転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
とある地下施設。
足立重工が運営する暗黒ローン、その奥深くに存在する一室。
通称、お仕置き部屋。
そこには、数えきれないほどのランニングマシーンが並んでいた。
ただの運動器具ではない。
借金返済用発電装置である。
マシーンに乗せられた者たちは、借金を返すため、今日もただひたすら走り続けていた。
「さぁ皆さん! 借金返済のために今日も頑張りましょう!」
暗子の明るい声が、地下施設に響く。
その声だけ聞けば、まるで健康的なトレーニング施設のようにも聞こえる。
だが、実態は地獄だった。
ドーザーたちが必死の形相でランニングマシーンの上を走っている。
汗を流し、息を切らし、それでも足を止められない。
速度を落とせば、後方へ流される。
転べば、追加ペナルティ。
つまり、借金が増える。
その理不尽な仕組みに、新入りたちは早々に悲鳴を上げていた。
「クソっ……!? なんで我らがこんな企業の犬に……!」
叫んだのは、新たに連れてこられた過激派組織オリオンの一員だった。
反企業を掲げ、過激な行動に走っていた者たち。
だが今は、企業の地下施設で借金返済のために走らされている。
思想も主義も関係ない。
暗黒ローンの前では、借金を背負った者は等しくランナーだった。
「口を動かしている場合じゃねえぞ、今は走れ! でないと落ちるぞ!」
隣のランニングマシーンで走っていたドーザーの一人が、息を荒げながら警告する。
忠告は遅かった。
オリオンの新入りたちは、怒りに任せて最初から全力で走っていた。
その結果、スタミナが一気に削られ、足取りが乱れ始めている。
「エルドのアニキ、新入りたちがもう根を上げていますぜ」
マートが、走りながらエルドへ声をかける。
エルドは額に汗を浮かべつつも、まだ比較的安定したペースを保っていた。
「最初っから飛ばして走ってちゃあスタミナが多く消耗するのは当たり前だ。連中ペース配分やらかしたな?」
彼らドーザーも、最初は同じだった。
怒り、叫び、暴れ、無駄に体力を使い、ランニングマシーンから脱落した。
そしてペナルティを食らい、借金が増えた。
その経験を経て、ようやく理解したのだ。
このお仕置き部屋で生き残るには、根性よりもペース配分が重要だと。
「ハァ……ハァ……いつまで、走り続ければいいのだぁぁぁっ!?」
オリオンの一人が限界を迎えた。
足がもつれる。
身体が後方へ流される。
そして、ランニングマシーンから転げ落ちた。
警告音が鳴る。
床が開き、脱落者はどこかへと吸い込まれていった。
「言ったそばから脱落者がでやがった。まあ死にはしないけどな……」
エルドは冷静に呟く。
死にはしない。
だが、楽でもない。
脱落者は別室で10分休憩というペナルティ処理を受け、借金額に休憩時間+ドリンク代の追加費用が加算される。
その後、再びランニングマシーンへ戻されるだけだ。
「うっへ……また借金が増えそうだ」
ドーザーの一人が、げんなりした顔で言う。
周囲では、オリオンの者たちが次々とペースを崩していた。
過激派としての気概はある。
反抗心もある。
だが、それだけでランニングマシーン地獄は突破できない。
エルドは走りながら、ちらりと新入りたちを見た。
人数が増えた。
それは単なる騒音の増加ではない。
使い方次第では、戦力になる。
「だが、新入りの奴らを上手いことこっちの計画に引き寄せれば脱出ができるかもしれねえ……!」
エルドの目に、わずかな光が宿った。
このお仕置き部屋からの脱出。
これまで何度も考え、何度も失敗してきた計画。
だが今回は違う。
ドーザーだけでは足りなかった人数が、オリオンの加入で増えた。
見張りの目を分散させることもできる。
力仕事に回せる者もいる。
脱出経路を掘るにも、陽動を仕掛けるにも、人手は多い方がいい。
ランニングマシーンの駆動音が響く中、エルドは密かに次の脱出計画を練り始めた。
だが、彼らは知らない。
この地下施設で起きる不穏な気配を、暗子が見逃すはずがないことを。
そして、このお仕置き部屋には、彼ら以外にも脱走の機会を狙っている男がいることを。
暗黒ローン地下施設。
今日も借金返済のため、ランニングマシーンは回り続ける。
そしてその裏で、またしても無謀な脱出計画が動き出そうとしていた。
◇◆◇
昼休憩時間。
暗黒ローン地下施設の食堂には、疲れ果てた者たちが集まっていた。
ランニングマシーンによる借金返済発電から一時的に解放されたドーザーたちと、新たに収容された過激派組織オリオンの面々。
食堂とは言っても、空気は決して穏やかではない。
むしろ、互いに睨み合う者も少なくなかった。
そんな中、エルドは数名の仲間を連れて、オリオンの一団に近づいた。
「……エルドと言ったか。ドーザーの貴様らが我々に何のようだ?」
オリオン側の男が、警戒心を隠さずに問いかける。
彼の名はゴトー。
新入りたちの中では比較的冷静で、今の状況を理解しようとしている男だった。
エルドは両手を軽く上げ、敵意がないことを示す。
「まぁそう怖い顔をするな。……つっても今のままじゃあ信用ねえのも無理もないか。単刀直入に言うぞ。俺たちが計画している脱出計画に協力してくれ」
「脱出計画? ……見取り図でも見つけたのか?」
ゴトーの目つきが少し変わった。
単なる愚痴や反抗ではない。
実行可能な計画があるなら、話を聞く価値はある。
エルドは声を落とした。
「いや、古典的だが脱出用の穴を既に掘ってある。その穴でこの施設から外へ出る。……最も、あの小悪魔はそれすらお見通しかもしれんが」
「小悪魔? 確か……暗子といったか? 我々もあいつに此処へ強制収容させられたと思いきや原始的な発電を強いられた。あいつがその穴を埋めている可能性があると?」
「逆だ。その穴をあえて放置し、俺たちをおちょくるように何かしらの罠を仕掛けているようだ」
ゴトーは眉をひそめた。
脱出用の穴がある。
だが、それを管理者側が把握している可能性が高い。
普通に考えれば、その時点で失敗である。
「それでは脱出ができないのと言っているようなものだぞ。どうするんだ?」
「その点は問題ない。あの小悪魔は俺たちが逃げだそうとしても殺すつもりはないようだ。むしろ生かさず殺さずの飼い殺しに近いやり方だ」
エルドは、これまでの経験を交えながら説明を始めた。
過去に脱走を試みた者たちはいた。
ドーザーだけでなく、独立傭兵や借金を抱えた連中も含めて、何度も抵抗や逃走が起きている。
だが、誰も死んではいない。
捕まり、罰を受け、借金が増え、またランニングマシーンに戻される。
それだけだ。
悪質ではある。
だが、処刑ではない。
むしろ、脱走未遂すらも施設側にとっては娯楽の一部になっている節がある。
エルドは食堂の隅に設置された監視カメラへちらりと視線を向けた。
あの小悪魔は、きっと見ている。
見たうえで、泳がせている。
エルドの説明を聞き終えたゴトーは、しばらく黙っていた。
やがて、低く呟く。
「……なるほどな。我々を使ってバラエティの引き立て役として飼い殺すと言うことか」
「最も、借金を返済できた奴は解放しているが、まだの奴は飼い殺しだ」
「背に腹はかえられぬか……。わかった。お前の案を受けよう。私はゴトーだ。しばらくの間よろしく頼む」
「ああ、改めて俺はジャンカー・コヨーテスのエルドだ」
二人は短く握手を交わした。
ドーザーとオリオン。
本来なら、簡単に手を組む相手ではない。
だが、今は同じランニングマシーン地獄に落とされた者同士だった。
思想も立場も後回し。
まずは、この地下施設から出る。
それが共通の目的になる。
ただし、その会話を聞いていた者がもう一人いた。
食堂の少し離れた席。
周囲に溶け込むようにして、ノーザークがこっそり耳を傾けていた。
脱出用の穴。
ドーザーとオリオンの協力。
暗子の罠。
ノーザークの目が怪しく光る。
自分が直接計画を立てずとも、他人の脱走計画に便乗すればいい。
混乱に乗じて、一人だけ上手く逃げる。
そうすれば、あの忌々しい地下施設から抜け出せる。
ノーザークは静かに笑みを浮かべた。
だが、彼もまた気づいていない。
食堂の監視カメラが、エルドたちだけでなく、自分の反応までしっかり捉えていることを。
さらに別室では、暗子がその映像を見ながら、にこにこと笑っていた。
「ふふっ、皆さん頑張っていますね」
彼女の手元には、既に新しい施設図面が用意されている。
脱出用の穴。
四つの扉。
そして、その先に待つ数々の罠。
脱走計画は、始まる前から暗子の手のひらの上だった。
◇◆◇
深夜〇時。
暗黒ローン地下施設は、既に就寝時間に入っていた。
ランニングマシーン地獄から解放された者たちは、それぞれ割り当てられた寝床で休息を取っている。
昼間の疲労は凄まじく、普通ならこの時間に動こうなどとは思わない。
だが、その静まり返った施設の廊下を、いくつもの人影が音を殺して進んでいた。
「この辺りか?」
「ああ。あの小悪魔が何も細工していなければ……あった!」
エルドが足元のタイルを指差した。
他の床材とほとんど見分けがつかないが、よく見ればわずかに目印が付けられている。
何度も位置を確認し、少しずつ準備を進めてきた脱出用の穴。
エルドは慎重にタイルを外した。
すると、その下には一人分が通れるほどの穴が開いていた。
薄暗い地下へ続く細い通路。
古典的にもほどがある脱出経路だ。
だが、今の彼らにとっては希望だった。
「よし、問題は穴から出た後だ。心していくぞ!」
「……どうも悪い予感しかしないが、進むしかない」
ゴトーが低く呟く。
ドーザーたちも、オリオンの者たちも、誰もが同じ不安を抱いていた。
暗子がこの穴の存在を知らないはずがない。
知っていて放置しているのなら、その先に何かが待っている可能性が高い。
それでも退くことはできなかった。
このままでは、明日も明後日もランニングマシーンで発電させられる。
借金が減るどころか、脱落やペナルティで増えていく者もいる。
進む以外に道はない。
エルドを先頭に、一人ずつ穴へ入っていく。
狭い。
暗い。
土と金属の匂いが混じった通路を、彼らは這うように進んだ。
後ろではオリオンの者が小さく悪態をつき、ドーザーの一人が「静かにしろ」と押し殺した声で注意する。
そして、その一団の最後尾近く。
ノーザークもまた、誰にも気づかれないようにこっそり紛れ込んでいた。
自分で穴を掘ったわけではない。
協力を申し出たわけでもない。
ただ、便乗する。
混乱に乗じて、自分だけ逃げる。
それが彼の計画だった。
穴の中を進むこと十数分。
先頭を行く者の声が響いた。
「出口が見えた!」
暗闇の先に、わずかな光が見える。
それを見た全員の足取りがわずかに速くなった。
外だ。
ようやくこの地下施設の外へ出られる。
そう思いたい。
だが、エルドは気を緩めなかった。
「さて、鬼と出るか蛇と出るか……」
慎重に出口から顔を出す。
そして、彼らが見たものは──外ではなかった。
そこは、一室だった。
真っ白な壁。
不自然に整えられた床。
そして、正面に並ぶ四つの扉。
まるで、誰かが彼らを待ち構えるために用意したような部屋だった。
「扉……? こんどは何だ?」
ガルベが呆然と呟く。
穴を掘ったはずだった。
外へ繋がる通路を作ったはずだった。
だが、その出口がなぜか四つの扉が並ぶ謎の部屋に繋がっている。
常識的に考えれば、ありえない。
しかし、ここは足立重工の暗黒ローン地下施設である。
ありえないことが、当然のように起きる場所だった。
「この扉のどちらかが当たり……もしくは全部罠……か?」
マートが警戒しながら四つの扉を見比べる。
どの扉も見た目は同じだ。
違いはほとんどない。
だが、ここまで来て何もないとは思えない。
ゴトーが後ろを振り返る。
彼らが出てきた穴は、既に何かの機構で閉じられ始めていた。
戻れない。
そういうことらしい。
「どの道、退路はない以上進むしかない」
エルドは腹を括った。
暗子の罠であることは、もはや疑う余地もない。
だが、罠だからといって立ち止まれば、ただ捕まるだけだ。
ならば進むしかない。
人手はある。
ドーザーとオリオン、そして便乗したノーザーク。
全員が一つの扉に固まるより、分散した方が当たりを引く可能性は高い。
そうして、彼らは四つの扉へ分かれることにした。
一つ目の扉には、ガルベとマートのチーム。
二つ目の扉には、ゴトーのチーム。
三つ目の扉には、ドーザーとオリオンの混成チーム。
そして、エルドは四つ目の扉へ向かう。
それぞれが扉の前に立つ。
誰も軽口を叩かない。
この先に何があるのか分からない。
だが、もう進むしかない。
エルドは小さく息を吸った。
「行くぞ」
四つの扉が、ほぼ同時に開かれた。
◇◆◇
四つの扉が同時に開かれた。
最初の扉を選んだガルベとマートのチームが足を踏み入れた先にあったのは、白い階段だった。
ただし、普通の階段ではない。
上から下まで、透明な液体が絶え間なく垂れ流しになっている。床も壁も階段も、てらてらと不自然な光沢を放っていた。
「なんじゃこりゃ!?」
「コレ……ローションか?」
ガルベが顔を引きつらせた瞬間、壁面のモニターが起動した。
そこに映し出されたのは、にこにこと笑う暗子だった。
『ようこそいらっしゃいました! 地獄のぬるぬるローション階段へ!』
「げっ!? よりによってハズレかよ!?」
マートが即座に後ずさろうとする。
だが、背後の扉は既に閉じていた。
『ここはあなた達にとってボーナスステージです! 階段の最上階の辺りをよく見てください!』
「最上階……?」
言われるまま視線を上げる。
長い階段の最上部。そこに、一つの封筒が貼り付けられていた。
封筒には大きく文字が書かれている。
100,000COAM。
『あの封筒を手にした者は、借金返済の10万COAM分が帳消しになります! 因みに早い者勝ちでーす!!』
「「「な……何だってぇっ⁉」」」
その瞬間、場の空気が変わった。
十万COAM。
借金を背負わされた彼らにとって、それは大きすぎる金額だった。
「アレは俺のもんだーっ!!」
「ふざけるな! 10万を手にするのは、我々だ!!」
「おっおい、まて! これは明らかに罠だぞ!?」
ガルベが止めようとするが、もう遅い。
ドーザーとオリオンの面々は、我先にとぬるぬるの階段へ突撃していった。
「ガルベ……こりゃ、あいつ等聞く耳持たねえぜ?」
マートが呆れたように呟く。
案の定、先頭の一人が一段目で足を滑らせた。
転ぶ。
後続を巻き込む。
さらにその後ろが滑る。
結果、階段の下はあっという間に人間ボウリング状態になった。
「ぐわぁぁぁっ!?」
「押すな! 滑る! 滑るぅぅぅっ!」
「俺の十万COAMがぁぁぁぁっ!」
登ろうとしては滑り落ち、掴もうとしては他人に巻き込まれ、ローションまみれになりながら無駄に体力だけを消耗していく。
ボーナスステージ。
暗子はそう言った。
だが、それはどう見ても借金者たちの醜い争奪戦を観察するための罠だった。
一方、二つ目の扉を選んだゴトーのチームは、別の部屋に出ていた。
「これは……アスレチックコースか?」
そこには、体全身を使うことを前提とした足場やロープ、回転する棒、跳び移るための台座が並んでいた。
いかにも運動能力を試す構造だ。
そして、その先。
最奥には、やはり封筒が置かれていた。
「あの10万と書かれた封筒……何か入っているな?」
「アレを取るためにこのコースを攻略しろってか?」
足元を見れば、コースの下は底なしの穴になっている。
落ちればどうなるかは分からない。
だが、まともな場所に戻されるとは思えなかった。
「……これは、とんだ食わせ物だな」
ゴトーは即座に判断した。
この部屋はハズレだ。
昼間にランニングマシーンで散々走らされた後に、このアスレチックを攻略しろという時点で無理がある。
それでも、一部の者は違った。
「よし、俺が行く!」
「おいっ待て! 迂闊に行くな!!」
ゴトーの制止を振り切り、一人がコースへ飛び出した。
最初の足場を越える。
ロープに掴まる。
回転棒を避ける。
意外にも、序盤は順調だった。
だが、ある程度進んだところで、挑戦者の足に何かが引っかかった。
細い糸。
それが、ぷつりとちぎれる感触。
「うん? 何だ今の……ぐはっ!?」
横の壁が開いた。
巨大な鉄球が飛び出し、挑戦者の身体に直撃する。
次の瞬間、彼は悲鳴を上げる暇もなく吹き飛ばされ、そのまま奈落の底へ落ちていった。
「マジか……」
「いまギャグマンガのシーンのように落ちていったぞ」
その光景を見た瞬間、誰も二人目になろうとはしなかった。
封筒は魅力的だ。
だが、鉄球に吹き飛ばされて奈落へ落ちる覚悟まではない。
ゴトーは静かに腕を組んだ。
この部屋は、諦めるに限る。
その頃、三つ目の扉を選んだドーザーとオリオンの混成チームは、妙に落ち着いた部屋に出ていた。
「何だこの部屋?」
「洋式の部屋だが……何も変哲もないな……」
絨毯。棚。ソファ。壁掛け時計。
一見すれば、普通の応接室のようにも見える。
しかし、ここが暗子の用意した部屋である以上、普通で終わるはずがない。
部屋を捜索していると、天井から巨大なゴムのようなものが展開された。
それが、ゆっくりと下がってくる。
「なあ……おい。なんか天井が下に降りてきてないか?」
「確かに……なんで落下してきているのかというと……完全に罠にハマったとるがね~!?」
慌てる彼らの前に、九面のパネルが現れた。
そのうち五か所ほどが光っている。
「なんかパネルが出て来たぞ!」
「……もしかしたら、あのパネルの光っている部分を全部埋めれば上の天井が止まるかもしれん!」
その推測に従い、彼らはすぐにパネルを操作し始めた。
押す。
すると、押した場所を中心に十字方向のパネルが光る。
「なるほど。押すとパネルが十字に光る仕組みか」
「おい、天井が徐々に迫ってきているんだ! 急いでくれ!」
「急かすな! 今やるところだ!」
天井はじわじわと降りてくる。
時間はない。
彼らは必死にパネルを押していく。
そして、最初に光っていた部分をすべて消した。
「よし、ここからパネルを全部光らせれば──」
『ブッブー!』
「……はっ?」
不正解音。
次の瞬間、天井が一気に落下した。
ゴム製の天井が、部屋の中にいたドーザーたちをまとめて挟み込む。
「おっおい! 何やってんだ!? みんな仲良くサンドイッチになっちまったじゃねえか!?」
「ど……どうやらハズレを引いてしまったようだ。ワリィ……」
全員がぺしゃんこになったわけではない。
だが、完全に行動不能だった。
三つ目の部屋は、謎解き失敗により全滅。
そして最後。
四つ目の扉を選んだエルドのチームが足を踏み入れた先は、これまでとはまったく違う空間だった。
「何だ此処は?」
「地面にあるのは……氷か? うぅ……寒ぃ……!」
そこは氷原地帯だった。
床は氷に覆われ、空気は刺すように冷たい。
吐く息が白くなり、足元は滑りやすい。
そして、極めつけは──。
「ミャー!」
「……はっ? ペンギン?」
一匹のペンギンが、エルドたちの横を通り過ぎた。
そのまま湖へ向かい、勢いよくダイブする。
一瞬、全員が固まった。
だが、すぐに別の音が聞こえてくる。
無数の足音。
「無数の足音……?」
「おっおい。まさか……」
エルドは嫌な予感を覚えた。
ゆっくりと音のする方角へ視線を向ける。
そこにいたのは、ペンギンだった。
ただし、一匹や二匹ではない。
無数。
視界を埋め尽くすほどのペンギンの大群が、凄まじい勢いでこちらへ迫ってきていた。
「な……なんじゃあの数は!?」
「なんでペンギンがこんなに多いんだよ!?」
「言っている場合か! 急いで移動しろ! あのペンギンの群れ、思った以上に素早く移動していやが……どわぁぁぁぁぁっ!?」
忠告している途中で、エルドが巻き込まれた。
ペンギンの群れが波のように押し寄せ、彼を足元からさらっていく。
そのまま氷上を滑り、湖へ向かって流されていった。
「エルドのアニキィィィッ!?」
「逃げろ! 飲まれるぞ!」
「無理だ! 数が多すぎる!」
ドーザーもオリオンも、次々とペンギンの群れに巻き込まれていく。
踏まれる。滑る。押し流される。
そして最終的には、全員まとめて湖へと流されていった。
こうして、四つの扉へ挑んだ全チームは、時間切れ、あるいは全滅という形で失敗した。
次の瞬間、彼らの身体は一斉に転送される。
行き先は、もちろんお仕置き部屋だった。
ランニングマシーンが並ぶ、あの地獄の部屋。
そこに戻されたドーザーとオリオンの面々を、モニター越しの暗子が笑顔で出迎えた。
「はい皆さん、残念でした! 今回は初回の方もいらっしゃるのでオリオンの方はそのままで、ドーザーの皆様はボーナス10万の利子300%をプラスして40万の借金をしていただきまーす♪」
「「「ふざけるなっ!!」」」
地下施設に絶叫が響いた。
脱出計画は失敗。
オリオンは初回ということで借金据え置き。
だが、ドーザーたちはボーナス十万COAMに利子三百%が加算され、さらに四十万COAMの借金を背負わされることになった。
結局、ドーザーとオリオンの共同脱出計画は、成果ゼロ。
むしろ、ドーザーだけ借金が増えるという最悪の結末に終わった。
ただ一つ。
お仕置き部屋に転送された者たちの中に、ノーザークの姿だけがなかった。
◇◆◇
ドーザーとオリオンの面々が全滅し、お仕置き部屋へ転送された後。
四つの扉が並ぶ部屋には、一人だけ残っていた。
ノーザークである。
彼はドーザーたちが各部屋で酷い目に遭っている間、四つの扉には入らず、部屋の中をくまなく調べていた。
「やはりこの部屋……四つの扉以外に他の扉がある」
正面に並んだ四つの扉。
あれは明らかに罠だった。
ならば、本当の出口は別にあるはずだ。
ノーザークはそう考え、壁や天井、床の継ぎ目を一つずつ確認していく。
そして、壁の一部にわずかな隙間を見つけた。
「隙間? ……もしかすると」
指をかけ、力任せにこじ開ける。
ぎしり、と音を立てて壁の一部が動いた。
そこにあったのは、隠し扉だった。
「思った通りだ! 目の前にあるものが出口とは限らないのは確かだったようだな!」
ノーザークは勝ち誇ったように笑った。
ドーザーもオリオンも、愚かにも見えている扉に飛び込んだ。
だから罠にかかった。
だが、自分は違う。
目の前に用意された選択肢を疑い、隠された道を見つけた。
今度こそ脱出できる。
そう確信しながら、ノーザークは隠し扉をくぐった。
「……何だ、此処は?」
扉の先に広がっていたのは、奇妙な空間だった。
床は整えられ、四方にはブロック状の壁が並んでいる。
細い通路が迷路のように伸び、ところどころに隠れるための遮蔽物がある。
まるで、何かのゲームステージ。
あるいは戦闘訓練場のようだった。
「此処は……何かの訓練場か?」
ノーザークは警戒しながら進む。
すると、通路の奥に人影が見えた。
白いBDUを着た奇妙な人物。
そして何より、目が独特だった。
([∩∩])<…………
「な……何だあいつは?」
ノーザークは思わず足を止めた。
相手は無言のまま、こちらを見ていないように見える。
気づかれていない。
そう思った瞬間、ノーザークは相手と目が合った。
([∩∩])<……!
「マズイ、見つかった!」
次の瞬間、その奇妙な人物が発した第一声は、あまりにも物騒だった。
([∩∩])<死にたいらしいな?
「は?」
ノーザークが理解するより早く、相手は爆弾を取り出した。
丸い爆弾。
それを迷いなく、ノーザークへ投げつける。
「なっ爆弾!? くっ……!」
ノーザークは咄嗟に横へ跳び、近くのブロックの影に身を隠した。
直後、爆弾が爆発する。
轟音と共に爆風が通路を走り、破片と煙が舞い上がった。
間一髪。
ノーザークは何とか直撃を避けた。
だが、相手はまったく止まらない。
([∩∩])<遊びは終わりだ。コロシテヤルヨ……!
「くっ……! 貴様は一体何なんだ!?」
([∩∩])<死にたいらしいな?
「俺はこの施設から脱出して、この悪夢とはおさらばしたいだけだ!」
([∩∩])<遊びは終わりだ。
「何故、理解しようとしない! 借りた金は、有効に使うべきだ。何故返す必要がある!」
([∩∩])<コロシテヤルヨ……!
「……というかそれ以外の言葉はないのか!?」
([∩∩])<死にたいらしいな?
「駄目だこいつ……! 語彙が少なすぎて会話が成立しない!」
ノーザークの叫びは、虚しく通路に響いた。
相手はまったく会話する気がない。
いや、会話する語彙がないのかもしれない。
だが、爆弾を扱う腕だけは妙に洗練されていた。
今度は爆弾を投げない。
地面に置いた。
そして、それをノーザーク目掛けて蹴り込んだ。
「なっ……爆弾を!? ぐぉっ!?」
転がってきた爆弾が、ノーザークの足元で止まる。
避けようとした。
だが、背後は壁。
横にはブロック。
気づいた時には、爆弾と壁に挟まれて身動きが取れなくなっていた。
([∩∩])<オワオワリ。
「ま、待て……!」
ノーザークは声をかけようとした。
だが、遅い。
爆弾が爆発した。
通路に爆炎が広がり、ノーザークの悲鳴が飲み込まれる。
数秒後、そこには真っ黒に焦げて気絶したノーザークが転がっていた。
その光景を、モニター越しに見ていたレイは、何とも言えない顔をしていた。
「なんでボンバーマンのあいつが此処にいるんだよ……」
隣では、暗子が満面の笑みを浮かべている。
「その方が面白いと思いまして、彼を採用しました♪ あっ彼が何か言っていますよ?」
暗子がモニターを指差す。
画面の向こうで、例の白いBDUの人物がこちらを向いた。
([∩∩])<死にたいらしいな? 遊びは終わりだ。コロシテヤルヨ……!
「語彙が少なすぎて何言ってるか分からねえよ……」
レイは頭を抱えた。
すると暗子は、少し考えるように首を傾げる。
「う〜ん……もしかして、“お気に入り登録、感想、評価のほどをよろしくお願いします! ”って言ってるんじゃないでしょうか?」
「いやっメタいぞ!? というか媚びるなよ!」
その瞬間、モニターの向こうの人物が、ぼそりと付け足した。
([∩∩])<して。
「喧しいわ!!」
レイのツッコミが、地下施設の管制室に響いた。
その後、黒焦げになったノーザークは、当然のようにお仕置き部屋へ転送された。
四つの扉を選ばなかった判断は悪くなかった。
隠し扉を見つけた洞察力も、確かに見事だった。
だが、その先に待っていたのが爆弾男のステージだった時点で、彼の運命は決まっていた。
こうして、ノーザークの脱走計画はまたしても失敗に終わる。
そして暗黒ローン地下施設では、翌朝も変わらず、ランニングマシーンが回り続けるのだった。