転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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AC伝統のアレ 覚醒する因子

 訓練空域に、赤と白の残光が交錯した。

 621はアムロAIとの模擬戦を続けている。

 機体にかかるGが増すたび、HUDが震え、呼吸が荒くなる。

 

『邪気が来たか……!』

 

 アムロAIの声が響いた瞬間、視界から機影が消えた。

 

《速い……!? 動きが読めない!》

 

『動きが単調だぞ、621! 後ろにも目を付けるんだ!』

 

《それ、普通出来ないから……》

 

 まさしく“アムロチャレンジ”。

 異常反応速度のAIが、621の限界を容赦なく叩きに来る。

 

 観戦モードに入っているレイが、肩を揺らして笑った。

 

「おー、よく頑張ってんな621」

 

《レイ……621、大丈夫?》

 

「大丈夫だろう。あいつは別の意味で最強の猟犬だしな。それに……」

 

《それに……?》

 

「血は繋がってないとはいえ、617の妹的な存在だからな」

 

《妹……? そういうものなの?》

 

「そういうもんさ」

 

 621は必死に上下左右へと回避機動を続けるが、アムロAIの動きは一段上だった。

 

《くっ! 距離を取らないと……!》

 

『落ちろっ!』

 

 閃光。衝撃。

 621の機体が硬直し、警告音が鳴り響いた。

 

《結局勝てなかった……》

 

「お疲れさん、621」

 

《ん……お疲れさま》

 

 621は機体の姿勢制御を整えながら、二人に問いかけた。

 

《レイ達って、いったい何処まで行ったの? 私はレベル2で行き詰まった……》

 

「俺は617と協力してだが、最高レベルであるレベル3をクリアしたな。……まあ辛勝だったけどな」

 

《ん……あの二人は強すぎて日本兵たちの精神が一度死んでいた……》

 

《どうゆう状況なの、それは……》

 

「あーゆー状況」

 

 レイが顎で示す先には、訓練ブースから飛び出して転げ回る金田と、それを追い込む日本兵たちの地獄絵図が広がっていた。

 

「あーっ!? 駄目だ! 誰か助けてくれぇ!」

 

「どうした、グズグズするな! とっとと逝けぇ!」

 

「くそったれー!? このままだと死ぬぅ!? 」

 

「祖国は、お前を、必要としているぞ!」

 

「なんで俺が、こんな目に合わなくちゃならない!? もう地獄のシミュレーションはもうやめてくれぇええ!?」

 

 621は遠巻きに眺めながら僅かに呟く。

 

《あれはそうなの……》

 

《代々そう》

 

「金田のやらかしの不始末は死罪よりかはマシだろう」

 

 静かに、しかしどこか明るく、地獄の訓練は幕を下ろした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 シミュレーション訓練から戻った621のACは、整備ハンガーに入った瞬間、整備兵たちが一斉に動き出した。

 ハンガー中央には既に複数の日本兵整備士が集まり、慌ただしくフレームを確認している。

 

「どうした? 621のACを厳密に整備して」

 

 レイが声をかけると、整備兵の一人が勢いよく振り向いた。

 

「あ、司令。それがですね、彼女のACを調べてみたらフレームと関節部が結構摩耗していまして、すぐにオーバーホールしないといけない状態だったんで整備士たちが集まってオーバーホールすることになったんです」

 

「マジか……となると、壁越えの時か」

 

《ジャガーノートを落とす際にごり押しで撃破した影響かも……》

 

「だろうな……仕方ない。621、格納庫で見たアレに乗ってみるか?」

 

《アレ? ……もしかして》

 

「ああ、インパルスの方だ」

 

 レイが指さす方向。

 重い隔壁がスライドし、内部照明が段階的に点灯する。

 そこに佇んでいたのは──ディアクティブ状態のインパルスガンダム。

 色が抜け落ちた灰色の装甲は、生産前の試作機のような無機質さを帯びていた。

 

《インパルス? でも、見た目的にLCに近い感じだけど……》

 

《ううん……アレはLCじゃない。AC擬き》

 

《AC……擬き?》

 

「まあ乗ってみれば分かるさ」

 

 621が昇降リフトを上がり、コックピットに乗り込む。

 起動キーを回すと、無色の装甲とは裏腹に、内部ユニットが鮮やかに点灯し、コックピットHUDが展開する。

 

《凄い……! 各パラメータが高水準、それでいて内蔵武装付き……!》

 

 621は改めてインパルスやフリーダムがACとは違う技術の塊であることを再認識するのだった。

 

「インパルスの最大の特徴にバックパックのハードポイントがある。

 そこはシルエットシステムと呼ばれる専用のバックパックに換装することで、戦術の幅を大きく広げることを目的としている」

 

《シルエット? どんなものがあるの》

 

「機動力強化用の“フォースシルエット”。

 格闘戦・白兵戦に特化した“ソードシルエット”。

 対艦・砲撃戦に特化した“ブラストシルエット”の三つだ」

 

 レイはスラスラとインパルスの特徴を解説した。

 

「シルエットに関してはシルエットフライヤーと呼ばれる無人機で各シルエットを運搬し、インパルスに向けてシルエットを射出するって感じかな。

 その後はオートでドッキングするから事故は問題ない」

 

 説明を聞きながら、621は次々とウィンドウを開き、内部データを確認した。

 機体の癖やレスポンス、スラスター配分。

 全てが今までのACとは違う。

 

 そんな時だ。

 

 格納庫の壁スピーカーに冷静な合成音声が響く。

 

『強化人間C4-621、ハンドラー・ウォルターがお呼びです』

 

《ウォルターが呼んでる……》

 

「となると、仕事の話か?」

 

 レイが顎を上げる。

 621はコックピット内で小さく息を整えた。

 

 ──次の任務が、始まろうとしていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 インパルスのコックピットで起動チェックを進めていた621の耳に、

 ハンガー天井スピーカーから落ち着いた声が響いた。

 

『621、仕事だ。ケイトと名乗る独立傭兵から依頼が来ている、ブリーフィングを確認しろ』

 

 スクリーンに暗転と同時に新規ブリーフィングのデータが展開される。

 そこへ、無機質な女性の映像が差し込まれた。

 

『初めまして、独立傭兵レイヴン。私の名は“ケイト・マークソン”。

 貴方に折り入って頼みたいことがあります』

 

《ケイト……》

 

 621の瞳が細くなる。

 表情は変わらない。だが、内心では既に見抜いていた。

 

 ──この声。

 ──この妙に均一化されたイントネーション。

 ──感情の“作り物”めいた抑揚。

 

 これはケイトではない。オールマインドだ。

 

 画面が切り替わり、任務概要が淡々と読み上げられる。

 

『内容はBAWS第二工廠に対する惑星封鎖機構の強制監査部隊排除。

 封鎖機構はSGのみならずLC部隊も導入してBAWSに対する圧力を強めていますが、

 対するBAWSはあくまでこれを“独立傭兵の突発的な襲撃”として妨害したい考えです』

 

 必要以上に整った声が、さらに続ける。

 

『貴方は工廠内部に待機し、監査部隊に奇襲を仕掛けてください。

 私は外部の後方部隊を襲撃して攪乱し、然る後に合流します。

 依頼内容は以上です、よろしくお願いします』

 

 通信が切れ、ハンガーの微かな機械音だけが残った。

 

《……レイと617はどう見る?》

 

「十中八九罠だな」

 

《ん……罠》

 

《だよね……でも、ここで受けないとオールマインドに感づかれる。

 インパルス、借りてもいい?》

 

「むしろ使ってくれ。インパルスのコックピット内にマニュアルがある」

 

《分かった。……フォースシルエットを使う》

 

 621は起動したばかりのインパルスのHUDを操作し、

 バックパック各シルエットの適性表示を確認する。

 中でもフォースシルエットの反応は良好だった。

 

『封鎖機構の強制監査に独立傭兵からの依頼……妙に入り組んだ話だが、お前はいつも通りの仕事を頼む』

 

《分かったけど、ウォルター。ACがオーバーホール中だからレイから予備機を借りる》

 

『何っ? そうか……あまり壊さないようにしろ、621』

 

 通信が途切れ、静寂が戻る。

 インパルスのコックピット内で、621はスロットルレバーを握り直した。

 

 罠だと分かっている。

 オールマインドが何を試そうとしているかも。

 

 だが、それでも進むのが──レイヴン、621だ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 インパルスが換装したフォースシルエットの大推力のスラスターと複数のバーニアスラスターが低く唸りを上げ、BAWS第二工廠の暗い搬入口へ滑るように着地した。

 冷たい鉄臭とオイルの匂い。

 封鎖機構によって封じ込められた工廠内部は、まるで無人の迷宮のように静まり返っていた。

 

『ミッション開始だ。惑星封鎖機構の強制監査部隊を全て排除する』

 

《了解……》

 

 621は短く応じ、インパルスのビームライフルを構える。

 フォースシルエットによる推力強化で、ACとは異なる軽快さが機体を包む。

 

『独立傭兵レイヴン、ご協力に感謝します。後ほど合流しましょう』

 

 ケイト──いや、オールマインドの声が通信に割り込む。

 

(オールマインド……あなたの思い描いた通りにはならない!)

 

 621は通信を無視し、工廠内の警戒MT群へ照準を合わせる。

 振動もなく光が収束し、インパルスの先制ビームが発射された。

 

 次の瞬間──

 封鎖機構SG(subject Guard)型MTが爆散した。

 

「!? コード15、所属不明AC……いやっ違う!?」

 

「どうした、詳細に報告しろ」

 

「コード5! 敵はホワイト・ゴーストと似た別種機!

 繰り返す、ホワイト・ゴーストと似た別種機!」

 

 工廠内部で警報が連鎖的に鳴り響く。

 数十体のSG型MTが一斉に照準を621へ向けるが、その動きには明らかな“迷い”があった。

 

(インパルスを見て動揺している? レイ達は封鎖機構に何をしたの?)

 

『封鎖機構に動揺があるようだが、気にするな。

 SGの歩哨MTが装備するレーザーガンに注意しろ』

 

 インパルスは滑らかな加速で側壁に跳躍し、一気にSG群の死角へ回り込む。

 フォースシルエットの推力が機体を押し出し、AC以上の瞬発力で敵陣を突破していく。

 

「コード18、監査部隊に報告! ホワイト・ゴーストの別種機が単機!」

 

「戦闘配備につけ! それとコード78Eを送信! 例の兵器を出す!」

 

 “例の兵器”──その言葉に621は一瞬だけ嫌な感覚を覚えた。

 LC部隊の存在を示す、あの不穏なシグナルが工廠奥から迫っている。

 

『片付いたか……621、先に進むぞ』

 

 ウォルターの声が冷静に響く。

 621はフォースシルエットのビームサーベルラックからヴァジュラ・ビームサーベルを引き抜き、次の隔壁へ向かう。

 

 だが封鎖機構は執拗だった。

 

「コード31C! ホワイト・ゴーストの別種機により被害が出ている!」

 

「援護する! これ以上やらせるな!」

 

 中央通路側から姿を現したのは、LC執行機体。

 その重装甲フレームが、まるで巨獣のように通路を揺らしながら突進してくる。

 盾を構え、右腕のグレネードランチャー付きアサルトライフルを向けてくる動作は、SGよりも遥かに洗練されていた。

 

『これは……監査にしては戦力が過剰だ』

 

《でも、片づけるだけ》

 

 621はインパルスを低く沈ませ、LCの足元へと一気に滑り込む。

 ビームサーベルが関節部を正確に斬り裂き、LC執行機体が壁へ叩きつけられた。

 

『この辺りも片付いたようだな』

 

『流石は壁越えの傭兵……引き続きよろしくお願いします』

 

 ケイトの声が再び割り込む。

 冷たく、どこか人間味が欠けている。

 

『ケイトとかいう傭兵……アリーナにも登録がない。後方部隊の襲撃をするというが、当てにするな』

 

《最初からケイトは信用してない》

 

 621はインパルスの照準を次の区画へ向けた。

 だが、その奥には──

 LC狙撃型の赤い複眼センサー がひっそりと光っている。

 

 そして更に、奥の隔壁が低く振動し始めた。

 

 封鎖機構士官が叫んでいた “例の兵器” とは──

 この先で待ち構える巨大な影 のことだった。

 

 工廠内部の爆煙がまだ晴れぬうちに、封鎖機構兵の断末魔に近い通信が飛び交った。

 

「コード78、応援を要請。被害が大きい!」

 

「こちらも何者かの襲撃を受けている。目下対処……!」

 

 外部区画で別の戦闘が発生している。

 621はその内容から、オールマインド──ケイトが動いたのだと察する。

 

『手筈通りか……ケイトが動いたようだな……』

 

《でも、油断はできない》

 

 インパルスの足元で、破壊されたSG型MTが火花を散らす。

 その装甲には、命名されたばかりの“ホワイト・ゴースト”の面影が確かに刻まれていた。

 

「これが……ホワイト・ゴーストの……!」

 

 封鎖機構の監査兵たちが怯えた声で呟き、次々と撤退していく。

 

『工廠内部にいる監査部隊の殲滅を確認した。ケイトとやらが来る前に片付いた……』

 

『レイヴン、こちらも片付きましたが一つ報告が』

 

 ケイトの声は淡々としており、そこには焦りがまるで感じられない。

 それが余計に不気味だった。

 

『封鎖機構に想定外の動きがあります。ひとまず合流しましょう』

 

『聞いた通りだ。マーカー情報を更新する』

 

 ウォルターが指定したポイントへと、621はインパルスを走らせる。

 工廠の出口へ向かう通路は崩壊し、照明は断続的に点滅していた。

 

 その途中──通信が突然割り込む。

 

『独立傭兵レイヴン……ここで騙して申し訳ありません。

貴方はここで朽ち果ててもらいます

 

《……っ! ウォルター!》

 

 621が直感的に身構えた瞬間、

 上空から複数の強烈な熱源反応が押し寄せてきた。

 

『これは……!? 621、封鎖機構の強襲艦十隻がそちらに向かっている!』

 

 十隻──通常の監査部隊の規模を遥かに超える戦力。

 本気で潰しにきている。

 

「コード23、現着。被害状況はコード31Cです!」

 

 封鎖機構の上級士官が叫ぶが、621の視線はその背後に現れた“異形”へと釘付けになった。

 

 ──カタフラクトでもない。

 ──エクドロモイでもない。

 

 封鎖機構のどのデータベースにもない、

 四脚MT擬きの未知の機体が姿を現した。

 

 細長い脚部、異様に大きい前方ユニット、

 中央には不自然に真紅の光学センサーが揺らいでいる。

 

『あれは……封鎖機構の新型か!?』

 

『違う! あれは俺たちのデータバンクから抜き取られた機体だ!』

 

 突然にレイが通信に割り込んできた。封鎖機構の新型について何か知っているのか621はレイに聞き出した。

 

《抜き取られた……? どういうこと?》

 

『説明は後でする! 今ミレニアムをBAWS第二工廠に向かわせている!

 待っててくれ!』

 

 レイの声には焦りと怒りが混ざっていた。

 

『聞いての通りだ、621。まずは生き延びることを考えろ!』

 

《了解。ここで死ぬつもりはない……!》

 

 四脚の“未知機体”が赤い光を揺らめかせながら、

 インパルスへ向けて爪のようなアームを展開する。

 

 その背後では──

 強襲艦十隻の影が空を覆い始めていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 封鎖機構の強襲艦十隻が、まるで空を押し潰すように降下してくる。

 その巨体が落とす影は、BAWS第二工廠一帯を完全に覆い隠し、

 レールガン砲塔が次々とインパルスへ照準を合わせた。

 

 そして──

 地上には“四脚の怪物”が姿を現す。

 

 無機質な装甲、異様なまでに太い脚部。

 中央の複眼センサーが赤く点滅し、獲物を捕捉した獣のように身構えた。

 

《レイ、この機体の詳細は?》

 

『そいつはYMAF-X6BD“ザムザザー”!

 武装はかなり豊富で、特徴の大型クロ―である超振動クラッシャー“ヴァシリエフ”に捕まるなよ!

 普通のACでも高速で振動させたクロ―で一気に破断させられるぞ!』

 

《厄介すぎる……!》

 

 その瞬間、ザムザザーの四脚に取り付けられた巨大砲塔が唸りを上げた。

 複列位相エネルギー砲「ガムザートフ」 が収束し、

 紫色の光線が工廠前の地面を抉る。

 

 621は即座に跳躍し、フォースシルエットの推力で回避する。

 

 しかし反撃に使用したビームライフルは──

 ザムザザーの頭上に展開された巨大な光の壁に阻まれた。

 

《パルスシールド? 違う……明らかに防御力が!》

 

 陽電子リフレクタービームシールド「シュナイドシュッツSX1021」。

 

 戦艦級の攻撃すら弾く怪物シールドが、まさに鉄壁のごとくインパルスを拒絶した。

 

「コード44、この敵の詳細データを送ってくれ!

 ルビコン1で交戦したホワイト・ゴーストとは別種機であるが、何かが違う!」

 

「必要ない。どの道この場で落とせばいい──その為のザムザザーだ」

 

「了解。ならコード70、艦隊による支援砲撃を要請!」

 

「受領した。レールガンによる援護射撃を開始する」

 

 強襲艦十隻が一斉に主砲を点火させた。

 大地が震え、建造物の影が揺れる。

 

『封鎖機構がここまで過剰な艦隊を送るとは……!』

 

《厄介だし鬱陶しい……!》

 

 数十門のレールガン砲撃がインパルスを追尾し、

 621は工廠の屋根を駆け上がりながらギリギリで躱していく。

 

 だがその回避すらも、長くはもたなかった。

 

《くっ! 攻撃が激しすぎる……あぐっ!?》

 

 視界に赤い警告が走る。

 ザムザザーの影が迫り──

 

 インパルスの右脚が巨大な振動クロ―に捕まれた。

 

《しまった!?》

 

「対象を捉えました!」

 

「よし、そのまま地面に放り投げろ!」

 

《ああああっ!!》

 

『621!』

 

 ザムザザーが全脚を踏み込み、巨体をねじる。

 瞬間、インパルスは空中へと投げ飛ばされ、

 強襲艦の砲撃が散乱する空の下で、地上へ向かって落下していく。

 

 その落下の中で、621の意識がスローモーションに沈んだ。

 

 ──一度目のレイヴンの火。

 ──二度目のルビコン解放。

 ──三度目の賽は投げられた。

 

 そして、四度目。

 ウォルター、617、レイ……

 救える可能性が生まれた道。

 

 621は、まだ終われなかった。

 

(まだ……まだ終われない!

 こんなところで……こんなところで、私は……!!)

 

 その瞬間──

 彼女の体内に眠っていた“遺伝子の種”が、確かに弾けた。

 

 音もなく。

 しかし確実に、何かが覚醒を始めた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ザムザザーに叩き落されたインパルスは、土煙を巻き上げながら戦闘区域の縁へ転がった。

 フォースシルエットの推力はまだ生きているが、装甲の半数が赤熱し、警告灯が点滅している。

 

 そんな中──

 空を裂くような轟音と共に、巨大戦艦が低空へ影を落とした。

 

「目標地点に到着!」

 

 観測班の緊迫した声が戦場へ響く。

 

「司令! 621がザムザザーにやられかけてます!」

 

「何っ!? 621!」

 

 ミレニアムの艦影が工廠上空を覆い、周囲の封鎖機構兵は一斉に仰ぎ見た。

 

 621は機体を震わせながら、フォースシルエットのスラスターを最大出力で吹かす。

 ザムザザーの“止め”のガムザートフ砲が地面を焼きながら追撃してくるが、

 インパルスは紙一重のタイミングでこれをかわし──

 

 ミレニアムの真下へと飛び込んだ。

 

《ミレニアム、デュートリオンビームを!

 それから、ソードシルエットの射出準備!》

 

『621、大丈夫なのか!?』

 

《大丈夫、ウォルター。ミレニアム、急いで!》

 

「……司令!」

 

「今は621の指示に従うんだ!」

 

 ミレニアムの艦橋で、日本兵たちが慌ただしく操作盤を叩く。

 インパルスの頭部、額に内蔵された デュートリオンビーム受信機 がせり上がり──

 

「デュートリオンビーム、照射!」

 

 青白い光の柱が降り注いだ。

 

 次の瞬間、

 インパルスの全システムが一斉に回復し、エネルギーゲージが跳ね上がる。

 

「なっ!? あの戦艦は!」

 

「ルビコン1で確認された戦艦だと!? いつの間に密航したのだ、あの艦は!」

 

 封鎖機構の兵たちが狼狽し、

 強襲艦十隻からのレールガン照準が乱れ始める。

 

「敵機、来ます!」

 

「ここで落とす! てぇー!!」

 

 ザムザザーが四脚を大きく広げ、

 大型ビーム砲“ガムザートフ” を前方に向けて一斉射を放った。

 

 大地が波のようにめくれ上がる。

 爆風がインパルスへ迫る。

 

 しかし621は、一歩も引かなかった。

 

 機動防盾を展開。

 

 ビームが直撃し、シールド表面が赤熱するが──

 その裏でインパルスはすでに跳躍していた。

 

 そして盾を放り投げ、囮とする。

 

 ザムザザーが照準を盾に引きつけた瞬間──

 621は上空から鋭く落下した。

 

 ビームサーベルが引き抜かれ、光刃が赤く伸びる。

 

 狙うは、ザムザザーの装甲の合わせ目。

 陽電子リフレクターの“死角”──

 

 真正面ではなく、真上。

 

 621は全体重を乗せて、

 ザムザザーの中央ユニットへサーベルを突き立てた。

 

 轟音。

 爆裂。

 ザムザザーの上部装甲が裂け、火花が雨のように散る。

 

 ザムザザーの上部装甲を引き裂いた直後。

 インパルスはサーベルを引き抜き、爆炎を背に跳躍して距離を取った。

 

 封鎖機構もザムザザーが撃墜されたことに戸惑いを隠せないでいた。

 

「ザムザザーが撃墜されました!」

 

「馬鹿な……! 追い詰めたはずが、逆にやられただと!?」

 

 ミレニアム上空では、無人シルエットフライヤーが旋回しながら光の尾を引いて降下してくる。

 その姿を認識し、621は迷いなく指示を飛ばした。

 

《ソード換装……! このまま一気に……!》

 

 シルエットフライヤーが背部ユニットに分離し、自動ドッキング。

 瞬間、インパルスの装甲色が脈動し──

 VPS装甲が“格闘戦色”へと鮮烈に変化した。

 

 赤。

 鋭く、闘争本能を象徴する色。

 

 ソードシルエットに装備されている2本のレーザー対艦刀”エクスカリバー”が展開され、

 その刃が空気を裂きながら紫電を撒き散らす。

 

 封鎖機構の兵たちは、その迫力に圧倒された。

 

「──っ!? な、なんだ今の色変化は……!」

 

「敵機、こちらに向かっています!」

 

「っ!? 全砲門開け、撃ち落とせ!!」

 

 十隻の強襲艦が同時に砲撃態勢へ移行。

 艦体に並ぶ多数のレールガン・ガトリング・ミサイルポッドが起動し、

 火線が無数に交差してインパルスへ殺到する。

 

 だが621は止まらない。

 

 フォースシルエットからソードシルエットへ換装してもなお残る推力を活かし、

 強襲艦隊の“ど真ん中”へ一直線に突撃していく。

 

 強襲艦の一隻に張り付いたインパルスがエクスカリバーで強襲艦の甲板を切り裂き、そのまま艦橋を切り裂いて次の強襲艦に乗り移る。

 その強襲艦には56連垂直ミサイル発射管にエクスカリバーを突き刺し、切り裂いて誘爆させる。

 

 たった一機に次々と強襲艦が撃破されていく光景に封鎖機構艦長が絶望の声を漏らした。

 

「こ……こんなことが、あっていいのか……!? たった一機に、艦隊が……!?」

 

 そして封鎖機構艦長が乗艦した強襲艦に飛び移ったインパルスが現れる。

 封鎖機構の視点から見たらまるで鬼神と思わせるような存在だ。

 

「う……うわああぁぁっ!?」

 

 封鎖機構兵が悲鳴を上げる中、一基の対空砲塔がインパルスに攻撃するも、VPS装甲の前では豆鉄砲の様に弾かれるだけだった。

 

《はああぁぁぁっ!!》

 

 巨大な刃が交差する。

 エネルギーの残光が軌跡を描き──

 

 ソードインパルスの双剣が、

 強襲艦の艦橋部をまるごと斬り裂いた。

 

 甲板が爆裂し、主砲が折れ曲がり、

 強襲艦は制御を失って横倒しに崩れ落ちていく。

 

 その破壊を皮切りに、

 621は次なる艦へ向かって跳躍した。

 

 たった一機──

 しかし、その一機が艦隊の均衡を完全に崩壊させていく。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──それは、地獄が嘘のように静まり返った瞬間だった。

 

 十隻の強襲艦はすべて墜ち、黒煙を噴き上げながら大地に横たわっている。

 ザムザザーの残骸は四肢が溶断され、中央ユニットからは火花が散っていた。

 

 ソードインパルスは、最後の一撃を終えた姿勢のまましばらく静止していた。

 VPS装甲の赤い輝きだけが、薄暗くなった戦場で脈動している。

 

 HUDには、ひっきりなしに警告灯が点滅していた。

 装甲損傷率42%。右脚ユニット疲労値82%。エネルギー残量も限界に近い。

 

 そんな中──

 通信回線が静かに再接続される。

 

『……621、よくやった。戦闘は終了だ』

 

 ウォルターの声はいつもよりわずかに低く、そして安堵していた。

 

『周辺に封鎖機構の反応はもうない。今回は騙しの依頼だったが、背景はこちらで洗っとく。621、ミレニアムが迎えに向かう。戻って休め』

 

 その言葉と同時に、上空で光が差す。

 

 爆煙を切り裂いて、ミレニアムが高度を下げながら姿を現した。

 巨大な船体のライトがインパルスを照らし、陰になっていた機体色を徐々に浮かび上がらせる。

 

 621は深く息をつき、スラスターを微調整して飛行姿勢へと移る。

 

 そして、無言でミレニアムへ向かって飛び立った。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ヴェスパー本部の執務室。

 分厚い防爆ガラスの向こうでルビコンの灰色の空が揺れている。

 

 スネイルは電子端末へ流れ込む戦況報告を眺めながら、眉一つ動かさなかった。

 しかし、その静寂を破るように扉がノックされる。

 

 入ってきたのは、ヴェスパー部隊第三隊長──V.Ⅲ オキーフ。

 

 オキーフはアーキバス情報部門長官でもあり、密かにBAWS第二工廠で偵察し、情報を持ち帰ってスネイルに報告した。

 

「何? BAWS第二工廠で封鎖機構の艦隊が?」

 

「ああ、何でも一人の独立傭兵を始末するために封鎖機構の艦隊と新型を用意したようだ」

 

 オキーフが端末を差し出す。

 そこには、ザムザザーの残骸と思しき画像が映し出されていた。

 

「この画像……甲殻型のMTか?」

 

「その情報に関してだが、名前は確認できた。ザムザザー……封鎖機構が開発した新型だそうだ」

 

「封鎖機構が開発した……それにしては不格好ですが、それに似合う性能があったというべきか」

 

 スネイルの声音は淡々としていたが、興味よりも“冷笑”が勝っていた。

 

「それを単機で片づけたのが、封鎖機構が始末しようとした独立傭兵だ」

 

「なるほど……その独立傭兵に返り討ちに在っては意味がありませんね。それで、その独立傭兵は?」

 

「独立傭兵レイヴンだ。壁越えを果たした厄介な人物だ」

 

 その名を聞いた瞬間──

 スネイルは端末を掴む手に力を込めた。

 

 レイヴン。

 壁越えの時にヴェスパー部隊とは一線を画す強さを見せつけ、ヴェスパー部隊より強い独立傭兵として君臨している障害。

 アーキバス……スネイルの計画を破綻させたウォルターの猟犬でもあり、害獣ともいえる厄介な“駄犬”。

 

(あの駄犬……!

 封鎖機構の新型のみならず、その艦隊を単機で壊滅させただと!?

 何処まで私をイラつかせれば気が済むのだ……!)

 

 怒気を隠しきれずに顔へ出ていたのだろう。

 オキーフが苦笑気味に一言。

 

「スネイル、顔に出てるぞ」

 

「……失礼、取り乱しましたね。それで、他に情報はあるのでしょう?」

 

「ああ、レイヴンはある船に帰投したようだ」

 

「船? この星の海上船か何かで?」

 

「いや、どうやら足立重工の旗艦だそうだ」

 

 その名前を聞いたスネイルは、目を細めた。

 

「足立重工……またその名が出たか」

 

 天使の出現といい、今度は旗艦までも出てきてもう驚く力すら出なかった。

 オキーフは続けざまに報告する。

 

「これは明らかにレイヴンは足立重工と繋がりがあるとみていいだろう」

 

「その様ですね。……しかし、まだ仕掛けません。

 オキーフは引き続き足立重工に関する情報を収集しなさい」

 

「了解した」

 

 オキーフが部屋を去り、扉が閉まる。

 

 スネイルは静かに椅子へ深く腰かけた。

 その表情は怒りと計算が入り混じった、冷ややかな決意の色に変わっていた。

 

「足立重工……

 何かしらの行動があれば、向こうから出てくるでしょう。

 少し後手に回ってしまうが……仕方ない」

 

 電子端末に映る「レイヴン」の名前を見つめながら、

 スネイルは静かに指を組んだ。

 

 次に動くのは──

 スネイルか、それとも足立重工か。

 

 ルビコンの闘争は、着実に次の段階へ進み始めていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアムの格納庫は、戦闘後の余韻がまだ消えていなかった。

 医療班が慌ただしく動き回り、整備兵たちは沈黙したまま破損したインパルスを見上げている。

 

 レイはその光景を眺めながらつぶやいた。

 

「しかし、621が封鎖機構の艦隊相手にあそこまでするとはな……」

 

 戦場を駆け抜けた鬼神──

 それが、ついさっきまで訓練で息を切らしていた少女と同一人物であることが、未だに信じられなかった。

 

 そのときウォルターが歩み寄る。

 

「……621はどうしている」

 

「現在医療ポッドで精密検査を兼ねて治療中だよ。このまま行けば味覚は取り戻せるかもしれない」

 

「そうか……」

 

 ウォルターの瞳がわずかに揺れる。

 長い年月の中で失われた“感覚”が、今ようやく戻ってくる可能性。

 

 そこへ、控えめな通信が入る。

 

《ウォルター……》

 

「617か、どうした?」

 

《621……以前より動きが違った。私にもできる……?》

 

 ウォルターは短く息を吐いた。

 

「それは俺にはわからん……」

 

 答えを避けた、のではない。

 本当に、わからなかったのだ。

 

 レイが軽く肩を叩く。

 

「だが、仮にそうだとしても617にしかできないことがある訳だし、結果を急ぎすぎなくてもいいんだよ」

 

《私にしか……できないこと?》

 

 617の声はいつもより少しだけ弱く、それでいてどこか迷っていた。

 

 ──その会話を聞きながら、レイは胸中で別の確信を深めていた。

 

(あの動きは……

 SEED Destinyのシン・アスカが初めてSEEDを開いた時、あの瞬間そのものだったぞ……!?

 まさか……俺たちという異分子が現れたことで、彼女にもSEED因子が覚醒したのか……!)

 

 レイはそのままウォルター達に軽く別れを告げ、医療区画へ向かった。

 医療班の一室では、遺伝学担当の日本兵が端末とにらめっこしていた。

 

「これが彼女の……」

 

「はい、621の遺伝子配列なのですが……同じ色のDNAの二重螺旋の間に妙な形がありました。

 まるで種のような形でして……」

 

 画面には、二重螺旋の間に“通常ではありえない微小構造”が存在していた。

 自然発生でも、人工改造でも説明がつかない“余剰因子”。

 

「SEED因子……」

 

「SEED因子? 何ですかそれ?」

 

 レイは素早く日本兵の肩を掴む。

 

「このことは621やウォルター、他の企業勢力や封鎖機構には絶対に漏らすな!

 このことは閣下と信頼できるもの以外に口述禁止令を引く!」

 

「りょ、了解!」

 

 レイは深く息を吐き、医療ポッドへ視線を向けた。

 その中で眠る621の顔は、戦闘時の鬼神の姿とは対照的に穏やかだった。

 

「……イレギュラーがよりイレギュラー化するとは。

 カーラの言葉を借りるなら……“笑えない”状況だ」

 

 赤色灯が薄く点滅する医療室で、

 レイは誰にも聞こえない声で呟いた。

 

 ここから先──

 621は、新たな段階へ進むことになる。

 

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