Shadowrun Anarchyの小説風リプレイ二作目です。
 世界観などは大体シャドウラン5版と同じです。
 今回遊んだのは公式シナリオ『PUYALLUP PROBLEMS』です。
 ネタバレを気になさる方は読まないほうがいいかと思います。

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ピュアラップの問題

 207X年、シアトルの空は、火山灰とスモッグにより、重く淀んだ灰色の雲に覆われていた。

 ピュアラップのスラム街に足を踏み入れると、廃墟のようなビル群が牙を剥く。

 かつての繁華街は今や、崩れたコンクリートとネオンライトの残骸が絡みつくゴミ溜めだ。

 昼下がり。

 ヤスケは、そんな路地裏の寿司店『パープル・稲荷』のカウンター脇に、先輩のトシオと共に肩を落として座っていた。 

 オークの体躯に似合わぬ貧相なシルエットで、黒いアーマージャケットを羽織り、腰には古びたアレス・プレデターを差している。

 ヤスケは、ヤクザである絢爛会に拾われたが、まだ正式に絢爛会の一員ではない。

 ただのヤクザの使い走り、最底辺のチンピラだ。

 本名もヤスケじゃないが、チンピラの先輩のトシオをはじめ、誰も本名なんて呼んでくれない。

 だからといって、腹を立てる気にもならない。

 ヤスケが大きな欠伸をすると、店主である日本人のジジイが、寿司の仕込みをしながらぼやく。

 

 「今日も客がいねえな。ヤスケ、暇なら外のゴミ掃除でもしろよ」

 

 仮にも絢爛会から用心棒代わりに置かれた自分を、ただの従業員だとでも思っているのか。

 コムリンクに夢中になっている──この先輩は、女かギャンブルのことでいつもこの調子だ──トシオは顎をしゃくって、店主のジジイの言うとおりにしろとヤスケを促す。

 ヤスケが鼻を鳴らして、悪態のひとつでもつこうとしたその時――。

 二台の黒塗りのセダンが、路地を滑るように現れた。

 エンジンの低いうなりが、街の雑音を切り裂く。

 鏡面処理された窓がスライドし、アサルトライフルの銃口が突き出される。

 次の瞬間、銃声の嵐が爆発した。

 ガラスが砕け、木っ端微塵のカウンターが蜂の巣になる。

 弾丸の雨が店内を薙ぎ払い、棚の瓶が次々と割れ、寿司のネタが血のように飛び散る。

 空気が硝煙で濁り、耳鳴りがヤスケの頭を支配する。

 ヤスケは、危険を本能的に察知した。

 体が勝手に動く。

 カウンターの下に転がり込み、床に伏せる。

 心臓が喉元で暴れる。

 弾丸が頭上を掠め、破片が頰を切り裂く。

 隣のテーブルが蜂の巣になり、店主のジジイが悲鳴を上げながら店の奥へと逃げる。

 だが、隣にいた絢爛会の先輩、トシオは遅れた。

 一瞬の隙に、胸と肩を撃ち抜かれ、血の花を撒き散らして倒れる。

 

 「畜生っ……!」

 

 ヤスケは歯を食いしばる。

 トシオの体が痙攣し、血泡を吐きながら最後の息を漏らす。

 銃声が止むまで、ヤスケは息を殺した。

 車は満足げにアクセルを踏み、煙を残して去っていった。

 店内は硝煙と血の臭いが充満し、静寂が重くのしかかる。

 ヤスケは這い上がり、震える手でトシオの脈を探る。

 もう遅い。

 死んでいた。

 頭が真っ白になる。

 このままじゃ、絢爛会の親分から咎められる。

 ケジメはヤクザの掟だ。

 責任を取る――指を一本、切り落とす。

 いや、それ以上のことをされるかもしれない。

 怯えが背中を這う。

 ヤスケは外に飛び出し、路地を駆け回った。

 目撃者を捜す。

 

 「おい、見たか!? あの車、どこに行った!?」

 

 数少ない目撃者――ホームレスの爺さんが、指を差す。

 

 「今走ってったあの黒いセダンか。あっちの角を曲がっていったよ」

 

 急いで角まで走る。

 走って車に追いつけるわけではないが、焦りがヤスケを動かしていた。

 角を曲がると、黒いセダンの姿は消えていた。

 再び目撃者に車の行き先を尋ねようと、慌てて周囲を見渡したヤスケの目に、少々変わったものが飛び込んできた。

 赤いフード付きのジャケットを着た、小柄な影。

 年齢は十代前半くらいの少女だ。

 そんな少女が、道路から何かを拾い上げて、じっと観察している。

 

 「おい、ガキ。何してんだ」

 「……今通った車の、落し物」

 「なんだと。そいつを寄越せ」

 

 ヤスケはオークの巨体を活かし、低く唸るように凄む。

 威嚇のつもりだった。

 だが、少女は怯えもしない。

 むしろ、静かな視線をヤスケに向けるだけ。

 素直に、手を差し出す。

 

 「はい、どうぞ」

 「お、おう……」

 

 少女の素直な態度に、拍子抜けするヤスケ。

 気を取り直して、受け取ったものを観察する。

 何かのバッジなのはわかるが、素性が一切わからない。

 

 「なんだよ、これ……」

 「そのバッジは、マフィアのジアネッリ・ファミリーのもの。少し古いものみたいだけど」

 

 眉をひそめるヤスケに、少女はフードを少しずらすと、淡々と告げる。

 驚愕がヤスケの喉を塞ぐ。

 ジアネッリ?

 ピュアラップのイタリアンマフィア。

 同じくピュアラップに縄張りを持つ絢爛会とは犬猿の仲だ。

 このバッジが本物なら――抗争の火種。

 ヤスケの手が震えた。

 

 「あ、おい!」 

 

 ヤスケが我に返ると、少女はそれ以上何も言わず、赤いフードを被り直し、路地の闇に溶け込むように去っていった。

 

 

 トシオの遺体を預けると、ヤスケはバイクに跨がり、エンジンを唸らせる。

 絢爛会の事務所へ急ぐ。

 風が顔を叩くが、心は乱れる。

 このバッジを親分に渡せば、功績になるか?

 それとも、寿司屋が襲われたことと、トシオが死んだことの責任を取らされる?

 いや、まずは報告だ。

 だが、道中、異様な光景が目に入った。

 青く塗られたバイクの群れが、街路を疾走している。

 数台のハーレーダビッドソン・スコーピオン。

 手にはSMGやカタナを振りかざし、ヘルメットの下から獰猛な叫びが毀れている。

 ブルードラゴンだ。

 絢爛会直属のゴーギャング。

 ヤスケの胸に安堵が広がる。

 きっと、『パープル・稲荷』への襲撃を知った親分が、報復を命じたんだ。

 俺の報告はもういらねえ。

 いや、むしろ――彼らの後を追えば、味方として加わって失態を誤魔化せる。

 ヤスケはアクセルを捻り、群れに食らいつく。

 バイクのエンジンが咆哮を上げ、シアトルの路面を切り裂く。

 ブルードラゴンは、マクミリンへと向かっている。

 恐らく目的地は、ジアネッリ・ファミリーのエンゾ・ジアネッリが愛する店、Sunny Salvo's。

 機械の動物がいる遊園地のような、イタリアン・ピザ屋だ。

 復讐の標的として完璧だ。

 やがて店前にバイクが殺到する。

 エンジンの轟音が静かな通りを震わせ、ブルードラゴンたちが飛び降りる。

 リーダーのような大柄のトロールが、カタナを抜き放ち、咆哮を上げる。

 

 「Sunny Salvo'sを灰にしろ! ジアネッリの野郎に痛い目を見せてやる!」

 

 連中は一斉に銃撃を行う。

 ガラスの扉が蹴破られ、ピザの匂いが混じった硝煙が噴き出す。

 店内の客が悲鳴を上げ、テーブルがひっくり返る中、SMGの連射が始まる。

 壁に穴が開き、誰かの叫び声が響く。

 物陰から、ジアネッリの兵隊らしき男がショットガンを構え、応戦。

 スラッグ弾がブルードラゴンの一人を吹き飛ばし、血しぶきが壁を染める。

 だが、数で押され、男は全身に銃弾を浴びて膝をつく。

 ヤスケもプレデターを抜く。

 俺も加わるぜ――。

 影から飛び出し、ブルードラゴンたちに加わろうとする。

 だが、次の瞬間、銃声がヤスケに向けられた。

 青いヘルメットの男が、嘲るように引き金を引く。

 

 「余計なオークが! 邪魔だぜ!」

 

 弾丸がヤスケの肩をかすめ、血が噴き出す。

 熱い痛みが走り、アーマージャケットが裂ける。

 ヤスケは咄嗟に転がり、路地に身を隠す。

 

 「待て! 何だよ! 俺は絢爛会の――」

 

 叫びながら両手を上げるが、相手はSMGで射撃を続ける。

 弾がゴミ箱を穿ち、金属片が飛び散る。

 ヤスケの耳に、ヘルメットの男の笑い声が響く。

 

 「お前が絢爛会? ふざけんな、偽者だろ! 撃て! 撃ち殺せ!」

 

 銃弾と笑い声が降り注ぐ。

 ヤスケは路地を駆け抜け、廃墟の壁に飛びつく。

 足元に転がるゴミを蹴飛ばし、追手を撹乱。

 だが、背後からカタナの刃が唸る。

 振り向くと、刺青の入った人間のゴーギャングが迫る。

 ヤスケはオークの膂力を活かし、拳を叩き込む。

 顎に直撃し、男が吹き飛ぶが、次の弾が脇腹を抉る。

 血が滴り、視界が揺れる。

 息が荒く、肺が焼けるようだ。

 追手が迫る。

 くそ、何がどうなってるんだ?

 絶体絶命の路地で、赤い影が閃いた。

 あの少女だ。

 フードを被った小柄な体が、ヤスケの腕を掴み、廃墟の隙間に引きずり込む。

 

「静かに。息を潜めて」

 

 警告を発した後に、すぐさま少女が何かを呟く。

 不思議なことに、ヤスケを追いかけていたブルードラゴンが、二人が潜む廃墟ではなく、全く違う場所を探し始める。

 突然訪れた幸運に感謝し、ヤスケは壁に背を預け、荒い息を整える。

 肩の傷口から血が流れ、痛みが波のように襲う。

 少女の目が、路地を覗く。

 外では、ゴーギャングの銃声がまだ響いている。

 

 「もう大丈夫。それで、ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけど、いい?」

 「ああ…… なんだよ……」

 「今、襲撃に参加してるブルードラゴンの中に、一人でも見覚えある人いる?」

 

 ヤスケは額の汗を拭い、慎重に観察する。

 先ほどまでは、興奮で全く気付かなかった。

 青いバイクは本物に似せてるが――何かが違う。

 ブルードラゴンのマークが、微妙に違っていた。

 さらによく見ると、ブルードラゴンで知ってる顔が一人もいない。 

 

 「いや、誰も。……偽者か、あいつら!」

 

 小声で叫ぶヤスケ。

 少女は小さく頷き、呟く。

 

 「やはり、そういうことか」

 

 

 夜。

 シアトルの闇が深まる頃、絢爛会の幹部がよく立ち寄るバー『ドラゴン・ブレス』の前に、二台の黒いセダンが停まった。

 昼の寿司屋のときと全く同じ手口。

 エンジンが止まり、静寂が訪れる。

 鏡面処理された窓が開き、アサルトライフルの銃口が覗く。

 だが、敵の引き金が引かれる寸前――。

 空気が裂け、白熱の閃光が炸裂する。

 巨大な炎の槍が、一台の車を直撃。

 魔力で生み出された高熱が車体に吸いこまれ、膨張する。

 金属が悲鳴を上げ、フレームが歪み、次の瞬間、爆炎が夜空を染める。

 破片が飛び散り、周囲の路地を焦がす。

 炎が生み出す熱波が路面を炙り、黒煙が空に立ち上る。

 車内の男たちが、炎に包まれながら絶叫。

 残骸が転がり、タイヤが爆ぜる音が響く。

 残った一台の男たちが、慌ててドアを開ける。

 

 「何だ!? 魔法か!?」

 

 四人のチンピラが車から飛び出し、アサルトライフルを構える。

 先ほどの閃光が飛んで来た路地を見る。

 小柄な影が、そこに潜んでいた。

 リーダー格の人間が、汗だくの顔で叫ぶ。

 

 「囲め! 奴を仕留めろ!」

 

 彼らは散開し、路地の影を狙う。

 銃口が物陰を探るが、少女――レッドフード――は既に次の呪文を紡いでいる。

 掌に魔力が渦巻き、空気が歪む。

 物陰から、赤いフードの少女が姿を現す。

 掌に残る魔力の残滓が、微かに光る。

 

 「もう正体はバレてるよ、ディバイン・リベンジ・リングさん」

 

 ヤスケは影からそれを見ていた。

 心臓が再び暴れる。

 ディバイン・リベンジ・リング――韓国系の、犯罪組織の名前だ。

 絢爛会と根深い確執がある。

 奴らが、バッジを落として偽装工作か。

 寿司屋の襲撃も、Sunny Salvo'sの偽ゴーギャングも、全てディバインの策。

 絢爛会とジアネッリを争わせ、自分たちの敵を削ぐつもりだった。

 四人の男たちは、やけくそに少女に向かって突進する。

 リーダーがアサルトライフルをフルオートで連射。

 弾丸の雨が少女の周囲を穿ち、コンクリートを削る。

 少女は軽やかに身を翻し、呪文を放つ。

 

 「雷球(ボール・ライトニング)!」

 

 球状の電気が、弧を描いて飛ぶ。

 リーダーとさらに一人が直撃を受け、体中から煙を上げて倒れる。

 空気がオゾンの臭いで満ちる。

 もう一人はぎりぎりのところで電撃に耐えるが、転倒して這いずる。

 痛みに顔を歪め、拳銃を抜いて反撃。

 弾が少女のフードをかすめ、布地を焦がす。

 ヤスケは我慢できず、影から飛び出す。

 プレデターを両手で構え、転倒した男に狙いを定める。

 引き金を引く。

 

 バン!

 

 頭部に命中し、男の頭が爆ぜるように吹き飛ぶ。

 残り一人になった男がヤスケに気づき、振り向いてアサルトライフルを乱射。

 弾がヤスケの腹に当たり、アーマージャケットに食い込む。

 ヤスケは歯を食いしばり、転がって距離を取る。

 痛みが走るが、アドレナリンがそれを押し流す。

 

 「トシオの仇だ! 死ね! 死ね!」

 

 ヤスケはプレデターの残弾を叩き込むが、痛みのせいで狙いがブレて当たらない。

 一方で、少女は冷静だ。

 滑るように移動し、次の呪文を唱える。

 

 「炎槍(フレイミング・スピア)!」

 

 少女から放たれた炎の槍が、アサルトライフルを構えていた男の胸を貫き、肉を焦がす。

 最後の一人は悲鳴を上げて倒れた。

 戦いが終わる。

 炎上する車の残骸が、赤く揺らめく。

 雷球で倒した生き残りの男二人――ディバインのチンピラ――を、少女がヤスケに突き出す。

 男たちは強力な電圧によるショック状態で、息も絶え絶えだ。

 

 「この二人を絢爛会とジアネッリ・ファミリーに引き渡せばいい。それで抗争は起きないはず」

 

 でっち上げだと疑われないよう、わざわざ次の襲撃を待ったのだから、と少女は告げた。

 ヤスケは男の襟を掴み、息を吐く。

 体中が痛みで震えるが、勝利の余韻がそれを上回る。

 

 「お前……何者だよ。本当にガキか?」

 

 少女はフードを外し、微笑む。

 小柄な体躯に、二つに分けて編んだ茶色の髪。

 しかしその瞳と表情は完全に大人のものだった。

 

 「これ以上成長しないの。見た目は子供みたいだけど、既に十分な大人」

 

 何かときな臭いピュアラップに、新たな抗争が起きるのを恐れた住人に雇われたシャドウランナーだと正体を明かした。

 

 「名前(ストリートネーム)は、"レッドフード"。覚えておきなさい、ヤスケ」

 

 ヤスケの目が見開かれる。

 どうして俺の名前を――?

 だが、少女はもう振り向かず、フードを被り直すと、夜の闇に溶けていく。

 ヤスケは男二人を、ひとまず『ドラゴン・ブレス』の中に運ぶ。

 震えは止まらないが、今度は恐怖じゃない、興奮だ。

 親分への報告に、この捕虜を加えれば――俺は、絢爛会の正式な一員になれるかも知れん。

 




 今回はNPC視点から書いてみようと試みたところ、なんか依頼人とか背景がよくわからないままになったなあという感じが。
 シナリオに依頼人が誰かはっきりと書いてあるんですが、話は寿司屋襲撃から始まるし、だからと言ってシャドウランナーが依頼人のことを話すのもおかしいなということでこうなりました。
 (なお依頼人は、エルフの私立探偵、ジミー・キンケイドです。)
 前作の「アサシンズグリード」も、なんでジョンソンがプールサイドでくつろいでるんだろうと読み返して思いましたが、そこもまたシナリオに書かれている通りに遊んだ結果だったり……。
 まあ遊んだ時は楽しかったし、それもまた良しということで。

※おまけのキャラステータス
■レッドフード
種族:ヒューマン
覚醒者
■能力値
筋力:2
敏捷:2
意志:7
論理:6
魅力:3
エッジ:3
■気質
・冷静に見る、慎重に動く
・敵も味方も、見た目で油断させる
・クリッターに執着する
・敵を追い込み、狩りを楽しむ
■技能
魔術(専門化:呪文行使):5
召霊術(専門化:放逐):5
■シャドウアンプ
雷球/ボール・ライトニング(呪文)
炎槍/フレイミング・スピア(呪文)
混沌界/ケイオティックワールド(呪文)
ネオテニー
■素質
戦闘魔術師
卓越した能力値【意志】
独特のスタイル:赤いフード
■装備
ステアーTMP
スタンバトン
アーマージャケット
■ギア
偽造SINと偽造免許(魔法)
コムリンク(ヘルメス・アイコン)
眼鏡(画像リンク、熱映像、拡大視覚)
マジカルロッジの材料
■コンタクト
イニャンガ(人間の魔法使い、ウィッチドクター)
ヤスケ(オークギャンガー、絢爛会)

レッドフード「コンセプトは『わからせるメスガキ』です。ざぁ~こ♥ ざぁ~こ♥ 会社のCEOがドラゴン♥」

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