転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
ベイラムの駐屯基地。
整備ドックの片隅で、二人のレッドガンが人目を避けるように端末を覗き込んでいた。
小遣い稼ぎ──という名目で受けるには、いささか胡散臭い依頼。だが、それを理由に断るほど彼らは大人しくもなかった。
「おい、イグアス。ミシガンの野郎に黙って勝手にAC持ち込んでいいのかよ?」
ヴォルタの問いに、イグアスは肩をすくめるだけだった。
「どうせすぐ終わらせて帰ればバレずに済むだろうよ」
軽い調子。しかし、その目は冗談を言っている男のそれではない。
「それによ、その依頼にはあの天使野郎が関わっているかもしれねえんだ」
その一言で、ヴォルタの表情がわずかに引き締まる。
「……そりゃあ、お前の感か?」
イグアスは答えず、しばし黙り込んだ。
彼の脳裏には、あのシミュレーションルームでの日々がよぎっている。
イグアスはアムロチャレンジを続けて長く粘るうちに感性がより強く高まり、アムロチャレンジのレベル1で3分と粘って何とか相打ちにすることに成功したのだ。
常人なら数秒で終わるはずの鬼畜データ。
そこに食らいつき続けた経験は、確実に彼の中の“何か”を変えていた。
感覚は研ぎ澄まされ、危険の匂いを嗅ぎ取る精度が上がる。
それは理屈ではなく、本能に近い領域だった。
「どの道、天使野郎があそこにいる可能性がある。そんだけだ」
短く、だが断定的な言葉。
「へっ、そうかよ」
ヴォルタはそれ以上深くは聞かなかった。
長い付き合いだ。イグアスがこの口調の時は、たいてい当たる。
こうして二人は出撃を決める。
ヴォルタのキャノンヘッドと、そして──。
ガリア多重ダム以降、アセンを見直し、徹底的に改良されたイグアスの機体。
かつての無骨さを残しつつも、随所に手が加えられたそのACは、“ヘッドブリンガー改”と呼ばれていた。
ベイラムの命令外。
だが、レッドガンとして、そして一人の傭兵として──。
二人は静かに出撃準備を進めていく。
その先に、再び“天使”がいるかどうかは分からない。
だがイグアスの直感は、確かに告げていた。
──この依頼は、ただの小遣い稼ぎでは終わらない、と。
◇◆◇
一方のオールマインド陣営では、静まり返った空間に微かな電子音だけが響いていた。
『まさか……これ程とは』
淡々とした声音の奥に、わずかな驚嘆が滲む。
その視線の先には、正体不明の人物から提供されたデータと新規パーツを反映させた三機の機体──カラミティ、レイダー、フォビドゥンが並んでいた。
「どうやら、お気に召した様だね」
正体不明の人物の声は軽い。
だが、その成果は決して軽くはなかった。
提供されたデータと新規パーツを換装したことで、三機はいずれも本来の性能を大きく引き上げ、結果として15%の性能向上を達成していたのだ。
「すっご……」
「うひょー!」
「すっげえじゃんか、こいつはよ!」
シャニ、クロト、オルガ。
AIとして再構成された彼らでさえ、その変化に素直な歓声を上げるほどの出来栄えだった。
AIのオルガたちも大変ご満足だった。
『……では、彼らをグリッド086に差し向ける形で』
オールマインドの判断は早い。
その言葉に、正体不明の人物は頷くように応じた。
「ああ。君らもグリッド086に白いのと呼んでいるフリーダムがいるよ。ウォッチポイントの借りを返しに行くといいよ」
その一言で、三人の空気が一変する。
「おっしゃ、いくぞ!」
「やれやれ、人使いが荒いよ本当……」
「フ……フフフッ……!」
高揚、諦観、そして歪んだ歓喜。
それぞれの感情を胸に、オルガたちは出撃準備へと向かっていく。
こうして、オールマインド陣営の切り札とも言える三機は、次なる戦場──グリッド086へと差し向けられるのだった。
白き天使フリーダム。
そして、既にその地に集いつつある複数の勢力。
戦場は、さらに混沌を深めようとしていた。
◇◆◇
グリッド086。
RaD本拠点の監視網を走る無数の警告ログを眺めながら、カーラは小さく舌打ちした。
「まさかこのタイミングで連中が仕掛けてくるなんてね」
誰かが大暴れした直後。
警備の穴を嗅ぎ分けて動き出す連中が出てくること自体は、ある意味で必然だった。
その頃、レイたちのもとへ、後続として一機の機体が合流する。
白い翼を広げるように降下してきたのは、621が操縦するフリーダムだった。
「やっぱフリーダムで来たんだな」
《うん。この機体、私と相性がいい》
《ん……何となく分かる》
短い会話の中に、確かな手応えが滲む。
621は621で、フリーダムの性能をすっかり気に入っていた。
そこへ、カーラから通信が割り込む。
『ビジター、ちょいと面倒なことになってね。他のビジター達も聞きな』
「話となると、商売敵がちょっかいをかけて来たのか?」
『ビジターにしては感がいいね。アンタ等に掃除を頼みたい』
軽い口調だが、その裏にある緊張は隠しきれていない。
カーラは現在の状況を、端的に説明し始めた。
『誰かさんが暴れてくれたおかげでうちの警備はボロボロだ……。さっきビジターが言ってたそこを突いてくる商売敵のドーザーがいるのさ』
《ジャンカー・コヨーテス……》
その名を口にしたのは621だった。
周回を重ねる中で、RaDの商売敵の存在は既に頭に入っている。
『その通り。連中は私らを目の敵にしていてね。いつも嗅ぎ回り、隙あらば噛みついてきやがる』
617は詳しい状況を確認するためにカーラにジャンカー・コヨーテスに動きがないか聞き出した。
《……ジャンカー・コヨーテスは今、どうしているの?》
『奴らはうちの開発データを抜き取ろうとしている。侵入して荒らすならまだ許せるが、今回はそうはいかないね』
表示されたマップ上に、複数のマーカーが浮かび上がる。
ジャンカー・コヨーテスが設置したであろう、ハッキングドローンの位置だった。
『設置したハッキングドローンを全て潰さないとRaDの機密情報が盗まれちまうって寸法さ。……なんとも卑しい事を考えたもんだが、その価値が分かってる点だけは褒めてやろうかねぇ?』
その説明を聞き、レイはすぐに意図を理解する。
「……要するに俺が暴れた分、キッチリ働けってことか」
『そういうこったね。うちの警備網がボロボロになったのはあんたの所為ともいえる』
「痛いとこ着くなあ……まあ、ちゃんと働くけどさ」
『当然さ。うちの警備を破ってくれた分、虎の子はキッチリ守ってもらうよ』
そうしてカーラからの通信が切れる。
《レイ、どうするの?》
「こういう場合は人海戦術が有効だろうな。617、621、手伝ってもらえるか?」
《ん……大丈夫》
《こっちは問題ない》
即答。
迷いはなかった。
『私は引き続き、交信にてあなた達をサポートいたします』
エアの声を背に、三機はそれぞれの役割を確認する。
レイのデスティニー、621のフリーダム、617のLYNX。
RaDの機密を狙うドーザーたちを排除するため、
三機は再びグリッド086の空へと飛び出していった。
◇◆◇
グリッド086に設置されたハッキングドローンを排除するため、レイたちは三番ゲート前に集結していた。
各機のセンサーが起動し、周囲のノイズとデータが一斉に流れ込む。
「カーラ、こっちは着いたぞ。いつでも行ける」
『そうかい……それじゃ、始めるよビジター。卑しいコヨーテ共に設置されたハッキングドローンを残さず破壊するんだ』
《エア、ナビゲートをお願い》
『お任せください』
ゲートが開き、三機はそれぞれの担当エリアへと散開した。
ハッキングドローンの排除──迅速さが何よりも求められる作業だ。
『現在のセキュリティ突破状況は今のところ10%……。うちのファイヤウォールに対してこの速度……並列して5機ってところか……』
「その為の人海戦術だな。621と617は奥の方を調べてくれ。俺は身近なところを探る」
《分かった》
《了解……》
レイはジャンカー・コヨーテスのMTを蹴散らしながら進み、ほどなくして目標を捉えた。
「あれか!」
デスティニーのビームライフルが閃き、最初のハッキングドローンが爆散する。
『目標の破壊を確認……あと4機です』
『早速1つ潰したようだね。その調子で頼むよ』
《ハッキングドローンを破壊した》
《こちらも発見……破壊完了》
『目標、残り2機です』
『RaDの技術が欲しいの分かるが……やり方が面白くないねえ? 【衛星軌道からインフラ丸ごと引っこ抜く】くらいの気概を見せてもらいたいもんだ』
カーラの愚痴を聞き流しながら、レイは621たちと合流すべく進路を取る。
だが、その前方でMT部隊が陣形を組んで待ち構えていた。
「おい! ACが出て来たぞ!」
「見たことねえ機体だ。カーラの野郎、ビジターに金を積みやがったな!」
その中の一人が、デスティニーを視認した瞬間、背筋を凍らせる。
「おい、よく見てみりゃ……うちのシマを荒らした天使野郎と似てねえか!?」
「マジかよ!? カーラの野郎、なんて野郎を味方につけやがったんだ!」
「バンチャーとキッカーを突っ込ませろ!」
バンチャーとキッカーと呼ばれるMTが、一斉にデスティニーへと殺到する。
「遅い!」
レイは冷静にビームライフルで迎撃し、バンチャーを次々と撃破。
続くキッカーの脚力による突進は、デスティニーのパルマフィオキーナ掌部ビーム砲に負けて破壊される。
『コヨーテスの連中はうちが開発したMTを使ってる。マーケットで売れ線なのさ』
「だろうな! あいつら、何気にRaDの良さを良く理解しているよ本当っ!」
『カワイイ我が子が攻めてくるってのはなんとも複雑な心境だよ』
デスティニーの圧倒的な強さにジャンカー・コヨーテスは焦りが生じていた。
「クソッ! こんな奴がいるなんざ聞いてねえぞ……!」
「落ち着け! 万が一の保険が内に残っているじゃねえか! そいつをあの堕天使野郎にぶつければ……」
「そうじゃねえ! RaDに天使野郎が居やがった! しかも取り巻きもついていやがる!」
『どうやらあっちのビジター達も派手にやっているようだね。こっちもそろそろカウンターの仕込みを始めようか……』
カーラがカウンタープログラムを仕掛けようとした、その時。
《こちらレイヴン、ハッキングドローンを破壊》
《こっちも、最後の一機を破壊》
『確認しました。全目標の破壊を確認』
『存外に早かったね。セキュリティ突破率が50に満たないほど早いとは、助かるよ』
時間的余裕を得たカーラは、即座にカウンタープログラムを完成させる。
その一撃は苛烈だった。ジャンカー・コヨーテスと主要取引先のサーバーが、次々と焼き払われていく。
『これで良し。連中と主要取引先のサーバーを全部焼いておいた。これでコヨーテスも、しばらくは大人しく……』
するとレーダーに新たな機影を捕捉した。
その機影の数は2。
『待ちな。レーダーに敵影……増援か?』
『反応からして、屋外からです。迎撃に向かいしょう』
「そのようだな。621、617、一旦合流するぞ!」
《向かっている》
《ん……》
三機は再集結へと向かう。
だが、レーダーに映る新たな反応は、明らかにこれまでの相手とは“質”が違っていた。
グリッド086の戦場は、まだ終わらない──。
◇◆◇
イグアスは、狙いを一点に絞っていた。
白い翼を広げるフリーダム。
右手のリニアライフルCurtisと、左手のマシンガンLudlowが火を噴き、弾幕を張りながら、引き撃ちなど一切せずに真っ直ぐ突っ込んでくる。
(いつものイグアスのACのアセンが違う!? レイ達や私がいる所為で何かが変化している?)
621は即座に違和感を察知した。
機体構成だけではない。
動きそのものが、これまでのイグアスとは明確に違っていた。
「よぉ……あん時ゃ世話になったな……! テメェにリベンジするためのアセンを組んだんだ。くたばりな天使野郎!」
叫びと同時に、弾幕がさらに濃くなる。
イグアスはまだ、フリーダムの中に621が乗っていることに気づいていない。
だが、その動きは以前よりも洗練され、無駄が大幅に削ぎ落とされていた。
(イグアスの動きがより洗練されている!? この短期間で何が……!?)
「ハッ! どうしたよ、天使野郎? 前みたいに腕やらあしやらを狙ってみろってんだ!」
攻勢は止まらない。
621は回避と迎撃に集中するが、押され気味になる。
一方、別の空域では──。
「イグアスの野郎、俺の援護なしで天使に喰いついてやがるな。あの天使野郎、動きが妙に違うのは気のせいか? それはそうとして……」
《邪魔……!》
「クソッ! これだからガチタンは固い分落とすのが面倒なんだよ!」
レイのデスティニーが放つ大型ビームランチャーと、617のLYNXのガトリング砲が唸りを上げる。
だが、ヴォルタの重装甲は一筋縄ではいかない。
正面から押し切ることはできず、ヒット&アウェイで牽制するのが精いっぱいだった。
「こっちは天使の取り巻きと赤い翼のACを相手にしなくちゃならねえなんざ、割に合わねえぜ!!」
悪態を吐きながらも、ヴォルタは手を止めない。
重ショットガンZIMMERMAN、大型グレネードランチャーGOU-CHEN。
さらにファーロン・ダイナミクス製の2連装分裂ミサイルと、2連装グレネードキャノンSONGBIRDS。
火力を惜しみなく叩き込み、戦線を維持する。
戦場が完全に膠着しかけた、その瞬間──。
『……! ビジター、レーダーに新たな敵が来たようだ!』
「何っ!? 数と識別は?」
『数は3……どうやら、ビジターと縁がある連中の様だね……』
レーダーに映し出された反応は、イグアスたちが来たルートから接近してくる。
そして、そのシルエットを見た瞬間、レイは顔をしかめた。
カラミティ。
レイダー。
フォビドゥン。
「へっ! 見つけたぜ、白い奴!」
「なんか赤い翼の奴もいるけど……」
「まっ、どの道やることは変わんねえ。邪魔する奴はまとめて瞬殺ッ!」
「よりによってまた三馬鹿かよ!?」
レッドガンとの戦闘に、オールマインド陣営の三機が割り込む。
グリッド086の空は、一気に地獄絵図_toggleへと変貌していった。
三つ巴──いや、もはやそれ以上。
戦場は完全に制御を失い、次の瞬間に何が起きてもおかしくない状況へと突入する。
◇◆◇
「オルアァッ! イクゾォォッ!!」
オルガの咆哮と同時に、カラミティの背部に搭載された125mm 2連装高エネルギー長射程ビーム砲──「シュラーク」が火を噴いた。
白熱する高出力ビームが戦場を薙ぎ払い、直前まで交戦していたレイたちは反射的に戦闘を中断、各機が一斉に散開して回避行動に移る。
「そりゃああぁぁっ!! 滅殺ッ!!!」
追撃するように、クロトのレイダーがMA形態で突入。
クロー内部に装備された短射程プラズマ砲「アフラマズダ」が放たれ、光の奔流となってレイたちを襲う。
ただの援護射撃ではない。完全に“仕留めに来ている”動きだった。
《レイ、この機体……!》
《ウォッチポイントデルタに現れた機体……!》
「オールマインドの刺客がステルスMTじゃなくて何で三馬鹿なんだよ!?」
レイの悲痛なツッコミが、混沌とした戦場に虚しく響く。
その一方で、事態を呑み込めずにいたのはレイたちだけではなかった。
「何だこの……訳の分からねえ機体は……!?」
「顔つきが例の天使と似ていやがるが、連中天使に恨みがありそうだぜ!?」
イグアスとヴォルタもまた、突如乱入してきた三機に困惑していた。
「……ハン!」
嘲るようなシャニの声。
次の瞬間、フォビドゥンが動く。
両腕に内蔵された大口径機関砲、115mm機関砲「アルムフォイヤー」が火を噴き、イグアスとヴォルタをまとめて射線に捉えた。
「ウォッ!? こっちにも攻撃しやがった!?」
「ちっ! 見境なしかよ!」
「でりゃあぁぁっ!! 抹殺!!!」
間髪入れず、クロトのレイダーがMS形態へと変形。
振り下ろされた破砕球「ミョルニル」が、ヴォルタのキャノンヘッドの胴体に直撃する。
「ぐおっ!? 破砕球って……何世紀前の武器だってんだよ……!?」
「ヴォルタ!? ちぃっ!?」
「間抜けっ!!」
衝撃は致命的だった。
今の一撃でヴォルタのACは完全に行動不能へと追い込まれる。
そしてクロトのレイダーは、獲物を選別するかのように再びMA形態へと移行。
次なる標的──赤い翼を持つデスティニーへと機首を向けた。
「俺らは眼中に無いってか……! ふざけんな!」
怒声と共に、イグアスはスラスターを全開にする。
乱入してきたオルガたちを追うように、そのまま戦場のさらに奥へと突っ込んでいった。
もはや敵味方の境界は曖昧になり、
グリッド086の空は完全な修羅場と化していく。
◇◆◇
オルガたちの猛攻は、まるで止まる気配を見せなかった。
「どうした、かかって来な!!」
《しつこい……!》
カラミティの337mmプラズマサボット・バズーカ砲「トーデスブロック」、そして115mm 2連装衝角砲「ケーファー・ツヴァイ」。
その一斉射を、617はギリギリで躱す。
直後、反撃としてSONGBIRDSの砲撃と炸薬弾投射機による爆雷をばら撒いた。
「おおっと!」
《……! 今のを避ける!?》
オルガはホバー機能を最大限に活かし、咄嗟に後方へ急退避。
まるでMS版のクイックブーストのような挙動だった。
「ハアァァッ!!」
《くっ! 避け辛い……!》
フォビドゥンが放つのは、バックパック先端部に内蔵された高出力誘導プラズマ砲「フレスベルグ」。
ビームは不自然な軌道を描き、621のフリーダムを執拗に追い詰める。
621はビームライフルで反撃するが、その攻撃はフォビドゥンの実体シールドに内蔵された「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」によって、いとも容易く軌道を逸らされてしまう。
「効かないよぉ」
《ビームが効かないなら、これで!》
621は即座に判断し、フリーダム腰部のレールガン──「クスィフィアスレール砲」を発射した。
「クッ……!」
シャニは咄嗟に実体シールドで防御する。
だが、ビームではないこの一撃は曲げられない。
衝撃を受けた直後、次の瞬間には──フリーダムはすでにフォビドゥンの至近距離に迫っていた。
「んなっ!?」
《この距離なら、結構効くでしょっ!》
至近距離で放たれたレール砲が、フォビドゥンを大きくのけぞらせる。
しかし、それは同時にシャニの逆鱗に触れる結果となった。
「ちぃっ……! お前、お前! お前ぇぇぇっ!!」
激昂したシャニは、フォビドゥンの格闘兵装──重刎首鎌「ニーズヘグ」を振るうべく、スラスターを全開にしてフリーダムへ急接近する。
『行動パターンが変わった!? 相手は激昂しています。何をしでかすか分かりません、十分に注意をレイヴン!』
《分かっている。こいつら、前よりも強い……!》
フォビドゥンの動きは明らかに変質し、より厄介なものへと変わっていた。
一方、レイのデスティニーは翼からヴォワチュール・リュミエールを展開し、圧倒的な速度差でレイダーを翻弄。
ビームライフルで攻撃を仕掛けていたが──。
「うわっあっぶねー!」
「今のよけるのかよ!?」
「コノヤロー! 撃滅ッ!!」
クロトは紙一重で回避し、レイダーの口部に搭載された100mmエネルギー砲「ツォーン」で即座に反撃。
さらに追撃として、右腕部の2連装52mm超高初速防盾砲から弾幕を張り、デスティニーを追い詰めてくる。
デスティニーは高機動を活かして回避するが、その動きを読んでいたかのように──。
クロトは破砕球「ミョルニル」を、回避先へと放った。
「終わり♪」
「……やばっ!?」
ミョルニルがデスティニーの胴体に直撃する──その瞬間。
「おわっ!? 何だ!?」
「今のは……!?」
突如として、レイダーの背後から強烈な衝撃が叩き込まれた。
そこにいたのは、イグアスのヘッドブリンガー改。
右肩の拡散バズーカは、先ほどロケット弾を放ったばかりなのか、砲身から硝煙を上げている。
「おい、天使野郎の取り巻きその二! テメェ等の相手は後回しだ、いったん手を貸せ!!」
敵同士だったはずのイグアスが、戦場の只中で放ったその一言。
それは、この乱戦が新たな段階に突入したことを、誰の目にも明らかにしていた。
──グリッド086は、もはや誰の戦場でもなくなりつつあった。
◇◆◇
イグアスからの共闘案は、レイにとって願ってもないものだった。
「まさか……お前から共闘を持ち掛けてくるとはな!」
「あっ? その声……まさか、天使野郎か!?」
「今頃気づくか? まあ、それは後回しだ。先ずはあの三馬鹿を蹴散らすぞ!」
「ちっ! 癪だが、後で説明してもらうからな!」
こうして、奇妙な形でレイとイグアスの共闘が始まる。
だが──その関係は、意外なほど長くは続かなかった。
オルガのカラミティのエネルギー残量が、すでに危険領域へと突入していたのだ。
「あぁ? クッソ、この馬鹿MS……もうパワーがヤバい!」
「お前はドカドカ撃ちすぎなんだよバーカ!」
「んだとぉ!?」
言い合いをしながらも、クロトは挑発気味にオルガを小馬鹿にしつつ、デスティニーとヘッドブリンガー改へと攻撃を仕掛ける。
「帰るんなら一人で帰ってよ! 僕は知らないよ~!」
「よそ見してんじゃねぇっ!!」
「あっ? うわっ!?」
イグアスは、ヘッドブリンガー改の左肩に懸架していたベイラム製パイルバンカ──―PB-033M ASHMEADを、マシンガンLUDLOWと換装。
そのままレイダーへと突き立てた。
クロトは咄嗟にミョルニルを盾にして直撃を避ける。
だが、パイルバンカーの凄まじい威力は破砕球を文字通り破砕し、レイダーの兵装を粉砕した。
クロトは即座にレイダーをMA形態へと変形させ、距離を取る。
「クッソー!」
「へっ! 馬鹿はお前の方じゃねえかよ!」
「何だと!? うわっ!?」
次の瞬間、MA形態のレイダーの上に、カラミティが強引に乗りかかる。
「おい! 勝手に乗んなよオルガ!!」
「うるせーよ! とっとと補給に戻んぞ! お前の機体もパワーがヤバいんだろうが!」
オルガの言葉どおり、レイダーのエネルギー残量もすでに枯渇寸前だった。
クロトは舌打ちしつつも、背にカラミティを乗せたまま戦場から離脱していく。
一方、シャニは激昂からわずかに冷静さを取り戻し、エネルギー残量を確認した。
「もう終わり? ……あーうざーい」
オルガたちが撤退していくのを見届けると、シャニはニーズヘグをフリーダムへと投げつける。
621は咄嗟に実体シールドで防御し、フォビドゥンの追撃に警戒する。
だが──。
フォビドゥンはフリーダムを無視し、そのまま離脱していった。
悪の三兵器が戦場を去り、残されたのはイグアスとレイたちだけだった。
『敵三機、撤退していきます』
「そのようだな。……んで、レッドガンのアンタはどうすんだ? 続きでもやるつもりか?」
621たちは警戒を解かず、イグアスの動きを注視する。
しかし──。
「邪魔者は消えた……あとはテメェ等だけなんだが、止めだ」
《えっ?》
《止め……?》
まさかの“止め”宣言に、拍子抜けした空気が流れる。
「肝心の依頼主であるドーザーの連中は、あの訳の分からねえ三機にやられたそうだ。その所為で報酬どころじゃねえとさ」
『そりゃあ、コヨーテス共には気の毒だろうね。だが、うちのシマを荒らした罰が当たったとしか言えないね』
「そういうこった。テメェ等のリベンジはまた今度にさせてもらうぜ。……これで勝ったと思うんじゃねえぞ!」
そう言い残し、イグアスは行動不能となっていたヴォルタのキャノンヘッドへと向かう。
コックピットをこじ開け、ヴォルタを回収してそのまま離脱した。
奇跡的にも、ヴォルタは生きていた。
ACは動かなくなっていたが、コックピットに致命的な損傷はなかったのだ。
『終わったみたいだね。……アレについてはうちの技師たちで調べておこう』
カーラの言う“アレ”──カラミティ、レイダー、フォビドゥン。
あの異質な機体群の拠点と正体を探るつもりなのだろう。
『レイヴン、襲撃して来た機体のこと調べてみたのですが、あの機体に生体反応はありませんでした』
《つまり……AIだったってこと?》
621は、あそこまで感情豊かなAIの存在に、言い知れぬ違和感を覚えていた。
『アレはまるで、生前の人間の情報をそのまま生き写した何かでした。私も具体的にどう捉えていいのか分かりません……』
《生前の人間の生き写し……ね》
グリッド086の戦いは終わった。
だが、残された謎は、むしろ増えている。
──オールマインド。
──人を模したAI。
──そして、再び交差し始めた因縁。
静かな不穏を残したまま、幕を下ろすのだった。