「良いのですか!? 彼女、消えてしまいますよ!?」
「その前に、お前を倒す!!」
冥雅の言葉に、明久は反論しながら刀を振った。
今回明久が持ってきたのは、小鴉丸・天国と蜘蛛切である。
妖刀・蜘蛛切
造られたのは平安時代で、最初は試し斬りで罪人の首を斬り、そのまま罪人の膝も斬った事から、膝丸と呼ばれた名刀だ。
しかし、献上された源頼光が土蜘蛛を斬った事から蜘蛛切と呼ばれるようになる。
実はこの時、土蜘蛛により呪われていて、使ってきた人物達は悲惨な死を遂げていく事になる。
その間に度々名前を変えていき、今は薄緑と呼ばれている兄弟刀が京都のある寺にて仕舞われている。
それはさておき、この蜘蛛切は対蜘蛛の妖怪や魔物。更には多くの罪人を斬った事から、
つまり、対蜘蛛と対罪人特化の妖刀なのだ。
そう、大量殺人犯の冥雅にも効果は絶大である。斬れたらの話だが。
冥雅は明久の一撃を、零式で受け止めた。その時、全身に巡らせていた魔力が一気に霧散したのを、明久は感じた。
「魔力が……!?」
「魔力が使いにくいでしょう? それが、ファングツァーンの能力の一端です!」
冥雅は力の抜けた明久を蹴り飛ばし、突き刺そうとした。だが
「私たちを!」
「忘れてもらっては困る!!」
冥雅の攻撃は、沙矢華と唯里によって妨害された。しかし冥雅は、ファングツァーンを巧みに回しながら、二人に対して連続攻撃をした。
その攻撃を二人はそれぞれ武器で防いだのだが、二人から霊力が霧散した。二人は急いで冥雅から離れて
「霊力が霧散した!?」
「これじゃあ、こっちの武装の能力が使えない!!」
と動揺していた。
獅子王機関の秘匿武装は、使い手の霊力をエネルギーに駆動する方式を採用している為、その霊力を妨害されたら上手く使えなくなってしまうのだ。
事実、沙矢華と唯里の二人の武装。六式シリーズの剣は疑似次元切断が使えるのだが、冥雅のファングツァーンは傷一つ無い。
「そう……これこそが、ファングツァーンの利点であり欠点……だから、私以外は使えないんです……」
だがその霧散現象は、使い手にも影響がある。
それにより、過去に試した剣巫や舞威姫はファングツァーンの能力を使えず、結果ファングツァーンは廃棄扱いとなったのだ。
だが開発者であり、僵屍鬼である冥雅はファングツァーンを使えたので、表向きは廃棄した事にして隠し、10年前の事件で使って、獅子王機関に甚大な被害を出したのだ。
「だったら……これはどうだ!!」
いつの間にか距離を取っていた志緒が、六式改・弓で矢を放った。
六式シリーズの弓は、鳴り鏑矢を放つ事で、様々な効果の大規模術式を発動させる事が出来る。
これは、人間の肺活量と霊力・魔力技術では到底使えない術式を、鳴り鏑矢の音と自然に満ちる霊力・魔力を用いて発動するという技術になる。
志緒はその矢を、冥雅に直接放つのではなく、冥雅の頭上に向けて放った。
恐らく志緒は、霊力・魔力の霧散効果が近接限定だと考えたのだろう。
しかし
「浅はかですね!」
冥雅がそう言った直後、発動しそうになっていた鳴り鏑矢から輝きが失われ、そのまま落ちた。
「霧散効果は拡散させる事も出来ますよ……まあ、時間は短いですがね」
冥雅はそう言うと、態勢を立て直した明久に攻撃を繰り出した。それを明久は、両手の刀で捌いていくが
(こいつの動きが、読めない!?)
剣術家として鍛えた先読みが、冥雅には上手く出来なかった。その理由は、変幻自在の変調。
例えると、雪菜は早いテンポの4拍子、沙矢華が6拍子だとすると、冥雅は最初は4拍子で次が8拍子、9拍子というように、秒単位で攻撃パターンと変調で戦っているのだ。
それにより、明久の先読みがまだ上手く読めないのだ。
「はっ!」
そして、まるで蛇のような軌道の槍の一撃。最初は胸元かと思ったが、首を狙って突きが放たれる。
だがその一撃は、横からの槍で弾かれる。
「先輩を、ヤラせません!!」
「……何らの封印で、霊力の出力が落ちてますね……そんな調子で、私に勝てるとでも!?」
冥雅は雪菜が縁により霊力出力が下げられてる事に気付き、ファングツァーンと見せかけての蹴りで壁に叩き付けられた。
「雪菜ちゃん!」
「余所見!!」
明久が雪菜を心配した隙を狙い、冥雅はスルリと懐に入り込む。そして、まるで野球のバットのように明久を、槍で打った。
「がはっ!?」
「このまま!!」
「やらせないわ!」
「させません!!」
冥雅は追撃態勢に入ったが、そこに沙矢華と唯里が入り、何とか阻止した。
その時、重い金属音と何かがくっついた様な音が響いた。
「ふふ……どうやら、Cが帰ってきたようですね」
冥雅がそう言うと、空気が抜ける音が聞こえて、その音がした方向には、今まで無かった通路が開いていた。
冥雅は、一度キーストーン付近まで後退すると
「さあ、聖殲の遺産、アベルの巫女よ! 我が言葉に呼応し、その力を解放せよ!!」
と告げた。
だが
「残念。そのアベルの巫女とやらは、貴方に力を貸したくないそうよ」
と明久達からしたら、聞き慣れた声が聞こえた。
全員の視線の先には、間違いなく浅葱の姿があった。
「バカな!? なぜ、貴女がCの外に!?」
「アンタが言う巫女と、根気よく話し合った結果よ」
冥雅の問い掛けに、浅葱は事実だけを返した。
あの電脳の世界で浅葱は、一緒に居たもう一人。
冥雅が言うアベルの巫女というのは、過去のカインの巫女である。つまり聖殲の時代のカインの巫女で、本来は亡くなっており、確かに遺体だった。
その冷凍保存されていた遺体をMARが発見・回収し、無理矢理に縫合し、死霊術も用いて蘇生した。
しかし、アベルの巫女に残されていたのは、最早妄執とも呼ぶべき、怨念だった。
浅葱は電脳世界でアベルの巫女と会話(という名の力業。具体的には、プログラミングを用いた屈伏)により、アベルの巫女を説得。
Cが第一層に接続すると同時に、現実世界に帰還を果たしたのだ。
「使えないアベルの巫女め! ならば、力ずくで……」
「させません!!」
雪菜は浅葱を守ろうと、冥雅の前に飛び出した。
「邪魔です!!」
そんな雪菜の全身の数ヶ所を、冥雅は指で突いた。その直後、雪菜の全身から凄まじい霊力が溢れた。
「しまった!? これ程とは……」
雪菜の霊力総量を見誤っていた冥雅の両腕が消え去り、更に冥雅が消滅した。
しかし、そんな事よりも
「あ……あああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「雪菜ちゃん!?」
「雪菜ぁ!?」
「ゆっきー!?」
明久達にはどうする事も出来ず、雪菜から溢れる霊力に耐えていた。その時
「受け取れ、第四真祖!!」
と頭上から声が聞こえて、振り向くと同時に明久は何かを右手で掴んだ。右手を開いてみれば、そこに有ったのは一つの指輪。
そして、投げた張本人ともう一人。
縁とニーナが明久の隣に立ち
「第四真祖よ、我らがあの娘まで近づけるようにしてやる!」
「だから、その指輪を貴様が雪菜に嵌めろ!」
ニーナと縁の言葉に明久が頷くと、二人は呪文を唱え、何とか明久を覆うように障壁を展開。それを確認した明久は、雪菜に一歩ずつ近づいていく。
雪菜から溢れる霊力の圧力に、今も明久の身体は砕け散りそうになる。だがそれを、明久は全力で耐える。
そして、いよいよ雪菜の前に立ち、左手を掴み
「雪菜ちゃん……戻ってきて……!!」
と明久は、指輪を左手の人差し指に嵌めた。
その数瞬後、雪菜の全身から溢れていた霊力が収まった。