練、エロゲミラ・レイターをっ」
ドラグギルディの言葉に、周りのエレメリアンたちは一斉に静まるが、スワンギルディはさらに動揺する。歯の根が合わず、ガチガチと鳴っていた。
PCを立ち上げると、ドラグギルディは無言でマウスを動かし、デスクトップ上にある、ツインテールの女の子型のアイコンの上で、カーソルを止めた。
「っ!」
スワンギルディの、怯える気配が強くなった。だがスワンギルディは、画面を見ていない。ドラグギルディがマウスを動かした距離だけで、察したのだろう。驚くべき資質であった。
カチリ、とマウスのボタンをクリックする。
『おまかせ! ナースエンジェルたんっ!』
原色たっぷりのメーカーロゴのあと、タイトル画面が表示される。それと同時に、複数の声優さんの声によって室内に響き渡る、タイトル名。
エロゲーである。人間ならば、大抵の世界において十八歳未満禁止とされるエロゲーだが、エレメリアンにとって気にすることではない。
就職するには早そうな年齢に見える女の子たちが、ナース服を着ている。スワンギルディの属性は、
すぐに、『ロードする』を選択する。
『ハーイ、ロードしまぁーす』
「これは、この世界で数日前に発売されたばかりのゲームであろう。もうコンプリートしておるわ。卑しいやつよのう」
語尾にハートマークがつきそうな、媚びっ媚びな女の子の声が響き、その声とともに表れたロード画面を見て、ドラグギルディは
この男は、努力を欠かさない。
「おお、そうだ。皆にもよく見えるようにせねばな」
その思いをおくびにも出さず、言葉通りほかの者たちにも見えるように、部屋の大モニターにPC画面を映し出す。
ひっ、とスワンギルディが怯えたような声を漏らすが、気にせずにセーブデータのサムネイルをチェックしていく。
「フッフッフ。それにしてもこのセーブデータ、サムネイルが肌色ばかりよのう」
「お、お許しをっ、どうかお許しをーっ!!」
「ほう。だというのにひとつだけ、頬を赤く染めた少女のサムネイル。これは、怪しいのう」
必死な様子のスワンギルディの反応を流し、ドラグギルディはそのセーブデータをロードする。
おそらくは主人公の部屋。そこでの二人きりのやりとり。なぜ、
ドラグギルディは、すべてを察した。
「どうやら幼馴染みの部屋に遊びに来たところで、これから二人で
「あるある」
「あるある」
「スワンギルディ、誰もが通る道だ」
「そうだ。恥ずかしがることじゃないぞ」
「ぐわああああああっ」
共感する声が辺りに響き、優しく慰める言葉もかけられる。それが逆に、スワンギルディへのトドメとなったようだった。悲鳴を上げて、彼は倒れ伏した。
「連れて行けい」
「モケェー」
ドラグギルディの指示を受け、気絶したスワンギルディを
「フッ、未熟者め。これしきのことで倒れるような者がテイルブルーと戦おうとは、片腹痛いわ」
だが、大したものだ。運ばれていくスワンギルディを見ながら、心の中で褒める。
ドラグギルディのような幹部級のエレメリアンなら、なにほどのことでもないが、スワンギルディくらいのエレメリアンなら、セーブデータを開いたあたりで倒れているところだろう。それを、あれだけ耐えたのだ。
ほんとうに、先が楽しみなやつだ。そう考えると、スワンギルディのPCをシャットダウンし、立ち上がる。
「
「はっ、承知致しました。しかし、おひとりで行かれるのですか?」
「うむ。供の必要は、ない」
「かしこまりました。ご武運を」
それにしても。
通路を歩きながら、思う。スワンギルディのことは任せたなど、まるで遺言のようだ、と。
テイルブルーの武の才は、確かにとてつもない。だが、あの衣では、幹部である自分には、万にひとつの勝ち目もない。そういうものなのだ。
満たされないものを胸に抱きながら、戦場にむかう。
ふっと思い出すのは、ひとりのエレメリアンのことだった。
ツインテール属性と並び立つ、ポニーテール属性の戦士、不死鳥の名を冠したエレメリアン。
付き合いは長かったが、友ではない。むこうも、同じように思っていただろう。対立する属性ではあったが、自分たちの関係は、言うなれば好敵手と呼ぶべきものだったのだと思う。
何度もぶつかり合ったものだった。暑苦しいヤツではあったが、なにがあっても自分の生き方を貫く姿勢は、見上げたものがあった。暑苦しいヤツだったが。
部下たちのことばっかり気にかけてないで、もっと自分の思うように生きたらどうだ。ドラグギルディが、部隊長となって多くの部下を預かり、弟子を持つようになってから、ヤツに言われた言葉だ。
そういうおまえは、あちこちで随分とおせっかいを焼いているようだな。自分は、その言葉に対してこう返すのが常だった。ツインテールを拡散させて刈り取る作戦を、
ドラグギルディ自身、その作戦に思うところがないわけではない。人の精神から生まれながら、まるで人を下に見るようで、傲慢なものだと思う。しかし、エレメリアンの数は膨大なものであり、いまも増え続けているのだ。それに、実力を認められ、部隊長に任命されながら、その責務を放り出すことを正しいとも思えなかった。
そしてヤツは、反逆者として、アルティメギル首領が自ら封印を行った。
ツインテールを刈り取る作戦を邪魔したため、ではないような気がした。いろいろと引っかかることがあったのだ。
ヤツと同じポニーテール属性を持った、アルティメギル史上最高の頭脳を持つと言われたひとりのエレメリアンが、その少し前にいなくなったと聞いた。そのふたりに関する情報は、なぜか調べることすら許されなくなった。
さらに気になったのは、戦美姫のまとっていた衣だった。あの世界における最強のツインテール属性を探している時に、彼女は現れた。あの世界は、確かに高い技術力を持っていたが、
最初に考えたのは、高い技術力を持ちながらアルティメギルに滅ぼされた世界の、
その次に、消えた、ポニーテール属性のエレメリアンのことが、なぜか気にかかった。
あの戦美姫の世界の侵略が終わってから、あの話は流れた。世界は広い。宇宙はもっと広い。異世界の数は、無限にあるのではないか、と思えるほどである。それを考えれば、偶然であってもおかしくはない。だが、どういうわけか、釈然としなかった。
もうひとつ気になったのは、ヤツ、不死鳥のエレメリアンと話した内容のことだ。戦美姫と戦ったあと、少し経ってからドラグギルディのところに来て、話をした。その際にヤツから、ある質問をされたのだ。ツインテールになりたいと思ったことはないか、と。
自分の切り札のことを知っているはずだったが、それとは違うのか。そう思い、ドラグギルディが問い返すと、そういうものではなく、ツインテールの似合う姿になってみたいと思ったことはないか、と改めて聞かれた。
なにを言っているのだ、と思った。しかし、ヤツの物言いは真剣なものであり、本気の答えを求めているのだと知れた。ドラグギルディがそれに、考えたこともないと答えると、そうだろうな、とヤツは深々と頷き返し、だが、もし成れるとしたら、それによって、人間から
一笑に付すような質問であったが、笑い飛ばすことはしなかった。考えるまでもなく、答えはすぐに出た。
もし、成れるとしたら、どれだけすばらしいことであろうか。『人』の
まあ、そう思うだろうな、とヤツは苦笑を浮かべてそう返したあと、だけどな、ひょっとしたら、成れるかもしれないぜ、と続けてきたのだ。
楽しみにしておけよな、とヤツが言い残してその会話は終わり、ポニーテール属性のエレメリアンふたりが、アルティメギルから消えた。
さらにそのあと、アルティメギル首領から召喚を受け、ヤツと話したことを聞かれた。答えてはならない、と不思議と頭に浮かび、その時以外のことだけを話した。それを信じたのか、そこで質問は終わった。いや、もしかしたら、すべてを知っていたのかもしれない。難解な言葉とともに、『ヒトガタ』を賜った。
そして、ヒトガタの『髪』を結んだ。
エレメリアンが『人』に成ることなど、できはしない。そう言われた気がした。
テイルブルーに、彼女に結んでもらったツインテールを思い出す。
いまから自分は、彼女を倒しに行く。この世界のツインテールを、彼女のツインテールを、彼女が想いを寄せる少年の、ツインテールを愛する心を、
我は、恩を仇で返そうとしている。
だが、そう考えながらも、あの二人の
迷ったことなど、なかった。ヤツからあの話を聞いてからも、それは変わらなかった。
しかし、もし、あの結んでもらったツインテールを奪われるとしたら、自分は断固拒否することだろう。奪われて死ぬことはなくとも、失いたくないと思ってしまうのだ。自分たちがやってきたことは、そういうことなのだろう。
あの二人と会わなければ、ツインテールについて語り合い、結んでもらわなければ、こんなふうに悩むことはなかっただろう。しかし不思議なことに、出会えたことを嬉しいと感じている自分も、確かにいるのだ。
立ち止まり、自分の手を見る。何人もの戦士を打ち倒してきた、自分の手。
何人もの『人』の
だが、もしも、ヤツの言うように。
そこまで考えると、迷いを振り切るように顔を上げ、再び歩き出す。足音が、通路に響いた。
出てきたのか。
探知装置で確認した、強大な
結局、チャンスは掴めなかった。迷いもまだ晴れない。
だからといってこのままでは、ヤツを倒せる機会を失ってしまう。決断するしかない。
認識撹乱装置を起動し、そっと店の中に入る。閉店となっているが気にしない。もとい、気にしている場合ではない。
居た。ひとり、カウンター席に座り、
おそらくテイルブルーを、津辺愛香のことを心配しているのだろう。
こっそりと店の奥の席に行き、座る。新聞紙を取り出し、広げた。一度、やってみたかったのだ。特に意味はないが。
新聞紙を広げながら、チラチラと総二の方を見る。彼の表情は、やはり優れない。
よし。
意を決して、新聞紙に指で穴を空け、そこから覗きこむ。これも、一度やってみたかったことだ。やはり意味はないが。
「――――」
眼が、合った。
これが、互いに惹かれあう二人の、運命の出会いだった。
そう思ってみることにした。
『おまかせ! ナースエンジェルたん!』はコミカライズ版の『俺、ツインテールになります。π』から。アクションシーンの迫力はありませんでしたが、雰囲気はバッチリで良作だったと思ってます。早くに終わってしまって残念。
焼き鳥さんとドラグギルディは知り合いっぽいのでこんな感じで。
「あいつも部隊だ部下だのに構い過ぎなけりゃ、いつか辿りついたかもしれねえのに」