ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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怒涛

先に口を開いたのは、アンジェリカだった。

 

「……第四真祖。取り引きをしよう」

 

「……取り引き?」

 

予想外の言葉に、明久は思わず片眉を上げた。するとアンジェリカは、祭壇から投げ出されて意識を失っているセレスタを見て

 

「そうだ。我々は、あの花嫁……もとい、あの邪神(ザザラマギウ)が欲しい。そちらは、あの邪神(ザザラマギウ)に、この島(絃神島)から居なくなってほしい……そら、悪い取り引きではあるまい?」

 

確かに、明久の最大の目的はザザラマギウを絃神島から出すことになる。そうしなければ、絃神島が跡形もなく消え去ってしまうからだ。しかし

 

「……そうなったら、セレスタちゃんはどうなるのかな?」

 

「さあな。それは、我々の知るところではない」

 

明久の問い掛けに、アンジェリカは冷たく返答した。

 

「そっか……」

 

その返答に、明久は目を閉じた。次の瞬間、明久はアンジェリカの目前に現れて刀を振るった。その一撃をアンジェリカは、ギリギリで回避すると、一気に距離を取って

 

「……なんのつもりだ、第四真祖」

 

と明久を睨んだ。

 

「簡単なことだよ……交渉決裂ってこと……だって、ザザラマギウをどうにかすることは、セレスタちゃんを助ける途上に有るだけだからね」

 

明久はそう言って、刀の切っ先をアンジェリカに向けた。

 

「……理解しかねるな。赤の他人のために、何故そこまで出きる?」

 

「あんたらには、理解出来ないだろうさ……戦争の為と言って、他人を傷付けて、戦火を振り撒くあんたらには」

 

二人は会話しながら、ゆっくりと構えていく。

 

「それに……CSA(あんたら)の魔族排斥主義に、ザザラマギウを使わせられない……今は混沌の皇女(ケイオス・プライド)……ジャーダと争ってるみたいだけど、何時かはその矛先が他の魔族特区に向く……そんなこと、許すわけにはいかない……だったら、今ここでその企みを潰す……ここから先は、第四真祖(ボク)戦争(ケンカ)だ!」

 

「いいえ、先輩……二人(私達)戦争(ケンカ)です!」

 

闘志を溢れさせる明久の隣に、回復術式で傷を治した雪菜が寄り添った。

そんな二人を見て、アンジェリカは

 

「いいだろう……貴様ら二人を殺し、ザザラマギウを祖国に持ち帰るとしよう……」

 

と告げて、左手を勢いよく縦に振り下ろした。それが、開戦の号砲となった。

 

「雪菜ちゃん! 右に跳んで!」

 

「はい!」

 

明久の合図を聞いて、雪菜は右に跳び、明久は左に跳んだ。その間を不可視の斬撃が走った。

 

「なに……」

 

「遠距離で、同じ技が二度も通用すると思うなよ……その技は、振った左手の直線上に、見えない刃を飛ばす技で、射程距離はおおよそ20mといったところでしょ……距離が空いてれば、簡単に避けられるよ……それと、余所見してていいの?」

 

「はああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

明久が首を傾げた直後、雪菜が気合いの声を挙げながらアンジェリカに飛び掛かった。

 

「ちいっ!?」

 

アンジェリカはその一撃を、ナイフで受け止め、更にその衝撃を利用して後退。雪菜に、ナイフを向けた。だが

 

「ゼエェェェェェ!!」

 

今度は、明久が切りかかった。

 

「くっ!?」

 

アンジェリカは後退して距離を取ったが、今度は雪菜が入れ替わるように槍を突きだし、それを避けたアンジェリカを狙って、明久が蹴りを放つ。

 

「ぐうっ!?」

 

流石に避けきれず、蹴り飛ばされたアンジェリカ。しかし、二人の攻めは止まらない。

明久と雪菜の即興の連繋。それは、これまで越えてきた修羅場で、互いの動きを見てきたからが故だった。

怒涛の攻めに、アンジェリカは防戦一方に追いやられる。だが

 

「ガキ共が……調子に乗るなぁ!!」

 

怒号と共に、左手を横に一閃。その一撃を避けるために、明久は高く跳躍し、雪菜は伏せた。

その間に、アンジェリカは跳躍の魔道具を使って移動した。半ばまで崩れた、祭壇の上に。

 

「これだけはしたくなかったが……仕方あるまい……」

 

アンジェリカはそう言うと、右手を高々と掲げた。その先に有るのは、最初に比べたら幾らか小さくなったザザラマギウの卵。

 

「……まさか!?」

 

雪菜は気付いて遠距離術式で攻撃しようとしたが、遅かった。

 

「……祖国に、栄光を……」

 

アンジェリカが呟くように言った直後、ザザラマギウの卵はアンジェリカの右手に吸い込まれて消えた。その瞬間、アンジェリカから凄まじい衝撃が吹き荒れる。人の身に余る霊力が、行き場を求めて無秩序に吹き荒れた。

 

「クハハハハハハハ!! 素晴ラシイ! コノ力ガアレバ、祖国ノ勝利ハ揺ルガナイ!!」

 

アンジェリカはそう言うが、明らかに制御仕切れておらず、アンジェリカの体から触手やら根っこが生えてくる

 

「……バカ野郎……!」

 

明久は吐き捨てるように言って、構えた。左手は柄尻を握り、右手は刀身に添えるだけ。まるで弓を引くように構えられた刀は、何時でも放てる弩砲を彷彿させる。

 

「雪菜ちゃん……これが、この戦いの最後みたいだよ」

 

「はい、先輩……終わらせましょう」

 

明久の言葉に答えながら、雪菜は明久と背中合わせになるように構えた。穂先を下に向けて、腰を低く落とした明久とは対称的に、前のめりに構える。

そして、二人同時に駆けた。明久は地面に足跡を残し、砲弾のように。雪菜はしなやかな雌豹のように。

アンジェリカはその二人に対して、十数本の触手を放つ。

しかしそれは、雪菜の槍によって細断される。明久は一切速度を落とさず、風を切り裂きながら進む。その明久を止めようとしたのか、地面から太い樹木が壁を形成する。

 

「そんなんで……止められるかぁっ!!」

 

明久の突きは、容易く貫通。道を切り開く。

 

「先輩! 右肩の付け根辺りに、霊力の流れが集中してます!!」

 

「つっ!!」

 

雪菜の助言を受けて、明久は狙いを定めた。明久の突きは、アンジェリカの右肩付け根に命中。突き抜けた切っ先が貫いていたのは、一枚の金属板。その金属板には、子供を優しく抱いている女性の姿が刻印されている。

明久は一気に急制動を掛けて、停止すると同時に刀を引いてアンジェリカの体から引き抜いた。その反動で、金属板が空中をクルクルと回転する。それを狙い、雪菜は槍を一閃。金属板。女神の抱擁を破壊した。

すると、女神の抱擁から解放されたザザラマギウの卵が、一気に膨張。その異様な神気の高ぶり方から、爆発すると思われた。

その神気の強さに、雪菜は対処出来ないと諦めかけた。その時、明久が雪菜を抱き締めて

 

焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者。吉井明久が、汝が枷を解き放つ! 疾く在れ(来い)! 一番目の眷獣! 神羊の金剛(メサルティム・アダマス)!!」

 

明久が掲げていた右腕から鮮血が吹き出し、血を門にして異界からその巨体が姿を顕す。全身が金剛石。つまりは、ダイヤモンドで作られた巨大な羊。それはザザラマギウを視認すると一鳴きし、ザザラマギウを覆うように透明な壁を形成した。その直後、ザザラマギウから破壊の力が全周囲に解き放たれた。

戦術核に匹敵するその威力、本来ならば間近に居る明久と雪菜は一瞬にして消滅していたのは間違いない。

だが、何時まで経っても痛みどころか、衝撃さえも来ない。

その理由を、雪菜は察した。

 

「防御であると同時に攻撃……カウンターの眷獣!?」

 

そう、それこそがその眷獣の能力だった。一部の例外を除き、破壊の力を跳ね返す。

解放された破壊の力は、完全にザザラマギウに跳ね返された。それで多少弱ったが、ザザラマギウはまだ消えない。ゆっくりとだが、意識を失っているセレスタに近づいていく。

もちろん、それを明久は見逃さない。

 

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!!」

 

続けて召喚した水銀の双頭龍蛇が、ザザラマギウを捕食。次元喰いから逃れる術など、有るわけがない。一分と経たずに、ザザラマギウは消滅。

その直後、結界は消滅して、明久達は絃神島に帰還。

こうして、邪神を巡る戦いは幕を下ろした。


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