ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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突然

「うごごごご……!」

 

「先輩! 捕まってください!」

 

龍になり飛んでいる明久だが、背中のトゲに何とか足を引っ掻けて耐えている状況で、上にくっついていた雪菜が明久に手を伸ばしていた。明久はなんとか上体を上げると、雪菜の手を掴んで危機を脱した。

 

「大丈夫ですか、先輩?」

 

「な、なんとかね……」

 

体勢を立て直した明久は、一息吐くと

 

「……そういえば、羽波さんは!?」

 

「あっ!?」

 

足に引っ掛かった状態だった唯里のことを思い出し、雪菜と一緒に足の方を見た。

 

「助けてほしいけど、見ないでぇぇ!!」

 

そして唯里は、グレンダの爪に摘ままれる形で逆さまになっていたのだが、パンツ丸見せ状態だった。明久は見ないように顔を引っ込め

 

「雪菜ちゃん、助けられる?」

 

「すいません、私の術でも助けることは……」

 

明久の問い掛けに、雪菜は申し訳なさそうな表情を浮かべて首を振った。雪菜の式紙は探索や連絡用。更に言うと、雪菜は術方面は不得手なので、どちらにしても現状ではどうしようもない。

 

「だけど、まさかグレンダちゃんが龍だったなんて……」

 

「一体、何処に向かっているのでしょうか……」

 

明久と雪菜は、飛んでいるグレンダを見下ろした。何回か声かけしたが、呼び掛けに応じる気配はない。恐らくだが、混乱しているのかもしれない。

そして少し飛んでいたら、明久が

 

「ん……山頂の方に向かってる?」

 

と首を傾げた。

 

「山頂の方にですか?」

 

「うん……なんでかは分からないけど」

 

一応は祖母の地元な為に、ある程度は地形を把握していた明久だが、グレンダが自分達の居た麓の方から山頂方面に向かっていることに気付いた。なぜ山頂方面なのか考えていると、突然グレンダが高度を下げ始めた。

 

「い、いきなりなんだぁぁぁ!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

いきなり降下し始めたグレンダに驚きながら二人は、落ちないようにとしっかり捕まっていた。そして、地表まで10m程の高さで緩やかになったかと思えば、小さくなり始めた。

 

「ちょ、まさか消えるとかはないよね!?」

 

最悪の事態を考えた明久は、高所恐怖症(だと思われる)雪菜を抱えて、グレンダから離脱すると、足に魔力を回して何とか着地。そして雪菜を即座に下ろすと、上から落ちてきていた唯里を見て

 

「ふんすっ!」

 

「ひあぁぁぁ!?」

 

なんとか受け止めた。少年のファインプレーにより無事だった唯里だが、事態の七転八倒具合に頭が混乱しているようで、まだ現状を把握しきれていなかった。そうして明久は、唯里を素早く下ろすと激しく土煙が舞う場所を睨み付けた。それから十数秒後、土煙が収まった場所には裸のグレンダが居た。

 

「先輩、見ちゃダメです!!」

 

「見ちゃダメぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「ソドム!?」

 

グレンダを視認した直後、明久の腹に雪菜と唯里の見事なボディブローが直撃した。

それから、十数分後。近くにあった山小屋に三人は居たのだが

 

「え、えっと……大丈夫かな、第四真祖様?」

 

「……二人同時は、やめてほしかったなぁ……」

 

雪菜と唯里のボディブローを同時に喰らった明久は、床に敷いた寝袋の上に寝転がっていた。そんな明久を、唯里が看病している。雪菜はキッチンに行き、備蓄されていた食糧(缶詰め)で食事を作っている最中だ。

 

「えっと……気が動転しちゃって……その……」

 

「いやまあ、あれは仕方ないかもしれないけどね……」

 

唯里は顔を反らしながら弁明すると、明久は一応同意した。そのグレンダだが、今は山小屋にあった服を適当に着せて、ハンモックで寝ている。明久が殴られた直後に、グレンダは意識を失って倒れてしまったのだ。

何が起きているのか分からなかった為に、長距離移動はせずに近くの山小屋に避難し、グレンダの服を探してから、明久の看病をしているのだ。

 

「けど、グレンダちゃんは一体……」

 

「私にもよく分かんないの……神縄湖で出会ってから、異様に懐かれてるんだけど……」

 

明久が疑問を口にすると、唯里は首を左右に振りながら経緯を軽く説明した。それを聞いた明久は、会ってからのグレンダを思い出してみた。ただひたすらに、唯里に純粋に懐いている姿。それはまるで、子供のようにも見えたからだ。

 

「……インプリンティング……だったかな?」

 

「インプリンティングって、あのひよことかが産まれた直後に見たのを、親って認識するっていう?」

 

唯里が確認すると、明久は頷き

 

「僕には、グレンダちゃんがまるで子供みたいに見えた……本当に、生まれたての子供みたいに……」

 

「……確かに、そう言われてみれば……」

 

明久の言葉を聞いた唯里は、思わず納得していた。

初めて会った時、グレンダは唯里をジッと見ていて、その直後から異様に懐かれていた。確かにそれは、インプリンティングの条件に符号する。

 

「……話は変わりますが……」

 

「あ、敬語じゃなくていいよ? 僕なんて別に、大したことない存在だし」

 

唯里の言葉を遮る形で、明久はそう提案した。明久はそう言うが、唯里からしたらかなりの人物に思える。唯里も雪菜と同じ剣巫な為に、ある程度は情報共有されている。

 

(吉井明久……日本に現れた第四真祖……記録が正しければ、剣術の日本大会個人戦優勝経験があり、二つ名持ち……その由来となったのが、縮地と連続突き……はっきり言って、剣の腕なら私より上かも……)

 

唯里も剣巫に選ばれているから、剣の腕にはそれなりに自信はある。だが、成績に於いては何時も雪菜の後塵を拝しており、それ故に自身のことは過小評価気味になっている。

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……話は変わるけど、明久君はゆっきーとどう生活してるの?」

 

(ゆっきー……雪菜ちゃんのことか)

 

「んー……どうって言われても、お隣さんで同じ学校に通ってるし……時々一緒に買い物して、ご飯も一緒に食べてる……ってところかな?」

 

明久の説明を聞いた唯里は、目を輝かせた。

以前にも説明したが、唯里は少女マンガを愛読しており、明久と雪菜のそれは、正に少女マンガと同じ状況だ。

 

「半同棲状態……! いいなぁ……羨ましいなぁ……」

 

小さく呟きながら、唯里はその状況に自身を当て嵌めて想像した。そして、身悶えしていると

 

「羽波さん? どうしたの?」

 

と明久が呼び掛けた。それで我に返った唯里は

 

「だ、大丈夫です! なんでもありま……ひゃあぁ!?」

 

「むぐっ!?」

 

慌てて明久の方に向いたのだが、それでバランスを崩して明久の方に倒れた。それにより、明久の顔には唯里の豊かな胸が当てられた。

 

「羽波さん! 今のは、なにが……」

 

そこに、雪菜が突入してきて、光景を見て固まった。

明久の無事や如何に。


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