転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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chapter.01
密航という名のオペレーション・メテオ


 617を救助してから、一年が経過した。

 赤い雲が常に空を覆い、風は金属粉を巻き上げる。

 その下、地表から五百メートル地下の拠点では、今まさに新たな計画が動き始めていた。

 

 クラフトチェンバーの群れが白い蒸気を吐き、液体金属の波が蠢く。

 それらは音もなく構造を組み換え、やがて金属の胎動が機械音へと変わっていく。

 壁面のパネルには数値が流れ、光が走った。

 

 レイが端末の前に立つ。

 彼の姿を背後から照らすのは、無数の製造ラインの光だった。

 

「OMCSの製造はどうなってる?」

 

「問題ありません。

 最初に作った初号機を基に改良を加えたものが、既に八十パーセント製造完了しました」

 

「よし。残りもこの調子で製造してくれ。

 ──これからルビコン3に密航する下準備として必要だからな」

 

 レイの言葉に、日本兵たちは短く敬礼した。

 この一年、彼らは戦場だけでなく、技術者としての顔も持つようになっていた。

 クラフトチェンバーの出力音が低く唸る。

 蒸気の向こうで、OMCSユニットがひとつ完成するたび、地面がかすかに震えた。

 

 そこへ、重い扉が開く音。

 鋼鉄の義足を鳴らして現れたのは、閣下と呼ばれる男だった。

 古びた軍服の肩章が照明に反射し、白髪混じりの顔には深い皺が刻まれている。

 

「しかし、大胆な行動に出たな。これでアーキバスやベイラムから余計に睨まれるだろう」

 

「自分で言うのもなんだが──大体、企業というのは自分たちにとって利益となる資源や技術は欲しがるものさ。それが、人の業だとしてもな」

 

 閣下はしばし沈黙し、薄く笑う。

 その笑みには、かつて幾多の戦をくぐり抜けた者だけが持つ諦観と、どこかの若者への信頼が混じっていた。

 

 クラフトチェンバーの制御灯が緑に変わる。

 OMCS製造数:099──残りひとつ。

 

 レイは黙って画面を見つめる。

 完成したユニットは百。

 そのうち七割は、飢えに苦しむルビコニアンたちに無償で配られる。

 残りは、解放戦線、アーキバス、ベイラム──星外企業への“試験提供”として流通する予定だ。

 慈善と取引。援助と影響。

 その境界は、もはや誰にも見えなかった。

 

 外では風が止み、赤黒い雲の隙間から、破壊された軌道残骸が微かに光を放っていた。

 レイはその光を見上げ、低く呟く。

 

 ──「始めよう。オペレーション・メテオを」

 

 ”オペレーション・メテオ”

 

 それは、かつて『新機動戦記ガンダムW』において、コロニーの地下組織が実行した地球降下作戦の名。

 だが今、このルビコン3において、それは新たなる降下計画──密航という名の流星作戦を意味していた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 クラフトチェンバーの熱がまだ残る格納庫。

 金属臭とオゾンの匂いが混じる中、日本兵が報告端末を抱えて駆け込んでくる。

 

「司令、予定通りアーキバスとベイラム用のOMCSを各輸送船に積載完了。ルビコン3に送るコンテナは隕石に偽装済みです!」

 

「よし。ルビコン3に送るコンテナだけは、大気圏突入の際に燃え尽きないよう最大の工夫を施したからな」

 

 彼はモニターに映る航路図を見つめる。

 航跡は数百本の光線のようにルビコン軌道を描き、その一つひとつが“流星”を意味していた。

 

「流星に紛れてルビコン3に密航……まんまオペレーション・メテオだな」

 

「(^q^)流レ星ダー! ワー!」

 

「うるさい! ……たく」

 

 短い笑いが、緊張した空気の中に溶けていく。

 そして、輸送船群が無音で発進した。

 

 

 

【ルビコン解放戦線】

 

 砂嵐が吹き荒れる廃都。

 かつては高層都市だったはずの建造物群は、いまや風化した鋼鉄の墓標と化している。

 夜明け前、空を切り裂くように一条の光が走った。

 それは流星のようであり──だが、あまりに軌道が正確すぎた。

 

 次の瞬間、地表を震わせるような閃光と衝撃。

 しかし爆音はなく、砂を巻き上げる程度の軽い地鳴りに収まった。

 現場へ駆けつけたルビコン解放戦線の兵士たちは、砂塵の向こうに銀色の影を見た。

 それは巨大な弾頭にも似た円筒形の物体。

 外殻には焼け跡と摩擦痕が残り、周囲には小規模なクレーターが広がっている。

 

「これは……何かしらの装置か」

 フラットウェルが、マントの裾を押さえながら慎重に近づく。

 赤茶けた砂に反射する光が、彼の義眼をかすかに照らした。

 

「帥叔フラットウェル、これは一体……?」

 ツィイーが震える声で問う。

 その手には古いライフルが握られ、指先にはまだ緊張が宿っている。

 

「待て! よく見てみろ。この装置のロゴを」

 ダナムが指さした先、灰塵を払うと銀灰色の外殻に文字が浮かび上がった。

 

 “ADACHI INDUSTRIES”

 

 見たことのない企業名。しかし、どこか機械的な整然さを持つその刻印に、皆が息をのむ。

 

「おい、このコンテナ内にこの装置の使い方と整備用のマニュアルがあったぞ!」

 兵の一人が叫び、資料を掲げる。

 風に翻るページには、丁寧な設計図と分かりやすい図解が並んでいた。

 まるで“現地の誰かに渡す”ことを前提に作られたように。

 

「こいつはすげえ……! 水と動植物をこの装置に入れれば、食料が生成されるぞ!」

「しかも種類がかなり豊富だ! これなら飢えに苦しむ連中の餓死者が大幅に減るぞ!」

 

 歓声があがる。

 砂の匂いと、金属が焼ける匂いに混じって、どこか“新しい風”が吹き抜けた。

 OMCSユニットが作動し始める。

 青白い光が静かに脈動し、機械内部で透明な液体が循環を始めた。

 やがて装置の排出口から、わずかに湿った空気と植物の香りが流れ出す。

 

 誰かが思わず息を呑んだ。

 この星で“緑の匂い”を感じたのは、一体いつ以来だろう。

 

 ツィイーがそっとOMCSの側面に手を置いた。

 その掌に、微かな振動が伝わる。

 まるで、死にかけた世界がほんの少しだけ呼吸を取り戻したようだった。

 

「帥叔……」

 ツィイーの声がかすれる。

 フラットウェルは頷き、砂に沈む空を見上げた。

 

 ──夜明けの空には、まだいくつもの光跡が走っている。

 それらは流星ではない。

 この世界に“再生”をもたらすために落ちてきた、無数の種。

 

 OMCSの冷たい青光が、久しく忘れられていた“希望”の形を映し出す。

 誰もが無言のまま、それを見つめ続けた。

 そして誰かが、風の中で小さく呟いた。

 

 ”……流星は、地へと還る”

 

 

 

【アーキバス】

 

 アーキバス本社、地下資源セクター。

 数百メートル下の黒曜石の空間に、低く機械の心臓のような振動音が響く。

 そこは、アーキバスが誇る資源解析施設──あらゆる素材、構造、技術が“数値化”される場所だった。

 

 冷たい照明が等間隔に並び、空気は乾ききっている。

 埃一つ舞わぬ静寂の中、滑らかな着陸音が響いた。

 

 無人輸送船が、青い誘導ライトの列をなぞるようにして滑り込み、格納庫の中央で自動停止する。

 船体の外装は銀白色。航宙塵の付着はほとんどなく、まるで“今しがた磨かれた”ような異様な清潔さを保っていた。

 

「何? 足立重工からアーキバス宛の物資が……?」

 

 第二隊長──スネイル・ヴェスパーが格納庫へ足を踏み入れる。

 黒いコートの裾がわずかに揺れ、磨き上げられた床に彼の影が長く伸びた。

 傍らの兵士が、緊張した面持ちで報告を続ける。

 

「はい、第二隊長閣下。無人輸送船にコンテナが積まれていました」

 

「……罠という可能性も考慮せず、よくもまあ招き入れたものですね。その輸送船をコンテナごと廃棄しなさい」

 

 スネイルの声は静かだったが、その低い響きに場の空気が凍る。

 だが、兵士は一歩も引かず言葉を続けた。

 

「その事ですが、我々も最初は罠だと警戒して輸送船内とコンテナ内を確認してみたのですが、爆発物らしきものはありませんでした。

 それと、コンテナ内に何かしらの装置とその装置に関する書類が発見されました」

 

 沈黙。

 格納庫の片隅で警告灯が一度だけ瞬き、すぐに消えた。

 

 スネイルは無言のまま歩み寄り、指で顎をなぞる。

 灰色の瞳が、コンテナの表面をゆっくりと走った。

 硬質な金属の反射に映るのは、アーキバスの標章と──その真下に新たに刻まれた異質な印字。

 

 “ADACHI INDUSTRIES”

 

 スネイルの表情がわずかに動いた。

 笑みとは呼べない。

 だが、興味を抑えきれない者特有の、冷たい好奇心の火がその目に宿る。

 

 部下たちは慎重に装置を取り出し、解析用プラットフォームに固定していく。

 自動計測器が起動し、光学センサーが構造をスキャン。

 内部構造を投影したホログラムが空中に浮かび上がった。

 

 透明な層構造、自己修復ナノフレーム、そして動作に関する極めて単純なアルゴリズム。

 どれもアーキバスの既存技術体系とは根本的に異なる。

 

「……制御が単純すぎる。いや、これは“複雑さを排した結果”か」

 

 スネイルが小さく呟く。

 彼の背後で、データ技師がホログラムを拡大した。

 回路構成は不明瞭だが、効率は常識外れに高い。

 しかも、構成素材の半分以上が“この星に存在しない”元素を含んでいる。

 

 ホログラムの下に浮かぶデータシートには、設計文書の一部が翻訳されていた。

 そこには、技術的な説明とともに短い一文がある。

 

 “ルビコンの未来に、再生を。”

 

 スネイルの指が止まる。

 その一文をしばし見つめ、彼は静かに笑った。

 

「……なるほど。慈善を装った市場浸透か」

 

 彼は背後の兵士に命じた。

 

「研究班に回せ。最優先で構造解析を進めろ。だが同時に──この“足立重工”の所在を洗え。どこの連中か、どこまでの力を持つか、すべてだ」

 

 兵士たちは一斉に敬礼し、足音も立てずに散っていく。

 

 スネイルは再びホログラムを見上げた。

 装置の青いコアライトが、まるで生き物のように鼓動している。

 その光が、彼の眼鏡越しに反射した。

 

 ──未知の技術。

 それは、企業にとって最も危険で、そして最も魅力的な“資源”だった。

 

 静寂の格納庫に、機械の駆動音だけが響く。

 その音は、アーキバスという巨大な組織が、ひとつの“流星”を受け止めた瞬間の心臓の鼓動にも聞こえた。

 

 

 

【ベイラム】

 

 軌道上拠点の格納ベイ。

 厚い装甲シャッターが音もなく開き、漆黒の宇宙を背景に白い輸送船が滑り込む。

 気密ゲートが閉じると同時に、重力制御がわずかに作動音を上げた。

 薄い霧のような排気が散り、無音の空間に緊張した空気が満ちていく。

 

「足立重工からの贈り物とはな……」

 G2ナイルの低い声が、静かな格納ベイに響いた。

 彼の周囲では、G3五花海、G4ヴォルタ、G5イグアス──ベイラム精鋭チームの姿が揃っている。

 

「連中からの贈り物だって思うと、あのシミュレーションのことを思い出すな……」

 ヴォルタが溜息まじりに呟く。

「言うんじゃねえよ、ヴォルタ。余計に思い出したくない記憶が蘇るじゃねえか……」

 イグアスが顔をしかめる。

 重苦しい笑いが一瞬だけ交錯するが、それもすぐに機械の作動音に呑み込まれた。

 

「しかし、あの足立重工からの贈り物とは……これは善き吉兆が見えそうですね」

 五花海が穏やかに言う。だが、その目には慎重な光が宿っていた。

 

 整備班が輸送船のコンテナを開封する。

 内部から白銀の光が漏れ出し、薄暗い格納ベイを照らした。

 そこには流線型の装置──OMCSユニットが鎮座している。

 光沢のある外装には焦げ跡ひとつなく、あたかも“生きている”かのような静謐さを放っていた。

 

「……これは贈り物ではないな」

 観測士の低い声が響く。

 

 コンテナの周囲で整備班がざわめく。

「おい、これはとんでもない代物だぞ!」

「こいつ、水と動植物を入れ込むと食料を生成するのか!? どういう仕組みだ!?」

 驚愕と興奮が交じる声が、金属の壁に反響する。

 

 ナイルは無言のままコンテナへ歩み寄る。

 白いライトが彼の軍服を淡く照らし、その影が装置の表面に重なる。

 彼は手袋を外し、静かに装置の側面に触れた。

 指先に微かな震動が伝わる──それは生体反応にも似た鼓動。

 目を凝らすと、金属表面の端に微細な刻印が見えた。

 

 “ルビコンの未来に、再生を”

 

「“ルビコンの未来に、再生を”──か。中々に洒落たことをするようだな」

 ナイルの声は低く、しかしどこか楽しげでもあった。

 彼は一歩下がり、部下たちを見渡す。

 

 この装置が何をもたらすのか、誰もまだ理解していない。

 だが全員が、その“未知”に本能的な畏れと期待を覚えていた。

 戦場を渡り歩いてきた者ほど、こうした静かな異物に対して鋭く反応するものだ。

 

 装置の青いコアライトが脈動し、格納ベイ全体を淡く照らした。

 それはまるで“意思”のようにゆらめき、照明よりも暖かい輝きを放っている。

 整備班の誰かが呟いた。

 

「……まるで心臓みたいだ」

 

 ナイルは短く息を吐いた。

 その一呼吸が、場にいた全員の胸にも重く響く。

 戦場にも似た沈黙が、拠点の空間を包み込んだ。

 

 そして、その沈黙を破るように、観測デッキの通信端末が一瞬だけ点滅した。

 受信したのは暗号化された短い信号。発信源、不明。

 ただ、最後の文だけが全システムに焼き付いた。

 

 ”──流星は、地へと還る”

 

 窓の外、赤く濁った空を無数の光が走り抜けていく。

 それは燃え尽きぬ流星──希望と野心を載せた種。

 ナイルはその光を見上げ、静かに目を細めた。

 

「……地へ還る、か。ならば我らは──見届ける側だな」

 

 その声が消える頃、拠点の外ではまたひとつ、流星がルビコンの空を横切っていった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアムのブリーフィングルーム。

 壁面のスクリーンに映るのは、ルビコン3の赤い軌道図と、そこに展開する封鎖衛星群の配置。

 電子ノイズが混じる音が低く響き、冷たい空気が張り詰めていた。

 

 ルビコン解放戦線、アーキバス、ベイラムへOMCSを送り終えた日本帝国部隊。

 次の段階は、自らの降下だった。

 

「つまり──今回の“オペレーション・メテオ”は、我々自身が流星となってルビコン3へ突入する作戦、ということです」

 

 レイの言葉に、室内が一瞬だけ静まり返る。

 誰もがその意味を理解していた。

 封鎖衛星網。軌道砲。封鎖機構の無人制御群。

 あらゆる物体が撃ち落とされる宙域を、正面突破するという狂気じみた作戦だ。

 

「……それにしてもだ」

 

 前列の日本兵が手を挙げた。

 

「司令、どうやってOMCSを送ったんです? 封鎖衛星がいるなら、本来なら落とされてるはずでしょう」

 

 レイは僅かに笑みを浮かべた。

 

「簡単な話だ。封鎖衛星を“騙した”」

 

 スクリーンに切り替わった映像には、電子回路をかすめるような信号パターンが映し出される。

 封鎖網を構築するAI制御に、一瞬だけ生じた“誤認ウィンドウ”。

 それを利用し、隕石群の一部としてOMCSコンテナを投下したのだ。

 まさに完璧なハッキング、そして完璧な隠蔽だった。

 

「だが、今回はハッキングは行わない」

 

 レイの声が一段低くなる。

 

「これからやるのは、正面からの突破だ。──ゴリ押しでな」

 

 場がどよめく。

 それは恐怖ではなく、どこか懐かしい昂揚感。

 幾多の戦場を潜り抜けた旧日本兵たちの瞳に、かつての戦場の光が戻っていた。

 

「コンテナの強度は既にテスト済みだ。摩擦熱程度では焼け落ちない。

 それに、ただのコンテナじゃない──中には“希望”がある」

 

 その言葉と同時に、照明が落とされ、ホログラムが切り替わる。

 そこに映し出されたのは二つのシルエット。

 一つは、617のLYNX。

 そしてもう一つは──新たに建造された鋼鉄の巨影。

 

 レイがゆっくりと口を開く。

 

「ZGMF-X10A、フリーダムガンダムだ。AC版の仕様に合わせて再設計してある」

 

 ブリーフィングルームの空気が震える。

 ホログラムが回転し、機体の諸元が冷静に表示される。全高12.03m、重量51.5t。

 装甲はフェイズシフト装甲なのだが、ベイラム製のパイルバンカーを警戒して代わりにヴァリアブル・フェイズシフト装甲に変えている。

 摩擦熱と衝撃を分散する複合層を追加。動力は核エンジン(MHD発電)で、高出力短時間稼働に耐えるが熱管理が肝の設計だ。

 

 武装一覧がリストアップされる。

 近接防御用のMMI-GAU2 ピクウス76mm近接防御機関砲は落下中のデブリ対策や小口径迎撃に使う。

 中遠距離のMA-M20 ルプス ビームライフルとM100 バラエーナ プラズマ収束ビーム砲が制圧火力を提供し、MA-M01 ラケルタ ビームサーベルは白兵戦を想定した近接装備。

 さらにMMI-M15 クスィフィアス レール砲は外殻突破力を期待される“レールガン”として搭載される。

 左腕には実体盾のラミネートアンチビームシールドが展開可能で、ビームやプラズマに対する防護を強化している。

 

 レイは指で空中の図をなぞり、コンテナとの結合部を拡大表示させた。

 

「外殻とのインターフェースは可変リブと熱拡散構造を組み合わせてある。

 突入中の熱と圧力は機体とコンテナが協調して分散する。要するに、燃え尽きない設計だ」

 

 設計図の注釈に小さく表示された数値──『耐熱継続時間:1200秒』『衝撃分散率:0.82』。その羅列が、彼らが想定する最悪を物語っている。

 

「617と俺が乗る。この二機を隕石偽装コンテナに積み、軌道上から直接ルビコン3に落とす。燃え尽きず、撃ち抜かれず、ルビコン3に密航する。無事にルビコン3には入れたら、次の段階に移る」

 

 軽い沈黙。

 そのあと、誰かが小さく笑った。

「また随分と無茶な……でも、嫌いじゃない」

 

 笑いの連鎖が広がる。

 重く張り詰めた空気の中に、確かな結束の熱が生まれていく。

 

 レイはモニター越しに赤いルビコンの大地を見据えた。

 その瞳には、覚悟と静かな闘志が宿っている。

 

「──降下開始まで、あと十二時間。全員、準備を整えろ」

 

 スクリーンがフェードアウトし、ブリーフィングルームに残ったのは冷えた空気と、これから訪れる嵐の前触れだけだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアムの射出台が静かに開かれる。

 真空隔壁が解除され、艦内の灯が次々に警戒色へと変化していく。

 赤いランプが回転し、低い警報が艦内を震わせた。

 

「全シーケンス、チェック完了。目標座標、ルビコン3軌道軸へ」

「隕石偽装外殻、装着確認。コンテナ内冷却コア、正常稼働」

 

 報告が交差する中、レイと617を乗せた二基の大型コンテナが射出口に並んでいた。

 外装は岩塊に似せた特殊塗装と擬装構造。内部には多層シールドと衝撃吸収フレームが組み込まれ、熱耐久試験をすでにクリアしている。

 

 レイが通信回線を開く。

 

「こちらフリーダム。いつでも出るぞ」

 

 通信越しに低い声が響いた。

 

「全ユニットに告ぐ。──オペレーション・メテオ、開始せよ」

 

 閣下の声だ。冷静でありながら、確かな闘志が混じっていた。

 

 次の瞬間、無音の閃光。

 圧縮空気射出シリンダーが解放され、二つの“流星”が宇宙へと放たれた。

 ミレニアムの甲板から見れば、それはわずかな光点に過ぎない。

 だがその内部には、運命を賭けた二人の戦士がいた。

 

 ──三十分後。

 

 ルビコン3の重力圏に入る。

 視界の先に、赤褐色の惑星が広がった。

 渦を巻く雲、焦げついた大地。災厄「アイビスの火」の爪痕が、いまも惑星全体を覆っている。

 

《……重力捕捉、開始。……予定どおり》

 

 電子ノイズを含んだ合成音声が、コンテナ内部に静かに響く。

 617の声だ。コーラル共振の微かな余韻が、機体内部のセンサーを震わせる。

 

「了解。封鎖衛星が動き出すまであと少しだ」

 

 レイの声が冷静に応じる。

 

 その瞬間、警告灯が点滅した。

 封鎖衛星が、降下軌道上の物体を捕捉。

 軌道砲が展開し、青白い光線が空間を切り裂く。

 

 直撃。

 隕石に偽装した外殻が粉砕され、破片が虚空に散る。

 しかし中心部──コンテナは無傷だった。

 

《外殻喪失。……けど、問題ない》

 

 617の電子声が短く鳴る。

 

「コンテナ生存確認。よし、このまま突っ込むぞ」

 

 レイが操縦桿を握り直した。

 

 岩石の仮面を剥がれた鋼鉄の棺が、ルビコンの重力に引かれて加速する。

 大気との摩擦で外殻温度は五千度を超え、外層がプラズマの炎に包まれた。

 だが、耐熱フェイズシフト装甲と衝撃吸収リブが熱を分散し、内部温度は安定している。

 

「突入角度維持。姿勢制御、問題なし」

 

《……Cパルス反応、安定。……降下継続》

 

 音も光も呑み込むような轟音の中、ルビコンの空が赤く割れた。

 流星の尾を引きながら、二つの影が地表へと向かう。

 

 大気圏突入──成功。

 

 数秒後、外殻パージ信号が発せられた。

 コンテナの装甲板が解放され、内部の機体が姿を現す。

 

 617のLYNXがスラスターから蒼光を放ちながら飛び出し、その隣でレイのAC版フリーダムガンダムが翼を展開する。

 フェイズシフト装甲が起動し、灰色の機体色が白黒と紺へと変わった。

 翼のスラスターが爆炎を噴き、炎の中を突き抜ける。

 

《……高度、急降下モード移行。……位置、未確定》

 

「構わん。このまま降りる。ランダム降下でいい、どこか安全圏に着け」

 

 二機は流星のような尾を引きながら、赤い空を切り裂く。

 轟音と衝撃が地表を震わせ、砂塵が天へと巻き上がった。

 

 ──着地。

 

 レイの機体が安定姿勢に入り、コクピット内の衝撃緩衝機構が振動を収束させる。

 外部モニターに映ったのは、崩壊した建造物と錆びついた鉄骨が散らばる荒廃した地帯。

 画面右上に浮かび上がるグリッド表示。

 

「グリッド……012、か」

 

 彼がそう呟いた。617はこの場所を知っているのかとレイに聞き出した。

 

《レイ、この場所って見覚えあるの……?》

 

「ああ、断片的だがな。ここは確か……」

 

 レイにとってこの場所はまだ来る予定ではないのというのは断片的に覚えていた。

 それが何なのか思い出そうとした直後、通信機がノイズを発した。

 

『やぁ、ご友人たち。

 空から屋根を突き破って会いに来てくれるなんて情熱的です。素敵だぁ……』

 

 その声を聞いた瞬間、レイの表情が引きつる。

 どこかで聞いたことのある、歪んだ優越感を含んだ声。

 そしてレイは一気に思い出した。

 この場所こそ、ドーザーと呼ばれるならず者集団”ジャンカー・コヨーテス”のリーダーである”オーネスト・ブルートゥ”の根城であることを。

 

「……ここって、狂人のいる場所かよーっ!?」

 

 レイが頭を抱える横で、617がわずかに視線を動かす。

 

《狂人? ……っ! レイ!》

 

「っ! ああ!」

 

 617の掛け声でレイはすぐに我に戻り、迫りくるミサイル群を捕捉する。

 

「案の定、大胆な歓迎だな!」

 

 フリーダムのコックピット内でマルチロックシステムを起動させ、全てのミサイルをロックして近接武装以外の全ての武装を使用し、フルバーストで全て迎撃する。

 

『こんな僻地に天使を連れたご友人と出会えるなんて、素敵だぁ……』

 

 荒れ果てたグリッド012に、風が吹き抜けた。

 砂塵の向こうで、狂気の声が再び響く。

 ルビコンの地表に落ちた流星は、いま、最も厄介な場所で新たな幕を開けた。

AC6のミッション「壁越え」の裏側でレイがフロイトと戦うところを見たいでしょうか?

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