(ガワだけ)胡乱なカードゲームおじさん   作:十田心也

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30枚目 日脚を辿り行きつく先は

「まずはエネルギーフィールドにカードをチャージします」

 

 御園(みその) 繫(しげる)が自身の手札、そして盤面を確認する。

 相手プレイヤーの千装(ちぎら) 羽織(はおり)のフィールドには彼女が召喚したエース、【輝くプリマドンナ】がその身を装着カードで飾り佇んでいた。

 元は中量級コストに見合ったステータスが、今やその身に纏うカードにより重量級ユニットへ変化。

 装着カードに付随した効果、加えてまだ【輝くプリマドンナ】にはその身に秘めた能力がある。

 これらにどう対処するのかを繁は更地になった自身のフィールドも見ながら数秒考え、次の瞬間にはその考えを盤面へ反映させるべくカードを繰り出していた。

 

「黒2点を含む4コストで【スイッチニードル】召喚!」

 

【スイッチニードル】 

カードコスト:[黒][黒][2]

カードタイプ:ユニット

世界:黒

種族:蟲

戦闘力:4000/生命力:1000

 

 更地となった繫のフィールドへ、どこからともなく幼児ほどもある蜂がその身を羽搏かせ飛来する。

 特徴的なのは体躯の大部分を占める腹部であり、より詳しく言えばその先端より伸びる針であった。

 人間で例えれば血管が浮き出ているように針は幾筋もの紫色の線が有機的に脈打ち、ただでさえ穏やかではない雰囲気の針先を剣呑なものとしている。

 

「このユニットがフィールドに出た時に効果発動! 相手フィールドのユニット1体を選択し破壊します!」

 

 物々しい見た目はただの虚仮脅しではない。

 器用に翅でホバリングしながら、その蜂は自身が持つ必殺の毒針で狙いを定める。

 

「私が選択するのはもちろん、輝くプリマドンナ!」

 

 繁が宣言を終えると同時、スイッチニードルは相手を死に至らしめるべく毒針を発射。

 弾丸の如き勢いでプリマドンナへ迫る必殺の意思。

 精々が数メートルの距離で外れることなど能わず、時間にしてみれば数秒で相手ユニットにその毒針が突き刺さり──

 

 

「この瞬間プリマドンナの効果発動! このユニットが破壊される時、代わりに装着されているカード1枚を墓地に送ることでプリマドンナは破壊されない! 装着されている【最先端のハイヒール】を墓地へ!」

 

【輝くプリマドンナ】 

カードコスト:[黄][黄][3]

カードタイプ:ユニット

世界:黄

種族:貴人

戦闘力:7000/生命力:6000→戦闘力:6000/生命力:5000

 

【最先端のハイヒール】

カードタイプ:ユニット(トークン)

種族:魂魄武具

戦闘力:1000/生命力:1000

 

 確かに突き刺さった筈の毒針に、しかし歌姫は顔色一つ変えることはない。

 腹部に刺さった自身の腕よりも太い毒針をつまらなそうに引き抜き床へ放るのと、肩代わりするように履いていたハイヒールが音もなく崩れ消え去るのはほぼ同時であった。

 これぞ【輝くプリマドンナ】がその身に秘めた最後の能力。

 自身が破壊される時、装着カードを犠牲にこのカードはフィールドにとどまることができるのだ。

 

「ざぁんねん、ランカーにその程度の浅知恵が通用すると思った? どう転んだって端役が主役に敵うわけないじゃない」

 

「ですが矛であり盾であるカードを1枚剝ぐことは叶いました」

 

 落ち着いた声で返すのは微塵も焦りが浮かんでいない表情の繁。

 八百長試合に手を染めたとはいえバトルワールドに触れている年月は繁よりも長い羽織は、眼前の相手が一切怖気づいていないことに気付く。

 ランキングどころか競会所属ですらない、口さがない者たちが言うところのプロ擬きが。

 そんな者がこの状況を、そして自分を恐れていないという事実は彼女の自尊心に爪を立て掻き毟るのと同義であった。

 

 

「……だから何?」

 

「この勝負の趨勢はまだ決していない。私がそう思っているというだけのことです」

 

 

 言った本人に意図したところはなかったが、しかし羽織から見れば繁はすまし顔で挑発してきたとしか解釈できない。

 思わず羽織の額に青筋が立つ。

 

「更に黒緑含む3点【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】を召喚!」

 

【香蟲花草 蜷局巻きの大輪】

カードコスト:[黒][緑][1]

カードタイプ:ユニット

世界:黒

種族:香蟲花草

戦闘力:3000/生命力:3000

 

 追加で繫のフィールドに召喚される大輪の花を模したムカデ。

 こうして召喚された2体だが、いずれもステータスは相手フィールドのプリマドンナには及ばない。

 如何にしてあの輝く歌姫を倒すのか。

 

「希望は次のターンに託しましょう。これでターンを終了し」

 

「わたしのターンドロー!」

 

 繁のターン終了宣言が終わらぬうちに、羽織が自身のターンに入る。

 いささか強引なそれに3人のジャッジのうち1人が反応するが、残り2人のジャッジは問題ないと判定したのか無反応。

 対戦相手である繁も特に気にした様子はなく、ならばとそのジャッジも羽織へ注意することはなかった。

 

 注意を免れた羽織だったが、本人は今そのようなことに気を配る余裕はない。

 理由としてはバトル開始から現在まで、対戦相手である繁が一切ペースを乱すことなく自身と対峙し続けているから。

 たかだか2年目の新米プロが、国内ランキング92位のこの千装 羽織とバトルしているのにだ。

 世界でも有数のバトルワールド先進国である日本、その上澄みたる100人のプレイヤーに入っている自分と。

 普通なら動揺する筈だ。怯える筈だ。諦める筈だ。

 もし羽織自身が今の繁の立場だったのならそうなるに決まっていると考え──

 

「違うっ! あんな奴より下なんかじゃ、そんなわけない!!」

 

 一瞬だけだが頭に浮かんでしまったそ(・)れ(・)を振り払うように羽織が叫ぶ。

 認められない。認められるわけがなかった。

 

 

 もし同じ立場なら相手の肩書に怯え竦んでしまうであろう自分。

 ならば今その立場にあるのに一切戦意が衰えない繁は、もしかしたら自分よりも。

 

 

「5コスト【彩る舞台衣装】発動! 手札の4コスト以下の装着カードを2枚まで選び、自分のユニット1体にコストなしで装着できる!!」

 

 これ以上余計なことを考えないようにする羽織。

 勝てばいい、このバトルに勝てば全ては悪い冗談で済むのだ。

 

「手札にある【権力者の首飾り】【アンコールドレス】をプリマドンナへ!」

 

【輝くプリマドンナ】 

戦闘力:6000/生命力:5000→戦闘力:11000/生命力:10000

 

【権力者の首飾り】

カードコスト:[黄][黄][2]

カードタイプ:ユニット

世界:黄

種族:魂魄武具

戦闘力:3000/生命力:3000

 

【アンコールドレス】

カードコスト:[黄][2]

カードタイプ:ユニット

世界:黄

種族:魂魄武具

戦闘力:2000/生命力:2000

 

 新たな力を文字通り身に纏う【輝くプリマドンナ】

 ステータスは1万の大台を突破し、見た目と反して放たれる威圧感はオープンセンス(五感体感装置)の作用もあり途轍もないことになっている。

 カードが装着されたことによるプリマドンナの効果でデッキから装着カードを補充しながら、羽織は揺らいでいた自尊心を立て直すことに成功していた。

 この圧倒的な強さ、美しさがあれば怯える必要などない。

 勝者になるべき自分と、敗者であるべき相手。

 先ほどまではちょっとした気の迷いで弱気になっていたが、これこそランカーたる自分本来のあり方。

 

「何も分からないまま負けるのはかわいそうだから教えてあげる。プリマドンナへ新しく装着された2つのカード、首飾りは装着したユニットのコスト以下の相手ユニットから迎撃されない効果、ドレスは攻撃した後も行動権を消費しない【周到】の効果」

 

 どこか熱に浮かされたように滔々と語る羽織。

 もちろん彼女が詳細にカードの説明をするのは相手への親切心などではない。

 この局面において自身のユニットが決定的な力を持ったことの誇示。

 そのユニットによってこれから蹂躙される相手への暗い愉悦。

 これらの感情に突き動かされるように彼女は語り続ける。

 

「これがどういうことか理解できる? 戦闘力11000を誇るプリマドンナの、その脅威を。んん?」

 

「5コストの【輝くプリマドンナ】の攻撃を私のユニットでは防ぐことができず、攻撃後もあなたを守る強大な盾として在るということですか」

 

 この期に及んで汗1つかかない繁の様子は癪に障ったが、今の羽織にそれはただの虚勢にしか映らない。

 

「精々みじめに強がってなさい! 【輝くプリマドンナ】で攻撃ィッ!!」

 

 ユニットで防ぐことは出来ず、先程の比ではない衝撃が繁を軽々と吹き飛ばす。

 まだ周囲の様子を確認できる余裕のあった前回の攻撃と違い、今回は碌な防御姿勢も取れぬまま壁へと叩きつけられる。

 猛スピードで車が突撃してきたに等しい衝撃。

 

「かはっ……」

 

 御園 繫

 SP13000→SP2000

 

 全身を強く壁に叩きつけられたことにより、繁の口から強制的にこぼれ落ちる声。

 しかしそのような状態になっても足は確りと床を踏みしめ、視線を対戦相手から外すことはなかった。

 

 

「ほう、多少の気骨はあるか。うむ、うむ」

 

「資料では適応化が発現してから間もないとあるが……。それにしては良い闘志と気迫」

 

「……一応聞くが彼の推薦人は私であることを覚えているか?」

 

「そんな威嚇しなくても誰も取ったりしないわよ」

 

 

 最上位ランカーたちの賑やかしも今の繫には聞こえていない。

 どうやったら相手に勝てるか。

 バトルの最中に繁が考えることは基本それ一択だ。

 

「わたしはこれでターンエンド。どう、降参したくなってきた? このまま続ければ今の攻撃をもう1回食らうことになるわよ?」

 

 せめてもの慈悲とばかりに羽織が繫へ声をかける。

 圧倒的優位な状況から手向ける慈悲の甘美さを噛み締めている羽織だったが、そんな彼女の目に映るのは不思議そうにこちらを見る繁の顔。

 

「……分からなかった? サレンダーするなら認めてあげてもいいと言ったんだけど?」

 

「? いえ、サレンダーはしませんが?」

 

 きょとんとした繁の返事。

 羽織からの提案が心底理解できないというような繁のその表情。

 得意絶頂な気分だった羽織は、この状況で水を差されたことを数秒遅れて理解した。

 

「……は? 自分がなに言ってるか分かってる? このままだともう1度あの攻撃を食らうって言ってんの。痛い目に遭いたくないならさっさと」

 

「ただの苦痛などバトルを辞める理由にはなりません。ではターンを貰います」

 

 平然とそう返した繁に、羽織はしばし呆然とする。

 肉体的負荷などで勝負を降りるわけがない。

 たかだか数年しか活動していないプロがそのようなことを口にすれば、虚勢を張っていると見做されるのが関の山な発言。

 しかしこの状況で、現にその身で脅威を味わった繁がそう口にすることの意味。

 万全だと思っていた自身の勝利が僅かに揺らぐのを、羽織は無意識下で感じていた。

 

 

「私のターン……ドロー!!」

 

 繁がドローしたカード。

 本人のみならず、このバトルを見ている皆がそのカードを見て確信した。

 羽織が引いたように、繁の手にもそのカードが舞い込んで来たのだと。

 デッキの頂点。勝負を決する存在。

 切(・)り(・)札(・)と呼ばれるカードを、今この瞬間に繁は引いたのだ。

 

 

「あっ……」

 

 そしてそのことは当然、対戦相手である羽織にも伝わっていた。

 如何なる意図か虚空に手を伸ばす羽織。

 何をするでもなく繁の方へ伸ばされた手は勝負に何の影響も与えることはない。

 あるいはその手は掴むべき勝利を求めて伸ばされたものだったのか。

 

「千装プロ、先ほどの一撃への返礼としてこの一手を贈らせていただきます」

 

 繁が語り掛けるが、羽織が返事をすることはない。

 目の前の繁を、そして今のバトルを直視していないような。

 そんな対戦相手の様子に少し寂しそうにしながら、繁は己の持てる全てをぶつけるべくカードを繰り出す。

 

 

「黒緑含む6点をエネルギーフィールドより抽出!」

 

 繁の宣言により、今しがた引いたカードのためのエネルギーがその場にて形を成す。

 彼が自分のデッキに必ず組み込んでいるテーマ、【香蟲花草】

 蟲とも植物ともつかない者たちが生まれ育つのは熾烈な生存競争が約束された場所、その名も【極彩庭園】

 

「極彩庭園にて蠢き咲く、これこそは七賜弔(しちしちょう)が一柱」

 

 口にするのさえ憚られる捕食者たちがひしめく極彩庭園。

 その捕食者たちでさえ恐れ敬う存在がかの庭園にはいる。

 滅多に出会うことのない、しかし圧倒的なまでの力により遭遇は死と同義だとされる頂点捕食者たち。

 神聖視さえされるそれらによる死は単なる殺戮ではなく、死を賜い弔うある種の儀式だとする説もあるほどだ。

 確認された7体を称して【七賜弔】

 その一柱、慈悲深き処刑人とも呼ばれる彼女の名は──

 

 

「──【祈りの華刑鎌(かけいれん) キミカゲ】召喚!!」

 

 召喚に先立ち聞こえてきたのは鈴の音であった。

 いくつもの鈴が身を寄せ合って鳴る、まるで神楽鈴のような音。

 それを共にして現れたのは、女性的なフォルムをした数メートルはある巨大な蟷螂。

 紅と白で彩られた、まるで巫女を象ったようなその姿。

 後脚2本のみで立つその姿はますます人間を思わせるが、残り4本の有り様が彼女を人の外にある存在だと実感させる。

 前脚は通常の蟷螂と同じように、しかしその大きさと鋭さは比べ物にならないことが容易に分かる巨大な鎌。

 中脚は体から半ばまでは後脚と同じであるが、その先には鈴状の草花がいくつもの房をなしていた。

 おそらく先ほどまで聞こえていた音の正体がこれであろう。

 いまだ謎多き香蟲花草、その切り札の一角がこのユニットである。

 

【祈りの華刑鎌 キミカゲ】

カードコスト:[黒][黒][緑][3]

カードタイプ:ユニット

世界:黒

種族:香蟲花草

戦闘力:5000/生命力:5000

 

「このユニットが召喚された時に効果発動! 相手フィールド全てのユニットの生命力に-1000の補正を与えます!」

 

 キミカゲの中脚が揺れ、その動きに合わせ草花の鈴たちが鳴る。

 動作としてはそれだけであったが、次の瞬間には対峙していた羽織のユニットたちを斬撃の嵐が襲った。

 

【輝くプリマドンナ】 

戦闘力:11000/生命力:10000→戦闘力:11000/生命力:9000→戦闘力:9000/生命力:6000

 

【狂いなきオペラグローブ】

戦闘力:2000/生命力:1000→戦闘力:2000/生命力:0

 

【アンコールドレス】

戦闘力:2000/生命力:2000→戦闘力:2000/生命力:1000

 

【権力者の首飾り】

戦闘力:3000/生命力:3000→戦闘力:3000/生命力:2000

 

 羽織のユニットが皆等しくその鋭き風に撫でられ、【狂いなきオペラグローブ】は元の形が分からないほどに切り刻まれ墓地に送られる。

 そうして被害を受けた自身のユニットたちを見て、しかし羽織が浮かべた表情は笑みであった。

 

「……あは、あっはははは! 大層な登場しておいてそれだけ!? ねえそれだけなの!?」

 

 おかしくってたまらないとばかりに笑う羽織。

 

「どんな御大層な効果かと思えばなんてちっぽけなっ! あぁでも薄皮1枚剝ぐのには成功したわね」

 

 羽織の嘲笑に、しかし繁は黙ったまま静かに彼女を見ている。

 そんな繁の様子も気にせず、羽織は小馬鹿にするように墓地へ送られる装着カードを指差す。

 

「バトルワールドプロじゃなくて芸人でも目指したらどう? そっちの方がまだ」

 

「この効果でカード1枚が墓地に送られた時に発動。召喚時の効果を再度発動できます」

 

 なんてことはないように繁の口から放たれた、その言葉。

 ただカードのテキストを説明しただけ。そんな口調。

 たった今効果処理で自身のカードが墓地に送られた、そんな羽織の顔が奇妙に歪む。

 

 

「…………は?」

 

 

 繁の言葉が理解できない、いや理解したくないというような。

 そんな呆けた声をあげる羽織だが、バトルワールドのルールは一個人に配慮してくれるほど優しくはなかった。

 

「2回目! 再度相手の全ユニットの生命力を-1000!」

 

【輝くプリマドンナ】 

戦闘力:9000/生命力:6000→戦闘力:9000/生命力:5000→戦闘力:7000/生命力:3000

 

【アンコールドレス】

戦闘力:2000/生命力:1000→戦闘力:2000/生命力:0

 

【権力者の首飾り】

戦闘力:3000/生命力:2000→戦闘力:3000/生命力:1000

 

 再び斬撃の嵐が吹きすさび、今度は【アンコールドレス】が引き裂かれてゆく。

 

「3回目!」

 

【輝くプリマドンナ】 

戦闘力:7000/生命力:3000→戦闘力:7000/生命力:2000→戦闘力:4000/生命力:1000

 

【権力者の首飾り】

戦闘力:3000/生命力:1000→戦闘力:3000/生命力:0

 

 嵐は容赦なく攻め立て、首飾りも跡形もなく粉微塵にしてしまう。

 その身1つとなった歌姫は、ただじっと繁とキミカゲを見つめる。

 

「最後! プリマドンナへ効果発動!」

 

【輝くプリマドンナ】 

戦闘力:4000/生命力:1000→戦闘力:4000/生命力:0

 

 

 冷たく鋭い殺意の暴風が迫るなか、正面に立っていた繁は確かにそ(・)れ(・)を見た。

 それまでピクリとも表情を変えなかったプリマドンナ、そんな彼女の顔に笑みが浮かんでいる。

 万物を引き立て役とする彼女が浮かべるにはあまりに素朴で慎ましやかな、心からの笑み。

 1ユニットである彼女がいかなる心境かも分らぬまま、羽織のフィールドで最後のカードがその場を去る。

 齎した被害の余韻を感じさせない、静謐とさえ呼べる空気が後には残るばかりであった。

 

 

「……ありえない」

 

「カードを1枚チャージ、そして黒緑2点で【墓泥棒の手腕】を発動します。私の墓地のユニットを排除し、このユニットが持っている【機敏】をキミカゲにコピーします」

 

 召喚されたターンでも即時の行動を可能とする効果がキミカゲに付与される。

 よってこのターンに繫の全ユニットが攻撃に参加可能となり、その合計ダメージは──

 

「では攻撃に移ります」

 

「嘘よ……。こんなの嘘、ありえない、あっちゃいけない。だってランカーのわたしが、努力してきたわたしが」

 

 もはや現実を直視できない羽織を繁は見る。

 どのような言葉をかけるのが正解なのかしばし考えるが、今自分にできることはこれしかない。

 

 

「全ユニットで攻撃!」

 

 その宣言に従い相手プレイヤーへ殺到する繁のユニットたち。

 殺意を直に浴び、悍ましい凶器が自身へと振り下ろされる直前になっても。

 それでも、千装 羽織がこのバトルへ向かい合うことはなかった。

 

 

 

 御園 繫VS千装 羽織

 勝者、御園 繁

 

 

 

 




バトルワールドのカードたちに意思はあるのか。
同じカードなのにプレイヤーによってバトル中の動きや仕草が違うのは珍しくないことで、このことなどからプログラミングでは説明できないとして研究も盛んに進められています。
そのプレイヤーが善であれ悪であれ、カードたちにとってはただ1人の持ち主だということを忘れているプレイヤーは少なくありません。


ラッキーカードだ。こいつが君のところに行きたがっている。


未収録カード一覧
※競会の内部データより抜粋
=======================================================
【祈りの華刑鎌 キミカゲ】
カードコスト:[黒][黒][緑][3]
カードタイプ:ユニット
世界:黒
種族:香蟲花草
戦闘力:5000/生命力:5000

このユニットが召喚された時、相手ユニットの生命力をターン終了時まで1000下げる。
この効果で相手のカードが墓地に送られた時、再度効果を発動できる。


幾重の鈴鳴る神楽舞
落ちゆく首が見ゆる鎌
=======================================================

(改訂レベル2以上を付与された職員のみ閲覧可能)
・備考
【香蟲花草】テーマに属するユニット。
バトルでの使用事例は年間10~50件ほど。
使用者は全員身元調査済み。詳細は【香蟲花草 所有者・使用者】資料の使用者欄にて。
競会管理下の同カードは常に非活性化状態の維持を厳守すること。
※インシデント事例【20210828】【20210829】



これにて第一部本編の完結となります。
毎週投稿はこの話にて一旦お休みさせていただき、後はこの試合の後日談や軽い設定などを投稿し、それが終わり次第に第二部に移る予定です。
第二部の本編再開は10月頃を予定しております。
本編再開時にまた皆様に読んでいただけるよう精進いたしますので、その際はどうかよろしくお願いいたします。
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