転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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貯めていたストックが尽きました。
ストックが貯まり次第、また投稿します。


鴉vs鳥 前編

 ヒアルマー採掘場の上空で、ウイングガンダムゼロが白い翼を広げていた。

 

 封鎖機構の艦隊を内側から薙ぎ払い、その三割近くを壊滅させた圧倒的な火力。その余波はまだ空に残っており、黒煙と爆炎が氷原の白を汚している。

 

 だが、621にとって本当の脅威は封鎖機構ではなくなっていた。

 

 山吹色の残光を背負ったウイングゼロが、地上のloader4へと殺意を向けている。

 

 肩部に格納されていたビームサーベルを引き抜き、接近してくる白い機体。その動きは鋭く、速く、そして迷いがなかった。そこにいるのはレイのはずなのに、今の動きにはレイらしい抑制が感じられない。

 

 ゼロシステムに飲まれている。

 

 621はそれを理解しながら、ブースターを噴かして後退した。

 

 ウイングゼロの胸部付近に内蔵されたマシンキャノンが火を噴く。弾丸の雨が氷原を叩き、loader4の周囲で雪と氷が弾け飛ぶ。

 

 621はクイックブーストで横へ抜け、反撃としてバーストライフルを構えた。だが、狙うのはコクピットでも動力部でもない。装甲表面と関節部、機体の姿勢を崩すための牽制射撃だけだ。

 

 殺すためではない。

 

 止めるために撃つ。

 

《レイ! 聞こえてるなら返事をして!》

 

 通信越しに呼びかける。

 

 だが、返ってきた声は、621が知るレイのものではなかった。

 

「621……お前は、後何人殺すつもりだ?」

 

《……っ!? それは……》

 

 その言葉に、621の反応が一瞬だけ遅れた。

 

 これまでのループ。幾度も繰り返した戦場。倒してきた敵。救えなかった者。進むために切り捨ててきたもの。

 

 レイの声で突きつけられたその問いは、621の内側に深く食い込んだ。

 

 その僅かな躊躇を、ゼロシステムは見逃さない。

 

 ウイングゼロがツインバスターライフルを構える。

 

 出力は抑えられている。だが、それでもあの武装は低出力という言葉で安心できる代物ではなかった。山吹色の光が砲口に集束し、次の瞬間、太いビームが氷原を削りながらloader4へ襲いかかる。

 

 621は寸前で回避した。

 

 光がすぐ横を通り過ぎ、氷床を溶かし、背後の岩盤を吹き飛ばす。直撃すればloader4では耐えられない。掠めただけでも致命的な損傷に繋がる。

 

「ゼロはお前が……いやっお前とエアがこの世界の火種になると告げている。このままじゃ、また望まぬ未来の繰り返される!」

 

 レイの声は荒れていた。

 

 だが、そこにあるのは怒りだけではない。恐怖。焦燥。未来を見せつけられ、それを回避しなければならないという強迫観念。ゼロシステムが導き出した答えに精神を押し潰され、必死にそれを遂行しようとしているようにも聞こえた。

 

《……っ。イレギュラーの貴方はどうなの!? 貴方は元々、この世界にいない筈だった!》

 

 621は叫ぶように返した。

 

 火種だというなら、自分だけではない。エアだけでもない。レイもまた、この世界に存在しないはずの異物だ。足立重工も、ガンダムも、持ち込まれた技術も、全てがルビコンの流れを変えている。

 

 だが、レイは止まらなかった。

 

「役割を終えた俺は、この機体と共に自爆する。それが……ゼロの導き出した答えだ!」

 

 その言葉に、621の胸が冷たくなる。

 

 ゼロシステムは、レイ自身の死すら選択肢に入れている。勝利のため、未来を閉じるため、火種を消すためならば、搭乗者の命も機体も躊躇なく使い潰す。

 

 そして今のレイは、それを自分の答えだと思い込まされている。

 

 ウイングゼロが再び加速する。

 

 ビームサーベルの刃が、白い軌跡を描いてloader4へ振り下ろされた。621はパルスブレードで受けるのではなく、機体を横へ捻って回避する。出力差を考えれば、真正面から受ければ押し負ける可能性が高い。

 

 距離を取る。

 

 牽制する。

 

 殺さずに止める。

 

 その全てを同時にこなさなければならない。

 

 一方、ミレニアム側でその交戦を見ていたエアとウォルターも、状況の深刻さを理解していた。

 

 モニターには、ヒアルマー採掘場上空で激しく機動するウイングゼロと、必死に回避を続けるloader4の姿が映し出されている。

 

「マズいな。621、今はレイを倒すしか他にない。躊躇すれば、お前が殺られるぞ!」

 

 ウォルターの声は厳しい。

 

 戦場で生き残るための判断としては正しい。相手が味方であろうと、攻撃を止めない以上は敵として扱わなければならない。躊躇は死に直結する。

 

 だが、エアはモニターを見つめたまま、強く拳を握りしめた。

 

「これでは二人が共倒れになる。このままでは……!」

 

 レイを倒すしかない。

 

 だが、レイを殺せば621はきっと傷つく。逆に躊躇すれば621が殺される。ウイングゼロの火力とゼロシステムによる予測を相手に、loader4単機で持ち堪え続けるのは限界がある。

 

 ならば、自分はどうするべきか。

 

 通信越しに支えるだけでは足りない。言葉だけでは、今のレイには届かない。ゼロシステムに飲まれた彼を止めるには、外から物理的に介入するしかない。

 

 エアは決断した。

 

「ウォルター。私はレイヴンのサポートに行きます! ここをお願いします!」

 

「何っ? 待てっエア!」

 

 ウォルターが制止するより早く、エアはその場を飛び出していた。

 

 向かう先は格納庫。

 

 あの戦場へ行くために。

 

 レイヴンを守り、レイを止めるために。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアムの格納庫周辺は、かつてないほどの混乱に包まれていた。

 

 ヒアルマー採掘場上空で起きている戦闘。封鎖機構の大艦隊。そして、その中心で暴走しているウイングガンダムゼロ。

 

 何より問題なのは、その機体を操っているのがレイだということだった。

 

「おい、どういう状況だ!?」

 

「司令がご乱心になった! ヤバい!」

 

「ああっ……これはアカン!?」

 

「(^o^)かなりヤバい! ワー! ワー!」

 

 日本兵たちは完全に浮き足立っていた。普段から騒がしい連中ではあるが、今回ばかりは洒落にならない。指揮官であるレイがゼロシステムに飲まれ、621と交戦状態に入っているのだ。混乱するなという方が無理だった。

 

「指揮官殿、我々はどうすればいいのですか?」

 

「貴様、落ち着け! 儂と共に死のう!」

 

「ダメだ!」

「ダメだ!」

 

「いやっお前が落ち着け!?」

 

 もはや誰が冷静で、誰が混乱しているのか分からない有様だった。

 

 だが、そんな中でも状況を立て直そうとする者はいる。

 

「閣下! 味方がかなり混乱しております。このままでは指揮系統が乱れます!」

 

「見れば解る! 何たる失態だ……! 司令を止めるために直ちに部隊を再編させろ!」

 

「「「了解っ!」」」

 

 閣下の号令で、ようやく日本兵たちの一部が我に返る。混乱している暇などない。今この瞬間にも、ヒアルマー採掘場では621が暴走したレイと戦っている。しかも敵は封鎖機構だけではない。企業勢力も、そしてゼロシステムに操られたウイングゼロも脅威となっている。

 

 その様子を見ていた617は、強く拳を握った。

 

《みんな、かなり混乱している……。だったら……!》

 

 自分が動くしかない。

 

 レイを助けるために。621を助けるために。今ここで、ただ見ているだけではいられなかった。

 

 格納庫へ向かおうとしたその時、別方向から駆け込んできたエアと鉢合わせる。

 

「っ!? セレン? まさかあなたは……」

 

《エア? ……でもちょうどよかった。一緒に来て。レイを止めよう》

 

 617──セレン・ヘイズは迷わずそう言った。

 

 エアもまた、同じ結論に至っていた。通信越しに支えるだけでは、今のレイを止められない。621だけでは危険すぎる。ならば、こちらから戦場へ向かうしかない。

 

「そのつもりです、セレン。私はあの機体を使います」

 

 エアの視線の先にあったのは、レイの本来の乗機であるデスティニーガンダムだった。

 

 VPS装甲が起動していないその機体は、灰色の状態で格納庫の中で静かに待機している。ウイングゼロとは違い、レイがこれまで実戦で使ってきた機体だ。エアにとっても、レイの動きを最も理解しやすい機体と言える。

 

《(デスティニー……)……分かった。私はレジェンドで出る》

 

 617は視線を隣の機体へ向ける。

 

 レジェンドガンダム。ドラグーンシステムを備え、空間制圧と遠隔攻撃に長けた機体。扱いは容易ではないが、ゼロシステムに飲まれたレイを殺さず止めるには、選択肢を増やす必要がある。

 

 二人がそれぞれの機体へ向かう中、格納庫の管制兵が叫んだ。

 

「閣下! エアと617が機体に乗り込んで出撃するようです!」

 

「何だと!?」

 

 閣下の声に驚きが混じる。

 

 当然だった。今外に出るということは、封鎖機構の艦隊、企業勢力、そして暴走したウイングゼロがいる戦場へ飛び込むということだ。危険どころの話ではない。

 

 だが、エアはすでにデスティニーのコクピットへ乗り込み、システムを立ち上げていた。

 

「すみません! ハッチを開けてください!」

 

 続けて617も、レジェンドのコクピットから通信を入れる。

 

《私とエアでレイを止めて621を助けに行く。……早く開けて》

 

 その声には迷いがなかった。

 

 管制側は一瞬、判断をためらう。

 

「し……しかし、それでは封鎖機構や他の企業に狙われる危険性が……」

 

 当然の懸念だった。

 

 デスティニーとレジェンド。どちらも存在そのものが各企業や封鎖機構の標的になり得る機体だ。今出せば、さらなる混乱を招く可能性もある。

 

 だが、閣下はモニターに映る戦況を見つめ、重く息を吐いた。

 

「……構わん。ハッチを開けろ。今は彼女らに賭けるしかない」

 

「閣下……分かりました。ハッチを開け! MSが出るぞ」

 

 格納庫内に警告灯が回り、出撃用ハッチが開放されていく。

 

 冷たい外気が流れ込み、艦内の空気が一気に張り詰めた。整備員たちが退避し、射出ラインが解放される。

 

 デスティニーのカメラアイが光を灯す。

 

 エアは操縦桿を握り、静かに前を見る。

 

「レイヴン……今行きます!」

 

 隣で、レジェンドもまた起動する。617はモニターに映るヒアルマー採掘場方面の戦況を見つめ、短く息を整えた。

 

《レイ……今度は、私が助ける……!》

 

 二機のガンダムが、ミレニアムの格納庫から飛び立つ。

 

 目指す先は、氷原の戦場。

 

 ゼロシステムに飲まれたレイを止めるために。

 そして、今なお一人で戦い続けている621の元へ辿り着くために。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 loader4とウイングガンダムゼロの戦闘が始まってから、すでに十数分が経過していた。

 

 だが、その十数分は、621にとってひどく長く感じられた。

 

 氷原の上空を白い機体が駆けるたび、山吹色の光が空を裂く。ウイングゼロのツインバスターライフルは低出力に抑えられてなお、loader4にとっては致命的な威力を持っていた。加えて内蔵武装のマシンキャノン、ビームサーベルによる近接攻撃、そしてゼロシステムによる予測。

 

 621はそれらを回避し続けながら、どうにかレイを殺さずに止める道を探っていた。

 

 だが、現実は厳しい。

 

(わかっていた……。この機体じゃああの機体に追いつけない……!)

 

 loader4は621の手足のように動く。これまで幾度も死線を越え、今の621自身の感覚にもよく馴染んでいる。だが、それでも機体性能の差は明確だった。

 

 ウイングゼロは速い。

 

 そして、火力が違いすぎる。

 

 真正面から殴り合えば勝ち目は薄い。かといって、逃げに徹すればレイの暴走は止められない。621ができるのは、ギリギリの回避と牽制を続けながら、レイの意識へ呼びかけ続けることだけだった。

 

 その時、レイが新たな反応を捉えた。

 

「……! 接近する機影、この識別は……」

 

 通信越しの声が強張る。

 

 621もレーダーに映る反応を確認し、思わず息を呑んだ。

 

《……!? 嘘でしょ……! このタイミングで……!?》

 

 氷原の彼方から接近してくる機影。

 

 アーキバス所属、ヴェスパー部隊最強。

 

 ヴェスパーⅠ、フロイト。

 

 その乗機──ロックスミスが、戦場へ現れた。

 

 機体は鋭く、堂々と戦場に割り込んでくる。封鎖機構の艦隊残骸が空に燃え、地上ではloader4とウイングゼロが交戦中。その異様な光景を前にしてなお、フロイトの声には恐怖も警戒もほとんどなかった。

 

 むしろ、楽しんでいる。

 

「お前がレイヴンか? ウォルターの猟犬だと聞いている。ここで殺り合うのも悪くないが……」

 

 フロイトの視線が、ウイングゼロへ向けられる。

 

 白い翼を広げ、山吹色の残光を纏うガンダムタイプ。以前ルビコンに現れた“天使”とは違う、もう一つの異質な存在。

 

 それを見たフロイトの声には、明らかな高揚が混じっていた。

 

「天使以外のガンダムタイプか。お前と殺り合うのも悪くない。ガッカリさせてくれるなよ……!」

 

 その瞬間、621の中で最悪の状況が確定した。

 

「チィ……三つ巴か!」

 

《フロイトが来るなんて……! このままじゃレイが……!》

 

 621は焦りを押し殺す。

 

 レイはゼロシステムに飲まれている。そこへフロイトが乱入すれば、ウイングゼロはさらに戦闘を加速させる。こちらが止めるどころか、フロイトが面白がって戦況を引っかき回す可能性すら高い。

 

 そして、そんな予想はすぐに現実となった。

 

 ロックスミスのSB-033M MORLEY──拡散バズーカが火を噴く。

 

 広がる爆発の雨が、三機の間に叩き込まれた。それが合図だった。

 

 621、ゼロシステムに飲まれたレイ、そしてフロイト。

 

 三つ巴の戦闘が始まった。

 

 ロックスミスはまずloader4へ圧をかけるように接近し、バズーカの爆風で逃げ道を塞いでくる。621はクイックブーストで横へ抜け、バーストライフルを撃ち返した。しかしフロイトはそれを当然のように躱し、すぐに次の攻撃姿勢へ移る。

 

「なるほど……名前と違ってお前の戦い方、まさに猟犬という感じだ。鳥じゃないのが面白い」

 

《くっ……! やっぱり、強い!》

 

 621は歯を食いしばる。

 

 フロイトの動きは、他のアーキバス機とは根本的に違っていた。機体性能だけではない。操縦者の感覚が異常なのだ。強化人間ではないはずなのに、反応が速く、判断が鋭い。戦場の流れを肌で読み、楽しむように攻撃を重ねてくる。

 

 そこへ、ウイングゼロが割り込んだ。

 

 ビームサーベルの光刃が、ロックスミスへ向けて振り下ろされる。

 

 だが、フロイトはまるでそれを読んでいたかのように機体を滑らせ、刃の軌道から外れていた。

 

「お前は……。そうか。あの天使のパイロットか。だが、動きが無人機のそれだ。だが……」

 

 フロイトはウイングゼロの動きを見ながら、楽しそうに言葉を続ける。

 

 ゼロシステムによる予測に従った機動は、人間離れしている。だが同時に、どこか無機質でもあった。勝利へ向かう最適解を選ぶがゆえに、そこにはレイ本来の迷いや癖が薄い。

 

 ウイングゼロの中で、レイが叫ぶ。

 

「遅い……遅いぞゼロ! 奴の反応速度を超えるんだ!」

 

 自分の身体を、自分の意志を、さらに先へ追い込もうとする声。

 

 だが、フロイトはその異常さを前にしてもなお、恐れるどころか笑っているようだった。

 

「まるで未来を見ているような動きだ。対処が出来ないという訳ではない」

 

 621はそのやり取りを見ながら、背筋に冷たいものを感じた。

 

 ゼロシステムの予測に反応し、暴走状態のレイと渡り合おうとしている。強化人間でもない男が、感性と戦闘経験だけでその領域に食らいついている。

 

 フロイトという男の異常性が、嫌でも分かった。

 

 そして、その二機に挟まれる形となった621は、さらなる苦戦を強いられていた。

 

 ウイングゼロの一撃は直撃すれば終わる。フロイトの攻撃は読みづらく、隙を突いてくる。どちらも無視できず、どちらも本気で倒すわけにはいかない。

 

《このままじゃあ……!》

 

 621がそう思った、その時だった。

 

 フロイトの周囲に、複数の子機が展開するように現れた。

 

 空間を囲むように位置取ったそれらが、一斉にビームを照射する。

 

 だが、フロイトは直感的に反応していた。ロックスミスが鋭く機体を捻り、ビームの射線から逃れる。完全な包囲ではなかったが、それでも一瞬遅れていれば直撃していた攻撃だった。

 

「今の攻撃は……!」

 

 フロイトが声を上げる。

 

 さらに、赤を中心に白い稲妻を帯びた閃光が、ウイングゼロへ向かって一直線に突き進んできた。

 

 ウイングゼロはその攻撃を難なく回避する。だが、その軌道と速度は明らかに先ほどまでの戦場になかったものだった。

 

 フロイトの声に、再び高揚が滲む。

 

「そうか。まだ俺を楽しませてくれるのか……!」

 

 621もまた、その機影を確認した。

 

《あれは……!》

 

 氷原の空へ、新たな二機が飛び込んでくる。

 

 一機は、ドラグーンを展開したレジェンドガンダム。

 

 もう一機は、赤と白の光を帯びて加速するデスティニーガンダム。

 

 617とエア。

 

 レイを止めるために、そして621を助けるために、二人がついに戦場へ到着した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「お待たせしました、レイヴン」

 

《621。大丈夫?》

 

 通信に飛び込んできた二つの声に、621は一瞬だけ意識を向けた。

 

《617……エアも……!》

 

 氷原の空へ飛び込んできた二機のガンダム。

 

 一機はレジェンドガンダム。背部に搭載されたドラグーンを展開し、フロイトのロックスミスを牽制している。操るのは617──セレン・ヘイズ。

 

 もう一機はデスティニーガンダム。かつてレイが駆っていた機体であり、今はエアがそのコクピットに座っていた。光の翼を展開し、ウイングゼロとloader4の間へ割って入るように飛来する。

 

 621を援護し、ゼロシステムに飲まれたレイを止めるために、二人はここまで来たのだ。

 

 だが、ウイングゼロの中のレイは、その姿を見ても正気を取り戻すことはなかった。

 

 むしろ、エアの駆るデスティニーを見た瞬間、彼の声に別の焦燥が混じる。

 

「エア。お前は……コーラルの可能性に夢を見過ぎている。コーラルリリースは、人が人でなくなる。それだけは阻止しなければならない……!」

 

「コーラル……リリース? レイ、あなたは一体何を知っているのですか」

 

 エアの声が揺れる。

 

 コーラルリリース。聞き慣れない言葉だった。だが、レイの口調はそれがただの予測や妄想ではなく、何か確かな破滅の可能性であるかのようだった。

 

 しかし今、その問いを深掘りしている余裕はない。

 

《エア……話は後で。今はレイを助けよう》

 

 621の言葉に、エアは短く息を整える。

 

「……はい、レイヴン」

 

 直後、ウイングゼロが再びツインバスターライフルを分割した。

 

 二丁のバスターライフルが左右へ向けられ、621たちとフロイトをまとめて射線に捉える。砲口に山吹色の光が収束し、次の瞬間、二条のビームが氷原の空を裂いた。

 

 loader4が横へ跳び、デスティニーが高機動で上昇する。レジェンドはドラグーンを呼び戻しながら射線を外し、ロックスミスもまた爆風の隙間を縫うように回避した。

 

 戦闘が、再び激化する。

 

「ガンダムタイプが3機。……何処まで楽しませてくれる!」

 

 フロイトの声には、もはや隠す気もない高揚が滲んでいた。

 

 アリーナトップのレイヴン。ゼロシステムに飲まれたウイングゼロ。デスティニーとレジェンドという新たなガンダムタイプ。普通の兵士なら絶望する状況だが、フロイトにとっては望外の戦場だった。

 

 617はそれを理解した上で、冷静に判断する。

 

《エア、621と一緒にレイをお願い。私はあいつを抑える……》

 

「わかりました。セレン、どうかお気をつけて」

 

《617。フロイトには注意して。彼は強化人間でないにしろ、かなり強い》

 

 621もまた、フロイトの異常性をよく分かっていた。

 

 強化人間ではない。だが、戦闘感覚だけで強化人間やゼロシステムに迫る領域へ踏み込んでくる。常識の枠外にいる相手だ。

 

《ん……わかってる》

 

 617は短く答え、レジェンドのドラグーンを展開した。

 

 本来、ドラグーンシステムは宇宙空間での運用を前提とした兵装だ。大気圏内では推進制御や姿勢維持に制約が大きく、まともな運用は難しい。だが、このレジェンドに搭載されたドラグーンは、足立重工の技術者たちによって改造が施されていた。

 

 大気圏内でも限定的ながら、独立機動と射撃が可能なように調整されている。

 

 複数の子機がレジェンドの背から分離し、フロイトのロックスミスを取り囲むように散開した。緑色のビームが複数方向から放たれ、ロックスミスの逃げ場を削っていく。

 

「ドローンか。それもあのシミュレーションとは違うドローンタイプ。……面白い!」

 

 フロイトは笑うように言い、ロックスミスの左肩に搭載されたVvc-700LDレーザードローンを展開した。

 

 六機のレーザードローンが空中へ放たれ、ドラグーンの射線に割り込む。互いの子機が交差し、氷原の空で無数のビームが飛び交った。

 

 ドラグーンとレーザードローン。

 

 異なる技術体系の遠隔兵装が、空中で熾烈な撃ち合いを始める。その中で、617は冷静にロックスミス本体の動きを見据えていた。

 

 フロイトは厄介だ。

 

 だが、ここで抑えなければ621とエアはレイを止められない。

 

 一方、621とエアはウイングゼロへ向き直る。

 

《フロイトは617に任せるしかない。私たちは……》

 

「えぇ……レイ。あなたを止めてみせます。私とレイヴンで」

 

 デスティニーがアロンダイトを構え、loader4がバーストライフルとパルスブレードを構える。

 

 相手は圧倒的な性能を持つウイングゼロ。しかもゼロシステムに飲まれたレイは、あらゆる可能性を読み、最適な攻撃を選んでくる。

 

 だが、もう621は一人ではない。

 

 レイを殺すのではなく、止める。

 

 そのために、エアもここにいる。

 

 ウイングゼロのカメラアイが、二機を捉えた。

 

「621……エア……。障害は、取り除く……!」

 

 白い機体が再び加速する。

 

 ツインバスターライフルの光が収束し、ビームサーベルが肩から引き抜かれる。ゼロシステムに飲まれたレイは、なおも二人を敵として認識していた。

 

 氷原の空で戦場は二つに分かれる。

 

 617のレジェンドと、フロイトのロックスミス。

 

 そして、621のloader4とエアのデスティニー対、暴走したレイのウイングガンダムゼロ。

 

 ここから先は、ただ敵を倒す戦いではない。

 

 仲間を取り戻すための戦いだった。

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