転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
ミレニアム艦内。
格納庫と開発区画を繋ぐ通路の一角で、レイはデータパッドを片手に“PROJECT OO”の進捗状況を確認していた。
画面には、CB-001.5 “1.5 GUNDAM”──アイズガンダムの各種フレームパーツの製造状況と、主任がヒアルマー採掘場から持ち帰った疑似太陽炉の改良データが表示されている。
白と紫を基調とした機体の骨格は、既に主要フレームの生産を終えつつあった。
まだ装甲や武装、粒子制御系の最終調整は残っているが、建造計画そのものは順調と言える。
問題は、動力炉の方だった。
「アイズガンダムの各フレームパーツの生産が完了。疑似太陽炉も毒素を可能な限り中和して赤色から橙色のGN粒子を生成できるようになったな。……疑似太陽の目指すべき到達点はオリジナルの太陽炉と同じ緑色の粒子といった感じか?」
レイはデータを眺めながら呟いた。
初期型の疑似太陽炉が生成する赤いGN粒子は、毒性の問題が大きい。
それを可能な限り抑え込み、粒子色は橙色へと変化している。
改良は進んでいる。
だが、オリジナルの太陽炉──GNドライヴが生成する緑色のGN粒子と同等の安定性には、まだ遠い。
「それにはかなりの時間がかかるとのことです、司令」
横に控えていた日本兵の技術担当が、端末を確認しながら答える。
「最短でも数十年……。結果的に長いな……」
レイは肩を竦めた。
技術の進歩には時間がいる。
特に太陽炉系統の技術は、ただ部品を揃えれば済むものではない。
粒子生成機構。
炉心の安定化。
毒性の抑制。
機体側の制御系との接続。
一つ一つが難題だった。
だからこそ、今はアイズガンダムを実証機として組み上げるしかない。
レイがそう考えていると、廊下の向こうから伝達係の日本兵が慌ただしく駆けてきた。
「カーラから入電! 司令に依頼が来ています!」
「俺に? 繋いでくれ」
レイはデータパッドを閉じ、通信端末へ向き直った。
数秒後、モニターにRaDから送られてきた通信が開かれる。
『久しぶりだね、ビジター。あんたにひとつ仕事を頼みたい』
カーラの声が、いつもの調子で響いた。
軽いようでいて、底には鋭さがある声。
同時に、RaDからマップデータと依頼内容が表示された。
場所はウォッチポイントデルタ。
そこには三機の大型ミサイルが配置されている。
『封鎖機構の実力行使だが、いよいよ私らのビジネスにまで影響が出始めた。コヨーテスのアホ共が封鎖機構を恐れて軍門に下りやがったのさ。後ろ盾を得て調子付いたんだろうね。RaDのシマにもまたちょっかいを出してくる始末だ』
「あいつ等か……。懲りないな」
レイは思わず呆れた声を漏らした。
ジャンカー・コヨーテス。
ドーザーの一派であり、何度も面倒ごとを起こしている連中だ。
それが今度は封鎖機構の軍門に下り、RaDの縄張りへ手を出そうとしているらしい。
正直、あまり驚きはない。
だが、面倒なのは確かだった。
「司令、まだ続きがあるようです」
伝達係の言葉に、レイは再びモニターへ視線を戻す。
『……そんなわけで、コウモリ野郎がお星様になれるように打ち上げ花火をプレゼントすることにした』
「JB-2サンダー爆弾!」
すかさず日本兵の一人が叫んだ。
レイは即座にそちらへツッコミを入れる。
「いや違うだろうに。というか、古いなっおい? 第二次世界大戦のアメリカが作った無人誘導弾かよ」
相変わらず、日本兵たちは謎のところでテンションが高い。
しかし、カーラの言う打ち上げ花火とは、おそらくウォッチポイントデルタに配置された大型ミサイルのことだろう。
グリッドごと吹き飛ばすには、十分すぎる代物だ。
『……だが連中もそこまでは馬鹿じゃない。発射する時には当然妨害に来るだろう。分かるね? あんたの仕事は連中の迎撃とミサイル防衛だ。今回の依頼で、うちのラミーがミサイル防衛に回る。コウモリ野郎と封鎖機構にRaDの花火を見せつけてやろうじゃないか』
そこで、カーラからの通信は終了した。
レイは少しだけ沈黙し、マップデータを確認する。
任務内容は単純だ。
大型ミサイルの発射まで防衛し、妨害に来るジャンカー・コヨーテスと封鎖機構の部隊を迎撃する。
問題があるとすれば、ラミーが参加するという点だろう。
もっとも、最近のラミーは日本兵たちに扱かれた影響で、以前より腕を上げている。
マッドスタンプのままではなく、機体も手を加えられているらしい。
そう考えれば、完全なお荷物というわけでもない。
「さてと……ご指名された以上、仕事はこなさないとな。それに、プロジェクトと睨めっこしてたからちょっと息抜きが欲しかったところだし、丁度いいか」
レイは軽く肩を回した。
アイズガンダムの建造、疑似太陽炉の改良、PROJECT OOの進捗管理。
ここしばらく、頭を使う作業が多かった。
たまには分かりやすい戦闘任務も悪くない。
しかし、伝達係が少し申し訳なさそうに報告する。
「司令、デスティニーのことですがまだ整備に時間が掛かるとのことです」
レイは一瞬だけ考え、すぐに頷いた。
「そうか。……ならフリーダムで行くさ」
デスティニーは、六文銭のNダガーNによる自爆を至近距離で受けた影響もあり、まだ整備中だった。
致命的な損傷ではないが、万全を期すなら無理に出すべきではない。
ならば、予備機として用意しているフリーダムで出撃するだけだ。
高機動戦闘と広域制圧なら、フリーダムでも十分に対応できる。
格納庫では、出撃準備が始まった。
フリーダムの整備班が各部のチェックを進め、武装の接続確認を行う。
レイは出撃準備へ向かいながら、ふと足を止めた。
「……そういえば、621達はどうしてるんだ?」
最近は621や617も別任務で動くことが多い。
今回の依頼に関わるのかと思ったが、姿が見えない。
伝達係は端末を確認し、少し微妙な顔で答えた。
「それが……RaDのカーラから打ち上げ花火があると誘われて今回ACを置いてカーラの所に向かったとのことです」
「マジか……すれ違いか? ……まあいいか」
レイは少し呆れたように息を吐いた。
カーラの言う打ち上げ花火を見物しに行ったのか。
あるいは、RaD側で何か手伝っているのか。
細かいことは分からないが、既にカーラのところにいるなら大きな問題はないだろう。
少なくとも、621と617なら自分で身を守れる。
それに、今回の主目的はミサイル防衛だ。
レイ一人でも十分こなせる。
格納庫のハッチが開く。
フリーダムが出撃位置へと移動し、背部の翼を展開した。
青と白を基調とした機体が、ミレニアムの照明を受けて輝く。
レイはコックピットへ乗り込み、システムを立ち上げた。
モニターにウォッチポイントデルタの座標が表示される。
「よし……レイ、フリーダムで出る」
フリーダムがカタパルトへ固定される。
次の瞬間、機体はミレニアムから射出され、ウォッチポイントデルタへ向けて加速していった。
RaDの打ち上げ花火。
封鎖機構に尻尾を振ったジャンカー・コヨーテス。
そして、日本兵に鍛えられたというラミー。
その三つが揃った時点で、今回の任務もただでは済まない気配がしていた。
◇◆◇
ウォッチポイントデルタにフリーダムが到着した時、既に現場は戦場と化していた。
大型ミサイルの発射施設周辺では、ジャンカー・コヨーテスのMT部隊が複数方向から押し寄せている。砲撃音が響き、爆炎が上がり、発射準備中のミサイルを守る防衛部隊が応戦していた。
「案の定、先に始めていたか……」
『先に始めてるよ、ビジター! 配置につきな!』
カーラの通信が飛び込んでくる。声色はいつも通り軽いが、状況は決して余裕があるものではない。
「今向かう! 少し待ってろ!」
レイはフリーダムの推力を上げ、ミサイル発射地点へ急行した。
そこでは、見慣れたようで見慣れないACが暴れていた。
黄色を基調とした重厚な機体。頭部と胴体は大豊製のTIAN-QIANG、脚部はRaD製のWRECKER。そこまでは、以前のマッドスタンプを思わせる。だが、腕部はRaDのAC-2000 TOOL ARMに換装され、両腕にはDF-GA-08 HU-BENガトリングガンを装備。右肩にはSONGBIRDS、左肩にはWB-0010 DOUBLE TROUBLEチェーンソーブレードが取り付けられている。
シュナイダー製ブースターFLUEGEL/21Zと、ベイラム製FCS TALBOT。さらに大豊製の大容量ジェネレーターMING-TANG。
雑に見えて、以前よりも明らかに噛み合った構成。
マッドスタンプ二式。
ラミーの新たなACだった。
「はっはー! どうしたどうした? そんなんじゃ、この“無敵”のラミーを落とせねえぜ!」
ラミーは両腕のHU-BENを唸らせ、接近してくるMTを次々と蜂の巣にしていく。
以前のように勢いだけで突っ込むのではない。重装甲で前に出つつ、ガトリングの弾幕で敵を押さえ込み、隙を見てSONGBIRDSを叩き込む。近づいた敵にはチェーンソーブレードをちらつかせ、強引に距離を取らせる。
荒いが、戦えている。
それだけで、レイには驚きだった。
「くそっ! マヌケのラミーめ! この短期間でいったいどうやって強くなりやがった!?」
「数で物を言わせて追い詰めろ! 所詮はAC単機だ!」
「待てっ! この反応は……!」
コヨーテスのMT部隊が、後方から高速接近する機影を捉えた。
振り返る。
だが、その時にはもう遅い。
フリーダムが戦場へ飛び込み、ラケルタ・ビームサーベルを抜き放っていた。
すれ違いざま、MT二機の両腕がまとめて切断される。
武装を失ったMTがバランスを崩し、そのまま地面へ倒れ込んだ。
「マジかよっ!? よりによって天使野郎が来やがった!?」
「戦力を出し惜しみしてる場合じゃねえ……! 全部出せ!!」
コヨーテスの通信が荒れる。
レイはその通信を傍受しながら、フリーダムをラミーの近くへ降下させた。
「おいラミー! 敵のおかわりがまだ来るぞ!」
「応っビジター! 俺に任せな! 何せ今の俺は無敵だっ!」
「……というか、マッドスタンプ腕と武装だけ変えたのか?」
レイはマッドスタンプ二式を改めて見る。
以前破壊したマッドスタンプと共通しているのは、頭部、胴体部、脚部くらいだ。腕と武装は大きく変わっており、全体の印象も以前よりずっと実戦向きになっている。
特に両腕HU-BENの継続火力と、SONGBIRDSの瞬間火力。ラミーの雑な突撃癖を、重装甲と弾幕である程度補える構成になっていた。
「そいつは俺を強くしてくれた鬼教官に俺にあったアセンにしてくれたおかげさ。そのおかげで今の俺は絶好調って訳さ!」
『おいラミー! 口ではなく手を動かせ! 敵がもうすぐ来るぞ!』
通信越しに、日本兵の怒声が飛んだ。
その瞬間、ラミーの機体がびくりと反応する。
「きょ、教官っ!? りょ、了解であります!?」
さっきまでの調子に乗った態度が、一瞬で消えた。
どうやら日本兵による特訓は、ラミーにとって相当なものだったらしい。反射的に敬語になるあたり、かなり深く刻み込まれている。
レイはその様子を見て、すべてを察した。
『まぁ、そういう事さ。うちのラミーがあんた等の仲間が扱いてくれたおかげで様になっているよ』
「……あー、察したよ」
カーラの声には、どこか楽しそうな響きがある。
ラミーがまともに戦えているのは良いことだ。だが、その裏でどんな訓練が行われたのかを考えると、レイは少しだけ遠い目になった。
そんな間にも、敵の増援反応がレーダーに映る。
MT部隊に加え、輸送ヘリも接近中。ミサイル発射施設を潰すため、数で押し切るつもりなのだろう。
レイはフリーダムのビームライフルを構え、ラミーは両腕のHU-BENを回転させる。
「ラミー、発射施設に近づく奴から優先して落とせ。無理に追いすぎるなよ」
「分かってるって! 今の俺は無敵で、しかも教官仕込みだ!」
『慢心するな!』
「りょ、了解でありますっ!?」
ラミーの返答に、レイは苦笑する。
だが、少なくとも今のラミーは以前とは違う。
勢いだけのヤク中ではない。
叩き込まれた訓練と、組み直された機体によって、ようやく戦場で役に立つ形になっている。
フリーダムが翼を広げる。
マッドスタンプ二式のガトリングが唸る。
大型ミサイルを守るため、レイとラミーはコヨーテス第二波を迎え撃つ態勢に入った。
◇◆◇
第一波を退けた直後、ウォッチポイントデルタ周辺には一時的な静けさが戻っていた。
大型ミサイル発射施設の周囲には、撃破されたジャンカー・コヨーテスのMTが黒煙を上げながら転がっている。マッドスタンプ二式は両腕のHU-BENを冷却させながら、周辺を警戒していた。
そこへ、RaDの通信が入る。
『ボス。準備完了だ。ミサイル発射シーケンスに入る』
淡々とした声だった。
状況の緊迫感に対して、あまりにも平坦なその声に、レイは一瞬だけ耳を傾ける。
『紹介がまだだったね、ビジター。まぁ知っていると思うが、チャティはうちのシステム担当さ。無口だが仕事ができる奴さ』
「ああ、一応だがよろしくと言っておく」
レイがそう返すと、チャティからの返答はなかった。
無口という紹介は、どうやら本当らしい。
『さて、あんたにはこの調子でコウモリ野郎を蹴散らしてもらおうか』
カーラの言葉に、フリーダムのセンサーが周囲を走査する。
その時、別の通信が割り込んだ。
《レイ……頑張って》
「617か? 621はどうした?」
《急用が出来てベリウス地方の壁に向かった。ベイラムの依頼で……》
「マジか……」
621は既に別任務へ向かったらしい。
カーラの打ち上げ花火に誘われていたはずだったが、このルビコンで予定通りにいくことの方が珍しい。
レイは少しだけ呆れたように息を吐く。
だが、考えている余裕はすぐに消えた。
『敵増援出現!』
日本兵の通信士が叫ぶ。
レーダー上に、多数の反応が出現した。
MT部隊。
輸送ヘリ。
複数方向から、まるで波のように押し寄せてくる。
『まったく、長いものに巻かれようとはね……。ドーザーがまともな判断しやがって』
カーラの声には、苛立ちと皮肉が混じっていた。
封鎖機構の後ろ盾を得たジャンカー・コヨーテスは、ここで出し惜しみをやめたらしい。
「……どうやら俺が来たことで第二派どころか全戦力を投入して来たぞ!」
レイの言う通りだった。
コヨーテスはミサイル発射施設を潰すだけではなく、ラミーとフリーダムを物量で押し潰すつもりで全戦力を投入してきている。
ラミーはそれを見て、マッドスタンプ二式の両腕ガトリングを再び回転させた。
「なんだぁ? 数に任せて攻めて来たってか?」
「ラミーには悪いが、ここは俺が対処する!」
レイはフリーダムの翼を大きく展開した。
機体姿勢を制御し、空中で静止するように高度を取る。
バラエーナ・プラズマ収束ビーム砲。
クスィフィアス・レール砲。
ビームライフル。
複数の火器が同時に展開され、接近する敵群へロックオンカーソルが次々と重なっていく。
ハイマットフルバーストモード。
フリーダムの火器管制が、視界内の敵を一気に捕捉した。
「まとめて吹き飛べ!」
次の瞬間、空が光に染まった。
無数のビームとレールガンの弾道が、ウォッチポイントデルタの空域を切り裂く。
輸送ヘリが爆発する。
MTの胴体が撃ち抜かれる。
発射施設へ向かっていた部隊が、到達する前に次々と撃破されていく。
ジャンカー・コヨーテスの物量戦は、フリーダムの広域制圧火力の前に一気に崩された。
ラミーのマッドスタンプ二式も、その隙を逃さず前線の残存MTへHU-BENを叩き込み、近づいてきた敵をSONGBIRDSで吹き飛ばす。
『……いつ見ても、相変わらずインチキじみた性能をしてるよ全く。いっそのことあんたの機体を解析してうちの商品開発のヒントになりゃいいが……』
「それだと余計に面倒なことになるからやめておけ、マジで。お世辞とかじゃなく、割と本気で……」
レイは半ば本気で止めた。
RaDがフリーダムの技術を参考に商品開発など始めたら、絶対にろくでもない方向へ進む。
カーラのことだ。面白半分で、とんでもない兵器を作りかねない。
『冗談さ。それと、そろそろ本命が来たようだよ』
カーラの声が、わずかに低くなる。
レイもすぐに反応を捉えた。
空域の向こうから、巨大な機影が近づいてくる。
封鎖機構の強襲艦。
コヨーテスの不甲斐なさにしびれを切らしたのか、自ら前線へ姿を現したのだ。
『抵抗する不法勢力に告ぐ。武装解除の意思なき場合、その勢力は例外なく排除対象となる。繰り返す、例外はない』
無機質な警告が戦場に響く。
強襲艦の砲門が発射施設へ向けられた。
『強襲艦だと……!? 親玉自ら咎めに来たかい……』
カーラが舌打ちするように言う。
レイはフリーダムを強襲艦へ向けようとした。
だが、それより先にマッドスタンプ二式が動いた。
「任せてくださいよボスぅ! この無敵のラミーが蹴散らしてやりますよ!!」
「お……おいっ! 迂闊に敵砲火の射線上に入るな!」
レイの制止は、ラミーには届かなかった。
マッドスタンプ二式がブースターを全開にし、強襲艦の艦橋へ向けて一直線に突っ込む。
当然、強襲艦は迎撃に入った。
対空砲火が降り注ぎ、ミサイルが発射される。
マッドスタンプ二式の装甲に弾丸が叩き込まれ、爆炎が上がった。
しかし、ラミーは止まらない。
重装甲を盾にして、強引に距離を詰める。
「ハッハッハッ! インビジブル、インビジブルだぜぇ!!」
「いや、見えてる! 普通に見えてるからな!?」
レイのツッコミも虚しく、ラミーは突撃を続ける。
被弾しながらも、マッドスタンプ二式は艦橋の目前まで到達した。
そこでラミーは左肩のWB-0010 DOUBLE TROUBLEへ切り替える。
チェーンソーブレードが唸りを上げた。
「おらぁぁぁぁっ!!」
マッドスタンプ二式が艦橋へ取り付き、チェーンソーブレードを叩き込む。
高速回転する刃が装甲を噛み砕き、艦橋をズタズタに切り裂いていく。
強襲艦の姿勢が崩れた。
艦内から悲鳴は聞こえない。
無人艦だったのか、それとも完全に自動制御されていたのか。
少なくとも、人の声は一切なかった。
やがて強襲艦は制御を失い、黒煙を上げながら高度を落としていく。
レイはその様子を見ながら、何とも言えない顔になった。
「……本当にやりやがった」
『ははっ! やるじゃないか、ラミー!』
「へへっ、見たかよボス! これが今の“無敵”のラミー様──」
『調子に乗るな! 帰還後に反省会だ!』
「りょ、了解でありますっ!?」
日本兵教官の怒声が飛び、ラミーの声が一瞬で萎んだ。
それでも、戦果は確かだった。
ジャンカー・コヨーテスの第二波は壊滅。
封鎖機構の強襲艦も撃沈。
ウォッチポイントデルタの大型ミサイル発射シーケンスは、いよいよ最終段階へ移行しようとしていた。
◇◆◇
『ボス。ミサイル発射シーケンスが完了した。いつでもいける』
チャティの淡々とした報告が、ウォッチポイントデルタの戦場に響いた。
周囲には、撃破されたジャンカー・コヨーテスのMTと封鎖機構の残骸が散乱している。黒煙が上がり、強襲艦の破片がまだ地面で火を噴いていた。
大型ミサイルは、発射台の上で静かにその時を待っている。
『上出来だチャティ。ビジターもよくやった。……さあ、派手に打ち上げるよ!』
カーラの声と同時に、ミサイル発射台のロックが解除された。
次の瞬間、轟音。
三機の大型ミサイルが炎を噴き上げ、ウォッチポイントデルタの空へと打ち上がる。
『ミサイル発射を確認!』
『星になりな! コウモリ野郎ども!』
カーラの楽しげな声を背に、レイはフリーダムのモニターでミサイルの軌道を確認する。
『ビジター。着弾予測地点を表示しよう』
「おっ、ありがと」
チャティが送ってきたデータが、フリーダムの画面に反映された。
ミサイルの飛翔ルート。
着弾予測範囲。
目標となる、ジャンカー・コヨーテスが陣取っているグリッド。
数秒後、遠方で光が膨れ上がった。
ミサイルが着弾したのだ。
遅れて、衝撃波が大気を震わせる。
グリッドの一角が、巨大な爆炎に包まれた。
「……た~まや~」
レイは思わず呟いた。
ミサイルが作り出した爆発を花火と呼ぶには、あまりにも物騒だ。
だが、カーラの言う打ち上げ花火としては、確かに派手だった。
『ちょっとずれたか? ……まあでも、だいたい計算通りかね』
《レイ。た~まや~って、何?》
通信越しに、617が不思議そうに問いかける。
レイは着弾地点を確認しながら答えた。
「大昔の日本の花火屋のことだ。その花火屋が作る花火が綺麗だったことから“より美しく素晴らしい”と思った方の花火を賞賛する意味を込めて“た~まや~”や“か~ぎや~”と呼ばれるようになったんだ」
《そうなんだ……》
617は納得したように呟いた。
花火というには破壊力がありすぎるが、ルビコンではこのくらい派手でないと花火扱いされないのかもしれない。
『へぇ、ビジターにしちゃ意外と物知りじゃないか?』
「その言い方、褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちなんだよ……」
レイが苦笑していると、得意げな声が割り込んできた。
「ボス、今日は俺様が大活躍したんですぜ! このラミー様が封鎖機構の強襲艦を叩き落としてやったんだぜ!」
マッドスタンプ二式が、胸を張るように立っている。
実際、今回のラミーはかなりの戦果を挙げていた。
ジャンカー・コヨーテスのMT部隊を食い止め、封鎖機構の強襲艦に単独で突撃し、艦橋を破壊して撃沈させた。
以前のヤク中じみた無謀さだけのラミーではない。
日本兵たちに鍛えられ、機体も改修されたことで、少なくとも戦場で役に立つだけの実力は身に付けている。
だが、そのマッドスタンプ二式の胴体部から、ぱちりと小さな火花が散った。
「うん? おいラミー。お前の機体、なんか火花上がってないか?」
「ああん? んなわけ……」
ラミーが機体の状態を確認しようとした、その時だった。
『上様、あれを!』
どこからともなく、日本兵の芝居がかった声が飛ぶ。
続いて別の声が、妙に深刻そうに続けた。
『大変だ! ラミーの機体はさっきの被弾で中枢部をやられたんだ! きっと爆発してしまうよ!』
レイの脳裏に、妙な既視感が走った。
火花を散らす機体。
唐突に挟まれる説明口調。
そして爆発フラグ。
「まさかのコンボイネタかよ!?」
内心で叫びつつ、レイは即座にフリーダムを後退させた。
「みんな下がれ、早く! マッドスタンプが爆発する!!」
「はっ? おいおい、いくら何でも冗談じゃ……ホワアアアァァァァァッ!!?」
ラミーの悲鳴と同時に、マッドスタンプ二式の胴体部から盛大に火花が噴き出した。
次の瞬間、爆発。
マッドスタンプ二式は派手な爆炎に包まれ、煙と破片を撒き散らしながら大破した。
ウォッチポイントデルタに、しばし沈黙が落ちる。
やがて、黒煙の中から咳き込む声が聞こえた。
「ケホッ! ケホッ! ……ああ、死ぬかと思ったぜ……」
そこにいたのは、黒焦げになったラミーだった。
普通なら無事では済まない爆発だったはずだが、日本兵たちに鍛えられた影響なのか、あるいはギャグ補正なのか、ラミーは煤だらけになりながらも生きていた。
レイはフリーダムを着地させ、呆れたように声をかける。
「それよりもお前、マッドスタンプは?」
「あっ? ……ああ!? おっ俺のマッドスタンプがあーっ!?」
ラミーが振り返る。
そこには、見るも無惨に大破したマッドスタンプ二式が転がっていた。
さっきまで強襲艦を叩き落とした愛機は、今や黒焦げの鉄屑寸前である。
『……ハハッ。相変わらず、締まらないくらいに笑えるね』
カーラが通信越しに笑う。
《ラミー……ご愁傷様》
617も静かにそう言った。
だが、ラミーにとって本当の地獄はここからだった。
『貴様どう責任を取るつもりだ!』
『ダメだ! 訓練のやり直しだ!』
日本兵教官たちの怒声が響く。
ラミーは一瞬で青ざめた。
「そ、それだけは勘弁してくれ~っ!?」
ウォッチポイントデルタに、ラミーの悲鳴が響き渡る。
大型ミサイルによる打ち上げ花火は成功。
ジャンカー・コヨーテスの占拠グリッドは吹き飛び、封鎖機構の強襲艦も撃沈。
任務そのものは完了した。
だが、最後にマッドスタンプ二式が爆散し、ラミーが再訓練送りになるという、何とも締まらない幕切れとなった。
レイはその様子を見ながら、深くため息を吐く。
「……やっぱりRaD絡みの仕事は、最後までまともに終わらないな」
そう呟きながらも、彼はフリーダムのシステムを帰投モードへ切り替えた。
打ち上げ花火は終わった。
だが、PROJECT OOも、アイズガンダムも、そしてルビコンを巡る火種も、まだ終わってはいない。
ほんの少しの息抜きのつもりだった任務は、結局また一つ、妙な騒動を残して幕を閉じたのだった。