転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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忍者対堕天使、深まる謎

 吹雪の中、アロンダイトと対装甲刀が火花を散らした。

 

 デスティニーの推力が押し込み、NダガーNの脚部が雪の積もった地面を削る。

 だが、六文銭も退かない。対ビームコーティングを施されたGES-D07G+対装甲刀でアロンダイトを受け止め、機体を沈ませるようにして衝撃を殺している。

 

 鍔迫り合いは一瞬。

 

 互いに機体を弾くように後退し、距離を取った。

 

 直後、NダガーNの右腰部キャニスターが開く。

 

 そこから取り出されたのは、短剣型の投擲弾。

 

 Mk315 スティレット投擲噴進対装甲貫入弾。

 

 六文銭はそれを、迷いなくデスティニーへ投げ放った。

 

「不義にして富み、かつ貫きは浮雲のごとし。雇われよ、ルビコンの土となれい!」

 

 投擲されたスティレットが噴進し、鋭く軌道を変えながらデスティニーへ迫る。

 

 だが、レイは焦らなかった。

 

 デスティニーが翼を広げ、横へ滑る。

 

 スティレットは機体の残像を貫くように通り過ぎ、背後の雪原へ突き刺さって爆ぜた。

 

「そういうかじった感じの言葉で日本の忍び風に語るんじゃねえ!」

 

 レイは吐き捨てるように言いながら、ビームライフルを構えた。

 

 赤い光弾が吹雪を裂いて放たれる。

 

 だが、その瞬間、NダガーNの姿が掻き消えた。

 

 ミラージュコロイド。

 

 視界から消えた機体は、次の瞬間には別方向に現れる。

 

 デスティニーがそこへビームを撃ち込む。

 しかしまた消える。

 

 消えて、現れる。

 現れて、また消える。

 

 まるでこちらの照準を嘲笑うように、NダガーNは吹雪と闇の中を出入りしていた。

 

 普通の相手なら、動揺しただろう。

 

 見えない敵。

 予測できない出現位置。

 いつ奇襲されるか分からない圧迫感。

 

 だが、レイには効かない。

 

「そう何度も消えたり現れたりは他の奴だったら効いたかもしれないが、俺には通用しない!」

 

 レイはデスティニーの肩からフラッシュエッジ2ビームブーメランを引き抜いた。

 

 投げる。

 

 ただし、今見えている位置ではない。

 

 次に現れるであろう場所へ。

 

 ビームブーメランが弧を描き、吹雪の中を走る。

 

 その直後、ミラージュコロイドが解除され、NダガーNがまさにその軌道上に姿を現した。

 

「……!」

 

 六文銭の反応は速かった。

 

 右腕に装備された複合武装、DFH-S2026 攻盾システム“シルトゲヴェール”を切り離し、迫るビームブーメランへ投げ捨てる。

 

 シルトゲヴェールがビームブーメランを受け、爆ぜるように破壊された。

 

 そのおかげで、NダガーN本体への直撃は避けられる。

 

「不義なるも非才にあらず。油断まかりならん!」

 

「そっちこそ、しぶといな……!」

 

 レイがビームライフルを構え直すより早く、NダガーNの左腕が動いた。

 

 取り付けられた44-143 HMMR。

 

 オールマインド製のプラズマヨーヨーが射出される。

 

 回転体が遠心力を伴って唸りを上げ、複雑な軌道でデスティニーへ迫る。

 さらに、その軌道上に機雷が散布された。

 

 前方にはHMMR。

 周囲には機雷。

 無理に引けば爆発範囲に巻き込まれる。

 

 レイは迷わず前へ出た。

 

 デスティニーが光の翼を広げ、機雷の爆発範囲を縫うように加速する。

 

 爆発が背後で連鎖し、雪煙と火球が広がる。

 だが、デスティニーはその中心にはいない。

 

 懐へ飛び込んだことで、逆に爆発を置き去りにしたのだ。

 

 しかし、そのわずかな時間で、六文銭は次の仕込みを終えていた。

 

 対装甲刀を収める長刀の鞘を取り出す。

 

 そして、再びNダガーNの姿が消えた。

 

 吹雪の中に、気配だけが残る。

 

「不意打ち……いや、違う」

 

 レイはアロンダイトを構え直した。

 

 光の翼を展開し、全周囲へ意識を向ける。

 

 背後か。

 上か。

 足元か。

 

 だが、デスティニーのレーダーが捉えた反応は、意外な場所だった。

 

 目の前。

 

 何もいないはずの正面に、反応が出る。

 

「雇われよ。今こそ土に帰れ!」

 

 ミラージュコロイドが解除される。

 

 NダガーNは正面にいた。

 

 しかも、抜刀の間合い。

 

 鞘に収められていた対装甲刀が、一閃される。

 

 神速の抜刀。

 

 刃はデスティニーの胴体へ吸い込まれるように迫った。

 

 当たる。

 

 六文銭はそう確信したはずだった。

 

 だが、その瞬間、デスティニーの機体が光った。

 

 対装甲刀の刃が、胴体をすり抜ける。

 

 いや、すり抜けたのではない。

 

 そこにいたデスティニーは、既に残像だった。

 

「……! すり抜け……否、神速……!」

 

 六文銭が気づいた時には、デスティニーは背後に回り込んでいた。

 

 アロンダイトを大きく振りかぶり、NダガーNを斬り伏せる体勢に入っている。

 

 しかし、六文銭もまた並の傭兵ではない。

 

 抜刀の勢いを殺さず、機体を捻る。

 

 背後にいるデスティニーへ向けて、強引に対装甲刀を返す。

 

「はあああぁぁぁっ!!」

 

「……覚悟ッ!」

 

 二機が交差する。

 

 アロンダイトのビーム刃と、対装甲刀の実体刃。

 

 どちらが先に届くか。

 

 勝ったのは、デスティニーだった。

 

 アロンダイトが対装甲刀を打ち砕き、そのままNダガーNの右腕へ食い込む。

 

 肩ごと切断。

 

 NダガーNの右腕が、武装ごと宙を舞った。

 

 だが、それでも六文銭は止まらない。

 

 残った左腕に持つ鞘を、デスティニーへ叩きつけた。

 

 鈍い衝撃。

 

 しかし、デスティニーのVPS装甲に対して、物理的な打撃は十分な効果を発揮しない。

 ダメージはほとんどない。

 

 だが、六文銭の狙いはそこではなかった。

 

「一飯千金。今こそ同志ツィイーの恩義に報いる時なり!」

 

 左腕の44-143 HMMRが再び射出される。

 

 回転体がデスティニーへ絡みつくように飛び、NダガーN自身の残った機体ごと巻き込む。

 

 プラズマヨーヨーのワイヤーが、デスティニーとNダガーNを強引に繋ぎ止めた。

 

「何っ!? こいつ……!」

 

 レイの反応が一瞬遅れた。

 

 六文銭は、その隙に脱出動作へ入っていた。

 

 NダガーN──彼が一時期の愛機として活動していた“シノビ二式”のコックピットブロックが開き、パイロットが射出される。

 

 脱出しながら、六文銭は自爆スイッチを手にした。

 

「利によりて行えば怨み多し。不義なる雇われよ、コーラルと共にあれい!」

 

 そして、スイッチを押した。

 

 NダガーNが、至近距離で自爆する。

 

 爆炎がデスティニーを呑み込んだ。

 

 吹雪の中に、巨大な火球が膨れ上がる。

 

 雪は蒸発し、壁上の地面が抉れ、衝撃波が周囲へ広がった。

 

 六文銭は脱出用の装備で距離を取りながら、その爆発を見届ける。

 

 任務不履行の傭兵を、機体もろとも葬った。

 

 そう思ったのだろう。

 

 だが、六文銭は知らない。

 

 レイが、これで終わるはずのない男であることを。

 

「……なんと」

 

 爆煙の向こうに、影が立っていた。

 

 デスティニー。

 

 装甲の一部を焦がし、表面に煤をまといながらも、その機体はまだ健在だった。

 

 ビームシールドとVPS装甲、そして咄嗟の姿勢制御。

 至近距離の自爆を受けながらも、レイは耐え抜いていた。

 

「……流石に自爆で撃破しようなんてアスランじゃあるまいし。一瞬死ぬかと思った」

 

 レイは苦々しく呟いた。

 

 冗談めかしてはいるが、危なかったのは事実だ。

 

 もし反応がもう少し遅れていたら。

 もし防御姿勢を取れなかったら。

 無傷では済まなかっただろう。

 

 六文銭の声に、初めて明確な悔しさが混じる。

 

「よもや仕損じるとは……不覚!」

 

 不利を悟った六文銭は即座に動いた。

 

 スモークグレネードを投げ、周囲の視界を白煙で潰す。

 

 吹雪と煙が混ざり合い、センサーにもノイズが走った。

 

 その隙に、六文銭は離脱していく。

 

 レイは追撃しようとして、すぐにやめた。

 

 デスティニーはまだ動ける。

 だが、今はスウィンバーンの回収計画と、各方面の依頼完遂が優先だ。

 

 ここで深追いして、さらに別の伏兵を呼び込む必要はない。

 

 煙が晴れる頃には、六文銭の反応は遠ざかっていた。

 

「……あの似非忍者。いっそのこと日本帝国の暗部部隊にスカウトするか?」

 

 レイは半ば本気でそう呟いた。

 

 口上は胡散臭い。

 忍者としても色々と怪しい。

 だが、腕は確かだった。

 

 ミラージュコロイドによる心理戦。

 NダガーNの改修装備を活かした変則戦闘。

 最後の自爆を含めた執念。

 

 敵に回すには面倒だが、味方にすれば面白い人材かもしれない。

 

 もっとも、本人が素直に従うかは別問題だった。

 

 デスティニーはアロンダイトを収め、損傷チェックを終える。

 

 装甲に焦げはある。

 だが、戦闘続行に問題はない。

 

 レイは一度、六文銭が消えた方向を見た後、機体を反転させた。

 

 吹雪の中、デスティニーは中央ベリウス地方の壁を離脱する。

 

 依頼は完遂した。

 

 スウィンバーンも、予定通り回収段階へ移る。

 

 そして、六文銭という厄介な相手は、まだ生きている。

 

 その事実だけが、レイの中に小さな引っかかりとして残った。

 

 

春明の花も紅葉もとどまらず人も空しきせきじなりけり

 

 

 ……それとは別に何かしらの俳句を日本兵たちの誰かが呟いたような。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……まったく、第七隊長のスウィンバーンには呆れるしかありません」

 

 アーキバスの一室。

 

 白く整えられたその部屋に、冷えた声が落ちる。

 

 発したのは、ヴェスパー第二隊長、スネイルだった。

 

 彼の前には、今回の報告データが並べられている。

 

 中央ベリウス地方の壁において、ヴェスパー第七隊長スウィンバーンが所属不明のガンダムタイプと交戦。

 機体は中破。

 左腕を喪失。

 さらに、撃破を免れるためという名目で、アーキバスの資金の一部を指定口座へ振り込まされた。

 

 その報告内容を聞いていたラウ・ル・クルーゼは、仮面の奥で小さく笑った。

 

「そのスウィンバーンがガンダムタイプと交戦し、脅されたとはいえそのパイロットの口座にアーキバスの資金の一部を振り込まされた。……ということかな、スネイル?」

 

「ええ、その通りですラウ。醜態を晒し、ヴェスパー部隊の品位を下げた責任を取るために第七隊長を辞任し、自ら再教育センターに移送を進言するとは思いもしませんでしたが……」

 

 スネイルの声には、苛立ちと侮蔑が混じっていた。

 

 スウィンバーンの行動は、彼にとって許しがたい失態だった。

 

 命乞い。

 資金の流出。

 ヴェスパーの名を傷つける醜態。

 

 だが同時に、スウィンバーンは自ら責任を取る形を選んだ。

 

 それが、スネイルの判断を少しだけ複雑にしている。

 

「だがスウィンバーンは君に対する忠義を見せたことになる。迂闊に処すれば君の評価が下がるだけだ。それに、スウィンバーンが交戦したガンダムタイプとの戦闘データは無駄ではない」

 

 ラウは穏やかに言う。

 

 スウィンバーンをただ処分するのは簡単だ。

 

 だが、それでは得られるものが少ない。

 

 ガンダムタイプとの戦闘データ。

 未知の機動兵器がどう動き、どのような武装を用い、ACに対してどれほどの優位を持つのか。

 

 それは、アーキバスにとって貴重な情報だった。

 

 スネイルは目を細める。

 

「そう願うばかりですよ。無能な上層部と違って、貴方はよく価値観を正しく理解しています」

 

「フッ……君にスカウトされた以上、ご期待に応えねばならないからな」

 

 ラウは軽く肩をすくめた。

 

 その仕草は自然で、どこか余裕がある。

 

 スネイルもまた、その余裕を買っているのだろう。

 

「あなたには期待しています。いずれヴェスパーに空きが有れば勧誘しますよ」

 

「……となると、第七隊長の席は?」

 

「アレはペイターにやらせます。彼の出世欲は倫理観がずれているので此処で出世させてやれば、ある程度出世欲は抑えられるでしょう」

 

「了解した」

 

 ラウはそう答えた。

 

 だが、その胸中では別の言葉が浮かんでいた。

 

(もっとも、あの男はその程度で満足する奴ではないがな。ある意味では貴様も同じ穴の狢だな? スネイルよ)

 

 仮面の奥に隠された表情は、誰にも読めない。

 

 スネイルは報告データを閉じ、スウィンバーンの処遇を確定させた。

 

 再教育センターへの移送。

 

 それは、アーキバスにおいて事実上の処分であり、屈服の儀式でもある。

 

 だが、スウィンバーンにとっては、既に別の意味を持っていた。

 

 一方、そのスウィンバーンを再教育センターへ移送する車両では、アーキバス社員たちが退屈そうに通信を交わしていた。

 

「まさか第七隊長が自ら再教育センターに出頭するとはな? スネイル閣下もある程度怒りは抑えられたってことになるのか?」

 

「さあな? そういうのは今移送されているこいつに聞いたらいいんじゃないか。ええ? 元第七隊長殿?」

 

 輸送車の後部。

 

 拘束された状態で座らされているスウィンバーンは、目を閉じたまま沈黙していた。

 

 左腕を失ったガイダンスから回収された後、彼は予定通りに報告を行った。

 

 襲撃者に脅され、資金を奪われた。

 その責任を取るため、ヴェスパー第七隊長を辞任し、再教育センターへ出頭する。

 

 筋書き通りだった。

 

 後は、移送中に救出部隊が来る。

 

 そう聞かされている。

 

 だが、それがいつ、どのような形で来るのかまでは知らされていない。

 

「……ちっだんまりか。面白くもない」

 

「放っておけよ。奴とてもう未練がない様な面持ちだしよ」

 

「そうかよ……っ!?」

 

 その瞬間、運転席の社員が息を呑んだ。

 

 前方の空間が、ゆらりと歪む。

 

 何もなかったはずの道路上に、二機の機影が現れた。

 

 NダガーN。

 

 ただし、その機体は六文銭が使用していたものとは仕様が異なる。

 

 黒を基調とした装甲に、最低限の識別灯。

 ミラージュコロイド・ステルスを解除しながら、輸送車の前に立ち塞がる。

 

 日本帝国暗部部隊仕様。

 

 NダガーN“SHINOBI CUSTOM”。

 

「何もないところから現れた!?」

 

「ブレーキッブレーキッ!!」

 

 輸送車が急停止する。

 

 タイヤが悲鳴を上げ、車体が大きく揺れた。

 

 アーキバス社員たちは慌てて武器を取ろうとするが、二機のNダガーNは既に完全に輸送車を包囲している。

 

「なんなんだこの機体は……!? ベイラムや封鎖機構の機体じゃないのか!?」

 

「まさか……足立重工のトンデモ兵器じゃ──」

 

『動くな……』

 

 低い声が通信に割り込んだ。

 

 社員たちの動きが止まる。

 

 NダガーNの武装が、輸送車を正確に捉えていた。

 

「……っ!?」

 

『そのまま車から降りるのだ』

 

 命令は短い。

 

 だが、逆らえば即座に撃たれると分かる声だった。

 

 アーキバス社員たちは、ゆっくりと輸送車から降りる。

 

 手を上げ、抵抗しないことを示しながらも、一人が震える声で問いかけた。

 

「お前ら、いったい何なんだ? まさか……足立重工の──」

 

「御免……」

 

 次の瞬間、SHINOBIの一人が音もなく踏み込んだ。

 

 打撃。

 

 社員の意識が一瞬で刈り取られ、地面へ崩れ落ちる。

 

 続けて他の社員たちも、必要最低限の動きで制圧されていく。

 

 殺さない。

 

 だが、抵抗もさせない。

 

 あまりにも無駄のない手際だった。

 

「なっなんだ!? 何事かっ!?」

 

 スウィンバーンは拘束されたまま、慌てて声を上げた。

 

 襲撃。

 

 だが、これはアーキバスやベイラムのものではない。

 

 救出部隊。

 

 レイが言っていた、搬送途中で回収するという言葉。

 

 輸送車の中でその様子を聞いていたスウィンバーンは、ようやく状況を理解し始めた。

 

 輸送車の外から、落ち着いた声が返ってくる。

 

「手荒いお迎えで申し訳ない。その場で待たれよ……」

 

 直後、輸送車の車体が大きく軋んだ。

 

 NダガーNの一機が、車両そのものに腕をかける。

 

 そして、スウィンバーンが乗っている輸送車を丸ごと持ち上げた。

 

「救出が来ると言ったが。まさか……」

 

 スウィンバーンの声が震える。

 

 予想していた救出とは違う。

 

 普通なら、拘束を解いて、車から降ろして、別の輸送手段へ移すものだ。

 

 だが、SHINOBIの判断は違った。

 

 輸送車ごと運ぶ。

 

 その方が早い。

 

『至急この場から離れるべく、しばし掴まっているように……』

 

「掴まる……? いったい何を? ……おあ──っ!?」

 

 NダガーNのスラスターが全開になる。

 

 輸送車が空中で大きく揺れ、スウィンバーンの悲鳴が響いた。

 

 二機のNダガーNは、輸送車を抱えるようにしてその場を離脱する。

 

 道路上に残されたのは、気絶したアーキバス社員たちと、タイヤ痕だけ。

 

 救出作戦は成功した。

 

 ただし、救出された本人の精神的負担は、決して小さくなかった。

 

 空中で揺れる輸送車の中、スウィンバーンは青ざめた顔で叫び続ける。

 

 その悲鳴は、しばらく雪原の上空に響いていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアムへ、三つのチームがそれぞれ帰投した。

 

 ヨルゲン燃料基地を襲撃した621。

 エンゲブレト坑道のセンシングデバイスを破壊した617と菊池たち。

 そして、中央ベリウス地方でスウィンバーンを確保し、六文銭の襲撃を退けたレイ。

 

 一見すれば、すべては予定通りに終わった。

 

 だが、実際には予定外の出来事も多かった。

 

 特にレイは、格納庫へ戻ってからも疲れたように肩を落としていた。

 

「やれやれ……スウィンバーンを確保したとの情報がSHINOBIから送られたとはいえ、六文銭相手にはひやひやした……」

 

 デスティニーの装甲には、NダガーNの自爆によって焦げた跡が残っている。

 

 致命傷ではない。

 戦闘継続に支障があるほどでもない。

 

 だが、至近距離で自爆を受けたという事実は、レイにとっても笑い話だけで済ませられるものではなかった。

 

 閣下はその報告を聞きながら、腕を組む。

 

「その独立傭兵にテストパイロットとして貸したNダガーNは本来のエンジンは核分散炉ではなく、新世代型バッテリーを使用したものだったのが幸いだったな」

 

「閣下の言う通り、アレがまだ核エンジンのままだったらいくら俺でも軽く死ねるわ……」

 

 レイは苦々しく返した。

 

 NダガーNの自爆。

 

 もし機体が本来の核エンジン仕様のままだったなら、爆発規模も被害もまるで違っていただろう。

 

 デスティニーであっても無事では済まなかった可能性が高い。

 

 そう考えると、六文銭の捨て身の一撃は、想像以上に危険だった。

 

 そんな会話をしていると、格納庫のゲートが開いた。

 

 まず戻ってきたのは、ACヤマトとLYNX。

 

 続いて、金色のスティールヘイズ・オルトゥスがゆっくりと格納庫内へ入ってくる。

 

 照明を受けて無駄に輝くその姿を見た瞬間、何人かの日本兵が微妙な顔をした。

 

「司令。菊池、戻りました」

 

《ん……戻った》

 

《ただいま……》

 

 617はいつも通り淡々としていた。

 

 菊池は疲労こそあるが、任務を終えた兵士らしい顔をしている。

 

 そして621は、明らかに疲れていた。

 

 機体の損傷というより、精神的な疲労の方が大きい。

 

 レイはその理由を知らない。

 

 だが、エアだけは分かっていた。

 

 金色のオルトゥス。

 ヤタノカガミ。

 封鎖機構のレーザー反射。

 そして、ラスティが見たら確実に困惑するであろう機体での任務。

 

「レイヴン……本当にお疲れ様です」

 

 エアの労いに、621は小さく頷いた。

 

 その時、ミレニアムのCOMが反応した。

 

『──COM:新着メッセージ、三件』

 

 格納庫の空気が少しだけ引き締まる。

 

 三件。

 

 今回並行して受けた三つの依頼、その結果に対する返答だろう。

 

 最初に再生されたのは、ベイラムからのメッセージだった。

 

『独立傭兵セレンに伝達! エンゲブレト坑道での作戦成功を受け、ミシガン総長より貴様への伝言がある』

 

《ミシガンから私に……?》

 

 617がわずかに反応する。

 

 通信越しに響くG6レッドの声は、相変わらずよく通る。

 

『「封鎖機構の連中は坑道から溢れ出るコーラルに文字通り飲み込まれただろう。貴様があの天使の片割れなのは理解している。もし貴様が良ければ我がレッドガンにスカウトしていたところだ。せめてその闘争心の火を次の遠足まで大事に育てておけ」……以上だ!』

 

 メッセージが終わる。

 

 617は少しだけ考えるように沈黙した。

 

 ミシガンらしい言い回しだった。

 

 荒っぽく、豪快で、だが相手の働きはきちんと見ている。

 少なくとも、今回のエンゲブレト坑道での作戦成果は、ベイラム側にも十分評価されたようだった。

 

 次に再生されたのは、アーキバスからのメッセージだった。

 

『アーキバスグループ傭兵起用担当。ヴェスパーⅧ“ペイター”です』

 

「ああ……例のキチガイ──」

 

「それ以上言うな」

 

「……ゴメン!」

 

 日本兵の一人が余計なことを言いかけ、即座に止められる。

 

 画面の向こうのペイターは、当然こちらの会話など気にせず、淡々と続けた。

 

『燃料基地襲撃作戦の完遂、お見事でした。第四隊長からも伝言を預かっております。お聞きください。「流石だな……戦友。君ならやってくれると思っていた」……とのことです。引き続き、アーキバスグループをよろしくお願いします』

 

 ラスティからの伝言。

 

 その言葉に、621は少しだけ表情を緩めた。

 

 だが同時に、今自分が乗って帰ってきた金色のオルトゥスを思い出す。

 

 もしラスティ本人がこの機体を見たら、果たして同じ言葉を言ってくれるだろうか。

 

 そんな疑問が、わずかに胸をよぎった。

 

 そして最後に、解放戦線からのメッセージが再生される。

 

『レイよ。こちらは解放戦線のミドル・フラットウェルだ。お前の仲間が封鎖機構の新型HCとLC機体の排除を完遂してくれたようだ。その点には感謝している』

 

「ああ……主任がやりとげたんだな。なんか複雑だ……」

 

 レイは頭を押さえる。

 

 ヒアルマー採掘場の依頼は、確かに完遂された。

 

 新型HCも、随伴LC二機も撃破済み。

 成果だけを見れば、見事なものだ。

 

 ただし、それをやったのが主任であるという一点が、すべてを複雑にしている。

 

「彼には困ったものだが、問題はここからだろう」

 

「……だな」

 

 閣下の言葉に、レイは頷いた。

 

 フラットウェルのメッセージは、そこで終わらなかった。

 

『……だが、スウィンバーンの暗殺をせず、我々の口座にアーキバスの資金を流し込ましたのは他ならぬレイの仕業だろう。スウィンバーンを何かしらでヘッドハンティングするために』

 

「……もろ筒抜けだったってことか。こっちの考えは」

 

 レイは小さく息を吐く。

 

 暗殺依頼を受けながら、標的を殺さず、資金だけを解放戦線の口座へ流し込む。

 

 表向きには依頼の成果を別の形で出したとも言えるが、解放戦線から見れば完全な独断だ。

 

 それでもフラットウェルは、こちらの狙いをかなり正確に読んでいる。

 

『六文銭からは不義を働いたお前を仕損じたと聞いている。こちらの独自の情報だが、スウィンバーンはどうやらヴェスパー部隊から除隊されたそうだ。どの道、足立重工の筋書き通りなのだろう。……独立傭兵でないにしろ、二度と我々を欺くことはしないで貰いたい』

 

 そこで、すべてのメッセージが終了した。

 

 格納庫に少しだけ沈黙が落ちる。

 

 三勢力からの反応は、いずれも任務完遂を認めるものだった。

 

 だが同時に、それぞれがこちらの動きを見ている。

 

 ベイラムは617を評価し、アーキバスは621の働きを認め、解放戦線はレイの独断を見抜いている。

 

 今後の立ち回りを考える必要があった。

 

「さてと……スウィンバーンは会計責任者の経験を活かして暗子が経営する暗黒ローンにでも派遣させるか?」

 

 レイがそんなことを呟いた時だった。

 

 格納庫の別方向から、ひどく軽い声が響いた。

 

「ただいま~! スウィンバーンっていうゴミムシ、やっておいてくれた?」

 

 主任だった。

 

 全員の視線が、一斉にそちらを向く。

 

 ヒアルマー採掘場で勝手に暴れ、封鎖機構の新型HCとLC二機を撃破し、しかも通信では終始ふざけていた男。

 

 レイは一拍置いて、静かに言った。

 

「……621、617。こいつにクロスボンバーでもラリアットでもいいからぶち込んでやってくれ」

 

《ん……そのつもり。621?》

 

《うん。今の私は少しイライラしている……》

 

 617と621が同時に動く。

 

 主任はそれを見て、相変わらず楽しそうに笑った。

 

「あらら……? なんかお怒り気味って感じ? ま、ちっこいのには変わりないけど! どこがって言わない方がいいかな? ギャハハハハッ!」

 

 次の瞬間、621と617のダブルドロップキックが主任に炸裂した。

 

 主任の身体が綺麗に吹っ飛び、格納庫の床を転がる。

 

 だが、やはり笑っていた。

 

 殴られても、蹴られても、反省する様子はない。

 

 むしろ少し嬉しそうですらある。

 

 レイは深々と溜息を吐いた。

 

「……んで、ただ報告しに来たって訳じゃないだろ?」

 

 主任は床から起き上がり、埃を払う。

 

「いやいや、ちょっとお土産をね? これ、プレゼント。気に入るといいけど……」

 

 そう言って、主任は一枚の写真をレイに渡した。

 

 レイは怪訝な顔でそれを受け取る。

 

「プレゼント? いったい何の……っ!?」

 

 写真を見た瞬間、レイの表情が変わった。

 

 軽口が消える。

 

 その反応に、閣下も日本兵たちもただ事ではないと察した。

 

 写真に写っていたのは、ヒアルマー採掘場で主任が見つけた物。

 

 円筒状の構造体。

 未知のエネルギー制御ユニット。

 そして、足立重工の技術者ならば見間違えるはずのない、特定の系統を思わせる炉心構造。

 

 レイの声が低くなる。

 

「……主任。これは何処で見つけた」

 

「あーあーっ、えっと? ヒアルマー採掘場にあった。封鎖機構が持ってた代物」

 

「マジか……」

 

 格納庫の空気が、明らかに変わった。

 

 レイがここまで露骨に動揺するのは珍しい。

 

 閣下も写真を覗き込み、目を細めた。

 

「レイ……これはもしや、足立重工が極秘に計画していたものと類似するのでは?」

 

 その問いに、レイはすぐには答えなかった。

 

 答える余裕がなかった、と言うべきかもしれない。

 

 彼は即座に通信を開き、格納庫内の技術班へ命令を飛ばした。

 

「……格納庫にいる日本兵たちに伝達。すぐにあのバカが手土産に持って帰ってきた代物を大至急解析しろ!」

 

「アレ……? バカってひどくない?」

 

「うるさい!」

 

 主任の抗議は即座に切り捨てられた。

 

 技術班が慌ただしく動き出す。

 

 主任が持ち帰った現物は、既に別コンテナに収められているらしい。

 ヒアルマー採掘場から回収され、厳重に運ばれてきたその物体。

 

 それが何なのか、621たちはまだ知らない。

 

 617も、エアも、菊池たちも、ただレイの緊張した様子を見ているしかなかった。

 

 だが、レイと閣下、そして一部の日本兵たちだけは理解していた。

 

 これは厄介な代物だ。

 

 封鎖機構が持っていたという事実も。

 足立重工の極秘計画と酷似しているという事実も。

 そして、それが今このタイミングで見つかったという事実も。

 

 すべてが、次の火種になる。

 

 格納庫の奥で、解析作業が始まる。

 

 主任は楽しげに笑っていた。

 

 レイは写真を握り締めたまま、低く呟く。

 

「……面倒なものを拾ってきやがって」

 

 その写真に写る物体の正体。

 

 擬似太陽炉。

 

 まだ誰も口にしていないその名前が、ミレニアムの次なる方針を大きく変えようとしていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ミレニアム格納庫の一角が、急遽、臨時の解析区画へと変わっていた。

 

 主任がヒアルマー採掘場から持ち帰ったコンテナは、すでに厳重な隔離フィールドの中に置かれている。

 外部装甲は封鎖機構の規格に近い。だが、その内部構造は違った。

 

 少なくとも、AC用のジェネレータでも、コーラル反応炉でもない。

 

 足立重工の技術者たちは計測器を走らせ、複数の端末に出力されたデータを照合していく。

 その数値が一つずつ揃っていくたび、場の空気は重くなっていった。

 

 そして、解析班の一人が顔を上げる。

 

「報告! やはり司令が懸念していた通り、これは我々が極秘に計画していたあの動力炉の生産性を重視した初期型と同じ仕組みでした」

 

 格納庫にいた日本兵たちが、一斉に沈黙した。

 

 レイは目を細め、隔離フィールドの中に置かれた円筒状の炉心を見つめる。

 

「疑似太陽炉……何故封鎖機構が疑似太陽炉を?」

 

 その言葉に、621と617は小さく反応した。

 

 疑似太陽炉。

 

 聞き慣れない単語だった。

 だが、レイや閣下、そして日本兵たちの反応を見る限り、それがただの動力炉ではないことだけは分かる。

 

 閣下は腕を組み、低く告げた。

 

「分からん。だが、はっきりしていることがある。この疑似太陽炉が我々以外の者が作り上げたということだ」

 

 それは、最も厄介な結論だった。

 

 足立重工は、確かにある計画を極秘に進めていた。

 太陽炉。

 GN粒子。

 それを用いた次世代型機動兵器群。

 

 だが、それはまだ表に出していない技術だ。

 

 それと酷似した代物が、封鎖機構の管理下にあるヒアルマー採掘場から見つかった。

 

 偶然で片付けるには、あまりにも出来すぎている。

 

「……となると、オールマインドか?」

 

 誰かがそう呟いた瞬間、日本兵たちの空気が一気に荒くなる。

 

「アメ公か!」

 

「あのアメ公、懲りねえな?」

 

「(^q^)ホント懲リナイ! ワー!」

 

 格納庫に妙な怒号が飛び交った。

 

 オールマインド。

 ミレニアムへのハッキング。

 回収された機体データ。

 そして、封鎖機構を裏から操っているかもしれない存在。

 

 疑うには十分すぎる相手だった。

 

 だが、レイはすぐに首を横に振る。

 

「その線も考えたが、あくまでオールマインドがミレニアムにハッキングして入手した機体はあの三馬鹿とザムザザーとゲルズゲーぐらいだ。自力で製造するにしても仕組みを知らなければ不可能の筈なんだ」

 

 疑似太陽炉は、外見を真似れば作れるものではない。

 

 GN粒子の生成。

 圧縮と制御。

 粒子放出時の毒性処理。

 炉心の安定化。

 それらの理論と設計思想を理解していなければ、形だけ似せてもまともには動かない。

 

 まして、今回回収された物は、初期型とはいえ実際に稼働可能な構造をしている。

 

 単なるコピーではない。

 

 誰かが、何らかの形でこの技術体系に到達している。

 

 閣下は静かに言った。

 

「……いずれにせよ、封鎖機構を裏から操る彼らが作ったという線は消えぬが、警戒しておくことに越したことはない」

 

 レイも頷いた。

 

 封鎖機構の背後に誰がいるのか。

 オールマインドなのか、それともさらに別の何者かなのか。

 

 現時点では断定できない。

 

 だが、一つだけ確実なことがある。

 

 こちらが隠していたはずの技術に、敵が近づいている。

 

 ならば、足踏みしている余裕はない。

 

「その事でだが閣下、例の計画を早めるべきだと思う」

 

 レイの声に、格納庫内の視線が集まった。

 

 閣下はすぐに意味を理解したように、わずかに目を細める。

 

「その方がよさそうだな。それで、司令はどうするつもりだ?」

 

 レイは隔離フィールド内の疑似太陽炉を指差した。

 

「疑似太陽炉がここにある以上、こいつを改良して赤いGN粒子が持つ毒素をかなり抑えた改良品に仕上げる。そんで、こいつを使った機体を作る」

 

 その言葉に、技術班が一斉に動き出した。

 

 解析だけではない。

 改修計画の立案。

 粒子制御機構の再設計。

 炉心保護フレームの構築。

 機体側との接続規格の確認。

 

 621は、エアと共にその様子を見ていた。

 

「レイヴン……どうやら、私たちの知らない計画が動き出すようです」

 

《うん……でも、レイの顔を見る限り、ただの新型機じゃない》

 

 617も静かに端末を見つめている。

 

 主任は、相変わらず面白そうに笑っていた。

 

「いやー、拾ってきて正解だったねぇ? これでまた面白いものが見られそうじゃない?」

 

「お前が拾ってこなかったら、もう少し穏便に進められたんだけどな……」

 

 レイはそう返しながらも、視線は既に別の端末へ向いていた。

 

 そこには、足立重工の極秘フォルダから呼び出された青図面が表示されている。

 

 青図面に映し出された機体は、白と紫を基調とした鋭角的なシルエットを持っていた。

 

 胸部中央には疑似太陽炉を収める円形ユニット。

 

 背には大型のバインダーが左右に伸び、スタンバイ時にはそれを片側へ集約する構造になっている。

 

 まだ正式に建造へ移る予定ではなかった機体。

 PROJECT OOの一環として、太陽炉搭載機のデータ検証用に設計されていた機体。

 

 青図面の中央には、その名が記されていた。

 

 CB-001.5 “1.5 GUNDAM”。

 

 アイズガンダム。

 

 レイはその名を見つめ、静かに息を吐いた。

 

 封鎖機構が疑似太陽炉を持っていた理由は分からない。

 それを作った者の正体も、まだ掴めていない。

 

 だが、敵がその領域に手を伸ばした以上、こちらも切り札を前倒しするしかない。

 

 格納庫内に警告灯が回り、技術班の声が飛び交う。

 

 疑似太陽炉の再調整が始まる。

 

 PROJECT OO。

 

 その計画は、主任が持ち帰った一つの炉心によって、予定よりも早く動き出すことになった。

 

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