孤島で一夜明け、バトル・サンクチュアリ2日目の朝。
雲1つない快晴の空はどこまでも青く、昨日と同じく絶好の大会日和、いやバトル日和であった。
しかし島中を流れる空気は昨日までとはまるで異なっている。
参加者たちは皆知ってしまったのだ。
この島内各地に存在する試練官という名の現役プロたち。
その存在が、決してお手軽なポイント稼ぎシステムなどではないことを。
参加者が思い知らされたきっかけは、早朝に運営本部から全参加者のデバイスに通知された大会速報。
そこには1日目の各種大会結果などが掲載されていた。
その掲載内容、ある項目を読んだほとんどの参加者がその事実に思わず背筋を凍らせることになる。
【試練官 森林エリア担当(危険度1)】
挑戦者 24名
脱落者 14名
掲載された情報は僅か数行の数字。
だが参加者たちに与えた衝撃は決して少なくなかった。
挑戦者24名。
バトル・サンクチュアリの参加者は全240名であり、全体の実に1割が1人の試練官に挑戦したことになる。
最終日までの安全マージンがどの程度か分からない以上、初日から他参加者との差を広げておきたいという思惑は通知を見た者たちも理解できた。
だが、挑戦者の下にはっきりと表示された脱落者14名という数字。
挑戦者の半数以上を脱落させた、森林に潜む試練官。
残った多くの参加者はその詳細を知りたかったが、通知情報で把握できるのは大まかなものだけであった。
それ以上を得るには持ち点を消費し隠された情報のアンロックという手段も用意されていたが、このアンロックにかかるポイントが中々に多い。
貴重な持ち点を挑むかも分からない試練官の情報開示に充てようという者は現状おらず、よって現時点で分かっているのは、公開されているその試練官の顔と、初日に最も多くの脱落者を生み出したという情報のみ。
「……危険度1って何だったんだよ」
朝昼晩、特定の時間帯のみ参加者に解放されている食堂にて参加者の1人がスクランブルエッグをつつきながらぼやく。
大会規定により食堂内はバトル禁止に設定されており、この時ばかりは参加者たちも一息つくことができた。
「楽にポイント稼げるとは思ってなかったけどさ、いきなりこんな脱落させちゃう?」
「挑戦した奴らも、俺らも結局は甘く見てたってことなんじゃねえの? 現役プロが務める試練官ってやつを」
各校で無敵だ天才だともてはやされている参加者たちも、所詮アマチュアの学生に過ぎない。
バトルワールドにおいて雲上人であるプロと本来なら比較にすらならない身だが、その事実を見誤った場合の結果がこの脱落者たちなのだろう。
食堂内、他の参加者たちの間でも話題はほぼ全て試練官についてであった。
試練官毎に設定されている危険度を参加者の誰もが挑戦しやすさの指標として見ていた。
しかし蓋を開けてみれば、危険度1の試練官が最も多くの参加者を脱落させていたのである。
自分たちの認識は間違っていたのではないかと、2日目にして参加者たちは考え直す。
そうして試練官への挑戦に慎重になり、とりわけ現時点での最多脱落者を出させた試練官のいる森林へ向かう者は激減するわけで──
「森の中で飲むのも、また味わい深いものですねぇ」
森林エリアの中央。
複数本の巨大な樹木へまたがるように建てられたツリーハウス。
運営本部、競会が試練官用の住居として用意したそこで、
危険度1に設定された、森林エリア担当試練官。
それがバトル・サンクチュアリでの繫の肩書である。
危険度の低さ、競会未所属ゆえの知名度の無さが合わさり、初日は意気揚々と繫へと挑む参加者たちがいた。
しかし参加者たちの期待を裏切り、現状は大会速報の通りである。
結果、御園 繫は2日目にして暇を持て余していた。
「うーん、どうしてもひっきりなしな昨日と比べてしまいますね」
お茶を楽しんでいる繫の眼前、テーブルには香ばしい焼き菓子やみずみずしい果物。
どれも協賛企業が提供したものらしく、朝から繫の1日を優雅に彩ってくれている。
森の中だというのに不思議と繫の周囲に虫や小動物などは一切寄り付かず、風や木々の揺れる音だけが辺りに響く。
「まぁ、これはこれで悪くありません」
お茶を飲みながら満足気に笑う繁。
昨日だけで10人以上の学生たちの慟哭が木霊した場所とは思えないほど、そこには穏やかな時間が流れていた。
「……しかし、やはりバトルできないのは寂しいですね」
テーブルの上に広げられたお茶や菓子を一旦どけ、繫はバトルワールドのカードを広げる。
落ち着いた所作でカードを扱う繁だが、その姿はどこか遊びを我慢できぬ童子のようにも映った。
木々が発する音に、カードを捲り擦れる音が混じる。
森の奥から響くその音がどこか爪や牙を研ぐ様に聞こえるのは、あながち間違いではないのかもしれない。
多くの参加者が件の森林エリアを避ける中、そこを目指す者たちも極わずかにだが存在した。
「ユニット3体で攻撃!」
プレイヤーに攻撃が殺到し、1つの対戦が終わる。
「対戦ありがとうございました!」
お互い相手に礼をし、簡素ながら今のバトルの感想戦をした後に別れる。
当初は殺伐としたバトルが繰り広げられるのではと参加者の一部は恐れていたが、現状はいたって平和的に大部分のバトルは行なわれていた。
そこに険悪さはなく、青空の下のどかに大会は進行している。
「ふぅ、何とか勝てた……」
「お疲れさん。結構強かったな、いまの相手」
「正直デッキパワーの差で勝てた感じがするよ。初めて戦ったタイプのデッキだったけど、いや勉強になった」
流石全国のバトルワールドプレイヤーが集う大会だと2人して納得していると、もう1人の友人である
「透、お疲れ様。こっちは何とか勝てたけどそっちはどうだった?」
「ギリギリ、本ッ当にギリギリだったけど勝てた……。もう無我夢中で、感想戦でも対戦してた人に教えてもらうばっかで……」
「勝ちは勝ちだろ。始めて1ヶ月でこれなら大したもんだと思うが」
まだ余裕がある界斗に比べ、透は疲労が色濃く見えていた。
全力でのバトルによるプレイヤーへの負担は決して軽いものではなく、こればかりは他人がどうこうできるものではない。
「はい、ドローズバー。まずは失ったエネルギーを補充しないと」
「ほれゲインゼリーも飲んどけ」
「2人ともありがとー。ング、ンッ……。あ~、甘さが全身に行き渡る~」
透のその様子に界斗が笑う。
大会参加前、いきなり実戦に挑む友達を心配していた界斗。
だがそれが杞憂だったことに、思わず心中でほっとしていた。
「まだ2日目だけど、調子はどう?」
「うん、まだ緊張するけどいい感じ! 対戦してくれる人たちもみんな親切だし!」
昨日と今日で、既に透も数度のバトルを経験していた。
戦績は若干負け越しているが勝利も何度かもぎ取っており、界斗と鷹介からすれば友達の贔屓目無しに大した勝負勘と度胸だと密かに驚いている。
大会当日まで2人が付きっきりで練習相手になっていたとはいえ初の実戦、ましてや今大会は全国の猛者たちも多く参加しているのだ。
これは自分たちもうかうかしていられないと、本人の意図しないところでチームメイトたちの気を引き締めなおす透。
「しっかし、あの速報で尻込みしてると思ってたが意外とプレイヤーがいるもんだな」
「僕たちも試練官が
界斗たち一行がいる場所。
今大会である意味いま一番話題の森林エリアを、一行は時折出会う参加者とバトルしつつ進んでいた。
一面が木々や草花で覆われ、種類の分からぬ雑多な動物の鳴き声が辺りに響く。
既にこの森に入って暫く経つ。
デバイスが示す現在位置からして、そろそろ試練官がいるであろう森の中央に到達するはずなのだが。
「試練官一覧で御園プロの顔を見た時は驚いたけど、何だかこうしてみるとちょっと巡り合わせを感じるよ」
「早く再戦したいって顔に書いてあるぜ、界斗。まあ、あのおあずけならそうなる気持ちも……」
目の良さゆえに先頭を歩いていた鷹介が立ち止まる。
「鷹介くん、どうかした? 急に立ち止まって」
透にそう問われた鷹介が、無言である方向を指差す。
「あそこに何か」
何かあるのかと界斗と透が示された先を見て、思わず鷹介と同じく無言になる。
3人が見つめる先には、ツリーハウスと世間では呼ばれる樹上に建てられた住居。
ずいぶんと凝った造りのそこには、こちらへ笑顔で手を振る御園 繫の姿があった。
カードやらティーポットやらお菓子やらを掲げながら自分たちへ手を振る目的の人物を見て、思わずといった様子で3人ともが吹き出す。
多少は緊張していた一行を意図せず解きほぐしながら、本日初めての参加者として繫は界斗たちと再会を果たしたのであった。
「皆さんもこの大会に参加していたのですね。いや、これは嬉しいサプライズです」
界斗たち3人が近くまで来ると、繫は蛇のようにスルスルと地面へと下りてきた。
軽快な動きのはずなのにどこか粘着質さを感じてしまうのは何故だろうと一行が疑問に思っているなか、繁が再会を喜び声をかける。
両手には折り畳み式テーブルやポットやお菓子に果物を持ち、再会を祝してとりあえずお茶でもと準備を始めていた。
促されるまま席に着く3人だが、内心では足だけであの高さを下りてきたのかと目の前の繁を驚愕の目で見ている。
「まぁまずは一杯、大会2日目を迎えた皆さんに」
「い、いただきます」
わりとなすがままの3人だが、勧められたお茶を断るのは失礼だろうとごちそうになる。
「お、うまいな」
「本当、スッキリしていて美味しい」
「乙なものでしょう、森の中での一杯というのも」
参加者と試練官という立場なれど、殺伐とした空気はいまこの場には必要なかった。
「五色さん、改めてお祝いの言葉を送らせていただきます。大会に参加するまでになるとは」
「い、いえいえっ! そんな御園プロが思っているような成長なんて全然、自分でも何で参加できたのか分からないぐらいで!」
「いや、実際のところ透の成長は凄いよ。使ってるデッキも扱うのが難しいのに良く回ってるし」
「ああ、正直ここまで透がやるとは思ってなかった」
否定する透の言葉に、思わぬ友人2人の援護射撃が続く。
透本人からしてみたら半ば不意打ち染みていたが、界斗と鷹介のそれは偽らざる気持ちであった。
それが透にも伝わっているため、本人としてはどうにも照れ臭くいかなる作用か体が左右に揺れている。
「門地さんに炉井さんも、大会へのご参加おめでとうございます。あの衛征学園の中から選ばれるとは流石ですね」
「ありがとうございます、御園プロ。正直あの倍率で選ばれたのが最初は信じられないくらいでした」
「実力で負けてるとは思わねえが、俺も界斗も教師連中の覚えは良くねえからな。他の選ばれた奴らは皆そういう奴らだしよ」
界斗たちが所属する衛征学園からの参加者は全8名。
全国でもバトルワールドの実力がトップクラスの首都圏、更にその中でも上位陣の衛征学園ゆえの参加者数である。
その参加者8名のうち7名は競技科の生徒であり、透が選ばれた際にはひと悶着あった。
「で、大勢の生徒の前で透はいちゃもん付けてきたそいつを倒して黙らせたってわけですよ」
「なるほど。五色さんは既に立派なバトルワールドプレイヤーというわけですねぇ」
「あの、どうかもうその辺で勘弁してもらえませんか……」
過剰に持ち上げられすぎていると感じた透が、顔を伏せたまま蚊の鳴くような声で懇願する。
それから暫し、お茶や菓子を楽しみ談笑する時間が続いた。
今が大会の、バトルワールドを用いたサバイバル中であることを忘れさせるような時間が。
「そういえば皆さんは」
穏やかな、一種の弛緩した空気が流れているなか。
繁が3人の顔を、次いで辺りをゆっくりと眺めながら、ティーカップを静かに置いた。
「どなたから挑戦なさいますか? ご希望なら全員で挑戦することも可能ですよ?」
その言葉と共に繁がデバイスを構えた瞬間であった。
まず界斗たちの耳から、それまで辺りに響いていた動物たちの鳴き声が遠のいていく。
これは界斗たちの錯覚に非ず、実際に森中の鳴き声が潮が引くように静まり返っていったのだ。
木々の間を通り抜ける風もどこか生暖かく、僅かな日差しを喰らい影も濃くなっていくような。
これが試練官の、プロのプレッシャーなのかと強張る3人。
意図せず竦む体はまるで鎖で縛られているようであったが、その怯えは心中までには及んでいない。
その証として鎖を引きちぎるように強張る体を動かし、繫へ応える形で手が挙がる。
ピンと高く上げられた腕。
その当人を他2人が驚きの目で見ており、その驚愕には試練官である繫も加わる。
途端に周囲を漂っていたプレッシャーが薄れ、森が日常の営みを取り戻していく。
手を挙げた本人、五色 透は小刻みに体を震わせながらもその腕を下げる様子はない。
この場の誰よりも経験の浅い、言葉を選ばなければ未熟なプレイヤーが自ら挑む意思を見せた。
捉え方は違えどその事実に、繫の顔がほころぶ。
先ほどまでの闘争心が滲むような笑みではなく、とても尊いものを見つけたような表情で。
「素晴らしい……。五色さん、やはりあなたの胸には灯火が宿っている」
若きプレイヤーの勇気を眩しそうに称える繫。
挑戦者がその意思を示したのなら、試練官はただそれに応えるのみ。
「気概は示されました。さぁ、あなたが己の力量を試す試練はどれですか?」
デバイスより空中に浮かび上がる、繫が用意した試練。
その挑むべき試練たちを数秒じっと見つめ、ついに意を決した透が立ち上がった。
「決めました。わたしが挑戦するのは──」
遥かに強大なプレイヤーへ挑む。
それは、透が宣言を終える直前の出来事であった。
「ちょっと待った! そこの五色 透へバトルを申し込むぜっ!」
突如草むらから人影が飛び出してきたかと思えば、透の宣言に割り込む形でそう叫んだ。
音声認識により互いのデバイスは自動的に対戦モードへ移行し、透と闖入者のバトルが強制的に組まれる。
突然の出来事に透が固まっているなか、看過できぬ狼藉に界斗と鷹介が声を荒げた。
「いきなり出て来て何ですかあなた!」
「わざわざ割り込むような真似してどういうつもりだよ」
抗議する2人だったが、そんな反応など意に介さぬ様子で闖入者は笑う。
「おいおい、おれは何も大会のルールにゃ違反してないぜ? バトル・サンクチュアリでは参加者同士のバトルが何より優先される、参加者は申し込まれたバトルを拒否できない。このルールに則って、おれはそこの女とバトルするだけなんだからよ」
得意げにそう笑う、大会参加者であろう男子学生。
自身の目論見が上手くいったからか、聞かれたわけでもないのに彼はこの事態に至った経緯を語りだした。
「ここで張ってれば馬鹿な参加者が釣れると思ってたが、まさかこの大会に初心者が紛れてるなんてなあ! おれ本当のボーナスキャラ見つけちまったよ!」
心底愉快そうな男子学生に対し、友達が侮辱されている2人の目にみるみる剣吞な光が増していく。
「あまり対戦相手を貶める発言をするべきではありませんよ。程度が過ぎれば運営本部よりペナルティが」
「あーはいはいわかってます、すいませんでしたあっと。空気読まずにガチるような奴に言われたくねえっつの。プロが子供に本気出すとか恥っず」
あくまで今大会の主役は参加者たち学生のため、試練官としての立場で忠告する繫。
そんな繁をジェスチャーと共に鬱陶しそうに扱う男子学生へ、固まっていた透が反応する。
「バトルワールドに、身分や上下はないんじゃないですか?」
灯火が胸にあればと、あの時自分の背中を押してくれた言葉を透は思い出す。
バトルワールドの世界にプレイヤーとして歩みだすきっかけとなった一言。
「なに素人が知った風なこと言っちゃってんの? 雑魚が生意気なこと言うなよ、惨めだから。どうせ一緒にいる奴らに色目でも」
「そうやって強い言葉をいちいち使わないとバトルができないタイプ?」
「……は?」
反応は劇的であった。
「おまえ、おまえおまえおまえ! 雑魚のくせになに、そんな口きいて」
「やっぱりそうみたいですね。いつもそんな調子でバトルを?」
透の追撃に赤から赤黒くなりつつある相手の顔。
分かりやすく怒りを表している男子学生だが、怒りを深さで測ったのなら同じかそれ以上に透も静かに激していた。
そんな自分たち以上に怒っている彼女を見て級友2人は却って冷静になり、黙って事の成り行きを見守っている。
「少しは手加減してやろうと思ってたがやめだ。徹底的に潰してやるよ……!」
「対戦よろしくお願いします」
『Battle Start』
一方は感情的に、もう一方は努めて無感情に。
孤島各所で繰り広げられているであろうバトルの戦端がまた1つ、こうして開かれることとなった。
どことも知れぬ深く暗き一室。
バトルワールドの陰で蠢く結社、その最高幹部たる
「バトル・サンクチュアリか。もう少し生まれるのが遅かったのなら参加できたものを」
「庭師よ、若きご老体とお主を称した【耽溺】の言葉を我はいま思い出しているよ」
「はっはっは。正直庭師氏が生まれるのが遅ければ遅いだけ結社の規模は縮小していくな」
滅多なことでは全員揃わない十警蹕の面子。
今回も顔ぶれはまばらであり、思想集団の性質が色濃く出ていた。
「預言通り傀儡は正規の手順で大会に乗り込んだようだが……。あやつめ、初日の朝以降こちらへの連絡がないぞ」
「心配せずとも傀儡氏も座を預かる一角、手抜かりはないだろう。まあ、少々遊びすぎるきらいはあるが」
「そこは同意しよう。こちらとしては同志よりも、巫覡の一族の者が気がかりだが」
遠き孤島で開催されている若きプレイヤーたちについて話しながら、気にかけているのはある参加者についてであった。
結社の最終目標、異なる世界に存在する王の降臨。
その達成に必要不可欠な要素、ある特殊な一族の血を引く者がかの大会には参加している。
「例の一族か。しかし傀儡氏が接触する前に対象が大会失格になる可能性は低くないのでは? 聞くところによると、何でもまだバトルワールドを初めて数ヶ月だとか」
「【希求】よ、それは無用の心配だ。かつて異界にて結社、企業、競会のいがみ合う3勢力が結託してまで追い落とし、しかし終ぞ滅しきれなかった一族の血を引く者だぞ?」
「この前の仕込みで芽吹き、周囲によって今もすくすくと育っている。うまくいけば大会中に花開くかもしれん」
仮にもバトルワールド暗部の1大勢力である結社がここまで注目する人物。
それはあるイベントにて、自身に宿る灯火に気付いた者。
その名は──
「かつて全ての力を、
「対戦ありがとうございました」
「そんな、おれがこんな……。ありえねえ、こんな、こんな雑魚におれがッ!?」
予想に反し、ひと悶着の末の森でのバトルは五色 透が制することとなった。
といっても、その予想は男子学生だけの頭の中にあるものだったが。
「灯りが、俺のポイントがッ」
今回賭けたポイントが勝敗に応じ透に渡り、持ち点の大半を失った男子学生のペンダントの灯りは今や吹けば消えそうなほどになっている。
自身のペンダントと透のペンダントを意味もなく何度も見る様子は、いまだ現実を認められない心中が滲んでいた。
「イカサマだ、きっと何か汚ねえ手でも使ったんだ! じゃなきゃおれが負けるはず」
「ならもう一度バトルしますか? 今度はそちらの残り持ち点全てを賭けて」
「……あ、ああ、ああああぁああッッ!?」
耐えられないとばかりに悲鳴を上げた男子学生は、そのまま脇目も降らずにその場から去った。
とにかく、可能な限り離れたいとばかりに走って。
「……ふぅ」
そうして対戦相手が去った後、透が小さく息を吐いたかと思えば。
「こ、怖かった~~! 何度やってもああいう人とのバトルって苦手……」
「いや、その割には、なぁ……?」
「うん、どんどん様になってきてると思うけど」
透の従姉である自分たちの先輩が見れば喜びそうな、実に堂に入った言動であった。
「……それ、どーいう意味?」
友人2人の真意を問いただそうと透が迫る。
いやいやこれはバトルワールドプレイヤーとしての成長を祝してうんぬんかんぬんと、何とか煙に巻こうとする界斗と鷹介。
対戦が終わり、そこには友達とじゃれ合う学生としていたって普通の姿の透。
微笑ましい場面にしか見えない状況。
五色 透がこの大会で得る最も価値あるもの。
それは賞金でも、カードでもない。
自身のルーツ、流れる血の意味を彼女は知る。
だが当の本人はまだ何も知らない。
自らの血の宿命も、その血を巡り動き出した者たちも。
この孤島での戦いがやがて自身の運命そのものを大きく変えていくことさえも。
彼女はまだ、知る由もなかったのだ。
華やかなバトルワールドの世界にも後ろ暗い側面、いわゆる競会・企業・結社の3勢力による暗闘が存在します。
このうち組織的な行動力が最も乏しいのが結社ですが、それを補って余りあるほど他勢力に差をつけているのが情報アドバンテージ。
その最たるものが預言であり、他勢力の異界に関する行動はどこまでいっても結社の後追いに過ぎないものとなっています。
オレからすればまだ地味すぎるくらいだぜ! もっと世界に革命起こすとかよ!
(改訂レベル1以上を付与された職員のみ閲覧可能)
結社最高幹部【十警蹕】のメンバー呼称一覧
・玉座(暫定的なリーダー役? 結社の目指す異界の王降臨までの首領代行?)
・庭師(本名:剪拿 大樹。捕らえた場合の重要度大。可能な限り捕縛を推奨)
・詳細不明
・泡沫(最近加入が確認されたメンバー。比較的話が通じるため要交渉の必要)
・詳細不明
・耽溺(完全に独自の価値観で行動し、結社の不利益になることも躊躇わず実行する)
・希求(高レベルの適応化。単独で遭遇した際には逃走推奨)
・傀儡(ここ数年で代替わりを確認。接敵後は必ずメンタルケアを受けること)
・詳細不明
・詳細不明