転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
ミレニアムの通信室。
再び日本兵から許可をもらい、通信室を借りてウォルターはカーラとの暗号化通信を開いていた。
薄暗い室内にモニターから通信相手のカーラが浮かび上がる。
「ウォルター、そっちの調子はどうだい?」
軽い口調だが、目は決して油断をしていない。
ウォルターは端末に視線を落としながら答えた。
「問題が発生した。日本帝国に俺たちの存在を知られた」
カーラは一瞬だけ目を細め、すぐに肩をすくめた。
「……だろうね。私でも薄々感ずいてたよ」
ウォルターは息を吐き、続ける。
「そうか。……あのデスティニーという機体、映像を送ったがどう思った?」
カーラは苦笑し、頭をかく仕草を見せた。
「正直に言って化け物だね。あんな技術が日本帝国の最新鋭だっていうんなら話はまだ分かるが、見た目が明らかに封鎖機構のHCかLCの機体と思われそうだが、中身はACと来たもんだ。
全く、うちの商品開発に向かない装備ばかりで笑えないね」
その声には、皮肉以上に“未知”を前にした警戒が滲んでいた。
オーバーシアーとしての観測網すら越える存在──
それが日本帝国であり、デスティニーであり、レイ達だ。
だがその本質を知るには、まだ材料が足りない。
ウォルターは無言でカーラの表情を見つめていた。
カーラは画面越しに腕を組み、ほんのわずかに眉をひそめた。
先ほどまでの軽い口調とは違い、その声には明確な緊張が混じっていた。
「問題なのは、今後の方針をどうするかだね。私らの目的であるコーラルの根絶も連中に知られているようだし……」
ウォルターは視線を落とし、短く頷いた。
「その事なのだが、どうやら連中は純粋にコーラルの問題を解決するつもりのようだ」
カーラが片眉を上げる。
「それは617達から聞いた話かい?」
「……短期的にはそうだ」
ウォルターの返答は慎重だった。
確信ではなく、信頼でもなく──
ただ“観測した限りでは”という事実のみを告げる。
だが、その次の言葉には彼の本音がこぼれた。
「だが俺は、最終的には621達が
カーラの唇がわずかに吊り上がる。
「友人達の意に沿わない結果になってもかい?」
ウォルターは少しだけ沈黙し、そして静かに呟いた。
「友人か。……それなら、あいつ等にも出来たのかもしれん」
その言葉には、これまでの孤独な傭兵としての歳月とは違う温度があった。
カーラは小さく笑い、どこか温かい視線でウォルターを見た。
「そうかい……」
そして彼女は、わざとらしく肩をすくめて言った。
「……ならウォルター、私から一つ提案があるんだがいいかい?」
ウォルターは目を細める。
「提案?」
カーラの口元には、何かを思いついた人間特有の悪戯めいた笑みが浮かんでいた。
◇◆◇
ミレニアムの格納庫区画では、朝から妙な騒がしさに包まれていた。
整備員たちが走り回り、輸送ドローンが慌ただしく往復している。
理由は一つ──
本国からの補給シェルパが到着したのだ。
それは“いつ届くか分からない”という代物で、
到着のたびに基地がひっくり返るのが常である。
そして案の定──
【茨城県人、ここにありだあぁぁぁっ!!】
エアがビクッと肩を跳ねさせた。
【!? 今のはいったい……?】
レイは額を押さえながらため息をつく。
「本当にごめんな、エア。補給シェルパが来る際に必ず茨城県人が今みたいに叫ぶんだ」
【……様子のおかしい人という事でしょうか?】
「エア、あまり細かいことを気にしない方がいい。疲れるだけだ」
【ハァ……】
エアは“人としての表情”がないはずなのに、完全に呆れた気配を漂わせた。
その姿に整備員も苦笑する。
日本兵たちに確認したところ、今回の補給品は本国から直接届けられた特別便だという。
どうやらステルス機動で封鎖機構の網を潜り抜いたらしい。
レイはその話を聞き、思わず独り言のように呟く。
(……封鎖機構の警備網、ガバガバなんじゃないか?)
本気で心配した。
そして、肝心の補給品の中身は──
「──それで、補給品の中身は何だった?」
整備班の隊員が、どこか誇らしげな表情を浮かべて言った。
「良い知らせですよ司令。どうやら司令が頼んでいた例の機体がこの補給シェルパに入っているようです」
「マジか……とうとう出来たんだな」
レイは思わず身を乗り出す。
だが整備班は続けた。
「それともうひとつ、シェルパ内に女性アンドロイドボディがあったのですが……」
「なに? もしかして本国はエアの器を頼んでた機体と並行して作ったのか?」
【私の……器?】
──その瞬間、エアがピタリと動きを止める。
次の展開が、確実に“彼女”の未来を変えるものだと察したのだ。
◇◆◇
レイは621と617を格納庫へ呼び寄せた。
そこには、巨大な専用ハンガーに収められた一機のMSが静かに鎮座していた。
銀と黒を基調とした重厚な装甲。
背部のドラグーンを思わせる無数のスラスター。
圧倒的な存在感を放つその機体に、621と617の視線が吸い寄せられる。
《これも……ガンダム?》
617は目を大きく見開き、ぽつりと呟いた。
《レイ……これってもしかして》
レイはうなずき、誇らしげに機体を示した。
「ああ、思ったより早く届いたようだ。ZGMF-X666S“レジェンドガンダム”。617の新たな機体だ」
《レジェンド……》
その声音は静かだが、どこか震えるほどの喜びがあった。
そんな空気を破るように、621が腕を組む。
《──ちょっと待って。私を呼んだ理由はまだ聞いていない》
するとエアが控えめに声を出した。
【その事なのですがレイヴン、レイが言うには私に関係することなのです】
《エアに関係する事?》
訝しむ621の前に、日本兵が台車を押しながら近づいてくる。
その上には──人間の女性と見紛うほど精巧な 女性型アンドロイドボディ が横たわっていた。
レイはそれを示し、静かに言った。
「これが、エアが人として活動できるための器だ」
617がうなずく。
《ん……レイ達と同じ》
621は首をかしげた。
《レイ達と同じ……?》
レイは621の方へ向き直り、真剣な眼差しで語る。
「621、お前も薄々気づいているかもしれないが俺たちは実体のないCパルス変異波形のエアを認識できるように、俺達の正体はエアと同じCパルス変異波形なんだ」
《レイ達が……Cパルス変異波形?》
その衝撃に、621は一瞬言葉を失った。
だがレイはそれ以上深く追及させないように、エアの方へ歩み寄る。
「まあ、とりあえずだ。エア、この器の中に入ってみろ。きっと今まで感じたことのない体験ができるはずだ」
【……分かりました】
エアの“意識”を象徴するような赤い光点が漂い、ゆっくりとアンドロイドボディへ吸い込まれていく。
数秒後──
アンドロイドの瞳がふっと開いた。
鮮烈な赤。
そこに確かに宿る“自我”。
エアはゆっくりと身体を起こし、ぎこちない動作で自分の手足を確かめた。
そして621たちの方を向く。
「これが……人としての身体……」
621が小さく震える声で問いかける。
《エア……なの?》
女性の姿となったエアは、柔らかく微笑んだ。
「はい。私です、レイヴン」
その表情には、これまでの電子的な声ではあり得なかった“温度”があった。
◇◆◇
レイたちがアンドロイドボディのエアを囲んでいたちょうどその時、
ミレニアムの格納デッキ側の自動扉が開いた。
ウォルターが姿を見せ、周囲を見回しながら歩いてくる。
「621達はどこだ? ……ん?」
彼の視線が一点で止まった。
まだ歩き方にぎこちなさが残る“見知らぬ女性”──
アンドロイドボディのエアだった。
ウォルターは目を細める。
「アレは……見かけぬ顔だが、日本帝国の者か?」
621が手を挙げる。
《あっ……ウォルター》
レイが肩をすくめて笑った。
「あれま……別の意味で出てくるタイミングが良すぎるな、ウォルター」
ウォルターは621へ歩み寄り、女性──エアへ視線を移した。
「621、お前は彼女を知っているようだが、何者だ?」
621は一歩前に出る。
その声には、はっきりとした誇りが宿っていた。
《ウォルター、彼女はエア。私にとって……友人であって、大切な仲間》
エアは胸に手を当て、控えめに、しかし確かな感情を込めて言う。
「……レイヴン」
ウォルターはしばらく二人を見つめ、
ふっと表情を緩めた。
「……そうか。お前にも、友人ができたんだな」
それは、これまで孤独に戦ってきた621を誰より近くで見続けた
ウォルターにしか言えない言葉だった。
レイが口を開く。
「さて……ここに来たってことは、俺達の正体を聞きたいってことだよな? ウォルター……」
ウォルターはうなずく。
「ああ……。友人にも連絡を取ってある。通信越しではあるが、お前たちの正体を知りたいとのことだ」
つまりカーラも待っているということだ。
レイは皆を見渡し、短く息を吐いた。
「オーケー……まずはブリーフィングルームに集まろう。話はそれからだ」
ミレニアムの通路に、次の局面へ向かう足音が響いた。
◇◆◇
ミレニアムのブリーフィングルームに、レイたち主要メンバーが集まった。
中央のホロテーブルが淡い光を放ち、緊張した空気が室内を満たしている。
レイが周囲を見渡し、口を開いた。
「集まったな。これで全員か?」
ウォルターがうなずく。
「あと一人、通信越しで連絡してくる」
その言葉に続けるように、日本兵が端末を操作しながら報告した。
「司令、RaDの頭目から通信です」
レイは短く頷く。
「そうか、繋いでくれ」
ホログラムに赤い光が収束し、カーラの姿が浮かび上がった。
『初めましてだね、ビジター。RaDの頭目をしているカーラだ』
声色は軽いが、その目は鋭く観察している。
『質問するうえで聞くが、自力で私らの正体を知ったんだろ?』
レイは腕を組み、真正面から答えた。
「……正確には最初から知っていたというべきか。先ずは俺達の正体を知る必要がある」
すると閣下が一歩前に出た。
「その通りだ。我々は彼女と同じ存在──Cパルス変異波形について」
そこからの説明は長く、重かった。
レイたちはウォルターとカーラに対し、
自分たちが Cパルス変異波形 という、意思あるコーラルの変異体であること。
そしてエアも同じ存在であることを包み隠さず伝えた。
説明が終わると、ウォルターは言葉を失ったまま静かに息を吐いた。
コーラルに関する資料は、危険性を示すものばかり。
半世紀以上前の断片的な知識を基にした理解では、「対話できるコーラル」という概念は完全に想定外だった。
カーラが沈黙を破る。
『……正直言って、意思を持つコーラルを確認してあたしは完全に人生観が根底からぶっ壊れたよ。ちょっと笑えないね、これは』
ウォルターも苦々しい表情で続けた。
「俺もだ。コーラルが群体生命のような特質を持っていることは知っていたが、あんなにはっきりと対話が可能とは……」
カーラはホロ映像越しにエアを見つめる。
『問題は、その対話方法だね。まさかアンドロイドボディに憑依する形で人として活動するってのは誰も思いつかないだろうさ。ホント……異物だね、あんたは?』
レイは肩をすくめ、苦笑する。
「自覚はしているさ、自分たちが完全に異物の存在であることは……」
室内に、言葉では説明しきれない重圧が静かに積もっていく。
カーラは腕を組み、厳しい視線でホロ画面越しのレイたちを見据えた。
『……それで、あんたら日本帝国の目的ってのは何だい?
私らの目的を知っている以上、話してもらわないとフェアじゃないだろう?』
その言葉に閣下がうなずき、前へ出る。
「彼女の言うことももっともだ。だからこそ話そう」
室内に緊張が走る中、閣下はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「我々の目的は、コーラルの中にいるであろう他のCパルス変異波形たちの居場所を日本帝国にすることと、自己増殖するコーラルの可燃性やその他の要因を含めて根本的な解決策を探すのが今の我々日本帝国と司令の目的だ」
レイも続けた。
「まだ具体的な方法は確立されていないが、ルビコンを焼いた災害“アイビスの火”を再び起こさせないことと、コーラルをルビコン以外の宇宙に進出させないことが大まかな目的だ」
その言葉は、レイ自身の決意そのものだった。
部屋の片隅でエアがそっと俯く。
人としての身体で初めて感じる“重い話題”に、胸の奥がざわついたからだ。
「……」
621が静かに声をかける。
《エア……》
エアは返事をしない。
けれど、その横に立つ617が一歩前に出て、柔らかい声音で言った。
《ん……エア、大丈夫。レイを信じて》
その言葉に、エアはゆっくりと顔を上げる。
「セレン……」
新しい身体、新しい感情。
そこに宿る微かな不安は──仲間たちの言葉で、確かに支えられていた。
ブリーフィングルームの空気が、さらに張り詰めたものへと変わった。
レイはホロ画面のカーラを見据え、静かに問いかけた。
「シンダー・カーラ、俺達は日本帝国の目的を話した。そのうえで聞く──
コーラルがただの物質ではなく、対話可能な知性体だとしたらあなたはどうする?」
カーラは目を細め、一拍置いてから淡々と言い放つ。
『そりゃ焼くさ。“宇宙をコーラルで汚染させない”──その使命のためにみんな死んで、あたしもあんたもその遺志を胸に今まで生きながらえてきた。自分の身体をいじくり回してまでしてね。だからその『使命』は変わらないし、今更変える気も無い』
閣下は小さく息を呑む。
重たい現実が、その言葉に詰め込まれていた。
カーラは続けた。
『でもね、あたしら“オーバーシアー”の使命は『宇宙をコーラルで汚染させない』ことだ。『この星を焼き尽くせ』じゃない。……あたしだって楽しくてこの星を焼き尽くそうっていうんじゃない。この星にも気の合う友人ってのはいくらもいるさ。ただそれよりもあたしは『使命』を選択して、星を焼き尽くす以外に宇宙のコーラル汚染を止める手立てがないからこの星を焼くのさ』
その言葉には、狂気ではなく“覚悟”があった。
カーラという人物の根幹を形作る信念が、そのまま露わになっていた。
レイは息を整え、反対提案をぶつける。
「もし……仮に俺たちが星を焼く以外の手段を確立することができたなら──」
カーラの口元がわずかに緩む。
『それだったら、あんたらに賭けたくなるね。だけど……』
再び鋭い眼差しを向ける。
『あたしとて“はいっそうですか”って簡単に納得する訳にはいかないんでね。そこでだ、ビジター。あんたにはあたしの信用を勝ち取るための手段として、RaDの本拠地であるグリッド086に来な』
レイは理解し、うなずきながら確認する。
「なるほど……実力をもって力を示せってことか。一応確認だが、ガンダム以外のACで来いってことか?」
カーラは肩をすくめ、笑う。
『そうさ。あんたがいうガンダムって化け物相手だと、私らの団員がビビっちまうだろう? だからこそ、普通のACか日本帝国の量産機で来な』
閣下が横で静かに問いかける。
「司令……分かっていると思うが」
レイは軽く手を上げた。
「言われずとも。……分かった。俺はカーラの案に乗る」
カーラは満足げに笑みを浮かべた。
『決まりだね。あたしはあんたを歓迎する準備でも始めているよ。あんたの腕前、見させてもらうよ……ビジター』
通信が途切れ、ホロ画面が静かに消える。
こうして──
次の舞台は グリッド086 に決定した。
◇◆◇
カーラの通信が途切れ、静寂がブリーフィングルームに満ちた。
数秒の沈黙。
しかしその内側では、全員がそれぞれの思惑を巡らせていた。
レイは深く息を吐き、視線を前へ向ける。
「……行くしかないな。グリッド086へ」
617がうなずく。
《ん……レイなら、できる》
621も腕を組みながら前を向く。
《私も同行する。レイが何を選ぼうと、サポートはする》
エアは新しい身体を胸元で抱くように守りながら、小さく言う。
「レイ……あなたが選ぶ道を、私は信じています」
閣下と日本兵たちも、それぞれの立場から静かに見守っていた。
ウォルターが最後に口を開く。
「レイ……お前が何を見せるのか、俺たちも注目している。
……覚悟はいいな?」
レイは口元に僅かな笑みを浮かべた。
「覚悟なら、とっくに決まってるさ」
ミレニアムの外では、赤いルビコンの空が薄く明るくなり始めていた。
昨日までと同じ戦場の空なのに、今は全く違う意味を帯びて見える。
コーラル。
Cパルス変異波形。
日本帝国。
オーバーシアー。
RaD。そしてカーラ。
それぞれの思惑が交錯し、世界は静かに動き始めている。
レイは歩き出す。
その背中に仲間たちの視線が集まる。
──次の目的地、グリッド086。
そこで待つのは試練か、破滅か、それとも未来か。
誰にもまだ分からない。
だが一つだけ確かなことがあった。
この選択が、ルビコンの運命を変える分岐点になる。