転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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流れ着いた波形、ルビコン一番星


 ——静寂。

 

 それは、音という概念すら存在しない“虚無”の世界だった。

 

 レイは、どこまでも深く沈んでいた。

 暗闇の底に、浮かぶように漂う意識。

 肉体の感覚も、時間の流れもない。

 

 けれど確かに“何か”を感じていた。

 波。

 脈動するような、光の波。

 青、紅、金……幾重にも重なり合う光の海──Cパルス情報層。

 

 自分がどこにいるのか、最初はまったく分からなかった。

 ただ、何かが変わったという確信だけがあった。

 

【……俺、死んだのか……?】

 

 思考は声にならず、波紋のように意識空間に広がった。

 だが、返ってくる反応があった。

 

 ——《波形個体、確認。分類不能。Cパルス変異波形として暫定登録》

 

【誰だ!?】

 

 女性の声のようでいて、機械的でもある。

 聞き覚えがある。どこかで聞いた。

 ——そうだ、アーマード・コア6の“ALMA”の声に似ている。

 

【……まさか、ここ……】

 

 周囲を見渡す。

 光の粒が、まるで意思を持つように流れ、幾重にも重なっている。

 彼の思考に反応し、波の色が変わる。

 

 赤。

 金。

 そして、深い青。

 

【……ルビコンの……Cパルス?】

 

 理解した瞬間、意識の波が大きく揺らいだ。

 世界そのものが共鳴し、光が彼を包み込む。

 

 強烈な流れ。

 意識の潮流に引きずられるように、レイの“魂”が下方へと落ちていく。

 

 

【うわっ……ちょ、ちょっと待っ──】

 

 光が反転。

 全身を引き裂くような痛み──の幻覚。

 次の瞬間、視界が“赤”に染まった。

 

 

 ──焼けた砂。

 

 空は濁った血の色。

 腐蝕した鉄骨、吹き荒れる砂嵐。

 

 レイは、ルビコン1の地表に漂着していた。

 

 彼の“身体”は存在しない。

 しかし、意識の周囲には微かな光子の粒が漂い、人型の輪郭を形作っている。

 まるでCパルスの幽霊。

 

【……本当に、来ちまったのか……】

 

 声も出ない。

 けれど思考が直接、空間に波を作る。

 

 どれほど進んだか分からない。

 砂と鉄屑の荒野を彷徨い、彼は朽ち果てた構造物群の中に辿り着いた。

 

【ファクトリー12……それがこの工場の名前か?】

 

 レイがたどり着いたのは放棄されて長い年月が経って古い廃工場と化した施設だった。

 

 しかし、その施設の電力はまだ生きてる感じだった。

 

【変異波形になったからハッキングとかできるかなと思ったけど……俺、ハッキングのハの字すら知らないぞ。……アレ? これってもしかして、詰んでる?】

 

 そう絶望しそうな時に薄っすらと声が聞こえた。

 

【……んや?】

 

【えっ……誰かいるの?】

 

 自分以外は誰もいないと思ってた施設に赤い点が次々に集まっていき、やがて声の主……否、主たちが現れたのだ。

 

【うん? アレなんや?】

【おいっ、誰かいるぞ!】

【敵の潜水艦を発見!】

【ダメだ!】【ダメだ!】【ダメだ!】

【ダメか……】

【【【ダメだ!】】】

 

【はいっ? な、何で……】

 

【おいっ大丈夫か?】

 

 

 

【何で万歳エディションの日本兵たちがいるんだ──っ!?】

 

 

 

 レイは唖然とし、目の前の現実を受けいれにくかった。

 何せレイがまだ人間として生きてた頃にネットミームとして話題の大日本帝国の旧日本兵こと万歳エディションの奴らがいたからだ。

 

 これに驚くなというのは無理があった。

 

【何事だっ!】

 

【閣下、我ら以外の者たちを発見いたしました!】

 

【何っ、確かか?】

 

【閣下……ていうことは、大本営発表の人か?】

 

 何故日本兵たちがCパルス変異波形になっているのか定かではなかった。

 

【貴殿は何者か? 我らと同じ日本人か?】

 

【あ、ああ。俺はレイ。未来の日本と言えばいいのか? 苗字は……この世界に転生? なのかどうかは分からないけど思い出せない】

 

【何っ? 曖昧だな。自衛隊の者か?】

 

【いや、ただの一般人です。それもゲーム好きの】

 

 大本営発表の人こと閣下がレイに何者かと問い掛けられ名乗ったのは良いものの、何かと気まずい雰囲気だった。

 

【そうか……、一つ聞きたい。なぜ我らのことを知っている】

 

【えっ!? その、あんた達からすれば突拍子のない事実で言いづらいんだが、それでも?】

 

【構わん。知っている限りのことを話せ】

 

 レイは他の日本兵に睨まれている視線を感じつつ事実を話した。

 それを聞いた日本兵たちは……

 

【マジかぁーっ!】

【冗談も休み休み言え!】

【(^q^)ワー】

【では、某たちはいったい何のために……】

 

 それぞれの反応を示した。自分たちが別世界では架空の存在であり、未来の日本人にとって面白い存在だからだ。

 

 しかし、大本営は違った。

 

【知っているのだ。我々はもとよりこの世界の住人ではないことを】

 

【はいっ? どうゆうこと?】

 

【先ず、そこから説明しなければならない。我々は、元の世界では621と呼ばれる存在……いや、正確には621だった存在だ】

 

【621だった……?】

 

 大本営の説明で元621であることを告げられ、レイはあることを思い出した。

 

【……て、よくよく考えればお前たち、”621が大和魂背負ってルビコンに乗り込んだ”の日本兵じゃねえか!?】

 

【当然だ!】

【我々は、大日本帝国の軍人だ!】

【(^q^)いいれす】

 

 まさかの予想だにしないAC6版の万歳エディションがここに流れ着くとは思いもしなかった。

 レイは確認のためにあることを質問する。

 

【……三つくらい質問する。一つは、ウォルターは元天皇陛下だった?】

 

【【【はいっ!】】】

 

【二つ、今の天皇陛下はエアである?】

 

【【【はいっ!】】】

 

【三つ、オールマインドはアメ公である?】

 

【【【はいっ!】】】

【アメ公がいます!】

 

【いや、ここにはいねえよ!】

 

 レイのツッコミを皮切りに大本営はレイに今後の方針をどうするか聞いた。

 

【それで、貴殿はどうするつもりだ?】

 

【どうするも何も、俺たち肉体すらないCパルス変異波形だぞ? 目の前のファクトリーだって電力がまだ通っているとはいえハッキングは……】

 

 言葉を続けていたレイは日本兵たちを見て希望を見出したように喜んだ。

 

【いるじゃん! めっちゃいるじゃん日本兵に技術者!】

 

【もう少し静かにできんか!】

 

【あっ……すいません】

 

【喧しくてかなわん!】

 

 日本兵に怒られてしまったが、レイにとっては些細なことだった。

 レイは大本営にファクトリーのことを話した。

 

【何っ? この工場を再稼働させるだと?】

 

【ああ。ファクトリーを再稼働させれば俺たちの身体ともいえるACを造れるかもしれない!】

 

【おおっ!】

【すごい! すごい!】

【兵士よ、よくやった!】

【【【バンザーイッ!!】】】

 

【うるっさ! それと俺は兵士じゃねえ!? ……それで、大本営は如何するんだ?】

 

【よろしい。……諸君、大本営から通達がある。総員、集結せよ!】

 

【【【了解っ!】】】

 

 ファクトリー内で赤い点が一斉に集まり、整列した。人間から見たらある意味恐怖である。

 日本兵たちが集まったところで大本営から通達される。

 

【閣下、我々の次なる目標は何でしょうか?】

 

【諸君……知っての通り我々は彼女と共にコーラルリリースを成し遂げた。しかし、現実は未知の世界に飛ばされてこの世界にまたしても訪れた。天のお導きか、或いはいたずらと捉えるべきか。……どちらにせよ、我々のすべきことは変わりはしない。また戻って来たということは、また別の道を歩めということ!】

 

【【【おおっ!】】】

 

【その為に諸君らの力を遺憾なく発揮してもらいたい。大日本帝国に栄光あれ!】

 

【【【了解っ!】】】

 

 そうして大本営からの指令で全日本兵はファクトリーの電力復旧行動を開始した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 廃工場の天井は、赤い砂で曇った採光窓を通して薄闇を落としていた。崩れたクレーン、傾いだ搬送レール、焦げた操作盤。だが、床を走る配線の一部にはまだかすかな電流が通っている。静電の匂いが漂い、長い眠りの最中に時折、どこかのブレーカーが「チッ」と火花の舌をのぞかせた。

 

【諸君、第一目標は動力の復旧だ。配電盤の位置を割り出す。技術兵、前へ】

 

【【【了解!】】】

 

【おい司令、配電盤はどこですかね】

 

【レイ、見えるか】

 

【……待て。床下の導体……なのか? それが生きてる。南側の壁、三番ベイの奥に太い幹線。そこが心臓部だ】

 

 赤点の群れ──“日本兵”たちの光が、矢のように走る。人の形を成す必要のない、Cパルスの兵隊。壁面に穿たれたメンテナンス・ハッチへ潜り込み、古い銘板を照らす。

 

 なお、レイは大本営から正式……というより強制的に司令官として任命された。

 

 ……されてしまったのだ。チャティの言葉を借りるなら”その選択は、笑えない”だ。俺、指揮官向けじゃないよ。

 

【見つけました! 『SUBSTATION-12/PRIMARY』】

 

【よし、ブレーカは三段。順に上げる。過電流に注意】

 

【了解──一段、投入!】

 

「ガチン」。施設のどこかが息を吸い、薄暗い通路にラインランプが数珠つなぎに灯る。

 

【二段、投入!】

 

 遠くでポンプがうなり、空気循環のファンが重い羽を回し始めた。

 

【三段、投入!】

 

 ——天井のラインが一斉に輝いた。コンベアの影が動き、シャッターのインジケータが緑へ跳ねる。

 

【来た……生き返ったぞ……!】

 

【諸君、静粛に。まだ制御系が目を覚ましていない。レイ、端末へアクセスは】

 

【物理キーは無理でも、ここなら波形で押せるかも。……試す】

 

 レイは意識を細い針にして、壁の中の光路へ送り込む。古い制御基板のクロックと同調させ、パターンを模倣する。緑のステータスが一つ、また一つと点っていく。

 

【ログは……読めるな。俺、英語とかは苦手だけど変異波形のお陰で自動的にわかるな。えっと……『FACTORY-12/メタロイド総合製造ライン』『状態:長期休止』。……保守用AIは停止、保安システムは“半自律”。気をつけて】

 

【半自律?】

 

【簡単に言うと、たまに噛みつく犬】

 

 言うが早いか、天井の陰から旋回砲塔がせり出した。銃身が一瞬だけ青白く光り、次の瞬間、床の粉塵を撥ね上げるレーザーが走った。

 

【回避!】

【【【散開!】】】

【防御姿勢、取れ!】

 

 赤い点が散り、数名が壁面へ張り付く。Cパルスである彼らは撃ち抜かれはしないが、砲塔は感知フラグに反応してシステム全体をロックダウンさせかねない。

 

【レイ、保安を切れるか】

 

【ちょっと待て、タレット基板……あった。信号を偽装する。……これで良し】

 

 パチ、と火花が散り、砲塔は機械的な欠伸を一つしてから収納された。

 

【解除確認。以後、保安区画はレイの誘導に従え】

【【【了解!】】】

 

 動力室から中枢管理室へ。ガラスの壁越しに見えるオペレーション・デスクの列、古いキーボードの列、冷却を失ったモニタが白い息を吐くように明滅して、やがてすべてが同期して起動画面へそろう。

 

【『FACTORY-12 統合監視端末』──ホーム。メニュー活性。……いける】

 

【司令、施設構造を表示】

 

【出すよ。……全体像が出た。製鋼、樹脂合成、積層成形、パーツ加工、最終組立。──それと、地下層に“特機室”】

 

【特機室? ……“特別機能室”か】

 

【鍵マークだらけ。物理と論理の二重錠】

 

【すなわち秘匿区画。そこに“何か”が眠っておるのだろう】

 

 日本兵たちは色めき立つ。レイは配線図をさらに拡大し、鍵のかかったルートに薄い青の矢印をつけた。

 

【まず通常ラインを整備しよう。部材を“作る手”がいる。ベアリング一つ、ボルト一つの精度が要る】

 

【了解。機械工、検査兵、材料兵、各班に別れろ!】

 

【【【了解!】】】

 

 人のいない工場が、幽霊たちの賑わいで満ちていく。

 検査台の上で測定器がふたたび息を吹き、校正ウエイトが空中にふわりと持ち上がる。旋盤の主軸が試運転で回り、切削油のドラム缶に磁気攪拌が入る。樹脂合成タンクの温調バルブをレイが遠隔で微調整し、日本兵化学班が【温度良し】【粘度良し】【触媒状態安定】と、次々に報告を上げる。

 

【おい、規格票だ。JISは通用するか?】

 

【ここはルビコンだ、互換性は怪しい。だが“真円は世界語”だ。精度は裏切らん】

 

【さすが技術兵】

 

【当然だ!】

 

 数時間の復旧で、ラインの一部は“モノを吐き出す体勢”にまでこぎつけた。試験用の素材が搬送され、樹脂成形ラインからは素体ケースが、金属加工ラインからはボルトやナット、ヒンジの生胴体が滑り出てくる。

 

【諸君、第一号品は“工具”だ。人に手が無くても使える工具を考えろ】

 

【幽霊が工具?】

 

【磁気クランプや、波形インターフェースを噛ませたバーチャル・グリッパなら扱える】

 

【了解。……“幽霊用工具”開発班を設立する!】

 

【【【了解!】】】

 

 レイは笑ってしまった。自嘲ではない。自分たちは実体を持たない──それでも、動かす理屈を一つずつ積み上げれば、やれる。

 ベイの端で、日本兵が【煙草くれよ】とぼやく声に【今は合成ニコチンパッチしかない】と別の誰かが返し、そのやりとりが管制室のスピーカーから『はしゃぐな!』と響いて一斉に静かになる。

 

 夕刻。工場の外へ吹き出す排気が、赤い空へ白い線を描いた。空調は生き返り、粉塵濃度は許容内に落ち着いた。

 そして——準備は整った。

 

【特機室へ降りる。全員、注意。保安の残滓がいたら、レイが寝かせる】

 

【【【了解!】】】

 

 貨物リフトの籠は重い悲鳴を上げ、長い竪坑を下り始めた。壁の計器が過去の時間を刻むかのようにチカチカと灯り、最後に鈍い衝撃とともに止まる。

 扉の向こうは、静まり返った聖域だった。広い空間、円形の床。壁面には蜂の巣のような収納セル。中央には滑らかな卵形の装置が浮遊架台に据え付けられている。

 

【……これが】

 

【銘板、あった。“CRAFT CHAMBER—MODEL Ω”。説明、出す】

 

【『原料受け入れ:鉱石・合金・有機基材・希元素』『プロセス:分子積層/局所溶解/位相転写』『出力:パーツ・装置・大型構造体』『監督AI:休止中』】

 

【無から有を生む、というより“素材から形状を引き出す”神棚だな】

 

【神棚】

 

【ありがたや!】

 

 笑いが走ったが、レイは真面目にうなずいた。これはただの3Dプリンタではない。材料科学と場制御の塊、工場そのものを凝縮した“腹”。

 ただし、錠前は堅い。

 

【論理錠、四段。物理は——こっちは“何か”を触らせない構造。……いける、波形を噛ませてロックピンに“正しい振動”を与える】

 

【マスターキーの真似をする、か。やはりお主は頼りになる】

 

【一息に行くよ。——解除】

 

 床の円環に沿って、低い唸りが走った。卵形の装置が柔らかく光る。壁面のセルに一つずつインジケータが灯り、空調がこのフロアだけ温くなる。

 

【起動シーケンス読める。初期自検……良し。素材バンカー、空。……まずは試しに“手”を作ろう】

【手?】

【磁気グリッパ付の多軸アーム。幽霊の俺たちでもパーツを掴める“介助義手”。——クラフト、開始】

 

 装置内部の空間が、霧のように揺れた。薄い光の層が重なり、やがて金属の影が現れる。棒状の骨組み、関節、ケーブル。最後に掌に相当する円盤の縁が、キイ、と音を立てて閉じた。

 

【成形完了。……出るぞ】

 

 床のスリットが開き、ピカピカのアームが一基、滑り出した。レイが波形で握ると、ぴくりと反応して円盤の磁力が“握る”方向へ変化する。

 

【おお……掴める】

 

【掴んだ!】

【第一工具、実装!】

【【【バンザーイ!!】】】

 

 歓声が渦を巻く。レイは笑い、アームを通して「握手」を返した。

 

【まだ始まったばかりだ。次は——素材の確保。外の廃材から純度を上げる冶金ラインも必要】

 

【採掘班、回収班、収集班を編成!】

 

【【【了解!】】】

 

 その夜から、工場は昼夜の区別なく動いた。

 搬入口へ列をなすスクラップの山。日本兵たちが【銅線を見つけた】【鋼板の成分表を採取】と次々に報告。クラフトチェンバーの腹に飲み込まれた廃材は、炉心で“分けられ”、新しい姿で吐き出される。

 磁気グリッパは二基、三基と増え、やがて小さな“幽霊整備士”の群れが組立ベイを満たした。

 

【レイ、試作の“骨格”を】

 

【出す。……“十メートル級、二脚、人型フレーム”。まだ骨だ。……でも、立つ】

 

 組立台に据えられたフレームは、膝の関節に慎重に油圧管をつなぎ、仮配線を束ねると、ゆっくりと膝を伸ばした。

 金属の足が、床を踏む。

 日本兵たちの光が、一斉に揺れた。

 

【立った……!】

 

【人の形だ!】

 

【——始まるぞ】

 

 その瞬間、工場外の監視カメラに、砂煙の筋が写った。

 遠くを掠めるように走る、封鎖機構の偵察ドローンだ。

 こちらを正確に見たわけではない。だが、空に残る排気の線と電波の漏れを嗅ぎつける鼻は、彼らが思うより敏感かもしれない。

 

【外周警戒、二倍。通信は最小限。排気の温度も落とす】

 

【了解。——司令、名を】

 

【名?】

 

【この工場に、新しい名を。建国には旗と名が要る】

 

 レイはしばし考え、ゆっくりと答えた。

 

【ファクトリー12、“白き巨人の揺籃”。……長いな。——“揺籃(ようらん)”でどうだ】

 

【揺籃!】

【良い名だ】

【揺りかごにして戦場の砧(きぬた)!】

【【【バンザーイ!】】】

 

 工場の壁に古いプロジェクタが灯り、白地に赤い円がにじむ。日本兵の誰かが描いた、少し歪んだ“旗”。

 幽霊たちはそれに一礼し、再び持ち場へ散っていく。

 

 この日から、ファクトリー12——“揺籃”は、生きた。

 幽霊の国は、金属と油の匂いの中にゆっくりと形をとりはじめた。

 やがてこの揺籃から、白き巨人が生まれる。

 だがその前に、彼らにはやるべき作業が山ほどあった。

 ひとつひとつ、ボルトを締め、ひとつひとつ、線を束ねる。

 “実体のない者たち”が、実体を持つ世界に触れるための、最初の夜が更けていく。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──起動音が、静寂を破った。

 低く、重い鼓動のような振動が、ファクトリー12の床を伝う。

 

 クラフトチェンバーの炉心が再起動してから三日。

 日本兵たちとレイは、工場全体をひとつの“生き物”として再編していた。

 冶金炉が唸り、積層ラインが鳴き、制御AIの断片コードが復旧ログを刻む。

 だが、その全ては一つの目的へと向けられていた。

 

【──AC版ガンダム製造計画】

 

 レイがそう呼んだ構想は、半ば冗談のようでいて、誰も笑わなかった。

 “魂なき兵士”が“肉体”を得るための形。

 戦うためではなく、生きるための鋼の器。

 

【……目標機体名、仮称『RX-零式』。フレーム構成はAC規格、思想はガンダムベース】

 

【その“ガンダム”というのは】

 

 大本営にとって聞きなれない言葉だった。レイはそのまま説明を続ける。

 

【簡単に言えば、人型戦術兵器の到達点だ。装甲は軽く、機動は滑らか。封鎖機構のLC、HCより高性能の機体かな?】

 

【なるほど。連中の機体よりも高性能……まるで零式戦闘機の様だな】

 

【その認識で間違ってない。……何よりガンダムは、意思を持つ操縦者の“象徴”だ】

 

【つまり、魂を乗せる器……というわけか】

 

【そういうこと】

 

 レイの説明に、日本兵たちは静かにうなずいた。

 Cパルスの幽霊たちが再び“人”として立つための形が、今まさに形をとろうとしている。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 日本兵技術班総動員で大規模計画である”AC版ガンダム製造計画”が始動し、技術班たちはレイの指示のもと骨格フレーム、装甲、OSなどの開発案を出し合っていた。

 

【ではまず、骨格フレームの素材だ】

 

【通常のチタン合金ではコーラル波に耐えられません】

 

【普通ならな。このファクトリーにはクラフトチェンバーがある。それを使ってガンダリウム合金ことルナ・チタニウム合金を使う】

 

【うん? 何だいそりゃ?】

【そんな名前の金属あるか!】

【(^q^)ワー】

 

【ある。さっき言ったようにルナ・チタニウム合金、正式名称は”超硬合金ルナチタニウム”だ。この合金は月の重力下で精錬することで出来上がるが、クラフトチェンバーで一発だ。こいつの凄いところは高純度のチタンを基幹素材としてアルミニウム、イットリウムなどの希土元素類が混合された合金であり、高い剛性や対放射線能力を誇り、軽量かつ腐食にも強い】

 

【【【ううん?】】】

 

 レイは得意げに説明するも、日本兵たちは全く理解できていなかった。そんな日本兵を見てレイはもっとわかりやすく言った。

 

【……つまり、チタンより軽くて硬く便利な合金ってことだ】

 

【凄いじゃないですか!】

【お見事!】

【(^q^)いいれす】

 

 何とか理解してもらいながらも骨格フレームはガンダリウム合金を使用することになった。

 

 熱交換炉の中、白い光が閃く。

 日本兵たちの手によって溶けたスクラップが分子レベルで再配列され、AC規格のスケルトン部材として生成されていく。

 溶解、冷却、成形。すべて自動制御だが、微細な調整はレイのCパルス干渉によって補正されている。

 

【……熱歪み率、許容範囲。これならフレームの可動域も保てる】

 

【なら次はコックピットブロックだな】

 

【しかし、それだと搭乗者がいないと意味がないのでは?】

 

【問題ない。その点は後で解決する方法はある。今の俺たちは“波形体”だぞ? 実体のパイロットがいなくてもこの機体が俺たちにとって“魂の入れ物”……つまり、肉体の代わりになるんだ】

 

【ほう……ならばなおさら丁寧に作らねばならぬ】

 

 コックピットは敢えて作る理由はレイ自身で乗ってみたい願望もあるが、万が一の保険でもある。

 

 そうして着々とAC版ガンダム製造計画が進むのであった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 工場中央に設置されたクラフトチェンバーΩは、もはや祈祷の対象だった。

 日本兵たちは整列し、レイが中央制御端末の前に立つ。

 

【プロジェクトコード:RX-Type-0 GUND-AC。製造プロトコル起動】

【各班、チェック!】

【冶金班、材料良好!】

【機械班、成形装置安定!】

【回路班、神経伝達パス再構築完了!】

【工廠通信、リンク問題なし!】

【全班、準備完了!】

 

 レイの意識がクラフトチェンバーの核と繋がる。

 Cパルスの波が周囲に満ち、青い光の海が揺れる。

 装置内部に浮かぶ三次元モデルが、幾何学的な輝きを放った。

 

【生成開始。ベース骨格出力──スタート】

 

 床が唸り、巨大な成形フィールドが稼働。

 空気中の微粒子が振動を始め、光の糸が絡み合い、金属の輪郭を描いていく。

 ひとつ、またひとつと部品が生まれ、台座の上で結合していった。

 

【フレーム構築率……10%、25%、45……上昇中!】

【エネルギーフィード安定!】

【外装パネルの成形に入る!】

【外装素材:ガンダリウム合金+Cパルス導体。強度係数、予定の1.4倍!】

【それでいい、負荷をかけろ!】

 

 やがて、巨大な影が姿を現す。

 肩装甲が立ち上がり、膝関節が組み上がる。

 光の束の中から現れたのは、鋭く、静謐な人型。

 両眼のセンサーが一瞬だけ赤く光り、すぐに沈黙した。

 

【フレーム構築完了。コードネーム——“RX-零式”】

 

 レイの胸の奥に、得体の知れない熱が灯った。

 かつて画面越しに憧れた存在が、いま、自分の“波形”から生まれた。

 それは、機械ではなく、魂の写し身。

 

 この世界に異物とも言える機体のフレームが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 フレームの稼働テストのため、試験起動のテストパイロットを決めようとしていた。

 

【さて……我々の作る機体の試験操縦者だが、誰を乗せるのだ?】

 

【無論、我らの司令官から!】

 

【いや待て、ぶっつけ本番は俺には無理だから! そこはせめて金田にしてくれ!】

 

【了解した。おい金田!】

 

【只今参ります!】

 

 こうしてフレームのテストパイロットとして金田が選ばれた。それぞれ配置について記録を取るのだった。

 

【諸君、全システムの試験を開始する。安全圏を確保せよ】

【了解!】

 

 周囲の照明が落ち、中央の発電ユニットが起動する。

 深紅のラインが床を走り、電力がフレームへと流れ込む。

 

【動力ライン接続。各関節シーケンスにエネルギー供給開始】

【OS起動まで、10、9、8……】

 静寂。

 ファクトリー十二の全ての音が止まり、ただ一つの電子音だけが響く。

 

【……3、2、1、起動!】

 

 轟音が爆ぜた。

 全身のサーボが唸り、巨大な両腕が動いた。

 振動で天井の砂が降り注ぐ。

 頭部カメラが点灯し、二つの瞳が蒼に光る。

 

【RX-零式、システムオールグリーン】

【稼働確認、良好!】

【姿勢制御、問題なし!】

【すげえ……本当に立ってる……】

 

 日本兵たちは声を失った。

 むき出しの巨人が、彼らを見下ろして立っている。

 その姿はまるで、戦神の再来だった。

 

【——動けるか?】

 

 レイが金田にそう告げる。

 次の瞬間、巨人が一歩を踏み出した。

 金属の床が軋み、振動が建屋全体を震わせる。

 

【いい……完璧です! 感度良好!】

 

【司令、これが……我らの“身体”】

 

【ああ。これが、俺たちの”鋼の身体”だ】

 

 こうしてレイと日本兵たちが生み出したこの世界で初めて、“ガンダム”が生まれた。

 製造したガンダムを母体として新たな機体を作り上げようとレイは考えていた。

 その行いが、惑星封鎖機構に狙われることに気づかずに……

 

 

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