雪菜に探していた明久だが、走り回っていた為にお腹が空いてきた。どうしよう、と考えていた明久は、今居る場所の近くに、浅葱オススメのラーメン屋がある事を思い出した。
「……先に食べるか」
本当なら探し続けたかったが、やはり空腹感には抗えなかった。目的のラーメン屋を見つけた明久だったが、違和感を覚えた。今の時間は、夜の8時。少し遅いかもしれないが、まだ夕食にあたる時間だと言うのに、並んでる客が居ない。
最初は閉店したのか、と思ったが、店の電気は点いてるし、入り口には営業中の看板も出ている。
(どういう事?)
明久は不思議に思ったが、やはり空腹には抗えず、店に入った。そして、客が並んでいなかった理由を察した。
中に居たのは、店員の他に客が二人だけ。しかし、その内の一人が客足を遠退かせる原因だった。
滅びの王朝の王子、イブリスベール・アズィーズだ。
「いや、なんでさ」
明久がそう呟くと、イブリスベールも気付いたようで
「ああ、お前か。こっちに来い」
と明久を手招きしてきた。
呼ばれたからには無下には出来ず、明久は仕方なく近付いた。その時になり、もう一人の顔が見えた。
《戦車乗り》こと、リディアーヌ・ディディエだった。
(いや、どういう組み合わせ?)
と明久が内心で首を傾げていると
「ここのラーメンは旨いぞ? オススメは、これだな」
とイブリスベールが、メニュー表の一つを指差した。
とりあえず明久は、それを注文して
「……なんで、滅びの王朝の王子がこんな店に?」
と問い掛けた。するとイブリスベールは、一口麺を啜ってから
「なに。祖国には無かった美味なる料理を堪能しているだけよ」
と答えた。
(その発端はなに?)
と明久が思っていると、いつの間にか明久の隣に移動したリディアーヌが
「拙者が説明するでこざる。女帝の彼氏殿」
と明久に説明を始めた。
簡単に要約すると、以前に神縄湖に浅葱とリディアーヌが行った時に、偶々イブリスベールと共闘する形になり、戦闘が終わった後に、浅葱が絃神島のラーメン屋は美味しいわよ、と力説しながら、カップラーメンを食べさせたらしい。
それを聞いた明久は、浅葱の怖いもの無さに戦慄した。
お願いだから、国際問題だけにはしないで、と。
そしてどうやら、イブリスベールはラーメンに嵌まったらしい。
そうこうしてる間に、明久の前にラーメンが置かれた。その際に見た店員の顔は、疲労に染まっていたのを、明久は気付いた。
そして、ラーメンをある程度食べると
「けど、どういう経緯で二人は一緒に居るの?」
と明久は問い掛けた。明久からしたら、二人が一緒にラーメン屋に居る理由が思い付かなかったのだ。
「なに、簡単な事よ。その小娘を助けたのだ」
「助けた?」
イブリスベールの言葉に、明久は首を傾げた。
助けたということは、リディアーヌが何者かに攻撃されていたということになる。
リディアーヌは《戦車乗り》の二つ名の通り、戦車に乗りながらハッキングをするハッカーになる。恐らくは、何処かにハッキングして、相手が部隊を差し向けたのかな?
と明久は考えた。しかし
「女帝殿を助けようとして、
とリディアーヌが語った。
魔導打撃群
アイランドガードの精鋭部隊で、最新鋭の装備を纏った部隊と知られている。
「なあ、第四真祖よ……確か、聖域条約では魔族の細胞を用いた兵装の開発は違法だったな?」
「その筈だけど……そうか、魔導打撃群って裏の部隊でもあるのか……」
聖域条約において、魔族を実験に用いるのは、一部を除いて違法である。
その内の一つに、魔族の細胞を用いた兵装の開発は禁止されている。
リディアーヌを襲撃した魔導打撃群は、獣人の細胞を用いた強化外骨格を装備し、高周波ナイフでリディアーヌの戦車の脚を一本破壊した。そこを、イブリスベールが助けたのである。
「……って待った。さっき、浅葱を助けようとしたって言ってたよね? ということは、今浅葱が何処に居るのか知ってるってこと?」
明久の問い掛けに、リディアーヌは頷き
「女帝殿が居るのは、キーストーンゲートの
と告げた。
「第0層? 第1層より更に下があるの?」
以前明久は、雪菜と一緒に第1層。キーストーンのある海底に向かった事がある。しかし、第0層というのは聞いた事が無かった。
すると、リディアーヌは首を振り
「正確には、移動式の
「せ、潜水艦!?」
予想外過ぎた正体に、明久は驚いた。
浅葱が働いているキーストーンゲートのサーバールームは、正式名称を
しかし実際は、サブサーバールームであり、本当のメインサーバールームは潜水艦で移動している。
それにより、貴重なデータや研究データを守り、もしセカンドサーバールームが機能を停止した時に切り替わって、都市機能を維持する。
それが、移動式メインサーバーの役割。
「けど、潜水艦からどうやって……」
「潜水艦というからには、接舷するドックが存在する……」
スープを飲んだイブリスベールがそう言うと、リディアーヌが頷き
「第1層に、隠された入り口があるのでござる。その入り口の先に、Cが接舷する秘匿ドックが存在するのでござる……」
リディアーヌの言葉に、明久はなるほどと頷いた。
それならば、第0層と呼ばれる理由が分かる。表向き存在しないのだから。
「問題は、Cが接舷するタイミングだけど……」
「それなら、分かっているでこざる。今夜0時でこざる」
明久の言葉に、リディアーヌは断言した。