「さて、ここからどうするか」
全体除去で流された盤面を見ながら
お互いに場に出ているカードはなし、手札は
後はお互いにそこそこ肥えだした墓地のカードたち。
それら全てを手早く確認し終え、重花が動く。
「黒赤含む3点で【墓場の大宴会】を発動! 自分の墓地のカードと同じ枚数だけデッキの上から公開し、その中から2枚を手札に加えることができる!」
重花の墓地にあるカードは合計8枚。
デッキからその枚数分のカードがテーブルに広げられ、その中から2枚が重花の手札に加えられる。
加えられたカードは【刀剣商のセールストーク】と【毒仕込みのレイピア】。
「確か【墓場の大宴会】で加えたカードは……」
「そう、この効果で加えたカードがターン終了時に手札に残っていた場合手札を全て捨てなければならない」
【墓場の大宴会】のデメリット効果。
ただ手札補充できるわけではない、癖のあるカード。
「だからこうしよう。チャージし黒含む2点、【刀剣商のセールストーク】を発動! 手札の魂魄武具カード、【毒仕込みのレイピア】を1枚捨てデッキから2枚ドローする!」
デメリット効果が付与されていた2枚を使い切り、新たにカードをドローする重花。
最終的な結果としては、手札の枚数は変わらず2枚のまま。
フィールドはがら空きであり、エネルギーも使い切ってしまっている。
しかしそんな状態でも、繫が重花への警戒を僅かにでも緩めることはない。
「ターンを貰います、ドロー!」
繫の注意は重花の墓地、いまや大量の武器が眠っているそこに向けられていた。
黒のカードは墓地利用に長けているものが多く、第二の手札と呼ばれる時すらある。
そんな領域にカードが貯めこまれている状況ゆえ、警戒を解くなどありえないというわけだ。
油断すれば墓地から蘇ったユニットたちに襲われるのは必定。
「黄のカードをチャージ、そして全エネルギー6点を抽出! 【神経質な憲兵】を2体召喚!」
だが繁が召喚したユニットたちにより、その状況が一変する。
【神経質な憲兵】
カードコスト:[黄][2]
カードタイプ:ユニット
世界:黄
種族:軍人
戦闘力:2000/生命力:4000
「正規の召喚以外を咎める軍人ユニットか」
「ええ、その通りです。彼らがフィールドにいる限りコストを支払わずに召喚されたユニットたちは効果を失い、ターン終了時に墓地へ送られます」
野放図なやり方は許さんと、気難しそうな軍人が眼鏡の位置を直している様子がイラストでは描かれている。
こちらも黄の世界のカードが得意とする、ルールを課す能力。
秩序をもたらす、あるいは独善的支配の発露。
「これで私はターン終了です」
ターンを重花へと渡しながら、繫は頭の中で次ターンの展開を予想していた。
重花の手札はドローして現在3枚、エネルギーフィールドには5点分のカード。
仮に重花がフィールドの【神経質な憲兵】を除去しようとした場合、方法はいくつか考えられる。
黒や赤の世界のカードにも全体除去を可能とするカードは複数あるが、それらはいずれも高コストなものばかり。
単体除去で取り除いても良いが、憲兵は2体いるためエネルギーも手札消費も軽くはない。
ならば憲兵はこの際無視して展開するという流れになれば、それは繫にとって渡りに船。
緑と黄の組み合わせはユニットの展開に長けており、盤面勝負ならばデッキパワーでこちらに分がある。
次の自分のターン手札にあるこのカード、
この重花のターン、このターンさえ凌げればそれが叶うのだ。
「自分のエネルギーフィールドに黒のカードがあり相手のエネルギーフィールドに黄のカードがある場合、このカードは本来のコストの代わりに
重花がテキストを読み上げた瞬間、それまでの展開予想がいかに自身の希望的観測に基づいたものだったのかを繫は自覚した。
その代用コストを持つ、この場の状況に適した1枚を繫は知っている。
本来は黒3点を含む7コストの大型サポートカード、それは──
「SPを10000点支払い【贄となる勢力】を発動! 相手ユニットを全て墓地に送り、その後自分の墓地のユニットを全てフィールドへ戻す!」
経津 重花
SP20000→SP10000
繫のユニットたちを生贄に、重花の墓地から何枚ものカードがフィールドに溢れ出す。
一転して今度は繫の圧倒的な窮地となった。
合計5体のユニットが重花の下に現れ、しかもエネルギーはまだ未使用。
幸いフィールドにいるユニットは全て魂魄武具、一部を除きこれらのカードは召喚コストとは別に装着コストを支払う必要がある。
装着先のユニットを召喚し、さらに装着コストを支払わなければその真価を発揮することはできない。
そう考えた繁だったが重花の手札、そしてエネルギーフィールドの枚数を見てその思考が止まる。
未使用のエネルギーが5点分あり、重花はこのターンまだチャージをしていない。
2枚ある手札のうち1枚チャージ、そして残った1枚。
「まさか、既に手札に」
「手札からカードをチャージ。では、期待に応えるとしよう」
これから繰り出されようとしているカードを、繫は知っている。
彼女を、経津 重花を今の高みにまで押し上げたカードの1枚。
刃境と恐れられるプレイヤーの今や代名詞ともなっているカード。
「黒含む6点で【刃の如く】を発動! 自分がコントロールする魂魄武具は単体で攻撃と迎撃が可能になり、装着された状態で発動する効果も使用可能になる!」
使い手を必要としない、武具を振るうのは武具自身。
己はただ一振りの刃でありたい、そんな重花の勝負への姿勢を体現したかのようなカード。
【飢えた宝刀】
カードコスト:[黒]
カードタイプ:ユニット
世界:黒
種族:魂魄武具
戦闘力:0/生命力:1000
【熱波の短剣】
カードコスト:[赤]
カードタイプ:ユニット
世界:赤
種族:魂魄武具
戦闘力:1000/生命力:1000
【滴るデスサイズ】
カードコスト:[黒][黒][1]
カードタイプ:ユニット
世界:黒
種族:魂魄武具
戦闘力:3000/生命力:1000
【毒仕込みのレイピア】
カードコスト:[黒][2]
カードタイプ:ユニット
世界:黒
種族:魂魄武具
戦闘力:2000/生命力:2000
【稲光の脚甲】
カードコスト:[赤][赤][2]
カードタイプ:ユニット
世界:赤
種族:魂魄武具
戦闘力:3000/生命力:3000
先ほどデスサイズでデッキから墓地へ送ったカードも加わり、総勢5体のユニット。
ユニット1体1体のステータスは控えめだが、魂魄武具の真価は装着された際に発揮される能力。
それが5体も重花のフィールドに現れたのに対し、繫のフィールドはそれを阻むユニットが1体もいない状態ときている。
おまけに、バトルワールドのルールでは基本的に召喚されたユニットはそのターン行動できないが、いまの重花のユニットたちはそのルールに縛られることはない。
「では早速攻撃に移ろうか。【稲光の脚甲】がフィールドに存在するため、こちらのユニットは機敏が付与され攻撃が可能となっている」
【機敏】、召喚されたターンでも行動権が付与され攻撃や行動権を消費する効果が使用できる能力。
これによって重花のユニットは、このターン即座に攻撃することが可能となった。
「全ユニットで攻撃! さらにこの瞬間、【飢えた宝刀】と【熱波の短剣】の効果発動!」
多種多様な武具たちの真骨頂がいま、主の敵を滅ぼさんと披露される。
「【飢えた宝刀】の効果! SPを任意の数値支払い、その数値分宝刀の戦闘力をアップさせる! 9000支払うことで戦闘力9000アップ!!」
経津 重花
SP10000→SP1000
「【熱波の短剣】の効果! 全ユニットの戦闘力を1000アップ!」
【飢えた宝刀】
戦闘力:0/生命力:1000→戦闘力:9000/生命力:1000→戦闘力:10000/生命力:1000
【熱波の短剣】
戦闘力:1000/生命力:1000→戦闘力:2000/生命力:1000
【滴るデスサイズ】
戦闘力:3000/生命力:1000→戦闘力:4000/生命力:1000
【毒仕込みのレイピア】
戦闘力:2000/生命力:2000→戦闘力:3000/生命力:2000
【稲光の脚甲】
戦闘力:3000/生命力:3000→戦闘力:4000/生命力:3000
爆発的に攻撃性が増した凶器たちが繫を襲う。
合計戦闘力23000。
バトル中一度も削られることのなかった繫のSPが、1度の攻撃であっさりと吹き飛んでいく。
その事実を前にして繫は──
「完敗です、経津プロ。対戦ありがとうございました」
「対戦ありがとうございました。良きバトルだったよ、御園プロ」
静かに、己の敗北を受け入れたのだった。
バトルワールドの頂きで競い合うプレイヤーとのバトル。
その高みを重花が示す形で、勝負は幕を閉じた。
やり過ぎてしまったのかもしれない。
重花は繫と感想戦をしながら、内心先ほどの対戦の流れについて思い悩んでいた。
1度の攻撃で相手にとどめを刺す、いわゆる1ショットキル。
実戦で決めることは難しく、またそれ故に成立した時の反響は大きい。
それを成せるプレイヤーは誇りこそすれ、己を蔑む必要などはどこにもない。
しかし、1ショットキルをされた側はどう思うか。
現実として、相手にそれを許すほど己のプレイングは不甲斐ないものだったのかと悩む者は少なくない。
公式戦で1ショットキルを決められ引退したプロも過去にはいる。
せっかく出会えた、自分と同じだと感じたプレイヤーがバトルワールドを疎んでしまうのではないかと重花は気が気でなかった。
彼女のそんな内心を常日頃ランキングで競い合っている他のプロが知れば大層驚いたかもしれない。
骨も貪る凶獣、対戦相手を切れ味を確かめる巻き藁と思っている女などという評価を貰っている重花。
バトルワールドに魅入られた鬼の1人と見なされている、そんな重花がなんとか繁へ上手くフォローできないかと考えているそんな時であった。
「さて、ではリベンジさせていただきましょうか」
届いたのは、繁のそんな戦意に溢れた言葉。
それを聞き、理解し、重花は杞憂を恥じそんな増上慢な己を切り捨てたい衝動に駆られる。
誰かを推し量れるほどの器量が自分にあったのか?
そんな思いと同時に、目の前の繁とこうして対戦させてくれた巡り合わせに改めて重花は感謝した。
「楽しみだ。次はどんなバトルになるのか、胸が熱くなる」
一層繫への期待を膨らませ、思わず顔がほころぶ重花。
見る者が見れば、執着する獲物を前にした獣が牙を剝き出しにしている様子が幻視されるかもしれない。
「対戦よろしくお願いします」
宵の口、2人のバトルワールドプレイヤーの声が重なる。
口に出すことなく、この時両者の思いは完全に一致していた。
気の向くまま、精魂尽き果てるまで闘おう。
闘争心の赴くまま再びカードを繰り出す繫と重花。
まだまだ長い夜が、何も言わず2人を包んでいた。
その後、もとよりその気は無かったが遠慮容赦一切無用と重花が奮起。
全戦全勝という、プロ引退どころか人によっては自主的に人生終了してしまうような対戦結果を叩き出す結果となった。
既に対戦開始から数時間は経過し、対戦数は2桁に到達しようとしている。
深夜帯になり辺りが暗いなか、2人がいる空き家を改修した講習会場だけがぽつんと明かりを灯していた。
これまでの対戦全てで黒星を得てしまっている繫だが、そこに悲愴さや屈辱を感じている様子は見られない。
もちろん対戦内容を振り返り、自分のプレイングへの怒りや悔しさはある。
だがそれらの感情以上に、いま繫の心はあることで満たされていた。
それは重花という圧倒的強者と対戦できること、またその対戦で得られる知見に対する感謝であった。
本来なら試合を勝ち進み、成績を積み続けなければ対戦することが許されない相手。
そんな相手と対戦でき、感想戦にも付き合ってもらえるという状況に繫は一種の多幸感を感じていた。
確かに見方を変えれば、ランキング上位のバトルワールドプレイヤーとのマンツーマン指導とも言える。
生半可な報酬では叶わない、繫からすれば思わぬ幸運が舞い込んできたと言えるのかもしれない。
何度も渾身のプレイングを正面から叩き潰され敗北するという、過去重花に弟子入りを希望し去っていった者たちが味わった挫折を繁が感じていなければだが。
「では次の対戦を」
繁がそう言ってデッキをシャッフルしようとした瞬間だった。
これまで淀みなく繰り返されたそれが意図せずもつれ、シャッフルに失敗した繫のデッキがテーブルに散らばる。
「おっとすみません、いや今頃になって緊張してしまったらしく」
手早くカードを回収し、何でもないように再びシャッフルをする繫。
重花はその様子を何も言わずに見ていた。
何も言わず、薄々感じていた今の繁の状態を把握した。
「さぁ、まだまだ夜は長いですからね。これから何十戦でも」
「すまない御園プロ、こちらもそうしたいのは山々なのだが生憎と時間が押してしまっていてね。名残惜しいし申し訳ないが、今回はこれでお開きということにして欲しい」
申し訳なさそうにしながら、少々強引に重花が繫の言葉に割って入る。
「そう、ですか……。分かりました、時間が押しているのなら仕方ありません」
重花の断りに僅かに間を置いて返答する繁。
いつもの繁ならば、こちらこそ付き合わせてしまい申し訳ありませんくらいは言うような状況。
そのような余裕がないほど今の繁は無自覚に消耗してしまっているのだと、重花は察していた。
会って数時間しか経っていないのに何を言っているのかと思われるかもしれないが、時にバトルワールドのプレイヤーによる相互理解は言葉を必要としない。
会話以上に対戦中のプレイングは雄弁に、駆け引きは饒舌に相手のことを教えてくれる時もある。
今回はより場数を踏んできた重花が、繫自身でも気付いていない疲弊を感じ取った形だ。
「今日は突然押しかけてしまってすまない。次からは事前連絡を努めよう」
「いえいえ、私としては貴重な対戦の機会をいただいて感謝しかないですよ」
席を立ち、対戦での健闘の証として握手する2人。
「こちらこそお礼を言いたい。久々に楽しいバトルができた、ありがとう繫プロ」
「はは、私とのバトルでそう思っていただけたのなら重畳。今回は全敗でしたが、次は」
喋っている途中で、繫の体がぐらりと揺れる。
言葉が途切れ倒れようとしている繁を、重花は咄嗟に胸に抱えた。
すぐに繫の様子を確認するが、呼吸はしており脈も正常。
おそらくバトルの連戦で無意識に張っていた気が限界を迎え、ついには気絶してしまったのだろう。
何時間も連続で対戦しその全てで敗北すればそうもなろうと、多くのバトルワールドプレイヤーが口を揃えて言うに違いない。
むしろ、最後までやり切り気絶で済んでいるだけ繫のタフさがおかしいのかもしれなかった。
「このままというわけにはいかんな。とりあえずそこのソファーに」
腕を繁の背と膝裏あたりにまわし、ひょいと抱きかかえる重花。
瘦せてはいるが長身の繫を軽々と運び、その足取りに一切の乱れはない。
そうしてソファーの前までたどり着いた重花だが、すぐには繫を下ろさずその顔をじっと見ている。
「……さっきの言葉、何て言おうとしていたんだ?」
『今回は全敗でしたが、次は』
続く言葉が何なのか、重花はとても気になっていた。
心の奥底から這って湧き出てくる、粘着質な感情。
無自覚な執着を、いま重花は真っ直ぐに繫へと向ける。
繫本人の口から、なるべく早く続きを聞きたい重花。
「このまま連れて帰るのも……」
意識を失っている相手にそれはまずいと、流石に重花も分かっている。
外に感じる数人の気配、おそらく繫の身を案じた商店街の人たちの前でそんな狼藉を働けばタダでは済まないだろう。
未練を断ち切るように小さく一息吐くと、そっと繫をソファーへと寝かせる。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、この後は競会への報告書作成などの退屈な仕事。
お楽しみの前借ゆえ致し方なしと、最後に繫へと別れを告げる重花。
「次も楽しいバトルにしよう。約束だぞ、繫」
やはりいた組合の人たちへ繫を介抱してもらうよう伝え、重花は商店街を後にする。
期待以上だった今回の調査、その成果を反芻すればこそ重花の足取りは軽い。
こうなれば繁へと依頼したイベントも
早速競会への手配をと、何やら根回しの予定を組み始める重花。
まだ彼女の頭の中にしか存在しない絵図。
現実のものとしてそれが結実するのはもう少し先。
7月、ある島での出来事。
それが繫の運命を大きく変える、あるいは立つべき舞台へと上がるためのファクター。
神ならぬ身の繁は何もしらず、今はただ夢の中。
重花を始めとした強者たちとの対戦を思いながら、今はただ眠りについている。
今やバトルワールドの対戦はデバイスを用いたものが主流であり、テーブルトップでの対戦は廃れつつあります。
年々バトルスペースから椅子や長机は減少し、ショップによっては全て撤廃してしまう店舗も存在します。
ただ、デバイスに処理を任せっぱなし故にルールや効果をしっかりと把握できていないプレイヤーも多く、最近はテーブルトップでのバトルも見直されている動きが見られます。
テーブルなどもはや不要。
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【刃の如く】
カードコスト:[黒][黒][黒][3]
カードタイプ:サポート
自身がコントロールしているユニットが魂魄武具のみなら、このカードは発動できる。
次の相手ターン終了時まで魂魄武具のユニットは攻撃と迎撃が可能になり、装着された状態で発動する効果を発動することができる。
このカードの効果が適用されたユニットは、次の相手ターン終了時に全て破壊される。
あの凄惨な戦場で、私はただの剣でありたかった。
涙を流さず心が軋まない、冷たい鉄の刃でありたかった。
今度こそ私は間違えない。
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・言わずと知れた経津プロの切り札
・自分で使うと分かるが切り時がめっちゃむずい、1体2体だけじゃ効率悪すぎるし
・やっぱ黒トリプルの6コストは重いって
・↑だよな、せめてコスト5にしてくれんか
・正直使ってる人が強いだけで初心者が使っても……ってカードだしな
・プロが使ってるカードあるある過ぎる
・不思議だよな、経津プロが使うと毎回ここしかないってタイミングで必ず使ってるし
・↑そりゃ日本で5番目にバトルワールド強い人だからな
・↑まあ見えてる世界違うよね
・ここカードのページなんだが、選手について語りたいならそっち行けや
・別によくね?
・↑いや上位ランカーは変なファン多いしそういうの来ると荒れるから
・このカードを繰り出す刃境様いいよね 巻き藁になってすっぱり斬られたい
・うわぁ