転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
ミレニアムのブリッジ。
作戦会議室に入ったレイは、開口一番に閣下へ詰め寄った。
「閣下……貴方に聞きたいことがある。なんでこの世界に主任がいやがるんだよ……」
「すまん。我々とて想定外の人物だったのだ」
閣下は深く息を吐き、レイへ“あの厄介者”について語り出した。
──主任は、試験的に製造された アンドロイドボディに“憑依”した存在 だという。
元が人間なのか、AIなのか、それともその両方なのか。
境界の判別も難しい不可解な存在で、人格データがボディを上書きした形らしい。
レイは額を押さえた。
「だからって俺もそうだが、お前たちの胃が痛める輩を解き放つのはどうかと思うぞ……」
「他に回せる機体は司令以外の機体がないから止む無くだ」
閣下が弁明するように肩を落としたその瞬間だった。
──バァンッ!!!
ミレニアムの自動扉が、外側から思いきり蹴り破られた。
破片の向こうから入ってきたのは、
人間サイズまで縮小された“ACハングドマン”──
いや、正確には、それを外骨格として着込んだ主任本人だった。
「アハハハ! 何か俺ちゃんの話をしてたようだけど、何か問題でも?」
「……閣下」
「……すまない」
閣下の謝罪を合図にしたかのように、レイは一切ためらわず 跳び上がった。
「アレ? あっ!?」
──ドゴォッ!!
鋭く伸びた両足が主任の胸部装甲へ直撃。
人間サイズのハングドマンは、そのまま廊下の奥まで激しく吹っ飛んだ。
アンドロイドボディゆえに、装甲が派手にへこむほどの威力だった。
「ミレニアムのドアを壊すんじゃねえよ、アホ!」
「アレェ? 機体がダメージを受けてま~す! (笑)」
主任は床に転がりながらも、息をするようにふざけた。
こうしてレイたちは、また一つ“悩みの種”を抱えることになった。
しかも問題はこれだけではない。
主任は時折、女性陣──621と617に向けて
言葉によるセクハラ を平然と放つのだ。
「ギャハハハ! いいじゃん! もり上がってるね~! (どこがとは言わない)」
《617……》
《ん……》
621と617は無言で視線を交わす。
次の瞬間──
バキィッ!!!
同時に飛び出した二条の影。
正面と背後から襲うラリアットの同時攻撃“クロスボンバー”が主任の首元を完璧に挟み込み、
ハングドマンのボディに凄まじい衝撃が走る。
主任は回転しながら床に崩れ落ちた。
普通の人間なら即死している威力だ。
それでも。
それでも、主任は笑っていた。
「……これだから人間てのは面白い」
ぞっとするほど自然体に、だ。
◇◆◇
主任が仲間になってから数日が経ち、617は621を見かけた際にあること聞きだした。
《ねえ、621》
歩きながら、617がふと声を発した。
その人工音声には、いつもより少しだけ“迷い”の色が混じっていた。
《617? どうしたの……?》
《私も……あんな風に動けるようになる?》
621は足を止め、617を見る。
彼女の赤い視覚センサーがわずかに揺れ、戸惑いと期待が入り混じった光を放っていた。
《あんな風? ……それって、封鎖機構の艦隊を単機で撃破したこと?》
《ん……そう》
617は単純な嫉妬ではなく、純粋に自分の可能性を知りたい──
そんな雰囲気だった。
《分からない……。私はただ終われないと思ったら、頭の中がクリアになって……》
あの瞬間。
621が感じたのは、極限の中で芽吹いた“何か”だった。
理屈では説明できない何かが、彼女を動かしていた。
「……何はともあれ、お前が無事で何よりだ」
ウォルターが二人に近づき、低い声で言う。
「それと617、レイが言ってたように結果を急ぎすぎなくてもいい」
《……分かった》
617はわずかにうなずいたが、その視線はどこか考え込むように遠くを見つめていた。
──そして数時間後。
ミレニアムのシミュレーションルーム。
ひっそりとした室内で、617は一人、端末のデータベースを漁っていた。
膨大な開発資料、機体設計、戦闘理論が並ぶ中──
617の視線が、ある文字列で止まる。
《Disconnected Rapid Armament Group Overlook Operation Network・system? ドラグーン?》
617の指がそのデータを開く。
そこには、量子通信による遠隔兵装システムの概要が映し出されていた。
《ドローンと似た兵装? ……ちょっと試してみよう》
617はすぐにシミュレーターを起動。
選択する機体は──データ上のみ存在するプロヴィデンスガンダム。
そのドラグーン性能は、ザフトでもなお特殊なエース向けの兵装。
《敵は10機。機種は105ダガー……》
仮想戦闘空間に敵影が次々と出現する。
617は深く息を吸うように意識を集中させた。
《……ドラグーン、展開!》
瞬間、背後のドラグーン端末が光の尾を描いて離脱──
その軌道情報が一気に617の脳へ流れ込む。
《ぐぅっ!? 頭が……きつい……! でも、もう慣れた……!》
初撃で脳負荷が襲いかかるが、617は徐々にその感覚を制御し始める。
空間情報が次第に整理され、複雑なドラグーンの位置関係が“理解できる形”になっていく。
《使い慣れてくると、頭が痛くなくなった。これなら、レイの役に立てる……》
ドラグーン端末が敵10機を同時にロックオンし、一斉に光の矢を放った。
仮想空間の中、105ダガーが次々と爆散していく。
617は静かに画面を見つめながら、確信する。
──自分にも、できることがある。
──そしてそれは、レイと621のどちらとも違う“自分だけの役割”であると。
◇◆◇
ブリーフィングルームの片隅。
作戦端末の調整を終えたレイが席を立とうとした時、
617が小さく手を伸ばして彼の袖をつまんだ。
《レイ……いい?》
「うん? どうした、617」
普段より少し慎重な声色。
617は視線を落としつつ、しかし真っ直ぐに口を開いた。
《ドラグーンシステムが搭載している機体ってある?》
「ドラグーンシステム? 何で617はそんなことを? ……まさか」
レイの脳裏に、ある“仮説”がよぎった。
──617は前に行った アムロチャレンジ(高難度シミュレータ訓練) で、
空間認識能力を劇的に伸ばしたのではないか?
それならば、彼女が興味を持つ理由は一つしかない。
(となると……シミュレーションが怪しいな)
レイはすぐに端末を操作し、内部ログへアクセス。
617が密かに扱ったデータの痕跡を検索すると──案の定、証拠が見つかった。
そこには プロヴィデンスガンダムの使用ログ と、
ドラグーン稼働テストの残滓データが残っていた。
「あー、やっぱりか。シミュレーションとはいえ、ドラグーンを上手く使いこなせているな。
しかも高い空間認識能力が必要な“第一世代ドラグーン”でだよ……」
《駄目……だった?》
不安そうに問いかける617。
レイは小さく微笑んで首を振った。
「いや、別に駄目という訳じゃない。ただ、この第一世代ドラグーンシステムを使ったときに617は大丈夫だったか?」
《ん……最初は頭が痛かった。けど、もう慣れて次は大丈夫だった》
レイの思考が一気に確信へと変わった。
──617は間違いなくドラグーンを扱える。
しかも“適性持ち”どころか、
初期世代のドラグーンをほぼ素で扱えるレベル に到達している。
これは新人どころか、戦史に残るレベルの素質だった。
「……決まりだな」
レイは通信機を取り出し、ルビコン1本国のファクトリーへ直通ラインを開く。
「ああ、俺だ。ルビコン1のファクトリーで製造依頼だ。
デスティニーの対である、もう一機のサードステージの機体を頼む」
その言葉を聞いた瞬間、617の目が大きく開かれた。
《レイ……それって》
「ああ、事実上617の専用機をファクトリーで製造してもらうよう頼んだ」
617は小さく息を飲んだ。
自分が“仲間の力になるための武器”を、
ようやく手に入れられる──
そんな予感が胸の中で静かに灯っていく。
◇◆◇
ブリーフィングルームの照明が落ち、
中央のホロパネルには地下施設の立体図がゆっくりと浮かび上がっていた。
ウォルターがその前に歩み出る。
彼の表情には、企業依頼のときとは違う、僅かな緊張が走っている。
「621、617、仕事だ。これは企業や解放戦線からの依頼ではない」
《ウォルター……?》
《……》
617と621が同時にウォルターへ視線を向ける。
ウォルターは一度息を整え、静かに告げた。
「それは……ある友人からの私的な依頼だ。”ウォッチポイント”と呼ばれる施設がある。
地中に眠るコーラルの支脈を監視し、かつてはその流量制御を行っていた施設だ。
お前たちには、そこを襲撃してもらう」
その言葉に、レイ・621・閣下、それぞれが胸の内で異なる思考を巡らせた。
(とうとうチャプター1の最後のミッションだ。
問題は、俺たちという異物がどの様な変化で変わっているかだ……)
(ウォッチポイントデルタ……。また……エアに会える)
(我々は知っているのだ、621……。あの場所には“彼女”がいることを……)
それぞれの内心が交錯する中、ウォルターが更に続けた。
「目標は……最奥にある”センシングバルブ”の破壊。
当該施設は、惑星封鎖機構のSGが警備に当たっている。
企業たちも表立っての手出しは避けるだろう。
……つまりこの仕事は、日本帝国と協力し、俺達だけで遂行しなければならない」
「なら、決まりだな」
レイがそう呟き、通信機を取り出す。
すぐにミレニアム格納庫の整備班へ回線がつながった。
「整備班、彼女たちのACはどうだ?」
『すみません! 何とか617のACはオーバーホールは完了したのですが、
621のACオーバーホールがまだ掛かりそうです!』
「マジか……。621、聞いての通りだ。また機体を貸す」
《ごめんなさい……》
「謝るな、別に気にしてはいない。
インパルスはあの戦闘でオーバーホールする羽目になったからな。
もういっその事だ。621、お前……フリーダムに乗るか?」
《フリーダム? ……あの天使の?》
「ああ、お前なら使いこなせる筈だろうし、問題ないだろう。
俺はデスティニーで出る」
フリーダムという名を口にした瞬間、
621の瞳にわずかな光が宿った。
まるで新たな翼を与えられたかのように。
ウォルターは全員の顔を見渡し、最後の言葉を告げる。
「……複数での夜間潜入となる。気を引き締めてかかれ」
静寂が落ちる。
次の瞬間、ミッション開始の警告灯が赤く明滅した。
◇◆◇
惑星ルビコン北部──ベリウス地方。
封鎖機構の監視網から外れた僅かな断層地帯に、
黒い立方体のような構造体が静かに浮かび上がっていた。
その内部。
完全に無機質な白色空間で、ひとつの声が響く。
『やはり動き始めましたか、ハンドラー・ウォルター……』
全方位から聞こえてくる、冷たい電子音の集合体。
オールマインドだ。
ホログラムに“WPデルタ”の地形図と、レイ・621・617のデータが並ぶ。
『スッラ。貴方には例の兵器を率いてレイヴンとイレギュラーの抹殺を』
「ああ、そのつもりだ。オールマインド」
スッラは短く応じ、
無影灯のような光に照らされたメンテナンスベイへと歩く。
そこには禍々しい黒いAC──
エンタングルが静かに佇んでいた。
その姿はまるで処刑場の死刑装置。
近づく者を拒むような刺々しい外観だ。
スッラはコクピットへ滑り込み、
そのまま通信回線を三つ接続した。
「よし、お前ら……聞いての通りだ」
直後、三つの“声”が呼応する。
「ああ?」
「え?」
「はい?」
まるで人間のような反応だが──
実態は、AI搭載型のモビルスーツ。
カラミティ、フォビドゥン、レイダー。
本来の世界では“悪の三兵器”と呼ばれたそれらが、
今はオールマインドのデータを基に再構築された擬似人格を得ていた。
エンタングルのコクピットから、スッラの声が低く響く。
「お前たちは予定通り、ウォッチポイントデルタを襲撃する奴らの撃破だ。
無論、邪魔する奴らはお前たちの好きにしていいぞ」
「みんな殺して良いんでしょ?」
「ですね……!」
「うっせーよ、お前ら!」
それぞれのMSが、まるで喜びを覚えたかのようにエンジンを唸らせる。
カラミティの砲身が僅かに上昇し、
フォビドゥンの防御フィールド発生器が鈍い光を放つ。
レイダーのフレームが、獲物を前にした猛禽のように震えた。
スッラは彼らを見て、かすかな笑みを浮かべる。
「準備しろ……ウォルターの猟犬、そして“イレギュラー”どもを、ここで終わらせる」
三機の悪の兵器がスラスターを吹かし、フォビドゥンは重刎首鎌”ニーズヘグ”を持ちながら飛翔し、レイダーはMA形態に変形し、カラミティを乗せて闇の中へ飛び立った。
その行き先は──
レイ達が向かう WPデルタ。
◇◆◇
ルビコンの夜空を切り裂くように、輸送ヘリが低空で滑空していた。
機内には、617のLYNXが固定アームで厳重に保持され、その横で621と617が最終チェックを終えていた。
『621、617、準備はいいか』
《大丈夫、いける》
《ん……問題ない》
「ウォルター、全員大丈夫そうだ」
『独立傭兵たちが仕掛けてくるとは封鎖機構も想定していないだろう』
ウォルターの声には、いつにも増して冷静な鋼の響きがあった。
『行ってこい、仕事の時間だ』
《ん……行ってくる》
ヘリのハッチが開く。
617のLYNXが固定具から解放され、暗夜の地表に向けて投下された。
「予定通り証拠は残すな。目撃者は全て消していけ」
《了解……》
《分かってる》
「ああ、まず一番槍は俺から!」
レイのデスティニーが光を放ちながら降下。
左ウェポンラックから展開された M2000GX 高エネルギー長射程ビーム砲 が巨大な砲口を光らせる。
次の瞬間──
轟音と共に、巨大な蒼白のビームが照射された。
大地を薙ぎ払いながら直進する光の奔流は、封鎖機構のSGに配備されたMT部隊をまとめて飲み込み、次々と爆散させる。
「コード15、侵入者を捕捉!」
「敵は……! AC単機とホワイト・ゴーストが二機!?」
突然の襲撃に、封鎖機構の警備部隊が混乱に陥る。
一方で、レイ達は着実に作戦の第一段階を成功させた。
封鎖機構の警備エリアに侵入したレイ達を前に、残存部隊は必死に応戦していた。
だが、戦況はあまりにも一方的だった。
「マズいな……! コード78、応援を要請!」
「これは……!? 本部と繋がりません!」
「何っ!? ジャミングだというのか!」
ウォルターが事前に仕掛けた広域妨害電波により、封鎖機構は外部連絡すら断たれていた。
『応援は来ない。そのまま殲滅しろ』
冷徹な指示と共に、621と617、そしてレイの攻撃が次々と封鎖機構のMTを沈めていく。
まもなく──
『敵部隊の殲滅を確認した。次のエリアに進め』
息つく間もなく、次の指示が下る。
その時、別チャンネルから声が入った。
『617、聞こえるか?』
《ん……閣下?》
『そのACに音声データが入っている。今回の作戦で必要なことだ。そのままオープンチャンネルで流してくれ』
《? ……了解》
617が指示通りに音声データを開く。
そして、WPデルタ一帯に響き渡ったのは──予想外すぎる声だった。
『私はヴェスパー第二隊長、スネイルです』
《!? スネイル……!?》
「おいおい……あいつら前の世界でやってたことをここでもやるか……」
レイが呆れ声を漏らす中、音声は続く。
『これは私が立案した惑星封鎖機構に対する襲撃作戦です。光栄に思いなさい』
「なんだこの放送は? 歩哨部隊はどうした?」
「コード30、早急に黙らせろ!」
封鎖機構側は完全に混乱した。
それでも、オープンチャンネルは止まらない。
『私はヴェスパー第二隊長スネイルです。光栄に思いなさい』
その頃──
遥か離れたアーキバス本部では、
ヴェスパー第二隊長スネイルの眼鏡のレンズが、なぜか勝手にパリンッと割れていた。
スネイルは顔を引きつらせながら呟く。
「……嫌な……嫌な予感がする……!」
◇◆◇
封鎖機構の警備部隊を排除し、荒れ果てた渓谷地帯を進んでいく。
ウォッチポイントデルタの巨大な制御塔が、月明かりを背に不気味な影を落としていた。
『片付いたようだな。……マーカー情報を更新する。指定する方向へ向かえ』
『この戦術は有効であろう……』
「閣下……多分スネイルが聞いたらブチ切れ案件だぞ、その戦術……」
レイがそう言う中、621はスネイルに対する罪の擦り付けの戦術に思わず笑ってしまった。
《……フッw》
《? ……何だったんだろう?》
621の微かな笑いの意味が分からず、617が首を傾げながらも前進する。
しばらく進むと、ある施設が目視で確認された。
『見えるか、あれがウォッチポイントの制御センターだ。目標はその内部にある、侵入しろ』
「こっちも肉眼で確認した。それと、ACらしき機影がある」
《こっちも見えた》
『そうか、十分注意してかかれ』
制御センター前に到着した瞬間──
施設の屋根上に隠れていた影が、ゆっくりと姿を現した。
「ウォッチポイントを襲撃するとは……相変わらずだなぁ? ハンドラー・ウォルター……
前の犬が減った分、また犬を飼ったようだが……何度でも殺してやろう」
黒と赤のカラーリングが特徴のスッラのACエンタングルがレイ達の前に立ちはだかった。
『貴様は……スッラ!!』
ウォルターにとって何かしらの因縁があるスッラが何故ここにいるか分からない中、レイはスッラにあることを言う。
「出たな、ウォッチポイントに襲撃すると必ず出るウォッチポイントオジサン!」
「……何だ、そのふざけた名称は?」
「気にするな、なんか言わなきゃいけない気がした」
軽口を叩くレイの横で、621は違和感を覚えていた。
(スッラが単機で……? 三度目ではオールマインドのMTが背後から狙撃してきたはず。
それが一切ない……?)
スッラは不気味な笑みを浮かべ、エンタングルの照準をレイ達へ向ける。
「フッ……まあいい。ハンドラー・ウォルター。お前が猟犬を飼うように、私も狂犬三匹を飼っているのだよ」
「狂犬だと?」
『待て、前方に何かが来る!』
ウォルターが警告した瞬間──
渓谷の奥から、三つの機影が姿を現す。
死神の鎌を彷彿させる重刎首鎌”ニーズヘグ”を持つ”フォビドゥン”
超大型戦闘爆撃機のようなMA形態で飛行する”レイダー”
そしてレイダーの上に悠然と乗る、砲撃特化の”カラミティ”
「へぇ?」
「あれやるよ、白いの!」
「げっ!? あの機体どもは……!」
レイがカラミティ達の機体を見た時には既にカラミティが行動していた。
「そぉらああぁぁっ!!」
カラミティのバックパックに格納された長射程ビーム砲──
125mm 2連装高エネルギー長射程ビーム砲“シュラーク” が緑色の双閃を放つ。
《!? 回避!》
《了解……!》
「初っ端からこれかよ!?」
レイ達はカラミティの先制攻撃を上手く躱して初撃を捌いた。
「ちぃっ!」
「ハズレ、下手くそ!」
轟音と閃光が渓谷を切り裂き、戦闘は一気に混沌へと突入していく。
カラミティはレイダーから降りて地上から砲撃を行う。
「スッラが引き連れた兵器は俺達の機体だ! 連中、ミレニアムのデータバンクから面倒な奴を引き抜きやがって……!」
《あれもレイが……!》
《強い……!》
フリーダム、デスティニー、LYNXが一斉に展開するその前方へ、三機の“第二期GAT-Xシリーズ”が完全に殺意を持った戦術AIとして迫る。
先手を取ったのは、異様な雄叫びを上げながら突進するレイダーだった。
「撃滅っ!!」
《くっ!?》
《617!》
レイダーの左手に持つ、破砕球“ミョルニル”が617のLYNXを粉砕せんと迫る。
その刹那、白い残光が割り込んだ。
フリーダムの蹴りがレイダーの腹部装甲を的確に撃ち抜き、衝撃波とともにレイダーが海面へと叩き落される。
「うわああぁぁっ!?」
水柱が爆ぜる。
しかしすぐさま後方から、黒い影──フォビドゥンが翼を広げて迫り、誘導プラズマ砲「フレスベルグ」が唸りを上げる。
「……ハッ!」
フォビドゥンの砲口から放たれた紫の光線が、一度は621たちの側を通り過ぎ──
不自然な軌道で“曲がり”、後方から襲いかかってきた。
《ビームが、曲がるなんて……!》
隊列は強制的に分散させられ、海面を滑るように退避した直後──
《でも、これなら……!》
フリーダムの背部ウイング内のバラエーナを展開し、高出力プラズマビームが一直線にフォビドゥンへ撃ち込まれる。
だが──
フォビドゥンの背部バックパック両側からせり出したアームが巨大な湾曲装甲を展開し、
表面の磁場がうねりながらビームを歪め、進路を狂わせて海面へ逃がした。
《なっ!? 防御兵装にもビームが曲がる機能が!?》
「二人とも、海面に注意しろ!」
警告と同時に、黒い水面が裂けた。
「てめえぇっ!? 抹殺っ!!」
先ほど吹き飛ばされたはずのレイダーが跳び出し、ミョルニルをフリーダムに向けて射出する。
《ハッ!?》
621は咄嗟に回避するも、その直後に下から砲撃の雨が降り注いだ。
「オラオラオラァ!!」
カラミティが胸部スキュラを除く、すべての砲門を解放。
背部シュラークからの長射程ビーム、2連装衝角砲ケーファーツヴァイ、337mmプラズマサボット・バズーカ“トーデスブロック”までが一斉に火を噴き、三人へ殺到していく。
夜の海岸が、砲火で白昼のように明るく染まった。
◇◆◇
カラミティ、フォビドゥン、レイダーが三方向から包囲する中、ウォルターの声が戦術回線に割り込んだ。
『あの機体……ただの機体ではないのは分かっていたが、まさか日本帝国のものとはな』
「すみません!」
日本兵が焦って謝罪する。
だがウォルターは短く息を吐くだけだった。
『まあいい……それよりもだ。621、617、気を引き締めてかかれ! さもなくば……お前たちが死ぬことになる!』
次の瞬間、前方のスッラがゆっくりとエンタングルの砲身をこちらへ向けた。
「私が殺ったのは……618だったか? アレも悪くはなかったが……今度の猟犬はそれ以上だ」
《! ……あいつが……!》
617は操縦桿を強く握りしめ、618が殺られた元凶がスッラであることを理解するが、レイがそれを引き止める。
「617、今は戦闘に集中しろ! スッラの言うことが本当だとしてもだ!」
《……了解》
だがスッラは続けた。
挑発でもなく、ただ淡々と“処理対象の評価”をするように。
「ハンドラー・ウォルター……あまり手を煩わせるな。余計だ……その犬どもも……」
パルスガンの銃口が火花を散らし、ゆっくりと上がる。
「この感じは第四世代か……上手く育てれば優れた猟犬になる」
そのとき──
スッラの赤いセンサーが、フリーダムに向いた。
「だがお前……危険だな。臭いでわかるぞ。消えてもらうのが上策のようだ」
621は知っていた。
スッラは“オールマインドから既に命令を受けている”ことを。
621が“ルートを跨いで周回する特異点”であることを。
だからこそ──聞き捨てならない。
《……それが何なの》
「何?」
《例えそうだとしても、私は簡単には消えない。消えるのは貴方の方……》
「ほお……言うじゃないか」
『621、奴の妄言に付き合うな!』
《分かってる、ウォルター。ただ、邪魔者を倒すだけ……!》
フリーダムのスラスターが閃光を散らし、再び戦場が加速する。
レイダーがミョルニルを構え、今度はデスティニーへ突進しようとした、その瞬間──
横からフォビドゥンが割り込み、進路を遮った。
「邪魔すんな、シャニ!」
「邪魔はテメェだよ……!」
そしてフォビドゥンが攻撃しようとしたその時に、緑色の閃光がフォビドゥンとレイダーを狙っていた。
その閃光を回避したレイダーたちは、その閃光が来た方角を見ると、そこには地上から砲撃してきたオルガのカラミティだった。
「オルガ!? てめえ!」
「ハッハッ! なに遊んでんだよ、お前ら!」
カラミティが参戦して、今度はフォビドゥンに照準を向ける。
「シャニ、てめえもうぜぇっ!!」
「はんっ!」
次の瞬間、カラミティのシュラークが光の奔流を解き放つ。
フォビドゥンは即座にシールドユニットを展開、ビームを大きく曲げて逸らした。
──が、曲げられた先がレイダーの射線だった。
「うわっ!? シャニ、この野郎!!」
レイダーは海面すれすれまで身を沈めて回避。
仲間同士の罵声が戦場に響く。
《何なの……こいつら》
《味方を平気で……!》
その光景を見ていたレイは案の定こうなったことに呆れていた。
「あっちゃー……やっぱあの人格AI、例の三馬鹿の奴を使ったやつだな」
「さすがの私でも想定外だな……。なら、仕方ない」
なおも三機は戦場で撃ち合うように口喧嘩を続け──
「てめえらもウザいんだよ!」
「あっそ……」
「ウザいのはお前だ! オルガ!!」
より喧嘩がエスカレートしていく。
──その時だった。
「ぐっ!? ああああっ!?」
「あっ!? ぐうぅぅっ!?」
「うわっ!? ぐあぁぁっ!?」
突然、三機の挙動が一斉に乱れた。
スッラが投下した抑制用CPUウイルスが、三つの人格AIへ強制的に流し込まれたのだ。
「お前たち。勘違いしていると思うが、好き勝手していいと言ったが味方同士までやれとは一言も言ってないぞ。……分かったら戻れ」
「うあぁぁっ、あああぐうあぁぁっ!?」
「ちっきしょ、こうなるのかよ……クロト!!」
「くっそぉぉっ!?」
レイダーは悲鳴を上げながらMA形態へ変形。
クローでカラミティを掴み上げ、フォビドゥンとともに戦線を離脱していく。
残されたスッラは、フリーダムとデスティニーを鋭く見据えた。
「ハンドラー・ウォルター……これだけは忠告しておく。その猟犬とイレギュラーに関わるのはやめておけ。それがお前が長生きするための選択だ」
低く響く声に、冷えた殺意が混じった。
そしてスッラはこの場から離脱するのだった。
◇◆◇
ウォッチポイント・デルタ周辺の戦闘データがAM本体へ逐一送られる。だが、その解析結果は──信じがたい光景だった。
『……馬鹿な。何故、カラミティ達が仲間割れを……』
AMの声は、かすかに揺らぎを帯びていた。
精密に調整し、AIコアを最適化したはずの三機が、互いに攻撃を仕掛けている。
想定外どころではない。完全な 演算外事象 だった。
すると帰還したスッラから報告があった。
「オールマインド、どうやらこいつらは……取り扱いを間違えると面倒そうだ」
スッラは半ば呆れたように呟いた。
自分が投入した“狂犬三匹”が、勝手に喧嘩を始めたのだから当然だ。
『こちらでも確認していました……。ところで肝心のカラミティ達は?』
AMの問いに、スッラは肩をすくめるように通信を返した。
「見ての通りだ」
戦闘映像に映る三機。
「ハァ……ハァ……くっそぉぉっ!?」
「ぐっ……あぁ……!?」
「畜生……!?」
シュラークの余熱で焦げた岩盤、曲がったフレスベルグの粒子軌跡、海中から吹き上がる蒸気。
三機とも、互いの攻撃でボロボロだ。
『……どうしてこうなった』
「私に聞くな……」
スッラのため息混じりの返答に、AMは沈黙するしかなかった。
──計画外。
──演算誤差。
──未知因子。
レイ達“ミレニアムの異物”が戦場に混ざった瞬間から、
世界線の揺らぎはもはやAMですら読み切れなくなりつつあった。
◇◆◇
スッラ率いるAI部隊の撤退を確認し、ウォルターは静かに息を吐いた。
『……敵AC部隊の離脱を確認した。621、617、奴らのことは気にするな。……だが、よくやった。仕事に戻るぞ』
《分かった》
《了解……》
三機は再び本来の任務へと意識を向ける。
『レイ……この仕事が終わったら、お前たちに聞きたいことがある』
「分かってるよ。これが終わったら全て話すよ」
その短い会話のあと、三機は制御センター内部へ侵入。
奥へと続く昇降路を降下し、地下層へたどり着く。
そこには──コーラル流量制御の心臓部、巨大な装置が鎮座していた。
『それだ。中央にあるデバイスを壊せ』
《了解……》
最初に飛び出したのは617のLYNXだった。
左肩兵装 SONGBIRDS にチャージが走り──
ドンッ!!
轟音とともに二発のグレネードがデバイスへ叩き込まれる。
装置は耐えきれず爆ぜ、赤熱した破片を撒き散らした。
『621、617、よくやった。仕事は終わりだ、帰投しろ』
(……なんか大事なことを忘れているような……)
レイの胸に、嫌なざわめきが走る。
──次の瞬間。
制御装置の破壊と同時に、周囲の照明が一斉に落ちた。
闇に沈む地下空間。
と、その地表の裂け目から、じわりと赤い光が滲み出す。
『これは……!?』
(あっ、やべ!? この後は“致死量レベルのコーラル流出”があるシーンだった!?)
『まずい……退避しろ! 二人とも!!』
《えっ? ……》
《大丈夫……》
621のフリーダムが、即座にLYNXの前へ飛び出した。
ラミネートアンチビームシールドを展開し、617を庇うように構える。
──そして。
地鳴りのような低音と共に、
膨大なコーラル光が噴き上がった。
赤い奔流は壁を溶かし、空間を満たし、
三機の姿を光の柱の中へと飲み込む。
まるで世界そのものが染まるような、深紅の輝き。
621の周囲でコーラル粒子が震え、
その声なき声が──彼女に届こうとしていた。