転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
レイ達がグリッド012を突破し、補給を受けている最中のルビコン3の衛星軌道ではある一隻の密航のカプセルがルビコン3に向かっていた。
『ルビコンが近い。そいつを起こしてくれ』
『了解です。ハンドラー・ウォルター』
617の飼い主こと”ハンドラー・ウォルター”。
彼はある目的でこのルビコン3に訪れていた。
そしてカプセルの中にはウォルターの新たな猟犬こと強化人間C4-621が乗るloader4が入っていた。
『脳深部コーラル管理デバイスを起動』
COMが読み上げるように621のコーラル管理デバイスを起動させ、621が目覚める。
『強化人間C4-621、覚醒しました』
《ん……またなのね》
密航カプセルの星間移動用のブースターを切り離し、メインエンジンブースターを起動させ、そのままルビコンに密航を試みる。
するとウォルターから621にとっていつもの言葉が入る。
『621、仕事の時間だ。突入カプセルの電源を落とす。後は合図を待て』
《了解……》
その声に、621はほんの一瞬だけ目を閉じた。
彼女こと621はこの光景を今を含めて四度目であった。
621はどういう訳かこの始まりからループしていたのだ。
◇ 一周目:無機質の火
一周目は無機質に、ただウォルターの意思を全うして二度目のアイビスの火を起こした。
だが、失うものがあまりに多すぎた。
──Cパルス変異波形“エア”。
意思を持ったコーラル、実体無きルビコニアンであり、621にとってのオペレーターだった。
しかし、621はウォルターの意思を優先し、エアと決別。
やがてルビコン衛星軌道上で、エアが技研兵器を駆って621と殺し合った。
エアはコーラルの可能性を守るために戦ったが、621に敗れて消滅。
その結果、人為的に起こした二度目のアイビスの火がすべてを焼き尽くし、ルビコンは廃星となった。
その時、621の心は深く傷ついていた。
ウォルター、カーラ、そしてエア──すべてを失い、彼女は願った。
──できるなら、もう一度やり直したいと。
◇ 二周目:後悔と模索
そして目覚めたとき、621は再びルビコンに密航するところだった。
なぜ時が遡ったのかは定かでなかったが、やり直す機会が訪れたのだ。
しかし、前の周での行いを思い出し、罪悪感を抱く。
今度こそウォルターやカーラを生かそうと模索したが、方法は見つからず──
結果、カーラと決別し、エアと共にルビコンを守る道を選ぶ。
火種ザイレムを落とした後、アーキバスに捕らえられたウォルターは技研ACとして改造され、621の前に立ちはだかった。
『俺は……621……お前を……消さなければならない』
621は動揺しつつも、機体を壊すだけで止めようとした。
だが技研ACの性能は高く、手加減すれば自分が殺られる。
止む無く、撃破するしかなかった。
二周目は、ルビコンを救いエアを生かせた。
しかし、ウォルター達を救うことはできなかった。
──もう、やり直せない──そう思って目を閉じた。
……だが、意識が途切れた次の瞬間、再びルビコン密航の光景に戻っていた。
◇ 三周目:利用と絶望
もう誰も失いたくない。
そう思った621は、オールマインドの提案したコーラルリリース計画に乗る。
ウォルターやカーラを救うためなら何だって利用する。
邪魔する者はすべて排除した。
だが、結局誰一人として救えなかった。
オールマインドは621とエアを利用していただけだった。
ウォルターとカーラは、オールマインドに取り込まれたイグアスによって撃破される。
そしてイグアスが放った言葉が、621の心を抉った。
『教えてくれよ……どれだけ殺すつもりだ?』
その一言が、彼女の心を壊した。
それでも621はエアと協力し、イグアスを撃破。
コーラルリリースのトリガーを自ら引き、コーラルを宇宙全体に拡散させた。
致死濃度のコーラルを浴び、621は意識を失う。
目覚めたとき、肉体は存在せず、ACが“器”となっていた。
そして、その歪んだコーラルの世界に絶望し、
狂気のままエアに別れも告げず、自爆した。
◇ 四周目:再起動する鴉
──だが、神はそれを許さなかった。
再び目を覚ますと、彼女は再びルビコン密航の途中にいた。
四度目の“再起動”。
彼女はまだ、自分が人間かどうかの境界を思い出せない。
それでも、決意だけは確かだった。
《──今度こそ、誰も失わない。たとえ、世界そのものを敵に回しても》
エンジンブースターの火が消え、カプセルが流されながらデブリに紛れてそのままルビコンに大気圏に突入する。
『今だ、起動しろ』
ウォルターの指示で621はカプセル先端に付けられている逆噴射用ブースターを起動させ、減速させる。
しかし、それが封鎖衛星に察知させることになるが、それはウォルターや621にとって織り込み済みだった。
封鎖衛星の衛星砲がカプセルに向けられ、発射される。
放たれた一筋の光の線がカプセルのメインエンジンブースターに直撃した。
621はすぐにメインエンジンブースターを切り離し、そのままメインエンジンブースターの爆風を利用してルビコン内に侵入することに成功する。
《侵入成功。……逆噴射しつつ、カプセル展開!》
焦げた鉄とプラズマの匂いがコクピットに流れ込む。
赤熱した装甲が悲鳴を上げ、センサー越しに“燃える空”が歪んだ。
621の瞳が、静かにその光を反射した。
カプセルの逆噴射用ブースターを再度起動させ、減速しつつもカプセルを展開し、機体を外に出す。
役目を終えた逆噴射用ブースターは大気圏による摩擦で限界を迎え爆散し、621の駆るloader4はメガストラクチャ”グリッド135”に着地する。
空を裂いた黒い軌跡が、まるで“鴉”が再びこの星に降り立った証のように残った。
◇◆◇
赤錆びた風が吹き抜ける。
ルビコン3、アーリア海沿岸──。
そこは海ではあるものの、コーラルを含んだ薄っすら赤い空が常に海面を反射し、まるで赤い“液体の砂漠”だった。
海と呼ぶには静かすぎる。
波の代わりに霧がうねり、たまに閃光のようなコーラル反応が海面下を走る。
その輝きが、まるで星の断片のように青い水面に浮かび上がっては消えていく。
フリーダムとLYNXの二機が、霧の海沿いを滑るように進む。
砂に埋もれた旧式レールの上を移動しながら、目標座標グリッド078へ向けて進軍していた。
《……熱反応なし。ここ数キロは廃墟だらけ》
「だろうな。誰も好き好んでこんな地獄の海を渡らねぇ」
レイの声がヘルメット内に響く。
機体外部の温度は五十度を超えている。赤い霧の熱が金属装甲を包み込み、まるで大気そのものが腐食しているかのようだった。
《レイ、アーリア海の“海”って言ってるけど、液体というよりコーラルの溜まり場に見える》
「そうだな。海ってより……溶けた大地の墓場って感じだ」
617の機体がコーラル霧を掻き分けながら進む。
背部スラスターが低く唸り、鉄とコーラルの匂いが風に混ざる。
《……通信状況、安定せず。ノイズ干渉多い》
「上層の封鎖衛星がまだ生きてるんだろう。監視が緩んでも、ルビコンはまだ“戦場”のままだ」
レイは外部モニターに映る赤い海を見つめた。
霧の向こう、わずかに見える黒い鉄橋の残骸──かつて輸送網が存在した証だ。
その鉄橋は途中で途切れ、まるで“世界の終端”のように赤い霧へと沈んでいた。
《……あの向こうがアーリア海の中心。超えるには輸送艇が要る》
「だが、海運は死んでる。残ってるのはRaDか解放戦線くらいか」
617が短く息を吐くようにノイズを返す。
《つまり、今の私たち……海を前に詰んでるってこと》
「詰みじゃねぇ。考え方を変えろ。海の向こうに行く手段が無いなら、“借り”を作るだけだ」
《借り?》
「そうだ。……誰かに貸しを作らせる。こっちはそれでいい」
レイがそう言った直後、通信レーダーに微弱な反応が入った。
最初は雑音かと思われたが、やがて断続的な音声が混じる。
『──こちらルビコン解放戦線第七前線! 支援を要請する! アーキバス部隊がグリッド064から侵攻中──! 繰り返す──!』
ノイズ混じりの通信。
だが、確かに聞こえたのは戦場の声だった。
《……レイ。どうする?》
「決まってる」
フリーダムのセンサーが赤い霧を貫くように点灯した。
ヘッドモニターの中で、グリッド064方向に複数の反応が出る。
「借りを作るチャンスだ。──行くぞ、617!」
《了解。ターゲット、解放戦線救援》
赤い霧が吹き飛ぶ。
二機の機影が同時に跳び上がり、アーリア海の地平を越えて滑空していった。
◇◆◇
硝煙と焦げたオイルの匂いが、戦場の空気を焼いていた。
鉄と火の臭気が混ざり、耳をつんざく金属音が止まらない。
ここはグリッド064──アーリア海を背にした最後の防衛線。
ルビコン解放戦線の戦車、MT、ドローン、ヘリコプターが入り乱れ、戦場は地獄と化していた。
銃声、爆風、悲鳴。硝煙で空は濁り、太陽さえ見えない。
「右翼、装甲車が抜かれた! MT隊、バリケード裏に退避!」
「第3ヘリ分隊、後方から掃射支援! 空域を押さえろ!」
だが、指揮系統はすでに崩壊していた。
そのとき、上空を黒い閃光が走る。
次の瞬間、戦線中央で爆光が弾け、地面ごと吹き飛ばした。
「──ヴェスパーⅥ、メーテルリンクだ! AC〈インフェクション〉が出たぞ!」
「全員退避! あれは……“ニューエイジ”だッ!」
煙を割って、黒いACが歩み出た。
装甲表面に青い電流が走り、両腕のパルスガンが閃光を放つ。
機体名──〈インフェクション〉。
中量二脚、EN武装特化。
ヴェスパー隊第六隊長、メーテルリンクが駆るアーキバスの侵攻司令機だった。
『各部隊、予定通りルビコン解放戦線を殲滅せよ』
通信が全域に響く。
女性らしい声に、冷徹さが混じる。
無人MT群が散開し、〈インフェクション〉がブースターを吹かした。
ENノズルが青く閃き、煙を裂いて疾走する。
両腕のHI-16パルスガンが一斉射撃。
青い閃光が雨のように降り注ぎ、解放戦線の前衛が次々と焼き切られた。
「くそっ! シールドが壊れた! EN弾が抜けてる!」
「下がれ、あれは通常のMTじゃねぇ!」
さらに右肩のFASAN/60Eプラズマキャノンがチャージを始める。
大地が閃光で染まり、爆風が数十メートルを薙ぎ払った。
装甲車が宙を舞い、兵士の悲鳴が硝煙にかき消える。
『──前線制圧、フェーズ2移行』
そして無人MTが生き残りへ照準を向けた。
誰もが悟る。──終わりだ、と。
その瞬間。
空が、裂けた。
重なり合う硝煙の層を切り裂いて、緑色の閃光が飛来。
無人MTのマシンガンが一斉に爆ぜる。
「……な、なんだ……?」
雲の隙間から降り立ったのは、青い翼を広げた機影。
翼の先から流れ落ちる光の粒。
まるで空そのものを切り裂く“剣”。
──フリーダムガンダム、降下。
機体が回転しながらブーストを噴かす。
白い残光が尾を引き、重力を断ち切るように着地。
脚が地を踏みしめた瞬間、硝煙が弾け飛ぶ。
戦場のすべてが、一瞬、静止した。
「617、遅れたな」
《ん……フリーダムが早すぎるだけ。今の状況、地獄絵図で最悪》
「なら──ここで覆す」
レイは解放戦線に通信を繋ぐ。
「こちらフリーダム! 援護する、今のうちに撤退を!」
誰もが聞いたことのない名。
それでも、戦場に走ったその響きは、奇跡そのものだった。
「フリー……ダム?」
「あの機体の名前か? ──独立傭兵か!」
「だが、あの独立傭兵は我々を助けた……!」
混乱と希望が入り混じる中、メーテルリンクの眼が細められる。
『あの機体……外見は違うが、例のシミュレーションで戦ったLCもどきと酷似している』
彼女は即座に判断を下す。
『危険すぎる。データを収集、スネイル第二隊長閣下へ送信。全MT、未確認機を攻撃せよ!』
無人MT群が一斉にフリーダムへ集中砲火を浴びせる。
《レイ、敵が全部こっちを向いた!》
「ああ。目立つってのは得だな──!」
フリーダムが上空へ上昇。
マルチロックオンが展開される。
レイが叫ぶ。
「当たれぇ──!!」
ハイマット・フルバースト。
背部バラエーナ、腰部クスィフィアス、手持ちライフル。
全砲門斉射。
戦場を光が覆い、無人MT群が40%以上吹き飛んだ。
爆炎の嵐が過ぎ去り、ただ風と灰だけが残る。
『たった一機で……部隊の四割を!? ありえない……!』
解放戦線の兵士たちが歓声を上げる。
「凄い……あの天使が、俺たちを救った!」
「あれは勝利の天使だ! 援護しろ、フリーダムを守れ!」
士気が一気に跳ね上がり、残存兵が攻勢に転じる。
完全にアーキバス優勢だった戦況が、ひとつの光で覆された。
『……やはりあの機体は危険だ。ここで落とす!』
〈インフェクション〉が動く。
右肩のプラズマキャノンを放つが、フリーダムが対ビームシールドで受け止める。
「V.Ⅵのメーテルリンクか!」
『羽根つき、ここで止める!』
二丁のパルスガンが火を噴く。
青い閃光が空を裂くが、レイはシールドで防ぎながら接近。
間合いを詰め、両腕を掴む。
「俺というイレギュラーが出たんなら、上の連中に言い訳は立つだろ! 帰っちまえ!」
『な──ッ!?』
それでもメーテルリンクは諦めない。
至近距離でプラズマキャノンを放つ。
レイは即座に反射して回避。距離を取り、反撃の間を与えず──
ハイマット・フルバースト、再照射。
光の奔流が〈インフェクション〉を貫いた。
両肩の武装が吹き飛び、両脚が崩れ、左腕が砕ける。
『そんな……私が……!?』
「もう戦えないだろ。じゃあな」
レイは砲を下ろし、背を向けた。
爆炎の中を飛び立つフリーダムの機影を、メーテルリンクはただ見つめていた。
「あの機体……なぜ、私を……殺さなかった?」
誰も答えなかった。
ただ、焦げた風が吹き抜けるだけだった。
◇◆◇
グリッド064の戦闘が終わった後も、硝煙は消えなかった。
焼け焦げた鉄骨が軋み、黒煙がゆらめく。
戦場に残ったのは、崩れたバリケードと無人MTの残骸、
そして──新たな“伝説”の始まりだった。
ルビコン解放戦線の兵たちは、その日を後にこう呼んだ。
”青き翼の天使が舞い降りた日”
フリーダムの介入により、アーキバスの攻勢は撤退。
戦線の崩壊を免れた解放戦線は、生存者を収容しながら損害報告をまとめていた。
「……これが、戦闘記録の全データです」
戦線司令ハルベルト・ラインが、端末を睨みながら呟く。
「敵AC”インフェクション”は行動不能。アーキバス部隊は壊滅。
……そして、あの“青い機体”が我々を救った。名前は──フリーダム」
司令室の中が静まり返る。
誰もが、あの光の翼を見たのだ。
「……本当に、あれは独立傭兵だったのか?」
「所属不明。だが、戦場で敵を殺さず、我々を救った。それがすべてだ」
ハルベルトは短く息を吐いた。
「伝えろ。フリーダムの名を記録に残せ。彼らは恩人だ」
戦場の硝煙の下、ルビコン解放戦線の地下司令室では、
一つの通信が密かに行われていた。
「……こちらフリーダム。約束の件だ」
『潜航艇“ニーベルング”を出す。アーリア海を越えるにはそれが最適だ。
──君たちの勇気に、敬意を表する』
通信が切れる。
レイは短く息をついた。
「617、これで渡れる」
《了解。あの“海”を越えれば、次はルビコン中枢》
「ああ……そして、
レイの視線の先、遠くの空ではまだ黒煙が上がっていた。
──アーキバス・コーポレーション本社、戦略情報局。
壁一面に投影された戦況ホログラムの中で、
ヴェスパー第六隊長 メーテルリンクの負傷報告が再生されていた。
『……新型機体との交戦記録を送信します。
高出力ビームおよびレール砲を同時使用、複合射撃による高精度制御。
技研系統ではない未知の構造。……恐らく、外部技術との融合体』
報告が終わる。
沈黙。
モニター前に立つ男が、ゆっくりと指先でメガネのブリッジを上げ、ピントを合わせる。
アーキバス・ヴェスパー第二隊長──V.Ⅱスネイル。
「……“ガンダムタイプ”か。久々に聞く単語だ」
スネイルは、メーテルリンクから送られた映像を繰り返し再生する。
青い光、展開するウイングバインダー、同時収束砲撃。
外見は違うが、確かに──あの“アムロAIシミュレーション”で出現した機体と共通する箇所があった。
「……アムロチャレンジの残滓。だが、実機が存在するとはな」
彼の瞳に、わずかな笑みが浮かぶ。
「情報の価値は、鮮度で決まる。──メーテルリンク、よくやった」
通信ラインを開く。
『こちらヴェスパーⅡ、スネイルだ。──まだ動けるか?』
『……損傷は重いですが、意識はあります、第二隊長閣下』
『そうか。報告の内容、確かに受け取った。
お前の判断は正しい。今後は無理をするな。情報の“鮮度”こそ命だ』
『……了解です、スネイル隊長閣下』
短い沈黙のあと、スネイルは軽く息を吐く。
「彼女の情報がなければ、この異物の正体を掴めなかった。
──足立重工、そしてあの“ガンダムタイプ”か」
その名を呟いた瞬間、
彼の表情が僅かに陰る。
「この“イレギュラー”は利用できる。……いや、利用しなければならない」
スネイルはホログラムを消し、
机上の端末に暗号通信を入力する。
『至急、ヴェスパーⅣおよびⅤへ通達。
足立重工関連技術の全データを照会、
“ガンダムタイプ”と一致する構造を抽出せよ』
部下たちの声が返る。
『了解、第二隊長閣下』
通信が切れた瞬間、スネイルはメーテルリンクから送られた解放戦線の通信ログを確認した。
その通信ログには”フリーダム”と呼称するログを発見し、低く呟く。
「──フリーダム。
この戦場で“自由”を名乗るとは、実に皮肉だな」
その言葉を背に、室内の照明が落ちる。
青白い光が消え、静寂だけが残った。
──そして、同時刻。
ルビコン北方・アーリア海沿岸、夜。
地下ドックに停泊している潜航艇〈ニーベルング〉の艦体が、
赤い非常灯の中で静かに浮かび上がっていた。
流線型の装甲船体。
艦首にはACやMTを輸送できるカタパルト兼格納リフトが備えられている。
海面は穏やかで、しかし深淵のように暗い。
「こちらフリーダム、ニーベルングを視認」
『誘導信号を確認。減速、降下角度を固定してください』
フリーダムがスラスターを噴かし、
LYNXと並走しながら徐々に高度を下げる。
艦上の誘導灯が滑走ラインを描き、
2機の機影がゆっくりとリフトデッキに降り立った。
金属の振動が艦内に響き、
自動ロックアームが二機の脚部を固定。
『フリーダム、LYNX、着艦確認。ハッチを閉鎖、潜航を開始します』
艦内灯が赤から青へと切り替わる。
潜航艇の外壁が密閉され、圧力ゲージが静かに下がっていく。
レイはコクピットの中で目を細めた。
「617……これが、ルビコンの海か」
《ん……静か。でも、何か“生きてる”みたい》
「コーラルの流れが強い。……ここを越えれば、中心だ」
潜航艇〈ニーベルング〉が音もなく海中へ沈む。
コーラルの微光が暗い水中で揺らめき、
まるで光の粒が道を示すかのように、船体の周囲を包み込んでいった。
硝煙の空を越え、
ルビコンの深淵へ──。
新たな“自由の戦場”へと、二つの影が消えていった。
◇◆◇
一方その頃……
ルビコンを覆う雲が、淡く揺らめいていた。
その下には、アイビスの火によって焼かれた大地と都市だった廃墟が見える。
そして、その廃墟の中を一機のACがブースターを吹かして疾走していた。
──強化人間C4-621。
四度目のルビコン。
今度こそ、すべてを救うための再起動だった。
グリッド135に着地し、カタパルトを利用して汚染地帯に向かいACの残骸から傭兵ライセンスのデータを抜き取っていた。
《……駄目、このACのパイロットのライセンスが失効期限が過ぎている。ウォルター、次の場所は》
『分かっている。マーカー情報を送る。それを頼りに進め』
621はウォルターから送られるマーカー情報を確認し、その場所に向かう。
その場所は621は知っている。そこで手に入るライセンスが621のもう一つの名となるACの残骸。
《……見つけた。“Rb23──レイヴン”のライセンス》
『レイヴン、か。傭兵ランク圏内……それがお前の、ルビコンでの名義だ』
ウォルターの声に、621は微かに笑う。
《鴉……ね》
四度目の周でその名を呼ばれるのはもう慣れた感じだった。
621はレイヴンの認証データを転送した。
コンソールに淡い光が走り、人工音声が響いた。
『登録番号【Rb23】識別名【レイヴン】の認証を確認。
安否不明状態を解除、ユーザー権限を復旧します』
ブリーフィング画面が切り替わり、
次いで──別の声が流れる。
『傭兵支援システム“オールマインド”にようこそ。
レイヴン、貴方の帰還を歓迎します』
621は無言で画面を見つめた。
この声──三周目で彼女を狂わせたAIと同じ。
しかし、今回は利用される側ではない。
利用する側に回る。
《……ウォルター、認証完了》
『確認した。お前には、十分な経験がある。この
──早速だが仕事を取ってきた。確認しろ、621』
《分かった、ウォルター》
通信が途切れると、輸送ヘリの格納ハッチが開いた。
潮風とコーラルの光が入り込み、
AC”loader4”の装甲を淡く照らす。
海鳥の鳴き声の代わりに、電子ノイズが響く。
金属の巨影が揺れ、ブースターが低く唸る。
《……さあ、行こうか。レイヴンとして──再び、戦場へ》
ACが浮上し、海岸線を越えてルビコンの空へ上昇していく。
雲の向こうには、再び燃え上がる戦火。
四度目の輪廻は、静かに幕を上げた。
土日は休みたいので、毎週月曜日から金曜日の12:00に一話ずつ投稿します。
AC6のミッション「壁越え」の裏側でレイがフロイトと戦うところを見たいでしょうか?
-
見たい
-
見たくない
-
作者に任せる