転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
バートラム旧宇宙港。
HCとアドヴァンスド・ジンクスを撃破した直後も、621は警戒を解いていなかった。
前の周回を知る彼女にとって、この場所で何が起こるのかはある程度予想できている。
IA-02──アイスワーム。
それだけでも十分に厄介な存在だ。
しかし今回は、システムから聞き慣れない識別コードまで告げられていた。
GFAS-X1。
前の周回には存在しなかった、新たなイレギュラー。
そして、その嫌な予感を裏付けるように──。
『この反応は……! マーカー情報を送信。そちらの方角から……何かが……!』
オペレートを続けていたエアが、レーダー上に二つの巨大反応を捉えた。
621のHUDへ、即座に二つのマーカーが表示される。
《反応は……二つ? 一つは分かるけど、もう一つは……》
一つは分かる。
地下深くを高速で移動する巨大反応。
前の周回でも見た、アイスワームの反応だ。
だが、もう一つ。
空中をこちらへ向かって接近してくる異常なほど巨大な反応には、まったく心当たりがない。
621がエアの送ったマーカー方向へloader4を向ける。
遠方。
雪と煙に霞む空の向こうから、黒い巨大な何かが接近していた。
ACどころではない。
通常のLCやHCと比較しても、あまりにも大きすぎる。
それはGFAS-X1──デストロイ。
巨大なバックパックを上部へ展開したMA形態のまま、バートラム旧宇宙港へ接近していた。
そのコックピット。
ステラは眼前に広がる旧宇宙港を確認すると、嬉しそうに身を乗り出した。
「アレが旧宇宙港だね。よ~し! 先手必勝の~……」
デストロイの上部。
MA形態では頭部に相当する巨大バックパックが僅かに動く。
そこに装備された長大な二連装砲塔。
左右一基ずつ。
計四門。
長射程大出力ビーム砲──“アウフプラール・ドライツェーン”。
四つの砲口が、一斉にバートラム旧宇宙港へ向けられた。
「極太ビ──ーッム!!」
ステラが元気よく叫ぶ。
あまりにも軽い掛け声。
しかし、実際に放たれようとしているものは、冗談で済ませられるような火力ではなかった。
四門の砲口へ凄まじいエネルギーが集中する。
空気が震える。
赤い光が膨れ上がり、その中心へ白熱したプラズマが収束していく。
『高エネルギー反応……! レイヴン、回避を!』
《ちょっ!?》
「マズい……!」
エアの警告。
621は考えるより早くクイックブーストを吹かした。
loader4が横方向へ弾け飛ぶ。
その動きを見たラスティも、ほぼ同時にスティールヘイズを急加速させた。
直後。
──光。
デストロイから放たれた極大のビームが、大気を焼きながら旧宇宙港へ襲い掛かった。
赤を基調とし、その中心に白いプラズマ光を宿した巨大な光条。
着弾。
いや。
それだけでは終わらない。
照射されたビームが、そのまま大地を抉り取るように横へ薙ぎ払われていく。
雪。
岩盤。
施設。
残骸。
その進路上に存在する物すべてが、一瞬で熱へ晒される。
ビームが大地をなぞった場所から、次々と爆発が発生した。
轟音。
炎。
吹き上がる土砂と装甲片。
まるで道を阻む者も、そこに存在する建造物も、すべて等しく焼き払うかのような暴力的な破壊力だった。
スティールヘイズが爆風を抜ける。
「なんだ……この化け物は……!?」
ラスティですら、思わず声を漏らした。
ヴェスパー第四隊長として数多くの兵器を見てきた彼にとっても、目の前の巨大兵器はあまりにも異質だった。
《ラスティ、大丈夫!?》
「平気だ、戦友。直撃は受けてない」
装甲表面には爆風による細かな損傷こそある。
だが、戦闘継続には問題ない。
621が僅かに安堵した──その直後。
『地中から反応が……来ます!』
エアの声が再び切迫する。
《来た……!》
621には分かっていた。
足元。
地下深く。
巨大な反応が猛烈な速度で地表へ接近している。
次の瞬間。
地面が爆発した。
雪原が内側から弾け飛ぶ。
大地を突き破り、巨大な筒状の兵器が空高く躍り出た。
先端部に巨大な掘削機構を備え、全身を特殊な装甲で覆った技研兵器。
IA-02。
アイスワーム。
『これは……!』
エアが息を呑む。
だが、その直後。
通信回線へ、やけに元気な日本兵の声が飛び込んできた。
『超巨大高速潜水ドリル戦艦“リフレクト・アラハバキ”出現!』
『ちがう……アレは技研兵器の一つアイスワームだ』
ウォルターが淡々と訂正する。
もはや日本兵の謎発言へ逐一反応することにも慣れてしまったらしい。
『621よく聞け! そいつに攻撃は効かない!』
《知っている! ただ、あっちの黒いデカ物は何っ!?》
621が叫ぶ。
アイスワームについては知っている。
特殊なシールドによって通常攻撃が通用しないことも。
どのような流れで撃破することになるのかも。
だが──。
デストロイ。
あれだけは知らない。
前の周回には存在しなかった。
巨大なアイスワーム。
そして、それとほぼ同時に現れた黒い巨大兵器。
その両方を一度に相手にするなど、621にとっても完全に想定外だった。
『レイヴン、回避に専念を!』
《分かってる!》
再びデストロイのアウフプラール・ドライツェーンへ光が集中し始める。
同時に、アイスワームが地面へ潜り込んだ。
次にどこから飛び出してくるか分からない。
上空には、広範囲を焼き払う巨大兵器。
地下には、通常攻撃すら通用しない超大型技研兵器。
片方だけでも戦場そのものを崩壊させかねない存在。
それが二体。
《これは……流石に面倒すぎる……!》
621はloader4を加速させる。
スティールヘイズも別方向へ散開。
再び極大ビームが大地を薙ぎ払い、その直後には地下からアイスワームが姿を現す。
爆発。
衝撃。
ビーム。
そして巨大兵器の突進。
もはやバートラム旧宇宙港は、一つの戦場という言葉では収まらない。
アイスワームとデストロイ。
二体の怪物が同時に現れたことで──戦局は完全な混迷へと突入していた。
◆◇◆
デストロイがアウフプラール・ドライツェーンによる砲撃を終える。
凄まじい熱量によって焼き払われた旧宇宙港の一角では、未だ爆発と黒煙が上がり続けていた。
しかし、ステラに攻撃を止めるつもりはない。
「ビームの次はコレ! ミサイル発射!」
デストロイの巨大なバックパック。
そこに搭載された“Mk.62 6連装多目的ミサイルランチャー”が展開された。
複数の発射口から、次々とミサイルが射出される。
目標は──loader4とスティールヘイズ。
『ミサイル多数接近!』
《見えてる!》
「戦友、散開するぞ!」
621とラスティは同時に機体を左右へ分ける。
追尾してくるミサイル群。
621は地表すれすれまで高度を落とし、クイックブーストを連続使用。
直後、背後で爆発が連鎖する。
一方のラスティもスティールヘイズの軽量機動を活かし、急旋回と急加速を繰り返しながら誘導を振り切っていく。
だが。
脅威は上空だけではない。
『地中反応! 急速接近!』
エアの警告。
次の瞬間。
621たちの進行方向、その地面が大きく隆起した。
《来る!》
大地が内側から爆発する。
雪と土砂を巻き上げながら、IA-02──アイスワームが地表へ飛び出した。
巨大な掘削兵器。
その巨体そのものが、凶悪な質量兵器でもある。
アイスワームは特別な武装を使うこともなく、そのまま身体を捻りながら621とラスティへ襲い掛かった。
「これも……封鎖機構の兵器なのか!?」
ラスティが機体を急上昇させながら叫ぶ。
《片方は違う! そして片方は悪い意味でもっと違う!》
「……説明になっているようで、ほとんど説明になってないぞ、戦友!」
スティールヘイズの真下を、アイスワームの巨大な身体が通過する。
直撃すれば、いかにACと言えど無事では済まない。
そして、その回避先を狙うようにデストロイのミサイルが飛来する。
地上からはアイスワーム。
上空からはデストロイ。
二方向からの攻撃に、621とラスティは反撃する余裕すらなかった。
『あの巨大な黒い兵器は分かりませんが、片方はレイヴンが交戦したアイスワームと一致しています!』
《うん。でも、あの黒いデカ物がいる所為で安全地帯ともいえる高所が取れない!》
前の周回であれば、アイスワームが暴れ回る間、高所へ退避してやり過ごすという選択肢も取れた。
だが今回は違う。
高所に出れば、デストロイの長射程ビームやミサイルの格好の標的になる。
かと言って低空へ留まり続ければ、今度は地中から飛び出してくるアイスワームに狙われる。
安全地帯が存在しない。
《面倒すぎる……!》
loader4が横へ飛ぶ。
直後、その場所へアイスワームが突き上げるように出現。
さらに上空からミサイルが降り注ぎ、地面が爆発する。
スティールヘイズも爆風を突き抜けながら、辛うじて次の回避軌道へ移る。
そんな状況をミレニアム側でも確認していた。
そして。
映像に映し出された黒い巨体を見た瞬間。
『ファッ!? デストロイ!?』
通信回線にレイの素っ頓狂な声が響いた。
『レイ? あの機体を知っているのですか?』
エアが即座に反応する。
《デストロイ? ……そんなことはどうでもいい! レイ、この機体のこと知っているの!?》
『知ってるも何も……アレは封鎖機構の新型じゃない! 本来なら存在しない筈の巨大MAだ!』
『『『……ううん?』』』
複数の日本兵が同時に首を傾げた。
「MA?」
「えむえー?」
「なんだそれ?」
レイは説明する気すら起きなかった。
今はそんなことを説明している場合ではない。
『レイ、あのデストロイという機体の弱点は?』
エアが要点だけを尋ねる。
レイもすぐに切り替えた。
『デストロイは生半可な攻撃じゃ装甲やリフレクターで防がれる! アイスワームと一緒となると余計に面倒だ! 今は生き残ることを優先するんだ!』
火力も。
防御力も。
どちらも通常兵器の範疇ではない。
しかも今回は、そのデストロイと同時にアイスワームまで戦場に存在している。
どちらか一方を相手にするだけでも厄介。
それが二体。
今の621たちに求められるのは撃破ではない。
生存。
ただ、それだけだった。
《了解……! やっかいなことになったわね……!》
621はZIMMERMANのトリガーから指を離し、操縦へ意識を集中させる。
攻撃ではなく、回避。
反撃ではなく、生存。
そして隣では、ラスティも同じ判断に切り替えていた。
再び地面が大きく揺れる。
アイスワームが地中を高速移動。
上空では、デストロイが次の攻撃動作へ入る。
バートラム旧宇宙港。
そこは今や、二体の巨大兵器によって蹂躙されるだけの戦場と化していた。
◆◇◆
バートラム旧宇宙港では、未だアイスワームとデストロイによる猛攻が続いていた。
地中から突如として姿を現し、その巨体そのものを武器に突進してくるアイスワーム。
そして上空からは、デストロイが絶え間なくミサイルをばら撒いてくる。
621とラスティは反撃する余裕すらほとんどなく、ひたすら回避へ専念していた。
「ミサイル、ミサイル! か~ら~の~……腕部分離!」
ステラが楽しそうに叫ぶ。
デストロイのバックパックから“Mk.62 6連装多目的ミサイルランチャー”が火を噴き、複数のミサイルがloader4とスティールヘイズへ殺到する。
だが、それだけでは終わらない。
デストロイの両腕部が本体から切り離された。
両腕部飛行型ビーム砲──“シュトゥルムファウスト”。
巨大な二つの腕が独立した飛行ユニットとして宙を舞い、621とラスティを追跡し始める。
その五本の指。
それぞれの指先には一門ずつ。
片腕で五門。
両腕合わせて十門もの“MJ-1703 5連装スプリットビームガン”が搭載されていた。
指先に赤い光が宿る。
直後。
十条のビームが、一斉に放たれた。
《っ……!》
621が急旋回する。
ビームが直線的に地面を焼き、そのまま後方で爆発を引き起こす。
しかしシュトゥルムファウストの厄介なところは、それだけではない。
「そこそこ~!」
ステラが操縦すると、シュトゥルムファウストの指が曲がる。
それに合わせて射線も変化。
五本の指がそれぞれ異なる角度へ向き、扇状にビームを放つ。
「なっ……!」
ラスティが咄嗟にスティールヘイズを横へ滑らせる。
その直後、先ほどまで機体がいた空間を複数のビームが交差していった。
直線。
拡散。
追尾するミサイル。
さらに本体から分離した両腕による多方向攻撃。
その合間を縫うように、今度は地面を突き破ってアイスワームが飛び出してくる。
まさにやりたい放題だった。
だが、回避しながらもラスティは敵の動きを冷静に観察していた。
「パターンが読めん……! それにこの動きといい……敵意が幼すぎる?」
《幼すぎる……? どういうこと?》
「分からん。だが、少なくともあのミールワームと似た巨大兵器と違ってあっちのは有人機である可能性がある」
アイスワームの動きには明確な機械的規則性がある。
対してデストロイは違った。
攻撃そのものは極めて危険。
だが、その狙い方や武装の選び方には、兵士らしい合理性が薄い。
強力な武器を次々と試すような攻撃。
まるで新しい玩具で遊んでいるような──そんな幼さが感じられた。
ラスティの考察は、ほぼ正しかった。
実際にコックピットへ乗っているのはステラ。
しかし、その事実を621たちはまだ知らない。
そして、それを確かめる余裕もなかった。
このまま戦闘を続ければ、こちらだけが消耗していく。
そう考えていた時だった。
突然。
アイスワームの動きが止まった。
「あれ? なんかアイスワームが止まっちゃった」
ステラも攻撃を止め、首を傾げる。
巨大なアイスワームは地表へ半身を出したまま、その場で静止していた。
《……何?》
621も僅かに警戒する。
そして。
【Got it】
声が聞こえた。
「あれれ? アイスワームから声が……?」
ステラが不思議そうに周囲を見回す。
《これって確か……グリッド086で戦ったシースパイダーと同じ?》
621はすぐに思い出した。
グリッド086で交戦したシースパイダー。
その内部に存在していたコーラルから聞こえてきた、妙に人間臭い米兵のような声。
今回も同じだった。
アイスワームの主動力として利用されているコーラルから、明確な言葉が聞こえている。
もっとも、それを聞き取れるのはコーラル管理デバイスを体内に埋め込まれた第一世代から第六世代の強化人間など、ごく限られた存在だけだった。
【What? Prioritize defense?】
『行動パターンの変化を感じます。何か……より優先の……指令?』
エアがアイスワーム内部のコーラル反応を解析する。
先ほどまで621たちを排除するために暴れ回っていた動きが、明らかに変化していた。
何か別の命令。
それも、今ここでの戦闘より優先度の高い指令が与えられたらしい。
【Ugh……! This is the worst!】
コーラルから聞こえてくる声が、露骨に不満を漏らす。
直後。
アイスワームが大きく身体を捻った。
621たちへ向いていた巨体が別方向へ旋回する。
《……行き先が変わった?》
621には、その方角に心当たりがあった。
ウォッチポイント・アルファ。
その地下。
大量のコーラルが集積している場所。
アイスワームは元々、その集積コーラルを防衛するために存在する兵器だ。
【F*+king idiot!!】
悪態と共に、アイスワームが地中へ潜る。
巨大な身体が大地を抉り、そのままバートラム旧宇宙港から離れていった。
「あ……ちょちょ、ちょっと!? どこ行くの? ちょっと待ってよ~!?」
置いていかれたステラが慌てる。
そして、何を思ったのか。
デストロイもアイスワームの後を追い始めた。
《……え?》
「……追い掛けていった?」
ラスティも困惑する。
先ほどまであれほど激しく攻撃していたにもかかわらず、デストロイは621たちに見向きもしない。
ただアイスワームを追って、そのまま旧宇宙港から離脱していく。
やがて二つの巨大反応がレーダーから遠ざかっていった。
それを確認した瞬間。
通信回線から日本兵たちの歓声が響き渡る。
『敵は撤退を始めたぞ! 区画は我々のものだ!』
『尻尾巻いて、帰れ~!』
【Ugh, I just can't take it anymore】
遠ざかっていくアイスワームから最後の愚痴が聞こえる。
しかし621は、もうその口の悪さを気にする余裕もなかった。
《ハァーッ……アレは流石に死ぬかと思った》
loader4の操縦席で、大きく息を吐く。
アイスワームだけなら、前の周回の経験を利用してやり過ごせた。
だが今回は、デストロイまで同時に出現した。
逃げ場を潰され、多方向から攻撃を受け続ける状況は、流石の621にも堪えたらしい。
『集積コーラルの……防衛? ……それにしても、なんて口の悪い』
エアも困惑していた。
アイスワームが向かった目的は理解できる。
だが、内部から聞こえてくる英語の悪態については、どう反応すればよいのか分からない。
その頃。
ウォルターもまた、今回の事態を重く受け止めていた。
『封鎖機構が……技研の遺産を抱えていたとはな。それに、あのデストロイという機体も何かしらの対策を練らなければ。……621、戻って休め』
《今回ばかりそうさせてもらうよ、ウォルター》
621は素直に答えた。
弾薬。
機体損傷。
そして何より精神的な疲労。
これ以上の連戦は避けた方がいい。
『その間に俺は、アレらを片付ける算段を立てる』
ウォルターの声は冷静だった。
だが、その裏では既に次の作戦が組み立てられ始めている。
IA-02──アイスワーム。
そして。
GFAS-X1──デストロイ。
どちらも通常のAC戦力だけで正面から撃破するには、あまりにも危険な存在だった。
621とラスティは戦場を離脱する。
こうしてバートラム旧宇宙港急襲作戦そのものは終了した。
しかし。
アイスワームとデストロイという二つの巨大な脅威が現れたことで、ルビコンを巡る戦いは新たな局面へと突入しようとしていた。
◆◇◆
バートラム旧宇宙港で発生した異常事態は、瞬く間にルビコン各勢力へ知れ渡った。
IA-02──アイスワーム。
そして、封鎖機構の新型として認識されているGFAS-X1──デストロイ。
二体の超大型兵器が旧宇宙港を蹂躙し、その後、揃って氷原地帯へ移動した。
もはや一企業だけで無視できる規模の脅威ではない。
アーキバスでも直ちに対策会議が開かれ、ヴェスパー隊の主要メンバーが集められていた。
「……では皆さん、バートラム旧宇宙港にて現れ荒らしに荒らし回ってある氷原地帯に撤退した技研兵器と封鎖機構の新型の会議を行います」
会議を主導するのはヴェスパーⅡ──スネイル。
正面の大型ディスプレイへ、二体の巨大兵器が映し出される。
一つは地中を自在に移動するアイスワーム。
もう一つは、ラスティが記録した黒い巨大兵器──デストロイだった。
「今回の内容は言うまでもなく技研兵器と封鎖機構の新型を破壊する算段をつけることにあります。ヴェスパー第四隊長ラスティが交戦したデータでは黒い機体は超大型で多彩な火器を搭載されていることが判明されています。そして技研兵器はその巨体の割にすばしっこく強固なシールドが二重に貼られているを観測されました」
デストロイについては、未だ情報が少ない。
確認されているだけでも、長射程大出力ビーム砲、多数のミサイル、さらには本体から分離して独立行動する両腕型のビーム兵器まで使用している。
対してアイスワームは、火力以前の問題だった。
巨体。
速度。
地中潜航能力。
そして通常攻撃をほぼ完全に無効化する強固な防御。
どちらも通常のAC部隊で正面から挑むには、あまりにも厄介な相手である。
「技研兵器か……。無人機だと退屈な相手だな」
ヴェスパーⅠ──フロイトが、どこかつまらなそうに呟いた。
映像を少し見ただけで、アイスワームの動きに人間らしい癖がないことを見抜いたらしい。
そしてデストロイについても、興味の向く方向は他の者たちとは違っていた。
「ラスティから聞いたがあの黒い機体、パイロットが幼い奴が乗っているんだろ? つまらない相手になりそうだ。俺はパスだ」
兵器の性能そのものより、それを操る相手との戦いを求める。
いかにもフロイトらしい反応だった。
すると、会議へ同席していたラウが静かに口を開く。
「残念だが、そうはいかないそうだぞフロイト。それに、君にとって退屈せずに済みそうな相手と一時手を組む形で休戦するようだ」
「休戦……? 手を組む相手は誰だ?」
先ほどまで退屈そうだったフロイトの目に、僅かな興味が戻る。
その反応を見て、スネイルは淡々と告げた。
「足立重工とベイラムです。あと、駄犬の飼い主からRaDと呼ばれるドーザーとの協働です。もっとも、足立重工はともかくベイラムやドーザーなどは利用価値すらあるかどうか怪しい所ですがね」
「足立重工……となると、ガンダムか……!」
フロイトが反応したのは、ベイラムでもRaDでもなかった。
足立重工。
その名を聞いて真っ先に思い浮かべたのは、これまで何度も異常な戦闘能力を見せつけてきたガンダムだった。
フリーダム。
デスティニー。
ウイングゼロ。
そして、まだ戦場へ姿を見せていない機体も複数存在する。
フロイトにとっては、巨大兵器そのものよりも、そちらの方がよほど興味を惹かれるらしい。
そんな中、ヴェスパーⅥメーテルリンクがスネイルへ視線を向ける。
「スネイル隊長。足立重工とベイラム、RaDの三勢力と一時協力することは分かりました。問題はあの化物に対する有効な兵器の開発を行っているということでしょうか?」
「その通りです。あの黒い機体はともかく、あの地中に潜る化け物のシールドを無力化する威力を持った兵器は既に開発部門に打診済みです」
スネイルが端末を操作する。
ディスプレイからアイスワームの映像が消え、代わって一つの兵器設計図が表示された。
細長い砲身。
格納時には折り畳むことが可能な大型射撃兵装。
一般的なAC用火器とは明らかに異なる構造を持つ。
「VE-60SNA“スタンニードルランチャー”。これがあの技研兵器に対する切り札になります。二層目のシールドはベイラムは論外として、RaDか足立重工が作り上げるでしょう」
アイスワームの防御を正面から崩すために用意される、大型特殊兵装。
ただし、それだけで全てが解決するわけではない。
あの化け物は二重のシールドを有している。
一枚目を突破した後。
さらに残された防御をどう無力化するか。
そこは他勢力の技術力まで利用するつもりだった。
「なるほどね。スネイル君も中々に凄いものを思いついたものだね」
ヴェスパーⅤ──ホーキンスが感心したように声を上げる。
「はっ! 自分もそう思います、第五隊長殿」
そこへ即座に便乗したのはペイターだった。
元ヴェスパーⅧ。
そして現在は、空席となった地位を経て現ヴェスパーⅦでもある男。
相変わらず上位隊長への態度だけは妙に良い。
一方。
会議の内容を黙って聞いていたヴェスパーⅢ──オキーフは、全く別のことを考えていた。
(ここでタイミングを逃したらレイという男の本性を見抜けないままことが進んでしまう。接触を果たすなら今しかないか……)
足立レイ。
ガンダムを操り、足立重工の裏側に立つ存在。
そして何より──オキーフ自身が知る別の存在との関係。
今後、企業同士が一時的に手を組むのであれば、接触する機会は生まれる。
オールマインドと何らかの繋がりがあるのか。
それとも、全く別の目的を持った第三者なのか。
直接確かめるなら、今しかない。
オキーフは静かにそう判断していた。
ただし。
その僅かな表情の変化を、少し離れた場所に立つラウが見ていたことには気づかなかった。
◇
一方。
ルビコン解放戦線でも、旧宇宙港で確認された映像が共有されていた。
巨大ビームが大地そのものを削り取る。
ミサイルが降り注ぐ。
分離した両腕から無数のビームが放たれる。
さらに、その周囲を技研兵器アイスワームが暴れ回る。
「これが封鎖機構の新型……。何という破壊力だ」
ミドル・フラットウェルは、映像を見ながら険しい表情を浮かべていた。
その隣にいた解放戦線の同志も、同じ結論へ至っていた。
「帥叔フラットウェル。流石にこれはストライダーで対抗できるレベルではありません」
ストライダー。
解放戦線が保有していた超大型武装採掘艦。
だが、映像に映るデストロイの火力を前にすれば、その巨体ですら標的にしかならない。
「ああ。今回ばかりは我々は迂闊に手を出さずに氷原地帯に移動した新型が他の同志に攻撃する様子が無いか監視し、同志達に警告を促すんだ」
「はい。恐ろしいことになった……」
正面から挑むことはできない。
ならば今、最優先すべきなのは同志たちを守ること。
戦うのではなく、被害を出さないために動く。
フラットウェルはさらに命令を続ける。
「それと、足立重工に協力を得られないか打診してくれ。内容は新たな避難所の設営と増設だ」
「了解です」
足立重工は、これまでもルビコンの既存勢力とは異なる形で活動している。
その技術力と資材があれば、既存の避難施設を拡張し、新たな避難所を用意することも可能だろう。
デストロイがいつ再び動き出すのかは分からない。
アイスワームがどこから姿を現すのかも分からない。
だからこそ、戦闘以外の備えが必要だった。
少し離れた場所。
ドルマヤンと霞スミカもまた、状況を見守っていた。
「……さて、ドルマヤン。あの馬鹿はどう動くと思う?」
スミカが映像を見ながら問い掛ける。
ドルマヤンは暫く黙った後、低い声で答えた。
「分からん。だが、あの男は何かしらの行動は取る。レイヴンとCパルス変異波形エアと共に……」
足立レイ。
彼がコーラルの危険性を理解していることは、既に直接戦い、言葉を交わしたことで分かっている。
ならば、この異常事態を前に何もしないとは考えにくい。
ドルマヤンは静かに、レイたちが次に何を選ぶのかを見定めようとしていた。
◇
その頃。
ミレニアムでは、ウォルターが通信回線を通じてベイラムのミシガンと話していた。
議題は当然。
アイスワームとデストロイ。
二つの巨大兵器を、どう排除するか。
「……なるほど。アーキバスと一時手を組む形で妥協したということか」
『内容は今しばらく掛かるが、上層部の連中は強襲艦数隻をアーキバスに提供する形であの化け物退治の主導権はベイラムにと考えているらしい』
企業同士の競争。
そんなものに拘っている場合ではない。
少なくとも、目の前にある二体の脅威を排除するまでは。
とはいえ、ベイラム上層部としては共同作戦の中でも主導権を握りたいらしい。
いかにも企業らしい考えだった。
「足立重工に関しては?」
『その件は上層部の連中も迂闊に手が出せないでいるそうだ。下手にちょっかいをかけて仕返しされるのが怖いとみた。足立重工からは何か言ってきてないか?』
「アイスワームとデストロイの撃破作戦はどちらが主導であるかは任せるとのことだ。こちらからも戦力を回そう」
足立重工には、企業間の主導権争いへ付き合う理由がない。
排除すべきものを排除できれば、それでいい。
必要ならば戦力も出す。
それがレイたちの方針だった。
『RaDとか言う技術者集団だな? それから、貴様の猟犬たちだが……』
ミシガンが言い掛けたところで、ウォルターが僅かに声を強める。
「ミシガン……621達なら配慮は不要だ。あいつらの仕事は俺が保証する」
明確な言葉だった。
621。
そして、彼女と共に戦う者たち。
その能力について、ウォルターに迷いはない。
ミシガンもそれ以上は何も言わなかった。
こうして、互いに敵対する企業同士が一時的に手を取り合うための調整が進められていった。
◇
一方。
その話し合いとは別の場所で。
「オールマインドにあの三馬鹿とザムザザー、ゲルズゲーのデータを抜かれた時はマジかと思ったさ。だけど、流石にデストロイガンダムのデータを完全再現してくるなんて誰が予想できるってんだ……」
レイは頭を抱えていた。
目の前のディスプレイには、621から送られてきたデストロイの戦闘映像が繰り返し再生されている。
巨大なビーム砲。
大量のミサイル。
分離式のシュトゥルムファウスト。
どう見ても、知っているデストロイガンダムそのものだった。
多少の違いならまだ理解できる。
だが、ここまで完全に再現されるとは思っていなかった。
《レイ、大丈夫……?》
隣にいた617が、心配そうにレイを見つめる。
「大丈夫じゃない、大問題だ。ともかく、例のプロジェクトの繰り上げとP.D.世界で禁忌と言わしめたあの兵器+デスティニー用の専用シルエットの製造を本国に送信しないと……!」
《ん……また危ないもの?》
「今回は相手が相手だからな。出し惜しみしてる場合じゃない」
レイはすぐさま通信端末へ向かった。
デストロイ。
アイスワーム。
疑似太陽炉搭載機。
そして裏で動いている存在。
戦況は、これまで以上の速度で悪化している。
ならばこちらも、予定を前倒しするしかない。
レイは日本帝国本国へ通信を接続し、製造要請を送信する。
ひとつは、既に進行している例のプロジェクトの繰り上げ。
そしてもうひとつ。
ポスト・ディザスタ──―鉄血のオルフェンズの世界において、禁忌とまで言われた兵器。
加えて、デスティニーガンダムのために用意される専用シルエット。
どれも本来なら、そう簡単に持ち出すような代物ではない。
だが。
「……最悪の場合は、俺も出るしかないか」
レイはデストロイの映像を睨む。
ルビコンに現れた二体の巨大兵器。
その存在によって。
アーキバス。
ベイラム。
RaD。
足立重工。
さらには解放戦線まで。
それぞれ異なる思惑を抱えていた勢力が、否応なく同じ脅威へ視線を向け始めていた。
企業同士の争いさえ、一時的に止めざるを得ないほどの脅威。
アイスワームとデストロイ。
二体を討つための大規模共同戦線が、静かに形を取り始めていた。