謎の襲撃から逃れられた明久は、夕食をどうしようか考えながら歩いていた。深森は帰ってくること自体が珍しく、凪沙は入院中。
「うーん……肉野菜炒めにでもするか……?」
無難にその辺りにするか? と明久が思考していると、ドクンと胸が高鳴った。
「……なんだ?」
何やら異様な感覚に、明久は足を止めた。何か、大切な事を忘れていると言わんばかりの感覚に、明久は戸惑った。
そして、足を止めていると
「早く、汝が半身を見つけよ……宴は、もう間もなく開かれる」
と聞こえ、明久は思わず振り返った。
聞き間違いでなければ、その声はあの鎧を着ていたのと同じ声だった。しかし振り向いても、あの鎧は居ない。
代わりに居たのは、金髪に赤い目が特徴の小柄な女の子だった。
「君は……」
「我は、四番……十二番目の従者よ……早く、十二番を見つけろ……宴は、もう間近だ……」
四番と名乗った少女は、意味深なことを告げると身を翻した。それを呼び止めようと明久は、一歩踏み出した。
その直後、濃霧が溢れて明久の視界を覆った。その濃霧に驚き、明久は足を止めて右腕を上げて視界を覆った。
霧は直ぐに晴れて視界は回復、明久は周囲を見回したが、四番と名乗った少女は消えていた。
「……十二番に……僕が、従者……?」
その言葉の意味が分からず、明久は困惑した。
その頃、ある場所では
「いやいや、お待たせしました」
と一人の男が笑みを浮かべながら、ある場所に現れた。
日に焼けた肌に、小太り気味ながらガッシリした体の男だ。その男が入った部屋には他に、褐色の肌に小柄な体躯。短く切り揃えられた黒髪が特徴の少年。純白のスリーピースを着た金髪の青年。長い髪を三つ網にして眼鏡を掛けた少女が居た。
すると、褐色肌の少年が舌打ちしてから
「卑しい武器商の
と憎々し気に、その男
バルタザール・ザハリアスを睨んだ。
ネプラシというのは、吸血鬼の下位存在であり、眷獣と永遠の命は持たないが、高い回復力と高い身体能力を持っている。
そしてバルタザール・ザハリアスは、その身体能力と経営力を使って死の商人として一財産を築いた男だ。
「おやおや、イブリスベール・アズィーズ殿下。何のことでありましょうか?」
褐色肌の少年、滅びの王朝。第二真祖直系第九王子。イブリスベール・アズィーズの事を聞いて、バルタザールは白々しく肩を竦めた。
実は約半年程前、バルタザールの私兵がイブリスベールの領地を襲撃し、イブリスベールの城から二人の焔光の夜伯を奪われたのだ。
「貴様……」
バルタザールの白々しい態度に、イブリスベールはその体から魔力を溢れさせた。すると、三つ編みの少女。
すると、獅子王機関三聖が一人、
「お引きください、アズィーズ殿下……お気持ちは察しますが、今回の宴は、彼が開いたのですから」
とイブリスベールを引き留めた。
その制止を受けて、イブリスベールは舌打ちしてから魔力を霧散させた。彼の実力ならば、並大抵の降魔師は太刀打ち出来ない。しかし、静寂破りにはある特殊能力があり、それによりイブリスベールを含めた旧き吸血鬼達と互角以上に闘えるのだ。
今はその能力を買われて、今回の宴の裁定者の役割が与えられている。
「では、ザハリアス氏からの要請により、この地……絃神島にて焔光の宴を開催します」
静寂破りの宣言を聞いたスリーピースを着た青年、ヴァトラーは獰猛な笑みを浮かべた。
そしてこの日を堺に、第四真祖を巡る争いが小さい島で行われる。