転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

47 / 49
スネイルからの依頼、新たな二機のG

 

 ミレニアム格納庫。

 そこでは今日も、日本兵の整備班が一機のACを取り囲んで頭を悩ませていた。

 機体名は“ヤマト”。

 菊池が使用しているACであり、これまでも幾度となく実戦へ投入されてきた機体だった。

 だが、封鎖機構が疑似太陽炉搭載機を本格的に投入し始めた今、これまで通りのアセンブルでは戦力不足となる可能性が高い。

 特に先日、621とレイが交戦したアヘッドやアドヴァンスド・ジンクスの性能は、従来のACを明確に上回っていた。

 そのため整備兵たちは、ヤマトを一から見直す勢いでアセンブルを組み直していた。

 

「うーん……これでは、太刀打ちできぬ」

 

 一人の整備兵が端末に表示された機体スペックを見ながら唸る。

 

「艦長がお怒りになる。どうすればいいのだ?」

 

 別の兵士も腕を組んで悩み込む。

 装甲を厚くすれば重量が増える。

 火力を上げればEN負荷が増える。

 機動性を上げれば耐久力が犠牲になる。

 ACという兵器の性質上、全てを高水準で纏めるのは難しい。

 そんな中、格納庫の奥から何人かの整備兵が大きなパーツを抱えて走ってきた。

 

「おーい! こいつを使え!」

 

 持ってきた物を見た整備兵たちが目を見開く。

 ひとつは、独立傭兵として知られる“真レイヴン”が使用していたものと同型のヘッドパーツ。

 HC-2000/BC SHADE EYE。

 そしてもうひとつは、技研製ACの有人型に使用されていたレッグパーツ。

 IB-C03L:HAL 826。

 

「マジかよぉ?」

 

「よっしゃ! これで足りる筈だ!」

 

「これでようやく形になるな!」

 

 それまで停滞していた作業が一気に動き出した。

 SHADE EYEの索敵性能と、HAL 826の機動性。

 既存のヤマトのフレームと武装構成を維持しながら、機体そのものの基礎性能を底上げする。

 整備班は何度もシミュレーションを繰り返し、重心と出力、姿勢制御のバランスを調整していく。

 そして、ようやく一つの形に辿り着いた。

 従来のヤマトとは外見も性能も大きく変わったその機体。

 新たな名は──。

 AC“ヤマト弐式”。

 完成した機体を前に、整備兵たちは満足そうに頷いていた。

 そこへ、621と617、そしてアンドロイドボディのエアが格納庫へ姿を現した。

 

《……これって、HAL826のレッグパーツに真レイヴンのヘッドパーツ?》

 

 621が即座に気づく。

 見覚えがある。

 どちらも、前の周回で目にしたことのあるパーツだった。

 

「真レイヴンのパーツまであるなんて……。日本兵たちはいったい何処から調達してきたのでしょう?」

 

 エアも不思議そうにヤマト弐式を見る。

 

《ん……少し気になる》

 

 617も静かに同意した。

 すると、整備作業をしていた日本兵の一人が三人に気づいた。

 

「よぉ赤いの! それに六二一達も来たか」

 

 その呼び方にエアは僅かに眉を動かしたものの、今さら訂正する気にもならなかったらしい。

 621がヤマト弐式の周囲を見回そうとした、その時。

 ミレニアム艦内に緊急放送が流れた。

 

『報告! 我が艦に接近する機影あり! 識別はアーキバスのヴェスパ―Ⅳラスティと判明!』

 

 格納庫にいた者たちの動きが止まる。

 

《ラスティがここに……?》

 

 621も予想外だったらしく、小さく呟いた。

 

「彼が何故ここに来たのかは分かりませんが、恐らく企業に関する依頼かもしれません」

 

 エアが推測する。

 

《ラスティ……? 621、知り合い?》

 

 617が尋ねる。

 

《前のベリウス地方の壁の攻略で一時的に共闘した戦友》

 

《ん……なるほど》

 

 617はそれだけ聞いて納得したように頷いた。

 一方その頃。

 ミレニアムへ接近していたAC“スティールヘイズ”のコックピットでは、ラスティもまた眼前に浮かぶ巨大艦を見上げていた。

 

「あれが足立重工の旗艦……。なるほど、スネイルがよほど彼らの技術を欲する訳だ。それに、戦友があの足立重工と関わりがあるのは私でも知りえなかった。ここで彼女の真意を確かめなければならない」

 

 ラスティの視線の先。

 そこには、企業が所有する輸送艦とも、封鎖機構の艦艇とも違う巨大艦が存在していた。

 ガンダムを運用し、日本帝国の兵士たちを抱え、独自の技術体系を持つ足立重工。

 アーキバスが興味を示すのも無理はない。

 そして、その足立重工と独立傭兵レイヴンが想像以上に深く関わっている。

 ラスティにとっても、それは無視できない情報だった。

 やがて、ミレニアムから通信が入る。

 

『こちら足立重工所属、旗艦ミレニアム。アーキバスのヴェスパーⅣに告ぐ。貴官の目的を明かされたし。応じられない場合は貴官を撃墜する』

 

 あまりにも物騒な確認だった。

 だが、ラスティは動揺することなく返答した。

 

「こちらはヴェスパーⅣ、ラスティ。アーキバス系統の依頼をレイヴンに伝えるよう伝達された。着艦を求めたい」

 

 数秒の沈黙。

 

『しばし待機せよ。今、確認を取る』

 

 通信が切れる。

 管制室では、日本兵たちが困惑していた。

 

「どうする?」

「アーキバスの隊長だぞ?」

「撃ち落とす?」

「いや待て待て待て!」

「勝手に撃つな!」

 

 好き勝手に言い始めたところへ、閣下から指示が下った。

 ラスティの目的が621への依頼伝達である以上、今ここで敵対する理由はない。

 数分後。

 再びミレニアムから通信が入った。

 

『こちら管制室、ヴェスパーⅣ。着艦を許可する』

 

「了解した。着艦する」

 

 スティールヘイズが速度を落とす。

 ミレニアムの甲板上で誘導灯が点灯し、整備員たちが所定の位置へ移動する。

 ラスティは誘導に従い、スティールヘイズを静かに着艦させた。

 機体が固定され、ハッチが開く。

 ラスティはコックピットから降りると、待機していた日本兵たちに迎えられた。

 

「ヴェスパーⅣラスティだな?」

 

「ああ。案内を頼む」

 

「了解。六二一達の所まで案内する」

 

 ラスティは日本兵たちに囲まれながら、ミレニアム艦内へ足を踏み入れる。

 見慣れない設備。

 企業の常識とは異なる兵士たち。

 そして格納庫の奥には、見覚えのないACや兵器が幾つも並んでいる。

 足立重工。

 スネイルが欲しがる理由を、ラスティは僅かな時間だけでも理解し始めていた。

 そして何より。

 この艦の中にいる戦友──621。

 彼女がこの組織と、いったいどのような関係を築いているのか。

 その答えを確かめるため、ラスティは日本兵たちの案内に従って歩いていった。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 621たちは、ラスティが待っているという応接室へ向かっていた。

 

 ミレニアムにヴェスパーⅣ本人が直接乗り込んでくるなど、621にとっても予想外の出来事だった。

 

《ラスティが直々に来るのは想定外……》

 

「前の周回では来なかったのですか?」

 

《うん。基本的に通信で依頼を受けてたから》

 

 エアの問いに、621は歩きながら答える。

 

 以前の周回では、アーキバスからの依頼はほとんど通信越しだった。

 

 ラスティと直接顔を合わせることはあっても、わざわざ依頼を伝えるために自分たちの拠点まで訪ねてきたことはない。

 

 今回は、それだけ事情が違うということなのだろう。

 

《ん……応接室、着いた》

 

 617の言葉に、621たちは足を止める。

 

 扉を開けて中へ入ると、既にラスティが席について待っていた。

 

 621たちの姿を確認すると、ラスティは立ち上がる。

 

「やあ戦友。こうして直接会うのは初めてだったな? ラスティだ」

 

《いらっしゃい……ラスティ》

 

 621が応じる。

 

 その直後だった。

 

「「「やあ戦友」」」

 

 なぜか後ろにいた日本兵たちまで声を揃えた。

 

 ラスティは一瞬だけ沈黙した。

 

「あなた達ではありません」

 

 エアが即座に切り返す。

 

 日本兵たちは揃ってしょんぼりしたが、その様子を見たラスティは小さく息を漏らした。

 

「……どうやら、ここの兵士たちはかなりユニークのようだな。早速だが、本題に入ろう」

 

 どうにか話を戻したラスティは、懐から小型の記録端末を取り出した。

 

「アーキバスから君に依頼だ。作戦立案者でもある私の上官からお言葉がある……まあ聞いてみてくれ」

 

「ま……まさか……」

 

 日本兵たちの顔が引きつる。

 

 ラスティの上官。

 

 その時点で、嫌な予感がしたらしい。

 

 そして、その予感は的中した。

 

 ラスティが記録端末を操作する。

 

『ヴェスパー第二隊長──』

 

「帰りましょうー」

 

『……』

 

《えっ……?》

 

《ちょ……!?》

 

 スネイルの声が流れた瞬間、日本兵たちは一斉に踵を返した。

 

「待ってください!」

 

 エアが慌てて声を上げる。

 

 だが日本兵たちは、そのまま本当に応接室から出ようとしていた。

 

 そこへ、別方向から現れたレイが割って入った。

 

「待て待てっ! たとえ嫌な相手だとしても帰るな!」

 

「誰があんなミソッカスの言葉を聞かにゃあかんのや!」

 

「くせぇ白ブタ風情が……!」

 

 どうやら日本兵たちのスネイルに対する印象は、相当に悪いらしい。

 

 ラスティも流石に困ったような顔をした。

 

「……どうやら、私の上官は相当憎まれているようだな」

 

《ごめんラスティ。続き聞かせてもらえる?》

 

「ああ。まだ最初しか再生してないからな……また初めから再生する」

 

 ラスティは記録端末を操作し直す。

 

 日本兵たちはレイに睨まれ、渋々その場へ戻った。

 

 そして、スネイルのボイスメッセージが再び最初から流される。

 

『……ヴェスパー第二隊長“スネイル”です』

 

「死ねっ!」

 

『これより作戦内容を伝達します』

 

「卑怯者ッ!」

 

「少し静かにしろ! 聞こえないだろ!」

 

 レイが怒鳴る。

 

 621は隣にいた617へ少し顔を向けた。

 

《日本兵たち……スネイルのこと嫌っている?》

 

《私もスネイルのことは好きじゃない。でも、作戦内容を聞くためだから静かにして》

 

 617の言葉は淡々としていたが、そこにスネイルへの好意がないことだけはよく分かった。

 

 それでも、日本兵たちは黙る気配がない。

 

『ワタシの直属で作戦行動を臨めること……光栄に思いなさい』

 

「おう死ね!」

 

「イテまえアメ公!!」

 

「殺してやる~~っ!!」

 

「……ハァッ……」

 

 エアが深いため息をついた。

 

 折角の重要な作戦説明なのに、スネイルの声が流れるたびに殺意の籠もった野次が飛ぶ。

 

 これでは内容がほとんど頭に入ってこない。

 

 それでも記録は止まらず、スネイルの声が淡々と続く。

 

『これは惑星封鎖機構の2拠点に対して同時刻、秘密裏に行われる急襲作戦です』

 

「知ったこと──」

 

 バンッ!

 

 乾いた銃声が応接室に響いた。

 

 その場にいた日本兵全員が硬直する。

 

「お前らガチで黙れ!」

 

 レイが銃口を僅かに上へ向けたまま怒鳴った。

 

「スミマセン!」

 

「アイエッ!?」

 

 先ほどまで好き放題に野次を飛ばしていた日本兵たちは、一瞬で大人しくなる。

 

 ラスティはそんな光景を眺めた後、621へ視線を向けた。

 

「戦友……彼らはいつもこうなのか?」

 

《うん。最初は慣れないけど……何時しかなれると思う》

 

「……あまり深く聞かないでおこう」

 

 ラスティはそれ以上追及することを諦めた。

 

 エアも額に手を当て、617は何事もなかったように席へ戻る。

 

 そしてレイは、日本兵たちが今度こそ黙ったことを確認すると、ラスティへ手で続きを促した。

 

 ようやく応接室に静けさが戻る。

 

 ラスティは小さく息を吐き、再び記録端末を操作した。

 

 今度こそ邪魔を入れず、スネイルから送られてきた作戦内容を最後まで聞くために。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 応接室にようやく静けさが戻り、ラスティは記録端末を操作した。

 

 先ほどは日本兵たちの野次でまともに聞き取れなかった、スネイルからの作戦説明が再び流れ始める。

 

『襲撃目標の一つは敵の部隊通信を中継するハーロフ通信基地。もう一つは……強襲艦隊の母港として接収されたバートラム旧宇宙港です』

 

《バートラム……》

 

 その地名を聞いた瞬間、621の脳裏に前の周回の記憶が蘇る。

 

 バートラム旧宇宙港。

 

 かつて封鎖機構の執行機体を撃破した後、突如として地下から姿を現した巨大兵器。

 

 IA-02──アイスワーム。

 

 あの機体が起動したことで、企業と封鎖機構の戦況は一気に混乱へと傾いた。

 

 だが、今回は状況が違う。

 

 レイをはじめとする日本帝国勢力、足立重工。そしてガンダムという、本来この世界に存在しなかった数多くのイレギュラーが既に介入している。

 

 前とまったく同じ流れになる可能性は低い。

 

 それでも──。

 

 万が一。

 

 その言葉を頭の片隅へ残しておくことにした。

 

『通信基地の方は我がヴェスパーの第四隊長ラスティが受け持ちます。彼が封鎖機構の通信網を混乱に陥れ、精鋭部隊による増援を不可能にする。独立傭兵レイヴン。貴方はその間に停泊中の強襲艦をすべて破壊してください』

 

 そこでスネイルからのメッセージは終了した。

 

 内容を要約すれば単純だ。

 

 ラスティがハーロフ通信基地を急襲し、封鎖機構の通信網を寸断。

 

 その間に621がバートラム旧宇宙港へ侵入し、停泊中の強襲艦をすべて破壊する。

 

 二拠点を同時に叩く、奇襲作戦である。

 

 だが、録音が終わった途端、日本兵たちは一斉に顔をしかめた。

 

「イヤになっちまうぜ、全く……」

 

「本当、あいつにはむかつくよ……」

 

 もはやスネイルの声を聞くだけで拒否反応が出るらしい。

 

 そんな彼らを見ていたラスティは、今度はレイへ視線を移した。

 

「……苦労しているのだな、君も」

 

「もう慣れたから同情はいらないよ」

 

 レイは遠い目をしながら答えた。

 

 否定しない辺り、相当苦労しているのは事実なのだろう。

 

《ラスティ、スネイルが立案した作戦なんだけど……》

 

 621が話題を戻す。

 

 彼女も、この作戦にひとつ大きな穴があることには気づいていた。

 

 ラスティも同じだったらしい。

 

「戦友。君も気づいているかもしれないが、この作戦には穴がある。通信網の混乱は一時的なものになるはずだ」

 

 ハーロフ通信基地を制圧したとしても、封鎖機構がいつまでも通信不能のままでいるはずがない。

 

 別系統の通信網を確保するか、現場判断で増援を送り込む可能性もある。

 

 つまり、621が宇宙港で孤立する危険性は十分にあった。

 

《大丈夫。一人でも戦えるから》

 

 621は淡々と答える。

 

 これまでにも単独で、より危険な任務を何度もこなしてきた。

 

 だが、ラスティは首を横に振った。

 

「いや、万が一のこともある。こちらの仕事が片付いたら……救援に向かおう」

 

《……ありがとう》

 

 短い返事だった。

 

 それでも、621の声には僅かに柔らかなものが混じっていた。

 

 戦友。

 

 ラスティがそう呼ぶ意味を、621も少しずつ理解している。

 

 そしてラスティは、今度はレイへ向き直った。

 

「それと……足立レイだったか」

 

「ああ。恐らくだけど、スネイルから何か言われたのか?」

 

「おおよそその通りだ。スネイルは足立重工とのパイプを確立させることが、今回の作戦参加の必要条件だとそう告げていたよ」

 

 予想通りだった。

 

 ウォルターにも同じ条件を伝えていたはずなのに、わざわざラスティ本人まで送り込んで念押ししてくる。

 

 それだけ、スネイルが足立重工との接点を欲しているということだ。

 

「やっぱスネイルの狙いはそれだよな。もっとも、アーキバスの無能上層部にスネイルが俺達を自身の評価価値を示すためのバッチ替わりみたいなもんだろうな」

 

 レイには、その狙いが透けて見えていた。

 

 足立重工の技術力。

 

 ガンダム。

 

 日本帝国との繋がり。

 

 疑似太陽炉技術。

 

 これらとパイプを作ったという実績を持ち帰れば、スネイル自身のアーキバス内部における評価はさらに上がる。

 

 企業利益のためでもある。

 

 だが、それと同時に自分自身の価値を上層部へ示すための材料でもある。

 

 ラスティは僅かに苦笑する。

 

「……すまないが、うちの上官は伊達にヴェスパーの上位にいる訳じゃない。骨が折れるかもしれないが、私からもお願いする。アーキバスと足立重工とのパイプラインを結んでくれないだろうか?」

 

 そう言って、ラスティは頭を下げた。

 

 レイはすぐには答えなかった。

 

 スネイルがこちらを利用するつもりなのは明白だ。

 

 ならば──。

 

 利用されるだけで終わる必要もない。

 

 アーキバスはルビコン最大級の企業勢力。

 

 技術。

 

 資材。

 

 情報網。

 

 そして戦力。

 

 使えるものはいくらでもある。

 

 向こうが足立重工を自分たちの利益へ利用するというのなら、こちらも同じことをすればいい。

 

「……分かった。アーキバスと足立重工とのパイプラインの確立は了承した。そうスネイルに伝えてくれるか」

 

 ラスティが顔を上げる。

 

「……感謝する。何かと済まない」

 

「気にするな。あのスネイルのことだ。利用してくるならこっちも利用し返すまでのことさ」

 

 レイは不敵に笑った。

 

 服従するつもりなどない。

 

 傘下へ入るつもりもない。

 

 ただ、お互いの利益になる範囲で手を組む。

 

 それだけの話だ。

 

 この決定は後ほど、ウォルターと閣下にも共有された。

 

 ウォルターは元々、レイへ相談しようとしていた内容がまさにこの足立重工とアーキバスのパイプに関するものだったため、話は驚くほど早く終わった。

 

「そうか……既にラスティから話が来ていたか」

 

「ああ。こっちとしても、アーキバスとの窓口があること自体は悪くないからな」

 

 ウォルターもそれ以上反対はしなかった。

 

 あくまで交渉窓口を作るだけであり、足立重工がアーキバスの下につくわけではない。

 

 むしろ今後の情報収集を考えれば、企業内部との接点が増えることには価値がある。

 

 一方。

 

 閣下は静かに腕を組んでいた。

 

「なるほど……」

 

 その表情は冷静そのもの。

 

 だが頭の中では既に、今後のアーキバスとの駆け引きについて何通りもの策を巡らせている。

 

 スネイルはこちらを利用しようとしている。

 

 それならば。

 

 こちらも、どこまで相手を欺き、利用できるか。

 

 新たに結ばれることになった足立重工とアーキバスのパイプライン。

 

 それは協力関係の始まりであると同時に──互いの思惑が交差する、新たな駆け引きの始まりでもあった。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ラスティから一通りの説明を受けた後、レイは改めてバートラム旧宇宙港への急襲作戦の日程を確認した。

 

 幸い、作戦開始までにはまだ多少の猶予がある。

 

 ならば──と、レイはひとつ提案することにした。

 

「ラスティ。作戦開始まで少し時間があるんだろ? だったら、一日だけここに泊まっていかないか?」

 

「このミレニアムに……か?」

 

「ああ。もし良ければだが、アンタが乗ってきたスティールヘイズの整備をアンタ監修の下で日本兵たちに任せる。あのスネイルのことだ。足立重工の秘密の一つや二つを確認して報告すれば、アンタの顔も立つだろう?」

 

 ラスティは少し意外そうな顔をした。

 

 他企業の、それもヴェスパー隊長が搭乗するACを自分たちの艦内で整備する。

 

 普通ならば警戒して当然の提案だ。

 

 だが、レイの狙いは別にあった。

 

 スネイルは足立重工とのパイプを強く望んでいる。

 

 ならば、ラスティにある程度こちらの内情を見せておけば、持ち帰る土産話にもなる。

 

 もちろん、見せても問題のない範囲に限るが。

 

 それだけでも、何を考えているか分からない足立重工という存在に対し、スネイルへ一定の牽制を効かせられるはずだった。

 

 ラスティはしばらくレイを見つめた後、静かに口を開く。

 

「……君は、このルビコンにおいてどの立ち位置にいる存在なのだろうな」

 

「立ち位置? ……まぁ、しいていうなら危険分子をぶち壊す規格外……てか?」

 

「規格外、か。……確かに、足立重工の技術力はある意味規格外だらけだな」

 

(そういう意味で言った訳じゃないんだけどな……)

 

 レイは内心でそう呟く。

 

 結局ラスティは申し出を受け、一日だけミレニアムに滞在することになった。

 

 スティールヘイズについても、ラスティ本人の監修を条件に日本兵の整備班へ預けられる。

 

 整備班はアーキバス製ACを間近で触れると聞いて妙に張り切っていたが、勝手な改造だけは絶対にするなと念を押されたのは言うまでもない。

 

 それからしばらくして。

 

 レイはミレニアムの通信室から、日本帝国本国へ連絡を入れていた。

 

「……てなわけで、ミレニアム宛に新たな補給物資を送ってくれないか?」

 

『了解!』

 

 返事だけは異様に良い。

 

 必要な物資の一覧を送信し、補給要請を終える。

 

 旧宇宙港襲撃作戦に備える以上、弾薬や予備部品だけでなく、今後の戦力拡充も必要になってくる。

 

 封鎖機構は疑似太陽炉搭載機まで投入してきた。

 

 さらにリボンズたちの黒いガンダム部隊まで確認されている。

 

 戦力は、あるに越したことはない。

 

 そう考えながら通信室を後にしたレイは、そのまま食堂へ向かった。

 

 時刻は夕食時。

 

 食堂には既に621、617、エア、それから大勢の日本兵たちが集まっていた。

 

《あっレイ》

 

《ん……》

 

「お疲れ様です。レイ」

 

「ああ、お疲れさん」

 

 621の前には麻婆豆腐定食。

 

 617は焼き魚定食。今日の魚は鮭らしい。

 

 エアは生姜焼き定食を食べていた。

 

 そして日本兵たちは──。

 

「酒はどうだ? 今なら飲めるぞ……!」

 

「だらしのない奴らだ!」

 

 テーブルの下から、こっそり日本酒の瓶を回していた。

 

「相変わらずだな、あいつ等……」

 

 もはや注意する気力も起きない。

 

 レイは自分の釜揚げうどんを受け取ると、621たちの近くへ腰を下ろした。

 

 温かい出汁につけながらうどんを啜っていると、向かいのエアがふと箸を止める。

 

「……ところで、レイ。一つ気になったのですが」

 

「ん? どした、急に」

 

「日本兵たちがヴェスパーⅡを敵視しているのですが、何か因縁が?」

 

 そう言われ、621も思い出したように顔を上げる。

 

《……そういえば、ウォッチポイントデルタ襲撃の時も日本兵が617にスネイルの音声を流して、封鎖機構に罪を擦り付けたっけ?》

 

《ん……結局分からなかったけど》

 

 ウォッチポイント・デルタ襲撃。

 

 あの時、日本兵たちは独断でスネイルの音声を利用し、封鎖機構側にあらぬ誤解を与えていた。

 

 その時点でも異様に敵視していたが、今日の応接室で見せた反応はさらに酷い。

 

 スネイルの声を聞いただけで帰ろうとするほどだ。

 

 話を聞いていた日本兵の一人が、酒の入った小さな器を片手に振り返った。

 

「うん? あのカスで逆賊で面長糞眼鏡で賑やかしデブで雑音でカンシャク持ちでA級戦犯のことか?」

 

《プッ……www》

 

《逆……賊……?》

 

 621が吹き出した。

 

 あまりにも悪口の密度が高すぎる。

 

 逆に617は、一体どういう経緯を辿れば一人の人間へここまで多くの蔑称が付くのか理解できない様子だった。

 

 エアは気を取り直して尋ねる。

 

「あの……ヴェスパーⅡに対して敵意むき出しなのですが……」

 

 日本兵は当然のことのように胸を張った。

 

「当然だ。奴は天皇陛下の仇だぁ!!」

 

《天皇陛下って……ウォルターのこと?》

 

「そういえば、彼らはウォルターのことを天皇陛下と呼んでいました」

 

《ウォルター……?》

 

 また謎が増えた。

 

 なぜウォルターが天皇陛下なのか。

 

 なぜスネイルがその仇なのか。

 

 そして、なぜ日本兵たちはそこまで本気で怒っているのか。

 

 レイはうどんを啜りながら、ようやく思い出した。

 

「あーっ……そういえば言ってなかったっけ? 日本兵たちが元はなんて呼ばれていたか」

 

《日本兵たちが?》

 

「彼らは日本人と呼ばれる人たちじゃないのですか?」

 

「それもあっているけど、元を辿れば……何だろうな」

 

 どう説明すればいいのか。

 

 少し悩んだ。

 

 だが、この際もう話してしまってもいいだろう。

 

 レイは箸を置いた。

 

 そして、何でもないことのようにとんでもない事実を口にする。

 

「彼ら日本兵たちは、並行世界の621達……もとい、621だった者たちだ」

 

《えっ……?》

 

「えっ……?」

 

《……?》

 

 三者三様の反応だった。

 

 621は完全に停止。

 

 エアも同様。

 

 617だけはそもそも並行世界という前提を十分理解していないため、首を傾げている。

 

 数秒間。

 

 食堂に妙な静寂が流れた。

 

 ようやく621が声を絞り出す。

 

《レイ……? 彼らが、私?》

 

「厳密には違うが、おおよそはそうでもある」

 

 それぞれ別の並行世界を経由した者たち。

 

 今の621本人ではない。

 

 だが、その原点を辿れば、同じ“621”という存在へ行き着く。

 

 エアも思考を整理しようとしていた。

 

「じゃあ彼らはコーラルリリースによって此処に……?」

 

「あーっ……彼らの場合はコーラルリリースならぬ吉田リリースでこの世界に迷い込んだって感じ」

 

 その瞬間。

 

 621の処理能力が限界を迎えた。

 

《えええぇぇぇぇぇっ!?》

 

 食堂中に響き渡る絶叫。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「耳が、耳がぁっ!?」

 

「衛生兵ーっ!!」

 

 至近距離で621の絶叫を浴びた日本兵の何人かが、その場で耳を押さえて倒れ込んだ。

 

 別の兵士が衛生兵を呼び始める。

 

 エアは呆然。

 

 617は相変わらずよく分かっていない。

 

 レイは耳を押さえながら顔をしかめていた。

 

「お前、そんな大声出せたのかよ……」

 

《だって! だって意味分からない!!》

 

 その騒ぎを聞きつけたのか、食堂の入口からラスティが姿を現した。

 

「どうしたんだ? いま戦友の叫び声を聞こえたんだが……」

 

 目の前には、軽く発狂している621。

 

 耳を押さえて倒れている日本兵。

 

 駆け回る衛生兵。

 

 困惑しているエア。

 

 そして釜揚げうどんを前に疲れ切ったレイ。

 

「……彼女にとって信じられない真実にSANチェックに失敗してプチ発狂した感じ」

 

「それはどういう状況だ?」

 

「私も、わけが分かりません」

 

 エアですら説明を放棄した。

 

 こうして、ラスティが泊まることになったミレニアムの夜は、やはり平穏とは程遠いまま過ぎていった。

 

 そして翌日。

 

 ミレニアム周辺に三つの大型反応が現れた。

 

 日本帝国から派遣された補給シェルパ三機である。

 

【【【茨城県人、ここにありだあぁぁぁっ!!】】】

 

 三機から同時に響いてくる謎の雄叫び。

 

「うーん……もう慣れてしまうと何とも思わんな……」

 

 最初の頃なら確実に頭を抱えていただろう。

 

 だが今となっては、これくらいでは動じない。

 

 レイは日本兵たちと共に搬入された補給物資を確認していく。

 

 弾薬。

 

 予備部品。

 

 補修資材。

 

 各種機材。

 

 そして──。

 

 巨大な機体格納コンテナの識別情報を見たところで、レイの動きが止まった。

 

「……マジか。AC6でガンダムMODの更新でもあったか?」

 

 表示されていた機体名。

 

 ひとつ目。

 

 Ξガンダム。

 

 続いて。

 

 オデュッセウスガンダム。

 

 さらに、そのオデュッセウスガンダム専用フライトユニット。

 

 ペーネロペー。

 

「“Ξガンダム”に“オデュッセウスガンダム”、そしてオデュッセウスガンダム専用フライトユニット“ペーネロペー”とか……やり過ぎだ」

 

 レイは額に手を当てた。

 

 ただでさえミレニアムには、フリーダム、デスティニー、ゴッドガンダムをはじめとして常識外れの機体が揃いつつある。

 

 そこへさらにΞガンダムとオデュッセウスガンダム。

 

 しかもペーネロペーまで。

 

 ある意味、チート兵器盛り合わせ丼とでも呼ぶべき補給内容だった。

 

 戦力が増えるのはありがたい。

 

 ありがたいのだが──。

 

「……また管理する側の身にもなってくれよ」

 

 レイは巨大なコンテナを見上げながら、深々とため息を吐いた。

 

 バートラム旧宇宙港への急襲作戦を前に、日本帝国から届けられた新たな戦力。

 

 それが今後どのような形で戦場へ投入されるのか。

 

 少なくとも、この時のレイにはまだ分からない。

 

 ただひとつ分かるのは。

 

 ミレニアムの格納庫が、また一段と物騒になったということだけだった。

 





【挿絵表示】

ACヤマト弐式の画像です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。