ーーマチカネタンホイザ視点ーー
レースが終わって、観客の歓声が遠くへ消えていく。
京都レース場の一角――表彰式を終えたウマ娘たちがライブ前に待機する控室。
その中にはまだ熱気が残っていた。
マチカネタンホイザはトロフィーを胸に抱きしめたまま、ぼんやりと立ち尽くしていた。
その肩が、少しだけ震えている。
「……獲った、んだ……ほんとに、獲っちゃったんだ……私」
ぽつりと零れる声。
その響きが、自分の耳にも信じられないように聞こえていた。
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「おめでとうございます、タンホイザさん」
背後から静かな声。
驚いて振り向けば、そこにミホノブルボンがいた。
レース後だというのに、彼女の姿勢は崩れていない。
だけど、その瞳には確かに“悔しさ”と“敬意”が同居していた。
「タンホイザさんの走り、完璧でした。制御不能なほど、感情が溢れてしまいました」
「ブルボンさん……でも、私、まだまだで……あの最後の直線、脚がもつれそうで……!」
「それでも、勝ち切った。それは“偶然”ではありません」
ブルボンの言葉は機械的ではなく、どこか温かかった。
その目は、ほんの少し柔らかく細められている。
「……あの時、私は以前よりも速さが上がり、最高出力でした。けれど、貴女の努力の……いえ、“普通”の積み重ねが、私を超えたのです」
タンホイザの胸が熱くなる。
ブルボンの言葉が真っすぐに心に刺さった。
「ありがとうございますっ……! 実はブルボンさんに声をかけてもらってから、より頑張ろう〜!って思ってですね!」
「ふふ、それは光栄です」
ブルボンは微かに笑い、静かに背を向けた。
「それでは、またライブ場でお会いしましょう」
そのまま自分の控室に戻っていった。
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「……ブルボンさん、やっぱりカッコいいなぁ」
「うん……私も負けてられないよ」
がちゃりと静かにドアが開き、今度は柔らかな声。
ライスシャワーがタオルで汗を拭きながら近づいてくる。
「タンホイザさん、すごかった……あんな脚、初めて見た」
「ライスさんも、あのコーナーの抜け方、ぎゅーんって
すごかったですよ!」
「えへへ……あ、ありがとう。でも……やっぱり悔しい。あともう少しで届きそうだったのにな……」
ライスは微笑んで言ったが、目の奥には燃えるような情熱があった。
その小さな身体のどこに、あれほどの力が宿っているのか。
タンホイザは改めてその強さを感じていた。
「……次は、勝つよ。タンホイザさん」
「はいっ……次も、全力で受けて立ちますっ!」
二人の笑顔が交差した。
戦いの後とは思えないほど、穏やかで温かい笑みだった。
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「おっすー、と……やっぱり長距離は疲れるわ~〜」
ライスシャワーが出ていってから数分後、控室のドアが勢いよく開いて、ナイスネイチャが入ってくる。
どこか誇らしげな顔をしていた。
「おなじみの三着……ま、悪くないよね? ほら、私らしいっていうかさ」
「ネイチャ、しれっと入ってたね」
「いやいや〜、表彰台ですよ! こう見えて最後、キラキラ勢相手に全力で差しに行ったんだけどねー」
「ふふっ、やっぱりネイチャがいると楽しいですな〜」
「でしょ? まぁ、次は私がキラキラする番かもね~……なーんてねっ!あははは」
そんなやり取りが、まるで日常に戻ったよう。
そのままナイスネイチャも自分の控え室に戻っていった後、
タンホイザはドアの向こうにいるだろう人物に思いを馳せる。
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ドアを少しだけ開く。
通路の奥に、多くの人影が見える。
タンホイザのトレーナーと取材陣、そして――観客さんを囲む記者の群れ。
タンホイザの視線が自然とそちらへ向かう。
あの人は、今日も見てくれていた。
サブトレーナーとなっていたことには驚いたけれど、それよりも嬉しさが心の奥から広がっていったのを覚えている。
――私のために動いてくれた人。
――私の“普通”を信じてくれた人。
胸の奥が、静かに熱くなる。
トレーナーが悪かったわけではない。
むしろトレーナーは、どうやって勝てるのかをチームの皆と一緒に考え、私の強みを引き出しながら強化してくれた。
ただ、私が自分を信じられなかったばかりに、あらゆることを試しすぎて自分がわからなくなってしまった。
チームの皆や他のウマ娘の動きをメモして、あれもこれもと取り入れていくうちに、自分を見失ってしまった。
“普通では駄目だ。もっと強くなりたい。”
そういつしか感じてしまい、全てを実践しているうちに何をしても空回りしてしまうようになった。
トレーナーからは「少しレースに参加せず、自分と向き合ってみてほしい」と言われ、
徐々に模擬レースやGⅠ以下のレースへの出場回数を減らしていき、
“GⅠで5着以内に入る”というメイクデビュー後に決めたた年内目標を果たせなかった。
あの時はどれだけ頑張っても結果が出なくて、見限られちゃったのかなと思ってしまった。
メイクデビューでは一番人気をもらい、1位になったことによる『もしかしたら私だって……』という自信と期待が崩れていくのに、時間はかからなかった。
観客の人たちには「中々勝てない」とがっかりさせてしまった。
“年明け後なら、何か変わるかもしれない。”
そんな淡い期待を抱いて、出られるレースは模擬問わず全て参加した。
でも――やっぱり5位以下になってしまう。
ーーもう駄目なんだ。運がたまたま良くてメイクデビューで1位になれただけだったんだ。
ーートレーナーには悪いことをしたな。普通の私なんかに期待させてしまって……
最後にいい順位を獲れたら私は……と考えていた時に出会えたのが――
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『やっぱり普通の私じゃダメなのかなって、ちょっと思っちゃいました……えへへ。』
『……そんなこと、ないと思うけどな。』
その言葉だけで救われた。
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『行けぇぇぇっ!』
あの人の声が聞こえた。
ほんの少しだけ話しただけなのに、受け入れられた気がして。
『見てたよ。すごかった。』
結果は……二着。
けれど、ほんの僅かな差だった。
結果が出た瞬間、私は笑っていた。
不思議と悔しさはなかった。
……ただ、胸の奥がとてもあたたかかった。
前を向けた。
“普通のままでいいんだ”って言ってくれた。
“お前の普通は特別だ”って言ってくれた。
言葉に出来ないけれど、それが何かはもうわかっていた。
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「……観客さん、見てましたか?」
誰にも聞こえないように、小さく呟く。
その瞬間、人混み越しに視線が重なった。
揉みくちゃにされながら、彼が小さく手を振る。
そして、私にだけ聞こえるような口の動きで――
――お疲れさま、よく頑張った。
その言葉が、心の奥に真っすぐ届いた。
頬がほんのりと紅く染まり、トロフィーを抱きしめた腕に力がこもる。
「……貴方がくれた特別な時間だから……この喜びも、半分こ!です!」
喧騒の中で、彼女だけが静かに笑っていた。
短いお話でしたが、これにておしまいです。
時折あるお気に入り登録してた小説でキャラ達に付き合え……付き合え……!と応援してたらあっさり付き合ってしまい、何だか釈然としないまま長続きして見なくなってしまうことが多くてですね……。
多分私が付き合うまでの過程が好きなタイプの人間なので、甘酸っぱいまま2人の今後を想像出来るここまでとあえてさせて頂きました。
一応有マ記念でネイチャと「マチタンも来ました!私も混ぜてよ〜」って争いながらブルボンやライス達と接戦後、オリ主と意識し合って〜エンド……みたいのは考えてはいましたが、先程書いた考え方のせいでだれてクオリティ下がるのもな……という理由でこうなりましたが、以下がでしたでしょうか?
評価がほしい!というより自分の供給目的で書いたものなのでおかしな部分が多いかもですが、マチカネタンホイザ推しのトレーナーにも面白かったと思って貰えたら光栄です。
後半の観客さんは自分の考えを混ぜているので、マチタンの性格がわかるストーリーとはいえブルボンとライスにタンホイザもっと意識してほしかったのが前面に出ました。2人は好きだけど、ブルボンとライスの2人デートと遭遇したり……いや好きだけど推しと絡んでほしかった妄想も詰め込みました。
ちなみに1話の時点で9話まで書き上げていたので3話まで投稿した後、予約投稿にしてました。
こんな感じで書き上げてから投稿するタイプなのでまた何か思いついたら書き留めして終わったら放流します。
ではでは〜