バトル・サンクチュアリ5日目。
この日、
しかしその賑わいを彩るのは、3日目から続く参加者たちのお悩み相談の声などではない。
バトルワールドの対戦による激しい戦闘の効果音、それらが森林エリアを震わせているのだ。
「なんだこいつさっきから! 何回負けても対戦を仕掛けてくるっ!?」
「…………バトルだ」
無機質にバトルを繰り返す者、その様子に得体の知れない恐怖を感じる者。
いまや森林エリアのいたるところで同様の光景が繰り広げられていた。
その場にとどまっていれば勝敗に関わらずバトルを仕掛けてくる相手を不気味に感じ、多くの参加者が森から去っていく。
「何だ、近づけなくさせてんのか……?」
参加者の1人は森林エリアから去る自分を追ってこない相手を訝しげに一瞥する。
先ほどまでは機械的とさえ言えるほど無感情にバトルを仕掛けてきた相手が、今はその場を動かずただじっとこちらを見ているだけ。
いよいよ背筋が寒くなってきたその者は背後に注意しながら、森を走るペースを速めた。
このままここに残っていては何か恐ろしい企みに巻き込まれてしまうような、そのような直感が働いたから。
森林エリアはこうして、数時間経つ頃には木々のざわめきや生き物の鳴き声が響くのみとなった。
もし上空から一連の様子を見ていた者がいれば、突如バトルを無機質に繰り広げた者たちが森林エリアの中央を円で囲うように配置されていることに気付いたであろう。
まるでそこにある
この孤島の現状を加味するのなら、
バトル・サンクチュアリにおいて、生い茂る森を自身の領域とする者。
「これはこれは、皆さんようこそ森林エリアへ。チームを組んでいる方もいることは知っていましたが、周りを囲っている方々も含めだいぶ大所帯ですねぇ」
森林エリア試練官である御園 繫。
今朝からこの森で発生している異変、それに加えて自身が活動拠点としているこの中央部がぐるりと囲まれていることを繫は大まかながら把握していた。
目の前にはおよそ20人ほどの大会参加者たちが均等な間隔で並び、繁を無言で見つめている。
沈黙の中にこちらを探るような感情、敵意か好奇心を感じ取った繁。
それを試練官たる自分への、挑戦者が発露した気概だと繁は解釈した。
故にこの大会での本分を果たそうと、デッキをセットしたデバイスを構えながら声をかけたというわけだ。
「さぁ、どの試練に挑戦なさいますか? ご希望の方から、もちろん全員参加も可能ですよ」
繁の、試練官の問いに集団の中から1人が前に出て答える。
「参加は、全員だ……。全力で相手、しろ……」
「大変結構! これより始まるバトル、遠慮容赦一切無用と心得ます!」
『Battle Start』
双方のデバイスがプレイヤーの同意を認識し、バトル開始の宣言を発する。
こうして始まったバトルだがその中身は1対20という、如何にプロといえど尻込みしてしまうような人数の差。
全員が機械的にデバイスを構えている異様さも相俟ってある種のプレッシャーをも漂わせているが、繁の表情に困惑や怯えの色は見られない。
いま相手にしている参加者たちの様子がおかしいことはもちろん繁とて分かっているが、この男はバトルワールドでの対戦を相互理解の万能ツールだと過信している面があるのだ。
よってあれこれ問答するよりバトル、とにかくバトル、バトルは全てを解決する。
「判定により、先攻……。カードをチャージし、ターンエンド」
「同じく、カードをチャージしターンエンド」
「カードチャージし──」
その後も判を押した様に20人全員が同じ行動を取り、先攻側の参加者たちはチャージのみでこのターンを終える。
「ターンを貰います。私のターン、ドロー! エネルギーフィールドにチャージし、緑1点で【木の実拾い】を召喚!」
対して後攻の繫は緑の世界の十八番、エネルギー加速ユニットを呼び出した。
召喚された木の実拾いは自身が過ごしやすい周囲の環境、森に気を良くしたのか繫の足元を走り回ったり肩から木へ飛び移るなどご機嫌な様子である。
「私はこれでターン終了です」
「こちらのターン、ドロー。カードをチャージし、ターンエンド……」
参加者たちへターンが回ってくるが先の行動を再生するように全員がチャージのみでターンを終え、またすぐさま繫へとターンが戻ってくる。
「私のターン、ドロー!」
全員が似た系統のデッキで挑んできているのか、だとしたらデッキタイプはコントロールかコンボあたりと当たりをつけながら繁はカードを引く。
相手側は先攻で1手早い上に、圧倒的な人数差。
この差を繁が埋めようとするには──
「チャージしエネルギーフィールドから2点、木の実拾いからも1点! 緑黒含む3コスト【人道的通行料】発動!! 3枚ドローし、代償として手札からユニットカード1枚を墓地に捨てます」
繁が選択した手段は手札増強であった。
実際増えた枚数は1枚だけであるが、この状況で重要視すべきなのは数ではなく質。
勝利のためのキーカードを手札に揃えることを繁は優先した。
「ドロー……。チャージし、全エネルギー抽出……」
3ターン目、ついに相手が動いた。
繁はその様子を興味津々の顔で見ている。
どのような一手を披露するのか、この異様な状況でも繁のバトルワールドへの姿勢が乱れることはなかった。
「【魂吸いの蛭】を召喚……」
【魂吸いの蛭】
カードコスト:[黒][2]
カードタイプ:ユニット
世界:黒
種族:妖蟲
戦闘力:1000/生命力:1000
粘性を帯びた落下音と共に、大型犬ほどの蛭が姿を現す。
人によっては叫んでしまいそうな見た目のユニットだが、この場では僅かな悲鳴さえ聞こえてこない。
召喚した側は無反応であるし、繁は興味深そうに眼前の蠕動する蛭を眺めているからだ。
「チャージ、【魂吸いの蛭】召喚……」
その後も同様に蛭を参加者全員が召喚し、最終的にバトルフィールドには合計20体の粘液に塗れた蛭がずらりと並んだ。
もはや卒倒する者が出てもおかしくない光景だが、繁は相手ユニットたちから目をそらさずじっと見つめる。
繁が蛭たちを見て考えていたのは、【魂吸いの蛭】の特殊能力。
【魂吸いの蛭】がその身に秘めた能力。
それは自身の行動権を消費し、相手プレイヤーの
次のターンに合計20体の蛭たちが動き出せば──
「ドロー! なるほど、このターンでなんとかしなければ私の敗北というわけですか」
人海戦術による一方的な敗北が待ち受けているこの状況。
そのような窮地にあって、だが繁の顔に悲壮さなどは一切浮かんでいない。
「素晴らしい。この大会での依頼を受けたのはやはり正解でしたね」
あるのはただ、このような体験の機会を得られたことによる喜悦であった。
今大会のような特殊な状況でもなければ、この対戦の如き経験は実戦では中々得られない。
貪欲に自身の糧としようとする、獣性染みた繁のバトルワールドへの姿勢。
試練官としての仮面が若干外れ、どこか剣呑さを感じさせる繁の視線が相手プレイヤー全員に向けられる。
するとどうしたことか、直立しその場を動こうとしなかった参加者の何人かがよろめくように数歩後退った。
「……?」
自身の行動が理解できないという、僅かな困惑。
シンプルに考えれば、プロの気迫に学生が気圧されただけのこと。
だが、いま参加者たる学生たちが陥っている状況も加味すれば、事態はもう少しだけ入り組んでいる。
そしてその元凶、1人のバトルワールドプレイヤーも離れた場所で森林エリアにいる者たち以上の驚愕を味わっていた。
繁が担当している森林エリアから離れた、人目を避けるようにひっそりと佇む洞窟。
そこには大会の参加者である1人の女子学生がいた。
ブルーアッシュのロングウェーブヘアで派手な見た目に反し、その佇まいには存外隙がない。
しかし彼女を知っている者からすればそれは意外でもなんでもなかった。
「うっそ、気迫だけで何人か
秘密結社【祓い笛】、最高幹部【
バトルワールドの底深くで暗闘を繰り広げる組織の人間、それこそが彼女の正体である。
「いくら
現在森林エリアで起きている騒動の仕掛け人は彼女であり、それを可能とするのが【傀儡】の名に由来する力だ。
優れたバトルワールドプレイヤーに発現する、適応化という現象。
驚異的な身体能力向上などが代表的な事例として確認されている適応化であるが、それだけが全てではない。
むしろ身体能力向上などは入口に過ぎず、さらにその先が適応化には存在する。
現代科学では説明できない特異な能力がその段階に至った者には芽生え、あり方は10人いれば10通りの能力が確認できるほどに千差万別であるらしい。
傀儡も特有の能力に目覚めた段階のプレイヤーであり、効果範囲という面で見れば幹部内でも有数の能力を所持している。
彼女に発現した能力、それは【他者の意識の取り込み】
対象の意識を自身に取り込み、対象本人は自覚しないまま傀儡の意のままに動いてしまうという。
問答無用で取り込むことはできないし操ろうとする人数が多ければ多いほど精度は下がっていくなど、傀儡本人は使いづらい能力だとよく幹部同士の会話でこぼしている。
だが本人以外からすれば、足の付きようがないほぼ洗脳ともいえる能力が恐ろしくないわけがない。
そんな恐るべき能力によって、今やこの大会参加者の実に7割が彼女の支配下に堕ちていた。
水面下で大会の意義が危ぶまれる状況に陥っている中、なぜ彼女は目立つリスクを負ってまで御園 繁に勝負を仕掛けたのか。
「でもどうする、お兄さん? 蛭ちゃんたちをなんとかしなきゃ次のターンで終わっちゃうよ~」
まるで目の前に繁本人がいるかのように、傀儡の口から出る独り言。
だがこと彼女に限って言えば、実際に繁はそこにいるのだ。
本人曰く意識を取り込んだ相手とはうっすら糸のような半透明の何かで繋がっており、それを辿り対象を操るだけではなく自身の意識を飛ばすことも可能なのだという。
つまり傀儡は森林エリアから離れた洞窟にいるまま、本人の意識は現地で繫と対峙している状態となっているわけだ。
森特有の濃い緑の匂いや木々のざわめき、何よりも繁から放たれる闘気。
「まずはエネルギーフィールドにチャージ!」
繁の声が、支配下にあるプレイヤー越しに傀儡の耳朶を打った。
物理的な距離など意味はなく、傀儡の目の前で繁は己の勝ちを目指しカードを繰り出す。
「緑赤含む4点、【山火事の芽吹き】を発動! 相手のユニット全てに2000点のダメージを与えます!」
突如辺りを猛火が包みこみ、周囲を赤く照らす。
映像と音声のみのため実際に森が焼けることはないが、蛭たちはその猛火から逃れる術がない。
生きたまま焼かれるという責め苦に蛭はのたうち回るが、徐々にその動きは鈍くなる。
数秒後、あれだけの数を誇った蛭たちは全てが猛火によって灰すら残さず消え去っていた。
「更に手札からユニットカード1枚をエネルギーフィールドに置きます。これで私はターン終了です」
蛭たちを焼き尽くし、繁はじっくり自身と対峙している20人のプレイヤーたちを見る。
「……っ」
その視線に、何人かのプレイヤーの口から息が漏れ出る。
傀儡によって自意識を取り込まれたプレイヤーたち。
彼らは本来、外からの刺激に反応することはない。
ただ傀儡によって塗りつぶされた意識、今回は『全員で御園 繫に勝利する』という目的のためだけに行動するのだ。
バトルに必要な最低限の思考だけを残し、それ以外は切り捨てている。
だから挑発にも乗らず、恐怖も歓喜も感じることはない。
──そのはずだった。
「うっそまた? ……こりゃ長期戦なんてしたら糸がもたないかな」
傀儡と20人のプレイヤーを繋ぐ、彼女本人にしか認識できない糸。
常であればピンと張り揺るがないそれが、今回のバトルでは傀儡の意図しない乱れを何度も起こしている。
今は少人数の揺らぎで済んでいるが、ターンを重ねロングゲームになれば状況が悪化するのは目に見えていた。
「搦め手がダメなら今度は真正面。お兄さん、これにはどう対処する~?」
「チャージ……、【崩れゆく青銅像】召喚……」
【崩れゆく青銅像】
カードコスト:[黒][黒][2]
カードタイプ:ユニット
世界:黒
種族:ガーディアン
戦闘力:6000/生命力:6000
元は威容ある像だったことを思わせる、今は朽ちてゆくばかりの巨大な青銅像が出現する。
カード名や見た目から連想できる通り、このユニットはいわゆるデメリットアタッカーと呼ばれるカードの1種だ。
コストに見合わぬステータスや能力の代償として、プレイヤーやユニットに不利となる能力も併せ持っているそれらカード群。
【崩れゆく青銅像】のデメリット能力は、攻撃する毎にステータスがダウンしてしまうという弱体化。
「だけど弱体化能力の代わりに、
傀儡が呟いている間に、先ほどの蛭と同じように身の丈数メートルはある青銅像たちが20体揃う。
同じようにとは言ったが蛭たちとは比べ物にならないステータスであり、盤面の殺意は先ほどの比ではない。
「私のターン、ドロー! さすが、高ステータスのユニットが並ぶさまは壮観ですね」
自身を潰そうと控える青銅像たちを眺めながら、繁が呑気な感想を口に出す。
だがそれは強がりや虚勢ではない。
「チャージし即座にエネルギーを抽出! 4コスト【蘇りの呪歌】を発動し、墓地に眠るユニット1体を復活させます!」
繁の眼前に黒く渦巻く穴が出現し、そこから何かが飛び出してくる。
それは先のターンに繁が【人道的通行料】で墓地へ送ったカード。
このような時のため仕込んでおいた、この窮地を脱するためのユニット。
「墓地より蘇るは、【選定の鋏持つ少女】!!」
【選定の鋏持つ少女】
カードコスト:[黒][緑][緑][4]
カードタイプ:ユニット
世界:緑
種族:審判者
戦闘力:8000/生命力:4000
墓地から繁が呼び出したるユニット。
自身の身の丈ほどもある大鋏を軽々と担いだ少女がそこにはいた。
「うげ、あのカードってたしか【見切り】持ちの……」
傀儡が顔を顰めながら、繫のフィールドに現れたユニットを見る。
バトルワールドで数ある特定の名称が付いている能力、その中の1つが【見切り】である。
効果を説明するならば、【見切り能力のないユニットとの交戦時、ダメージ処理はこのユニットが先に解決する】というもの。
バトルワールドでのユニット同士の戦闘は、相手に同時にダメージを与える形で処理される。
だが見切りという能力はこのルールに縛られず、相手ユニットに先んじてダメージを与えることが許されるのだ。
高い戦闘力のユニットが持てば一方的に相手を破壊できる鬼に金棒のこの能力。
昨今は他にもユニット同士の戦闘に関して強力な能力がいくつも登場し、交戦時のみというタイミングが限られている見切りは若干汎用性に欠けるとされている。
しかし今この状況では、見切りを持つユニットこそ繁が見出した最適なのだ。
「【見切り】は交戦時のルールに干渉する効果……。う~、【死刻】とかなら青銅像で受け付けないのにぃ」
青銅像はあくまで自身に及ぶ効果を受け付けないだけであり、戦闘を介せば他ユニット同様に破壊される。
あの大鋏を持つユニットがいる限り、傀儡の攻撃が繫に届くことはなくなってしまったのだ。
「ドロー……」
傀儡側のターンとなり、支配下にあるプレイヤーがカードを引く。
繁のユニットをどう処理するか、そのことについて傀儡はしばし思い悩む。
あれがいる限り、こちらは生半可なユニットを出しても全て討ち取られてしまう。
戦闘では無類の強さを見せるユニットをどう攻略すべきか。
「なら戦わなきゃいいよねぇ!」
「青黒含む4点、【すり抜ける鉤爪】召喚……」
【すり抜ける鉤爪】
カードコスト:[青][黒][2]
カードタイプ:ユニット
世界:青
種族:半霊
戦闘力:2000/生命力:2000
傀儡が選んだ回答。
それは相手ユニットとの戦闘を回避し、直接相手プレイヤーへの攻撃を可能とするカードであった。
「このカードを放置したら次のターン総攻撃で終わり。でもさっきみたいに全体除去で自分のユニットを巻き込んで対処しても、他の効果を受けない青銅像は残ってそっちでも終わり」
どちらにしても繁のSPは尽きる。
傀儡の顔に嗜虐的な笑みが薄っすらと浮かびかけるが、繁の表情を見てそれは消えた。
「素晴らしい、まさに窮地とはこのこと……。やはりバトルワールドは素敵です」
命運尽きたと言ってもよい状況であるのに、繁の顔は喜びに満ちていた。
何故、この盤面を逆転できる手があるというのかと、傀儡が繁を見つめる。
もはやそれが強がりからくるブラフなどとは彼女は思わない。
「私のターン、ドロー!!」
逆転の手札を備え、御園 繁はこのターンに臨むつもりなのだと傀儡は確信していた。
「赤のカードをチャージ! まずは緑2点で【
戦闘を介したユニット越しにプレイヤーへダメージを与える能力の付与。
繁のデッキの方向性が今更ながらに見えてきた気がする傀儡。
「そして赤含む5点、【孤高の連撃】を発動!! 自身のユニット1体を対象に発動でき、ターン終了時までユニットの戦闘力を倍にしユニットを戦闘で破壊する度に再度攻撃することが可能となります!」
【選定の鋏持つ少女】
カードコスト:[黒][緑][緑][4]
カードタイプ:ユニット
世界:緑
種族:審判者
戦闘力:8000/生命力:4000→戦闘力:16000/生命力:4000
圧倒的な戦闘力となった繫のユニット。
「戦闘に移ります! 【選定の鋏持つ少女】で一番右端のあなたへ攻撃!!」
恐ろしい迫力をまとったユニットの攻撃をプレイヤー越しに見ながら、しかし傀儡は冷めた目でそれを見ていた。
確かに暴力的なまでのステータスだが、直撃を受けてもSPは尽きない。
ましてや繁は1人に対して、こちらは20人もいるのだ。
いたずらにユニット同士の戦闘を起こし藪蛇を踏むような真似をすると、そのような相手のミスを頼みとするような手が逆転の切り札?
「……買い被りすぎちゃったかな?」
急速に繁への興味が引いていく傀儡。
これなら後は向こうに全部任せようかと、彼女が意識を戻そうとした瞬間であった。
「【選定の鋏持つ少女】の効果発動! 相手プレイヤーはこのユニットの攻撃を必ずユニット1体で迎撃しなければならない!」
「あっ」
迂闊と言えばそれまでだが、傀儡は繁のユニットのもう1つの能力をこの時まで失念していた。
少女が持つ鋏、選定の鋏は対峙する相手が逃げることを許さない。
「【崩れゆく青銅像】で迎撃……」
倍どころではない大きさの青銅像を、鋏持つ少女は一閃の下に切り伏せる。
そして勝利を糧とし、次の相手へと鋏を向けた。
「あっ、あっ……」
次々と破壊されるユニット、倒れていくプレイヤー。
あの盤面を覆されたその事実だけでもショックを受けそうなものであったが、傀儡が呆然とするのには別の理由があった。
「糸が、勝手に千切れて……」
自身から手放さない限り決して解除されない筈の支配が、その象徴たる糸が繁に攻撃され倒されたプレイヤーから消失していく。
およそこの能力に目覚めてから初めて味わう経験に、いつも傀儡がまとっている余裕はなかった。
そして支配下にあったプレイヤー最後の1人、そこへ繁のユニットである少女が向かってくる。
冷たく光る鋏と少女の瞳。
対照的に、繁の瞳は爛々と輝き熱を帯びる。
そのどこか狂気さを秘めた輝きに、思わず傀儡は今の状況も忘れ見入ってしまった。
「きれ、い……」
鋏による一閃。
呆気ないほどに、傀儡が繁へと仕掛けたバトルは終わりを迎えた。
いかなる原理か、その場にいたプレイヤーのみならず周囲を囲んでいた者たちの支配も消え、傀儡の気配は森林エリアから一掃されることとなった。
「あ、生きてる」
洞窟内。
思わず首が繋がっているか傀儡が確認する。
「ん~あそこから捲られちゃうかな~、結構自信あったんだけど。それに何あの最後の。何か糸が勝手に千切れてったんですけど」
自身の能力のことはよく分かっていたつもりだったが、事態は思わぬ方向に転がっていった。
だが傀儡の顔に浮かんでいるのは困惑などではない。
あの最後に見た、熱を帯びた繁の瞳。
それがうつったかのように、傀儡が手で触れば己の頬が熱い。
「欲しい」
ぽつりとこぼれた呟き。
「欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」
呟くたびに、身体の奥底から熱くなっていく。
「もういいや、預言はそれぞれの座に一任されてるんだし。ちょっと予定を早めるくらいいいよね?」
もしこの場で第三者がそれを咎めたなら、その者に何をするのか分からない危うさが今の傀儡の瞳には宿っていた。
結社の最高幹部としてはあってはならぬことだが、今の彼女の優先順位で預言は次点であった。
今なによりも優先すべきこと、それは──
「絶対に、絶対にお兄さんを手に入れる。あの人なら全部塗りつぶしてくれる。こんな雑音だらけの世界で、あの人ならうちの全部をきっと塗りつぶしてくれるはずだから」
仄暗い洞窟で、正気と狂気の狭間にあるような声が響く。
結社の最高幹部の一角、その手綱が千切れた瞬間であった。
「明日、会いに行くからね。今からとっても、とっても楽しみだよお兄さん」
後に、国内での競会が誇る威信が揺らぐ一因となった、バトル・サンクチュアリ。
特殊な環境下での集団パニックと対外的には発表した、大会6日目のある出来事。
『最も多くのプレイヤーを狂わせた大会』と後年称されることになる今大会。
競会、企業、結社。
いずれも、誰もが予想しえない舞台の幕が上がろうとしている。
最も波乱に満ちたバトル・サンクチュアリ6日目。
バトルワールドの歴史に深く刻まれる事件は、こうして静かに幕を開けようとしていた。
バトルワールドでは、基本ルールとして1対1での対戦が前提となっています。
そこから発展しチーム戦やバトルロワイヤル戦などがあり、競会の公認ルールなども制定されています。
中でもバトルロワイヤル戦は主にイベント向けの特殊ルールという扱いで、競技に採用される機会はそう多くありません。
この俺がプレイングミスだと? とんだロマンチストだな!
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【選定の鋏持つ少女】
カードコスト:[黒][緑][緑][4]
カードタイプ:ユニット
世界:緑
種族:審判者
戦闘力:8000/生命力:4000
[見切り(見切り能力のないユニットとの交戦時、ダメージ処理はこのユニットが先に解決する)]
このユニットがプレイヤーへ攻撃する時、そのプレイヤーは可能であればユニット1体で迎撃しなければならない。
己の命運を示しなさい。
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・生命力8000以下絶対ぶった切るマン
・↑失礼な、ガールだぞ
・↑その割には胸がうすす
・↑し、死んでる……
・↑↑見事に真っ二つですねえ
・たまに見切りの効果を初心者に説明するとき上手い言い方ないか毎度悩んでる
・↑先に相手をぶん殴ってそのまま殴り殺せる能力です、で良くね?
・見切り知った時軽く混乱したわ。これユニットじゃなくてルールに干渉する能力なんだな
・自分から突っ込んできておいて選定されろやは理不尽すぎませんかね
・嬢ちゃんや、8000はそうそう耐えられる暴力じゃないのよ
・でも背景ストーリーだとめっちゃいい役どころだし、キャラ人気も高いから
・↑主に最強厨から人気だとちゃんと書かないとダメだろ
・↑↑なんで作中の主人公やライバル差し置いていっちゃん敵倒してんですかね