転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
アーキバスのとある駐屯基地。
ヴェスパー第二隊長スネイルは、自室の端末に送られてきた戦闘記録を無言で確認していた。
映像に映っているのは、惑星封鎖機構が新たに投入した人型兵器。
従来のLCやHCとは明らかに異なる外見を持ち、背部には動力炉と思われる円錐状の構造物が突き出ている。
そこから放出されているのは、これまでルビコンで確認されたどの推進剤とも異なる特殊な粒子だった。
粒子を撒き散らしながら、機体は地上兵器とは思えないほど軽快に空を舞う。
さらに、手にしたライフルへ粒子が集中。
直後、圧縮された光条が放たれ、標的となった機体を貫いた。
「封鎖機構の新型ですか。胴体部の背中から出っ張っているコーン上の部分から粒子が放出されている。あの粒子は推進剤の代わりでもあり、ビームライフルを撃つために必要な粒子として使われている」
スネイルは映像を一時停止する。
表示されている識別情報は、アヘッド。
そして、ジンクス系統の機体。
最近になって封鎖機構が配備を始めた、疑似太陽炉搭載型の機体群である。
彼の頭に、ひとつの可能性が浮かんだ。
足立重工。
ルビコンでは明らかに異質な技術力を保有する勢力。
あの企業であれば、これほど特異な技術を保有していても不思議ではない。
「足立重工ならやりかねない技術力ですが、封鎖機構にその技術を売り込むメリットが見いだせない。……だが、利用価値はありますね」
仮に無関係だとしても、封鎖機構の新型が企業間戦争へ与える影響は大きい。
スネイルは別の資料を開いた。
ヴェスパー隊とアヘッド、ジンクス系列との交戦を仮定した予測データ。
フロイトならば──一対二十。
自身の場合、重量級ACを主軸としていることを考慮すれば──一対八。
オキーフはそもそも諜報員としての役割があるため、単純な戦闘能力で比較する意味が薄い。
ラスティならば──一対十五。
その他のヴェスパー部隊でも、一対五から六程度。
あくまで現状得られている僅かなデータを基にした推測値に過ぎない。
「キルレシオはあくまでも目安。データが無ければ話になりません」
数字だけを信じるつもりはない。
実戦データが揃っていない現状では、正確な評価など不可能だ。
スネイルは資料を閉じ、端末の画面を落とした。
その直後、卓上の通信機が鳴る。
『スネイル閣下、ヴェスパーⅣのラスティが帰投しました』
「そうですか。至急ヴェスパーⅣに私の所に来るよう連絡しなさい」
『はっ! 直ちに……』
通信が切れる。
スネイルは椅子に深く腰掛けたまま、ラスティの到着を待った。
数分後。
扉が開く。
「ヴェスパーⅣラスティ、出頭した」
部屋へ入ってきたラスティへ、スネイルは挨拶もそこそこに本題を切り出した。
「足立重工とのパイプは確保して来たのでしょうか? 一日と長い時間をかけていたようですが……」
「まぁ、無事に足立重工とのパイプは確保できた。それと、足立重工からある程度情報を入手……いや、渡されたというべきか」
その言葉に、スネイルの視線が鋭くなる。
「渡された……? 足立重工がアナタに?」
「正確には第二隊長宛に渡されたというべきだろうか。スティールヘイズから取った映像記録データだ」
ラスティは懐から一本のUSBメモリを取り出した。
スネイルは差し出されたそれを受け取る。
余計な言葉を発することなく端末を開き、USBメモリを接続した。
複数の映像ファイル。
そのうちの一つを再生する。
映し出されたのは、ミレニアムの格納庫だった。
最初に目へ飛び込んできたのは、見覚えのある白い機体。
フリーダム。
その近くには、さらに複数のガンダムタイプが並んでいる。
デスティニー。
ゴッドガンダム。
ウイングガンダムゼロ。
そして少し離れた場所には、独立傭兵レイヴン──621が使用するAC、loader4の姿まで映っていた。
「これは……例の天使に封鎖機構の大艦隊を三割も削ったガンダムか?」
「あぁ。彼はフリーダムだけでなく、デスティニーやゴッド、ウイングゼロと呼ばれる機体を所有していた。これを明かしても良いという足立重工の意図はスネイルでも分かる筈だが……」
スネイルは映像を止める。
その表情は冷静だった。
しかし、思考だけは高速で巡っていた。
足立重工は、単に一機の強力な兵器を保有しているのではない。
複数種類のガンダムタイプを運用している。
しかも、それぞれが同一規格の量産兵器には見えない。
設計思想そのものが異なる機体を、複数保有している。
「ゴッドにウイングゼロ……それにデスティニーですか。神と運命の名を持つ機体はともかく、これほどのガンダムタイプを保有している時点で厄介すぎる。足立重工が手の内を見せたということは、何時でも物理的に潰せるという意思表示でしょう」
「そう見えるようだな」
ラスティの返答に、スネイルは再び映像へ目を向けた。
わざわざ情報を隠さず、こちらへ渡してきた。
それは友好の証とも取れる。
だが同時に──警告でもある。
我々はこれだけの戦力を持っている。
敵に回すなら、それ相応の覚悟をしろ。
そう告げているようにも見えた。
実際、もし映像に映る戦力が一斉にアーキバスへ牙を剥けば、被害は甚大なものになる。
スネイルとて、自社の戦力を過信するほど愚かではない。
そして──。
映像の片隅。
loader4。
その機体を見た瞬間、スネイルの内側で黒い感情が蠢いた。
(あの駄犬……足立重工と何かしらのつながりがあると薄々感づいていましたが、やはり……私にとっての害獣だ!)
独立傭兵レイヴン。
企業の命令通り動く時もあれば、予想外の行動に出ることもある。
その上、足立重工との繋がりまで持っている。
スネイルにとって、管理しきれない存在ほど不愉快なものはない。
とはいえ──。
今、排除へ動くべきではない。
まだ利用価値がある。
足立重工にも。
レイヴンにも。
スネイルは湧き上がる感情を押し殺し、いつもの平静な表情へ戻った。
「……とりあえず、足立重工はしばらく泳がせます。ラスティ、アナタは次の作戦に備えて待機するように」
「了解だ。第二隊長殿」
ラスティは踵を返し、そのまま部屋を後にした。
扉が閉じる。
一人残されたスネイルは、再び端末へ視線を戻した。
封鎖機構が投入し始めた未知の新型。
足立重工が保有する複数のガンダム。
そして、彼らとの接点を持つレイヴン。
不確定要素は増え続けている。
だが、それら全てを一度に処理する必要はない。
まずは予定通り。
惑星封鎖機構が押さえる二つの拠点。
ハーロフ通信基地。
そして──バートラム旧宇宙港。
そこを同時に叩く。
スネイルは作戦資料を開き、二拠点への急襲作戦に向けて準備を進めていった。
◆◇◆
数日後。
アーキバスによる惑星封鎖機構への二拠点同時急襲作戦が、予定通り開始された。
攻撃目標は二つ。
封鎖機構の部隊通信を中継するハーロフ通信基地。
そして、強襲艦隊の母港として接収されたバートラム旧宇宙港。
ハーロフ通信基地にはヴェスパーⅣラスティ。
バートラム旧宇宙港には独立傭兵レイヴン──621が送り込まれていた。
今回、621のloader4は対強襲艦、そしてLCやHCとの交戦を想定した重量火力寄りのアセンブルとなっている。
両手にはベイラム製の重ショットガン“SG-027 ZIMMERMAN”。
左肩にはHI-32:BU-TT/Aパルスブレード。
右肩には二連装グレネードキャノン“SONGBIRDS”。
近距離では二挺のZIMMERMANによる圧倒的な瞬間火力。
中距離以遠、あるいは集団に対してはSONGBIRDSによる広範囲爆撃。
そしてスタッガー状態に陥った敵へはパルスブレードによる追撃。
真正面から強引に敵陣を突破し、そのまま大型目標まで仕留めるための構成だった。
白銀の雪原を越えた先。
巨大な建造物群と複数の発着設備を備えた、バートラム旧宇宙港が621の視界へ入る。
《ウォルター、予定通りバートラム旧宇宙港に到着した》
『よし、ミッション開始だ。停泊中の強襲艦を全て破壊していけ』
《了解……!》
621がトリガーを引いた。
右肩のSONGBIRDSが展開。
二門の砲口からグレネード弾が立て続けに発射された。
迫撃軌道を描いた二発の砲弾が、宇宙港入口付近に展開していた封鎖機構の守備隊へ降り注ぐ。
──轟ッ!
凄まじい爆発。
SG部隊が爆炎に呑み込まれ、周囲の雪と瓦礫が一斉に吹き飛んだ。
それが、作戦開始の合図となった。
『コード15、侵入者を捕捉!』
『基地全体に共有。脅威度の測定を開始する』
封鎖機構側も即座に反応する。
基地各所で警報が鳴り響き、待機していたSGやLCが次々と起動。
だが621は、そんなものに構うことなくloader4のブースターを吹かした。
《よし、予定通り封鎖機構の守備隊と強襲艦を片付ける!》
脚部を沈ませる。
次の瞬間、アサルトブーストが起動した。
猛烈な推進炎を噴き出しながら、loader4が宇宙港内部へ一直線に突入する。
迎撃へ向かう守備隊を置き去りにし、まず狙うのは停泊中の強襲艦だった。
その最中、通信回線にラスティの声が割り込んでくる。
『戦友! こちらは通信基地近傍で待機している。回線を繋いでおいてくれ、そちらの状況を見て仕掛けよう』
《……すぐ仕掛けて。先ずは一隻!》
621の視線の先。
宇宙港中央にそびえる巨大タワー。
その下部に設けられた格納フロアへ、一隻目の強襲艦が停泊していた。
loader4は速度を落とさない。
アサルトブーストの勢いをそのまま維持し、強襲艦へ肉薄する。
至近距離。
狙う必要すらないほど巨大な艦橋を正面に捉え、両腕のZIMMERMANを同時に構えた。
轟音。
二挺の重ショットガンから放たれた大量の散弾が、ほぼゼロ距離から艦橋へ叩き込まれる。
装甲板が弾け飛び、窓が粉砕され、内部設備が一瞬で破壊された。
耐えきれなくなった強襲艦から爆発が連鎖する。
船体が傾き、炎と黒煙を噴き上げながら沈黙した。
《残り四つ! ラスティ、そっちは?》
『戦友! こちらで中継アンテナを破壊した!』
《流石……早いわね》
『これで連中はしばらく外部との通信ができない。その間に作戦を進めてくれ!』
通信が切れる。
ラスティも予定通り仕事を進めている。
ならば、自分も止まる理由はない。
621はそのまま次の標的へ向かった。
二隻目は一隻目よりも離れた発着区画に停泊している。
ZIMMERMANの有効射程まで接近するより早い。
621は機体を制動させると、右肩のSONGBIRDSを展開した。
照準。
発射。
二発のグレネード弾が山なりの軌道を描き──そのまま強襲艦の艦橋へ直撃した。
巨大な火球が膨れ上がる。
爆圧で艦橋構造物が吹き飛び、二隻目も行動不能となった。
だが、次の瞬間。
高速で接近する機影。
LCだった。
『コード5。排除対象確認、対処す──』
《……邪魔っ!》
最後まで言わせない。
loader4の右腕が跳ね上がる。
ZIMMERMANが火を噴いた。
近距離から放たれた散弾がLCの装甲へ集中し、姿勢制御を崩す。
間髪入れず左手のZIMMERMANを背部へ収納。
代わって左肩に保持していたパルスブレードが腕へ移る。
青白い刃が展開された。
まず一閃。
さらに返す刃でもう一撃。
二連撃がLCの装甲を深く切り裂く。
そして最後は──。
SONGBIRDS。
至近距離から放たれた二発のグレネードが直撃した。
爆炎の中からLCの残骸が転がり落ちる。
《これで残り三隻……!》
その時、再びラスティから通信が入った。
『順調に進めているようだな、戦友。こちらも攪乱を続けているが……あまりにも復旧対応が速い。この通信妨害は長くは持たないと思ってくれ』
『残るは三隻です。レイヴン、場所は分かりますね?』
《うん、覚えてるよエア》
エアの言葉に621は即答する。
前の周回でも訪れた場所だ。
強襲艦の配置も、宇宙港の構造も記憶に残っている。
残る三隻は、巨大タワーを挟んだ裏側。
比較的狭い区画へ密集する形で停泊していた。
621は迷うことなく機体を反転。
再びアサルトブーストを起動した。
だが、当然ながら強襲艦側も黙って待っているわけではない。
接近するloader4へ向け、複数の主砲が旋回する。
対空砲が火を噴く。
さらにミサイル発射口から無数の誘導弾が放たれた。
砲弾、機関砲弾、ミサイル。
複数方向から形成された濃密な対空火網が621へ襲い掛かる。
だが──。
《遅い……!》
今の621にとって、それは脅威と呼べるほどのものではなかった。
機体を左右へ振る。
一発目の砲弾を回避。
上昇してミサイル群を引きつけ、直後に急降下。
後方で複数のミサイル同士が衝突し、爆発する。
対空砲の弾幕には僅かな隙間が存在する。
621はその空隙を見切り、最小限の動きだけで突破した。
アサルトブーストの勢いを乗せたまま三隻目へ肉薄。
両手のZIMMERMANが同時に火を噴く。
艦橋へ散弾を叩き込んだ直後、左腕の武装をパルスブレードへ換装。
青白い刃が艦橋を横薙ぎに切り裂いた。
爆発。
三隻目、撃沈。
すぐさま隣の四隻目へ照準を移す。
SONGBIRDS発射。
二発のグレネードが甲板へ直撃し、艦橋周辺を丸ごと爆炎で包み込む。
四隻目も機能を停止した。
残るは一隻。
最後の強襲艦が慌てて主砲を旋回させる。
しかし、遅い。
loader4が真正面からアサルトブーストで突っ込んだ。
621はパルスブレードの出力を最大まで引き上げる。
青白い刃が通常時以上の長さへ伸びる。
一閃。
強襲艦の艦橋装甲が斜めに切り裂かれた。
さらに──。
《これで……終わり!》
loader4が脚部を前方へ突き出す。
アサルトブーストの推力をそのまま乗せた強烈な蹴りが、損傷した艦橋へ直撃した。
装甲が陥没する。
内部構造が押し潰され、直後に巨大な爆発が発生した。
五隻目も沈黙。
『全ての目標の破壊を確認しました』
《これでよし。後は敵の増援ね》
作戦そのものは順調。
しかし621は油断しない。
むしろ、本番はここからだと理解していた。
そしてその予想を裏付けるように、ラスティから緊急通信が入る。
『聞こえるか? 戦友。封鎖機構の外部通信が復旧した。応援要請を受けた強襲艦がそちらに向かっている。私が着くまで持ちこたえてくれ……!』
《了解。……ウォルター、補給シェルパの手配をお願い》
『分かった。補給シェルパを手配する』
長期戦になる可能性が高い。
既に五隻の強襲艦と複数の守備隊を相手にしている以上、loader4の装甲も弾薬も無傷ではない。
ウォルターから補給地点を示すマーカーが送信される。
621は即座にその座標へ向かった。
しばらくすると、空の彼方から大型輸送機が接近してくる。
補給シェルパ。
これで弾薬と機体修理を──。
【茨城県人、ここにありだあぁぁぁっ!!】
《……また? 本当に何処から来たのって感じ》
【茨城だあぁぁぁっ!!】
《そういう意味じゃあ……ハァ……》
621から深いため息が漏れる。
以前から何度も聞いているにもかかわらず、補給シェルパに乗っている日本兵のテンションだけは一向に理解できない。
エアも既に反応することを半ば諦めていた。
補給シェルパが着陸する。
そのままloader4へ整備設備が接続され、損傷箇所の応急修理が始まった。
消耗していたZIMMERMANの弾薬を補充。
SONGBIRDSのグレネード弾も再装填される。
パルスブレードを含めた各部機構も簡易点検。
そうしている間にも、遠方のレーダーには複数の反応が増え続けていた。
封鎖機構の増援。
通信網の復旧が予想以上に早かったことで、敵は既にこちらへ向かっている。
621は補給状況を示す表示を確認しながら、静かに次の戦いへ備える。
五隻の強襲艦を沈めた程度では、この作戦はまだ終わらない。
むしろ──バートラム旧宇宙港を巡る本当の戦いは、これから始まろうとしていた。
◆◇◆
補給シェルパによる機体修理と弾薬補給が完了した、その直後だった。
バートラム旧宇宙港を象徴する巨大タワー。その上空から複数の機影が急降下してくる。
『敵勢反応! 上から狙われています!』
《見えてる!》
621は即座に視線を上へ向ける。
降下してきたのは惑星封鎖機構のLC部隊。
そのうち一機がloader4の近くへ着地しようとした瞬間、右肩のSONGBIRDSが火を噴いた。
二発のグレネード弾がLCの着地点へ飛び込み、轟音と共に爆炎を巻き上げる。
爆発の直前に回避したLCだったが、その間に621は既に動き出していた。
アサルトブーストを起動。
loader4が地面を蹴り、巨大タワーの壁面に沿うように一気に上昇していく。
「コード5! 排除た──」
タワー上部で迎撃態勢に入ったLC。
だが、その言葉が最後まで続くことはなかった。
621は着地とほぼ同時にZIMMERMANを構える。
轟ッ──!
至近距離から放たれた重ショットガンの散弾がLCの正面装甲へ叩き込まれた。
装甲板が弾け飛び、内部機構まで一気に破壊される。
LCは反撃する暇すら与えられず、そのまま爆散した。
『基地正面方向に敵影。増援だ、621』
《了解、対処する》
ウォルターから送られた情報を確認。
正面から接近してくるのは二機。
一機は通常型LC。
もう一機は遠距離戦を得意とする狙撃型だった。
通常型が前に出て621を足止めし、後方の狙撃型が射線を通そうとする。
教科書通りの連携。
だが、621にとっては既に見慣れた動きだった。
《先に……こっち!》
SONGBIRDSを通常型へ向ける。
二発のグレネード弾が炸裂し、LCの姿勢が大きく崩れた。
621はその結果すら確認せず、狙撃型へ向けてアサルトブースト。
狙撃型LCがライフルを構える。
発砲。
しかしloader4は僅かに機体を横へ振り、光条を紙一重で回避する。
距離を詰めながらZIMMERMANを発砲。
散弾が装甲へ食い込み、狙撃型LCがよろめいた。
そこへ──。
《はぁっ!》
アサルトブーストの勢いを乗せた蹴り。
loader4の脚部がLCの胴体へまともに突き刺さった。
衝撃で機体フレームが歪み、そのまま後方へ吹き飛ばされる。
地面へ叩きつけられた狙撃型LCは沈黙。
残る通常型も既にSONGBIRDSの直撃によって大破していた。
《残るは封鎖機構の強襲艦……!》
『強襲艦、来ます!』
エアの声に反応し、621が機体を旋回させる。
旧宇宙港へ接近してくる大型反応。
一隻。
二隻。
三隻。
四隻。
五隻。
外部通信の復旧後、救援要請を受けて駆けつけた封鎖機構の強襲艦隊だった。
やがて広域通信が開かれる。
『旧宇宙港の襲撃者に告ぐ。直ちに武装解除し、投降せよ。抵抗を続ける場合は、強制排除を執行する』
621は僅かに沈黙した。
《エア、この場合なんて言えばいいか分かる?》
『いえ……何ですか?』
621の声に、僅かに楽しげな色が混じる。
《フフッ……それは、“馬鹿め! ”だよ!》
次の瞬間。
loader4が地面を蹴った。
アサルトブースト。
一気に加速し、五隻の強襲艦へ正面から突撃していく。
当然、強襲艦側も応戦した。
対空砲が火を噴き、無数の砲弾が空間を埋め尽くす。
さらにミサイルまで発射され、621を包囲するような火網が形成された。
だが──。
《遅い……!》
621には見えている。
砲口の向き。
発射の瞬間。
ミサイルの誘導軌道。
そして、弾幕に必ず生じる僅かな隙間。
何度も死線を潜り抜け、同じ戦場を繰り返してきた経験が、無意識のうちに最適な回避行動を選び取る。
右へ。
上へ。
そして急降下。
弾幕を抜けた瞬間、一隻目の強襲艦がSONGBIRDSの射程に入る。
《そこ……!》
二発同時発射。
グレネード弾が艦橋へ直撃した。
巨大な爆発が艦橋構造物を吹き飛ばし、強襲艦が炎を噴きながら高度を落としていく。
『増援の強襲艦、一隻撃破』
《次……!》
621は止まらない。
二隻目へ接近し、ZIMMERMANを艦橋へ連射。
三隻目にはSONGBIRDSを叩き込み、推進部まで巻き込んで墜落させる。
四隻目の対空砲火を掻い潜り、至近距離から二挺の重ショットガンを浴びせる。
そして最後の一隻。
621はZIMMERMANを収納し、左腕へパルスブレードを展開した。
青白い刃が形成される。
《これで……最後!》
一閃。
続けて二撃目。
パルスブレードの二連撃が艦橋を深く切り裂いた。
すぐにブレードを収納。
代わってZIMMERMANを握る。
損傷部分へ銃口を押し付けるほどの至近距離から、最後の散弾を撃ち込んだ。
艦橋内部で爆発。
最後の強襲艦が制御を失い、ゆっくりと地上へ墜落していく。
『強襲艦、全て撃墜』
《これでよし》
『システムより承認。……
《……?》
何か途中から物騒な言葉に変わっていた気もする。
だが621は気にしなかった。
墜落した最後の強襲艦が地面へ激突。
直後、燃料と弾薬に引火し、巨大な爆発を起こした。
これで終わり──。
ではなかった。
『レイヴン、新たな反応です!』
爆炎の向こう。
二つの機影がゆっくりと姿を現した。
一機は見覚えのある重装型人型兵器。
惑星封鎖機構の執行機──HC。
そしてその隣を飛行しているのは、背部から特殊な粒子を撒き散らす白銀の機体だった。
アドヴァンスド・ジンクス。
封鎖機構が最近になって投入し始めた、疑似太陽炉搭載機。
これまで相手にしてきた一般部隊とは明らかに格が違う。
「コード15……排除目標を確認」
「消えてもらおう」
『封鎖機構のHCに疑似太陽炉搭載機!?』
エアの声が僅かに強張る。
《……あの機体、壁の時の……》
621も覚えていた。
以前、壁でレイと共に交戦した機体。
通常のACとは比較にならないほど高い機動力と、GN粒子を利用した兵装を持つ新型。
しかも今回は、HCとの混成部隊。
封鎖機構も本気で621を排除するつもりらしい。
その時だった。
HCとアドヴァンスド・ジンクスのさらに後方。
真正面からではなく、大きく迂回するような軌道で接近してくる高速反応を621のレーダーが捉えた。
細身の軽量AC。
見覚えのある機体。
スティールヘイズ。
ヴェスパーⅣラスティだった。
「相手は……上級尉官の執行機に例の未知の粒子を出す新型か」
《ラスティ……! いいタイミングね》
スティールヘイズがブースターを噴かし、一気に高度を落とす。
着地。
雪と粉塵が巻き上がる。
その中からスティールヘイズが立ち上がり、loader4の隣へ並んだ。
二機のACが肩を並べる。
「待たせたな、戦友。久々の協働だ、助け合いの精神で行くとしよう」
《そのつもり。行こうラスティ》
621は両手のZIMMERMANを構える。
ラスティのスティールヘイズもまた、武装を展開した。
対するは惑星封鎖機構の上級執行部隊。
HC。
そして、アドヴァンスド・ジンクス。
loader4とスティールヘイズ。
二人の戦友が再び肩を並べ、封鎖機構の精鋭へと立ち向かう。
バートラム旧宇宙港を巡る戦いは、ついに最後の局面へ突入しようとしていた。
◆◇◆
HCとアドヴァンスド・ジンクス。
二機の執行機が同時に動き出した。
HCが重量感のある機体を前進させる一方、アドヴァンスド・ジンクスは背部の疑似太陽炉から赤いGN粒子を放出。地面を蹴ることなく浮き上がり、そのまま側面へ回り込む。
戦闘開始と同時に、HCを率いる執行上尉がシステムへ命令を送った。
「コード44、排除対象2機の情報を回してくれ」
『システムより回答。企業所属、“V.Ⅳラスティ”。独立傭兵、識別名“レイヴン”。後者については複数の誤差を再照合中』
即座に二機の情報が共有される。
片方はアーキバスのヴェスパー第四隊長。
もう片方は、独立傭兵レイヴン。
だが、その組み合わせには違和感があった。
「妙な組み合わせだ……」
アドヴァンスド・ジンクスを操る執行中尉が呟く。
「企業も傭兵に頼らざるを得ないということだろう」
執行上尉は、それだけで疑問を切り捨てた。
企業の事情など自分たちには関係ない。
今ここで必要なのは、惑星封鎖を脅かす侵入者を排除することだけだ。
『敵機を解析します』
エアが二機の戦闘データを拾い始める。
《大丈夫、あの疑似太陽炉は前に戦ったから覚えている。それにHCも前の周回でパターンも把握済み》
621に迷いはなかった。
アドヴァンスド・ジンクスも厄介だが、まずはHC。
前の周回で何度も交戦している以上、武装も攻撃の癖も知っている。
loader4が前へ出る。
両手のZIMMERMANが連続して火を噴いた。
重ショットガン特有の轟音と共に、散弾がHCへ殺到する。
HCは左腕のパルスシールドを展開。
淡い光の盾が散弾を受け止めた。
だが、完全に無力化できるわけではない。
衝撃がシールド越しに蓄積し、ACS負荷が確実に上昇していく。
HCが反撃。
大型レーザーブレードを展開し、loader4へ斬り込む。
しかし621は、ブレードが振り抜かれるより先に回避方向を選んでいた。
横へクイックブースト。
光刃が虚空を薙ぐ。
続いて背部に搭載されたパルスマシンガン砲が連射された。
青白い弾幕が621へ降り注ぐ。
だが、それも読んでいる。
最小限の動きで射線をずらし、再びZIMMERMAN。
散弾がシールドへ叩き込まれる。
「まずい……! ここままでは……!」
執行上尉の声に焦りが滲み始める。
防御はできている。
だが、防御させられ続けている。
621はHCの攻撃を見切りながら、一方的に負荷だけを積み重ねていた。
「隊長、援護します!」
執行中尉がアドヴァンスド・ジンクスを旋回させる。
プロトGNランスを構え、621の側面へ回り込もうとした。
だが。
「すまないが、君の相手は私だ」
その進路へ、スティールヘイズが割って入った。
軽量AC特有の鋭い機動。
ラスティはアドヴァンスド・ジンクスの進路を塞ぎ、そのまま武器を構える。
「戦友、この新型はこちらで押さえておく。君はHCを」
《分かってる》
621も短く答える。
これで一対一。
loader4は再びHCへ肉薄した。
右。
左。
二挺のZIMMERMANから、ほぼ同時に散弾が放たれる。
パルスシールドが大きく揺らぐ。
直後、右肩のSONGBIRDSが展開。
《これで……!》
二発のグレネード弾。
至近距離から放たれたそれがHCへ直撃した。
爆炎が機体を包み込む。
パルスシールドが破られ、装甲板が吹き飛んだ。
「ぐっ……システムに、報告を……! コード78……脅威レベルE……」
爆発寸前。
執行上尉は最後の力でシステムへ情報を送信する。
コード78E。
その送信が完了した直後。
HCの胴体部から激しい爆発が発生した。
機体全体が炎に包まれ、上級執行機は完全に沈黙する。
『敵執行機、残り一機です』
《残るは厄介な疑似太陽炉搭載機……!》
621が視線を向ける。
その先では、ラスティとアドヴァンスド・ジンクスが高速戦闘を繰り広げていた。
『……コード78Eを受領。システムに上申』
機械的な音声だけが、冷淡に送信完了を告げる。
だが、執行中尉に動揺は見られなかった。
隊長機を失っても、戦闘行動を止めるつもりはない。
「コード31A、大きな問題はない」
アドヴァンスド・ジンクスがプロトGNランスを構える。
ランス内部に仕込まれたGNバルカンが連続して火を噴いた。
赤いGN粒子の弾丸がスティールヘイズへ殺到する。
ラスティは左右へ細かく機体を振り、弾幕を回避。
アドヴァンスド・ジンクスも疑似太陽炉の推力を活かし、急上昇から急旋回。
従来のLCやHCでは不可能な三次元機動を見せる。
しかし。
「なるほど。あの粒子の恩恵で軽量級ACとほぼ互角のスピードを得ているということか。だが、その機体に変わってから機種転換にはまだ慣れていないようだ」
ラスティには、その動きが見えていた。
機体性能そのものは高い。
速度も優秀。
だが、操縦者がその性能を完全には引き出せていない。
旋回の直後に僅かな硬直。
加速から減速へ移る際のタイミング。
プロトGNランスを振る際の軌道。
その小さな隙を、ラスティは見逃さなかった。
右肩の“Vvc-703PM”。
VCPL製プラズマミサイルが射出される。
複数の弾頭がアドヴァンスド・ジンクスへ追尾。
回避を強制させたところへ、右腕のBAWS製バーストハンドガン“MA-E-211 SAMPU”が火を噴く。
短い間隔で弾丸が装甲へ着弾。
さらに左肩へ懸架していた“MA-J-200 RANSETSU-RF”へ持ち替え、逃げ道を塞ぐようにバースト射撃を叩き込んだ。
「馬鹿な……! 新型についてくるだと……!?」
執行中尉の声に、初めて動揺が混じる。
純粋な機体性能ならば、アドヴァンスド・ジンクスは通常のACを凌駕する。
だが。
「スピードはこちらの領分でな。行くぞ、戦友」
《任せて……!》
ラスティの声に応じ、621も突入する。
二方向からの挟撃。
アドヴァンスド・ジンクスがGNバルカンを乱射するが、二機は別々の軌道で距離を詰めていく。
621が先行。
二挺のZIMMERMANを発射。
散弾が装甲へ食い込み、姿勢制御が揺らぐ。
そこへSONGBIRDS。
二発のグレネードが直撃し、爆炎の中でアドヴァンスド・ジンクスが大きく体勢を崩した。
その瞬間。
ラスティが懐へ飛び込む。
左肩へ格納されていた“Vvc-774LS”レーザースライサーを展開。
複数のレーザー刃が回転しながら形成される。
「これで終わりだ」
スティールヘイズが高速で踏み込む。
一閃。
二閃。
さらに回転する光刃が連続してアドヴァンスド・ジンクスの装甲を切り刻んだ。
胸部。
肩部。
疑似太陽炉周辺。
次々と爆発が発生する。
「この……状況は……! コード78E……送信……!」
執行中尉もまた、最後の瞬間まで任務を遂行した。
コード78E。
送信。
直後。
アドヴァンスド・ジンクスが爆発した。
機体を包み込む巨大な火球。
その爆炎の中から、疑似太陽炉特有の赤いGN粒子が大量に噴き出す。
赤い光の粒が雪原へ降り注ぎ、やがて風に流されるように消えていった。
『敵執行機部隊、二機とも撃破』
「……片付いたな、戦友」
《えぇ……その様ね》
スティールヘイズとloader4が並ぶ。
これで、封鎖機構から送り込まれた執行部隊も全滅した。
普通ならば、任務完了を喜んでもいい状況だ。
だが。
621だけは警戒を解かなかった。
視線を遠方へ向ける。
前の周回。
この戦いの後に起きた出来事を、彼女は覚えている。
IA-02。
アイスワーム。
技研が残した巨大兵器が地下から姿を現し、戦場そのものを混乱へ叩き込んだ。
今回も同じ展開になる保証はない。
だが、来ないという保証もない。
そして──。
『……システムの判断を通達します。コード78Eを承認。惑星封鎖に対する脅威現出と見なし……』
突如として通信回線に無機質なシステム音声が流れ込んだ。
621の表情が変わる。
『IA-02の起動を許可、並びにGFAS-X1の出撃を許可します』
《GFAS-X1……? 封鎖機構の新型? それとも、私の知らない技研の兵器……?》
IA-02。
そこまでは知っている。
だが。
GFAS-X1。
その名称には聞き覚えがない。
前の周回では存在しなかった。
少なくとも、621の記憶にはない兵器。
つまり──またひとつ、この周回で生まれたイレギュラー。
《……嫌な予感がする》
アイスワーム。
そして、正体不明のGFAS-X1。
二つの新たな脅威が同時に動き出そうとしている。
621はZIMMERMANを構え直し、遥か遠方を睨んだ。
バートラム旧宇宙港を巡る戦いは終わった。
しかし──本当の脅威は、今まさに動き始めたばかりだった。
◆◇◆
惑星封鎖機構が保有する、とある駐屯地。
その広大な格納庫の中を、一人の少女がきょろきょろと周囲を見回しながら歩いていた。
「ここがお兄ちゃんがいっていた場所だね。ここに私の機体が……あった!」
探し始めてから、そう時間は掛からなかった。
そもそも隠しようがない。
格納庫の奥。
通常の兵器を明らかに凌駕する巨体が、拘束架に固定された状態で鎮座していた。
GFAS-X1──デストロイ。
全高56.30m。
頭頂高38.07m。
ACはもちろん、一般的なモビルスーツと比較しても桁違いの巨体である。
これほど巨大な機体を見間違えるはずもなかった。
「これが……私用の機体。……ちょっと大きすぎて怖いかな?」
ステラは機体を見上げ、素直な感想を漏らす。
破壊の名を冠した巨大兵器。
その威圧感だけを見れば、少女がそう感じるのも無理はない。
しかし恐怖より好奇心の方が勝ったらしい。
ステラは案内されたルートを進み、そのままデストロイのコックピットへ乗り込んだ。
シートへ腰を下ろし、教えられていた手順通りに電源を入れる。
低い駆動音。
各部システムが次々と立ち上がり、暗かったコックピット内のディスプレイに光が灯った。
そこへ専用OSの名称が表示される。
通常、モビルスーツ・オペレーション・システムに使用される名称とは異なるものだった。
表示された文字は──。
Gigantic
Unilateral
Numerous
Dominating
Ammunition
「へぇ……OSの頭文字を取ってG.U.N.D.A.N……“ガンダム”。……ちょっとAMの部分、無理やり感を感じるような?」
ステラは首を傾げた。
何となく引っ掛かる。
だが。
「……まあ、いいか」
数秒で考えることをやめた。
本人にとっては、機体が動けばそれで十分らしい。
そんな時だった。
格納庫内に無機質な館内放送が響き渡る。
『IA-02の起動を許可、並びにGFAS-X1の出撃を許可します』
「あ、私の出番? やった! いいタイミング!」
先ほどまでの僅かな不安はどこへやら。
出撃許可を聞いた瞬間、ステラの表情が明るくなる。
そこへ、通信回線が開いた。
『やぁステラ。準備はいいかい?』
聞き慣れた声。
「うん、お兄ちゃん。ちょうど今乗り込んだところ! ところで、私は何処に行けばいいの?」
『バートラム旧宇宙港と呼ばれる場所に向かってほしいんだ。そこに君が戦う相手がいるよ』
「バートラム旧宇宙港……。分かった! ところで、IA-02って何?」
先ほどの館内放送。
自分のGFAS-X1と同時に出撃許可が下りた存在。
気になったステラは、素直に尋ねる。
通信の向こうで、リボンズは僅かに間を置いた。
『あーっ……技研の人たちが作った機械の芋虫……かな?』
専門的に説明したところで、ステラには余計分かりづらくなる。
そう判断した末の、最大限噛み砕いた説明だった。
もっとも、説明している本人も多少苦笑していたが。
「機械の芋虫? ……まあ、それは味方ってことでいいんだよね?」
『合っているよ。じゃあ、頑張ってきてね』
「うん! 任せてよ、お兄ちゃん!」
通信が終了する。
ステラは操縦桿へ手を添えた。
「それじゃあ……行こっか!」
デストロイのシステムが本格的に稼働を開始した。
巨体の各所に光が灯り、内部から重々しい駆動音が響く。
固定されていた腕が動く。
続いて脚部。
そして、巨大な機体がゆっくりと立ち上がった。
一方。
格納庫で作業していた封鎖機構の整備兵たちは、その光景を見て凍り付いていた。
「お、おいっ! 機体が……!」
「か……勝手に動いた!?」
彼らの認識では、デストロイはまだ待機状態。
当然、中へステラが乗り込んでいることなど知らされていない。
そのため、突然自律的に動き始めたようにしか見えなかった。
警報が鳴り響く。
異常は即座に駐屯地全体へ伝播した。
さらに、その様子を遠方から監視していた封鎖機構艦隊も異常を検知する。
『何事か! 状況を報告しろ!』
慌てた整備兵が通信端末へ飛びついた。
「き、緊急コードX! デストロイが……デストロイが勝手に動いています!!」
『な……なんだと!?』
最悪の事態が脳裏をよぎる。
ハッキング。
あるいは何者かによる鹵獲。
もしGFAS-X1ほどの巨大兵器が敵の手に渡ったのなら、ただ事では済まない。
迎撃命令を出そうとした、その瞬間だった。
格納庫内部から轟音が響く。
デストロイが進行方向を変えることなく、そのまま上方へ向かっていったのだ。
「ま、待て! そっちは──!」
整備兵の制止は届かない。
次の瞬間。
──轟ッ!!
格納庫の屋根が内側から吹き飛んだ。
巨大な装甲板と建材が宙を舞い、粉塵が周囲へ広がる。
そこから姿を現したのは、GFAS-X1デストロイ。
破壊された格納庫を背に、巨大兵器が外気へその全容を晒す。
当然、地上の整備兵たちは絶句した。
だが。
そんな周囲の混乱など一切知らない少女は、コックピットの中で嬉しそうに声を上げていた。
「よーし! バートラム旧宇宙港に向けて、しゅっぱ~つ!」
陽気な掛け声。
まるで遊びにでも出掛けるかのような明るい声音。
しかし、その少女が動かしているのは──デストロイ。
その名の通り、圧倒的な火力によって敵を殲滅するために造られた巨大殺戮兵器。
ステラの無邪気な笑顔とは裏腹に、GFAS-X1はゆっくりと進路をバートラム旧宇宙港へ向ける。
同じ頃。
別の場所では、IA-02もまた起動命令を受けて動き始めていた。
621たちの知らぬところで。
二つの巨大な脅威が──同じ戦場へ向けて進み始めていた。