転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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観測データ奪取、封鎖機構の介入

 インキュベーションパーティ襲撃事件から一週間が経った。

 

 ルビコン全体を巻き込んだ大豊娘々の戦闘映像の拡散や、オリオンを名乗る過激派テロリストたちの処理、そしてその裏で動き始めた封鎖機構の不穏な影。様々な騒動があったものの、独立傭兵である621の日常は、結局のところ依頼と戦闘へ戻っていく。

 

 格納スペースで、621は自身のAC――loader4のアセンブルを行っていた。

 

《次の依頼はベイラムからの依頼。……となると、これが良いかな?》

 

 機体の基本構成は変えない。

 

 ヘッド、コア、アーム、レッグパーツはそのまま。FCSとスラスターも変更なし。loader4の癖は身体に馴染んでいる。余計な変更を加えれば、むしろ感覚が狂う可能性があった。

 

 変えるのは武装だけだ。

 

 右腕にはBAWS社製のバーストライフル。堅実な実弾火器であり、継戦能力と取り回しの良さに優れる。左腕にはタキガワ・ハーモニクス製のパルスブレード。近接戦で瞬間的に敵の姿勢を崩し、仕留めるための切り札だ。

 

 右肩にはメリニット社製の二連装グレネードキャノン、SONGBIRDS。重いが、着弾時の衝撃と爆発力は頼りになる。敵の防御を崩すにも、密集した目標を吹き飛ばすにも使える装備だった。

 

 そして左肩には大豊製の炸裂弾投射機、DF-ET-09 TAI-YANG-SHOU。投射した炸裂弾で敵の進路を制限し、爆発によって面制圧を行う武装である。

 

 今回の依頼がベイラム系列である以上、敵は高確率でアーキバス関係。ならば、距離を選ばず対応できる構成がいい。近接、実弾、爆発物。どれも扱い慣れている装備だ。

 

《これでよし。……あとはウォルターから連絡を待つだけ》

 

 アセンブルを終えたloader4が、整備ラックの上で静かに待機する。

 

 そのまましばらく待っていると、通信回線にウォルターからの呼び出しが入った。

 

『621。仕事の時間だ』

 

《ん……待ってた》

 

 短く返す621に、ウォルターはいつもの落ち着いた声で続けた。

 

『ベイラム系列企業から依頼が入ってる』

 

 そして、621宛の録音メッセージが再生される。

 

 聞こえてきたのは、レッドガンの六人目――G6レッドの声だった。

 

『G13レイヴンに伝達! ベイラム同盟企業、大豊からの依頼だ。作戦地点は中央氷原ヒアルマー採掘場。貴様には、そこに設営されたアーキバス調査キャンプを襲撃してもらいたい』

 

 中央氷原。ヒアルマー採掘場。

 

 以前、カーゴランチャーで無理やり飛ばされ、吹雪の中で二日間足止めされたあの氷原地帯が、再び作戦地点として指定される。

 

『連中は氷原入りを果たして以来、調査ドローンを飛ばして方々の観測を行っている。その中には当然、コーラル集積反応に近付く手がかりが含まれているに違いない』

 

 アーキバスはすでに中央氷原で観測を進めている。ベイラムとしては、そのデータを先に奪い、コーラル集積反応へ近づく手がかりを得たいのだろう。

 

 企業同士の争いは、相変わらず露骨だった。

 

『わかるな? それを奪ってくるのが貴様の仕事だ。G13レイヴン! 確実な遂行を期待する!』

 

 そこで録音メッセージの再生が終了する。

 

《内容は把握した。ウォルター、行ってくる》

 

 621の返答は迷いがなかった。

 

 だが、ウォルターはすぐに送り出すのではなく、わずかに間を置いてから言った。

 

『インキュベーションパーティの疲れが取れたところをすまない。仕事に差し支えるようなら言え。こちらで調整する』

 

 いつも通り淡々とした声ではある。だが、その中には621の状態を気遣う響きが確かにあった。

 

 パーティ襲撃、テロリストとの戦闘、映像拡散騒動。戦闘そのものより、精神的な疲労が残っていてもおかしくはない。ウォルターはそれを考慮しているのだろう。

 

 621は少しだけ沈黙し、それからいつものように短く答えた。

 

《大丈夫、ウォルター。エア、サポートをお願い》

 

『わかりました、レイヴン』

 

 エアの声が通信に重なる。

 

 loader4のシステムが起動し、各武装の接続チェックが完了していく。バーストライフル、パルスブレード、SONGBIRDS、TAI-YANG-SHOU。今回の任務に必要な装備は揃った。

 

 中央氷原ヒアルマー採掘場。

 

 アーキバス調査キャンプの襲撃と、コーラル観測データの奪取。

 

 621は再び、氷に覆われた戦場へ向かうことになった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一方その頃、ミレニアムの格納庫では、レイが別の意味で危険な訓練を続けていた。

 

 彼の前にあるのは、本国から送られてきた二機の新型機のうちの一機――XXXG-00W0、ウイングガンダムゼロ。

 

 白を基調とした機体は、格納庫内にあっても異様な存在感を放っている。背部のウイングユニット、変形機構を備えたフレーム、そしてその中核に搭載されたシステム。機体性能そのものも十分に異常だが、レイが何より警戒していたのは、コクピットに組み込まれた戦術・戦略インターフェースだった。

 

 ゼロシステム。

 

 超高度な情報分析と状況予測を行い、毎秒毎瞬、無数に計測される予測結果をコクピットの搭乗者の脳へ直接伝達するシステム。使いこなせば戦場の先を読む力となるが、飲まれれば搭乗者自身を壊しかねない危険物でもある。

 

 万が一を考え、レイはそのゼロシステムを起動させ、システムに飲まれないよう訓練していた。

 

「……ハァッ! ハァッ……ハァッ……」

 

 コクピットから降りたレイは、肩で荒く息をしていた。

 

 額には汗が滲み、顔色も良くない。肉体的な疲労というより、脳と精神を直接削られたような疲弊だった。

 

「司令、大丈夫ですか?」

 

 近くで待機していた日本兵が、さすがに心配そうに声をかける。

 

 レイは少しだけ呼吸を整え、苦々しく答えた。

 

「大丈夫じゃないな。こいつのシステムの再現度が高すぎる。乗りこなすのにかなり時間がかかる」

 

 “再現度が高すぎる”。

 

 それは本来なら褒め言葉のはずだった。だが、この場合は違う。ゼロシステムの本質まで忠実に再現されているということは、その危険性までもが本物と同等であるということだ。

 

 その訓練を見ていた617が、静かに問いかける。

 

《レイ……ゼロシステムってそんなに危険なの?》

 

 彼女の声には、いつもよりも明確な不安が滲んでいた。

 

 レイはウイングゼロを見上げながら、慎重に言葉を選ぶ。

 

「この機体のシステムは超高度な情報分析と状況予測を行い、毎秒毎瞬無数に計測される予測結果をコクピットの搭乗者の脳に直接伝達する戦術、戦略インターフェース……」

 

「「「……ううん?」」」

 

 説明を聞いた日本兵たちは、そろって首を傾げた。

 

 難しい言葉が多すぎたのだろう。理解しようとはしているが、いまいち掴みきれていない顔だった。

 

 そんな中、617がぽつりと要点をまとめる。

 

《……つまり、未来を見せてくるってこと?》

 

「「「おおっ!」」」

 

 日本兵たちは一斉に納得したような声を上げた。

 

 かなり乱暴な要約ではある。だが、現象としては近い。膨大な予測結果を搭乗者に見せ、行動の選択肢を提示するという意味では、未来を見せるシステムと言っても間違いではない。

 

 ただし、レイはすぐに首を横に振った。

 

「そんな生易しいものじゃない。このシステムの危険性は脳に様々な予測結果を直接伝達するから脳の負担が半端じゃないくらいにヤバい」

 

「ヤベェな……」

 

「「「ああ、ヤベェな」」」

 

 今度は理解できたらしい。日本兵たちの表情が一気に引きつる。

 

 未来を見せる。聞こえだけなら便利な力に思える。だが、それを脳へ直接叩き込まれ続けるとなれば話は別だ。人間の処理能力には限界がある。ましてや戦場の一瞬ごとに無数の分岐を見せられれば、精神への負担は尋常ではない。

 

《……強化人間なら大丈夫?》

 

 617がそう問いかける。

 

 強化人間であれば、通常の人間よりも脳と神経に特殊な処置を受けている。だから耐えられるのではないか。そう考えるのは自然だった。

 

 しかし、レイは即座に否定した。

 

「大丈夫じゃない、問題だ。ゼロシステムの危険性はもう一つある。このシステムは基本として『相手を倒す、勝利を得る』事を目的としたもの。目的達成のためならば人道や倫理などお構いなしで、他人や仲間の犠牲、更には自分の自爆ですら躊躇せずひとつの可能性として提示する。もしゼロシステムに精神が負けてしまうとシステムが提示した行動のまま暴走を始めるか、耐え切れずに精神を破壊され、最悪死に至る可能性まである」

 

 その説明に、周囲の日本兵たちは冷や汗を浮かべた。

 

 ただ強い機体なら、まだ扱いようはある。危険な兵装でも、使い方を間違えなければ済む。

 

 だがゼロシステムは、操縦者の精神に直接干渉する。しかも勝利という目的のためなら、あらゆる犠牲を選択肢として提示してくる。搭乗者がそれに抗えなければ、機体ではなくシステムに操られることになる。

 

 617もまた、不安そうにウイングゼロを見上げた。

 

 そんな機体を、本当に動かして大丈夫なのか。

 

《レイ……無理しないでね》

 

 静かな声だった。

 

 レイは少しだけ表情を和らげ、彼女へ頷く。

 

「大丈夫だ。あまり使用しないさ」

 

 そう答えたものの、完全に安心できる言葉ではなかった。

 

 使わないに越したことはない。だが、使わざるを得ない場面が来るかもしれない。だからこそ、こうして訓練しているのだ。

 

 しばらく後。

 

 レイはウイングゼロの可動テストを兼ねて、中央氷原方面へ向かうことになった。目的地はヒアルマー採掘場周辺。621が向かった依頼地点と近いが、あくまで機体の機動確認とシステム挙動の確認が主目的だった。

 

 ウイングゼロはMA形態へと変形し、上空を飛行していた。

 

 白い機影が氷原の空を切り裂く。推力、姿勢制御、変形機構、センサー類。いずれも問題なく稼働している。単純な機動性能だけを見ても、ACや通常の封鎖機構兵器とは比較にならない。

 

「今のところは機体良好だ。問題なくテストが終わればいいのだが……」

 

 そう呟いた、その直後だった。

 

 機体の通信系に、謎のメッセージが割り込んだ。

 

『君の力、見させてもらうよ』

 

「メッセージ? いったい何処から……!?」

 

 発信源を探るより早く、異変が起きた。

 

 危険視していたゼロシステムが、勝手に起動したのだ。

 

 コクピット内の表示が一瞬で切り替わる。警告。予測演算。戦術分岐。膨大な情報が雪崩のように流れ込み、レイの意識へ直接叩き込まれる。

 

「な……マズい! システム停止……できないだと!? さっきのメッセージにウィルスでも……ぐっ!?」

 

 頭の奥を無理やりこじ開けられるような感覚。

 

 無数の戦場が見える。未来の分岐。敵影。味方の位置。最短の勝利手段。最も効率的な殲滅方法。犠牲を許容した場合の戦果。犠牲を排除した場合の失敗率。

 

 全てが同時に押し寄せてくる。

 

 ゼロシステムが、レイに未来を見せていた。

 

 いや、未来というよりも、勝利へ至るための可能性を暴力的に押しつけてくる。

 

「駄目だゼロ……! 下手に介入するな! あそこには621の……!」

 

 レイは歯を食いしばりながら、必死に意識を保つ。

 

 ヒアルマー採掘場には621がいる。ベイラムの依頼でアーキバスの調査キャンプを襲撃しているはずだ。そこへゼロシステムが示す最適解のまま突っ込めば、状況を壊しかねない。

 

 だが、システムは止まらない。

 

 ウイングゼロのセンサーが遠方の戦闘反応を捉える。アーキバス、封鎖機構、強襲艦、そして621の反応。

 

 流れ込んでくる予測の中に、明確な脅威が浮かび上がる。

 

 封鎖機構艦隊。

 

 そして、地上の621へ降りかかる圧倒的な火力。

 

 レイは荒い呼吸のまま操縦桿を握り締めた。

 

 ゼロシステムに飲まれるわけにはいかない。

 

 だが、見せられた未来を無視することもできなかった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 中央氷原、ヒアルマー採掘場。

 

 白く凍てついた大地に、アーキバスの調査拠点が設営されていた。氷床を穿つように置かれた観測機材と、上空や周辺を巡回する調査ドローン。そこにはコーラル集積反応へ近づくための手がかりが眠っている。

 

 loader4は雪煙を巻き上げながら、採掘場の外縁へと接近していた。

 

『行きましょう、レイヴン』

 

 エアの声が通信に響く。

 

 続けてウォルターの声が入った。

 

『ミッション開始だ。停泊している調査ドローンからアーキバスの観測データを抜き取っていけ』

 

《分かった。(ここまではループ通り。先ずは調査ドローンからデータを抜き取ること)》

 

 621は静かに機体を前へ出す。

 

 この任務の流れは知っている。調査キャンプへ侵入し、停泊中の調査ドローンからデータを奪取する。アーキバスの部隊はそれを阻止しようと動くが、戦力としては大きな脅威ではない。

 

 問題は、その後だ。

 

 だが今は、目の前の仕事を片付けるだけだった。

 

(アーキバスの調査部隊。先ずは調査部隊を片付ける)

 

 調査拠点へ踏み込んだ瞬間、アーキバス側の兵が反応した。

 

「なっ……侵入者か!?」

 

「敵はAC単機。おそらくは独立傭兵か」

 

「大方ベイラムの差し金だろう。迎撃しろ!」

 

 迎撃部隊が一斉に動き出す。

 

 だが、遅い。

 

 loader4はバーストライフルを構え、素早く射線を通した。短い連射が氷原の静寂を裂き、敵機の装甲を叩く。姿勢を崩した相手へ距離を詰め、左腕のパルスブレードが光を引いて振るわれた。

 

《……遅い!》

 

 ブレードの一撃が敵機を断ち、爆炎が白い景色を赤く染める。

 

 続けざまに、右肩のSONGBIRDSを展開。二連装グレネードキャノンから放たれた弾頭が地面を抉り、迎撃に出ようとしていた機体をまとめて吹き飛ばした。爆風で雪煙が舞い上がる中、loader4は止まらない。

 

《(あのシミュレーションやイグアスとの戦いと比べると遅い……やっぱり私自身に何かが変わってる……?)……今は仕事に集中》

 

 戦闘中にもかかわらず、621の中に小さな違和感が浮かぶ。

 

 反応速度、敵の動きの読み、射撃の繋ぎ。以前よりも、自分の操縦が鋭くなっている感覚がある。イグアスとの戦い、シミュレーション、これまでのループで積み重ねた経験。それらが今の自分を変えているのかもしれない。

 

 だが、そこで考え込む余裕はない。

 

 621は敵を処理しながら、一つ目の調査ドローンへ接近した。データリンクを接続し、観測データの抽出を開始する。

 

《先ず一つ目……データのロード開始》

 

 機体のモニターに転送ゲージが表示される。数秒の沈黙の後、エアの声が静かに流れた。

 

『……ルビコンの大気には今なお、かつての災害の名残が漂っています氷原入りの際、あなたが上空で通過したのも……そういった残留コーラルの流れです』

 

《……カーゴランチャーのアレね》

 

 積荷大砲による無茶な射出。その途中で見えた空の流れを、621は思い出す。大気中に漂う残留コーラル。かつての災害の残滓が、今なおルビコンの空に残っている。

 

 データ転送が完了し、621はすぐに次のドローンへ向かった。

 

『これで二つ目……』

 

 二つ目の観測データも順調に抜き取られていく。周囲に残っていたアーキバスの防衛部隊が接近するが、loader4の動きは淀みない。TAI-YANG-SHOUから放たれた炸裂弾が敵の進路にばら撒かれ、爆発が連鎖する。動きの止まった敵を、バーストライフルが正確に撃ち抜いた。

 

《ダウンロード完了。ウォルター、どう?》

 

『……興味深い内容だ。このデータはコピーを取っておこう』

 

 ウォルターの声は淡々としていたが、含みがあった。アーキバスが集めた観測データは、ベイラムだけでなくウォルターにとっても価値があるものらしい。

 

《残るはあと二つ……》

 

 621は三つ目の調査ドローンへ向かう。

 

 氷原の風が機体の外装を叩く。採掘場の奥では、アーキバスの簡易施設が警告灯を点滅させていた。敵にとっては突然の襲撃だろうが、621にとっては既知の任務だ。焦る理由はない。

 

『三つ目……』

 

 データリンクが成立する。

 

『中央氷原は不毛の地としてルビコニアンにも捨て置かれてきました。封鎖機構の手が入っているということは、やはりコーラルに関する何かがある……』

 

 エアの言葉に、621は小さく意識を向けた。

 

 不毛の地。捨て置かれてきた中央氷原。そこに封鎖機構が関わっている。ならば、この場所には単なる鉱物資源以上の何かがあるはずだった。

 

 そして、それを巡って企業も動いている。

 

 データ転送が終わり、621は最後のドローンへ向かった。

 

《これでラスト……》

 

 最後のデータリンクを開始する。

 

『これだけ広大な氷床です。何があってもおかしくは……』

 

 エアがそう言いかけた、その時だった。

 

 通信に別の声が割り込む。

 

「そこのAC! 我々の調査拠点で何をしている!」

 

 採掘場の外周から、アーキバスの調査部隊が戻ってきていた。どうやら外へ出ていた本隊が、襲撃を受けた拠点へ帰還したらしい。

 

 敵影が複数、センサーに映る。

 

『出払っていた部隊が戻ってきたか……? 構わん、迎撃しろ』

 

《そのつもり……》

 

 データ転送はすでに完了している。

 

 あとは目撃者を黙らせ、離脱するだけだ。

 

 loader4はブースターを吹かし、雪煙を巻き上げて敵部隊へ向き直る。右腕のバーストライフルを構え、左腕のパルスブレードに淡い光が灯る。

 

 中央氷原の静寂は、再び銃声と爆炎に飲み込まれていった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 戻ってきたアーキバス調査部隊は、もはや621の敵ではなかった。

 

 彼らは自分たちの拠点が襲撃されたことに怒り、観測データを奪われまいと必死に抵抗した。だが、その動きは621から見れば遅い。予測しやすく、対応しやすく、そして崩しやすい。

 

 loader4は雪煙を纏いながら機体を滑らせ、敵の射線を紙一重で外す。バーストライフルの連射が敵MTの装甲を削り、体勢を崩したところへSONGBIRDSの砲撃が直撃する。爆発が氷原を揺らし、白い大地に黒煙が上がった。

 

 残る一機が距離を取ろうとするが、それより早く621はブースターを吹かして間合いを詰める。左腕のパルスブレードが一閃し、アーキバス機の胴を深く裂いた。

 

 機体はそのまま火花を散らし、氷上へ崩れ落ちる。

 

《これでよし。この後は確かレッドから通信が……》

 

 621がそう考えた直後、まるで記憶をなぞるように通信が入った。

 

『G13レイヴンに伝達! 貴様の襲撃を受け、アーキバス調査部隊が本部と観測データの受け渡しを開始した。現場に急行し、それを阻止してもらいたい!』

 

 G6レッドの声が、緊迫した調子で響く。

 

 やはり来た。

 

 621は短く息を整え、すぐに機体を次の目的地へ向けた。ここまでは覚えている流れと同じ。観測データを奪取されたアーキバスは、残った調査部隊を使って本部へのデータ受け渡しを試みる。それを阻止するのが、次の仕事だ。

 

 ただし、これから先には封鎖機構の介入がある。

 

 だからこそ、621は移動を開始する前にウォルターへ通信を入れた。

 

《ウォルター、補給シェルパを手配して。一旦補給する》

 

『分かった。指定したポイントに補給シェルパを配置する』

 

 ウォルターの返答は短い。だが、それだけで十分だった。

 

 loader4は採掘場の氷上を駆け、指定されたポイントへ向かう。道中、アーキバスのMTが迎撃に出てくるが、今さら足止めにもならない。右腕のバーストライフルで牽制し、動きの止まった敵へTAI-YANG-SHOUの炸裂弾を投射する。爆炎が広がり、敵機が雪原に沈む。

 

 残る敵も、パルスブレードとグレネードで手早く処理した。

 

 そして、残りの調査部隊がいる地点の少し手前。そこがウォルターの指定した補給ポイントだった。

 

《ここに補給シェルパが来る……来た》

 

 氷原の向こうから、補給シェルパが接近してくる。

 

 いつも通りなら、淡々と補給を済ませて終わるはずだった。

 

 だが、その予想は次の瞬間、盛大に裏切られる。

 

『茨城県人ここにありだぁぁぁぁぁっ!!』

 

《……っ!?》

 

 補給シェルパから響いた謎の絶叫に、621の反応が一瞬だけ遅れた。

 

 戦場で敵の奇襲を受けても動じない621が、思わず固まるほどの勢いだった。氷原に響き渡るその声は、補給という単語からはあまりにもかけ離れている。

 

『どうした621? 何かあったのか』

 

 ウォルターが異変を察して問いかける。

 

 すると、別回線から少し慌てた声が入った。

 

『あの、ウォルター。レイヴンに手配した補給シェルパなのですが……アレに日本帝国の補給兵が混じっていたようです』

 

『……』

 

 通信越しに、沈黙が落ちる。

 

『すみませんっ!』

 

 謝罪の声が響く。

 

 ウォルターはしばらく何も言わなかったが、やがて諦めたように返した。

 

『……まぁいい。621、喧しいかもしれんが補給はしておけ』

 

《……びっくりした》

 

 621は短くそう答えるしかなかった。

 

 補給シェルパは、声の勢いに反して仕事自体はきっちりしていた。弾薬コンテナが開き、各武装への補給が進む。バーストライフルの弾倉、SONGBIRDSのグレネード弾、TAI-YANG-SHOUの炸裂弾。消耗していた弾薬が順次補充され、機体の状態も最低限チェックされる。

 

 補給兵は相変わらず何か叫んでいたが、作業速度は妙に速い。

 

 やがて全武装の補給が完了し、loader4の戦闘継続能力は回復した。

 

 621は再び操縦桿を握り直す。

 

(ここまではループ通り。……でも、なんだか嫌な予感がする)

 

 任務の流れは覚えている。

 

 この先でアーキバス調査部隊がデータを送信しようとしている。そして、その頭上には封鎖機構の強襲艦が現れるはずだ。

 

 そこまでは、知っている。

 

 だが胸の奥に引っかかる違和感が消えなかった。

 

 前のループと同じなら、対処できる。強襲艦の動きも、MTやLCの投下も、621は知っている。撃破する手順も頭に入っている。

 

 それなのに、何かが違う。

 

 氷原の空は、不自然なほど静かだった。

 

 621はわずかに視線を上げ、それから目的地へ向けてloader4を加速させた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 補給を終えた621は、指定されたポイントへ向けて進んだ。

 

 氷原の風は相変わらず冷たく、視界の端を白い雪煙が流れていく。だが、loader4の動きに迷いはない。補給によって弾薬は回復している。機体の状態も問題ない。あとは、アーキバス調査部隊による観測データの受け渡しを阻止するだけだった。

 

 ほどなくして、センサーが複数の敵影を捉える。

 

 アーキバスの残存調査部隊。

 

 彼らは本部へのデータ送信を進めている最中だった。通信波形と観測機材の動作から見ても、まさにデータの受け渡しを行っている段階だと分かる。

 

 621は一瞬だけ距離を測り、右腕のバーストライフルを構えた。

 

 短い連射が氷原を裂き、近くにいたMTを撃ち抜く。装甲を貫かれた機体が火花を散らしながら崩れ落ち、その爆発が調査部隊の注意を一斉に引きつけた。

 

「AC……! 報告にあった独立傭兵か!?」

 

「観測データが何件か抜かれている……生きて帰すな!」

 

 アーキバス部隊が即座に迎撃態勢へ移る。銃口がloader4へ向けられ、複数の火線が氷原上を走った。

 

『……殲滅しろ、621』

 

《了解。(ごめんウォルター。しばらくは回避に専念する)》

 

 621はウォルターにそう返しながらも、すぐには反撃しなかった。

 

 敵弾をクイックブーストで躱し、氷原の起伏を利用して射線をずらす。追撃してくるMTの攻撃も、ブースターの短い噴射で紙一重に外していく。撃てる場面はいくらでもあった。だが、621はあえて引き金を引かない。

 

 待っているものがあった。

 

 この先に起きるはずの出来事を、621は知っている。

 

 アーキバス調査部隊の攻撃は激しくなる。彼らからすれば、観測データを奪った独立傭兵をこの場で仕留めなければならない。だが、621にとって重要なのは彼らを今すぐ倒すことではなく、“その瞬間”まで位置を調整し続けることだった。

 

「待て! 何だこの音は……?」

 

 戦闘中、アーキバス兵の一人が違和感に気づいた。

 

 空気を震わせる、低く重い駆動音。氷原の上空から降りてくる圧迫感。通常の航空機とも、ACのブースター音とも違う。

 

 621の意識が鋭くなる。

 

(来た! 封鎖機構の強襲艦の艦首レーザーの発射準備!)

 

 次の瞬間、loader4は一気にその場を離脱した。

 

 ブースターを最大出力で吹かし、氷を蹴るように加速する。アーキバス部隊が追撃しようとした直後、彼らの頭上に巨大な影が差した。

 

 惑星封鎖機構の強襲艦。

 

 その艦首に集束した光が、山のような質量を持つ艦体から地上へ向けて放たれる。

 

「上空から……攻撃!?」

 

「ギャァァァァッ!!」

 

 艦首レーザーが氷原を薙ぎ払った。

 

 逃げ遅れたアーキバス調査部隊は、反応する間もなく光に呑まれる。MTも観測機材も、送信設備もまとめて焼き払われ、白い大地に赤熱した傷跡が刻まれた。

 

 爆風と熱が遅れて広がり、loader4の装甲を揺らす。

 

『レイヴン! 上から狙われています!』

 

『この識別信号は……惑星封鎖機構か!?』

 

 ウォルターの声に、珍しく驚きが混じっていた。

 

 だが、621は冷静だった。

 

 ここまではループ通り。

 

 アーキバス調査部隊のデータ受け渡し。封鎖機構の介入。上空からの強襲艦による艦首レーザー。全て、知っている流れだった。

 

《相手が封鎖機構でもやることは変わらない》

 

 loader4は強襲艦を見上げるように姿勢を整える。

 

 直後、通信にまた別の声が割り込んだ。

 

『超巨大レーザー航空戦艦ドレッドノーチラス接近!』

 

 こんな時でも、日本兵は相変わらずだった。

 

《いや、アレ封鎖機構の強襲艦だから……》

 

 621が淡々と訂正する。

 

『超巨大レーザー”パァンッ!”……』

 

 何かを言い切る前に、通信越しに乾いた音が響いた。

 

 沈黙。

 

 そして、エアの声がいつもより少しだけ澄ました調子で入る。

 

『……すみませんレイヴン。少し静かにしてもらいました』

 

《えっ……う、うん》

 

 621は少しだけ引いた。

 

 何をどうやって黙らせたのかは分からない。分からないが、深く聞かない方がいい気がした。エアもまた、前回の騒動から妙な方向に強くなっているのかもしれない。

 

 だが、すぐに思考を切り替える。

 

 今、目の前にいるのは封鎖機構の強襲艦。原作通りなら、この後にMTやLCが投下され、地上戦へ移行する。

 

 そして最終的には、あの強襲艦を落とす必要がある。

 

 loader4はブースターを吹かし、艦首レーザーの次弾を警戒しながら移動を開始した。

 

 氷原の上空に浮かぶ巨大な影。

 

 その相手を前にしても、621のやることは変わらない。

 

 敵なら、倒す。

 

 それだけだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 封鎖機構の強襲艦は、氷原上空を低く旋回しながら、対空砲とミサイルを雨のように撃ち下ろしていた。

 

 地上から見上げれば、まさに空そのものが敵になったような圧迫感だった。砲火が雪煙を吹き飛ばし、ミサイルが氷原に着弾するたびに白い地面が爆炎で抉られていく。

 

 だが、621は慌てない。

 

 loader4は砲撃の合間を縫うように滑り、ミサイルの軌道を読み切って最小限のクイックブーストで回避する。無駄に撃ち返すことはしない。強襲艦そのものを相手にするのは、まだ少し早い。

 

 待つべき瞬間がある。

 

(やはり降下してくる場所はループ通りね。後はタイミングを待つ……)

 

 621の視線は、強襲艦の下部ハッチへ向いていた。

 

 そして、予想通りにそれは開く。

 

 機体投下用の格納部から、封鎖機構のMTとLCが次々に降下してきた。重力に引かれながら氷原へ降り立とうとする敵影。その着地点も、降下タイミングも、621の記憶にあるものとほぼ一致している。

 

 狙い通りだった。

 

《(今!)……アサルトアーマー!》

 

 loader4を中心に、圧縮されたパルスの爆発が一気に広がる。

 

 着地直後、あるいは降下姿勢のまま巻き込まれたMTは、反応する暇もなく爆心地に呑まれた。装甲が弾け、内部機構が焼き切れ、機体は次々と爆散する。

 

 LCはさすがにMTほど脆くはない。直撃を受けても大破までは至らなかった。だが、至近距離でのパルス爆発による損傷は無視できるものではなく、装甲と姿勢制御に明確な乱れが出ていた。

 

『SGの保有戦力ではない……! 執行部隊が投入されたか……! 621! 相手は封鎖機構のLC機体だ! SGのMTとは性能が違う!』

 

 ウォルターの警告が飛ぶ。

 

 だが、621は冷静だった。

 

《大丈夫、この動き……レイ達と比べたらまだ遅い》

 

 封鎖機構のLCは確かに強い。通常のMTとは比較にならない性能を持ち、火力も機動力も一段上だ。

 

 だが、今の621にとっては“未知の脅威”ではなかった。

 

 デュエルを駆るイグアスとの戦い。レイや足立重工の機体との模擬戦。これまでのループで積み重ねた経験。そうしたものと比べれば、LCの動きにはまだ読み取れる癖がある。

 

 loader4が一気に前へ出た。

 

 損傷したLCの一機が迎撃しようとするが、射線を合わせる前に621は横へ滑る。バーストライフルの連射が装甲の弱い箇所を叩き、姿勢制御がわずかに乱れた瞬間、左腕のパルスブレードが閃いた。

 

 一機目が沈む。

 

 二機目は距離を取ろうとするが、SONGBIRDSの二連装グレネードがその進路を塞いだ。爆風で足を止められたところへ、TAI-YANG-SHOUの炸裂弾が重なり、内部フレームが悲鳴を上げる。そこへさらにバーストライフルの追撃が入り、機体が崩れ落ちた。

 

 三機目は近接を警戒して上昇しようとした。だが、その動きも読まれている。621はすでにその下へ潜り込み、ブースターを吹かして一気に距離を詰める。刃が胴体部を斬り裂き、爆発が氷原に火柱を上げた。

 

 LC三機は、ほとんど一方的に撃墜された。

 

『敵艦が再度接近しています!』

 

 エアの警告と同時に、強襲艦が再び低空へ戻ってくる。

 

 艦体の側面から無数の小型ドローンが展開された。地上のACを取り囲み、射線を散らしながら圧殺するための子機群だ。

 

『子機が展開された。対処しろ、621』

 

 ウォルターの指示が入る。

 

 だが、621はドローンへ照準を向けなかった。

 

《ドローンは無視。狙うは本命……!》

 

 loader4は雪煙を蹴り、強襲艦へ向けて突進する。

 

 周囲のドローンが一斉に火線を浴びせるが、621はそれを回避しながら強襲艦の艦橋を正確に捉えていた。狙うべき場所は知っている。艦橋を破壊すれば、強襲艦は致命的な制御障害を起こす。

 

 SONGBIRDSの砲口が上を向く。

 

 二連装グレネードが放たれ、艦橋付近で爆ぜた。装甲板が吹き飛び、艦体が大きく揺れる。続けてバーストライフルの射撃が破損部へ叩き込まれ、最後にTAI-YANG-SHOUの炸裂弾が艦橋周辺をまとめて吹き飛ばした。

 

『敵艦、動力系統に誘爆!』

 

『巻き込まれるぞ、離脱しろ621』

 

 ウォルターの声に従い、621は即座に距離を取る。

 

 loader4はブースターを全開にして氷原を駆け抜け、十分な距離を確保した。数秒後、強襲艦の内部で誘爆が連鎖する。艦体が大きく傾き、赤熱した亀裂が走り、次の瞬間、巨大な爆発が氷原の空を染めた。

 

 封鎖機構の強襲艦は、轟音とともに墜ちていく。

 

『ミッション完了です……お見事でした、レイヴン』

 

《サポートありがとね、エア》

 

 エアの声に、621は短く返す。

 

 ひとまず、目の前の脅威は排除した。

 

『ひとまず脅威は去ったか……』

 

 ウォルターもまた、わずかに安堵したように呟く。

 

 だが、その声には完全な安心はなかった。

 

『強襲艦に執行部隊……封鎖圏内では本来運用されない戦力だが……』

 

『となると、やはり……?』

 

 エアが慎重に言葉を継ぐ。

 

『特例の派遣か……あるいは……』

 

 ウォルターがそう言いかけた、その時だった。

 

『……っ!? レーダーに新たな反応! この反応は……!』

 

『あれは……!』

 

 エアの声が一瞬、鋭く跳ねた。

 

 621は反射的に上空を見上げる。

 

 そこにあったのは、一隻ではない。

 

 封鎖機構の艦影。

 

 それも、数え切れないほどの艦影が、氷原の空を覆い始めていた。

 

 百を超える封鎖機構の艦隊が、621の頭上に集結していた。

 

 その圧倒的な数に、621の思考が一瞬だけ硬直する。

 

(数が多すぎる!? 前のループでも精々数十隻が限度のはず……!)

 

 知っている流れから、明確に外れていた。

 

 これまではループ通りだった。アーキバスの観測データ、封鎖機構の介入、強襲艦の出現と撃破。そこまでは経験の範囲内だった。

 

 だが、この艦隊規模は違う。

 

 ルビコンの空に集まる無数の強襲艦。その影が氷原へ落ち、白い大地を暗く塗り潰していく。

 

 そして621は理解する。

 

 ここから先は、もうループ通りではない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 封鎖機構の大艦隊が、ヒアルマー採掘場上空を覆っていた。

 

 それは単なる増援ではなかった。先ほど621が撃沈した強襲艦など、艦隊全体から見れば斥候か前触れに過ぎない。空を埋めるほどの艦影。重く垂れ込める威圧感。氷原に落ちる影は広く、まるでルビコンそのものに巨大な蓋が降ろされようとしているかのようだった。

 

 そして、封鎖機構の艦隊からルビコン全土へ向けての放送が流れる。

 

『ルビコンに不法侵入したすべての勢力に告ぐ。直ちに武装解除し、封鎖圏外へと退去せよ』

 

 その声は感情を含まない。だが、だからこそ重かった。

 

 命令であり、最後通告であり、拒否すれば排除するという宣告でもあった。

 

 強襲艦の格納部が次々と開き、そこからLC、HCが発艦していく。だが、それだけではない。ザムザザー、ゲルズゲー――そしてレイたちの世界から持ち込まれたはずの兵器までもが、封鎖機構の戦力として姿を現していた。

 

『これ以上の進駐は惑星封鎖機構への宣戦布告と見なし、例外なく排除対象とする。繰り返す、例外はない』

 

 氷原に響く宣告。

 

 それを聞いたエアの声に、明確な緊張が混じった。

 

『この艦隊は……!?』

 

 ウォルターもまた、低く呟く。

 

『どうやら派手にやりすぎたようだ……。企業も……俺達もな』

 

 その言葉に、621は何も返さなかった。

 

 封鎖機構が重い腰を上げたのだ。

 

 これまで局地的な介入や監視に留めていた封鎖機構が、ついに本格的な惑星封鎖を実行するため、艦隊を送り込んできた。これは単なる戦闘ではない。ルビコンにいる全勢力へ向けた制圧作戦の始まりだった。

 

(もうここから先はループの経験は役に立ちそうもない。ここから先は未知の道……)

 

 621は上空を見上げる。

 

 前のループでは、こんな規模の艦隊は現れなかった。ここまで大量の戦力が、ヒアルマー採掘場上空に集結することなどなかった。

 

 原因は分かりきっている。

 

 企業の動き。足立重工の存在。ガンダムタイプの出現。封鎖機構側に流れた異質な技術。そして、自分たちがこれまで積み重ねてきた行動。

 

 世界はすでに、知っている流れから大きく外れていた。

 

 その時、エアが何かを捉えた。

 

『っ! 封鎖機構の艦隊上空に反応あり。この識別は……』

 

 封鎖機構の艦隊も、同じ反応を確認していた。

 

「艦長! 上空に反応あり!」

 

「何っ? 数と識別は?」

 

「数は1……識別は……っ!? 上空より高エネルギー反応!」

 

「何っ⁉」

 

 次の瞬間だった。

 

 上空から、山吹色の閃光が降り注いだ。

 

 それは細いレーザーなどではない。空間そのものを焼き切るような、太く、圧倒的な光の奔流だった。先頭に立っていた封鎖機構の強襲艦が、その光に艦体を貫かれる。

 

 装甲を裂き、内部構造を焼き、動力系統にまで到達した閃光は、一瞬で強襲艦を致命的な状態へ追い込んだ。

 

「強襲艦アトランティス、大破轟沈!」

 

「今のはビームか? だが、あのエネルギー量は……」

 

「艦長、先ほどの攻撃して来たものの識別が判明しました! ホワイト・ゴースト! ホワイト・ゴーストがいます!」

 

「ホワイト・ゴースト……だと!?」

 

 封鎖機構の艦隊に動揺が走る。

 

 621もまた、その光景を見ていた。

 

 一隻の強襲艦が、山吹色の太いビームに貫かれ、爆発を伴って墜ちていく。あまりにも一方的な破壊。強襲艦という巨大な兵器が、まるで紙細工のように撃ち抜かれた。

 

《今のは……?》

 

 621の声に、エアがすぐ応じる。

 

『封鎖機構の艦隊に攻撃したものがいる?』

 

 続いて、ウォルターの回線に解析結果が入った。

 

『ウォルター、攻撃した機体の識別が判明しました。アレはXXXG-00W0ウイングガンダムゼロです!』

 

『ゼロ?……それに、またガンダムか』

 

 ウォルターの声には、呆れと警戒が同時に混じっていた。

 

『えぇ……しかし、少し様子が変です』

 

『様子が変だと? どういう事だ』

 

『あの機体から何か起動してはいけない何かが起動して暴走しているように見えます』

 

 621はその名を聞いた瞬間、胸の奥に引っかかっていた嫌な予感の正体を理解した。

 

《ウイングゼロ……もしかして、レイ?》

 

 上空で、白い機体が艦隊の中心へ降下していく。

 

 ウイングガンダムゼロ。

 

 その白い装甲と翼を持つ機体は、封鎖機構の艦隊のただ中に舞い降りると、そこで固定されるように浮遊した。そして、主武装であるツインバスターライフルを分割する。

 

 左右それぞれに握られたバスターライフル。

 

 その砲口が、艦隊の両翼へと向けられる。

 

 それを見た封鎖機構の艦長は、即座に理解した。

 

「っ! 高度上昇! 急げ! あのホワイト・ゴーストは何をしでかすか分からんが、攻撃であることに変わりない!」

 

「りょ、了解!」

 

 艦長の乗る強襲艦が急速に上昇を開始する。それに続いて、周囲の艦も回避行動を取ろうとする。

 

 だが、全ての艦が同じ判断を下せたわけではなかった。

 

 一部の艦は、ウイングガンダムゼロの行動の意味を理解できず、反応が遅れた。たった一機のMSが艦隊の中心に降下し、二丁のライフルを左右に構える。その行動が何を意味するのか、実戦データのない者には即座に判断できなかったのだ。

 

 そして、その遅れは致命的だった。

 

 ウイングガンダムゼロのバスターライフルから、山吹色の太いビームが照射される。

 

 左右へ伸びた二条の光。

 

 それが放たれたまま、機体が回転を始めた。

 

 光の刃が、艦隊の内側を薙ぎ払う。

 

「や、やめろぉぉぉぉっ!」

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 

 回避に遅れた強襲艦が次々と光に呑まれていった。

 

 艦体を両断されるもの。動力部を撃ち抜かれ、内部から誘爆するもの。装甲を貫かれ、制御不能になって他の艦と衝突するもの。封鎖機構の艦隊は、内側から切り裂かれるように崩れていく。

 

 たった一機。

 

 たった一機の白いガンダムが、百を超える艦隊の中心で、戦場そのものを壊していた。

 

 退避に遅れた艦隊は、次々とウイングガンダムゼロのバスターライフルによって轟沈していく。

 

 その光景に、621は一種の恐怖を覚えた。

 

(これがレイの動き? 違う……まるでアレは……)

 

 レイは強い。

 

 それは知っている。

 

 だが、今の動きは違う。味方を助けるための攻撃というより、ただ最適な破壊を選んでいるように見えた。迷いがない。躊躇がない。必要な犠牲も、過剰な破壊も、すべてを計算に入れた上で実行している。

 

 まるで機体そのものが、勝利のためだけに動いているようだった。

 

 封鎖機構の艦隊の三割を壊滅させたウイングガンダムゼロは、やがて回転を止める。

 

 爆炎と黒煙が上空を覆う中、白い機体は静かに浮かんでいた。

 

 そして、その頭部がゆっくりと地上へ向けられる。

 

 視線の先には、621のloader4。

 

 通信が割り込む。

 

「俺の……俺の敵は何処だッ!?」

 

 その声はレイのものだった。

 

 だが、普段のレイとは違う。

 

 荒く、追い詰められ、何かを探し続けるような声。そこに含まれていた殺気に、621の身体が反射的に強張った。

 

(……殺気!?)

 

 ウイングガンダムゼロを駆るレイは、すでにゼロシステムに精神を飲み込まれていた。

 

 ゼロシステムは、勝利へ至るための可能性を提示する。だが、その判断に人道や倫理はない。最短で脅威を排除し、未来を確定させるためなら、味方も、仲間も、本人の意思すらも材料にする。

 

 そして今、ゼロシステムは621を“この世界の敵”として認識させていた。

 

 ウイングゼロの肩部装甲が開き、格納されていたビームサーベルが引き抜かれる。

 

 山吹色の残光と爆炎を背に、白い機体が地上へ向けて急降下を始めた。

 

 狙いは、621。

 

 loader4へ向けて、ウイングガンダムゼロが殺意を持って接近してくる。

 

 もはや、封鎖機構の艦隊だけが敵ではなかった。

 

 ループで知っていた未来は砕け散り、ゼロシステムに飲まれたレイが、621の前に立ちはだかろうとしていた。

 

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