序章
南米のあるジャングル、そこでは激しく砲火が飛び交っていた。
片方は揃いの迷彩服を着て、その手に持つ重火器で向かってくる獣人達を銃撃している。それに対して獣人達はある程度の被弾は無視し、敵兵士に近寄り
「不粋な侵略者め!」
「我等神官が、裁きを下す!!」
と口々に言いながら、爪で敵兵士を引き裂いていく。
しかし、銃撃は激しさを増して、次々と獣人達を穿っていく。そんな中、ある一人の兵士が遺跡の祭壇に昇ると祭壇に居た一人の少女に銃口を向けた。その直後
「無礼者がぁぁぁ!! その御方に触れるなぁぁぁ!!」
と怒声を張り上げながら、その兵士の頭を掴んで壁に叩き付けた。普通ならば、死んでもおかしくない一撃にも関わらず、その兵士は平然と笑った。
それに驚いていると、兵士は対魔族用小銃の銃口をほぼ密着させた状態で、引き金を引いた。
「がぁ……」
その獣人の口から、血の塊が吐き出されて、獣人は倒れ付した。兵士は歪んだヘルメットを投げ捨てると、再度銃口を少女に向けて
「目覚めろ……ザザラマギウ!」
と狂信的な笑みを浮かべながら、引き金を引こうとした。その瞬間、兵士の腕諸とも小銃が消え失せた。
「なっ!?」
消え失せた理由は、周囲にいた銀色の輝きが特徴の夥しい数の蛇だった。そしてその蛇の群れはまるで滝のように兵士に殺到し、あっという間に食い尽くした。
先程まで感じていた死の恐怖と銃声が消えると、少女は祭壇に背中を合わせて座り込んだ。
そんな少女の耳に聞こえたのは、緊張感を一切感じない足音と場違いな軽薄な声。
「無様だねェ、族長殿。聖域に、こんな無粋な連中の侵入を許すなんて……ザザラマギウの神官も、堕ちたものだ」
廊下から現れたのは、ジャングルには不釣り合いな服装。純白のスリーピースを着た金髪の優男。ディミトリエ・ヴァトラーだった。
「ディミトリエ……ヴァトラー……か……まさか、貴様に……頼ることに、なろうとはな……」
先程撃たれた獣人は、苦しそうに呼吸しながら、自虐的に笑みを浮かべた。死臭が強くなる中、族長は
「奴等は……どうした……?」
とヴァトラーに問い掛けた。するとヴァトラーは、無造作に外を見ながら
「ボクの部下が制圧した。ただし、聖域を守っていたキミの一族は壊滅だヨ。残念だけどね」
「そうか……」
ヴァトラーの言葉を聞いた族長は、咳き込むと更に血を吐いた。最早、その命も風前の灯火だった。族長は最後の力を振り絞りながら、座り込んでいた少女を指差して
「頼む……ヴァトラー……その御方を、連れ出してくれ……花嫁を……」
と言って、族長の手から力が抜けて、地面に落ちた。ヴァトラーはそんな老神官の死を無表情に見下ろしていた。その時、爆発音と共に神殿が揺れた。
どうやら、兵士達が仕掛けた爆弾が起爆し始めたらしい。ヴァトラーは大して慌てもせずに、少女にゆっくりと視線を向けた。
少女は、ヴァトラーに目を奪われたまま、小さく
「ディミトリエ……ヴァトラー……」
と呟いた。そしてヴァトラーは、ある方向を見て
「さて……使わせてもらうよ、明久」
と言いながら、ニヤリと笑みを浮かべたのだった。