転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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解放戦線捕虜救出作戦

 ミレニアム医療区画・Cブロック。

 淡い青の照明が静かに灯る部屋の中央で、医療ポッド内部の透明シールドがゆっくりと開いていく。

 ポッド内には微量の蒸気が残り、治療用ジェルが透明な排水管へと流れていた。

 

「うーん……どうでしょう?」

 

 医療班員が計器を確認し、頷いた医療班長が静かに指示を下す。

 

「いいだろう。始めるぞ」

 

「レベルシステム、オン。30秒で医療用ジェルの排水が完了します」

 

 ポッド内部で、621が薄く眉を寄せる。

 

《ううん……》

 

 機械音と共に、ポッド内部の液体が完全に抜ける。

 

「サイクル完了。異常なし」

 

 ジェルが完全に排出されると、621はゆっくりと体を起こした。

 全身に残る湿り気と軽い倦怠感。だが痛みはなく、身体の内部が“整った”ような不思議な感覚があった。

 

《……もう終わったの?》

 

「はい、もう問題なく動けるはずです。扉を出て、右に真っ直ぐ行ってC-55フロアに向かってください」

 

《了解……》

 

 621は足元を確かめるように歩き出し、医療区画の白い通路へ出る。

 

(あの時……封鎖機構の新型にやられそうになった時、急に頭の中クリアになって……

 何もかもが見えるようになって……)

 

 歩きながら、あの瞬間の感覚が脳裏をよぎる。

 極限状況で全身を支配した“静寂の領域”。

 あれが何なのかはまだわからない。

 

 通路の角を曲がると、二人の姿が視界に入った。

 

「621、来たか」

 

《ん……待ってた》

 

《ウォルター……617……》

 

 ウォルターは腕を組み、617はすぐ近くまで歩み寄る。

 そのどちらも、621が無事であることにほっとしているのが見て取れた。

 

「食事を持ってきました。まだ回復したばかりなので休養食になりますが……」

 

 医療班がワゴンを押して近づく。

 湯気を立てる卵粥、ほうれん草の煮浸し、カボチャポタージュ、そして魚の煮付け。

 どれも控えめな味付けと優しい香りが特徴の“回復食”だ。

 

《私は味覚がまだ……》

 

「621、先ずは食べてみろ。それで答えが分かる」

 

《ウォルター? ……分かった》

 

 621は少し戸惑いながら、卵粥のスプーンを口へ運んだ。

 舌先に触れた瞬間──

 

《! ……美味しい》

 

 自分でも驚くほど鮮明に、温かさと旨味が広がった。

 湯気の香りすら“感じる”ことができる。

 

「そうか……よかったな」

 

《味覚、戻った……》

 

 617の機械音声に、僅かだが柔らかな色が混じる。

 ウォルターも珍しく安堵を隠さず、短く息を吐いた。

 

 戦いの傷は癒え──

 失われていた“人としての感覚”さえ、621は取り戻しつつあった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアム艦橋──。

 足立重工の最新型戦術旗艦であるそのブリッジは、いつもの静謐と規律に包まれていた。

 

 大型モニターにはルビコンの衛星軌道情報が流れ、

 各士官が淡々と状況を更新している。

 

 その中央、指揮卓越しに立つレイは報告書を手にしていた。

 

「閣下。……621に“覚醒”が起きました」

 

 報告を受けた足立重工代表──閣下は目を細める。

 

「覚醒……? 621に、そんな潜在能力があるとは思えんのだが」

 

 無理もない反応だった。

 ルビコンで酷使され、抑圧され、能力を搾り取られてきた彼女に、

 ここまでの“隠し球”があるなど普通は信じられない。

 

 だがレイは静かに資料を置き、淡々と続ける。

 

「封鎖機構の新型……というより、こちらの設計データを再現したザムザザー、強襲艦10隻を単機で撃破しました。

 明らかに“人間の反応”ではありません」

 

「……ほう」

 

 閣下はようやく表情を変えた。

 驚愕、戦慄、そして興味。

 

「621の遺伝子から“種”のような構造が見つかりました。

 おそらくは……まだ仮説ですが、潜在的な反応加速因子が覚醒したと思われます」

 

「まるで、ニュータイプかSEEDのようだな」

 

 閣下の言葉にレイは目線をそらすが、その沈黙が“肯定”であることは明白だった。

 

 そのとき。

 

 COMが点灯し、新規通信が割り込む。

 

『こちらセレン。ミレニアム、応答願う』

 

 レイはすぐに通信を接続した。

 

「セレン? どうした」

 

 ブリッジの緊張が静かに漂う中、

 レイと閣下の会話を遮るように、端末が再び点滅した。

 

 通信先は──解放戦線。

 

『何、いささか面倒なことが起きてな。詳しいことはアーシルが説明する』

 

 セレンの声はいつもより少し低い。

 レイは眉をひそめつつ、通信をアーシルに切り替えた。

 

『フリーダム、貴方に引き受けてもらいたい作戦がある。

 内容は虜囚となった戦士たちの救出。

 我々は……ヘリ単機突入による奪還を決行する』

 

 アーシルの背後には作戦室らしき壁面が映る。

 緊迫した空気、慌ただしく動く戦士たち。

 

 そして、彼はデータを送信した。

 

 転送されたのは──

 コーラル汚染が激しい廃墟地帯の画像。

 

 崩れた高層建築、濃霧のように漂う赤色のコーラル粒子、

 廃墟に囲まれたわずかな広場に、封鎖機構の施設が見えた。

 

『救出対象の同志は3名。我々にとっての重要人物も含まれる。

 フリーダム、貴方が我々に共鳴してくれることを願う……!

 コーラルよ、ルビコンと共にあれ』

 

 通信が一度切り替わり、セレンが画面に戻る。

 

『……だそうだ。引き受けてくれるか?』

 

 その問いに、ブリッジの空気がわずかに張り詰める。

 

 閣下が低く呟いた。

 

「レイ、もしかするだが……」

 

「ああ、絶対ドルマヤンがいる筈だ。フリーダムで出る」

 

 レイの声には確信があった。

 かつて“行方不明”とされた解放戦線の帥父──ドルマヤン。

 彼が生きているという確信を、レイは直感と情報から感じ取っていた。

 

『すまんな、厄介ごとを頼まれて』

 

「どのみち、解放戦線の帥父が俺たちにとって会わなくちゃならない人物の一人だからな」

 

『ふっ……そういうことにしておこう』

 

 通信が静かに切れる。

 

 ブリッジに残るのは、

 荒廃したルビコンの地を救うべく動き出す、

 新たな作戦の空気だった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ルビコン低空。

 濃いコーラル粒子が霞のように漂う汚染地帯を、

 フリーダムガンダムが蒼い軌跡を描いて疾走していた。

 

『ミッション開始。ルビコン解放戦線の輸送ヘリを護衛しろ』

 

「分かってるよ!」

 

 レイはコクピットで舌打ち混じりに頷き、

 フリーダムのスラスターを一気に噴かす。

 ウィングが展開して周囲を切り裂き、

 機体は地表すれすれを滑空しながら先行する輸送ヘリへ並走した。

 

『フリーダム、作戦への助力感謝する。

 虜囚となった同志達の救出……失敗するわけにはいかない。

 コーラルよ、ルビコンと共にあれ……!』

 

 アーシルの声には決意と焦燥が混じっている。

 

 次の瞬間。

 荒廃した廃墟群の影から、ベイラム企業所属のMT部隊が出現した。

 

「敵襲! 解放戦線のヘリと……嘘だろ!?

 天使だ、天災の天使が一機!!」

 

「くそっ……! 解放戦線の奴ら、お仲間を助けるために

 天災の天使までよこしやがったか……迎撃するぞ!」

 

 ベイラムMT数機がミサイルを乱射しながら迫る。

 

「フリーダム、行くぞ……!」

 

 レイはビームライフルを構え、一撃で先頭のMTの武装を消し飛ばした。

 続く二機、三機も正確無比な射撃で撃ち抜かれていく。

 フリーダムの動きは、抑えきれない怒りと集中の塊だった。

 

『A地点到着、着陸準備。同志ツィイーの救出を開始する』

 

『聞いての通りだ。突入部隊が戻るまでは周辺の安全を確保しろ』

 

「了解した!」

 

 フリーダムは輸送ヘリの上空を旋回し、近づく敵影を片っ端から排除していく。

 

「同志ツィイーを見つけたぞ!」

 

「助けに来て……くれたんだね……」

 

「待たせてすまない……ツィイー……!」

 

「大丈夫さ……生きてる。

 ちょっと休んで……またやり返そう……」

 

 地上で交わされる救出の声が、レイの耳に届いた。

 フリーダムのセンサーが敵影の接近を捉え、レイは即座に対応する。

 

『フリーダム、次の地点に向かう。引き続き護衛を頼む』

 

「ああ、気を付けろよ!」

 

 輸送ヘリが再び離陸する。

 その直後、レイのレーダーが多数の敵反応を感知した。

 

『敵MT部隊の増援だ! ……よくまあ懲りない連中だ』

 

「叩き落とせばいいだけだ!」

 

 フリーダムは急上昇し、空中からビームライフルを連射。

 敵増援は次々と火花を散らし、爆散していく。

 ミサイルの群れが迫るが、レイはそれをあざ笑うように機動して全回避した。

 

『B地点降下。同志メッサムを救出する。

 フリーダム、周辺を警戒してくれ』

 

「任せろ……!」

 

 フリーダムは翼をひるがえし、

 再び廃墟の上空へと舞い戻る。

 

 レイの護衛任務はまだ始まったばかりだった──。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ベイラムの前哨基地は既に修羅場と化していた。

 汚染地帯を覆うコーラルの赤霧が、爆炎と混ざり、視界を揺らす。

 

 フリーダムは輸送ヘリの上空で旋回しながら、迫る敵影を正確に撃ち抜いて無力化した。

 

「輸送ヘリの撃墜を優先しろ!! 天災の天使には構うな!!」

 

「む、無理です! あの天使は輸送ヘリを狙うものを正確に無力化していく!」

 

「くそっ! ”井戸”の情報を吐くまで、捕虜を逃がすな!!」

 

「なんだと……!?」

 

 アーシルの低い声が、胸の奥で震えた。

 “井戸”──ルビコニアンの生命線、コーラル濃縮地点。

 そこから情報を吐かせるために捕虜が利用されているという事実が、仲間たちの怒りをさらに煽った。

 

『同志メッサムを……収容した。……間に合わなかったようだ……!』

 

「畜生……! メッサム……!」

 

「そうか……」

 

『……コーラルの井戸はルビコニアンの生命線だ。

 メッサムの奴は最後まで喋らなかったようだ』

 

 短い沈黙。

 その沈黙が、どれほどの犠牲を意味するかを雄弁に物語っていた。

 

『……最後の地点に向かう。引き続き護衛を頼む』

 

「急げよ、俺たちがここを襲撃したことでベイラムは増援を送ってくる」

 

 輸送ヘリは加速し、朽ちた高層ビルの影へと飛び込んでいく。

 フリーダムはその後方を護るように追随し、敵影を切り払った。

 

『C地点到着。同志”師父ドルマヤン”を救出する!

 これで最後だ、頼むぞ、フリーダム!』

 

 

 

「まだか、アーシル!?」

 

『同志ドルマヤンの救出を確認』

 

『師父……ご無事でよかった……。”コーラルよ、ルビコンと共にあれ”』

 

 救出された男──ドルマヤンは、血と埃に塗れながらも鋭い眼光を失っていなかった。

 

『その警句の……何を知っているというのだ……。

 全ては……消えゆく余燼に過ぎない……』

 

「……”コーラルよ、ルビコンと共にあれ”。

 ”コーラルよ ルビコンの内にあれ”。

 ”その賽は 投げるべからず”……だったか?」

 

『? フリーダム?』

 

『……! 貴様は……その警句を意味を……分かっているのか……!』

 

「少なくとも、俺はアンタの敵じゃない。

 かと言って、完全な味方でもないのも確かだ。

 だが、コーラルを外に解き放つのは俺とてお断りだ。

 人が人でなくなる計画は猶更な……」

 

『そうか……』

 

「それと、賽を投げようとする輩がその計画を行おうとしている。

 それを阻止するために俺たちは行動している」

 

『なん……だと……』

 

『師父ドルマヤン、お急ぎを!

 ベイラムの増援がいつ来てもおかしくありません!』

 

『……そうだな、話は後にしよう。

 フリーダムといったか、話は後で聞こう』

 

「ああ、後でな」

 

『目標を達成。これより本機は作戦領域を離脱する』

 

『待て、新たな敵影を確認した』

 

「……離脱するのが遅かったようだ。お客さんだ!」

 

『あれは……! レッドガン部隊のAC!?』

 

「おい、嘘だろ!?」

 

 赤い残光のような……。

 廃墟の奥から、獰猛な野獣のような二機のACが姿を見せた。

 

「捕虜奪還に単機で護衛とは……。

 その蛮勇は認めるが……通らんよ、それはな……」

 

「やはり天災の天使がいると思ったが、ここで釣れるとはな……!

 貴様ら、愉快な遠足の時間は終わった。

 直近に自殺の予定がある者だけ付いてこい!」

 

「くそっ!? よりによってミシガン付きかよ!?

 ライガーテイルの調整が終わってるなんて想定外だ!?」

 

 レッドガン部隊──

 最悪のタイミングで、最悪の相手が現れた。

 

 ここからが、本当の地獄の始まりだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 廃墟の大地に、二つの重低音が重なった。

 四脚の巨躯が砂塵を叩き割り、背面の補助スラスターを噴かす。

 G1ミシガンの〈ライガーテイル〉。

 そしてその後方で淡い煙を引きながら旋回する、重ミサイル満載の二脚AC──

 G2ナイルの〈ディープダウン〉。

 

 その二機を正面に、フリーダムは翼を広げて降下していく。

 

『G2ナイルにG1ミシガン……どうやら貴様は物好きに好かれたようだな?』

「言ってる場合かよ!?」

『G2ナイルはレッドガンの副長。そしてミシガンの参謀でもある、手ごわいぞ』

「それと、総長であるミシガンもな!」

 

 ライガーテイルが雄叫びのような排気音を響かせ、四脚を伏せてミサイルを構えた。

 その横で、ディープダウンがゆっくりと砲口をフリーダムに向ける。

 

 連動して、複数のFCSロックオン警告がフリーダムのコクピットに踊る。

 

 アーシルが操縦する輸送ヘリがレッドガンの出現に進むのが困難となっていた。

 

『強行突破はむしろ危険……フリーダム! 離脱ルートの確保を頼む!』

 

 アーシルはレイに離脱ルートを確保するまで待機することを選択したが、それに異を唱える者がいた。

 

『馬鹿か貴様? そこに居てはいい的だ。寧ろ強行突破しろ!』

「俺もセレンに賛成だ! そこに居たら逆に落とされるぞ!」

 

 セレンに続きレイも強行突破を急かす。アーシルはその言葉に戸惑った。

 

『し……しかし……』

「早くしろ! プレイヤー視点からして護衛対象が呆然としているだけでも邪魔なんだ!」

『プ、プレイ……なんだって?』

 

 最終的にレイがキレて、アーシルにとっとと移動するよう怒鳴る。

 

「いいから即移動! そこに居ると邪魔だ!!」

『わ……分かった! すぐに離脱する!』

 

 輸送ヘリが急上昇し、廃墟の谷間へ逃れようと旋回する。

 その動きを遮るかのように、ナイルの”ディープダウン”が火力型リニアライフルの銃口を向けた。

 

「させんよ……離脱など」

 

 青白い閃光が廃墟をえぐる。

 レイはフリーダムで反転し、レール砲を撃ち返した。

 

 同時に、後方からライガーテイルの怒号が響く。

 

「天災の天使は仲間には慈悲深いようだが、こちらは優しくはないぞ!」

 

「うるさいっ! こっちは色々あって大変なんだよ、こんちくしょー!!」

 

 上空では輸送ヘリが逃走、

 その下でフリーダムとレッドガン二機が三角形の軌道を描いて交戦する。

 

 フリーダムのバラエーナが照射線を走らせ、

 ライガーテイルのSONGBIRDSと分裂ミサイルが弾幕を編み、

 ディープダウンの多彩なミサイルが更に重なる。

 

 爆炎と砂塵が空を割り、

 その中心でフリーダムは紙一重の回避を続ける。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一方のミレニアムでは、閣下はレイがレッドガン二名と交戦している状況を通信班から連絡が入る。

 

「閣下! 指令がレッドガンの部隊と交戦中です!」

「やはりレッドガンが動き出したか……」

 

 日本兵たちは621だった頃はミシガンを良き指揮官として慕っていた。

 レッドガンの流儀は日本兵たちにとって良い訓示となった。

 

「兵装1、兵装2がいるのか!」

「吉田で”パアンッ! ”……」

「お前ではない!」

「(^q^)指令ガヤバイ! ワー! ワー!」

 

 それぞれの反応を示す中、閣下は他の日本兵たちを静めさせる。

 

「慌てるな! 指令のところに増援を送るつもりだ」

「しかし、保有する戦力はこちらには……」

 

 ミレニアム副長の言う通りだった。現在617と621のACはオーバーホール中で、出撃できる機体は無かった。

 

「その点だが、何とかなる。少し癖が強いが……」

「癖が強い? まさか……」

 

 閣下が何かを告げる前に何かがレイ達がいる場所に向かっていった。

 その閃光はレイにとってない筈の胃に負担がかかる人物でもあった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 レイの操るフリーダムは二機のレッドガンを前に、息つく間もなく射線を切り続けていた。

 四脚の重ACが高威力火砲をばらまき、その背後では大型ミサイルが絶え間なく降り注ぐ。

 ──完全な “レッドガンの殺陣” だった。

 

「流石は天災の天使……そう簡単に落とされないか」

「それだけ奴の腕がいいという事だ。だが、奴とて疲れ知らずではない!」

 

「──あーもー、猫の手も借りたい状況だな、クソッタレが!」

 

 レイが悪態を吐いたその瞬間だった。

 

 横合いから閃いた赤い光が、ディープダウンの装甲を焼き裂いた。

 

「何っ!?」

「攻撃か! どこからだ!」

 

 装甲の一部が溶断して吹き飛ぶ。

 フリーダムのセンサーは、急速接近してくる青と紺の装甲色をもつACを捕捉した。

 

「アレは……スネイルのACと似ているが、少し違う?」

 

 シルエットも、機体構成も、武装も──

 似て非なる、異質な存在。

 

 右腕には、赤いコーラルレーザー砲 NB-REDSHIFT。

 左腕には重レールガン HARRIS。

 背部には電撃キャノン VE-60SNA と、推進器付きレーザーランス VE-67LLA。

 

 全身を深い青で統一し、関節部に不気味な赤光を灯す──

 

 AC6版 “ハングドマン”。

 

 その機体から、最も聞きたくなかった軽薄な声が響いた。

 

「ハハハ、見てたよルーキー!」

 

「は……? 今の声って……」

 

「なかなかやるじゃない? ちょっと時間かかったけどね!」

 

「よりによって主任かよ!? 何でこの世界にいるんだよ!?」

 

 ACVの世界で名を馳せた、あの自由すぎる男。

 そして今もまた、何故か楽しそうにコックピットへ座っている。

 

「ま、丁度いい腕かな? ゴミムシの相手にはさ!」

 

「人の話を聞け!!」

 

 返事の代わりに、NB-REDSHIFTが赤光を収束する。

 

 ──直後、濃いコーラルレーザーが放たれ、

 ディープダウンの肩部装甲をえぐり飛ばす。

 

「……誰だ貴様ァ!!」

 

 ミシガンの怒声にも、主任はまるで意に介さず旋回した。

 

 背部の VE-60SNA がチャージ音を響かせ、

 ランスユニット VE-67LLA が青白く点滅する。

 完全に “遊ぶ気” である。

 

 青いACは、踊るように崖へ向けて踏み切った。

 

 ──そして壁を蹴り、跳ね上がり、さらに蹴る。

 

 ACVでしか見られなかった “壁蹴り多段ジャンプ” が、

 AC6の戦場で再現される。

 

 グワンッ!

 

 主任のACは縦横に舞い、レッドガンの射線をかいくぐっては背後へ滑り込み、

 NB-REDSHIFTとHARRISの二重射を叩き込む。

 

 ミシガンたちも応戦するが、主任は笑いながら回避を続けた。

 

「壁を蹴っての多段ジャンプとは……ふざけた奴だが、中々にやるようだな!」

 

 ミシガンの声にわずかな驚きが混じる。

 

 だが、ナイルから無情な報告が入った。

 

「ミシガン、どうやらここまでのようだ。目標は既に逃げられた」

 

「奴らに時間を食わされたか……!」

 

 レッドガンがフリーダムとハングドマンに気を取られている間に、

 解放戦線の輸送ヘリは戦闘領域から離脱していた。

 

『フリーダム、謎の独立傭兵、こちらは戦闘領域から離脱した! 後は君たちだけだ!』

 

「ま、こんなもんかな?」

 

 主任は肩をすくめるようにACを揺らした。

 

「じゃ、ここいらでトンズラとしますか!」

 

「本当に誰だよ……主任をよこした馬鹿は……!」

 

 レイが嘆きながら離脱の態勢に入る。

 ハングドマンも軽いフットワークでそれに続いた。

 

「あ、あと君たちにプレゼント」

 

「なに!?」

 

 主任はVE-60SNAを水たまりへ向けて撃ち込む。

 着弾と同時に周囲へ雷撃が一気に広がり──

 

 レッドガンの二機がまとめて感電し、機体が硬直した。

 

「じゃあ、用がなくなったからオジサン、帰るね? ギャハハハ!」

 

「……全く、最後までふざけた奴だ……!」

 

「これは……完敗だな……」

 

 行動不能となったACの中で、ミシガンとナイルは

 フリーダムとハングドマンが去った空を見つめながら、

 静かに苦言を漏らした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

ミレニアムのブリッジに戻ったレイは、コックピットの通信ウィンドウに点滅する通知を見つけた。

 

 ――COM:新着メッセージ、二件。

 

「二件? アーシルは分かるが……まさかドルマヤンか?」

 

 背後で整備員と口論していた青いACのパイロットが、当然のように会話へ割り込んだ。

 

「へぇ、そうなんだ……で? それが何か問題?」

 

「何しれっと会話に紛れてんだよ……」

 

 溜息をつきながらメッセージを開くと、複数の通信ログが順に再生された。

 

――『フリーダムと無名の独立傭兵、改めて礼を言わせてくれ。同志救出作戦への協力、心より感謝する』

 

 アーシルの声はいつも通り静かで、だが深い感情が滲んでいた。

 

――『師父ドルマヤンは我々にとって特別な存在……。“アイビスの火”を知り、我々を教え導いた偉大なコーラルの戦士だ。だが……今のご様子は……やめておこう。師父の抱えてきた重責……察して余り有る』

 

 アーシルのメッセージに横から軽い声が飛んできた。

 

「あらら……向こうのリーダーの言いたいことを完全に間違えてるね?このレジスタンスの人……」

「その言葉……本人の前に言うなよ?それと、レジスタンスじゃなくて解放戦線な……」

「アハハハハ!そうだっけ?……まいいんじゃないのどうでも?」

「いや、よくねえよ!」

 

 レイが主任にツッコミを入れていると、メッセージの続きが再生された。

 

――『ああ……それから、私個人としても礼を言いたい。ツィイーを助けてくれて、ありがとう』

 

 短い言葉だが、その中に確かな絆と誠意があった。

 

 そして、二つ目の通信が自動で再生される。

 

 重く、老いてなお鋭い声。

 

――『フリーダム……自由の名を持つ者よ。貴様は何を知っている? 貴様がコーラルの危険性をよく知る者であることは分かった』

 

――『しかし……それだけで信用することはできん。……儂に協力を求めたいなら、まずはすべての要となる“意思持つコーラル”との“交信”を実現させろ。話はそれからだ』

 

 通信が途切れる。

 

 レイは椅子に深くもたれ、心の中で呟いた。

 

(……俺たちがその“意思を持つコーラル”なのは、エアと接触してから話そう。順番ってものがある)

 

 画面に映るメッセージ一覧を閉じ、レイは深く息を吐いた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 フリーダムの帰還報告が各部署へ流れていく中、ウォルターは静かに通信機を手に取った。

 ミレニアムの日本兵に使用許可を求め、うなずきを得ると特定の暗号回線を呼び出す。

 

 しばらくの沈黙。

 そして、くぐもった電子音の後、あの懐かしい声が返ってきた。

 

『しばらくぶりだね、ウォルター。中々元気そうじゃないか』

 

 スクリーンに映ったのは、乱雑な整備場を背景に立つ一人の女性。

 惑星ルビコン3のならず者集団“ドーザー”の一角──RaDの頭目、カーラ。

 

 その顔には、皮肉と現実主義、そしてわずかな懐かしさが混じっていた。

 

『新しい強化人間を連れているようだが……617達はどうした?』

 

「仕事をしたさ。おかげでルビコンまでこぎつけた。それと……617だけは無事だった」

 

 ウォルターの声は低く、しかしどこか安堵があった。

 

『そうかい……新入りの様子は?』

 

 カーラが言う“新入り”とは、621のこと。

 

「比較的に安定しているようだ。ただ……ひとつ気になる接触があった」

 

 ウォルターの声色が微かに険しくなる。

 

『調べものだね。聞こうか』

 

「“ケイト”という名の独立傭兵を洗ってほしい。奴は封鎖機構を利用して621に嗾(けしか)けた」

 

 カーラは目を細めた。

 

『ケイト、ね……了解した。怪しい臭いしかしない名だこと。で──617は今どうしてる?』

 

「俺の元を離れ、新しい飼い主に拾われて、そこで“人”として過ごしている……」

 

『例の日本帝国っていう、ルビコン1にできた国家のことだね』

 

「ああ、そうだ……」

 

 ウォルターは少しだけ視線を落とした。

 それは、621たちを人として扱う新しい環境への、複雑な感情だったのかもしれない。

 

 カーラはそんな彼を見ながら、ふっと口元を緩めた。

 

『……あんたも変わったね、ウォルター』

 

 通信はそこで一旦、静寂へ戻った。

 

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