「申し訳ありませんが、そのお願いは聞けません」
僅かな逡巡も見せず
間髪入れずな繁の回答に、流石の傀儡も思わず固まってしまう。
「……もうちょっと悩んでも良くない? フリでもいいからさ~」
「ご期待に沿えず申し訳ございません。しかし、私がこの場に立っているのは試練官としてでして」
参加者である学生たちに試練を与える存在。
それがこの孤島各地にいる試練官の存在意義である。
本人の人格を消し飛ばしてしまうような、そのような蛮行を成す存在では決してない。
「私個人としてもそのような行為は容認できませんので」
「それは子供の未来は大切だっていう、大人としての言い分?」
「もちろんそれもありますが……」
結局はこの人も自分の望みを叶えてくれないのかと、傀儡の目に諦めと失望の色が濃く出る。
まぁ、間接的にとはいえ実質自殺の片棒を担いてくれと言われているようなものだ。
誰も得にならない咎など背負いたくない。
幼少期から強制的に人の気持ちを学ばされた傀儡は、いやこの年頃の者であれば多くが、他者のために必要以上の責任を抱え込める者など滅多にいないことに気付き始める。
今回も自分が勝手に浮かれただけのことだろうと区切りをつけ──
「そのようなことをしてしまっては、このバトルの決着をつけることが出来ないではないですか」
「……はい?」
「あぁ、もしくはこのバトルで勝った方が相手に1つお願いできるという条件なら叶うかもしれませんね」
「?????」
数秒前の言葉を混ぜ返すような繫の発言に、傀儡の理解が遅れる。
今、自分の目の前にいる男は何と言ったのだ?
割と切実な様子で懇願した願いをにべもなく断った理由が、このバトルが中断されるのが嫌だったから?
しかも一度断っておきながら、バトルの結果次第では協力してもいいと考えている?
「なに……考えてんの……?」
口から零れた疑問には呆れもあったが、それ以上に自身の理解が及ばない生き物への興味が混じっていた。
それは傀儡が力に目覚めてから数えるほどしかない、他者を理解しようとする姿勢の発露。
普段は意識して抑えている力を逆に集中させ、繁の真意を探ろうとする。
もし傀儡のイメージを共有できたのなら、何百という糸が彼女から繁へ伸びていく様子が確認できたことだろう。
「……? もしや何かされていますか? こう、何とも表現が難しい感覚が全身を……、これは……糸?」
バトル中で研ぎ澄まされているのか、本来は不可知の力を感じ取る繫。
「……っ!」
傀儡の表情が初めて明確に強張った。
こちらの力に気付いている。
いや、気付いていることそれだけならば驚くほどのことではない。
これまでにも勘の鋭い者や適応化の進んだ者で、何かしらに気付いた数人はいた。
だがそれが糸の形を模していることは傀儡本人と限られた者たちしか知り得ない情報。
傀儡が他者へ伸ばす糸は意識の隙間へ潜り込むための不可知の力で、相手がそれを認識することなど本来あり得ない。
あり得ない、はずだった。
「何でしょう……。少々、頭の中を覗き込まれているような?」
「……普通は気付かれるはずないんだけど」
「おや、そうなのですか? しかしこれはまた貴重な経験、今後何かしらに生かせそうですね」
自身の胸の内を覗きこまれるという、忌避すべき行為。
まともな感覚を持っているのなら嫌悪してしかるべきことをされたというのに、繁の態度や言動は傀儡の予想したどれとも違っていた。
強がりを言っているわけではないことは、傀儡に現在進行形で流れてくる声にならぬ声が証明している。
「お兄さん、怒らないの?」
自身のこれまでの経験では当てはめることができない人物像に、思わず素直に尋ねてしまう傀儡。
「怒る必要がありますか?」
「あるでしょ。普通はさ、勝手に頭の中覗かれたら怒るんだよ。伝えようとしていない思いを勝手に読み取られるなんて気持ち悪いに決まってるでしょ」
傀儡は思わず眉間を押さえる。
人が自身の胸の内にしまっている様々な思い。
幼少期よりそれらを無差別に暴いてきた傀儡だからこそ、その行為がどれだけ悍ましいことかを実感していた。
もし自分の心の中を覗き込まれたら。
想像するだけで少女は全身を掻き毟りたくなるほどだ。
「ましてや今はバトル中で、そんな状況で相手の」
「そうバトル中です。どちらかが勝ちを争う状況で、ルールの枠内で自身の持てる力を出し切ることはおかしなことではないのでは?」
またぞろおかしなことを言い出した繁に、ついに傀儡が声を荒げる。
「そ、そういうことじゃないでしょ! ズルして相手の考えを読むなんてことが」
「優れたプレイヤーならば相手の表情やこれまでの状況から様々なことを読み取れると聞きます。ルールに反せず結果が同じならば、その手段に目くじらを立てることもないでしょう」
「……何、うちが間違ってるの? いやそんなわけ」
あまりにも自信満々に言い切られ、傀儡のこれまでの価値観が揺らぐ。
絶対に繁の言い分は少数派どころではない限られた意見だと自身に言い聞かせ消し去ろうとするが、それでも頭の片隅に否が応でも残ってしまう。
「己の言い分も含めてここはバトルで決しませんか。あなたが勝ちその上で先ほどの望みを願うのならば、私はその意思を尊重しましょう」
「自分が何を言ってるのか分かって……。いやうん、お兄さんは分かって言ってるんだよね」
このバトルの結果によって、1人の人間が廃人になるかが決まる。
そんな状況に陥っていながら繁に動揺した様子は一切なかった。
「分かった、分かったよお兄さん。つまりお兄さんはそういう人なんだね」
これ以上考えてもどうしようもないと結論付けたのか、傀儡は繁との問答を切り上げた。
考えてみればこの展開は自分にとっては悪くない流れ。
バトルに勝てば、相手の了承を得た上で望みが叶うのだ。
「バトルを再開しようか、お兄さん」
「そうこなくては。バトルでの相互理解こそ、バトルワールドプレイヤーに許された特権ですからね」
自分と繁の相互理解のニュアンスにはずいぶん隔たりがあると傀儡は感じながら、先ほどまで抱いていた失望がいつの間にか薄れていることを自覚する。
代わりに湧いてきたのは、繁に対する疑問。
目の前の人物は何なのだろう。
何を見て、何を考えている?
何故、自分を嫌悪しない?
何故、何故、何故。
「うちのターン、ドロー」
その疑問はこのバトルで見定めていけば良いと、傀儡がデッキからカードを引く。
盤面は繁の場にユニットが1体のみ、SPも僅かではあるが繫がリードしている。
傀儡
SP18000
御園 繫
SP20000
【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】
カードコスト:[黒][緑][1]
カードタイプ:ユニット
世界:黒
種族:香蟲花草
戦闘力:3000/生命力:3000
「まずはエネルギーをチャージ。青黒2点使って【術式漁りのクラゲ】を召喚」
【術式漁りのクラゲ】
カードコスト:[青][黒]
カードタイプ:ユニット
世界:青
種族:海魔・精霊
戦闘力:1000/生命力:1000
青みがかった半透明のクラゲがその体を空中に漂わせる。
傀儡の場にもユニットが召喚され、これでお互いのユニット数だけ見れば並んだ状況。
「とりあえずうちはこれでターンエンド」
「ではターンを貰います。私のターン、ドロー!」
繁が嬉しそうにカードを引く。
あくまでこのバトルが楽しいものだと認識しているような、そんな表情。
対戦相手のそんな顔を見て、ふと傀儡の胸の内にある感情が湧き上がってくる。
「まずはこのまま攻撃といきましょうか。そちらは何かありますか?」
「特にないかな」
湧いてきた感情を悟られぬよう、言葉短く傀儡が答える。
先ほど繁が言っていたように、バトル中のプレイヤーは時として僅かな要素から驚くべき精度でこちらの内面を見透かしてくる。
このバトルに勝つためにも相手に判断要素を与えまいとする傀儡。
それに対する繫はといえば。
「では【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】で攻撃です!」
何の取り繕いもしていないような、人によっては能天気と評しそうな顔でバトルを楽しんでいた。
そんな持ち主の要請に応え、巨体に見合わぬ俊敏さでムカデが傀儡へと襲い掛かる。
「【術式漁りのクラゲ】で迎撃」
主人の命令により、飛び掛かってくるムカデの前にいくつもの触手を突き出しクラゲが迎え撃つ。
ステータスを見ればムカデが一方的に相手を討ち取れる数値であるが──
「クラゲちゃんは【死刻】持ち。ステータスに関係なくダメージを与えたユニットを破壊するけどいいの?」
「構いません。同胞の亡骸を辿り、彼らは戦場に集うのですから」
戦闘を介した破壊能力を持つユニット相手に、しかし繫と彼のユニットは怯まない。
【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】がその身に宿す能力により後続のユニット確保は約束されているからだ。
この場で相打ちとなっても繁の場にはすぐさまユニットが追加され、戦線が途切れることはない。
「ならそのユニットだけ破壊しちゃおっかな。【術式漁りのクラゲ】を対象に青1点で【肥大化】を発動し、生命力に4000の補正」
【術式漁りのクラゲ】
[死刻(このユニットがダメージを与えたユニットは破壊される)]
戦闘力:1000/生命力:1000→戦闘力:1000/生命力:5000
【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】
戦闘力:3000/生命力:3000
「こちらも【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】を対象に【増強】を発動! 対象ユニットの戦闘力と生命力にプラス3000!」
「っ【まとわりつく潮風】発動! 対象は【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】!」
応酬の結果、手札へと帰還していく繁のユニット。
攻撃していたユニットが盤面から消えたことにより、強制的に戦闘は終了となる。
「ならば再び蜷局巻きの大輪を私は召喚し」
「対応して青含む3点【パペットアーツ×テイクオーバー】発動! 相手の4コスト以下ユニットの召喚時に発動でき、そのユニットは相手フィールドに召喚される代わりうちのフィールドに召喚される!」
繁の場に呼び出されようとしていたユニットに、突如どこからともなく何本もの糸が絡みつく。
糸を辿れば虚空に浮かぶ、吊り手と球体関節の両腕がそこにはあった。
藻掻いたのも数秒、不自然に大人しくなったムカデの巨躯をぶら下げ傀儡のフィールドに着地させる糸と両腕。
まんまと相手に自ユニットのコントロールを奪われた繁、その焦燥は如何ばかりかと傀儡が確認しようとするが。
「……何で嬉しそうなの?」
傀儡の目に映ったのは焦りを露わにする顔ではなく、楽しそうに、心の底から楽しそうに笑っている繁。
「ねえお兄さん、状況分かってる? このターンの動き全部をうちに対処されたんだよ?」
「もちろん分かっていますとも。いやしかし、カウンター系でコントロール奪取ですか。なるほど相手のカードを用いて戦うというのはこのように」
物珍しいプレースタイルへの好奇心からか若干興奮している繁だが、それゆえ眼前の少女の様子に気付くのが遅れた。
このバトルの結果が齎すものを何とも思っていないような、そんな態度。
繁の様子からそのように感じ取った少女、ついに感情の閾値が超えてしまうのも時間の問題であったのだろうか。
「分かってない! 分かってないよ!!」
傀儡自身も内心驚くほどの叫びが森に響く。
「このバトルでうちが勝ったらどうなるか分かってるなら、そんな態度取れるわけないじゃん! 何、もしかして全部冗談だと思ってる? 残念だけどうち本気だよ」
実質相手に人殺しになれと要求している自身の願いを本当に理解しているのか。
もしや全てが年端もいかぬ小娘の戯言と思われているのではないかと、今の繁を見た傀儡はそう思えてならなかった。
そうした少女の訴えが終わるのを待っていたように、繁が静かに語りだす。
「誤解させてしまったようで申し訳ありません。あなたが本気であることは理解しています」
一転して真摯な様子で謝罪する繁に傀儡もひとまず押し黙る。
「あなたがこのバトルに勝ちたいと思っていることも、勝った後に何を望んでいるのかも、それを叶えなければならないと強く思っていることも理解しているつもりです」
「だったら! このバトルの先、結果を見据えてるならそんな!」
「結果は過程ありきのもの。あなたが真剣にこのバトルの結果を見据えているように、私はバトルの過程を重要視しています。しかし本来、この2つは釣り合って存在しているものなのだと私は考えております」
「……どういう意味、それ」
結果と過程、どちらに重きを置いているか。
いささか抽象的な繁の言葉に、その真意は何かと尋ねる傀儡。
「人がその結果を求めて過程を積む際、ただ最適だからという理由だけで道程を全て決めてしまうでしょうか?または今ある過程ばかりを見てその先の結果を考えずに」
「だからどういう意味かを聞いてるんだけど!? それっぽいこと言って煙に巻くつもりなら」
「ご自身の人格を塗り潰すことのみを求めているのなら、相手の了承など得ず読み取ってしまえば良かったのではありませんか? 今この時もバトルの結果など無視し、身に着けている力の抑制具など全て取り払い実行すれば簡単に済む話ではないのですか?」
「そ、れは……」
言葉と共に直前の勢いも失う傀儡。
それは繁の指摘が図星であることの何よりの証明であった。
「ここからはあなたの考えを多少推察し勝手に喋らせていただきます。もし違っているのなら遠慮なくご指摘ください」
傀儡が僅かに頷くのを確認してから、繁は自身の考えを語りだす。
「ご自身の消失のみを目的とした場合、そこに他者の心情など勘定には入りません。何せ自身が消えた後の世界など無いも同然なのですから」
ただ自分をこの世界から消し去りたいという願いは、自身のみを関心としたことだ。
その過程で発生する他者の存在、ましてやその者の感情の動きなど考慮する必要がどこにあろうか。
自身が消えた後のことを考えるなど徒労でしかない。
「しかしあなたはそうは思わなかった。自身がそのように行動した結果どうなるかを考え、実行した場合の過程を考え今日までこの世界を戦い生き抜いてきた」
自身の破滅のみを願う人間がそのような生き方をするだろうか。
少なくとも繁は目の前の少女がそのような人間だとは思えない。
そんな繁の独白に、終ぞ少女は声を上げることはなかった。
「……じゃあ、うちはどうすればいいの?」
それは絞り出すような、この世界で自分は1人ぼっちだと感じているようなか細い少女の声。
「今は結社のおかげでなんとか耐えられてる。でも年々上がり続けてるこの力に対応できなくなったら? 世界革命なんて叶えて理想の世界を創って、それでもこの力の方が打ち勝っちゃったら?」
それはずっと少女が抱えてきた心の澱。
いつか自身の力が制御できなくなり、消失すら生温い末路を迎えてしまったら。
怖かった。ただひたすらに怖かった。
秘密結社の幹部などではない、自身のみが抱える恐怖に震える孤独な少女がそこにはいるだけであった。
「このバトル中、その恐怖はどれほど感じましたか?」
「え、それってどういう……」
「お辛いことを聞いているのは分かっています。無理にとは申しません」
いかなる問いか図りかね、しかし少女の思考は無意識にバトル中の感情を遡る。
直近のカードの応酬、繁のバトルワールドに対する姿勢、何故そこまで打ち込めるのかという疑問、興味。
「……興味? うちが、うちが他人に興味?」
この力に目覚めてから、他者を知りたいと思うことなどなくなった。
常に自身の頭の中を逼迫させる他者など、少女にとっては騒音機と大差ない。
「なんで、他人を知りたいなんて……。なんでそんなこと」
「あなたが思うほど、あなたは脆くなどないからではありませんか?」
「脆く……?」
「この短い間だけでも私の心情に言及し、手っ取り早い手段を実行することもなかった。それだけで証明になると私は思いますが」
「……そんなの」
少女は反射的に否定しようとし、けれどその言葉は続かなかった。
確かにそうだ。
繁の心を覗こうとした時も覗こうと思えばもっと深くまで覗けた。
相手の記憶を探り、弱点を探し、勝利に繋がる展開を探すことだってできたはずだ。
なのに自分はそうしなかった。
「……いや」
正確には――できなかった。
怖かったからではない。
その必要がないと思ってしまったからだ。
目の前の男が何を考えているのかもっと知りたい。
そうした感情の方が破滅への欲求より一瞬だけ、ほんの一瞬だけ強くなっていた。
答えはただ、それだけのこと。
「……うち、変になったのかな」
ぽつりと少女の口から出た疑問。
繁の気のせいでなければ、先程までの悲壮感がその声からは薄れているような。
「そうでしょうか?」
「だってさ。今まで他人のことなんて、知りたいと思ったことなかったのに」
「人間ふとしたきっかけで変わると言いますから。それにあなたはまだお若い。可能性などいくらでも転がっていますよ」
「何それお兄さん、年上マウントってやつ~?」
バトル前と同じような気楽な、しかしどこか固さが取れたような少女の声。
「……うん、ちょっとは前進できたかも」
憑き物が落ちた様子の少女の、そこからの行動は早かった。
ここで1つデバイスについて説明すると、多くの機能が自動で制御されているその機器でいくつかの機能は手動での操作を必要としている。
バトルでのサレンダー、つまりは降参する機能もデッキ収納スペースの脇に付いており──
「えい」
「あっ!」
繁が制止するよりも早く、少女は自身のデバイスにてサレンダー処理を実施。
通常のバトルならば相手の合意などもあって成立するサレンダーだが、バトル・サンクチュアリの独自ルールでは対試練官で参加者の自発的なサレンダーは問答無用で処理される仕様となっていた。
「ごめんねお兄さん、最後まで振り回しちゃって」
「……いえ、何かしらをあなたが掴んでくれたのならそれに越したことはありません」
バトルワールドプレイヤーと試練官の立場で揺れ、今回は珍しい、本当に珍しいことに一プレイヤーとしての自我が折れた様子の繁であった。
「……ねえ、お兄さん」
「何でしょう」
「うち、次に会った時も同じお願いするかもしれないよ?」
茶目っ気混じりに、しかしどこか怯えの色を隠して。
臆病さを本人なりに隠す少女。
「バトルワールドは千変万化。その時にはまた別の応酬を楽しみましょう」
何ともらしい返事に少女が笑う。
そうと決めた笑顔ではない、彼女なりの笑顔がそこには浮かんでいた。
「じゃあね、今日はありがと」
繁の返事を待たず、少女は足早にその場を後にする。
早々に少女が立ち去った理由は2つ。
1つはこれ以上その場にいたら気恥ずかしさが湧いてしまいそうだったから。
もう1つは──
「早々に逃げの一手というわけか。結社の幹部はよく教育されているな」
「……はっや。もう追いついてくるとか」
繁と話していた時よりも幾分低い声を、少女は自身の目の前に現れた人物へ放つ。
道を塞いでいたのは長身の女性で、その身長は男性と比較しても高い部類に入るだろう。
競会が誇る最上位ランカー、ランキング5位【
抜き身の刃がごとき威圧感を周囲に放ちながら
「……何か用ですか、経津重花プロ。うちそこ通りたいんですけど」
「貴様が正式な参加者であるのが心底残念だよ。そうでなければ遠慮など必要ないものを」
底冷えするような、肌にまとわりつくプレッシャーを容赦なく浴びせながら重花が喋る。
流石に国内トップクラスのプレッシャーには後退りながら、頭の片隅では今なら自身の破滅も叶いそうだなとふと思考する少女。
「ま、お兄さんとの先約もあるし今はいっか」
そんな様子に何がトリガーとなったのか、重花からのプレッシャーが増す。
「……1度しか言わないからよく聞くことだ。さっさとこの島から消えるといい。あまりうろちょろするようなら沖に待機させているクルーザーごと斬り伏せる」
本当にそれだけを言いに来たのか、その後すぐに姿を消す重花。
プレッシャーが消えたことにまず安堵し、少女は一度大きく深呼吸。
「う~ん、思ってたよりお兄さんって難物件?」
最後にちらりと繁がいる方を見て、少女は森林エリアを後にする。
その数時間後、孤島より去るクルーザーを運営本部が確認。
それに前後して島内で発生していた無差別バトルも潮が引くように収束。
こうして大会6日目に起きた事件は大多数が真相を知らぬままに、幕を閉じたのであった。