騎士を見つけたグレンダは、怯えた様子で唯里にしがみついた。そんなグレンダの前に出て、明久は
「やれやれ、しつこいね……しつこいと嫌われるって、聞いたことないの?」
そう半ば呆れたように問い掛けた。しかし、騎士達は何処吹く風という様子で
「グレンダを渡せ……それは、貴様には過ぎた存在だ。第四真祖」
「そう言われて、怯えてる女の子を渡す訳がないじゃん」
短い会話を合図に、戦闘は始まった。先に攻撃を仕掛けたのは、騎士からだった。騎士は脇に抱えるように持っていた突撃槍を構えると、黒い弾丸を放った。
明久達は、弾丸を素早く散開して回避。黒い弾丸は着弾すると、直径2m程のドーム状に広がった。それを見た明久は
「今の弾丸、大きく回避! 最低限だと、巻き込まれる!」
と忠告した後、眷獣を召喚した。前回の獅子の黄金と違い、今回は双角の深緋を召喚したのは、獅子の黄金が弾かれたからだろう。
召喚された双角の深緋は、明久の意思を受け取ったのか、早速一人の騎士に突撃。音による攻撃を開始した。
双角の深緋の衝撃波による攻撃は、またも弾かれた。しかし、振動までは防げなかったらしく
「ぬ、ぐお……っ」
と騎士が、苦悶の声を漏らす。しかし、直ぐに態勢を立て直して反撃してくる。次は騎士が乗っているワイバーンの口が開いて、炎弾が放たれた。
その狙いは、明久。そう気付いた雪菜が
「先輩!」
と警告の意味で、明久を呼んだ。意味を察した明久は、回避するために走り出した。だが驚いたことに、炎弾が明久を追尾するように曲がった。それを見た明久は、回避を諦めて刀。鉋切長光を構え
「はっ!!」
気合い一閃。自身に迫った炎弾を真っ二つに斬った。真ん中から両断された炎弾は、少し進むと散ったのだが
「今の炎弾……追尾もだけど、手応えが……」
と呟いた。そこに、雪菜が駆け寄り
「先輩、大丈夫ですか?」
と問い掛けた。すると明久は、ワイバーンを睨みながら
「大丈夫……雪菜ちゃん、ちょっと確かめたいことがあるから、協力してくれる?」
「分かりました」
作戦内容は聞かなかった雪菜だが、即座に頷いた。それは、明久を信用しているからに他ならない。
普段はおバカな明久だが、剣術家としての優れた戦術眼と判断力は特筆すべきものがある。だから雪菜は、明久の考えを信じて走り出した。
「愚かな……獅子王機関の剣巫が、討伐すべき第四真祖に従うか!!」
騎士は怒声を張り上げながら、雪菜を狙って突撃槍を構えた。だがその直後、騎士は自身に迫る直径8mはある岩塊に気付いた。
「なに!? グウッ!!」
岩塊に気付いた騎士は、慌ててワイバーンを下降させた。それにより、確かに岩は避けられた。だが、そこに
「はあぁぁぁぁ!!」
雪菜が、烈迫の気合いと共にまるで砲弾のようにワイバーンに突撃した。雪菜が突き出した雪霞狼は、そのままワイバーンの首筋に当たり、火花が散るに留まった。
「この堅さは!?」
その堅さに、雪菜は驚いた。確かにワイバーンも龍種の端くれ。聞いた話によれば、鱗の堅さは小銃を弾くという。しかし、対魔に優れた雪霞狼の攻撃を弾けるとは思えなかった。
雪菜は動揺から立ち直ると、素早く離脱。そんな雪菜を狙い、突撃槍を構えた。だが
「頭上注意だよ」
という明久の言葉を聞き、頭上を見上げた。そこには、先ほど自身に迫っていた岩塊が有ることに気付き、更にはその岩に明久の腕と紐で繋がった刀が突き刺さっていた。
「しまった!?」
「押し潰されてろ」
騎士と明久の言葉が重なり、明久は腕を大きく振って刀を岩から引き抜いた。その直後、岩が騎士諸々ワイバーンを押し潰した。
「傲るからだ、バカ者め……」
杖を持っていた騎士は、立ち上がる雪煙を見ながら吐き捨てるようにそう言った。明久にではなく、仲間の騎士に怒っているらしい。
雪煙が晴れると、見えたのは骨と血肉。ではなく、機械の部品と油を撒き散らして動かないワイバーン。そして、下半身が潰されて、こちらも血ではなく黒い液体が溢れている迷彩服を着た男だった。
「自衛隊隊員!?」
「あの階級……三尉のようです、先輩」
敵の正体が自衛隊隊員と分かり、驚く明久。それに対し雪菜は、明久の前に立って構えた。もう一人の騎士を警戒したのだろう。すると、グレンダの前に立っていた唯里が
「まさか……噂に聞く聖殲派……?」
と小さく呟いた。そこに、新たに一騎のワイバーンに乗った騎士が現れて
「……敗北するとはな……」
とくぐもった声を漏らした。明久は、その騎士から発せられる気配に
「これは、真打ちが来たかな……?」
と呟いた。