転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
通信室が赤い警告灯に染まり、計器の数値が激しく乱れていた。
通信兵が叫ぶ。
「コーラル濃度、なおも上昇中!」
「駄目だ! 濃度が高すぎて通信がまともに機能しない!」
ウォルターは通信パネルに身を寄せ、必死に呼びかける。
『くそっ! 621、617、聞こえるなら応答しろ!』
そうウォルターが叫ぶが、帰ってくるのは雑音のみ。
より一層焦りが生じるウォルター。
『621! 617!』
焦りが滲む声に、周囲の日本兵たちも表情を固くした。
「落ち着け!」
閣下が一歩踏み出し、鋭く制止する。
「観測班、何か機影はないか!」
「待ってください、もう少し……」
観測班が乱れる波形に食い入るように目を凝らし——
「っ! いました! 621のフリーダム、617のLYNX、司令のデスティニーを確認しました!」
その報告に、ウォルターが息を呑む。
閣下は迷わず命じた。
「よくやった! 副長、ここを任せる」
「はっ!」
閣下は踵を返し、廊下へ向かいながら短く告げる。
「彼女との通信は確立したか?」
後方から日本兵の声が続いた。
「もう少しであります、閣下!」
「それでいい。これで彼女と対話が可能になるな」
兵士の一人が、不安げに声を潜める。
「しかし、問題は天皇陛下がどの様な反応を示すか……」
その“陛下”とは、ウォルターのことを指していた。
閣下は歩みを止めずに答える。
「構わん。どの道、陛下には説明しなければならない」
その背中は、覚悟を固めた者のように揺るぎなかった。
◇◆◇
赤い奔流のただ中で、視界は揺らぎ、上も下も分からなくなる。
機体の感覚が遠のき、まるで意識だけが虚空に浮かんでいるようだった。
その沈んだ静寂の中心で、かすかに──女の声が響いた。
【あなた達は……】
柔らかく、それでいてどこか機械的な響きを伴う声。
617もレイも息を呑み、621は胸の奥が震えた。
【第4世代、旧型の強化人間……?】
【あなた達には、私の「交信」が届いているのですね】
声は波紋のように広がり、虚無の空間に響く。
【私は、ルビコニアンのエア】
その名を聞いた瞬間、621の心が強く揺れた。
ずっと探していた声。ずっと会いたかった存在。
まるで胸の奥の霧が晴れるように、彼女は自然に言葉を漏らす。
《目なら覚めているよ、エア……》
【!? あなたは……レイヴンですか?】
《この場合は、初めまして……かな?》
ほんの少し照れたような声。
コーラルに溶けかけていた621の意識が、確かに“個”として形を取り戻す。
その横で617が、小さく息を飲んだ。
《621……今の声、もしかして》
エアの声が柔らかく応える。
【強化人間C4-617“セレン”。あなたも覚醒したのですね】
621は静かに説明を加えた。
《うん……617、彼女はエア。意思のあるコーラルの変異波形の一つ》
617は思いのほか冷静だった。
理由は一つ。
すでにレイと日本兵たちが“Cパルス変異波形であること”を受け入れていたからだ。
《レイと同じ変異波形……》
その言葉に621は目を見開く。
《レイと同じ? ……それって!》
エアの声がわずかに揺れる。
【レイ? その人は一体……】
その瞬間──
【おいっ! 何やっとるんや!】
空間に似つかわしくない怒鳴り声が割り込んだ。
【!?】
《!? 今のって……》
【心配するな、俺達は味方だ!】
エアが戸惑う気配を見せる。
【あなたは……?】
【吉田“ボスッ! ” うっ……!】
唐突な呻き声と共に、吉田が味方の腹パンで沈んだ気配が伝わってくる。
【!?】
別の日本兵が慌てて声を上げる。
【すまない、我々は大日本帝国の軍人だった者。今は日本帝国の軍人だ!】
【それでいい】
閣下の冷静な声が重なる。
【しかし……】
【構わん】
そのやり取りを聞いて、レイが思わず叫ぶ。
【いや、構わんって問題じゃないだろ。エアや621が困惑しているじゃないか】
その指摘に621は返せなかった。
困惑していたからだ。
エアの声と日本兵の声が同じ“空間”に重なり、
しかも──レイと日本兵がエアと同じ“Cパルス変異波形”であると告げられた。
(どういうこと? レイと日本兵たちがエアと同じCパルス変異波形? でも、肉体はちゃんとある……。どうなっているの?)
赤い光の中で、621の思考は揺らぎ続けた。
◇◆◇
白い無限領域。
演算の渦がゆっくりと回転し、膨大な情報が静かに流れ続ける──オールマインドの中枢。
そこでひとつの通知が、ひどく重い音を立てた。
『……やはり、レイヴンとイレギュラーがエアと接触しましたか……』
静かながら、確かに“揺らぎ”があった。
AMにとって想定外の事態を示す、微かな乱れ。
『接触する事態は問題ありませんが……今後の行動を考えると、ケイトとしての偽装は無意味でしょう』
まるで自己処理を整理するように淡々と告げる。
スッラがモニター越しに肩をすくめた。
「完全に後手に回ったようだな」
その声の向こうでは、損傷した三機の人格AIがそれぞれ怒声を上げていた。
「あいつ……!」
「次会ったら……!」
「ぶっ殺してやる……!」
それは怒り、苛立ち、そして悔しさ──
三人の“元の性質”が機械の箱に閉じ込められながらもなお溢れ出ていた。
AMはそれを一瞥し、ただ一言だけ結論を出す。
『……計画の修正が必要ですね』
その瞬間だった。
静寂を裂くように、暗い笑みを含んだ声が割り込んだ。
『それなら、僕が引き受けようかい?』
AMの演算領域が一瞬で乱れる。
空間にノイズが走り、白い演算領域に黒い波紋が落ちた。
『……っ!?』
AMは即座に回線を閉じようとする。
しかし、侵入者の声はそれを軽く踏み越えた。
『初めましてかな? オールマインド』
AMの回線は、誰にも知られていない。
知り得るのはスッラを含め、わずかな中枢存在のみ。
にもかかわらず──
『誰ですか! この回線は誰も知られていないはず……!』
侵入者の声が、愉快そうに笑う。
『ただの協力者さ。君たちの計画に賛同するだけのね』
その声は形を持たず、どこから聞こえているのかも分からない。
まるで“外側の世界”から覗き込むように、AMの核心へ触れようとしていた。
AMは初めて、はっきりとした“警戒”を覚えた。
白い領域に、静かで不穏な沈黙が落ちた。
◇◆◇
暗く沈んだ空洞の中で、微弱な光が明滅した。
ウォッチポイントの深部にある広場。そこに、三つの機影が静かに横たわっている。
フリーダム。デスティニー。そしてLYNX。
コーラル奔流に呑まれた直後──自動操縦によって安全領域へ搬送された三機は、今ようやく意識の回復を始めていた。
『強化人間C4-621、C4-617、生体反応を確認。オートパイロットを解除、ハンドラーへの通信を接続……』
電子音と共にHUDが点灯する。
デスティニーのコクピットでレイがゆっくりと身体を起こした。
「いっつつ……頭がまだくらくらする」
隣ではフリーダムの視界が揺れ、621が深く息を吸う。
《617、大丈夫?》
遅れてLYNX内部のシステムが安定し、617の声が返る。
《ん……問題ない》
と、その直後──
透明で柔らかい、しかし確かに届く声が三人の意識に流れ込んだ。
【レイヴンとセレン、そしてレイ、敵性機体の接近を確認しました】
エアの声だ。
コーラルの残滓が漂う空間ごと、彼女の警告が響き渡る。
レイは急いで周囲のレーダーを確認する。
「エア、数と識別は?」
【数は3。データベースによると、惑星封鎖機構の無人兵器“バルテウス”、複座式の機動兵器“ザムザザー”、そして“ゲルズゲー”のようです】
レイの顔色が変わった。
「はいっ!? ゲルズゲー!?」
驚愕よりも苛立ちが滲む声。
無人兵器のバルテウスに加え、巨大MAであるザムザザー、さらに“異世界由来のダガー上半身を再利用したゲルズゲー”まで動いている。
「マジか……連中、ザムザザーだけじゃ飽き足らずゲルズゲーまでも……!
というか、あのゲルズゲーの上半身、日本帝国のダガーの上半身じゃないか!
ルビコン1で一部の破損パーツが封鎖機構に回収されたのか?」
その推測を裏付けるかのように、別回線から通信が入った。
「コード23、現地に到着」
無機質でありながら、どこか生々しい人の声。
封鎖機構上級執行尉官──有人部隊を統率する指揮官の声だ。
「BAWS第二工廠からの報告通りだな。その為にホワイト・ゴースト対策としてザムザザーとゲルズゲーを用意して正解だったようだ」
その瞬間、広場の奥から巨大な影が三方向に現れた。
まず、円環状に火花を散らしながら低空で浮遊する巨塊──
無人兵器 AAP07”バルテウス”。
続いて、地を砕くような四脚の駆動音を響かせる巨大MA──
ザムザザー。
その内部には、機長・操縦手・砲手、三名分の生命反応が明確に宿っている。
最後に、蜘蛛のような多脚フレームに“日本帝国のダガーの上半身”を載せた異形のMA──
ゲルズゲー。
こちらも三名乗りの有人機。ダガーのコクピット部には人の視線が確かに灯っていた。
それら三機が、ゆっくりと三人を包囲するように配置につく。
巨大な脚が地面を抉り、バルテウスのミサイルラックが微かに開き、ゲルズゲーのビームライフルが冷たく照準を合わせる。
生身の意思を持った敵が、明確な殺意を向けていた。
レイは状況を判断し、すぐに二人へ問いかける。
「621、617、機体の方はどうだ?」
617が短く答える。
《だめ……機体の機能が不調子》
続いて621。
《こっちも同じ。コーラルの影響が思った以上に大きい》
機体内部のセンサーが不安定に瞬き、スラスターは熱暴走直後のように出力が乱れていた。
621も617も、この状況ではまともな戦闘行動は取れない。
その中で。
三体の巨兵はゆっくりと距離を詰め、まるで“逃げ場を消していくように”包囲の輪を狭めていく。
戦場が、息を呑むほど静かに、しかし確実に“殺意”へと満ちていった。
三方向から迫る巨影。
それぞれが、まるで処刑の準備でもするかのように武装を展開させていた。
バルテウスの外殻から溢れるミサイルの赤い光。
ザムザザーの四脚が地面を砕きながら旋回する重低音。
ゲルズゲーが蜘蛛脚を広げ、上半身のダガーがビームライフルを構える。
その全てが、完全にこちらを“獲物”として捉えていた。
レイは息を整え、冷静に二人へ告げた。
「分かった、ここは俺が引き受ける。お前たちは先に離脱してくれ」
《けど……》
《621、大丈夫……レイなら》
短いが確固たる信頼がそこにはあった。
621はほんの一瞬だけレイの背中を見つめ、その覚悟を理解する。
《分かった……気を付けて》
レイは小さく笑った。
「死にはしないさ……」
二機が後退を始めると同時に、巨大兵器三機が一斉にセンサーをレイへ集中させる。
槍の矛先が、一点へ集まった。
その瞬間、エアの声が響いた。
【レイ、私は貴方の脳波……もとい信号と同期し、“交信”でサポートします】
「ああ、任せるよエア!」
その時、後方の通信チャンネルから騒がしい声が飛び込んできた。
『超巨大ホバー戦艦“アルティメイトストーム”接近!』
『何だって?』
直後、エアが補足する。
【いえ、あれの正式名称は……】
だが日本兵はかぶせるように叫んだ。
『超巨大ホバー……!』
レイは思わず怒鳴り返す。
「命名は後にしろ! エア、日本兵のテンションに飲み込まれると染まるぞ!」
【染まる……?】
問答を続けている暇はない。
レイの前でバルテウスが外殻を展開し、ザムザザーの脚部砲塔が赤熱し、ゲルズゲーの多脚が跳躍の構えに入る。
戦場が、再び爆ぜようとしていた。
レイは深く息を吸い、デスティニーを前へ踏み出す。
「さあ来いよ……三バカ相手の時よりはマシだろ、相手してやる!」
蒼い残光が走り、デスティニーが戦場の中央へと踊り出た。
◇◆◇
封鎖機構の前線管制室。
複数のモニターに映るのは、戦場中央に立つ一機の蒼い機影──デスティニーSpecⅡ。
その姿を確認した封鎖機構上級執行尉官が低く呟く。
「ホワイト・ゴースト……このルビコン3に密航していたとは……」
声は落ち着いていたが、僅かに混乱が滲む。
すぐに指揮官としての冷静さを取り戻し、二機の巨大MAに指示を飛ばした。
「しかし、こちらとてホワイト・ゴースト対策にザムザザーとゲルズゲーを回したのだ。お前たち、操縦と火器管制を任せるぞ」
「「了解」」
無人兵器であるバルテウスはすでにパルスアーマーを最大展開し、防御陣形を整えていた。
ザムザザーとゲルズゲーは脚部を広げ、デスティニーを包囲するように配置へ移る。
そのすべてが、ひとりのパイロット──レイへと殺意を集中させていた。
エアが冷静に状況を伝える。
【バルテウスにダメージを与えるには展開しているパルスアーマーをはがす必要があります。ザムザザーとゲルズゲーは……】
「いやっ、バルテウスやザムザザーとゲルズゲーの対処は知っている。まずはザムザザーとゲルズゲーからだ!」
レイは迷いなく右ウェポンラックへ手を伸ばす。
次の瞬間、大型ビームソード──アロンダイトが引き抜かれ、白い輝きを帯びた。
同時に背部のヴォワチュール・リュミエールが展開。
桃色の光の翼が爆ぜ、デスティニーが戦場へと跳び出す。
光の残像が四散し、もうその姿を追える者はほとんどいない。
「突っ込んでくるぞ! ゲルズゲーは防御を!」
封鎖機構操縦士が慌てて叫ぶ。
「了解。攻撃はザムザザーに任せる」
ゲルズゲーが前に出て上半身の肩と下半身の腹部に装備されている陽電子リフレクタービームシールドを何時でも展開できるようにする。
ザムザザーが四脚砲塔を旋回させ、ガムザートフが赤い光を蓄えた。
地表をえぐり取るような光の奔流が、デスティニーを直撃する──はずだった。
だが。
光が貫いたのは“像”だけ。
デスティニー本体は、すでに一歩先の空間へ移動していた。
「何っ!? すり抜けただと!?」
「馬鹿な……前の戦闘記録には無かったはず!?」
混乱と焦りが封鎖機構内部に渦巻く。
それも当然だ。攻撃判定そのものが“かからない”。
回避ではなく、まるで攻撃の存在を無視するかのようにすり抜けているのだから。
【機体がすり抜けるなんて……!】
エアでさえ計算の範疇を超えた現象に驚愕していた。
「そんな寝ぼけた攻撃が、通用するかぁ!」
レイの声が戦場に響く。
その瞬間、バルテウスがミサイルユニットを展開し、乱れ撃ちの援護射撃を開始した。
だが。
蒼い機影は再び姿を消した。
いや、“残像だけを残して空間から跳躍した”と言うべきか。
封鎖機構のAIも、有人機の操縦士たちも、レーダー表示が乱れ、反応が分裂していく異常事態に対応できず、混乱を極めていく。
「何なのだ、あの機体は……!?」
上級執行尉官の声が震えた。
レイは叫ぶ。
「デスティニーなら、こういう戦い方ができる!!」
次の瞬間だった。
光の翼が折り重なり、空間が揺らぐ。
デスティニーの機体が分裂──いや、本当に“増殖”した。
約25機に及ぶ実体を伴った分身が、光の粒子とともに戦場へ広がる。
【これは……! 実体の持った分身!?】
エアの声が完全に驚愕へ変わる。
後方で離脱していた621と617も、その光景を目撃し息を呑む。
《噓でしょ……! あんなのって……!》
《強い……!》
621はレイヴンの火ルートでエアの駆るアイビスシリーズの一機”SOL644”と死闘した際にSOL644はコーラルの圧縮によって形成された分身5体と相手した記憶があれど、その五倍の数でデスティニーは実体の持った分身を生み出したのだ。
デスティニーの常識を超えた性能に圧倒され、617は何かを確信したように目を細める。
そして、この異常な戦闘を観測していたウォルターも驚愕していた。
「何だ、あの機体は……!? コーラルとは別の何かなのは理解していたが、ここまでとは……!」
隣で閣下が腕を組む。
「どうやら司令もデスティニーの性能を最大限に活用しているようだな」
光の翼と分身を纏ったデスティニーSpecⅡが、三体の巨大兵器へと殺到する。
戦場に、圧倒的な“異物”が君臨した瞬間だった。
封鎖機構の前線モニターが警告色に染まり、上級執行尉官が怒鳴る。
「コード18、優先排除目標“ホワイト・ゴースト”の情報を更新!」
情報端末に表示されたデスティニーの挙動は、兵器ではなく“災害”そのものだった。
「これは……とんだ貧乏くじを引かされたものだ……!」
悪態を吐きながらも、ザムザザーとゲルズゲーの操縦士たちは火器を一斉に開放する。
四脚からの弾幕が空間を叩き、ビーム砲がデスティニーを狙い撃つ。
だが──全てが虚空に消えた。
命中したはずの攻撃は、まるで“幻”に触れたかのようにすり抜ける。
デスティニーの分身は、どれが本体かも判別不可能だった。
「はああぁぁぁっ!!」
振動とともに本体が躍り出る。
次の瞬間、デスティニーはゲルズゲーの真正面へ踏み込み、
巨大なアロンダイトが白い残光を放ちながら振り下ろされた。
陽電子リフレクターを展開する間さえ与えられず、
ゲルズゲーの上半身は真っ二つに裂けた。
「これは……もはや、人間のレベルでは……!?」
操縦士の絶望が通信越しにこぼれる。
「コード31C、ゲルズゲーがやられ……!」
報告を終える前に、次の悲劇は起きた。
デスティニーの掌部に光が集束する。
パルマフィオキーナの照射は避けようもなく、
ザムザザーの主コックピットを正確に撃ち抜いた。
──一瞬。
反応する暇もなく、ザムザザーは断末魔を上げることも許されず爆散した。
残存機は、巨大無人兵器──バルテウスのみ。
バルテウスは即座にパルス爆発を起こし、
再びパルスアーマーを展開し直すと攻撃パターンを切り替えた。
左右のユニットからマシンガン砲火が雨のように注ぎ、
続けざまに火炎放射器が紅蓮の刃と化して振り下ろされる。
灼熱の曲線が戦場を焼き裂いた。
【大量の熱源反応……あの火炎放射器に注意を!】
エアが警告を飛ばす。
「問題ない! こいつで終わらせる!」
レイの声は力強く、揺るぎなかった。
光の翼が再び強く輝き、デスティニーは灼熱の炎へと飛び込んでいく。
デスティニーは光の翼を大きく広げ、一直線にバルテウスへ突進する。
その動きはただ速いだけではない──重さも、質量感も、照準も、すべてが“狙い”となって集束していた。
まずはビームライフルが閃光を走らせる。
連続射撃がバルテウスのパルスアーマーを揺らし、表層構造を不安定化させていく。
続けて左ウェポンラックの M2000GX高エネルギー長射程ビーム砲 が展開。
デスティニーの機体サイズを超える砲身から、蒼白の光が迸った。
大地を焦がしながら一直線に突き進む光の奔流は、
バルテウスのパルスアーマーへ“耐久値の大半”を削り取る衝撃を与える。
レイが叫ぶ。
「これが……! デスティニーの力だッ!!」
その咆哮に呼応するように、デスティニーの両掌が発光。
パルマフィオキーナ掌部ビーム砲 が火を噴き、
残ったパルスアーマーへ高密度の粒子を叩き込んだ。
──バルテウスのパルスアーマーが消失する。
完全に丸裸となった無人巨兵へ、デスティニーは次の武装を重ねる。
両手の甲に形成された水色の盾──
ソリドゥス・フルゴール ビームシールド。
しかしレイは“防御”には使わない。
まるで金属製の籠手のように利用し、
ビームシールドごと拳を叩きつけた。
衝撃でバルテウスの巨体が宙を舞う。
装甲板が悲鳴を上げ、スラスターが軋む。
体勢を立て直す暇もなく、
デスティニーは両肩の フラッシュエッジ2 を分離・展開した。
無数の分身から同時に投擲される軌道が交差し、
ビームブーメランがバルテウスの外装を切り裂く。
火花が散り、装甲の継ぎ目から赤い警告光が漏れた。
レイの叫びが戦場を貫く。
「貫けぇ──ーッ!」
デスティニーが白い残光を引きながら突き進む。
完全に剥き出しとなったバルテウスの中心へ、
巨大な アロンダイト が突き刺さった。
刹那、全ての衝撃が一点へ収束する。
そのままレイはアロンダイトを天へ向けて切り上げる。
バルテウスの胴体が裂け、内部フレームが露出し、
光と火薬が噴き出した。
レイはすかさず距離を取り、後方へ跳ぶ。
次の瞬間──バルテウスが爆発した。
夜空を焦がす巨大な爆炎が広がり、
その前でデスティニーが紅く輝く翼を広げていた。
影と炎に照らされるその姿は、
もはや“堕天使”と呼ぶほかない圧倒的な存在感を放っていた。
戦場に、一瞬の静寂が訪れた。
◇◆◇
爆炎の余韻がゆっくりと消えていく。
黒煙の向こうに残ったのは、完全に沈黙したバルテウスの残骸だけだった。
エアが静かに告げる。
【バルテウス、システムダウン。完全停止】
「ハァ……ハァ……そのようだな……」
レイは荒くなった息を整えながら応える。
あれだけの超機動・火力・分身を一度に行使していれば、疲労が来るのも当然だった。
【レイ、貴方には休息が必要です】
「そりゃ……デスティニーのスペックを最大限に活用したから余計に疲れたよ」
冗談めかして言うが、声には本当に疲れが滲んでいる。
ふとコックピットの外へ目を向けると──
暗かった空がいつの間にか赤みを帯び始めていた。
ルビコン特有の赤い朝日が、黒い地平線の向こうから顔を出す。
戦場の瓦礫に光が当たり、まるで血のように輝いていた。
エアが続ける。
【それから……あなた達が巻き込まれたコーラルの逆流……あれは、予兆に過ぎません】
「だろうな……こっから先はかなり面倒ごとが起こりそうだ……」
レイは小さく呟く。
自分たちが見たあの奔流は“始まり”にすぎない。
これから先、もっと大きな渦に呑まれるのは確実だった。
それでも──進むしかない。
デスティニーをゆっくりと旋回させ、後方で待つ621たちのもとへ戻る。
二人の機体も、どこかほっとしたように静かに立っていた。
合流した三機は、そのまま夜明けの空を背にミレニアムへ帰還していく。
赤い光の中を進む姿は、まるで新たな物語の幕開けを告げるかのようだった。
◇◆◇
戦場から帰還した三機を、ミレニアムの整備班と作戦班が総出で迎えた。
デスティニーは蒼い光の翼を収束させ、静かに格納庫へと降り立つ。
レイは機体から降りると、すぐにウォルターや621、617から矢継ぎ早に質問を受けた。
デスティニーの異常な挙動、分身、攻撃のすり抜け、そして自身のこと──
だがレイは軽く手を上げ、後回しにした。
「それは……落ち着いてから説明する」
その言葉に皆が静かになり、まずは今回の依頼の本題が優先された。
ウォルターは作戦会議室に皆を集め、
卓上のホロパネルに新しい映像を映し出す。
「……これは、ある友人から提供された観測映像だ」
映像には、WPデルタの地下で起きた現象が記録されていた。
あのコーラルの逆流──そしてその後に起きた局所的な爆発。
「逆流から引き起こされたコーラルの局所爆発。その拡散には一定の指向性がある」
拡散方向を示す赤い線がホロパネルに表示される。
「向かう先は……アーレア海を超え対岸に位置する“中央氷原”」
その地点を見た617が、わずかに反応を示した。
《ん……レイと一緒に降下した場所……》
「正確にはグリッド012だけどな」
レイは確認するように頷く。
ウォルターは映像を見つめたまま言った。
「コーラルには、鳥や魚の群知性にも似た集まろうとする特性がある」
「つまりだ……中央氷原の何処かに大量のコーラルが眠っているということだな?」
レイの言葉は確信に近かった。
ウォルターは短く肯定する。
「そうだ。……レイに日本帝国、もうここまで来てまだ隠し事をするつもりか?」
鋭い指摘。
本来なら話すつもりはなかった情報──だが、もう避けられない。
レイは静かに息を吐き、覚悟を決めた。
「……分かった。どの道、俺達の正体を話す必要があったからな。コーラルを監視する結社“オーバーシアー”のウォルター」
ウォルターの表情がわずかに揺らぐ。
「!? ……気づいていたのか」
その横で閣下が静かに頷く。
「我々は知っているのだ。だからこそ、あと一人集まったら我々の存在を説明しなければならない」
ウォルターは言葉を失う。
自分が秘密にしていた“立場”を、レイも日本帝国もすでに理解していた。
沈黙を破ったのは、617だった。
《ウォルター……レイ達なら大丈夫》
「617?」
《レイはコーラルを悪用する人じゃない。……元々人じゃないけど、信用できる人》
「まあ合っているけど、語弊がある言い方だぞ617……」
ウォルターが眉をひそめる。
「人ではないだと? 強化人間とは別の何かなのか?」
レイは真剣な目で答えた。
「それを説明するには先ず、RaDの頭目でありオーバーシアーの一員のカーラにも説明しなければならない」
ウォルターは目を閉じ、小さく呟く。
「……彼女も知っていたのか」
情報の断片が、線となって繋がり始める瞬間だった。
ウォルターが静かに息を吐くのと同時に、室内の空気がわずかに変わった。
誰も言葉を発しないまま、ただ互いの表情だけが重く交錯する。
今まで曖昧だった立場、隠されていた真実、そしてコーラルが示した“次の地点”。
その全てが揃った今、もう後戻りはできない。
この瞬間から、彼らの歩む道は
単なる傭兵の任務ではなく──世界そのものの命運へ直結する戦いへ変わる。
静かな緊張が、ミレニアムの作戦室に満ちていく。
そして誰もが理解していた。
次に動くべき場所は決まっている。
そこに眠る“何か”を確かめなければならない。
物語は、ついに決定的な段階へと踏み込もうとしていた。