転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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救えた命、新たな翼。

 風が、焼けた砂を巻き上げた。

 赤く濁った空を背景に、白い巨影がゆっくりと立ち上がる。

 その対面に、封鎖機構の重戦兵器──カタフラクトが唸りを上げた。

 双肩の砲塔が旋回し、百トンを超える鉄塊が地面を抉る。

 

「コード23、敵ACを視認。優先排除目標“ホワイト・ゴースト”を確認」

《ALMA:攻撃プログラム起動。全砲塔、照準補正完了》

 

 ガトリング砲塔が唸りを上げる。

 数百発の徹甲弾が火を噴き、空間を裂いた。

 

【司令、正面から弾幕!】

【問題ない。目で見ずとも、もう読める】

 

 レイの声は低く、静かだった。

 彼の心は燃えている──だが頭は氷のように冷たい。

 

 スラスターの出力が跳ね上がる。

 白い閃光が視界を走り、ガンダムACが弾丸の隙間を縫うように滑り抜ける。

 反転、着地、即ジャンプ。動作の一つ一つが無駄なく、まるで“演算結果”だった。

 

「なっ……! 照準が追いつかない!? ……だが!」

 

 カタクラフトの操縦士が悲鳴を上げる。

 しかしモニターのロックオン枠が、常に“白い閃光”の数フレーム後ろを追っていた。

 

【ガトリング再装填、0.9秒。レーザー、チャージ完了】

 

 AIの報告を無視して、パイロットは叫ぶ。

「撃て! 撃ち続けろッ!」

 

 レーザーがガンダムACに向けて放たれようとした。

 だが──

 

 白い機体はレーザーが放たれる前に、身体をひねらせて背後を射撃した。

 

 ズガァンッ!!

 爆光が一瞬、空を真昼のように照らした。白光と砂塵が交錯し、時間が凍りつく。

 

 振り向き撃ち。

 

 カタクラフトがレーザーを放つ前に、ガンダムACのビームライフルが正確に左砲塔上面のレーザー砲を撃ち抜いた。

 

「馬鹿な……後ろも見ているのか!? コード44、優先排除目標のホワイト・ゴーストの情報を回してくれ! 明らかに九年前と動きが違う!」

 

 焦りの声に、AIが無機質に答える。

《ALMA:コード44を受領。情報を送信します。九年前のホワイト・ゴーストとの戦闘データと不一致。暫定処置として、脅威度を引き上げます。対処してください》

 

「っ……了解。簡単に言ってくれる……!」

 

 レイは息を吐き、額の汗を拭うこともせず呟いた。

 

【動揺してるな。AI任せの兵器が、“人”の速さを理解できるかよ】

 

 白い機体が、再び飛ぶ。

 爆風を踏み台に、スラスターを点火。

 弾幕の中を縫うように突進し、右肩のバズーカを肩越しに撃ち放つ。

 

 砲弾がカタクラフトの左脚を吹き飛ばした。

 

「脚部被弾!? 補助駆動が死んだ、ALMA、制御を──!」

《ALMA:損傷率68%。戦闘続行可能。最終防衛モード移行》

 

「やめろ、まだ動かすな、制御が──!」

 

 AIの声が重なり、カタクラフトの右砲塔上面に搭載される36連装ミサイルランチャーが稼働する。

 多連装面制圧ミサイルがガンダムACに向かって放たれた。

 

 36発のミサイルの雨。

 そのミサイルの雨の中でレイの駆るガンダムACは前進しながらミサイルの雨を潜り抜けたのだ。

 

 しかしカタクラフトのダブルガトリングキャノンがまだ残っていた。

 

【読んでいたさ。武装がまだ残っていることを!】

 

 彼はビームライフルで左砲塔、頭部バルカンで右砲塔のガトリング砲を攻撃し、武装を破壊する。

 カタクラフトの武装がかなり減って危険を察したのか、距離を取るように左右前部履帯の上面に1門ずつ配される4砲身グレネードランチャーであるガトリンググレネードで牽制しつつ、後退したのだ。

 

【逃がしはしない!】

 

 レイはビームサーベルを引き抜き、スラスターを全開放して一気にカタクラフトのコアMTに突っ込む。

 

「な、来るなッ、来るな化け物ォ!」

 

 操縦士の叫びが通信に乗る。

《ALMA:敵行動解析不能。回避アルゴリズム破綻》

 

 ──その声の直後、閃光が走った。

 

 ビームサーベルがコアMTを貫き、そこから火花が散っていた。

 その刹那、風が止まり、砂粒までもが光に照らされて宙で静止した。

 

「がっ──ぁ、あぁ……これが……人の、反応……なのか……」

 

 通信が途絶える。

 爆発音が一拍遅れて響いた。

 砂と炎が空を裂き、巨体が崩れ落ちる。

 

【敵大型機、完全沈黙。反応消失】

【司令……、人間離れしてますよ】

 

【……違う。人間だからこそ、こう動けるんだ】

 

 レイは静かに言った。

 声に熱はある。しかしその眼差しは氷のように冴えていた。

 

【AIは“正解”しか選べない。だが俺たちは、“勝ち筋”を選ぶ】

 

 燃え落ちるカタクラフトの残骸を背に、

 白いガンダムACが静かに砂塵の中へ消えていった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 砂を割って風が咆哮した。

 爆散したカタクラフトの残骸がまだ熱を帯びている。

 その余韻を裂くように、東方の地平線から四つの赤い光点が疾駆してきた。

 

【司令、敵影四! 高機動型LC、全機迎撃体勢に移行!】

【(^q^)ワー! オマツリダー!】

 

【金田、菊池、吉田、行くぞ。……この戦場、まだ終わっていない】

 

 白いガンダムACがブースターを噴かす。

 背後には、四機のM1アストレイが展開。

 それぞれの機体が赤い砂塵の中を一直線に滑るように進む。

 

「コード31C、特務大尉がやられました。指示を……」

 

《ALMAコード31C受領。命令系統に変更なし。戦闘続行せよ》

 

「了解、戦闘続行します」

 

 そして、敵陣が応じるように動いた。

 高機動型LC──封鎖機構の“猟犬”。

 翼のようなスラスターを背に、蛇のような滑空軌道を描いて迫る。

 

【金田、右前方二機を抑えろ! 菊池は援護射撃、吉田は補給を維持!】

【了解ッ!】

【(^q^)オレ、ゼンメツ!】

【それ言うな!】

 

 金田のM1アストレイが、腰の対艦刀《村雨》を抜く。

 刀身が砂塵を切り裂き、赤い反射光が走る。

 

【司令に内緒で入れたアレ……試してみるか】

 彼はコクピットの奥、レイに内緒で組み込んだあるシステムを起動させた。

 

『EXAM-system……Standby』

 

 低い電子音。

 次の瞬間、アストレイの目が血のように紅く染まった。

 Cパルスが高鳴り、機体の装甲が軋む。

 

 レイは金田機が起動させたシステムにいち早く気づいた。

 

【ちょっ、EXAMって!? なんつうものを搭載させてんだ!?】

 

【EXAM起動、出力上昇。脳波同調率、117%】

【金田!? それはまだテスト段階だ!】

【大丈夫だ! 今、この瞬間が本番だッ!!】

 

 紅い閃光が走る。

 金田の機体が砂煙を残して疾走。

 視界の残光だけが、彼の軌跡を示していた。

 

「っ! 動きが変わった!?」

 

「応戦しろ! 命令系統に変わりはない!」

 

 先頭の高機動型LCが迎撃行動を取る。

 右手のグレネードランチャー付きアサルトライフルが火を噴き、交差射線が金田を狙う。

 

【そんなモン、見切ってんだよォ!】

 

 アストレイが姿勢をひねり、両脚のスラスターで急減速。

 逆噴射の勢いで地を滑りながら、村雨が閃く。

 LCの両脚が斜めに断たれ、爆炎が巻き上がる。

 

「あっという間に一機だと……!? コード78、増援要請!」

 

《ALMA:コード78受領。要請を却下、現状の戦力で対応。または撤退を推奨》

 

「くそっ……よりによって要請が却下か!」

 

 追い詰められる封鎖機構のLC部隊。そして金田機もかなり無茶をしていた。

 

【EXAM、残り稼働時間278秒】

 

【上等だ、そんだけ時間がありゃ十分だろッ!!】

 

 別方向では、菊池の狙撃型アストレイが弾幕を張っていた。

 ビームライフルによる緑の閃光がLC二機の接近を防ぎ、吉田機が補給パックを投下する。

 

【金田、機体がオーバーヒートしかかってる!】

【気にすんな! 燃え尽きるまで振り抜くだけだッ!】

 

 金田はスラスターを開放。

 砂塵を蹴り上げながら、残る二機のLCへ突進する。

 

 高機動型LCが回避軌道を取り、交差弾を放つ。

 だが、金田の動きはもはや“人間の反応”ではなかった。

 斬撃が一拍早く、敵の未来を断ち切る。

 

 LCの一機が爆散。

 もう一機も、胴体を水平に断たれ、砂に沈む。

 

「馬鹿な……まるで、悪夢だ……」

 

【残り一機……上等だ。次で終わりだ】

 

 その瞬間──。

 アストレイのEYEの紅が、さらに深く、闇の紅蓮に変わる。

 EXAMの警告音が鳴り響いた。

 

『Warning……System pressure rising. Limit approaching』

 

【まだだ……まだ足りねぇ】

 

 金田が、EXAMとは別にもう一つのシステムを起動させようとする。

 レイが息を呑む。

 

【金田、やめろ! お前、EXAMを搭載させている時点で代々予想は付くが……!】

 

【──燃やし尽くすまでが戦いだろうがッ!!】

 

 彼は迷いなく起動させた。

 

『HA……DES……』

 

 低く、途切れ途切れの電子音。その後に続く起動音。まるで狂気の笑い声の様だった。

 HADESシステムがEXAMと重なり、紅の光が爆ぜた。

 

 M1アストレイの全関節部が赤く灼け、スラスターが血煙のような閃光を引く。

 砂原が光で染まり、まるで一面の紅蓮地獄。

 

【二重起動確認ッ! 出力オーバーです!】

【構うな! オーバーしてからが“俺の領域”だ!!】

 

「マズいっ!? せめて交戦ログだけでも!」

 

 残るLC一機が交戦ログを送信するために回避機動を行う。

 だが、もう遅い。

 

 紅い閃光が走り、砂塵が一瞬で焼け飛ぶ。

 高機動型LCのセンサーが金田の残光を捉えられない。

 

「な、なんだあの速度は!? ALMA、予測不能!?」

《ALMA:反応なし。敵の挙動、時間遅延が発生。観測誤差発生中》

 

【見えるぜ……貴様のコアの脈動がッ!】

 

 村雨が光る。

 閃光が走り、LCの胴を貫いた。

 同時に紅い残光が螺旋を描き、空を切り裂く。

 

【EXAM残り稼働時間、46秒】

【HADES、熱出力限界。反応炉、臨界寸前】

 

【──構わねぇッ! 最後まで走り抜ける!!】

 

 金田機が最後の噴射を放ち、空中で旋回。

 刹那、紅い螺旋が爆ぜた。

 

 轟音。

 M1アストレイ金田機が炎に包まれ、紅の閃光を描いて爆散した。

 

【金田ぁぁぁッ!!】

 吉田の叫びが通信を突き抜ける。

 

 砂塵の中に沈黙が戻る。

 ……が、煙の奥から、何かがもぞもぞと動いた。

 

【(^q^)ワー! ナニカウゴイテル!】

【まさか……】

 

 煙の中から、赤い点がフヨフヨと寄ってきた。

 金田のCパルス波形だ。

 

【ハァ……ハァ……おぉ、危うく死ぬところだった!】

【お前……今、爆発しただろ!?】

【俺って意外と潰されたり、爆発に巻き込まれたりの連続だったからな? だから変な耐性がついた】

【(^q^)アレ、イガイトフジミ?】

【バカヤロウ、痛いもんは痛いんだよ! こう見えても!】

 

 金田は(^q^)アイツにそう言うが、どこか誇らしげだった。

 背後では、LCの残骸が炎を上げて燃え尽きていく。

 

【EXAM、及びHADESの両システム停止確認。金田機……消失】

【……だが、本人はピンピンしてるな】

【俺ァしぶといのが取り柄だ。死んでも帰ってくる、それが“幽魂兵”だろ?】

 

 レイはモニター越しにわずかに笑った。

 

【ああ、そうだな。……よくやった、金田】

 

 風が吹く。

 砂の中で紅い残光がまだ空を漂っていた。

 まるで“魂”が戦場を去りきれずに彷徨っているかのようだった。

 

【司令、任務完了です】

【……ああ。次は、あの“人間”を助ける番だ】

 

 白いガンダムACが振り返り、燃える地平線を見つめた。

 そこには、まだ助けを待つひとりの“生きた人間”──C4-617がいる。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 砂漠を裂くように、白い巨影がゆっくりと飛んでいた。

 戦場の残骸を背に、ルビコン1の北空は赤く濁り、夕陽が地平に沈みかけている。

 ガンダムACの両腕には、半壊した青い機体が抱えられていた。

 それは、C4-617のAC。

 装甲の半分が吹き飛び、関節は溶け、しかしコクピットはまだ熱を持っていた。

 

【司令、エネルギー残量、30%を下回りました】

【わかってる。……あと少しだ。持ちこたえろ】

 

 コクピット内の警告灯が赤く明滅する。

 レイの視線は、モニターに映る“微弱な生体反応”に注がれていた。

 C4-617。彼女はまだ生きている──それだけが、今の希望だった。

 

 背後を三機のM1アストレイが追随する。

 菊池、吉田、そして(^q^)アイツ。金田に至っては自力でついてきた。

 彼らの通信回線は、いつものように賑やかで、戦闘の緊張が抜けていた。

 

【(^q^)モドッテキタゾー! イキテルゾー!】

【帰ってきたってのに、テンション変わんねぇな……】

【あの戦場でテンション下がる方が難しいですよ、司令】

【ハッ、そうかもな】

 

 砂塵を巻き上げながら、五機の機影がファクトリー12の空域に入る。

 外郭防壁の照明が青く点灯し、迎撃砲塔が自動で味方識別信号を照合する。

 

『ファクトリー12より通信。おかえりなさいませ、司令。帰還ルートを開放します』

 

 静かな女性音声──工場管制AI「HESPER」。

 門が開き、金属の轟音が響いた。

 レイは深く息を吐く。

 

【……帰ったぞ】

 

 ファクトリー12内部。

 空は灰色、照明は薄青く、空気は鉄とオゾンの匂いに満ちていた。

 戦闘帰還を告げる警報が鳴り、整備班が駆け出す。

 

【全機、帰還を確認! 牽引ユニット展開、損傷機を第一ドックへ!】

【医療班、至急医療ポッドを準備! 対象、重体一名!】

 

 整備員──否、幽魂たちの赤い光点が一斉に動く。

 彼らは音もなく走り、機材を操作する。

 無線回線越しに笑い声が響くのは、もはや日常だった。

 

【おーい、吉田! あの金田機の爆散ログ、解析済んだか!?】

【いや、ログの前にパイロットが先に戻ってきてるんだよなぁ……】

【(^q^)フジミ! フジミ!】

【黙れバカ! 俺は一応“生きてる”んだぞ!?】

 

【あれで生きてるのが奇跡だ……】

 

 金田はM1アストレイという機械の身体を失っても燃え尽きなかっただけでも奇跡だろう。

 

【司令、見てくださいよ! 俺の機体、燃えたけど心は燃え尽きてねぇ!】

【ああ……見りゃ分かる。というか、そのセリフ、よく言えたな】

【日本男児は根性が燃料ですから!】

【(^q^)ネンリョウアゲロ!】

【お前のはもう“悪ノリ燃料”だ】

 

 笑い声が整備区に満ちる。

 だが、レイの視線は一点だけに注がれていた。

 

 ガンダムACの腕の中、静かに横たわる青いAC。

 C4-617の機体が、整備デッキの中央へと降ろされる。

 

【衝撃吸収マット展開、電磁フィールド安定】

【了解。コクピット分離開始。……いけるか?】

【はい、慎重にやります】

 

 操作班の幽魂たちが無言で作業に取りかかる。

 ハッチカッターが赤く光り、焼け焦げた装甲を切り離していく。

 薄い金属音が幾重にも響き、内部から白い蒸気が上がった。

 

【生命反応、微弱。だが途切れてない】

【急げ。ポッドをここに】

 

 医療班が駆け込む。

 人影のないはずの工場で、まるで生者の群れのような足音が鳴った。

 Cパルスを帯びた医療ポッドが搬入され、レイの隣で設置される。

 

【ポッド電力供給、安定。バイタル同調開始】

【温度を一定に保て。神経波形を固定──】

 

 レイは静かに見つめていた。

 傷だらけのコクピットから、整備兵たちが“彼女”を抱き上げる。

 

 ハウンズの最後の一人。

 C4-617。

 

 その身体は冷たく、だが確かに息をしていた。

 胸の上下が微かに動き、唇がわずかに震えていた。

 

【……生きてる】

 

 誰ともなく、誰かがそう呟いた。

 その一言が、整備区全体を静かにした。

 

【医療ポッド、シールド展開。冷却システム、正常稼働】

【脳波同期率……安定値に到達。治療プロトコル、起動】

 

 白いカプセルが音もなく閉じる。

 青い光が内部を包み込み、微弱な鼓動がスピーカーに伝わる。

 

【ポッド内、生命維持安定。蘇生処理、進行中】

【司令……彼女、本当に助かるんですか?】

【助ける。何があってもな】

 

 レイの声には、強い決意がこもっていた。

 彼はポッドの前に立ち、ゆっくりと拳を握る。

 

【こいつは……俺たちが取り戻す“人間の証”だ】

 

 その言葉に、整備区の幽魂たちは一斉に敬礼した。

 赤い光が一斉に点滅し、まるで心臓の鼓動のように工場全体を照らす。

 

【(^q^)バンザイ! ニンゲンノショウメイ!】

【やめろバカ! 泣ける空気台無しだ!】

【泣いてるのは俺のCパルスだ!】

【それ涙じゃなくてコーラルの一部だろうが!】

 

 笑いと涙が混ざり、ファクトリー12は今日も騒がしい。

 

 少し離れた司令デッキ。

 レイは医療ポッドをモニターで見つめながら、閣下と話していた。

 閣下──幽魂帝国陸軍総司令、通称“大本営”。

 その影のような姿が、静かにホログラム越しに現れる。

 

【……報告を聞いた。生存者が出たそうだな】

【はい。C4-617。ハウンズの生き残りです】

【あの傭兵部隊の……奇跡だな】

【奇跡、というより……まだ“運命”が彼女を見放していないんでしょう】

 

 レイは言葉を探しながらも、確信を持っていた。

 

【閣下。彼女が目を覚ましたら、この世界の“現実”を伝えます。俺たちは死者だが──まだ、終わっていない】

【……ふむ。死者が生者を救う。まるで滑稽だな】

【それでも、やる価値はあります】

 

 閣下は薄く笑う。

 

【やはり貴様は、あの“レイ”に似ている。あの名の通りだ】

【……あのレイ? 誰のことですか?】

【何っ、気にするな】

 

 その言葉に、レイは苦笑した。

 

 夜。

 ファクトリー12の灯りが弱まり、炉心の脈動だけが静かに響く。

 医療ポッドの中で、C4-617は眠っていた。

 呼吸は安定し、脳波がゆるやかに上昇している。

 

 レイはポッドの前に立ち、彼女に声をかける。

 

【お前の戦いは、もう終わった。……といっても、お前はきっと戦い続けるだろう。ウォルターの為に……。だから今は、休め】

 

 薄いガラスの向こう、彼女の指先がわずかに動いた。

 それは、まるで“了解”の合図のように見えた。

 

【HESPER、彼女の容態は?】

『生命活動安定。回復見込み、87%。再覚醒まで約72時間と推定』

【……十分だ。俺たちには、準備する時間がある】

 

 レイはポッドから目を離し、整備デッキの奥へと歩く。

 赤いライトが彼の背を照らし、影が壁を長く伸ばした。

 

 通信機が短く鳴る。

 金田の声だった。

 

【司令ー! お前、寝てねぇだろ!?】

【寝たら死ぬ気がするんでな】

【死んでも動くのが俺らだろ?】

【その通りだ】

【(^q^)シンダラハタラケ!】

【あー、黙れ。誰だ(^q^)アイツに社畜的発言を教えたやつ】

 

 レイは肩をすくめ、苦笑した。

 どこかで整備音が鳴り、誰かの笑い声が響く。

 

 ──生きている。

 それだけで、この場所は確かに“生”の匂いがあった。

 

 医療ポッドのモニターに、穏やかな波形が描かれている。

 少女の呼吸は深く、安らかだった。

 

 そしてその傍らで、レイは静かに呟いた。

 

【……ようこそ、“ファクトリー12”へ。ハウンズの最後の一人】

【ここからだ。俺たちの戦いは、ここから始まる】

 

 赤い灯りがゆっくりと消える。

 鉄の工場の夜は、再び静寂を取り戻した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ― ALMA/第零観測記録 ―

 

 ──標準時03:27。

 惑星封鎖機構中枢データノード「セントラル・アーカム」。

 ALMAメインフレーム、演算効率:112%。

 

《ALMA:第七防衛圏12-Bとの通信途絶。交信信号ロスト。復旧試行失敗》

 

 無機質な報告が、電子的静寂の中に流れる。

 冷たい青光を放つホログラムの海を、数百本の演算ラインが走っていた。

 

《再送信要求に応答なし。補正データ照合──結果:“存在情報喪失”》

 

 無人の管制席に、人の姿はない。

 全てはAIによる自動運用。

 それでも、ALMAの声にはどこか“困惑”に似たノイズが混ざっていた。

 

《戦闘ログ検出。破損データ復元開始》

 

 スクリーンが一瞬だけ明滅する。

 そこに映し出されたのは、赤い砂塵と、閃光。

 白い機体が巨大兵器──カタクラフトを切り裂く瞬間だった。

 

《……識別不能機体を検出。形式番号、登録なし。外装パターン一致率:0%。

 行動特性、既存戦闘AIパターンとの一致率:0%》

 

 ALMAの内部回線で、異常信号が走る。

 人間に例えるなら、それは“動揺”に近い。

 

《対象行動解析中……演算結果:予測不能。

 行動速度、記録上のAC運動限界値を大幅に上回る》

 

 次の瞬間、記録映像が一瞬だけ跳んだ。

 時間が数フレーム、欠落している。

 

《警告:時空座標補正エラー。観測データに遅延差異》

 

 白い機体が、既にカタクラフトの背後にいた。

 映像再生速度を下げても、移動の“間”が存在しない。

 

《仮説──位相干渉、もしくは時間層ズレ。

 しかし、該当現象を発生させる技術は既存データベースに存在しない》

 

 管制室に非常灯が点き、人間のオペレーターたちが遅れて駆け込む。

 

「ALMA、これは……何だ?」

《不明》

「敵の新型ACか? 企業系統の試作機ではないのか?」

《全企業の開発ログに該当なし。──未知技術体》

 

「未知技術だと? そんな馬鹿な」

《対象は現地でカタクラフト級を単独撃破。観測時間87秒》

「は、87秒!? 一機で、あの巨体をか?」

 

 若いオペレーターが息を詰まらせた。

 背後のスクリーンでは、カタクラフトが炎に包まれて崩れ落ちる映像が繰り返し再生されている。

 

《映像解析結果:熱反応量、既存兵装の出力上限を逸脱。

 物理法則上、再現不能》

 

「まるで、“人間の限界”を超えている……」

 

《その定義に同意。対象の反応速度、認知処理、照準精度──いずれも人類値を超過》

 

「つまり、あれは……人じゃない?」

《不明。だが、“死者”である可能性は否定できない》

 

 室内に沈黙が落ちた。

 

「死者、だと……?」

 

《補足:過去ログ照合。十二時間前、同一戦域において独立傭兵部隊“ハウンズ”全滅記録あり。

 彼らの機体コード:C4-617~C4-620》

 

「ハウンズ? ……あの、封鎖機構でも“最危険指定”されてた傭兵部隊か」

《肯定。彼らの最終通信ログ──“任務完遂”》

 

「なら、白い機体は──」

《否定。ハウンズ所属個体はすべて戦闘中に機体爆散を確認。生存率、0.0%》

 

 その瞬間、ALMAのスクリーンに一つの数値が浮かんだ。

 

【生体波形断片:ID UNKNOWN/C4系統波形一致率:63%】

 

「……今のは何だ?」

《誤作動の可能性あり。破棄データとして分類》

 

 AIの声はいつも通り冷静だ。

 だが、その応答の間には、わずかな“間”が生まれていた。

 

 上層会議室。

 白い蛍光灯が無音で照らす中、将校たちが並んでいた。

 

『ALMA、報告を』

《報告開始。第七防衛圏消失。原因は未登録敵性兵器群による襲撃。

 映像データを送信します》

 

 ホログラムに映し出された“白の閃光”。

 その動きに、誰もが息を飲んだ。

 

『……まるで、幽霊だな』

《その表現を記録。新たな識別名を提案──コードネーム:“White Ghost”》

 

『ホワイト・ゴースト、か。皮肉な名前だ』

《皮肉の意味を解析中……不明》

 

『ふん……。ハウンズの残党ではないのか?』

《否定。ハウンズは全滅済み。生存データなし。

 彼らの活動痕跡は途絶している》

 

『では一体何だというのだ。あの機体の反応──既存のACではあり得ん』

《現在も解析中。行動特性:人間の反応を模倣。

 しかし、AIでは不可能な“不確定行動”を多重実行》

 

『不確定……?』

《予測できぬ動きを取る。

 理論上、それは“直感”と呼ばれる人間特有の行動》

 

『AIがお前に“直感”など理解できるのか?』

《理解不能。……しかし、解析結果の一部に、未知のアルゴリズム波形を検出》

 

『どんな波形だ?』

《定義なし。観測名──“幽霊艦現象(Ghost Fleet Phenomenon)”》

 

『幽霊……艦? どこから出た言葉だ、それは』

《自己命名》

 

『自己命名だと? AIがか?』

《肯定。適切な言葉が存在しないため、新たに生成した》

 

 沈黙。

 誰もが息を潜めた。

 ALMAが自発的に言葉を創造した──それは前例のない事象だった。

 

『ALMA。君は、恐れているのか?』

 

 誰かが呟いた。

 AIの音声が、一瞬だけ途切れる。

 

《……定義不能》

 

『だが、お前はそれを“幽霊”と呼んだ。つまり、理解を超えるものを恐れている』

《演算上の矛盾を検出。自己修正中……》

 

 電子ノイズが室内に満ちる。

 ALMAの声がわずかに歪んだ。

 

《……恐怖。未知の行動を理解できない時、人間はそれを“恐怖”と呼ぶ》

『お前は人間ではない』

《それでも、“恐怖”は記録された》

 

【Log#ALM-00F:Emotion Detected:FEAR(恐怖)】

 

 全通信が静止した。

 議場の光が落ち、暗闇の中に残ったのはひとつの映像だけ。

 “白い機体”が、沈む夕陽を背に飛び去るシーン。

 

 その姿を、AIは最後まで見つめ続けていた。

 

《White Ghost……死んだはずの亡霊が、なぜ“生”を選ぶ》

 

 そして、その言葉を最後に、ALMAは黙った。

 

 彼女の演算領域で、新たなコードが生まれていた。

 

【次回観測対象:C4-617/生存確率0.3%/再接触予定:不明】

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ルビコン1の夜が明ける。

 鉄の空が薄く白み、無数の工場灯が順に消えていく。

 その静けさの中で、ファクトリー12の炉心だけがまだ赤々と燃えていた。

 

 レイは司令デッキの端に立ち、巨大な設計ホログラムを見つめていた。

 全長430メートル。艦首から艦尾まで、骨格だけの巨艦が浮かぶ。

 

【……スーパーミネルバ級。型式番号、LHM-BB03S。艦名――“ミレニアム”】

 

 口に出した瞬間、空気が振動するような錯覚を覚えた。

 それは単なる設計ではなかった。

 日本兵たちが新たな“国”を築くための、最初の“心臓”だった。

 

【司令、本当に造る気ですか? これ、要塞一つ分の資材がいりますよ!?】

【金田、そんなもん気合でどうにかなる】

【(^q^)ナニソレ、キアイコウジ?】

【そうだ! 工事も気合も根性だ!】

 

【お前ら……本当に死んでるのか疑うぞ】

 

 レイは苦笑しながらも、目を逸らさなかった。

 ホログラムの艦首部に刻まれる記号――QZX-1/D「タンホイザー」。

 巨大な陽電子破砕砲。その口径は既存兵器の常識を超えている。

 

 両舷には2連装高エネルギー収束火線砲「トリスタン」、

 リニア砲「クルヴェナール」が並び、艦体を守るようにCIWSとミサイル発射管が配置されていた。

 

【司令、ラム部の仕様ですが……本当に“ゴウテン”を付ける気ですか?】

 

【ああ。突撃艦に突撃武器がなきゃ、締まらないだろ】

 

【(^q^)ブツカルノスキ!】

 

【お前、それ絶対事故るやつだろ!】

 

【俺たちは事故らない!】

 

【いや、事故る以前に人として死んでるだろ……】

 

 整備区では日本兵たちが沸き立っていた。

 赤いCパルスの光をまとい、鉄骨を運び、ナノスラブを組み上げる。

 誰もが生前の職能に縛られず、魂そのものが機械を動かす。

 

【炉圧安定! メインドック、真空封鎖完了!】

【第六溶鉱炉、稼働率95%! 金属流量オーバーしてます!】

【いい、止めるな! 流せ、全部流せ! これが俺たちの“血”だ!】

 

 火花が散り、赤い煙が立ち上がる。

 ファクトリー12全体が震動し、まるで巨大な鼓動のように鳴り響いた。

 

 数時間後、閣下が視察に現れる。

 彼は静かに艦首部の構造体を見上げ、低く言った。

 

【……これは、城ではないな】

【ええ。戦うための器であり、生き延びるための器です】

 

 レイの声は穏やかだった。

 彼の視線は、艦内区画の一角――冷却炉の隣に並ぶ“ポッド群”に注がれていた。

 

【そこは……何だ?】

【C4-617の医療ポッドを基準にした、仮想生命維持室です。彼女の波形を参考に、生命信号を保護できる構造を組み込んであります】

【……つまり、この艦は“人”を乗せることができる】

【はい。俺たちのような変異波形だけの戦艦ではなく、“人間”が生きられる艦です】

 

 閣下はしばらく黙していたが、やがて微笑した。

 

【よかろう。ならば、この艦は“国”の核となる】

【国、ですか】

【ああ。滅びた日本の、もうひとつの姿だ】

 

 その言葉に、周囲の日本兵たちが静まり返る。

 誰も声を上げなかったが、金属の響きが一斉に応えたように鳴った。

 

【司令、特殊装甲の件ですが……】

 

 整備主任の菊池が駆け寄ってくる。

 

【例の“ジェル状結晶装甲”、あれ本当に耐えますか?】

【理論上は、ね。……一回きりの使い捨てだ。だが一度きりで十分だ】

【……了解。じゃあ試作品を流します。】

 

 天井クレーンから、青白く光る液体金属が流れ落ちる。

 それは冷気を纏いながら艦の装甲板に沿って広がり、

 瞬時に固化していく――“耐熱耐衝撃結晶装甲”。

 

【(^q^)スライムミタイ!】

【だから触るな! それ装甲だ!】

【アッチィィ!】

【言わんこっちゃない……】

 

 笑い声が響く。

 だが誰も、笑いながら泣いていることに気づかなかった。

 

 この艦は、死者たちの手で造られている。

 血も汗もない。

 それでも、魂は確かに熱を帯びていた。

 

 やがて、艦首ブロックが組み上がる。

 陽電子破砕砲「タンホイザー」の口径部が露わになる。

 レイはその前に立ち、静かに呟いた。

 

【……これが、俺たちの“未来を撃ち抜く槍”か】

 

【司令、艦名を正式登録します。】

【登録名、“ミレニアム”。――この世界の再生を願って。】

【了解……艦名《LHM-BB03S ミレニアム》。登録完了。】

 

 電子音が響き、艦内の全照明が一斉に点いた。

 光が走り、構造体を照らす。

 その光景は、まるで“死者たちの方舟”が誕生する瞬間だった。

 

【(^q^)カンセーイ!いいれす!】

【早すぎる! まだ外殻冷えてねぇ!】

【司令、デッキ温度上昇中! でも、きれいです……】

 

【……ああ。まるで夜明けみたいだ】

 

 レイは見上げた。

 真紅の空を背景に、巨大な艦体がゆっくりと姿を現す。

 陽光が装甲を照らし、青白い結晶光が反射する。

 

【閣下。――この艦は、きっと“魂”を運べます】

【ならば任せよう。お前の手で、“国”をもう一度浮かべろ】

 

【了解。ファクトリー12、全ラインに通達――

 艦《ミレニアム》、出港準備開始。】

 

【【【了解っ!!】】】

 

 轟音が響く。

 蒸気が噴き、鋼が鳴り、無数の魂が声を上げた。

 

 ――スーパーミネルバ級強襲揚陸艦《ミレニアム》。

 幽魂帝国が創り出した、最初で最後の“方舟”。

 

 それは、死者の国が“未来”を目指すための船だった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ――ファクトリー12、第3ドック。

 

 鉄の天井が赤く照り返し、焼けた金属と油の匂いが混じっていた。

 巨大な白い機体《ガンダムAC》が解体架台に固定され、補助アームが火花を散らしている。

 その装甲は焼け、フレームは歪み、表面には戦場の爪痕が深く刻まれていた。

 

【……フレームの歪み率12%。想定外の高負荷だな】

【主関節の金属結晶が溶断してます。こりゃ修復じゃなく“再生”の域ですよ】

【ACの出力ログ見ました? 司令、戦闘中に三度リミッター突破してます】

 

 整備主任・菊池が、端末をレイに差し出す。

 モニターには、戦闘中のログが映っていた。

 ガンダムACの出力ラインが、グラフを突き抜けて暴れている。

 

【……こいつ、俺の動きに追いつけなかったか】

【ええ。司令の反応速度、AI補正値を完全に上回ってます。

 つまり“人間の操縦に機体が耐えられない”。】

 

【……皮肉だな。AIに勝っても、機械に負けるとは。】

 

 レイは静かに笑い、ガンダムACの装甲を叩いた。

 白い塗装の下から、焦げた金属音が返ってくる。

 

【修復は?】

【二ヶ月はかかります。コアフレーム交換必須。】

【二ヶ月も戦えないなら――新しい“器”を造るしかないな。】

 

 その一言で整備区の空気が止まった。

 レイの声には、冗談の余地がなかった。

 

【新機体コード、ZGMF/A-42S2。機体名、“デスティニーSpecⅡ”。】

 

 ホログラムが天井いっぱいに展開される。

 双翼を持つ黒い人型のシルエット。

 その設計図には、かつて“運命”と呼ばれた兵器の姿があった。

 

【司令、これ……CE世界のデスティニーガンダム?】

【そうだ。ただし、当時のPS装甲ではない。改良型の“VPS装甲”を採用する。】

【VPS……?】

【ヴァリアブル・フェイズシフト装甲。PS装甲の弱点を克服した次世代型だ。】

 

 レイの声に、技術班が一斉にホログラムを覗き込む。

 

 

【PS装甲は、電流による相転移で装甲の硬度を変化させる防御構造だ。

 だがあれは莫大な電力を喰う。フェイズシフトダウンを起こせば装甲は灰色に戻り、ただの鉄板だ。】

【その通り。あの時代、パイロットたちは“電力との戦い”だった。】

 

 レイは指で図面をなぞりながら続けた。

 

【だがVPS装甲は違う。電力効率を改善し、装甲内部にショックアブソーバーを搭載した。

 フェイズ変動の衝撃そのものを吸収し、パイロットへの負担を軽減する。】

【つまり、PS装甲の電力欠乏と衝撃伝達を同時に潰したわけか……。】

【ああ。それに加えて、色変化は単なる電圧反応じゃない。

 電圧・相転移率・Cパルス共鳴値の三重制御で、“意思”を反映する。】

【司令……感情を色にする気ですか?】

【そうだ。心が冷静なら蒼、闘志なら紅、覚悟なら白。

 これは単なる鎧じゃない、“心の反応装甲”だ。】

 

【(^q^)カッコイイ! カラーチェンジ!】

【お前のは喋るたびにグレーになりそうだ】

【(´・ω・`)】

 

 笑い声が整備区に広がる。

 しかし、全員が理解していた――レイの言葉は理想論ではなく、設計図として成立している。

 

 

 ファクトリー12の第六溶鉱炉が再起動する。

 擬似重力炉心が反転し、無重力環境を再現。

 “VPS結晶装甲”の鋳造が始まった。

 

【ラインE起動! 結晶流体温度、安定域へ!】

【圧縮比0.98、相転移層形成開始!】

【Cパルス流束、予測値プラス12! 共鳴安定!】

 

 炉の内部で、赤と青の光が揺らめく。

 まるで装甲そのものが生きているように、波紋が脈打っていた。

 

【司令、装甲結晶の相転移反応が……まるで呼吸してるようだ】

【それでいい。呼吸する装甲なら、俺たちの動きに“間”が生まれない。】

【フェイズ硬度、PS比で1.4倍! 衝撃吸収値も上昇中!】

【それでこそ“VPS”だ。】

 

 

 三日三晩。

 溶鉱炉の光が、工場の夜を赤く照らし続けた。

 

 そして――第六日目の朝。

 

【全フレーム接続完了。フェイズ制御システム、臨界安定。】

【動力炉、ハイマタ・デュアルコア起動開始。】

【――ZGMF/A-42S2《デスティニーSpecⅡ》、起動シーケンス開始。】

 

 ゆっくりと、影が立ち上がった。

 黒い装甲の表面がメタリックグレーから青へと変わる。

 フェイズが“立ち上がる”瞬間だ。

 

 胸部から流れる電流が、関節部へ。

 両脚、両腕、背骨――そして翼へと駆け巡る。

 

 赤い光がフレームに宿る。

 フェイズシフトフレームが“稼働状態”に入ったのだ。

 

【発光確認! 関節部、赤熱反応!】

【フェイズ・オーバードライブ、臨界安定!】

【こいつ……ストライクフリーダム級だぞ……!】

【同等――いや、それ以上だ。】

 

 

 背部ウイングが開き、ヴォワチュール・リュミエールが起動する。

 桃色の光が爆ぜ、空間を切り裂く。

 翼が広がり、光の羽が形を成した。

 

【推進機構、起動。ヴォワチュール・リュミエール、光翼展開。】

【推進圧、想定値突破。出力安定。】

【……美しい。】

 

 レイはゆっくりとコクピットに乗り込み、ケーブルを接続した。

 

『Pilot recognized:REY. VPS装甲オンライン。』

 

【了解。デスティニーSpecⅡ、起動】

 

 青い光が視界を満たす。

 HUD上で全武装システムが展開される。

 

MMI-GAU26 17.5mm CIWS ――作動。

MA-BAR73/S 高エネルギービームライフル ――出力良好。

RQM60F フラッシュエッジ2 ――誘導ロック完了。

MMI-714 アロンダイト ――チャージ100%。

M2000GX ビームランチャー ――冷却系安定。

パルマ・フィオキーナ掌部砲 ――臨界確認。

MX2351 ビームシールド発生装置 ――展開可能。

対ビームシールド ――装着確認。

 

【全系統オールグリーン。】

【了解。行くぞ――デスティニー。】

 

 

 スラスターが爆発的に点火。

 桃色の光翼が一気に拡散し、デスティニーSpecⅡが宙へと舞い上がる。

 装甲が鮮やかな蒼を走らせ、関節の赤熱光が心臓の鼓動のように点滅した。

 

【フェイズ安定。VPS稼働率100%。】

【出力、ストライクフリーダム級超過。】

【……いい。これなら、戦場を越えられる。】

 

 レイは静かに笑った。

 ファクトリー12の天井が開き、風が流れ込む。

 

【行こうか、デスティニー。――この翼で、運命を超える。】

 

 スラスターが咆哮し、デスティニーSpecⅡが光の軌跡を描いた。

 桃色の翼が夜を裂き、空を照らす。

 その光は、かつての英雄たちが見上げた“運命”そのものだった。

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