転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
ジャンカー・コヨーテスの襲撃と、悪の三兵器の襲来から一週間が経過していた。
戦闘の後処理や各所の復旧が進む中、レイたちはというと──
「……なんでレッドガン二人がここに戻って来てるんだよ」
目の前にいる二人を見て、思わずそんな言葉が漏れる。
その問いに対し、肩をすくめるようにして返ってきたのは、どこか投げやりな声だった。
「しょうがねえだろ、ミシガンの野郎に自分のケツは自分で拭けって形で送られたんだからよう……」
「ちっ……」
どうやら、彼らは無断での出撃、そしてACの大破という二重の失態によって、相応の雷を落とされたらしい。
結果として、会社の備品であるACを無断使用した罰という名目のもと、RaDに雑用員として派遣される形になったようだった。
懲戒処分を受けなかっただけ、まだ運が良いと見るべきなのかもしれない。
もっとも、その裏では別の思惑も透けて見える。
イグアスのACに蓄積された戦闘データ*1──それをベイラム上層部が狙っていないはずがなかった。
「……それは分かったんだが、肝心のACは向こうに置いてきた感じか?」
状況を整理するように問いかけると、返答は少し苦いものだった。
「俺のはここで落とされたのが最後の一機だったからな。……つーか、イグアスの言ってた通り、テメェがあの天使野郎のパイロットかよ」
「ああ、フリーダムは予備機だよ。俺の愛機はデスティニーだ」
「天使が予備機って……マジかよ」
ガリア多重ダムで“予備機”に撃墜されたという事実が、今さらながら重くのしかかる。
その表情に浮かぶ複雑な感情をよそに、もう一人はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、本題を切り出してきた。
「……ところでよ、野良犬はここに居やがるのか?」
「野良犬って……621のことか? その何でも噛みつくような言葉使いをどうにかしないと、色々と面倒だぞ?」
「大きなお世話だ。……んで、野良犬はいるのかいないのか、どっちなんだ」
「いるよ。どうせ難癖付けて白黒つけようって感じか? ハァ……ちょっと待ってろ」
そう言って、レイは懐から通信機を取り出した。
少し面倒な予感を覚えつつ、回線を繋ぐ。
《レイ? どうしたの?》
「ああ、621? 少し面倒なことになってな。今どこにいる?」
《シミュレーションエリアにいる。いまラミーが地獄を味わってる》
「地獄? いったい何をしているんだ?」
《日本兵たちがラミーの腕が酷いということで鍛えなおしてもらっている》
思わず、レイは内心で「マジか」と呟いた。
事情はだいたい把握できたが、今の状況を放置するわけにもいかない。
こうしてレイは、RaDの雑用として派遣されたイグアスたちを連れ、シミュレーションエリアへと向かうのだった。
◇◆◇
シミュレーションエリアでは、まさに文字通りの地獄が展開されていた。
ラミーは自身のマッドスタンプ単機で、複数のトレーナーACを相手取らされていたのである。
そのトレーナーACに搭乗しているのは日本兵たち。
性能だけを見れば、マッドスタンプはトレーナーACよりわずかに上だ。しかし、それも単機対単機であれば、の話だった。
複数機による連携、包囲、射線管理。
そのすべてが徹底され、ラミーのマッドスタンプは見る間に追い詰められていく。回避の甘さを突かれ、躱しきれるはずもなく、ほどなくして撃墜判定が下された。
「おっ俺のマッドスタンプがあーっ!?」
悲鳴が響くのとほぼ同時に、罵倒役を任された日本兵が容赦なく言葉を叩きつける。
「貴様、無敵と言っておきながらなんたる体たらくだ!」
「だ、だがよう……相手は複数なんだぜ!? いくら俺様が無敵でもあの数は……」
「馬鹿者! 戦場では物量で攻めるのは当然のことだ! 分かったら逝け!」
「おい、絶対死ねという意味でいけって言っただろう!?」
そこへ、さらに追い打ちをかけるように教官役の日本兵が前に出る。
精神面を確実に削る、その言葉は妙に重かった。
「死中に活を見出すことこそ、己が潜在能力を引き出す切っ掛けになり得るのだ!」
「それはテメェだけの話だろうが!? 俺はそんなもんなくとも……」
言い終わるより早く、再びマッドスタンプが集中砲火を浴びる。
そして、またしても撃墜判定。
「おっ俺のマッドスタンプがあーっ!?」
ここまで来るともはや芸術的ですらあった。
モニター越しにその様子を見ていた617も、思わず呆れた声を漏らす。
《これはひどい……》
「何たるざまだ!」
「貴様何一つ、マトモにできんのか!」
「ボ、ボスーッ!? 助けてくれ~~~っ!?」
ラミーは必死にRaDの頭目へと助けを求めたが、その視線の先でカーラは笑っていた。
「ハハハ……あんだけ鍛えて貰えばラミーも万々歳だろうさ」
「しかし……これはやりすぎなのでは?」
「いや、気にするな。彼には今後のことを考えて、今の内に技量とそれに見合うACを作るだけだ」
《ラミー……ご愁傷さま》
エアはラミーに対してやりすぎではないのかと心配するが、閣下は今後のことを考えてラミーの技量強化とそれに見合ったACのアセンを行うので問題ないとのことだった。
621的にはご愁傷さまと祈るしかなかった。
そんなやり取りを背後に、シミュレーションエリアへと到着した一行も、その光景を目の当たりにしていた。
「あれま……案の定、扱かれているなラミーの奴……」
「おいおい……あのトレーナーACの動きおかしいだろ? 数もそうだがよお……」
「それ以前に何だこの展開……」
それぞれの役者が揃い、621はイグアスに本当に自分と戦うつもりなのか聞き出した。
《どうしても、白黒つけておきたいの?》
「当然だろうが。あの天使野郎もそうだが、テメェだけには負けたくねえんだよ」
イグアスの瞳には闘志が宿しているのか、その決意は強かった。
621も今のイグアスは三周目のイグアスの記憶を有しているのか確かめるのにまたとない機会だった。
《そう……レイ、いい?》
「構わないが、あくまでシミュレーションで決着を付けろよ? ただでさえイグアスたちはACをベイラムに置いたまま派遣されたんだからさ」
こうして、シミュレーションエリアに新たな緊張が走る。
621とイグアス──二人の対決は、避けられない流れとなっていった。
◇◆◇
シミュレーション空間に、二機のACデータが次々と反映されていく。
621の操るloader4改、そしてイグアスのヘッドブリンガー改。
レイは今回の戦いにおいて、立会人であり審判役でもあった。
「いいか? 今回の勝負はアリーナと同じ仕様としてリペアキットを使用を禁ずる。先に相手のACのAPを削り切った方を勝ちとする。いいな?」
《分かった》
「ようはいつもと変わらねえってことだろ」
ステージとして選ばれたのは、遮蔽物の一切ない灰色の空間だった。
地平も、壁も、目印すら存在しない。純粋に機体性能と操縦技量だけが試される舞台だ。
両者のACが、シミュレーションデータとして完全に同期される。
『──メインシステム、戦闘モード起動』
共通COMのアナウンスを合図に、二機は同時に動き出した。
《先ずはコレ……!》
瞬時に左手の装備を切り替え、パルスブレードを炸薬弾投射機へ。
そのまま爆雷がばら撒かれ、空間を埋め尽くすようにイグアスへと迫る。
……だが、イグアスは慌てない。
射程も、散布範囲も、すでに把握済みだった。
「爆雷の射程は分かってんだよ、こっちは……!」
爆風の中から、間髪入れず二発のグレネード弾が飛び出す。
直進軌道、回避困難。直撃は免れない──そう思われた瞬間。
「甘えっ!!」
ヘッドブリンガー改は左足を軸に、機体を時計回りへと捻るように回転させた。
人型兵器としては異質とも言える、低重心を活かした挙動。
二発のグレネード弾は紙一重で空を切り、その直後、反撃のリニアライフルが火を噴いた。
《嘘っ!?》
想定外の回避行動、そして即座の反撃。
弾は正確に命中し、loader4改のAPが一気に十四パーセント削り取られる。
その光景に、観戦していたレイも思わず声を上げた。
「今の動きって、ボトムズのATとほぼ同じ回避パターンじゃねえか!?」
「何だいそりゃ?」
「分からん……」
だが、621はもう理解していた。
目の前の相手は、以前の周で知っているイグアスとは明確に違う。
動き、反応、判断──すべてが一段階、研ぎ澄まされている。
《やっぱり今のイグアスは違う……でも!》
その言葉とともに、621は戦法を切り替える。
同じ手は通じない。ならば、間合いを壊し、叩き潰すだけだ。
「どうしたよ、野良犬? テメェの力はそんなもんじゃねえ筈だ!」
《言われずとも……!》
ヘッドブリンガー改とloader4改は、互いに譲らぬ一進一退の攻防を続けていた。
実弾と爆炎、レーザーと鋼の刃が交錯し、APは確実に削られていく。
残量が三割、四割と見えてきたところで、イグアスは一つの決断を下した。
「チッ……! このままじゃあ埒が明かねえ。だったら!」
右肩の拡散バズーカが火を噴き、予測進路へとロケット弾がばら撒かれる。
爆風を伴う制圧射撃。621は即座に回避行動へ移るが──それこそが狙いだった。
「これで……終わりだ!」
左肩の装備が瞬時に切り替わる。
マシンガンから、パイルバンカーへ。
ヘッドブリンガー改は一気に距離を詰め、その一撃を叩き込もうとした。
《……甘い!》
「んなっ!?」
だが、その動きはすでに読まれていた。
クイックブーストで紙一重の回避。
直後、チャージされたレーザーショットガンが解放され、収束した光が至近距離から放たれる。
回避不能。
直撃。
ヘッドブリンガー改は衝撃に晒され、スタッガー状態へと移行し、完全に動きを止めた。
《止め!》
容赦なく、右肩の二連グレネード砲が撃ち込まれる。
二発同時着弾。爆炎が機体を包み込み、APは残り二パーセントにまで削り取られた。
そして、パルスブレードが振り上げられる。
「まだ……終われっかよ!!」
イグアスは吼え、パイルバンカーを構えた。
動かぬ機体に残された、最後の選択。
相打ち覚悟の突撃だった。
621とイグアス。
二つの機体が、互いの必殺を叩き込み──
結果は、誰も予想していなかった形で訪れる。
「両機のAP0%……この勝負は引き分けだ」
「イグアスの野郎……あそこまでやりやがるとはな」
「兵装4、アレが兵装5の実力か? 結構見違えたな」
「そうだろう。……つーか兵装4って、もしかして
「そうだが、何も問題ないだろう?」
「ヴォルタ、こいつらの命名はスルーという名の慣れで適応しておかないと胃に穴が開くぞ」
「マジかよ……」
戦闘が終わり、静まり返るシミュレーション空間。
その中で、イグアスは小さく笑った。
「ハッ……やっぱ強えな、野良犬」
《イグアスも、かなり強かった》
「へっ、言ってろ」
一拍置き、イグアスは視線を向ける。
「テメェと戦って分かったことがある。テメェ、あの時の野良犬だろう?」
《あの時? ……いつの話?》
「衛星軌道上で戦った時だ。テメェに何度もやられたことや、憧れたことを覚えている」
その言葉を聞いた瞬間、621は確信した。
目の前の男は、自分と同じ──周回者になっている。
《……何時からなの?》
「あの天使野郎にやられて、シミュレーションにぶっ通しでやってる時にだ」
《……そう》
静かな返答。
だが、その一言には、これから先の運命を大きく変え得る重みがあった。
◇◆◇
シミュレーションでの激闘が終わり、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ頃。
時刻は丁度、昼時を迎えていた。
OMCSから生成された食料を、日本兵の調理担当が手際よく調理し、RaDの面々や雑用として派遣されたイグアスたちに振る舞っていく。
戦場とは思えない、穏やかな光景だった。
「……というか、OMCSがRaDにも回収されているとはな」
「アレは結構便利なもんでね。うちでも有効活用させてもらってるよ」
「OMCSって……足立重工が作ったっていう自律循環型生命維持装置だったか?」
「食料や水、酸素を生成するなんざどんないかれ性能だ……」
そんな会話を交わしている間にも、調理担当者が次々と料理を運んでくる。
「お待ちどうさん。それぞれの料理が出来たぞ」
卓に並んだのは、実に多彩な献立だった。
ざる蕎麦、パスタ、鮭の切り身の焼き魚定食、そして中華料理の酢豚と炒飯。
戦闘直後とは思えないほど、食欲をそそる光景が広がる。
「おいおい……マジでいかれてんだろ、あの装置」
「まあ、飯が食えるだけでも感謝だな。食おうぜ」
「そんじゃ、いただきます」
《……いただきます》
その言葉を耳にし、イグアスたちと621は思わず首を傾げた。
食事を前にして発せられた、聞き慣れない一言が引っかかったのだ。
「あ? 何だその言葉?」
《レイに617、なんで食べる前にいただきますって言うの?》
「ああ、これは俺や日本兵たちの文化だな。食べるものに対して感謝を込めて言うんだ。食べ終わったら“ごちそうさま”って、糧となった食べ物に感謝するって感じだ」
《ん……私も、感謝》
「まっ、文化の違いって奴だろうね」
そういうものか、と半ば納得しきれないまま、イグアスは炒飯をレンゲですくい、そのまま口に運んだ。
「……!? めっちゃクソ美味ぇ……!」
驚きに目を見開くその隣で、酢豚を箸でつまんだヴォルタも続く。
「マジか、ここまで美味いのかよ!?」
「当然だ。OMCSから生成される食料の再現度は98%だ。残り2%は工夫次第だ」
《美味しいのは変わりないんだね……》
「そのお陰でレパートリーが増えて楽だけどね、こっちは」
戦いの後の食事は、奇妙な連帯感とともに場を和ませていく。
周回や因縁、立場の違いを一時忘れさせる、ささやかな休息の時間だった。
◇◆◇
昼食を終え、ひと息ついた後。
イグアスとヴォルタはレイに促され、基地内の奥へと歩いていた。
「おい、俺達をどこに連れてくって言うんだよ」
「俺達に関係あることなのか?」
「関係あるさ。お前たち用の仕事道具を貸す」
短いやり取りのまま辿り着いたのは、ひとつの格納庫だった。
扉が開かれても、内部は照明が落とされ、闇に包まれている。
そのまま数歩進んだところで、レイが壁際のスイッチに手を伸ばした。
次の瞬間、天井灯が一斉に点灯し、暗闇が押し払われる。
光の中に浮かび上がったのは──二機の機体だった。
「こいつは……」
「マジか……」
思わず息を呑む二人を横目に、レイは一歩前に出る。
「驚いたか? 左から説明するぞ」
並び立つ機体を、順に指し示していく。
「GAT-X102“デュエル”。こいつは汎用性と白兵戦に特化した機体だ。こいつをイグアスに貸し与える」
視線が自然と、赤を基調としたその機体へと吸い寄せられる。
「んでその隣がGAT-X103“バスター”だ。こいつは砲撃支援を目的とした機体だ。こいつはヴォルタが乗れ」
重厚な砲身を備えた機体が、静かに存在感を主張していた。
「まさか……俺たちがこんな機体に乗れるとは思いもしねえよ」
「つーか、こんな機体を用意できるあたりテメェただの人間じゃねえだろ。何者だ」
その言葉には、疑念と確信が混じっていた。
イグアスは、目の前の男がただの傭兵や協力者ではないことを、すでに察していた。
「まあ、これ以上隠していると疑うのも当然だな」
レイは小さく息を吐き、二人の方を振り返る。
「俺は日本帝国の司令兼、足立重工の裏社長を務める足立レイだ。改めてよろしく」
静かに告げられたその正体に、格納庫の空気が一変する。
「マジかよ……」
「とんでもねえ大物じゃねえかよ!」
驚愕と戸惑いが入り混じる中、二機のMSは黙して佇んでいた。
それは、新たな役割と戦いが、彼らを待ち受けていることを示すかのようだった。