転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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グリッド012は変人の巣窟である

 ルビコン3、グリッド012。

 かつてアイビスの火の前に建造された巨大なメガストラクチャー。

 地上から天を突くように伸びた支柱群の上に、輸送鉄道やプラットフォームが複雑に絡み合い、

 老朽化した鋼鉄の骨組みが不気味に軋んでいた。

 

 上層は今なお封鎖機構の監視下にあり、衛星砲の照準圏内。

 だがその遥か下、濃い赤錆と油の臭気が漂う下層──

 そこはドーザー”ジャンカー・コヨーテス”たちの巣窟であり、そして今、狂人の王“オーネスト・ブルートゥ”が支配する領域だった。

 

 崩落した橋梁の残骸を突き破り、二つの機影が着地する。

 VPS装甲の光を纏ったフリーダムガンダムと、トリコロール色の装甲が光るLYNX。

 周囲には、鉄骨の断片と瓦礫が積み重なり、腐食した配管からガスが漏れている。

 どこもかしこも、まるで地獄の廃工場のようだった。

 

《……高度安定。ここがグリッド012》

 

「見ての通りだな。廃棄された施設の残骸……足場の半分は崩壊してる」

 

 レイはセンサーを展開しながら周囲を見渡す。

 遠くで崩れた鉄道カタパルトが横倒しになり、かつての物流ネットワークの名残を晒している。

 空は常に赤く濁り、上層の支柱群が霞の中で蜃気楼のように浮かんでいた。

 

《……熱源反応。複数》

 

「早速お出迎えってわけか」

 

 617の報告が終わるより早く、視界の奥で閃光が走る。

 次の瞬間、ミサイル群が古びた鉄骨を切り裂きながら迫った。

 

「くそっ、初っ端から派手だな!」

 

《迎撃》

 

 617のLYNXが前に出る。

 火花を散らしながらスラスターを吹かし、右腕のガトリング砲を連射。

 飛来する弾頭を弾幕で撃ち落とし、残った爆煙をフリーダムがシールドで受け止める。

 爆風が周囲の金属廃材を舞い上げ、衝撃波が地面のひび割れを広げた。

 

 廃墟の影から姿を現す敵機群。

 粗悪な修理跡と無理矢理溶接された装甲。

 ルビコン中でも悪名高いドーザー集団、ジャンカー・コヨーテスのMTだ。

 

《……機体認証。コヨーテスの識別信号確認》

 

「ブルートゥの手下どもか……本当に厄介な場所に迷い込んじまったな」

 

 レイは腰のビームライフルを構え、距離を詰める。

 フリーダムのスラスターが光を放ち、機体が一瞬で瓦礫の上を滑るように移動した。

 ビームライフルの閃光が敵MTを貫き、爆炎を上げながら爆散して滴り落ちる。

 

 617のLYNXがそれに続き、六連ミサイルを発射する。

 廃鉄骨の上を走りながらミサイルが飛翔し、ミサイルによる爆風で敵の包囲を崩していく。

 金属片が降り注ぎ、あたりは白煙と爆風に包まれた。

 

 その時、617の音声がノイズを混じえて響く。

 

《……奇妙な音、検出》

「音?」

《……通信周期が一定。……音楽みたい》

「音楽……?」

 

 通信越しに聞こえたのは、低くリズミカルな“ノイズ”。

 だがそれは、ただの電子干渉ではなかった。

 グリッドの支柱全体が共鳴するように、空気がわずかに震える。

 

 スロー……スロー……クイック……クイック……スロー……。

 

 音もないはずの戦場で、リズムだけが鳴り響く。

 崩壊した鉄道線が共鳴し、まるで巨大な楽器のように低音を返していた。

 

《……レイ、これ、人工的な信号。誰かが意図的に流してる》

 

「……ブルートゥか」

 

 レイが吐き捨てるように言った瞬間、

 グリッドの上層で何かが崩れ落ち、火花が散った。

 高所から降り注ぐ鉄骨と瓦礫、その隙間からドーザーMTが滑り出す。

 

《……敵増援。下層ゲートからも複数》

 

「囲まれたか!」

 

 フリーダムがシールドを展開。

 背部のスラスターが咆哮し、熱波と共にビーム砲が発射される。

 M100バラエーナ・プラズマ収束ビーム砲が白い閃光を放ち、正面のMT群を一掃した。

 爆風が壁を貫通し、崩壊した橋梁をまとめて吹き飛ばす。

 

《……敵、なお接近中。上層からも降下反応》

「チッ、どんだけ湧いてくる……! 617、右翼を取ってくれ!」

《了解》

 

 LYNXが脚部スラスターを噴かし、狭い鉄骨の隙間を跳躍。

 機体の装甲が鉄柱に擦れ、火花を散らす。

 その直後、上層からの弾幕が走り抜けた。

 

 廃棄されたカタパルト跡の向こうに、無数の敵影。

 汚染ガスの霧が晴れ、赤いランプが一斉に灯る。

 それは、ブルートゥの配下たちが“舞台”を整えた合図だった。

 

 グリッド012の内部が、まるで巨大なダンスホールのように明滅する。

 警告灯の明かりがリズムに合わせて点滅し、

 あの電子ノイズが、まるで拍子を取るように鳴り続ける。

 

 スロー。スロー。クイック。クイック。スロー。

 

「……くそっ、あの狂人……遊んでやがるな!」

《……レイ、気をつけて。これはただの戦闘じゃない》

「分かってる。──だが、相手が“踊りたい”ってんなら、踊ってやるさ」

 

 フリーダムの翼が展開し、プラズマの閃光が夜のような空間を照らした。

 その瞬間、グリッド012全体が呼吸を始めたかのように、赤い光を放つ。

 レイと617の戦いは、狂人のステージで幕を開けた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 赤い閃光が走った瞬間、通信回線にノイズが走る。

 そして、聞き覚えのある狂気が、電子ノイズの海から浮かび上がった。

 

『おやおや……天使のご友人たち。

 こんな場所に辿り着くなんて、なんと情熱的な登場だ。素敵だ……!』

 

「……っ! やっぱり案の定、罠かよ!!」

 

 レイの叫びと同時に、フリーダムのセンサーが全方位からの反応を検出する。

 崩れたプラットフォームの下、ひしゃげたコンテナの影、天井の梁の裏──

 無数のMT反応が、一斉に“起動”した。

 

《敵多数。配置……異常。まるで振付みたい》

「振付? ……まさか──」

 

『そう! 改めてようこそ、“グリッド012”へ!

 ご友人、今日は特別な夜ですよ。さあ、踊りましょうか!』

 

 その瞬間、グリッド012全体が明滅した。

 警告灯が音楽のリズムに合わせて点滅し、スピーカーから機械音のビートが流れる。

 

 スロー……スロー……クイック……クイック……スロー……。

 

 MTたちがまるでそれに合わせるかのように、一斉にスラスターを吹かす。

 まるでダンスパーティーの開幕のように、鉄と炎の群れが蠢き始めた。

 

「踊るな! 戦場で踊るなぁっ!!」

 

 レイの絶叫をかき消すように、MT群が突進。

 フリーダムのセンサーに映る赤点が一斉に収束し、四方八方から包囲を形成する。

 

《……右から十、上層八、下層三十》

「そんなに踊り子要らねぇんだよ!」

 

 617のLYNXが前に躍り出た。

 右腕のガトリング砲が唸りを上げ、連射弾が空気を切り裂く。

 雨のように降り注ぐ弾丸が敵MTの脚部を粉砕し、火花を散らしながら床に叩きつける。

 

 同時に、左腕の炸薬弾投射機が轟音を放った。

 着弾と同時に爆炎が広がり、周囲のMTをまとめて吹き飛ばす。

 金属片が空を舞い、赤い警告灯を反射してきらめいた。

 

「おおおおい、範囲広すぎだろ617!!」

《……ごめん。威力、少し調整ミス》

「“少し”の範囲が爆風でプラットフォームごと消えてんだよ!」

 

 フリーダムがシールドを展開し、爆風を受け流す。

 レイは即座に反撃体勢に入り、MA-M20ルプス・ビームライフルを構える。

 ビームが一直線に伸び、反対側の梁を駆け上がろうとするMTをまとめて貫いた。

 

『いいですねぇ、ご友人! その華麗なステップ、見惚れます!

 スロー、スロー、クイック、クイック、スロー! ……素敵だ!』

 

「素敵じゃねぇ!! お前ほんとに頭おかしいな!?」

 

 ブルートゥの笑い声が、通信を通して響く。

 それは狂気というよりも、純粋な悦びそのものだった。

 

《レイ、上層に新反応。落下物多数》

「ちっ! またか!」

 

 崩れた鉄道橋の上から、無数のMTが降下してくる。

 617の六連ミサイルポッドが唸りを上げた。

 

《……ロックオン完了。発射》

 

 ミサイルが連続で射出され、夜空の花火のように爆発が弾ける。

 爆風で宙に浮いた敵機がバランスを崩し、次の瞬間、ソングバードの二連榴弾が炸裂。

 空中で爆発した炎が、グリッド012の暗闇を赤く染め上げた。

 

『おぉ、ブラボー、ブラボー! ご友人、まるで戦場のバレリーナです!』

「やかましい! バレリーナがミサイル撃つかよ!」

 

 笑いながらレイは翼を展開し、フリーダムの背部バラエーナを起動。

 白のプラズマが収束し、大出力ビームが射線上の敵群を一瞬で焼き払う。

 爆風が逆巻き、周囲のガス管が連鎖的に爆発を起こした。

 

 赤と白の閃光の中、ブルートゥの声がまた響く。

 

『ご友人……その炎の色、最高です。

 でもね、フィナーレにはもっと派手な花火が要ると思いませんか?』

 

「嫌な予感しかしねぇ……!」

 

 上層で異常エネルギー反応。

 次の瞬間、天井部の支柱がせり上がり、固定砲座が姿を現した。

 無数の砲口が赤く光り、フリーダムたちを照準に捉える。

 

《……高出力熱線砲座。発射準備中》

「617、迎撃できるか!?」

《……試す》

 

 LYNXが炸薬弾を投射し、砲座の基部を狙う。

 だが、数が多すぎる。爆炎が空を照らし、焦げた金属片が降り注いだ。

 

『まだまだです! もっと踊ってください、ご友人たち!』

 

 笑い声が響くたび、天井の砲座が新たに稼働する。

 赤い光線が雨のように降り注ぎ、グリッドの床が次々と溶け落ちた。

 

「くそっ……だったら、こっちも全力で返す!」

 

 レイが叫ぶ。

 フリーダムの背部スラスターが開き、翼が展開。

 腰部のレール砲と翼のプラズマ収束ビーム砲、ビームライフルを使ってフリーダムの必殺技とも言える射撃体勢に入る。

 

「ターゲット、マルチロック! ──フルバースト!!」

 

 バラエーナとクスィフィアス、右手に保持したビームライフルを加えた全5砲門で一斉射撃が空間を貫き、砲座群を一撃で焼き払った。

 爆炎の波が押し寄せ、グリッドの上層が崩壊。

 鉄骨が連鎖的に崩れ、まるで建物そのものが悲鳴を上げるようだった。

 

《……砲座、沈黙》

「ふぅ……これで──」

 

『──おぉ! おおぉっ!! 何という美しいフィニッシュでしょうか、天使のご友人ッ! 完璧だ!!』

 

「完璧じゃねぇよッ!!!」

 

 ブルートゥの歓声が響く。

 通信越しに拍手まで聞こえるのだから、本気で“舞台”のつもりらしい。

 

《レイ、退路確認。北東ルート、通過可能》

「よし、こんな所に何時までもいる訳にもいかない。脱出するぞ!」

 

 二機は瓦礫を蹴り飛ばし、崩壊する構造物の隙間を抜けていく。

 617が六連ミサイルで退路を開き、フリーダムがシールドで瓦礫を受け止める。

 粉塵の中、二人の機影が赤い光を背に駆け抜けた。

 

 背後では、グリッド012の灯が一つ、また一つと消えていく。

 その最後の瞬間、通信が微かに再接続された。

 

『……あぁ、ご友人。

 楽しかったですよ。次は、もっと近くで踊りましょう。

 スロー、スロー、クイック、クイック、スロー……。素敵だ』

 

 通信が途切れた。

 

「……はぁ、やれやれ。マジで地獄の社交界だな」

《……レイ。次は、“狂人のいない場所”を希望》

「俺もだ……」

 

 フリーダムとLYNXは、崩壊する橋梁を飛び越え、赤い空の下へ姿を消した。

 その背後、狂人の“ダンスホール”は、なおも微かに灯り続けていた。

 

 スロー。スロー。クイック。クイック。スロー。

 

 金属の残響が消える頃、狂気のリズムだけがグリッド012に残っていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 グリッド012の外縁部。

 赤錆びた空の下、沈黙が戻っていた。

 鉄骨の残骸に腰を下ろしたフリーダムの装甲が、じりじりと冷却音を立てている。

 傍らのLYNXは脚部を半ば失い、補助スラスターの火花が散っていた。

 

「……死ぬかと思った。狂人のステップに付き合うのは二度とごめんだ」

 

《……同意。損傷率、フリーダム41%、LYNX47%。武装稼働率60%。リペアキットで修復すれば何とかなるけど……》

 

「弾薬だけはどうしようもないか。下手すりゃ、また廃棄場に逆戻りだぞ……」

 

 レイは苦笑しながら頭を掻いた。

 そして機体の通信モジュールを開き、ミレニアムへの回線を再接続する。

 

『こちらミレニアム管制。降下位置確認、損傷報告受領。……よく生きてましたね』

「運が良かっただけだ。それと補給が要る。エネルギーも残弾もギリギリだ」

『了解、補給シェルパを投下します。軌道データ送信願います』

「転送完了。……頼む、普通のやつを寄越してくれ」

 

 そう言った直後、空が閃いた。

 軌道上から白い光の尾が落ちてくる。

 やがて大気圏摩擦を抜け、巨大な補給コンテナが降下してきた。

 

《……減速ブースター点火。角度正常。着地まで十秒》

「了解。……頼むぞ、今度こそ“普通の補給”であってくれ」

 

 ズシン、と大地が揺れた。

 コンテナの底部が展開し、衝撃吸収脚が地面に突き刺さる。

 着地完璧──のはずだった。

 

 が、次の瞬間。

 

『茨城県人ここにありだぁぁぁぁぁっ!!』

 

「……は?」

《……?》

 

 通信波形が乱れ、補給シェルパの制御AIラインに異常。

 Cパルス反応──人為的波形干渉。

 

「おい待て待て待て、今“茨城”って言わなかったか!?」

《……うん。Cパルス反応、一名分。……憑依体》

「憑依ぃ!? 誰が機体に入った!?」

 

『我こそは! 日本帝国陸軍、補給部第七戦線所属ッ! 茨城の中尉・オオツカでありますッ!!』

「お前、アンドロイドボディ支給されたろ!? なんでよりによって補給シェルパに憑いてんだよ!」

『補給魂は現場にあり! 司令殿のお言葉を頂戴し、ワタクシめ自ら魂をブーストしましたぁぁ!!』

《……つまり、“自分の足で走ってきた”らしい》

「いや魂が走るな!!」

 

 補給シェルパの上面ハッチが開き、機械アームが元気よく動き出す。

 金属の脚がカカッと敬礼のように動いた。

 

『ただいまより補給作業を開始するッ! 見よ、これが“茨城式迅速補給術”でありますッ!』

 

 その掛け声と共に、燃料カートリッジが次々と投下される。

 LYNXのミサイルポッドに装填、フリーダムの装甲ヒートパネルに冷却剤注入。

 さらに謎の勢いで「食料パック」「コーヒー粉末」「梅干し」が飛び出した。

 

「おい、なんで人間食まで入ってんだ!? 確かにアンドロイドボディには人間の食料を摂取するとエネルギーに変換する装置が内蔵してるけどさ!」

『戦場に梅干し、士気の源ッ!!』

《……塩分補給。合理的》

「お前も乗るな617!!」

 

 アームが小気味よくリズムを刻みながら修理を進める。

 焦げた装甲が次々と交換され、冷却剤が蒸気を吐き出す。

 わずか数分で、二機の損傷率が大幅に回復していた。

 

『補給作業完了ッ! 任務達成! 我ら補給魂ここに健在ッ! 茨城県人ここにありだぁぁぁぁッ!!』

「だから毎回叫ぶなって! 鼓膜が死ぬ!!」

『補給後の雄叫びは伝統でありますッ! それではこれにて失礼いたすッ! 日本帝国万歳ッ!!』

 

 そう言い残し、補給シェルパのブースターが再点火。

 地面に砂煙を巻き上げ、機体は空へと戻っていった。

 

 レイは呆然と空を見上げた。

 風に吹かれながら、思わずぽつりと呟く。

 

「……なぁ617。俺もCパルス変異波形だが、あんな使い方できる気がしねぇ」

《……たぶん、あれは“才能”》

「才能の方向性が間違ってんだよ……」

 

 二人の機体が静かに立ち上がる。

 補給完了、武装再起動。

 冷えた風が吹き抜け、空にはまだ赤い光が漂っていた。

 

「よし、補給完了。狂人も退けた。次はまともな土地に行こうぜ」

《……まともな土地、この星にあると思う?》

「やめろ、現実突きつけんな」

 

 フリーダムの翼が展開し、LYNXの脚部スラスターが再点火する。

 二機の軌跡が空を裂き、赤い砂塵を巻き上げて飛び去った。

 

 遠くミレニアムの通信管制では、音声ログに奇妙な一文が残っていた。

 

 ──『茨城県人ここにありだぁ!』

 

 オペレーターは困惑したが、上官はただ一言だけ記した。

 

「補給成功。士気上昇+30%」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアム本艦、戦略管制ルーム。

 赤く濁ったルビコン3の地図が、半透明のホログラムとして空中に浮かび上がっていた。

 室内には、冷却ファンの低い唸り音と、通信回線のノイズだけが響いている。

 

「閣下、司令達の降下地点を特定しました」

 オペレーターが指示棒を動かすと、地図上の一点が赤く明滅した。

「座標は──グリッド012です」

 

 報告を受けた閣下は眉をひとつ動かし、静かに呟いた。

 

「……あの、様子のおかしい者の巣窟か」

 

 周囲の幕僚たちが顔をしかめる。

 誰もが“オーネスト・ブルートゥ”という名を思い出していた。

 

「(^q^)ツマリ、キチガ──」

「それ以上言うな」

「ワー!」

 

 閣下の低い声が会議室を凍らせる。

 全員が姿勢を正し、続報を待った。

 

「ですが、閣下……」

 

 報告士官が声を潜める。

 

「ブルートゥの生体反応、まだ消えていません。通信妨害の下で微弱ですが、確かに残存しています」

 

「……生きている、か」

 

 閣下は短く息を吐いた。

 

「まぁ、あの狂人のことだ。生きのびても不思議ではない」

 

「ですが司令達は既にグリッド012を離脱した模様です」

 

「無事か?」

 

「はい。戦闘ログによれば、敵MT群を完全に殲滅。ブルートゥは行方不明──おそらく地下区画に逃げ込んだものと」

 

「地下か……奴のことだ、また“奇妙な舞踏会”でも開いているだろう」

 

 閣下は一瞬、目を細めた。

 あの狂気を“完全に殺しきる”など、容易ではないと分かっていた。

 

「それよりもだ。現在、彼らはどの方角へ向かっている?」

「はい、南東。アーレア海を経由し、グリッド086方向です」

 

 ホログラムが切り替わり、アーレア海沿岸部の地形が拡大される。

 そこに表示された一帯──ベリウス地方西部。

 無数の残骸が散らばり、かつての都市基盤が砂に埋もれている。

 

「グリッド086……RaDの根城か」

 

「はい。ドーザーの中でも最大派閥、再利用と開発を掲げる技術屋集団です。

 “灰かぶり”シンダー・カーラが率い、その補佐役にチャティ・スティックが存在します」

 

 その名が出た瞬間、日本兵の数名がざわついた。

 

「(^q^)アノ灰カブリ女傑! 見タ見タ! 動画デ見タ!」

「手製AC“フルコース”! あれマジで漢のロマンだわー!」

「補佐のチャティも変わってるよな、喋り方が無口だが、出来る人材って感じでよ! ……まるで人間みたいだ!」

 

 閣下は静かに目を細めた。

「……“まるで人間みたい”か」

 

 その言い方に、周囲の兵たちは一瞬だけ首を傾げる。

 だが誰も、チャティがAIであるとは思っていない。

 知っているのは、閣下ただ一人だった。

 

「RaDは技術屋の集団だが、同時に危険でもある。

 中毒者も多く、コーラルを“神の声”と呼ぶ者もいる。

 レイ達が接触すれば、歓迎されるか──解体されるか。五分五分だな」

 

 沈黙。

 誰もが理解していた。

 RaDは敵ではない。だが、味方でもない。

 彼らは「Reuse and Development」の名のもとに、あらゆるものを材料として再構築する。

 それは機械も、人間も、そしてCパルスの魂ですら例外ではなかった。

 

「支援機を送りますか?」

「不要だ。レイは自分で動ける。それに617がいる」

 

 閣下はモニターに映るフリーダムとLYNXの機影を見つめた。

 赤い風の中を、二機がアーレア海沿いに滑るように進んでいく。

 その軌跡は、流星にも似ていた。

 

「……閣下、補給ログに異常が」

「またか」

「音声記録を再生します」

 

 スピーカーから響いたのは──聞き覚えのある叫び。

 

『茨城県人ここにありだぁぁぁ!!』

 

 会議室が一瞬でカオスに包まれる。

 

「だだだ、誰だぁ!?」

「やっぱり茨城県人がこの世界に来てたのか!?」

「(^q^)ワー!」

 

 閣下は額を押さえた。

 もはやツッコむ気力すらない。

 

「……あの茨城の魂、今度は補給シェルパに憑いたらしいな」

「Cパルス変異波形による憑依。強制的にAIラインを乗っ取った模様です」

「……まったく、人の姿を失っても、やることは変わらん」

 

 閣下の声には、苦笑とわずかな誇りが混じっていた。

 この艦に集う日本兵たちは皆、常識の外で生き延びた者たち。

 だからこそ、ルビコンの地でも彼らの存在が光るのだ。

 

「ブルートゥは地下で生きている。RaDは灰の下で動いている。

 そして我々の流星は、その狭間を進む──」

 

 閣下は赤い地図に指を伸ばした。

 アーレア海の向こう、グリッド086が点滅する。

 技術と狂気の交わる場所。

 

「記録班、司令達の動きを監視しろ。

 もしRaDの“灰かぶり”と接触した場合のみ、すべての通信を保存しておけ」

 

「了解!」

 

 閣下はゆっくりと背を向け、窓の外を見上げた。

 ルビコンの赤い輝きが、彼の横顔を照らす。

 

「……ブルートゥ、カーラ、チャティ。

 狂気も理性も、この星では紙一重だ。

 ──レイ、どうか見誤るな」

 

 通信室には再び静寂が戻る。

 だが、その沈黙の裏で、地表の狂人と灰の技術屋たちが、新たな舞台の幕を開けつつあった。

AC6のミッション「壁越え」の裏側でレイがフロイトと戦うところを見たいでしょうか?

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